古代人・開
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/04/09 19:20



■オープニング本文

 ここは天儀、神楽の都。そのギルドの受付。
 見た目幼い二つ結びの金髪の女性。準備をするギルド職員の背を見ながら、彼女は今か、今かと机にしがみついてその時を待っていた。
 これが何か、と言われれば開拓者なら誰もが経験したそのひととき。つまり、開拓者名簿への登録手続きだ。
「お待たせしました。登録終わりましたよ」
 ギルドでは、日常茶飯事の光景。だが実は、今この瞬間こそ歴史的な出来事なのである。
 にこやかに職員は、常日頃と変わらぬ完了を伝える。
「では、季珠果(キスカ)様。これより、開拓者としてよろしくお願い致します」

 一つ違うとすれば、開拓者になった彼女が古代人だったことだ。

 季珠果は、他の開拓者を待たせているのにも関わらず、ムネをドキドキさせながら回想を始める。

『アタシが、開拓者ですかあ?』
『ああ、君にしか私は頼めないんだ。酷な事かもしれないが、やってくれないかな?』
『うん。わかったよパパ』
『……その呼び方、もう止めても構わないんだよ』
 大好きな人からのお願い。彼女には、それだけの理由で充分であった。これから待つだろう、想像しえない様々のもの。その人並みの期待と不安を携えて、季珠果はギルドの外へ足を踏み出した。


 場所も変わらず神楽の都。
 小さくとも、客は絶えない人気の蕎麦屋。その蕎麦屋の店主ジンは、古代人である。
 そのわりに、古代人に関わらずなまぐさものを食し、生命を尊ぶ変わった男だ。蕎麦切りを行うジンの手が止まる。現在は早朝。まだ店も開店していない。
「阿尾。入ってきたらどうだい」
「流石は、透視能力。恐れ入りますよ」
「もうその情報を仕入れたのかい?」
 そこに居たのは、阿尾(iz0071)と言う情報屋、兼シノビの男だ。彼は仕込み中のジンを気にもせず、掃除を終えた椅子に座った。
「どういうおつもりですか?」
 開口一番がそれだ。意味は、わかっている。季珠果を開拓者にした理由。そこにこの男が関わっているのは当然だった。

「今でも古代人にとって、開拓者の心象は良くない。私はその認識を変えたいのさ」
「事実では?」
 古代人にとって、アヤカシは護大の子として扱われてきた。それを倒していく開拓者は、古代人にとって倦厭されてもおかしくはない存在。それは和議が行われた今でも、心象は変わってはいない。
「けど、アヤカシ退治だけが貴君らの仕事でもない。だろう?」
 そのことをジンは、古代人達に知ってほしかった。その為に、今回ジンは、開拓者に季珠果の受ける依頼の補佐を頼んだのだ。
「何か用事があるなら、協力してもらいたいな」
「考えておきましょう」
 阿尾が揃えた情報では、季珠果は古代人の中でも圧倒的に弱い分類に入ると言うことだ。
 それもまた、ジンが季珠果を開拓者に選んだ理由でもあるのだろう。他にもジンには部下がいたが、到底開拓者には向かない人物だ。

「そこまでして、ジン殿が開拓者に拘る理由はなんですかね?」
「都合が良いのさ」
 彼はこう語った。護大消失後、護大派達は飛空艇に送られ地上世界に帰った。だが、先の戦いでか、もしくは前々からか家族や家を無くしたものが多く居たのだ。
 行き場を無くした彼らは、仕方なくまた天儀に戻ってきた。
「実際。私の部隊は、ほぼ身寄りのない若者で構成されていたよ」
 板をずらしながら、丁寧に蕎麦に刃を入れるジン。
「だからこそ、家柄や信頼などなくも力があれば入れる開拓者は、彼らに都合が良いんだ」
 もし、古代人が開拓者になると言えば、ギルドは受け入れるだろう。
 しかし、問題点が一つ。先程問題視した開拓者のイメージだ。
 いくら建築物が良くても、幽霊屋敷と噂されていれば住む奴はいない。それと同じことだ。
 そこでジンは、一度話を切り「それで」と阿尾に問い掛ける。

「誰かに頼まれて聞いているのかい?」
「いいえ。まだ、ただの興味ですよ」
(まだ、か)
 ジンの知る限り、阿尾と言うこの男と何度か話してきたが得体が知れない。微笑の奥で何を考えているか、ジンであってもわからない。恐らく、天儀人にはもっとわからない。
「ジン殿も、何か頼むつもりですか?」
 不意に阿尾が聞いてきた。ああ、と沸騰した湯を張った鍋に蕎麦を入れつつ、こう言った。
「お弁当をね、作って貰おうかな」

「?」


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
穂群(ib6844
14歳・女・砲
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
星芒(ib9755
17歳・女・武
リシル・サラーブ(ic0543
24歳・女・巫


■リプレイ本文

 ギルドで依頼を受けた季珠果は、今回補助に回ってくれた開拓者達に軽快な挨拶をする。
「お手伝い、ありがと!」
 先ずは何れを、と依頼書を捲る姿を、ケイウス=アルカーム(ib7387)は眺めていた。自分もこんな頃があったなぁ、としみじみし感慨深いものを感じた。
 依頼書を眺める季珠果に説明するのは、羅喉丸(ia0347)だ。
「依頼人が望む事を果たすのが仕事だから、よく依頼書を読み、依頼人の意に沿うようにするんだ」
 メモを取りながら頷く季珠果に、更に教授するのが星芒(ib9755)だ。自らが古代人であることは、積極的に話すと言う彼女の意思を、星芒は尊重する。
「でも、一般人の前で皮膜で飛ぶのは、緊急時以外NG☆ 皆の普通は、古代人のとはまだ違うから」
 その言葉には、素直に頷く季珠果。それなりに天儀世界に潜伏していた為か、その辺りは理解できた。
「お互いがんばろ☆」

 楽しげに語る開拓者達。
「………」
 だけど、ケイウスは、一つの不安があった。今の話、果たして良いことだけで終わるだろうか、と。
「困った事があったらいつでも言ってね」

●尾行依頼
 阿尾からの依頼を受けたのは、季珠果、ケイウス、星芒、それにエルフの穂群(ib6844)であった。
「出たぞ、ターゲットだ」
 万屋から出てきた女性は、確かに阿尾に言われた出で立ちであった。
「よーし、行こ」
 張り切る季珠果に、人指し指を口にあてて制し「くれぐれも捕縛でね」と伝える星芒。
「うん」
 こうして、女性の尾行は始まった。星芒は再び、女性を眺める。
(やっぱりね……うん、黙っとこう)

 人が混む市井を通り抜ける女性。互い互いに、交代しながら彼女を見張った。買い物に会話と、いたって日常的な風景だ。どんどんと時は過ぎ、女性もどんどん移動していく。
 そう、人気のいない方へ。

 薄暗い路地裏。先行するのは、埋伏せで待機する穂群だ。他の数人は、少し離れた所で待機。
 ケイウスは、超越聴覚で辺りを探る。足音。数人の足音も密かに聴こえる。女性の足音の間隔は、何故かまばらだ。季珠果はその違和感に気付いていないようだが。
(歩調をこちらに合わせている?)
 炸裂音が耳に入る。それは、季珠果と星芒も気付くほど大きな音だ。
「行こ!」
 三人が辿り着くと、そこには女性を囲む荒くれ者が数人。そこに穂群は空撃砲を打ち込んだ。
「今のうちだ、逃げろ!」
 穂群が女性に言い放つ。だが、彼女は動かない。
 荒くれ者の一人が、穂群へと標的を変えて刀で薙ぐ。
「ぐっ」
 掠っただけなので軽傷で済んだが、刃には精霊力が纏っている。彼等は志体持ちだ。
 ケイウスは、永遠の最終楽章を流して援護し見守る。
「任して! とりゃぁ!」
 飛び出る季珠果は、飛び膝蹴りを鳩尾に一発! そのまま膝を折り、悶絶する荒くれ者。
「もういっぱーつ!」
「あぶない!」
 星芒は急ぎ、荒くれ者と季珠果の間に祓魔霊盾を作り、頭突きの威力を軽減した。それでも、荒くれ者は白目を向いたが。
「実戦経験ないなんて、真ですか?」
 女性が呆れた声を出す。それをジト目で星芒は見返し、こう返す。
「やっぱり、阿尾だったんだね」
「なん、だと……」
「なるほどね」
 夜の子守唄で眠らせにかかるケイウスも、漸く間隔が疎らな足音に合点がいった。尾行していた女性こそが、依頼者・阿尾の女装だったのだ。

 事の顛末は、こうだ。
 ある女性に『最近誰かに狙われている』と言われ、阿尾はその女性の身代わりになった。勿論、情報と交換らしいが。
 そこを、囮とも知らずやってきた者を、開拓者達が一網打尽だ。
「大体いつもの阿尾の手かな」
 星芒は、何となく察していたようだ。
「だ、騙したのか!?」
 はい、と穂群の台詞に、阿尾は悪びれる事もない。
「いつも依頼主が正しいとは限らないのですよ?」
 そう語る阿尾の言葉には、もの凄い重みを感じる。
「ええー、なら何を信じるの?」

●意見求む
 場所はギルドのある一室。不遜な表情の古代人の男に、開拓者達は話を聞くことにした。
「で、では、後は頼みます!」
 彼をギルドまで連れてきた役人は、素早く帰った。まるで、厄介ごとは御免だと言いたげに……
 そんな役人の様子を見て、リシル・サラーブ(ic0543)は悲しげに顔を俯かせる。けど、思い直す。大事なのは、これから。そして、季珠果の行動がその一歩なのだ。
「先ずは、貴殿の話を聞かせて貰おう」
 羅喉丸の言葉に、何度目かになる話を男は始めた。雨で増水した川に、興味本意で近付く人間がいた。案の定溺れたので自業自得であり、後は川に、自然に判断を任せる意で放っておいた。
「これの何が間違いだと言う」
 なるほど、とクロウ・カルガギラ(ib6817)は思う。
 古代人は厳しい環境に生きてきた。それなら迂闊に危機に近付いて者を助けようとはならない筈。迂闊な者の為に集団を危険に晒すような事が起きないように、己の過ちは己で償う考え方が占めているだろう。
「それも正しい考え方だと思う。だが、こう言う考え方も有るとは思わないか。集団が出来る限りで個人を守ることで、集団の数の維持に繋がる。それはそのまま集団の力を維持することでもある、と。」
「『情けは人の為ならず』……だね☆」

 しかしその話、男にはイマイチ理解し難いのか、首を傾げていた。
 そこに羅喉丸が、季珠果に囁く。「この男の考え方は、古代人なら当たり前なのか?」と。
 季珠果は頷く。
「一般的、かな。寧ろ優しいよ。人によってはその場で、罰する」
「考え方の違いは問題だね……」
 肩を落として、ケイウスが悩む。こればっかりは、本当に長い時間をかけて理解していくしか無さそうだ。
「やっぱ古代人用の寺子屋とか、必要なんだろうなー」
 後で、知り合いの古代人にでも提言してみようと羽喰 琥珀(ib3263)は思う。

 他の開拓者と考え方が少し違うのが、リューリャ・ドラッケン(ia8037)だ。先ずは、古代人という前提を捨てる。
 まず増水した川に近づく。これはよく注意もあっただろうし、いい年をして理解していない訳はないだろう。では、「なおもそれで川に向かう者は?」と考えれば……水害を治める人身御供として、と考えるのもある意味自然ともいえないだろうか。まぁ、今回は違うのだが。
 彼ら古代人は信心深い。彼らにとってそういった人身御供の行いは、尊重しこそすれ、邪魔をする事はないのではないだろうか。彼らは多数の意見を尊重する。
(まぁ、それで良いって訳じゃないんだが)
 実際、彼が川を見続けたからこそ不審がって人が来たわけだ。
「決まりを守っておけば、今回みてーにゴタゴタに巻き込まれないで済むんだしさ」
 琥珀の台詞に、何故かを問う古代人。今までの反応と違い、興味を引けたらしい。
「弱いからな、俺達は助け合わないと生きて行けねぇー」
「動物だって生きる為に行動するし、仲間を助け合うんだし不思議じゃねーだろ? 俺達開拓者だって仲間と依頼受けるし」
 その言葉に、男は口を閉じた。そこにすかさずフォローするように、一言を残すケイウス。
「俺達は弱い人も強い人も助け合って生きて来て助ける事が当たり前だったから、助けない事自体が罪だと取られる事もあるんだ……無理に助けろとは言えないけど、少し考えてみてもらえると嬉しいよ」
「……よかろう。そうか、弱者なのか。ならば、仕方ない謝ってやろう」
 謝罪を述べんとしてる割には、どうも色々と違えているような気もしなくはない。
「確かにオレは生きると決めた。なれば、強者らしく弱者と関係を保つべきだな」
 天儀のルールや、倫理を守るべきとは羅喉丸も諭した。だが、これも一つの考え方?として見るのも良いことだろう。

「まー無理に助けなくともな、番屋とかあるからそこに連絡するだけでもして欲しい……かな」

●盗賊退治
 季珠果を戦闘に、琥珀、穂群、リシルと北面の街道を歩く。その更に後方にて羅喉丸が様子を伺う。
 見せて貰った依頼書の内容から、ここは見守るのが吉と考えた。手を貸すばかりが、手助けでは無いのだから。
「殺すなよ?」
「うん、けど脆いよねぇ。天儀人ってさ」
 弱い自分でも壊せてしまいそうだ。苦笑い浮かべながら、琥珀に季珠果が語った。
 時が過ぎて、後方前方を挟み撃ちにするように、盗賊達が得物を手に現れる。
「か、金を渡して貰おうか!」
 全員して、得物の切っ先を開拓者達に突き付ける盗賊達。そこを穂群が舌打ち一つ。脅すにしてもブレる刃先、どう見ても戦闘慣れはしていない。後ろ手に、密かに閃光を発する弾を持つ。
「観念しなさい! アタシ、古代人の季珠果が成敗するよ」
 何気無い季珠果の一言。その一言で、彼女の小さな身体に明らかな殺意が突き刺さる。
「ヘドが出る! 化物がぁ!」
 ガッ!
 投げられた巨礫は、季珠果の額に投げ付けられ、砕け散って血が滴る。
「季珠果さん!?」
 駆け寄るリシルに、季珠果は言葉なくも笑って応える。
「アヤカシに村が壊され、ここまでに俺らは身を落とした……お前らのせいだ! アヤカシを操るお前らの化け物のせいだ!」
 一斉にリシルと季珠果に襲い掛かる盗賊達。もはや、彼らに理性などない。
「全員目を閉じろ!」
 穂群が閃光練弾を地面に叩き付ける。注意散漫の盗賊達は、まともに目を押さえ悲鳴をあげる。混乱する彼等に行動理念などあるはずはなく、声のある方に刃を振り回したり、一方向にまっしぐらに逃走するものもいた。
「とう!」
 琥珀は、その刃を易々とかわしてから雁金で小刀で峰打ちし、確実に沈めていく。
(緊急だよね)
 誰もいない方向へ逃げた盗賊を眺めれば、季珠果は袖に収納していた皮膜を広げて飛び立つ。
「は、早ぇ〜」
 上昇、滑空をし、素早く盗賊を追い抜く。
「ていっ」
 足を出して引っ掛けて転ばし、そのまま上からのし掛かった。一連の動きを見守っていた琥珀であったが、漸く季珠果に追い付き捕縛にかかった。
 全ての盗賊が捕まるのに、それほどの時間はかからない。
「化け物、化け物、化け物!」
 だが、盗賊達の恨みの言葉は消えうることはない。これについて、季珠果は何も言わない。リシルは、彼女に手当てをしながら話しかける。
「……きっと、共感していただける日がきますよ」
 悔やむ気持ちを、若干だけ声にのせて。良い思い出が増えれば、少しずつ二つの種族は打ち解けられる。リシルは、それを信じている。
「この世界に生きる命が、本当の意味で共に生きる姿を見ること……それが今の私の夢で、目標です」
 その話を、ただ季珠果は聞き入って頷いた。
「…………」
 一部始終を見ていた羅喉丸は気付いた。いくらなんでも志体もない人間の投石を、彼女が見切れない筈はない。
 季珠果は、わざと避けなかったのだ。
「傷、大丈夫かぁ〜?」
「うん、ありがと!」
 破顔を携える季珠果を見据え、彼は思うのだ。
(彼女なりに、覚悟は出来ていたのか……)

●お弁当作り
 9人全員が、神楽の都へ帰りとある蕎麦屋の厨房にいた。
(肉、魚に卵も駄目なのか)
 何故かは知らないが、恐らく古代人に向けた弁当を作ることはクロウにも予想がついた。もしや、蕎麦屋を開いたのも、古代人に食べさせる、そんな理由があったのだろうか。依頼主・ジンにケイウスが聞く。
「もしかしてだけど、このお弁当は」
「気付いたかい? 彼女の姉の、だ」
 ジンが小声で言う辺り、まだ季珠果には色々と内緒らしい。事情を知っているケイウスとしては、心配にはなる。
「もしかして、食べないのかな?」
「いいや『目的』の為に、しっかり食事は取っているらしい」
 だけど、やはり愛する物の手料理は欲しいだろ、と笑ってみせた。
「それは、違いないけどさ……」
 半ばケイウスは、呆れ気味である。

「重箱持ってきたぞー」
 琥珀が持ってきた四段重ねの重箱に、おかずや主食を分けて入れていくのだ。

 一の重には、寿司類。クロウは、稲荷寿司用に油揚げを煮ている。ジンに教わりながら、酢飯を混ぜる。
「熱い内に混ぜて、冷ましながらだよ」
「前に食べた時は、簡単に見えたけど手が込んでいるな」
 もう一つが、羅喉丸が作る絵巻き寿司だ。様々な具を巻いて、切ると断面に絵が出来る巻き寿司のことだ。自然に色のついた米や、紫蘇を使用。海苔の他に湯葉を使ったりと工夫されている。
 二の重は、穂群の作るハートマークの飯だ。赤酢で色を着けた飯で形を作り、海苔で飾り付ける。
「おかず、持ってきたよ!」
 季珠果が、皿に乗せられたおかずを穂群に見せる。星芒が作ったチーズと野菜をオリーブオイルで漬けたものだ。何処におかずを置こうか迷う季珠果に、穂群は自信満々に告げるのだ。
「最高の調味料は愛情! 大切な人に食べてほしい物を重箱に詰めれば良いのよ」
 堂々とした物言いに、季珠果は首を捻る。
「パパが食べるわけじゃないよ?」

 三の重は、おにぎりとおかず。おにぎりは星芒製。具は無難におにぎり、そして変わり種に獅子唐をにんにく味噌で炒めたものだ。
 海苔で表情を作って、その具が何か直ぐに解る仕様だ。
 リシルは、私は根菜や豆を主に使っての煮物、卯の花の煮浸し等を作っていく。
「……華やかさが足りないでしょうか」
 そう呟きながら、他のおかずを眺める。ケイウスが作るのは、蕗の薹の天ぷらや、春野菜を香辛料で炒めたもの等色鮮やかだ。
 方やリューヤのおかずは、茶色いしっとりとした蒲焼き。リシルは、目を丸くして問う。
「あの、う……ウナギですか?」
 勿論、魚は弁当に入れてはならない。それはリューヤもわかっている。
「豆腐だ。見た目は鰻だけどな」
 更に彼は、手短にこう告げた。普通の弁当と見た目はあまり違わぬものにした、と。少しでも、他と違うと言う意識を持たせにくくする為のようだ。

 四、もとい。与の重はデザート類。ケイウスの作った桜餅。琥珀は果物の盛り合わせを作っている。蜜柑は六等分にし、皮を半端に剥いておく。林檎は、良くあるウサギさん型だ。これは、季珠果も手伝いながら、行う。
「切ってから塩水つけた?」
「ああ、良く知ってるな!」
「伊達にパパの手伝いしてないよ」
 とは言うものの、刃物を扱う手つきはぎこちない。ウサギが見事なロップイヤーだ。
「少し不恰好でも気持ちが篭ってりゃいーんだよ」

 こうして、わいのわいのしながら、お弁当は無事に完成した。飲み物には花茶。
「ふっ……完璧ね」
 後は、蓋が出来る程度に冷めるのを待つのみだ。星芒と琥珀と季珠果がハイタッチしている。そこに種族の違いなんて、ない。残ったおかずで、クロウが花見をしないかと提案している。

 ジンに再び話しかけるケイウス。
「また、一緒に作らせて貰っていいかな?」
 彼が「友人として」と言えば、ジンは頷いて感謝の意を述べる。千里の道も一歩から、古代人の共存も身近な一歩からだ。

「ケイウスさん、お花見いきますよ!」
「今行く!」