アヤカシ川柳 冬の陣
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/18 20:55



■オープニング本文

 木枯らし吹く山道を彼らは登っていた。ギルドの依頼に、最近この山から降りてきて村々に出て来るアヤカシ、をどうにかして欲しい、そういった内容だ。アヤカシ達の数、種類のと確認。そして退治が今回の仕事だ。

 一度踏みとどまり、一人が山を仰ぐ。まだ幾らか葉は残っているが、殆どの木々が丸裸、見ている此方が寒くなると身震いを覚える。視線を更に上を向ける、頂上に到着するには、二刻ほど費やすだろう、日がある内には帰れる距離だ。

「もしや其処の、ぬしら山を登るのかね?」
 声をかけたのは、一人の男性、御歳五十は越えるだろうか、杖をつきつつ此方へと向かって来る。
「あの村で依頼を受けた開拓者であろうか、だとすればぬしら我が頼み聞いちゃくれんか?」
 そう難しいものじゃないんだが、やはり忙しい彼等には難しいだろうかと視線右往左往させるも、男性は意を決して其れを見せた。 ほそ長い色紙、寒菊の花びらが間に挟み込まれたものだ。
「我はアヤカシやケモノの専門書を書いているのだがね。字面だけを並べ立てた本は、中々手に取って貰えないのだよ」
 そこで考えたのが、一種ごとに川柳を載せたらどうかと言うものだった。
だが志体もない自分では到底、アヤカシ達に対する情報はそう多くない。いくら紙上では彼等開拓者の倍の年月をかけて姿を読み解いても、彼等の様に本物と命の削り合いをする者には勝てないのだ。
「アヤカシに関する川柳を書いて貰えないだろうかね?」
 ちゃんと礼は支払うよ、と付け足してその紙を男性は渡してきた。
 川柳とは、俳句の様に五・七・五で詩を綴るものだが、季語と言う決まりが無い分敷居が低く容易だ。
「それにね、どうもこの山何時もと生態系が……変わっている様に思えるんだよ」
 眉間に皺を寄せて悩む男性。聞けばこの時期ならこの辺りにもう少し上に現れる動物が、まだ登り口に出没する。と、まさしく長年の勘、で物を語る。

 男性の真意の程は後にしても、自分達はこの山を登らなければならない。結局この道を通らなければ、下山は出来ない。恐らくその時まで男性は此処で待つのだろう。内容は遊戯程度でも、彼の信念は本物なのだから……
 さてどうするか。段々と遠退き小さくなる男性に振り返りながら、山へと挑むのであった。


■参加者一覧
三嶋笙(ia5171
77歳・男・サ
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
針野(ib3728
21歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲
ミライア・スコルピオス(ib8304
17歳・女・騎


■リプレイ本文

 ミライア・スコルピオス(ib8304)は、白い長方形をまじまじと眺める。今回が初めての仕事になるが、其れほど緊張感は覚えない。それよりもジルベリア出身の自分には、この川柳と言う存在が理解し難い。一応説明は聞いたものの、とりあえずは実際書いてみるまでわからないだろう。何とも毛色の変わった話になったものだ。
「みんな、山は油断しちゃ駄目だからね……」
 山道を歩く皆の後ろからリィムナ・ピサレット(ib5201)が神妙な面持ちで口を開ける。もしもの為にと荒縄まで準備をしている。山深い故郷より出でた彼女は、山の怖さも良く知っているのだ。
 これで防寒の為に、まるごとねこまたを装備して。にゃ〜、と語尾になければ真剣身が半減することは無かっただろう。
 先頭を行くのは、針野(ib3728)ギルドで支給された地図を片手に方向の指示と歩数を増やす。彼女の足が止まると、一斉に他の開拓者達も足を止めた……。弓の弦を弾き鏡弦を使用する様子から見て、恐らくアヤカシの生息地に近づいたと思っていいだろう。予定ならかまいたちと火兎、それは目の前に広がる足跡がありありと教えてくれた。

●疾風と焔
 皆がアヤカシの気配を探る中、一人和亜伊(ib7459)だけは視線を別方向に向けて全く違う事を思案していた。かまいたちは非常に素速い、火兎により自前の火薬が暴発。なんて事になれば、大火傷では色々な意味ですまない。
(雪はない……が、草むらはバッチリある)

 ガササッ

 冬の寒さにも負けず栄えた葉が鳴る、同時に無数の炯々とした瞳が此方にに視線を突き刺す。その奧から向かって来る影が四つ、兎の形、火兎だ。
「こいつがもっと小さい可愛い奴だったら、火鉢代わりになりそうなもんだがなぁ……」
 亜伊が言う通り、火兎は兎そのものの格好なのだが、大きさは子馬ほどあり何よりアヤカシだ。
「とりあえず前方のみさ〜、来るんよ!」
 気配を探っていた針野の声が合図になるかの様、かまいたちが一斉に飛び交ってくる。例え気が抜けるような声でも気は抜けない。
 相手との距離は一尺はあったはず、だが束の間の時にてリィムナの目の前へと出で、刃を向けた。 詠唱中にも彼女は小さな体を反らし、攻撃を避けて行くがやはり微かだが傷を産む。攻撃するかまいたちへミライアが切り込む。鎌状の手を剣に力を伝えて去なす。偶に隙を見て、剣を真横に振るうも、速さに敵わず見切られる。何が起きるかわからない、警戒して全体を見回せば四方からのかまいたちを見据え、自らを後方へ身体を跳ねさせつつ、間合いを取る。
「えぇい!」
 一方で火兎の相手をするのはリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)。瞬風を履き、跳びすさめば頸椎から首にかけて一蹴りで昏倒させる。この様子を見た火兎達は、文字通り身を燃やす。茶の毛皮からは怒髪の如く炎が立ち上り、一匹がリーゼロッテに突進をかける。なんなく彼女はかわす、が乾燥した木々は燃焼され彼女の背ほどの火柱が辺りに発生する。オラース・カノーヴァ(ib0141)はその光景を瞳に映せば口を開き……

「火のうさぎ 着物ボーボー 一文なし」
 きっと今斯様な事柄が起きれば、何と火兎は悲しき行いをする存在なのだろう、そう思わせる。サラッとした一句であった……
「言ってる場合じゃないわよ!」

 火に囲まれつつも、順調に火兎に足蹴を食らわせつつある彼女の見たものは、リィムナとオラースが詠唱を終わり、目でリーゼロッテに合図を送る。
 恐らく今居る場所は、マズいと言いたげな視線で直ぐ察して離脱。
「「ブリザーストーム」」
 瞬時。横並びに杖と短剣の先から、突風と粉雪が辺りに吹き抜ける。瞬時に火は収まり、同時に火兎はほぼ氷の彫像と相成った。
 これにて消火と、火兎はほぼ一掃される。残すはかまいたち、針野の弓がいくつかを撃ち落とすも、まだ多い。眼孔が光り、つい今し方体勢を整え終えてない、術師達へと突進をかける。
「おおっと、ちょこまかするのはそこまでだぜ?」
 その台詞は亜伊のもの、声がしたと思えば埋伏せで隠れた草場から、颯爽と飛び出し同時に片手に携えた銃の引き金を引く。破裂音が幾つも重なれば、次いでかまいたちは土に身を横たえ次の瞬間には、瘴気へと帰した。
銃口を上に向ければ、一言。
「敵を欺くにはまず味方からってな!」
「こっちに弾が当たったらどうするつもりよ……」
 後ろからリーゼロッテの声と視線が刺さる。奇襲はアヤカシにとってだけでなく、亜伊以外の開拓者たちにとってもどうやら同じ、もしくはそれ以上の意味を持っていたようだ……


 兎も角、後は奇襲に戸惑うかまいたち達を倒し。中腹の調査を終えたのだった……

●一時の休息
 開拓者達は、見晴らしの良い木陰へと全員で座り込んだ。アヤカシの気配もなく、各々が行動を取る。
「おい」
 オラースが、立ち上がりミライアへと近付けば懐より符水を放り投げる。
「あ……ありがとう、助かる」
「礼はいらん、倒れられたら仕事に支障が出る」
 そう捨てたように台詞を零せば、オラースは振り向きもせず自ら場へと戻る。ただ其れだけの様子なのに、彼の三十路まで後数歩な清廉とした顔立ちに密かにミライアは見惚れる。ふいと顔をそらす照れ隠しは、誰から見てもあからさまである。
「んー……風放つ イタチの身なりーぃ」
 針野は一人地図と手帳を交互に見返していた、アヤカシの分布を書き込むのは勿論。先ほどの戦闘を思い出し、筆を逆さに紙面を叩く。そして紙に墨を乗せる、その手捌きは軽い。
「ねぇみんな、ちゃんと川柳考えてるー?私は考えてないけど」
 其れとは対の様子は、リーゼロッテ。いきなり色紙を取り出すも、出て来るのはうなり声ばかり。いっそ文字があぶり出しでもされないかと言うほど。
「じゃ!休憩終了だよー!」
 いち早く指示を出したのは、リィムナだった。まるごとねこまたから着替え、コートへと早々転身し準備していたと思われる荒縄を手首に巻き付けていた。
 遭難などしたくはない。はぐれない様にと、皆の身体に縄を巻き付ける算段らしい。
 亜伊は立ち上がると、色紙を団扇の様に扇ぐ、どうやら書き終わって墨を乾かしていたらしい。次々と場から離れる中、結局リーゼロッテは真っ白な色紙を荷物に戻すだけであった……

●刃と凍
 きっと此処が頂上なのだろう、垂直に近付く斜面が此処で終わった事に息を付けば、中腹より零度に近付く気温に息は曇る。
 念のためと互いの身体に巻いていた縄を解き、辺りを見回す。雪は薄く降り積もり、周りは岩と針葉樹に囲まれていた。歩を進めるのも慎重になる、何せここはもうアヤカシの住処と言っても間違いではない。中腹以上に緊迫の糸を周囲に張り詰める。

「ご苦労だな人間ども」

 そしてその糸を切ったのは、自分達ではなかった。姿は見えないが、此方を見下すのが想像出来るくらいの声色が樹林に反響する……
 恐らくこの声こそが、老人の言っていた、謎のアヤカシ。時同じくして獲物を欲求する、獣のうなり声が空気を震わせる。
 姿は未だ見せずだが、殺気だけで群れを成していることは理解出来る。
「囲まれる!あまりばらけ過ぎるな!」
 次いで亜伊は、水属性耐性を施した。その間にも各自武器を構え始める。そして無慈悲な声が辺りに響く……

「いけ、屠るといい!」

 誰の耳にも理解出来る一言、それは潜んでいたアヤカシ達も同等。二匹の怪狼が側面からオラースへと鋭いアギトを贈る。
「くっ……厄介だ」
 一頭は横に身をかわし、もう一頭は杖で押さえにかかる。謎の声によって狼のアヤカシは統率がとれている。それが理解出来るよう、他の剣狼達も草村から這い出て、徐々に距離を詰めた。しかし開拓者達とて、このまま仕留められるワケにはいかない。岩を背に、なるべく固まった陣形をとった。
 強襲する剣狼は身体から生えた無数の刃が煌めく、深く身に当たれば、血飛沫は飛ぶだろう。それは避けたいと針野は中距離から、飛びかかる寸前のアヤカシに、先即封を放つ。牽制の一閃は、剣狼の足取りを覚束なくさせる。習う様にミライアも、回避されにくくする為長剣の刀身を隠し、アヤカシは近付けば、いつの間にか斬られる。その状況には回避が追いつかない。


 しかし其処でリーゼロッテは、嫌な予感を覚える。未だ先ほどの隠れたアヤカシに動きが……ない。

「ご苦労、雑魚どもが」

 どこかで手が翳される、同時に上空に無数の氷柱が出現する、虚を突かれ全くの予想外に、誰かが声を上げる。避けて!!と、しかし氷柱は行動を待たない。「きゃぁ!」
「ぐぉ」
「く………」
 一斉に落下した氷柱は、避ける彼らを悉く嘲笑い刺傷と凍傷を生む。怪狼の群れに警戒し、陣を固める其れが徒になり策であったのだろう……だが傷を負ったのは、人間だけじゃない。
「ひ……酷いんよ!仲間まで道連れさ!」
 倒れたのは囮に使われた、剣狼達も一緒に氷柱が身体から生えて断末魔を上げるものまでいた。

「雑魚なんだ、別に良いだろ」

 針野が嘆いた所で、攻撃は止まらない。前もって耐性をかけておいた、亜伊は立ち上がり様フェイントショットを繰り出す。氷柱に火薬が湿気らず、ひと安心だが。見えざるアヤカシの行為を許せるものではない。彼の逆立つ毛並みが其れを教える。
「甘いわね……」

「な………なんだと!」

 リーゼロッテの肢体が光に包まれる。その光は残り五人にも浸透し、彼等を癒す。傷の殆どが治っていき、殆ど変わらずと言った状態に、アヤカシは動揺を口に乗せた。

「そこだ!」
 動揺に駆られ、音を感知すればミライアはその場所へ向かって、マキリを投げる。判定は……

「ヒイァァァァァ!」

 アヤカシに聞くまでもなく当たりだ。その出来事に今まで統制の取れていた、アヤカシの足取りが変わる。
「アークブラスト!!」
 リィムナの電撃で、剣狼は身を焼かれのた打ち回る。続く様にオラースも技を放ち、剣狼は霧散した。
「ギャァァァ!ワタシほどのアヤカシが!」

 姿なくとも纏う瘴気は逃走を選ぶアヤカシの位置を教え、弓がその場を飛ぶ。冷気の弾を乱暴に放ち、針野に当てるも、雑多の其れは軽傷と言ったもの。
「さっさと……燃え尽きなさいよ!」
 リーゼロッテが森ごと火柱の餌食にした、暫くは泣き言に近い声が焔の中からあったものの、今は山の静けさを取り戻した。

 もう其処には何も無かった、あるものと言えば消し炭……それも風に吹かれて昇っていく。

「我が身裂く あっと一歩かな 剣狼よ」
 そう言ってミライアは、初めての討伐を終え、山を降りるのだった……


●もう一つの依頼
「懐炉には 流石にでかいか 火兎は」

「あっ、それ俺のだ」

 ひらりと手を振って合図する亜伊、片手には焙じ茶の匂いあがる器があった。下山すれば、すぐ目の前、川柳を頼んだこの老人は待っていてくれたのだ。しかも寒かろうと温かい焙じ茶を皆に差し入れ。その場にて川柳発表会が開催された。

「ぬしの句はとても率直だね、良いと思うよ……おや?」
 老人は微笑みを皺に残し、次の色紙をめくると真っ白であった。
「し……仕方ないでしょ、書けなかったものは書けなかったのよ」
 その声の主はリーゼロッテ。元々強制ではないのだから書けないのが当たり前と、言いたげな表情だ。其れに老人はただ気味良く笑むだけ、こうされると彼女は何とも言えなくなった。

「次は……アヤカシより 怖い姉ちゃんの 尻叩き」

ッブ!

 何人かが吹いて、熱々のお茶を器官に詰まらせたりとちょっとした阿鼻叫喚である。
 その原因とも言うべき句を書いたリィムナは、だって本当に痛いし……捕まったら逃げられないから、アヤカシと違ってと思い出し泣きをしかけていた。
「おやま、ぬしの姉さまは随分と恐ろしいんだな」
 本当にと何度も小さな少女は頷き、周りは微笑ましげに見守った。そして老人は次の色紙に、目を細めた。
「……結局アヤカシの正体は掴めなかったのだね」
 結局のところわかったことと言えば、小汚い手を使う冷気を使う外道だと言うこと。アヤカシ研究者としては知りたかったところだろう、彼の手元には針野が幾つもの書いた、句がありその一つにはこう綴られていた。



 煽動し 凍(こご)る息吹の 氷柱かな