曇天に自嘲う
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/09 23:29



■オープニング本文

 ある村に一人の男が立ち寄った。
 彼は浪人の様であった。別に、何も珍しいことはない。この村は、目の前の山越えを行う為に立ち寄る者も多い。だが、今という時にとは……その運の悪さを見かねた村人が、彼に話し掛けた。
「そんな所に居らず、焚き火に当たんなさいな。寒かろう?」
 男は、爆ぜる木切れに一度だけ視線を向けてから、身を震わせて直ぐに視線を火から外す。
「いや、拙者は良い。ところで村が随分と慌ただしいようだが」
 村人が囲む焚き火から、離れた所で男は問う。
「この村に、巨大なアヤカシが迫っておるのよ」
 村人は語る。それは、山に現れた巨大な鼠の様なものだと言う。山々を走り抜け、麓の村を度々狙っているらしい。
「なんで現在は山へ向かうことは出来ないよ」
 村人はそう語った。
「いや、待て。ならば何故、ここの人々は村を出入りをしている。危険過ぎる」
 男はつい先程も別の男達が大荷物を運び、村の外へ出るもの達を見た。
「時間稼ぎかな。この村にもうすぐ、開拓者様達が来るのさ」
 時間稼ぎ、村人はその意味を伝えた。実は鼠アヤカシには変わった特徴があった。
 それは『直前に丸呑みした人間の好物や、嫌悪するものを自らへ反映させる』と言ったものだと村人は語る。とは言っても一時的に、らしいが。
「実際、今は光り物に目がないときとる。だからこそ村総出で、光るものを山にばら蒔いとる」
「それでも危険に変わりはない」
 村人は微笑み語る。
「変わらないさ。この村以外付近の村は全滅したんさ」
 やるもやらないも、命を落とすなら、それこそやってからにすべき。村人はそう語った。
「……そうか」

 何故だろうか、村人にはとても穏やかに変わった男の表情の筈なのに、彼から死相が見える。そんな様な気がしていた。

●開拓者到着
 それから半刻も待たず、開拓者達は各々の得物を手に村へ訪れる。
 一度依頼に失敗し前回の開拓者達は、全滅したとギルドでも聞いている為に気が抜ける依頼ではない。そう開拓者達が自らを奮い立たせんとした、その時だ。
「もしや、開拓者様かいね!?」
 それは先程、男と会話していた村人であった。異様に戸惑っているのか、言葉の端々から震えを感じる。
「実は先程、一般人と思わしき浪人のお兄さんが――」
 村人の話は、簡単に言えばこう言うものであった。
 先程、件のアヤカシの話をしたところ、その男性が山へ向かったのだというのだ。しかも……

『そのアヤカシが、この山を降りた時に火を着ければ、アヤカシが怯えて勝てる』
 去り際、この一言を残して。
「けど、その、彼に志体があったようには、私にも見えませんでしたので……」
 村人は、息を漸く整えてから話を終えた。実際、開拓者が先に来ていた、などという話は開拓者達は聞いていない。何よりその事実も無い。

「何か、いやな予感がするんですよね」
「気になったので、開拓者様の小耳に入れておきました」
 今回の依頼は、あくまでアヤカシ退治。その男のことなど、開拓者達にとって知ったことではない。

 知ったことではない……のだが。


 男は、外套すら纏わず歩いていた。雪は無いものの、未だ木々からは芽吹かず裸身を晒す。彼は、首から下げた飾り紐に通された石を握り締めた。石特有の冷たさも、男の掌にはもう伝わらない。それはきっと冬の寒さのせいじゃない。
 もし誰か他に人がいれば、こう感じていただろう。

 そしておもむろに彼――長谷部敦盛は、溝鼠が群がる空を仰ぎ笑った。

(……つぐなえる、これで)


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
朱華(ib1944
19歳・男・志
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟


■リプレイ本文

 村人の話を聞いて、羅喉丸(ia0347)は一つの可能性を追った。鉄鼠は火が苦手。そんな情報はギルドですらも知らないものだ。
 これはまるで「浪人が火が苦手な為、鉄鼠に飲み込まれることで性質を変える」と言っているようなものである。
 言葉に疑念を覚えてしまえば、行動に出ないわけにもいかない。
「男が入ったっていうなら……探さないと、だな。放ってはおけない」
 羅喉丸の意見に朱華(ib1944)も賛成した。

 こうして、他の開拓者達もそれぞれの理由で当初の計画を変更し、山へと入る準備をする。
 ふいに、朱華は空を見上げた。なんとなしに見上げる空は好きだが、いつもより雲が重そうに感じた。


 木枯らしの吹く山にはまだ緑は無く、ただ腐葉土と枯れ葉と真っ裸な樹木が頂上へとひたすら続く。羅喉丸は、村よりこの山の植物の様子や、よく使う山道などの情報を集めた。
 それは同時に、村人が光り物をばら撒いた場所であり、これを転々と辿っていった。
「息遣いが聴こえるね」
 最初にそう呟いたのは、ケイウス=アルカーム(ib7387)だ。超越聴覚を用いて、浪人と鉄鼠を探知する。
「こっちも、もうすぐ御到着だぜ」
 次に、声を発したのは瘴索結界「念」を張っていた笹倉 靖(ib6125)。そして……

「両者反対の方角から、ほぼ同時に、だ」
 朱華の心眼が、二つの反応をとらえ両手の指で示す。一つは、若い二十歳頃の人影。もう一つは鼠とわかるが、大きさは人影以上のものだ。

 幸い男に身体の怪我は無いようだ。靖は思わず嘆息を吐く。
「……! 開拓者、なのか」
 四人に気付くと、浪人は狼狽を見せて後ずさる。羅喉丸はこの浪人に見覚えがあった。
「長谷部さん、浪人とは貴方のことだったか。ますます、見捨てられないな」
 羅喉丸の険しい面持ちに、ケイウスは問うのだ。
「羅喉丸何か知ってるの?」
「ああ、この人は元浪志組、東堂派の――」

 会話を遮るように、鼠と思えない肌を揺さぶる程の低音で鉄鼠が鳴く。今は未だ、こっちに気付いてはいないようだ。
 アヤカシの声に、足を前に動かす長谷部敦盛。だが、携帯袋から何かを取り出していた朱華がそれを鋭い声で阻む。
「……頼むから、大人しくしていてくれないだろうか……。こう、後味が悪くなるような事になりそうなのは、勘弁願いたい」
 それに続くのは靖だ。どうやら、浪人・敦盛とは顔見知りがいるようだということに気付く。
(顔見知りじゃなくとも因縁ある奴はいるみたいだな)
 そう思案し、靖は射貫くほどの視線を敦盛に向けるケイウスを見つめる。彼にとって、東堂は少なからず因縁があるのだ。
 俺には因縁もない、事情も知りはしない、靖はそう前置きする。
「けどよぉ、思い通りにしてやる義理はねぇよな」
 そういって、羅喉丸、朱華と共に鉄鼠へと突き進んだ。
「……靖の言う通り、下がっててもらえないかな」
 少なくとも、今、敦盛が鉄鼠の元へと自ら進むことはないだろう。そう、今は。


 体長にして二間強。近付けば鼠と寸分変わらぬ形だが、特徴ある前歯はない。だからこその丸飲みだ。
 先攻は羅喉丸。八極陣を使えば、目の前の鉄鼠から素早く身体を四肢へ移動させる。
「ここで終わらせなくてはな」
 拳を突きだし前足に、一点集中。これを続けること三発。しかし、ただ一瞬の出来事なのだ。
 硬そうな表面見かけ倒しの如く、手指の方は抉って弾き飛ぶ。痛みに醜い声をあげる鉄鼠。
 だが、啼き続けるアヤカシは背後の生物に気付いていた。回り込んだ朱華へと、鉤ヅメのついた手足を伸ばして攻撃する。それを逆刃刀でいなす……
「な……に……」
 掠り傷、否。それよりも幽かな傷であった筈なのに、受ける衝撃は激痛に変わり、一瞬の朱華の意識が失せた。
 同時に、泡立つのは爪を受けた逆刃刀と、飛沫が飛んだ鎧。
 鉤ヅメから満ち満ちる強烈な酸は、装具を劣化させるには充分だった。
 同じ攻撃が羅喉丸にも襲い掛かる。だが、こちらは先の補助もあり、加えてベイル翼竜鱗にて障壁を展開。
 酸液を弾いて劣化を軽減させた。
「めしあがれ!!」
 朱華は、何かを鉄鼠の眼に映るように投げた。それは、赤々と煌めく紅煌の腕輪である。
 特性がまだ残ってたのか、思わず飛び付き、小さな装飾品を逃さんと口に放り込む。瞬間、爆発音。腕輪には焙烙玉が接着されていて、口に運んだ所で爆発したのだ。

「今のうちに回復するぞ?」

 靖が朱華中心に、閃癒をかける。見た目は何ら変わらないが、それでも彼の呼吸が整っていくのを靖は感じる。装具の姿は変わらず無惨だが……


 ケイウスは敦盛を引っ張りながら、取り敢えず戦闘に巻き込まれない位置まで連れてきた。
 その後白猫黒猫を奏で、味方達を支援し戦闘を見守る。そうしながらも、彼は敦盛に目を向けるのをやめない。
 演奏が一通り終われば、竪琴から手を引いて彼を諭し始めた。

「死んで償うなんて誰が望んだの?」

 グッ

「そんなのは償いじゃない、ただ逃げてるだけだよ」

 ギッ

 ケイウスの台詞に、敦盛は何も言わなかった。激情もなければ、問答もない。ただ、一生懸命なケイウスの言葉を『聴』いていた。
 死んで償うなどの考えを改めさせたい、その一心で彼は言葉を発す。
「命を投げ出すくらいなら、償いたい相手が笑って見ていてくれる方法を一生かけて探した方がずっと良い。俺は、そう思――」
「……死んだ」
 敦盛から漸く生まれでた言葉が、それだ。
「償いたい、笑って欲しかった相手は拙者が頼んで、殺して貰った」
 そう言ってから、眼光灯らさぬ視線で鉄鼠と開拓者に向き直る。
「もし拙者が、教えていれば……あの人はアヤカシにならなかったろう」
 押し黙っていたケイウスはここで思い出す。ただ、羅喉丸が先程見せた表情を……
「まさか」

「物陰に隠れろ!」
 ケイウスの思考を押し留めるように、靖が怒鳴り声をあげた。声に反応した為か、はたまた出来なかっただけなのか、それは分からないが敦盛は動かない。
「危ない!」
 ケイウスは、敦盛の手を無理に引いて体勢を倒すようし、太い枯木の裏側まで持っていく。

 幾百、幾千、それでは数え足りないほどの毛針が鉄鼠を中心にして放射された。
 木の陰に隠れた二人、木を穿つ鈍い幾つもの音にその威力を理解する。だいぶ離れたこの場所でこれだ。至近距離にいる彼らは大丈夫か。

「ク、硬いっ」
 朱華が針の傷に満身創痍の中、白梅香を振るう。山に漂う、一瞬の春の薫り。しかし、刃を纏う白い気は、当たるも手応えなく弾かれる。
 手番は、鉄鼠。鉄鼠が狙いを定めたのは、羅喉丸だ。獣の知性ながらに、誰が危険か考えたようだ。
 鉤ヅメのついた両手の平で、羅喉丸を囲い込まんと飛び掛かる。
 しかし、それは鼠の腹を抉る爆音に阻まれた。尺取り虫の様に身躯を曲げるアヤカシ。羅喉丸は、これを好機と見逃さず突進からの素早く左右に一撃ずつ体勢が崩れたのを狙い、最後の一撃を見舞う。

 バン

 鉄鼠の身体が内から弾けると同時に、着物や高価な装飾品、鎧が山を彩る。恐らく、鉄鼠の被害者の遺物だろう。
「持って帰ってやろうぜ、大事なもんだだろ」
 朱華の治療を終えた靖が二人に呟く。焙烙玉は、アヤカシの口に入ってからすぐ爆発したのが功を奏したのか、腹の辺りにあった遺物は、殆んど原形を残していた。

 そこにケイウスと敦盛が、歩いてくる。二人並びながら、ただし視線を合わせずに、だ。
 羅喉丸が再び敦盛に向き直る。

「俺は貴方が無事だったようでうれしかった。だから、己の命を軽んじ、投げ出すような事はやめてくれ」
 真摯な瞳で語ると、皆に振り返り「一旦村へ戻ろう」そう皆に告げたのだ。その後、アヤカシから出てきた品を二人にも持つのを手伝うように言った。二人は、断る理由もないので頷いた。
(これで、まだ敦盛が離れることはないだろう)

 敦盛をつれ歩く一同。後尾にいた靖は、ケイウスを傍観した。明らかに先程と様子が違う。
 全員に気付かれぬよう、ケイウスの傍らに近付き……
「あっ」
「…………」
 無言で手首を掴み、確認。
 チッ、と舌打ち。
 ハァ、と溜め息を溢した。開いた掌には、ところどころに血がこびり付いていた。
「……全く」
 靖は何があった、とは敢えて問わず歩きながら閃癒を詠唱する。

「…………ありがとう」

●少し前
 針の攻撃が終われば、改めて敦盛にケイウスは向き直った。愛しき相手を殺して貰った。そう語る敦盛の表情に、開拓者への憎しみの色はない。寧ろ無さすぎる。
 あるのはただ、懴悔。そればかりだ。

『あの時も、あの時も、拙者は何も出来なかった…だからこそ、今回こそは、と行動をした。償いたいんだ』

 ギギッ
『……東堂さんはそんな風に逃げたりしなかったよ』
『自分に付いて来てくれた人達の事もちゃんと考えて、たくさんのものを背負ってそれでも生きる事を選んでくれた』
『同志の気持ちをかえりみず、降伏した……が、か』

 そう語る敦盛の口調に嘲りや、怒りはない。まるで、用意された台本通りの台詞。そんな風に感ずる様に、台詞には抑揚がない。感情がない。
『違う、そんなこと』
『貴殿は……幸せな志体持ちなのだろう』

 ガッ

 敦盛の傍ら。ケイウスは、木の幹に感情を乗せて片手をつく。敦盛は、微動だにしない。木の表皮には、拳を握り締めた際に、出来た傷から血が滲み垂れる。

 ガリリ、ガリッ

『志体があるとか、ないとかそんなこと、関係ない! 俺は、貴方に生きて償って欲しいんだ!』

 回想し、何か自分は、間違っていたのだろうか。何を言うべきだったのか……ケイウスは村を降りるまで沈黙を尊んだ。

(拙者(俺は、結局何も出来ていないのか))


●償いとは
 村の入り口では、沢山の人々が開拓者を待ち構えていた。無事の帰還に村人の表情は和らぎ、感謝の意をつらづらと述べていく。
「お兄さん無事だったか!」
 敦盛へも声がかかる。それは、開拓者に敦盛のことを話したあの村人だった。こちらへ近寄る村人。しかし、あるものを見て表情を一変させる。
「その……着物は、娘の」
 詳しく聞けば、それは隣村に嫁いだ娘が持ち出した物だと言う。その反応を見て、朱華は咄嗟に口に出す。
「この男、俺達のことを信じて。村がばら蒔いてた光り物、回収していたぞ」
(え?)
(な、に?)
 その言葉に、靖も勘付いたように話に乗っかる。
「ああ、全くだぜ。無茶すんなよなぁ」
 そう言って、敦盛の肩を馴れ馴れしく叩くのだ。村人が敦盛の両手をいきなり握り締める。肩を跳ねさせる敦盛に、彼はこう言う。
「そう言う事だったのさ、てっきり……ありがとう。偶然とは言え、ありがとなお兄さん」
「………っ……ぐ」
 その瞬間、敦盛は膝が抜けた。
 嗚咽を漏らし、唐突に涙を頬から何度も伝わらせる。
 それに加え何かをかき抱く様に、何度も胸元で拳を開閉させる。
「ほら、お兄さん。オメェさが貰い泣きしてどうすんだ!」
 その姿に村人は吃驚し、敦盛を抱き起こす。その様子を見つめていたケイウス。ふと、靖に視線を変えると「無駄じゃなかったな」と彼が瞳で語ってくる。
 話を聞き終え遺物を分けていた羅喉丸に、ケイウスがそっと話しかける。

「羅喉丸、さっきの彼の話。続き教えてくれないかな……詳しく」
「構わない、が。口当たりの良い話ではない。覚悟はいいか?」
 恐らく自分は知らなければならない。何故かケイウスはそう感じた。それは恐らく、自分の記憶にあるあの人のことが、自分にあったからかも知れない。
 優しく問いかける羅喉丸に、ケイウスは小さく頷くのだった。


 この依頼の後、ギルド界隈に変わった男の噂が立った。アヤカシや、盗賊を開拓者が退治したと聞くと男は、その跡地に向かい遺品を回収するが、金にも変えず遺族へと届けていると言う話だ。
 その人は、綺麗な石を首から下げた志体を持たない人間だという。