温泉行こうぜ・女子会
マスター名:昴響
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 23人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/13 10:52



■オープニング本文


 五行・渡鳥山脈の祭壇にあった護大の封印解除――解除したのは封陣院の狩野だが――も終え、朱真(iz0004)はやっと神楽の都にある開拓者長屋でまったりと過ごしていた。
 思えば――今年のはじめ、五行王の側近・矢戸田平蔵に呼び出しを受けて白虎寮案内だの御所侵入だの、大アヤカシとの大戦だので息つく暇もなかったように思える。
 五行王と平蔵はまだあれこれと落ち着く暇もないだろう。護大のことや、寮のことや……。
「けどまあ……やれやれ、だ……。久々、うめと伊堂に行ってみようかなあ……」
 呟いて、はた、と『約束』があったことを思い出す。
「そうだ。落ち着いたら穂邑と温泉行こうって言ってたんだ……!」
 それは穂邑が刺客の凶刃によって負傷したとき――朱真が御所へ行こうと思った時のことだ。

 ――元気になったら、皆で温泉行こうな

 そう、朱真は穂邑に言った。
 無論、確たる約束ではない。けれども……。

 朱真は長屋を飛び出し、穂邑の元へ駆けた。


「穂邑、いるか? 温泉行くぞ! 女子会だ!」
「えっ」
 長屋の戸を開けると同時にそう言って入ってきた朱真に、穂邑は目を丸くする。
「ほら、こないだ言ってただろ、元気になったら皆で温泉行こうって」
 朱真が言うと、穂邑はぱっと顔を輝かせた。
「素敵ですっ!」
『女子会……』
 羽妖精の誓がぽつりと呟く。
『……俺達は人間じゃないし、いけるし……?』
 狛犬の阿業がぼそりと言い、吽海は物言いたげな視線を朱真に向けた。
「おお。お前らも来いよ! 楽しくやろうぜ」
 朱真は鷹揚に頷く。
 穂邑の相棒達は顔を見合わせ、頷きあった。


■参加者一覧
/ 朝比奈 空(ia0086) / 星鈴(ia0087) / 芦屋 璃凛(ia0303) / 柚乃(ia0638) / 鳳・陽媛(ia0920) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 胡蝶(ia1199) / 珠々(ia5322) / 楊・夏蝶(ia5341) / からす(ia6525) / フラウ・ノート(ib0009) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / 十野間 月与(ib0343) / 劉 那蝣竪(ib0462) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 彼岸花(ib5556) / フレス(ib6696) / サフィリーン(ib6756) / テト・シュタイナー(ib7902) / ハイディ・デーニッツ(ib9872) / 白雪 沙羅(ic0498) / 紫上 真琴(ic0628) / 姥梅(ic0817


■リプレイ本文


「朱真ちゃんや穂邑ちゃんと温泉♪ ……え、女子会? 女子会……何の会でしょう?」
 柚乃(ia0638)は小首を傾げたが、
(女子ばかりなんて、なんだかドキドキワクワクですっ)
 そう、笑みをこぼした。
「女子会……なぁ、やったことあらへんけど……まぁ、たまにはええやろ」
 星鈴(ia0087)は気のなさそうに呟く。が、実は楽しみだったりする。
「女子会ってなんだろう? でも……温泉は入れるみたいだし、気にしなくてもいいかな……」
 彼岸花(ib5556)は首を傾げたものの、温泉に魅かれて参加手続きをとった。
(女子会、ですか……? よくはわかりませんが、折角ですしお友達をお誘いして参りましょう)
 ハイディ・デーニッツ(ib9872)はこくりと頷いた。


 朱真と穂邑、穂邑の相棒たちは参加者を待っていた。
「穂邑さぁん!」
 鳳・陽媛(ia0920)は穂邑を見つけて嬉しそうに声をあげた。穂邑に飛びつこうとして、彼女が病み上がりなのを思い出し、小さく『大丈夫なの?』と尋ねる。
 穂邑が笑って頷くと、陽媛はぎゅっと彼女を抱き締めた。そして朱真に気づき、礼儀正しく一礼する。
「歌い手の鳳・陽媛です。よろしくお願いいたします」
「朱真だ。よろしくな」
 後方から既知の声がし、朱真と穂邑が振り向いた。
「穂邑ちゃん、朱真ちゃん! お久しぶりですっ! ……あ、吽海さん、もふぎゅ♪」
 柚乃は二人に挨拶すると、狛犬を抱き締める。
「お久しぶりです、柚乃さん」
 穂邑が微笑んで迎える。
 柚乃は朱真と穂邑共通の友人で、ここのところ体調を崩すこともあったらしく、今回は休息も兼ねての参加らしい。心配する二人に慌てたように言った。
「柚乃が軟弱なだけなんです。もうちょっと心身を鍛えないと、です……っ」
「まあだけど、無理はすんなよ?」
 微苦笑とともに言った朱真に、柚乃は頷いた。
 そこへ朝比奈空(ia0086)とアルーシュ・リトナ(ib0119)が到着する。
「穂邑さん……もうお加減は良いのですか? 良かった……本当に……」
 アルーシュはほっとしたように微笑むと、そっと穂邑を抱き締めた。
「アルーシュさんも空さんも、お久しぶりです」
 穂邑の言葉に二人は微笑んだ。
 空は、穂邑から彼女の傍らにいる羽妖精の『誓』に目を移す。
「穂邑さんも元気でやっているようですね。……誓もご迷惑を掛けていない様で何よりです」
『ほむらの、あいぼうだもの』
 誓は『どうだ』といわんばかりに胸を反らした。それへ、狛犬たちが『俺達もだし!』と異議を唱える。
 アルーシュは朱真に向き直り、丁寧に挨拶する。そして、くすりと笑った。
「ご一緒させていただいてありがとうございます。……穂邑さんの周りには本当に素敵な方が集まりますね」
 空も朱真と挨拶を交わし、微笑んで頷く。
「仲良しみたいですし、良いお友達がいるようですね」
 朱真はくすぐったそうに、穂邑はにっこり笑った。

 ハイディに誘われ参加したテト・シュタイナー(ib7902)は、彼女に笑いかける。
「今日は誘ってくれて有難うな。そろそろ、温泉に行きたいって思ってたとこなんだ」
「それはよかったです」
 ハイディはテトに微笑み返した。
「疲労に効く温泉があるらしいから、ゆっくりさせてもらうわ」
 到着した胡蝶(ia1199)が朱真を見つけ、そう声をかける。朱真はにこりと笑って『おう』と応えた。
「わーい温泉、ちゃんと行くの初めてかも。素敵なお姉さんたちも楽しいもふらさまも宜しくね!」
 蝶を思わせる身軽な動作でぺこりと挨拶したサフィリーン(ib6756)は、目を輝かせて興味津々に狛犬を見つめた。
 阿業と吽海が『もふらじゃないし』『狛犬だし』とぶつぶつ言う。
 そこへ蝙蝠の羽をもつ羽妖精が飛んできた。
『キリエです。騒がしい方が良いだろうと連れてこられました』
「よろしく頼む」
 キリエの後ろからからす(ia6525)が目礼する。
「やほー♪ 誘ってくれてありがとね。久々に温泉入りたかったから助かったわ」
 フラウ・ノート(ib0009)は満面の笑みを浮かべ、左手をあげた。
「うちは朱雀寮の芦屋璃凛や。初めましてやな朱真はん」
 星鈴とともに来た芦屋璃凛(ia0303)も挨拶する。
「初めまして、だな。よろしく」
 朱真は集まってきた開拓者たちに挨拶を返し、名簿をみる――そして、片手をあげた。
「……ちょっと、待て。やっぱ点呼とる! えーと、姥梅……」
「あいよ」
 姥梅(ic0817)はちょいと片手をあげた。
「はーい!」
 次に呼ばれて元気よく手を上げたのはリィムナ・ピサレット(ib5201)。
 拠点『華夜楼』から、珠々(ia5322)、楊・夏蝶(ia5341)、緋神那蝣竪(ib0462)、フレス(ib6696)、白雪沙羅(ic0498)、紫上真琴(ic0628)の六名が参加。
「「「「「「はーい」」」」」」
 そして、大きな荷物を抱えた十野間月与(ib0343)と礼野真夢紀(ia1144)が応えた。



「おんせーん。温泉って、いいよねえ」
 真琴が楽しげに笑う。
(女子会か……姉さま達といっぱいおしゃべりしたいこと有るんだよ! とっても楽しみなんだよ)
 フレスはうきうきと歩みを進めた。
 小袖姿のサフィリーンは歩きながらくるりと回る。
「衣装も天儀のにしたの♪ でもちょっと歩きにくいね。慣れかなあ?」
「慣れだと思うよ」
 傍らを歩いていた彼岸花が優しげに笑った。

 歴壁の温泉街――石鏡と遭都を繋ぐ関所でもあるここは、多くの旅人の往来があった。その様々な人種の中でも開拓者の一団は人々の目を引く。これが艶やかな女性ばかりとなれば尚更である。
「……っと。ここだ」
 朱真が足を止めた宿は堂々たる門構えの大きな温泉宿だ。
「おぉ、ええとこやな」
 星鈴が呟く。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。さ、どうぞ」
 宿の女将はにっこりと笑み、彼女たちを大部屋へ案内した。
 部屋の障子を開けると手入れの行き届いた庭、その塀の向こうから涼やかな水音が聞こえてくる。
「皆、汗を流してきて。その間にあたいたち、お茶会の準備するよ」
 月与が言えば、同じく大荷物を抱えていた真夢紀が笑った。
「お汁粉や冷やし汁粉、西瓜や『めろぉん』もちょっとした伝手を頼って手に入れましたの」
 彼女はそれらを『氷霊結』で冷やしながら運んでくれたらしい。
『西瓜とめろぉん……』
 狛犬たちの目が期待に輝く。
「女将さん、少しだけ厨房をお借りしたいですの」
 真夢紀の言葉に、女将は快く頷いた。
 仲間たちが温泉で汗を流している間、月与と真夢紀は厨房で調理を始める。冷やした蓬入り白玉団子に餡子や黄粉、樹糖をかけたもの、持ってきた軽いお酒のつまみに空豆の塩茹でなど……。
 そのあと、月与と真夢紀も汗を流しに温泉に入った。

 卓に準備された数々のお菓子とお茶、薔薇酒や甘露梅酒などの軽いお酒に女性たちが歓声をあげる。
 先程厨房で作ったのとは別に、真夢紀が自宅で作ってきた餡子玉――これは白餡と白餡に抹茶を混ぜたもの、漉した小豆餡を丸め寒天で包むという手の込んだものだ――、月与はワッフルセットや花を使った菓子を並べ、西瓜とめろぉんを均等に切り分けた。
「冷たい珈琲や緑茶も出せますよ。かき氷も」
 仲間たちの反応に嬉しそうにした真夢紀が言う。
 女性たちは楽しそうにお菓子をつまむ。かき氷にはジャムが乗せられた。
「おやつあげるのは半分までだよ?」
 サフィリーンが狛犬たちに釘をさす。愛らしい少女の言葉に狛犬たちはしぶしぶといった態で頷いた。
「穂邑さん、お花を使った砂糖菓子だよ。良かったら食べて」
 月与は穂邑に『花紅庵の桜姫』と『薔薇の花びらの砂糖漬け』を紅茶とともに差し出した。彼女もまた、穂邑が負った心身の傷を心配していた一人だ。
「わあ、ありがとうございます! 綺麗な色ですっ」
 穂邑は嬉しそうに受け取った。
『これは、ほむらの!』
 横から食べたそうに覗き込む狛犬たちの鼻を、誓がむぎゅっと押しやる。
 月与は『ふふ』と笑った。
 美味しいお菓子とお茶であちこちに会話の花が咲いている。
「たまには軽い酒もいいねえ」
 姥梅は薔薇酒の美しい色合いを眺めながら呟くと、つまみの空豆をひょいと口に放り込んだ。



 夕飯前に、彼女たちは温泉に浸かりに行った。
「私はあとでいい。のんびりしてるから遊んできなさい」
『はーい』
 からすがそう言うと、キリエは女湯へ向かった。
「みんなで入る温泉は楽しいよね♪ 楽しんじゃうぞー!」
 リィムナは言うや、勢いよく着物を脱いで温泉に入っていく。学童水着のあとがくっきりとついているところが子供らしい。
「天儀のお風呂は特別気持ちがいいんだよ」
 フレスが楽しそうに続く。
「効能が書いてあるわね……手前のが疲労回復で奥の湯は……美肌」
 脱衣所に掲げられている案内板を見た胡蝶の眼が、『美肌』の部分で止まる。
「ま、まあ眉唾だろうけど、せっかくだからね」
「……胡蝶、疲労回復はこっちだぞ?」
 朱真が声をかけるが、胡蝶は奥の湯へと入って行く。
「美肌の湯……! 柚乃もそっちへ行きます♪」
 そして、柚乃も奥の湯へと入って行った。

「下宿のおばちゃんに楽しみ方聞いて来たよ。温泉は泳ぐのは駄目なんでしょ? 思い切りのびーして、普段よく使う脚や腕を揉み解して、半分浮く様に温まってりらっくす〜」
 サフィリーンに合わせてリィムナが真似をしている。
「あい、冷え物でござい……はぁー極楽極楽……」
 姥梅は一声かけ、湯に入ると大きく吐息した。
「ふぅ……やっぱり温泉はええなぁ」
 星鈴はうーんと伸びをする。
 アルーシュは穂邑の傷跡のことを気にかけながらも何も言わず、大窓から見える景色をゆっくりと眺めた。先程、女将に聞いたところ消化器系の炎症に良い飲泉もあるらしい。
(ためしにあとで飲んでみるのも良いかも)
 空もまた、忙しい日常を忘れゆっくりと湯を楽しんだ
「たまにはこういう女の子同士の一時って言うのも良いもんだね」
「はい」
 月与と真夢紀がにっこり笑いあう。
 浴場へ入ってきたキリエが羽をぱたぱたさせて歓声をあげた。
『おお〜絶景ですねー。おっぱいがいっぱい。つるぺたボディいいという変態さんもいますが、女としておっぱいは憧れです……どうしたらそんなにおっきくなりますか?』
 ――と、月与の方へ移動し、豊満な体つきの女性を順々に見て回る。そして、おおっと声をあげた。
『おっきいです!』
「わふ?!」
 彼岸花はびっくりしたようにじゃぼんと首まで浸かった。

 フラウは湯に浸かる前に頭から足先まで洗い上げると、軽く髪を結い上げタオルを巻いて湯に浸かり、小さく呟く。
「温泉っていうと、お酒って相場が決まってるみたいだけど……冷たい紅茶とか持ち込みいいのかしら……」
 入る前に聞いておけばよかったと後悔しつつ、のんびりと体を伸ばした。そして体温が高くなったらぬるま湯を被って冷却し、また湯に浸かるを繰り返して温泉を楽しんだ。
「わー、いいお湯だね。こういうところのお湯ってよくお肌にいいって聞くけど、実際どうなんだろ。美容にいいなら毎日でもここに通いたい……皆、いいなあ。肌綺麗だよね。美容法とかある?」
 真琴が湯に浸かりながら友人たちに尋ねる。
(温泉って美容にいいんだ……綺麗になるとあの人喜んでくれるかな……)
 真琴の言葉にフレスはお湯をまじまじと見つめ、はた、と顔をあげた。
「美容法? いつも元気でいることだって母様が言ってたんだよ!」
「ふふっ。そうだねえ。……あとは保湿を十分してやることかねぇ」
 姥梅がさりげなく助言する。若い女性たちは目を輝かせ、姥梅の美容美顔講座に耳を傾けた。
「一向自分に訪れない成長期には、いつか説教をかましてやらねばなりません」
 己の体を見下ろし、ぽそりと呟く珠々。
 沙羅もまた、成長途中の自身の体を眺めて溜息をついた。
「どうやったら身体が素敵に成長するのか、その方法もお伺いしたいです」
(……これからきちんと成長するんでしょうか?)

 こちらではリィムナと朱真、穂邑の背中流しっこが始まっていた。
「二人ともお肌きれい♪ ……えい」
「うひゃっ! この!」
「きゃーっ」
 リィムナにくすぐられて声をあげた朱真が反撃に移ると、浴場に楽しげな笑い声がはじけた。
「阿吽ちゃんたちは濡れてぺしゃんこにならないの? 石鹸で泡々にしたらどうなるの?」
 サフィリーンが目をきらきらさせて狛犬たちに問い掛ける。
『泡々……』
『もふらに似るかもしれないし……?』 
 狛犬と少女たちの声を聴きながら、やれやれと湯に浸かった朱真におずおずとした声が掛けられた。
「朱真さん……」
 振り向くと彼岸花が湯船のなかで正座している。
「わふ、こ、この度はお誘いありがとうございます。ボク、お、温泉好きですのでう、嬉しかったです」
「そっか、よかった。また企画したら声かけるから来いよ」
 朱真の誘いに彼岸花がにっこりと笑って頷いた。
 美肌の湯から移動してきた胡蝶が朱真を見つけ、湯に入ってくる。
「あら、ここもいいわね……そういえば、朱真は陰陽寮の方にはもう顔を出さないの? 白虎寮の修復も始まってるし、恩師がいるのならたまには顔を出してみたら? 寮生も歓迎するわよ」
「寮か……まあ、機会があれば、な」
 朱真は微苦笑で応える。そこへ璃凛が加わった。
「うちは陰陽寮が襲われたとき白虎寮の事は手が回らんかった……すまんな」
 璃凛がそう言って謝るのを朱真は慌てて止めた。陰陽寮がアヤカシに襲われたとき、朱真は『朝廷』相手に駆けずり回っていて五行に赴くことはできなかったのだ。
「手が回らなかったのは俺も同じだ。それに、もう過ぎた事だ」
「ん……過ぎたことやな……。せや、時間あったら組手せえへんか?」
 璃凛は小さく頷くと明るい表情をみせる。
「お。じゃあ夕飯あと腹ごなしにどうだ?」
 朱真と璃凛はにやりとして拳を打ちつけ合う。――と。
「ふぇ!? い、いや、ちょっとまちぃや?!」
 弄られて真っ赤になった星鈴の上ずった声に、璃凛が素早く反応した。
「星鈴はうちのもんやもん!! うちも、混ぜたって」
 ざばざばと移動していく璃凛を見送って湯に浸かりなおした朱真に、胡蝶が一言。
「……まったく、組手する陰陽師ってどうなの」

「夕飯まで少し時間がありますね。穂邑さん、夕涼みに川へ行ってみませんか? ……ジルベリアでは蒸し風呂の後に冷水を浴びたりするのですけど、そこまでしなくても、自然を感じながら涼むのは気持ちいいですから」
 アルーシュの誘いに穂邑は嬉しそうに頷き、柚乃、陽媛、空も加わって川辺の散策に出た。
 最後尾にいた空は、愉しげに歩く穂邑を見ながら思う。
(大事に至らなくて本当に良かった。神代を持っている以上、何事もなく……とはいかないのでしょうが……。あの子が幸せであれるよう見守ることにしましょう)
 やがてアルーシュと陽媛の歌が風に乗って流れて行った。

 脱衣所の大鏡の前、那蝣竪は慣れた手つきで髪に香油をつけて梳る。
(か、髪の毛を梳いてもらうときには、ちゃんとやりかたを学習せねば……)
 と思いつつ気持ち良くてうっとりする珠々。
「なゆ姉さまこういうこと上手だから大好きなんだよ!」
 フレスは髪を梳かしてもらいながら嬉しそうに言う。
「ふふ。さ、できたわよ。次は沙羅ちゃん」
「……にゃあ〜……尻尾もやってほしいですにゃ……」
 沙羅はうっとり呟いた。



「湯加減はどうだった?」
『楽園でした』
「そうか、良かったか」
 からすの問いにキリエが応えるが、どこか微妙に食い違っている気がしないでもない。
 温泉から戻ってきた仲間たちに、からすは冷茶を淹れた。
「如何かな」
「いただきます……あ、美味しいです!」
「からすさん、お茶入れるの上手だね」
 美味しいものに目のない真夢紀と月与が冷茶を喜び、湯にのぼせた面々も彼女の冷茶に大きく息をついた。
「っくー、ひとっ風呂浴びた後の一杯はこたえられないねぇ」
 ……と、姥梅は酒まっしぐらの様子。

 珠々はぐつぐつ煮立つ鍋の中にある『赤いあんちくしょう』を無表情で眺めているようでその実、目が遠い。
(夜を、夜を使うのはこの場合許されるでしょうか……この油揚げを食べたら許してくれ……ないでしょうか)
「お肉に夏野菜たっぷりと。ん、今日は食べるわよー! ……珠々ちゃーん、好き嫌いはダメよ? なゆ姉」
 夏蝶がにっこり笑ってがしっと珠々の腕を掴む。呼ばれて那蝣竪も反対側に陣取った。
「あら、人参のお残しはイケナイわよ? 珠々ちゃん。はい、あーんして」
「にゃー!」
 半泣きで訴える珠々にフレスが力強く頷いてみせる。
「珠姉さまかっこいいから人参とか平気だよね!」
「……真琴さんとフレスちゃん、お肉お裾分け。夏蝶さんも」
 沙羅は珠々に人参を進めながら肉を三人に分配する。
 今度は真琴が沙羅に魚を寄越した。
「沙羅にゃんこ、お魚分けてあげる……ん? 辛いもの? 何でも食べるよ〜。でも甘いものの方が好き。夏蝶ちゃんてば用意周到なんだからっ」
 夏蝶の問いに応えると、彼女から甘い大福が手渡された。 
「口直しに。はい、珠々ちゃんも。……あ、白雪ちゃんありがと、お刺身どぞ」
 夏蝶は持参した大福を真琴と珠々に手渡したあと、沙羅に刺身をお裾分けする。
 珠々の人参ダメージは甘い大福で大方回復したのではないだろうか……?


 一方、早々に夕飯を済ませたテトとハイディは再び温泉へと入った。
「久々の温泉、のんびりしましょうね……そうだ、お背中お流ししましょうか。尻尾の方は……どうされますか?」
 ハイディが尾を揺らし、小首を傾げて尋ねる。
「おー、所謂洗いっこってヤツか? いいぜ、やってくれよ! あ、尻尾は……そうだな。折角だし、お願いすっか。あ、丁寧にやってくれよ?」
 長くふさふさの尻尾はテトの自慢なのだ。
 ハイディは注文通り、丁寧に背中と尻尾を洗い上げた。
「んーじゃ、今度はお前の番だな? 強くって、大丈夫なのかー?」
「はい、私ですか? それではお願いしますね。……あ、結構強くして下さって大丈夫ですので」
 ごしごし背中を擦るテトに、ハイディはこくりと頷く。
 二人が湯に浸かるころ、窓の外に大きな月が見え、虫の音が聞こえてきた。
「宜しければ、如何ですか?」
 ハイディは天儀酒を持ち上げてみせる。テトは嬉しそうに声をあげた。
「おう、気が利くじゃねーかっ」
 そうして飲み交わすうち、うつらうつらし始めたテトにハイディが微笑んだ。
「寄り掛かって貰って大丈夫ですよ?」
「むむ、んーじゃお言葉に甘えて……へへ、乳枕ー」
 浴場には湯の流れる音と、虫の音が静かに響いていた。

 二十数名分の布団が敷かれた上、サフィリーンはあちこちで盛り上がるコイバナを楽しげに聞いている。
「うん、あの人ね、とってもかっこよくてね、優しくてねぇとにかく素敵なんだよ!」
 フレスが目をきらきらさせて話すのを、那蝣竪は微笑ましく思いながら撫でる。そんな那蝣竪にも同じ拠点に付き合い始めた男性が居り、ふふ、と笑った。
「奥手で不器用だからこそ、誠実でイイのよ」
「フレスちゃんいいなー。羨ましい。……なゆ姉ったら幸せそうな顔しちゃって猫ぱんちしちゃうー。私……会えないんだもん。会えても二言三言……」
 夏蝶は那蝣竪に軽いぱんちを出すと、がっくりと肩を落とす。
「恋は障害が多いほど燃えるのよん☆ 真琴ちゃん達は好きな人とかいるの? 薄情なさいっ♪」
 那蝣竪は夏蝶をぽふりと叩き、話をふった真琴を抱き締める。
「えー私の恋バナぁ? んー、どうかなあ。なゆなゆの話もっと教えてくれたら教えてあげよっかな。……って、ちょ。くすぐったいってば。もー、やっぱ秘密」
 真琴の意味深な態度に那蝣竪がくすぐりにかかると、賑やかな笑い声が響いた。
 珠々は『ひとのこころのお勉強』といった態で興味津々である。
 その傍らで沙羅がしょんぼりした。
「私の場合、動くものを見ると猫化する悪癖を直さない限りご縁がないのではと……」
「あら。好きな人には飛びついてぎゅーってすればいいのよ、沙羅ちゃん♪」

 きゃっきゃとはしゃぐ若い娘たちを、少し離れたところから楽しげに眺めているのは姥梅。

 またこちらは膳卓に酒を置いて星鈴と璃凛がしっぽりやっているかと思いきや。
「うち、寮生としての自分が解らなくなってしもうた。失敗ばっかり、迷惑ばっかり掛けるし……」
 璃凛がぽつりと漏らすと、星鈴の目から大粒の涙……
「ぅー……ひっく……うちかて……うちかてなぁ……」
「星鈴、泣かんで……な」
 酒に強くないうえ酔うと泣き上戸になる星鈴を、璃凛がなぐさめるのはいつものこと。
 璃凛は、ふと視線を転じ、朱真と穂邑のほうを見た。
(……あの二人に似てるかもな、縁の深さなら負けへんけど)

 穂邑の傍では狛犬たちが大あくび、誓は彼女の膝でうつらうつらしている。
 陽媛は血の繋がりのない兄に振られ、また挑戦しようかという状況のためかあまり多くは話さず、にこにこと聞き役にまわり、穂邑との会話を楽しんでいた。
「あのね、毎晩同じ布団で抱き合って寝てるんだよ♪」
 リィムナが『大好きな人』のことを嬉しそうに言えば、朱真が面白そうに『へえ』と呟き、いろいろと突っ込む。すると、少女はあとから同性の親友だとバラした。
「親友かよ」
 朱真がリィムナの両頬をむにっと指先でつまんでやると、後ろから柚乃が特大の爆弾を投げた。
「朱真ちゃん、お式の時は呼んでくださいね?」
「……なに……?」
「お式って……朱真ちゃん、本当ですか?!」
 寝耳に水だったらしい穂邑が身を乗り出してくる。朱真は慌てて首を振った。
「えっ?! いや、ちょ……何の話だ……!?」
 柚乃はうふふ、と笑ってタロットを出す。
「風の噂で耳にしたので、思わず……折角なので朱真ちゃんのお相手を占ってみましょう」
「えっ……?」
 当惑する朱真をよそに、興味深そうに柚乃のタロットを覗き込む面々……
 さて、どんなカードが出たのやら――。



 東の空が明るみ、宿の厨房では開拓者たちの朝餉の準備が始まっている。
 リィムナは厠でおむつをはずす――昨晩、お泊りで世界地図はまずいとこっそり装着したのだが、今回おねしょはしなかったようだ。
「……あかん……またやってもうた……」
 星鈴は昨晩の行動を思い出し、布団の中で赤面して頭を抱える。酔っても記憶が残ってしまうらしく毎度の反省のようだった。

 朝餉は女性好みのあっさりと軽く、消化の良いものばかりが出された。
 帰り際、朱真が女将に改めて礼を言う。この温泉宿は知り合いに紹介してもらったところなのだ。
「女将、世話になった。湯も料理も美味かったよ」
「それはようございました。またお越しくださいませ。そうそう。皆様、もしお時間があれば、安雲へ行ってごらんなさいまし」
「安雲?」
 女将は毎年この時期に三位湖で湖水祭りが開かれることを話し、今年は五行王と五行の民が招待されたのだと言った。
「五行王が……」
 朱真が呟く。
 後ろに居た仲間たちも「どうしようかなあ」などと呟いている。
 歴壁から安雲なら龍で行ける。このまま観光したい者、移動したい者、神楽に帰京したい者、様々だろう。
 朱真は彼女らに意見を募り、結果、ここで解散することに決めた。
「皆、今回はありがとな。また企画したら声をかけるから来てくれると嬉しい。――じゃ、これで解散だ!」
「またねー」
「ばいばい」
 温泉で疲れを癒した女性たちは手を振り、各々が望む方へ散って行く。

 
 天儀は石鏡、歴壁での女子会はこれにて閉幕――