憑蛸
マスター名:昴響
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/10 21:24



■オープニング本文


 神楽の都にある港――ここは各儀からの飛空船が寄港し、また各儀へ旅立って行く場所。
 人と物が流通する賑やかな場所でもある。

 その賑やかな港が騒然となった。
 空ではなく、海を渡ってきた船に巨大な蛸が絡みついていたのだ。
「なんだあれは……?!」
「クラーケンか!?」
 船乗りたちは驚愕したように声をあげ、大慌てで自分の船に戻ると船を移動させて巨大なアヤカシの脅威から逃れようとした。そうして移動する飛空船同士が衝突したり、新たに港へ入ってきた飛空船が入れず立ち往生し、港は凄まじい喧噪に包まれた。
「あほか! 船の移動の前に開拓者を呼べ! あっちのが先だろうが!!」
 そのありさまを見て、港に店を構える一人の店主が怒鳴る。
 はた、と我に返る者も多数。
 見れば、巨大な蛸に絡みつかれた中型飛空船は、それを振り落そうとフルパワーで離水しようとしているが、アヤカシの力たるや凄まじくびくともしていないようだった。
 このままでは間もなく船は沈む――それは誰の目にも明らかだった。


 開拓者ギルドでは早急に手が打たれた。
 ギルド職員は集まった数名の開拓者にてきぱきと説明する。
「中型飛空船についてきたのは大蛸入道……クラーケンと呼ばれるアヤカシです。全長六丈(十八メートル)。中型飛空船の力ではクラーケンに対抗できません。早急に撃退することが肝要です。時間がありません。皆さん、よろしくお願いします!」


■参加者一覧
一心(ia8409
20歳・男・弓
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武
沙羅・ジョーンズ(ic0041
23歳・女・砲
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
エドガー・バーリルンド(ic0471
43歳・男・砲
リック・オルコット(ic0594
15歳・男・砲


■リプレイ本文


 志士氏族に伝わる弓術技などを習得するため、渡航の準備をしていた一心(ia8409)は、たまたまこの事件に遭遇した。
 居合わせたリィムナ・ピサレット(ib5201)はギルド職員の呼びかけに素っ頓狂な声をあげる。
「大変! 早くタコスケをやっつけなきゃ!」
「神楽の都の港にクラーケンが? 珍しいこともあるものです……とはいえ、放置しておくわけにも参りません。速やかに排除させて頂きましょう」
 淑やかに言ったのはフレイア(ib0257)。
「空飛ぶタコとはユニークじゃ……タコ焼き食べたいのう……」
 鴉乃宮千理(ib9782)がのんびりと呟く。
 緊急要請を聞きつけたエドガー・バーリルンド(ic0471)がにやりと笑う。
(儲け話がねぇかと思ってりゃ、向こうから転がり込んでくるたぁついてるねぇ……)
「若い嬢ちゃんたちも張り切ってるようだし、俺も一つ稼がせてもらうか」
 リック・オルコット(ic0594)もまた、儲け話には敏感なようだ。
(ん……ともかく、大物狩りだね。当然の事ながら、船の被害抑えないと報酬引かれるよね?)
 飛空船の損壊がどの程度のものかはわからないが、急いだ方がいいだろう。
 さらに、強弓を手にした篠崎早矢(ic0072)と、沙羅(ic0041)が加わった。
「砲科傭兵の沙羅・ジョーンズよ。各員は宜しく頼むわね。鉄火場体験するのはアタシ達だけで充分よね」



 港に駆けつけた開拓者たちが見たのは、言葉に違わぬ巨大な蛸であった。体長六丈……だが、一抱えもあるような足や、海面から一部だけ覗いている頭などを見ると、それ以上に感じられる。
 開拓者たちが到着するまでの間、中型飛空船を救おうと警邏隊の面々も弓などで攻撃していたようだが、何しろ射程が短く、大蛸の墨弾をくらって転覆した船も見える。
「これはまた巨大な蛸ですね……。さて、他に被害が広がる前に片付けましょうか」
 一心の言葉に、千理もまた頷く。
「まごうことなきタコじゃのう」
 アヤカシの大きさに唖然としたリックだったが、すぐさま頭を切り替える。
「……でかい。とりあえず、完全に退治したほうが報酬的にもおいしいよね?」
 言いつつも、巨大な蛸を見て眉を顰めた。
(それにしても、なんで蛸っていうのはあんなに気味が悪いのかな? 好きになれないよ……。まあ、なんにせよ、報酬貰う以上はしっかりとカタを付けないとね?)
 一方、エドガーは警邏隊と交渉していた。連携して攻撃するためには、射程の近い者同士が組んで分乗したほうがいい。また、船の操舵に関しては玄人に任せたいからだ。
「……あんたらの海で好き勝手されるのも癪だろう? 海に生きる奴の気概ってのを見せてくれると嬉しいんだがな」
 こう言われては、海の男として引くわけにはいくまい。豪快に笑って快諾した警邏隊――中でも操船を得意とする者たちが、開拓者を乗せてくれることになった。

 神楽の港の沖合には、入り江のど真ん中に浮かぶような小島が存在する。海の航路は朱藩側と五行側双方あるが、立ち寄る港よってどちらかを選ぶことになろう。
 今回、クラーケンに襲われた中型飛空船は、海面へと引き摺りおろされ、沈められそうになりながら五行側の入り江から入ってきたようだ。
 この入り江を行き来する中型以上の飛空船はないようだが、水深も幅も十分にあった。
 それらこまごまとした情報を聞き、フレイアとリィムナを乗せた船は、大蛸が通過してきた入り江まで進んだ。そこにフレイアが『フロストマイン』を仕掛け、船は速やかにとって返すと大蛸まで二二間の距離を保って停止した。
 一心と千理は大蛸が絡みついている飛空船へ移るため、死角から近づく。
 また、リックとエドガーが乗り込んだ船も、二二間から三三間の距離を保つよう要請された。
「的がデカいのはありがたいけど……大きすぎる……早く退治しないと、船がもたない」
 リックの呟きに、エドガーは頷きつつマスケットに『耐水防御』を施す。
 まずは二十間の距離で位置をとった沙羅と早矢が、攻撃の口火を切った。
「海を荒らすタコの怪物が……その汚い手を離せ、下郎!」
 早矢の啖呵とともに、『十人張』の弦がきりきり音をたてる――放たれた『乱射』は巨大な的のあちこちへ襲い掛かり、連射された矢が、まるで雨の様に降り注いだ。
 大蛸の足の一本が海中からそそり立つように現れ、振り下ろされた。
「きたわね!」
 沙羅は待ち構えていたように魔槍砲を向け『メガブラスター』を撃ち放つ。
 どん、という轟音とともに足の先端部が吹き飛ばされた。
 蛸は水面を叩きつけるようにして足を引っ込め、船を大きく揺らした。
 ぎょろりとした目玉がこちらへ向く。
「離れて!」
 沙羅の声に、操舵手は波に舵をとられながらも必死で距離をとった。

 巨大な足がうねるたびに大波が起こる。
 揺れる船の上から、飛空船を攻撃の直線上から外したエドガーはマスケットを撃ち放った。早矢と沙羅の乗る船に向けられていた目が、こちらへ移動する。
 一心と千理が飛空船に到着したのを確認したリックが言った。
「あんな触手に掴まれたくないね。エドガー、火力を集中させようか? ……目玉とか、狙った方が良いのかな? 急所ではありそうだけど」
「オーケィ。目玉ぁ狙うか」
 エドガーが同意する。
 リックは頷き、『騎射』を発動させると大蛸の目玉に照準を合わせ、マスケットを撃ち放った。

 飛空船の甲板に乗り移った一心と千理は、まず乗員たちに怪我がないか確かめると、避難させる。
 船体に絡みついた足は三本――尾翼などが蛸の重みでひしゃげているが、動力部などはまだ無事のようだ。

 フレイアは手をかざし呪文を唱える――途端、氷の刃が放たれ、飛空船に巻きついている大蛸の足の一本に突き刺さり、炸裂した。
 衝撃に驚いたように足がうねり、空中に浮く。同時に、煙幕が発射され、開拓者らの視界を遮った。
 リィムナは『黒猫白猫』に切り替え、軽快なリズムを奏でて仲間を支援する。
 煙幕のこちら側、千理は宙に浮いた蛸の足めがけて『覚開断』とともに大薙刀を振るった。
 突然の斬撃に仰天したのか、薙ぎ払うように千理に襲い掛かってきた足を紙一重で躱し、反動をつけて大きく踏み込み、逆袈裟に走った巨大な刃が大蛸の足先から三分の一を切り飛ばした。
 その後方、船にしがみついた足の一本に向け、一心は弓を構える。
「まだ少し慣れないですが……乱れ咲け、紅桜」
 低い呟きとともに、白銀の弓が桜色の燐光を放つ。彼の目が怪しい輝きを放ったと同時、舞い散るような燐光を残して矢は飛び、深々と的に突き立った。
「流石にこれだけ大きいと外す気がしませんね……とはいえ、油断は禁物」
 さらに『紅焔桜』で一点を集中して矢を放つ。
 その攻撃に、大蛸は身を捩るようにしてずるずると蠢き、飛空船を足掛かりにぐっと頭を持ち上げた。

 リィムナは『泥まみれの聖人達』を連続で演奏し、仲間の攻撃力を底上げする。
 大蛸の本体がぐっと水中からせり上がってきたのを見て『魂よ原初に還れ』に切り替えた。
「ふふ、鏖殺の交響曲…ジェノサイドシンフォニー! 耳にタコができるほど聞かせてあげるね!」
 リィムナは、十秒間に『魂よ原初に還れ』を二連続して発動させる必殺技を繰り出し、海中から持ち上がった本体にぶつける。
 脳を直撃する凄まじい攻撃に、大蛸が硬直した。
 その機を逃さず、飛空船をなるべく巻き込まない位置に回り込みながら、早矢は大蛸本体を巻き込むように足を狙い『バーストアロー』を放つ。
 衝撃波に晒され、大蛸の本体が大きく裂かれた。
 そこへ沙羅が『メガブラスター』を撃ちこみ、巨大な頭の一部を吹き飛ばす。
 リィムナの演奏攻撃が続くなか、大蛸の足が数本、海中から暴れ出てきた。闇雲に振り回される足は距離を取っている開拓者たちに届きはしないが、その動きが生み出す波は凄まじく、船を上下に大きく揺らした。
 開拓者たちは振り落されぬよう、船に掴まり均衡を保つ。
 それは飛空船の甲板にいる一心と千理も例外ではない。
「さすがに力は強いのう……」
 千理が苦笑して呟く。そして、揺れる船の動きに合わせるように駆け出すと、宙で揺らめいている足の一本目がけ、『烈風撃』を放った。
 斬り飛ばされた先端部が紫の瘴気となって霧散し、衝撃波によって水面に叩きつけられた足は、そのまま海中へと潜っていく。
 更に、一心の矢が、飛空船に絡みついていた蛸の最後の足を外させることに成功した。
 彼は操舵室に残っていた船長に飛空船を港の埠頭まで移動させるよう告げると、千理とともに警邏隊の船に飛び移った。

 飛空船が緩やかに発進し、港の方へ移動していく。
 揺れる船上から蠢く蛸を狙う――それは揺れる扇を見事撃ち抜いた弓の名手の古事を彼女に思い起こさせる。
「……扇撃ちを目指せ……!」
 早矢はしっかりと船の甲板を踏みしめ、『ガドリングボウ』で一点を穿つように矢を放つ。立て続けに放たれた三本の矢は大蛸の本体に突き立ち、さらにもう一度、三本を撃ち放った。
 エドガーとリックは『単動作』を交互に繰り返し、大蛸の目玉へ集中して銃撃を浴びせ、その巨大な片目は二人によって完全に潰された。
 リィムナの演奏によって本体の動きを封じられ、四方からの攻撃に怒り狂った大蛸は残った足をめちゃくちゃに振り回し波を立たせて船を揺らす。
 だが、開拓者らの攻撃はますます激しさを増していった。
「……冷静に。冷静に対処すればよいまでのことです」
 戦場にあっても貴婦人然とした、落ち着き払った声――フレイアの『アイシスケイラル』が本体と足の中間部に突き刺さり、炸裂して大蛸の一部を消滅させる。
 そのとき、巨大な本体がたわむように蠢いた。
「……っ! 気をつけろ、墨弾だ!」
 先に見ていた操舵手の一人が全員に注意を促す。
 ボッという音。噴射された真っ黒い塊が水面に叩きつけられ、激しい水しぶきをあげた。
 大蛸は海中へ逃れるように沈んでいく。
 その後方に居た一心は、咄嗟に弓を振るって『雷鳴剣』を放った。
 バシーンという大音を放って、電流に痙攣した大蛸はそのまま水中へ沈んだかに見えた。が、突然、海中から飛び上がるとそのまま宙を飛んで移動し始める。
 フレイアの仕掛けた罠への道を作るように船を移動させつつ、開拓者たちは空中の大蛸へ攻撃を浴びせる。
「食らえ! ジェノサイドクライマックス!」
 リィムナが叫び、気力を使って『魂よ原初に還れ』を叩きつける。
 残る片目で退路を求め、低空を飛んでいた大蛸は再びの知覚攻撃に巨大な水しぶきをあげて墜落し、海面を大きく揺らした。
 そして。
 突然、彼らの前方で海水が嵐のように渦を巻き始め、翻弄される大蛸の姿が海面に現れた。
 空中の退路を断たれた蛸は、驚くべき速さで入り江まで移動し、フレイアの仕掛けた『フロストマイン』に掛かったのだ。
「逃がすわけには参りません」
 船上、フレイアの杖が掲げられ――彼女の頭上に火炎が現れる。
 振り下ろされた杖が差し示す方向へ、『メテオストライク』が一直線に襲い掛かった。
 どぉん!
 大蛸へ直撃した火炎弾が轟音とともに大爆発を起こす。
 飛び散った爆風が海面を押しやるように四方に走り、開拓者たちの船を大きく揺らした。
 最後の、ふわりとした風が吹き抜けていったあとには……
 いつものように静かな海面があるだけで、巨大な蛸の姿も、嵐のような渦も跡形もなく消え失せていた。
「……すげえ……」
 舵を握っていた警邏隊員が呆然としたように呟くのへ、フレイアは艶然と微笑み返したのだった。



 アヤカシの消滅とともに、人々もそろそろと外を覗き、避難していた他の飛空船も徐々に港へ戻ってきていた。
「ありがとうございました! 助かりました!」
 中型飛空船の船長はじめ、乗組員たちは開拓者と警邏隊に何度も礼を言う。
 大蛸によって破壊された部分はあるが、幸いにも戦闘中の被弾はほとんどなく、弁償を請求されるようなことはなかった。

 蛸を見たせいか、海産物が食べたくなった千理は店へ行こうとしたのだが、ふと羽織の袖を鼻に近づける。
「……その前に着替えるか。汚れるし、磯臭さがひどかろうし……」
 呟いて、彼女は仲間たちに軽く手をあげると道を別った。
 かたや、エドガーは『一杯どうだ』と、仲間と操舵手らを誘っていた。
「可愛い嬢ちゃんに別嬪の姉ちゃんも居りゃ、酒も美味いだろ?」
 そう言ってにやりと笑う彼だったが、さすがに十歳のリィムナを連れて行くわけにはいかない。
「……っと。嬢ちゃんにゃ、酒はまだ早えかな。『大人』になったら一緒に飲もうぜ。今日はご苦労さん」
「うん。お疲れさま! じゃあねー!」
 リィムナはエドガーらに手を振って、大好きな姉妹の待つ家へと帰って行った。


 こうして
 一時騒然とした神楽の港も開拓者らの働きによって平穏を取り戻し、西の空が夕焼けに染まるころにはいつもと変わらぬ船乗りたちの陽気な笑い声が響いていたのだった。