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■オープニング本文 俺の名は、唐鍼(iz0322)。おまえ達の天儀人が言うところの古代人だ。護大が消失してから今まで、俺は天儀と地上世界を何度も往復している。 全ては、残り少ない古代人と天儀人の架け橋等と言うものになる為だ。今、俺は天儀、神楽の都のギルドの中で、話し相手である陰陽師という名のまがいもの――流韻(iz0258)と休息を行っている。 「安易だが、この腐った葉を煮出した汁は美味しいな」 「紅茶だよ」 何でも、まがいものの知人、その商人からの賜り物らしい。俺も最初こそ「わざわざ葉を腐らせるなど愚かか」と思ったが、実は発酵という手順を行い、味を変化させているのだ。 物質を変化させる術に、天儀は秀でているのかもしれない。 「おい。まがいもの」 「……何」 「今日は、外も中も騒がしい」 独特の渋い液体を喉に流してから、まがいものに話しかける。 俺は都内の雰囲気が、いつものと異なることを感じた。市井等が喧しいのは、都の常と知ってはいたが、ギルド内部やその外まで騒音が響くなんて俺にとっては初めてだ。 まして…… 「うわぁ、落とす! このままじゃ落としちゃうぅ」 「楽しみだな、あのCPは今回壁側多いんだろ」 「フフフ、今回はやっぱり護大ブースよね。何着ようかしら」 阿鼻叫喚と期待に満ちた台詞。恐らく何かの言葉なのだろうが、聞き覚えもない俺にとっては呪文と相違ない。 「……知らなくていい」 「カタケットですよ」 練力でも尽きたのかという顔をするまがいものを他所に、紅茶を入れてきたギルドの女が聞いてもいないのに答えた。 「かたけっと?」 都合が良いので、俺は聞き返す。 「本当の名前は、開拓ケットと言う大型の市場、みたいなものなんですよ♪ それで―――」 その後、お茶汲みの女は嬉々として語る。熱意や、誠意、斯様なものが伝わってきた。それとは相対して、聞けば聞くほど、まがいものの顔色は芳しくなくなっていく。 「――という、夢の様な場所なんです!」 「悪夢の間違いだよ!」 両者対極の言い分。が、俺には…… 「さっぱりだ、理解出来ない」 結果から言えば、これに尽きる。女が、まるで俺が既知の状態だと思い話すために『カケル』やら『どーじん』やら『かそうれいじん』やら、意味が解らない。 俺の言葉に至極残念そうに項垂れる女。これは俺の予想だが、この嬉々をこの女は共有したいのだろう。古代人である俺と…… 「俺もかたけっと、とやらを理解したい。これから古代人達を集め、開拓者達に演習をしてもらう」 いつまでも事柄を「理解出来ない」で終わらせるのは賢明ではない。幸い天儀に残った古代人は、まだそれなりにいる。彼らを集めるのは、俺には難しくはない。 「まがいもの、手伝え」 「はぁ? 嫌だよ!?」 これほど本気でまがいものに拒絶されたのは、初対面の対戦時以来な気がする。だが、俺は真剣だ。どれだけ拒否の姿勢を見せようが、無理矢理にでも手伝わせる。 それが、護大派のセカイを奪うきっかけを作った俺が出来ることだからだ。 「それでは、講師になる開拓者の募集を依頼してきます」 「ああ、頼む」 「いやだぁぁぁぁ!」 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 さて、古代人達にカタケットを教えることになった開拓者達だが、流石にいきなりは難しい。なので事前に、流韻と唐鍼を交えて打ち合わせをした。 「やっほー! 流韻君に唐鍼、お久〜♪」 リィムナ・ピサレット(ib5201)の声に、無言ながらも手を振って応える唐鍼。 それに比べて、既に流韻は重傷だ。 「どうしてぼくが。今年は大丈夫と思ったのに……」 「カタケットって言葉を、唐鍼の口から聞く日が来るなんてね」 そう驚くように呟いたのは、何だかんだで唐鍼を見てきたケイウス=アルカーム(ib7387)だ。 「生きると決めた。なれば理解は必須だ」 不服か、と言い切る唐鍼に、ケイウスは横に首を振る。 皆で話し合うと、一つの問題が出てきた。リィムナとサライ(ic1447)は、実際に古代人に作品を見せるというものなのだが…… 「濃いね」 「……えぇ」 カタケット既知のケイウスと流韻でさえ、この反応である。 「俺も最初にこれを出されても、困ると思うぞ」 積み重なった作品を眺めながら、クロウ・カルガギラ(ib6817)が応える。実は彼、カタケットも古代人も見るのは初めて。奇妙な組み合わせということだけは、クロウにも理解し得た。 しかし、その問題点は直ぐに片付く。ただ単に順番の問題だ。最初にケイウスが基礎的な知識を教え、その補助にクロウがつく。それから実用に向けて、リィムナとサライが作品を披露する。 「なら流韻、準備しようか?」 未だに煮え切らない流韻に対し、小首を傾げて微笑一つ。 「女装は流石に気の毒だと思ったけど……?」 そっちが良い、とケイウスは退かしようのない圧力をかけてくるのであった…… (結局させられるんだよね……) こうして間借りした一室で、開拓者によるカタケット講習会が始まったのだ。 ●基礎編 ケイウス&クロウ 集まった古代人達は、元より都の潜入任務についていた人達。そのお陰か、ある程度の天儀の知識はついている。 それでも、カタケットという言葉は、耳に時たま引っ掛かる。その程度の言葉というのが、彼らの印象なのだ。 先ずは、とケイウスがカタケットについて、集合した古代人達に軽く説明する。 「簡単に言うと、依頼の報告書に出て来た人や相棒、アヤカシの物語を書いて売り買いしたり、その格好を真似て仮装したりする催しだよ」 前回カタケットに行ったケイウスは「活気があって面白かった」と古代人達に伝える。誰がどんな話を作るのも自由。想像で何を書いてもいいんだ、と解説してから…… 「だから同性同士で……なんて本もあるんだけど、本気にしない方がいいよ……」 視線を彼方に外すケイウスの様子からは、古代人でなければ過去に何かあったか察せるであろう。ここで数人の古代人が、律儀に挙手をしながらケイウスに質問する。 「勝手に物語を書いて、それは侮辱にあたらないの?」 「それが面白い、と言ったけど……何が?」 「だいたい、何故そんなことをするんだ?」 互いを見合わせながら、首を傾げる古代人。 「なんでそんな事するのかって? あそこは自分の『好き』を誰かと共有する場所なんじゃないかな」 しかし、その言葉でも古代人達は、未だ理解を示さないのか眉根を寄せ気味だ。 「カタケってのは要は娯楽の一つ、遊び心の結集だよな」 クロウは思う。彼ら古代人に「遊び心」という概念はあるのだろうか、と。 そこでクロウは、自分の生まれ故郷について話してみる。砂漠という地上世界よりかは豊かだが、それでも良い環境と言えない場所で自分は生活していたことを告げた。 「その大地にも、そこならではの日々の喜び、皆で楽しむ遊びは当然有ったし、俺は砂漠の生活を愛してる」 彼は「そう言うこと、子供の頃に無かったか?」と問えば、「子供の頃なら」と恐る恐る返ってきた。 「そう言うこと。楽しい事は大切だよ! それがあるから辛くても頑張れたり、生きがいになったりもする。趣味や娯楽って、結構馬鹿にできないもんだよ」 貴方達は「生きる」を選んだのだから。そう微笑みながらケイウスは呟いた。もう、滅びに向かう必要はなくなった。だからこそ、次の導は「生き続ける」なのだ。 「こういった一見無駄に思える楽しみ、遊び心を積み上げていくことも悪くないと思うぞ?」 ふたりの言葉に、何かを思考するように古代人達は沈黙する。 「あ、あと、侮辱とかにはならないよ」 その理由をケイウスが改めて説明した。カタケットの二次創作に使われる。それは、とても大きな力をその者が持っている、と言う表れでもあるためだ。 「実際に、王様や伯爵を取り扱った作品もあるんだぜ」 (まだ見たことないけどな) クロエの付け足しに、古代人はびっくりしていた。無論、そうそう怒るものもいないと告げる。ただし、他の感情が沸かないとは言っていないが。 「寛大だな、なかなかに天儀人とは」 身分の高き者を扱き下ろし、それを笑い者にするも罰さずいる王は凄まじい、と唐鍼は言いたいのだろう。 (参加する貴族もいるけどねー) 「さて、次は仮装麗人についてだけど……見てもらった方が早い」 そう行ってからケイウスは、襖の奥から手招きする。開け放たれる襖、その先には流韻がいた。 その出で立ちは、厚めの服に瞳か何かが施された幾何学模様の民族服。白い長髪のかつらに、額に取って付けた感満載の第三の瞳。しまいには、人魂で作った背中の稼動する腕だ。 「……」 「……で、これが仮装麗人の見本! こうやって好きな人の仮装をしたり、誰かに仮装させるってわけだね」 置いてあった台にしぶしぶ立つ流韻。その表情は暗い。 「小さい」 「悪かったな……あなたの仮装だ!」 そう、流韻の仮装はケイウスによって仕上げられた唐鍼の仮装であった。ここでクロウは、古代人達に一つ問う。 強かったり、美しかったり、偉大な者に対する憧れなどは無かったのか、と。勿論、古代人達は皆して肯定を意味で頷く。憧れた指揮官はやはりいるし、上官のように、隊長のようになりたい。そういう思いは、やはり古代人にもある。 「憧れが強くなれば、その存在と自己を同一化したいと願う。人の性ってやつだ」 クロウは確信すら持って、古代人達にこう告げた。 「そんな感情の発露の一つの形が、仮想麗人なんだと俺は思う」 彼の言葉に古代人達も理解はしたのか「ほう」と感嘆の息を溢した。残る二次創作(濃厚)に関してはリィムナ達に任せて、こうして大変ためになる基礎編はケイウスのお辞儀で幕を閉じた。 「おい、まがいもの」 「……なにさ」 「仮装麗人は憧れと、言ったが。お前は俺に憧憬を抱いていたのか」 「違うよ! 無理矢理だよ!」 「そうか、残念だな。俺はお前の出で立ちを希望する」 「………え?」 ●実用編 リィムナ&サライ ドサッ ガタッ 最初に古代人達が聴いたのは、何かを机に置く音だ。リィムナが書物、巻物を並べる傍らで、サライはヒィヒィ言いながら木製実寸大立像を設置している。 それもなかなか異様な光景なのに、古代人達の視線はとある二人に向いていた。 「さてと、じゃあ始めるね」 「あ、あのぉ……よろしくお願いします」 最初は、まずカタケットのおさらいからだ。内容は殆どケイウスと同じなのだが、何故か古代人の耳に入りきらない。 「――で、中には恋い慕う余りに頭が妄想で一杯になる人達が出てきて、溢れ出る妄想を開拓者を題材にした絵巻や仮装で表現する様になり、それらを一堂に会してお披露目し合う祭りが開拓ケットなんだ♪」 「おい、魔術師」 声がかかったのは、唐鍼からであった。 「まだ説明中だよー」 「その前に、それとそれの仮装の説明を要求する」 それとはリィムナ、そして流韻の格好のことである。流韻は、リィムナの私服。黒のタンクトップに真っ白な女児ぱんつ姿である。自前の帽子はしっかり被っているので、仮装といえるかは微妙だ。 「手で隠さない! あたしは恥ずかしがったりしないよ♪」 「無茶言わないでよ……」 「恥ずかしがんないの。上に乗った仲じゃん♪」 「誤解される言い方しないでよ」 一方でリィムナは、白い羽衣を纏い白髪のウィッグを装着した姿。それが護大の姿だと説明をすれば、古代人達の反応は様々…… 「な、護大様とはなんと畏れ多い」 「でも、可愛いじゃないか。実際の護大の様も斯様な姿だったのか……」 「罰当たりじゃないか?」 困惑の色も見受けられる。だがそこも、ある程度は予測済み。実際、彼らは彼の護大を畏怖し、崇拝していた。だからこそだ。 「今、流行ってるんだよ♪」 くるり一回転。針金入りの羽衣がふわり、彼女は夜春で古代人達に魅了を施す。 「つまり、それだけ護大は天儀人にも敬われている……って意味かな」 そこにケイウスの助言で、納得の行くものとさせたのだ。 「あんな寒い出で立ちで、布教とは……何という苦行」 何と、仮装麗人は素晴らしいんだ。 間違っているが、間違っていない解釈に頷かざるを得ないケイウスである。 「おい黒兎」 唐鍼が、リィムナを疑わしげに眺めてサライに問う。 「な、何です?」 「護大はもっと幼いし、肌も浅黒くない。似非にも程がある」 「シー! 唐鍼さん、仮装麗人でその台詞は禁忌ですよぉ」 「どうでも良いから、脱ぎたい……」 さて、仮装麗人の説明を終えると、漸く作品説明に入った。ここからは、サライも話に加わる。 自他共に「自分は最強クラス」というリィムナは、その絵巻物の数もズラリ。そして傍らには全く自分と同じ大きさの立像まであるのだ。 サライはと言えば、また此方も凄い量の絵巻物である。と言うのも、彼は売り子をしているのだ。それも、自分の相棒である羽根妖精レオナールの為にだ。 「これはサークル「黒兎の穴」の作品なんだ」 「さぁくう?」 「その本を売るための、共同体みたいなものだな」 クロウは何種あるか、パッと見わからない絵巻の数々に目を運びながら説明する。 この絵巻、見た目は綺麗に飾られ装丁も丁寧だ。だが、これ一巻、一巻には爆弾並みの破壊力がある。少なくとも天儀人には、そうだ。 そして、無造作に古代人は爆弾に手を伸ばす! さて、ここで一つ思い出してみよう。古代人が重んじるものは滅び、そして「愛」だ。 「ほう……複数で愛を共有するのか」 「待て。此方の奴はそっちでは、愛を与える側じゃないか」 意外にも、受け入れられている。古代人の分け隔てない愛のカタチに、決まりはないのだ。 本来天儀人が頬を染め、興奮を与える筈のものが、古代人にかかればまるで教本である。 (楽しみ方は、人それぞれだね……うん) ケイウスは考えるのを止めた。 「おい、まがいもの」 いい加減疲れてきた流韻に、絵巻物を広げて中身を彼に見せる唐鍼。酷く無表情なれど、無邪気な声で…… 目に絵が入る瞬間、流韻に戦慄が走る。 「見ろ。黒兎をまがいものが、粘泥型の式で――」 「それ以上言っちゃダメ!」 既に色々と限界の流韻を、ケイウスは肩を叩いて慰める。わかるよ、うん。他人事には聞こえない声を、彼は漏らすのであった。 自らの立像の細部を説明していたサライ。 「こっちはあたしとサライ君の純愛で」 「なるほど、英知か深いな」 更にリィムナが一冊の本の説明をしていた。それに疑問を思う古代人が質問。 「此方側……受け、かな。名前はないようだけど」 「そう言うのは「モブ」って言うらしいぜ……えっと」 絵巻を受け取り、CP名をクロウが読み上げる。 「兎は万年はつじょ……」 「わわっ、それ僕がこの前買った本だ!」 何故か紛れ込んだ一冊に、本気の悲鳴をあげクロウから本を引ったくるサライ。クロウは「へぇ」の一言のみである。 「いやあの、そうじゃなくて……」 にやにや、とその様子を楽しげに見ていたリィムナ。またうらめがましく、サライが耳を折り曲げながらこっちを見ている。 「何ですか、その絵巻?」 リィムナの絵巻の中に、一つだけ装丁がイマイチな巻物があった。他が新品であるのに対し、それだけ皺が表面に寄っている。 サライが持ち上げ、中を開き読み上げる。 「えっと………おねしょの罰としてお布団の前で――」 『おねしょの罰としてお布団の前でお尻を平手で百叩き♪ 三十回叩いたところでサライ君が偶然来たのでお仕置きを任せてみた♪ 男の子に叩かれるのは流石に恥ずかしいみたいでよく反省していたわ♪』 サライは「そんなこともあったなぁ」とアルバムでも覗いた様に小さく微笑んだ。だが、朗読し晒された方は溜まったもんじゃない。勿論これは二次創作ではない。リィムナと同居している女性が記した日記なのだ。 「サライ君ばらしちゃ駄目ぇ! ぎゅむ!?」 「夜尿症ごときで、何故狼狽する?」 首を傾げる唐鍼を他所に、日給を奪わんとサライに飛び掛かるリィムナ。だが、仮装の羽衣を踏んで転倒。あえなく奪還失敗である。 なんだかんだ、古代人達は楽しんでくれたようだ。そんな様子を見ていたクロウも、カタケットに興味が沸き、思わずその気持ちを呟いた。 「……確か、カタケットで警備係とか募集してたよ」 ニッコリ、とそれはそれは清々しいまでに不気味な笑みを浮かべる流韻。だが、クロウはその意味に気付かず、調べてみる、と軽く言う。 「流韻が怖いんだけど……」 きっと、罠だ。わかっているのに、何故かそれをクロウに教えることが出来ないケイウスだった。 「妄想! これ全部嘘だからぁぁぁ!」 |