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■オープニング本文 ●【震嵐】の影で蠢くものたち 石鏡の首都、安雲(アズモ)は『精霊が還る場所』と謂われる遺跡の上に建造された都だ。 この安雲から橋を渡った先の小島にあるのが、もふらの中のもふら、大もふさまがおわすもふら牧場に隣接した安須神宮。石鏡の双子王が在し、多くの巫女が日々の役目に勤しみ、そして『すべての精霊が生まれ、還ってくる』と伝えられている聖域。 この日、安須神宮では新年を祝う宴が催されていた。 集ったのは神楽の都で行われていた会議から戻った双子王と、その側近達は勿論の事、石鏡の政において特に強い発言力を持つ【五家】と呼ばれる家の者達や高位官僚たち……いわば石鏡国を支える礎である。 諸事情でお家断絶に等しい香散見家や露堪家の関係者は欠席ながら、王たちも並んだ祝宴の席では斎竹家、星見家、午蘭家の笑い声が絶えず聞こえていた。 話題は【湖水祭】の思い出話や、石鏡貴族と五行国高官との縁談話、いずれも明るい話ばかり。 「そういえば香香背さま……開拓者の中から神代が現れたそうですな」 午蘭家の者から発せられた言葉に、驚く者が数名いた。 神代。 それは朝廷の帝などが代々得ていた特殊な力のことだ。 精霊力に対する特別な親和性を発揮すると言われる神代は、時に最高位の精霊との交信や降霊さえも可能であると言われ、朝廷は神代を持つ帝を神霊の代弁者と位置づけていた。 本来、帝が持つはずの『神代』は――何故か穂邑(iz0002)という開拓者の少女に宿っている。 「聞けば元は石鏡の巫女であった少女だとか……覚醒する以前に会っていたかもしれないと思うと、なかなか感慨深いもので」 「そうね。私も一度会ってみたいわ」 香香背たちが他意無く話し込む傍ら、今ここで、穂邑を神代と知る斎竹家の姉弟は……無言で顔を見合わせた。 刹那。 「王! 大変です」 「どうしました?」 この日、一つの不穏な知らせが安須神宮の双子王の元に届けられた。 安雲の街中でアヤカシが町民を襲い、軍が出動する騒ぎになったと言うのだ。 石鏡といえば辺境の地こそ様々なアヤカシの脅威に晒されているものの、三位湖のめぐみによって支えられた天儀で最も豊かな国。気候も穏やかな時期が多い事から牧畜と農耕が盛んという、中心に近付けば近付くほどアヤカシとは無縁の土地なのだ。 にも関わらず今回のアヤカシ騒動は安雲――首都で起きた。 ただ一度の騒ぎでも、人々の心に不安は募る。双子王をはじめ石鏡の上層部は、これが何かの前触れでなければ良いがと、己の不安が杞憂に終わる事を願っていた。 だが、願いに反してアヤカシ騒動の報告は連日続いた。 石鏡の各所で頻発する事件に約四千からなる石鏡の軍は奔走させられ、新年の会議に置いて公表された『大アヤカシ不在の理穴方面を完全に奪還する』という大作戦に際し決まっていた、北面への軍の派遣をも中止せざるをえない状況へと追い込まれていった。 かくして石鏡国内の助けを呼ぶ声は開拓者にも届くようになり――。 ●伊堂に亡霊 安雲でのアヤカシ騒動は伊堂にも届いており、街は騒然となっていた。 「よし、じゃあ行くか」 暮れ六つ――惟雪は警邏番詰所を出ながら若い警邏番に声を掛ける。 お上の通達により警邏番たちの巡回数が倍に増えたが、今の所は静かなものだ。とはいえ、町民たちにじわじわと広がっている不安は拭いがたく、深夜まで暖簾を出していた店さえも早々に明かりを消していた。 惟雪たちは伊堂の外れまで来て、巡回経路を折り返す。 「……早く落ち着いてくれるといいですねぇ……辛気臭ぇったらありゃしない」 若い警邏番が惟雪に愚痴る。 「そうだな」 惟雪は苦笑しつつ若者に応え……ふと、足を止めた。 「惟さん……?」 「しっ!」 惟雪は、訝しげに見上げてくる若い警邏番へ黙るよう合図し、神経を研ぎ澄ます。 石門から外はすっかり夕闇に包まれている。その闇の中……無音……だが、確かに前方から近づいてくるものがあった。 惟雪は懐の大苦無をさりげなく確認し、帯に差している小太刀に手を掛ける。 若い警邏番にはその気配を感じ取れないのか、惟雪と前方の闇を交互に見遣っているだけだ。 「……どけろ!」 突然、惟雪が叫んで傍らにいた警邏番を突き飛ばす。同時に自分も横っ飛びにとんで地に転がった。 「こ、惟さ……?」 若い警邏番が目を白黒させて顔をあげたとき、 どーん! 凄まじい音が響き渡り、石門の柱が崩れ落ちた。 「わあっ!」 尻もちついたまま素っ頓狂な声をあげた警邏番の前に、突如として現れたのは修験者――まるで死人のような青白い不気味な相貌とぼろぼろの衣、そして膝下からは掻き消されたかのように…… 「ひ……ゆ、幽霊……」 若い警邏番は蒼白になりながら呟く。 不気味な修験者の口が三日月のように吊り上り、ゆっくりと手を伸ばす。 「ちっ!」 惟雪は咄嗟に小太刀を投げ飛ばした。 幽霊に投げつけたところで効果があるものかどうか……頭の隅で分かってはいたが、惟雪は直感に従う。 はたして。 小太刀は修験者の脇腹へ深々と突き立ち、ぎろりと惟雪の方へ注意を向けるが、痛みなどまったく感じていないようだ。 (まさか……) 瞬時に移動するのは普通の幽霊でもできそうなものだが、あの念力の強さはいったい……? 「おい! 番屋へ戻って……いや、ギルドだ! 開拓者を呼んでこい! こいつぁアヤカシだ! 急げ!!」 惟雪は腹に響くような大音声で呼ばわる。 若い警邏番は弾かれたように立ち上がり、「はいっ!」と敬礼すると凄まじい勢いで駆けだした。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
五十君 晴臣(ib1730)
21歳・男・陰
アルフレート(ib4138)
18歳・男・吟
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
啼沢 籠女(ib9684)
16歳・女・魔
永久(ib9783)
32歳・男・武
ジョハル(ib9784)
25歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ● アヤカシ【鬼道験者】の出現により、伊堂の警邏番たちは二十人ずつで侵入を防ぐべく警護にあたっていたが――アヤカシ相手にこの人数でも役不足だとわかっているが、かといって放置しておけるはずもないのが辛いところだ――やはり不安は隠せず、夕闇の迫る空を見上げながら開拓者たちの到着を今か今かと待ちわびていた。 「街がいやに暗いと思ったらアヤカシかい」 ジョハル(ib9784)が早々に灯が消されていく街を振り返りながらギルドへ入ってくる。 アルフレート(ib4138)はギルドへ通報した若い警邏番に現場への道案内を頼んだ。 「兎に角、今は動くのが先だ。……道々、何がおきたのか教えてほしい」 闇に包まれた街路を、笹倉靖(ib6125)の持つ提灯がゆらりゆらりとやわらかな光を投げかける。 「おいおい、夜だ。まぁアヤカシなんて俺らの都合なんて考えちゃくれねーがよ。街中に夜とか最悪じゃあねぇか」 煙管から紫煙を細くたなびかせ、笹倉は科白とは裏腹に間延びした口調で言った。 若い警邏番が遭遇したアヤカシの様子を話すと、北條黯羽(ia0072)がぶっきらぼうな口調で呟く。 「幽霊の正体見たり枯れ尾花……てェ、マジで幽霊じゃねぇか」 「……はい。青白くて、足の先が消えてるとこなんて……」 怖気を振るったように頷いた若い警邏番は、前方に見え始めたいくつもの灯を指して現場だと告げた。 開拓者たちを迎えた警邏番たちは、安堵とともに顔をほころばせる。 「お、来てくれたかい! ……お?」 門の外から入ってきた惟雪が開拓者の到着を知り、その中に既知を見つけて人懐こい笑みを浮かべた。 「惟雪、久しぶりだね。相変わらず……みたいで何よりっていうべきなのかな」 くすりと笑いながら声を掛けたのは五十君晴臣(ib1730)で、 「……次から次へと災難がくるね」 惟雪に言ったものか、己が現状を言ったものか……苦笑しつつの穏やかな声音は永久(ib9783)だ。 尤も、開拓者たちに何度も「何かに憑かれているんじゃないのか」と言われてきた惟雪である。もう、これは再会の挨拶だと思う事にしていたので、「諦めてるよ」と嘆息して応えたのだった。 「……各地でのアヤカシ騒ぎか……。何か大物でも動いているのかな」 永久が、雲に覆われた空から門の外の闇へ視線を転じて呟くと、六条雪巳(ia0179)も同意するように頷いた。 「石鏡各地での異変……私も石鏡の出身ですが、こんな事は初めてです。まるで理穴での戦に呼応するような……。いったい石鏡に何が起こっているというのでしょう……とはいえ、今は目の前の脅威を払うのが先決ですね」 幸いアヤカシは街中に現れていない。ならば石門の外へ出る方が被害も少ないだろうということになった。 「さて、と……此処は俺達に任せて。単独行動は避けて、何かあっても避難を優先してくれ」 永久が警邏番たちに声を掛ける。 また、笹倉は近辺の村人や町の住人たちを避難させるように言い、建物倒壊の可能性もあることを告げたが、 「あぁ、それは住民には言うなよ? 貴重品を持とうとして避難が遅れるかもしれねーからな」 と、紫煙をぷいと吐き出した。 六条は仲間全員に触れ、『加護結界』を施していく。 「敵の知覚が高いとのお話でしたので……備えておいて損はないかなと。杞憂で終われば良いのですが」 「いや、何よりだと思うぜ、六条さん。……ちょっと、アレをまともに喰らうのはな……。でもまあ、あまり無理はしねぇようにしてくれ」 惟雪はそれに大いに賛同したが、いくぶん心配そうに年若い開拓者たちの顔を見遣る。 「……前は賞味期限切れの食べ物を武器にしちゃったけど……いざって時は本で殴ればいいか……」 ふと思い出したように呟いた五十君の言葉を、しっかり耳にした惟雪は目を剥く。 「おい、五十君さん……」 傍らにいた永久の目が何となく鋭いのを見て取った五十君は、軽く笑って肩を竦めた。 「多少の怪我は仕方ないけど自分の無駄遣いしない程度に戦うよ。……無茶ばっかりすると今回は永久だけじゃなく巫女さん達にも叱られそうだし」 永久と六条が同時に深く頷いたのがちょっと可笑しかった。 行くか、の声に開拓者たちの表情が引き締まる。 「他の場所でアヤカシを発見したら、すぐ報告を頼むよ」 ジョハルが言って踵を返した。 「空気が……変わったかな。淀み、不快だね……」 啼沢籠女(ib9684)は深遠な闇を凝視し、ぽつりと呟く。 開拓者たちは石門の外へと足を踏み出して行った。 ● 六条の掲げる松明がぱちぱちとはぜる。 五十君の手から『夜光虫』が放たれ、小さな光点のように見えた頃。 「……気をつけて、来るよ」 啼沢が注意を促した。 笹倉は煙管を深く吸い、紫煙を吐きながらゆったりと舞い始める。『神楽舞「心」』を五十君に付与し、彼の知覚を増加させた。 「この寒ィのに出てくる季節を考えろってンだ、ってェ戯言は横において……他所に迷惑を掛ける前に全力で滅相してやンねェとな!」 北條の言葉が合図――彼女と五十君の二人は駆け出し、戦線に突出した。 夜光虫は上空に居り、うすぼんやりとごく狭い範囲を照らす。 風が吹いて雲が払われたとき、月光が不気味ないくつもの影を浮かび上がらせた。青白い面相は様々ながら、ボロボロの衣に掻き消えた足元は警邏番たちが遭遇した『鬼道験者』に間違いない。 アヤカシは体よくまとまっている――北條と五十君は互いの攻撃範囲を確認すると素早く構え、『悲恋姫』を放った。 耳を覆いたくなるような【悲鳴】に、鬼道験者らは一瞬動きを止め、ある者は頭を激しく振り、ある者は歯を剥き出して顔を顰める。 【悲恋姫】が発動された直後、アルフレートが追い打ちをかけるように琵琶を激しく掻き鳴らした。 激しい狂想曲はアヤカシたちを混乱させ、北條は手近にいるモノへ片っ端から『魂喰』で攻撃を仕掛ける。 一方、笹倉の『神楽舞「武」』を付与されたジョハルは、六条とともに戦線に飛び込んだ。 シャムシールが蒼い炎に包まれ、いずこからともなく狼の唸り声が低く轟く――凄まじい一撃のもとにアヤカシが霧散した。 その勢いのまま、流れるように鬼道験者と擦れ違いざまシャムシールを走らせ、彼の目が赤く輝いたと同時、更に一体が消えた。 六条は端に居た鬼道験者がふっと掻き消え、少し離れた場所にそれが出現したのを確認した。 回り込んで背後から来るつもりなのか。 届くか否か――彼の手から白い白光弾が飛び出し、アヤカシの片腕を撃ち抜いた。 鬼道験者のぎょろりとした目が六条を捉え、耳のあたりまで裂けた口から異様に伸びた犬歯が剥き出される ――六条は咄嗟に、転がるように地に伏せた―― 一瞬前まで立っていた場所を何かが通り過ぎ、その先にあった木がめりめりと音を立て、折れていった。 その直後、凄まじい速さで飛んできた火球がアヤカシの頭部を吹き飛ばした。 「僕を無視するなんて、いい度胸じゃない?」 啼沢が呟き、ぶっきらぼうな声音には幾分かの腹立ちも混じっているようだった。 北條は『人魂』を飛ばし、上空から仲間の動きとアヤカシの動きを確認する。 仲間の初撃が鬼道験者に襲い掛かったとき、永久は宙を飛ぶような身軽さで木々の間を移動し、アヤカシの背後に回り込んだ。 一度、五十君の夜光虫が消えたが、再び目印のように浮かび上がるのを確認した。 群れから離れようとした鬼道験者の前に立ちはだかり、 「さて、此処からは立ち入り禁止だ。お相手しよう……最近は悪い人を相手にしていたが……やはり、アヤカシの方が後腐れがない」 ――何より、アヤカシは嫌いだからな 永久は微かな笑みを浮かべ、そのくせ金の隻眼は炯炯とした光を放っている。 鬼道験者の目がぎょろりと永久を認識した――途端、それは彼の目前に迫っていた。 伸ばされたアヤカシの掌を咄嗟に払い除け、衝撃波によってうまれた一瞬の隙をついて薙刀を胴へ叩きつける。 鬼道験者が真っ二つに霧散するのと同時、彼の背後にあった樹木の上半分が吹き飛んでいた。 あれを至近距離で喰らっては、巫女の加護結界があっても無傷ではすむまい。 (……なるほど。出来るだけ足を止めずに……敵の照準を合せられないように……) 永久は身を翻し、天狗のような身軽さで敵の撹乱に駆けまわった。 五十君の夜光虫を目印に、開拓者たちは徐々に互いの距離を狭めていった――夜光虫は軽く叩いただけで消えてしまうような式だ。何らかの衝撃で消えるたびに、五十君はそれを空へ放った。 北條も幾度となく『人魂』を飛ばし、状況を確認する――幸い、近隣の村人がのこのこ近づいてくるような様子はなく、伊堂の石門に居る警邏隊にも異変はないようだ。 笹倉が集まってきた仲間たちを『閃癒』で癒す。そして、煙管を銜えながら、クイックテレポートについての予備動作が確認できなかったこと、また、念力についてはさまざまなカタチがあるようだと告げた。 ジョハルもシャムシールを振るいながら観察をしており、彼に同意する。 ――ただ、念力については近距離で相対していれば確認できるが、死角からの攻撃を避けるには、仲間の連携がどうしても必要だろう。 開拓者らを追って来た鬼道験者は半数以下にまで減っている。まばらではあるが攻撃範囲内だ――そう、啼沢は判断した。 「光に集まるなんて、まるで虫だね」 頃合いやよし。 「今日は水の精霊は機嫌がいいみたいだね……下がって」 啼沢は芭蕉扇を構え、仲間に告げた。 扇の先端から激しい吹雪が吹き出し、アヤカシたちに襲い掛かった。 アルフレートが軽快なリズムを奏で始める。 啼沢の『ブリザーストーム』から間一髪で免れたらしい一体が、いきなり彼女の目前に現れた。 念力が繰り出される直前、北條が放った『魂喰』がアヤカシの首に食らいつき、霧散させた。 薄れていく吹雪の中、永久とジョハルが飛び込んでいく。 彼らを背後から攻撃しようとしたアヤカシに火球が襲い掛かった。 「僕だって、無闇に力を振るう馬鹿じゃないんだから」 そのままぷい、と横を向きそうな啼沢の言葉が何となく微笑ましい。 永久の赤い刃が半円を描くとどす黒い瘴気が散り飛んだ。 辺りにアルフレートの演奏が響く中、ジョハルのシャムシールが鬼道験者の両手首を切り飛ばした。途端、アヤカシが忽然と掻き消える。 「!?」 五十君は突然現れた不気味な顔を間近に見て、符を放つより早く、腰に下げていた分厚い革張りの本で思い切り殴りつけていた。 ごきりと耳障りな音が耳に届く。 首を捻じ曲げたままの鬼道験者が手首から先がない腕をぬっと突き出したとき、その背後で金色の軌跡が走った。 「お見合い中によそ見はよくないよ、修験者さん?」 ジョハルが軽く鼻を鳴らし、霧散する瘴気を見下ろした。 ● 鬼道験者殲滅後、開拓者たちは念のため周辺の巡回と確認を行った。 アルフレートが合流した警邏隊に言う。 「……それに、石門の外から現れたって事は、此処に至るまでに他を襲撃している可能性も捨てきれない。夜が明けたら近隣の村へも安否確認に飛んでもらえないか」 「わかりました!」 一方。 「ちょっと……確認したいことがあるんだけど、いい?」 啼沢は伊堂近くの村の一つへ赴き、異変はないかと尋ねた。幸いこちらにはアヤカシが出現した様子はないようだった。 礼を言う村人に、彼女はぶっきらぼうに応えた。 「別に。……後味が悪いのは嫌だからね」 白み始める空を見上げ、彼女は胸の内で呟く。 (……あの幽霊たちは、あんな大勢……何処からやって来たんだろうね? どうして伊堂に……。興味は尽きない、知りたいことだらけだ) 「アヤカシが流れてきた方面を調べてみようと思います。再び同じようなものが襲って来ないとも限りませんし……直接の原因とまではいかずとも、何か手がかりが見つかるといいのですが」 そう言った六条に、石門周辺を巡回するというジョハルが同行する。それへ伊堂近辺の村へ行く惟雪ら警邏番数人がくっついてきた。 「惟雪。村の安否確認に行ったら、ついでに最近何か変わった事やおかしな事がないか聞いておいて」 「ああ。アヤカシに関わるようなものなら、ギルドへ連絡させてもらうよ」 応えた惟雪にジョハルは頷き返し、そして独り言のように呟いた。 「……どこかに敵の出所でもあるのかな……大きな街にも入り込んでくるようになったとは、アヤカシも随分節操がなくなったね……」 「そうですね……」 聞くともなしに聞いていた六条が頷く。 惟雪が十数体の鬼道験者を確認したという場所は石門からしばらく歩いた場所にあったが、これといって特に変わったものを見付ける事はできなかった。 ただ。 何か、漠然とした予感が彼らの内に生まれたことは確かなようだった――。 |