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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 この世界は、年代で言えば西暦2015年頃。進み過ぎた科学や、精霊、魔法等の類い。勿論侵略者や、アヤカシなんてものはいません。 ごくごく普通の人間が住む世界です。ただ一つ違うと言えるの、この世界には、古の更にその先に『天儀』と言う世界があった、と言う伝説が各地に残っていることでしょう。 ●収録時刻14時00分 スタッフが手を振り下ろすと同時に、予定通りの観客の拍手、流れるジャズ調のBGM。 この長寿番組では、長年変わらないのオープニング光景です。 「さぁ、始まりました『強運。とんでも査定団』」 司会役の男性が、普段と変わらぬ口上を語っております。 この番組は、各々が持ってきた物を紹介し、その思い出話を語り、テレビの前の視聴者の方々に値段をつけて貰う番組です。 そんなどこにでもありふれた番組。今回貴方は、この番組の新春特別企画に応募し、見事番組に出演致しました。勿論生放送。 その内容とは…… 『今回のテーマは、天儀伝説。今回はそんな伝説の開拓者、その子孫の皆様に集まっていただきました!』 天儀、それは今では書物にすら残らず、口伝でのみに語られた時代のことです。貴方は、そんな子々孫々から伝わった天儀伝説に纏わる一品を持ち込みました。貴方は、これからその品に纏わるお話を披露するところです。 あの時代、天儀を生きたヒトはもういないのです。今はただ、道具と込められた想いしか、この世界には無いのです。その想いを、知らせるのは貴方しかいません。 自動ドアが開いて、拍手が貴方に向けられています。 さぁ、次はいよいよ、貴方の番です。貴方は何を思い、この番組に応募しましたか? |
■参加者一覧
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
ジョハル(ib9784)
25歳・男・砂
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
ノエミ・フィオレラ(ic1463)
14歳・女・騎 |
■リプレイ本文 誰が信じるだろう。大陸が空中を浮かぶなんて…… 誰が信じるだろう。アヤカシなんて生物が、自分達を脅かしていたなんて…… 誰が信じるだろう。護大なんてとてつもない存在がいたことを…… そんな信じられない、のヒトカケを彼らは持って現れた。今回の出品者は五人。テレビの前の皆様もリモコンのボタンで御参加下さい。 順番は、くじ引きによって前以て決められている。さぁ、トップバッターはこの人です。 ●序盤の空気じゃない 最初の出品者は、どうやらフランス人の少女のようだ。しかし、どう見ても実用性は無いヒラヒラの陣羽織と鎧姿。 更に輪をかけて分厚い丸眼鏡を掛け木箱を引き摺ると言う、なんとも客席が不安になるご様子だ。それは視聴者も然り。 少女の名は、リア・ド・フィオレラ。先祖はノエミ・フィオレラ(ic1463)だと、彼女は言う。日本語はアニメの影響でペラペラ。今回は旅行でこの国を訪れたついでに、これに応募した。 それで早速伝説の一品は……と行きたいのだが…… 「三官というのはミツナリ×カンベーの事で、私の恰好もミツナリのコスなんです♪ 売れたら三官の薄いほ――」 ア、ハイ。 司会者に区切る間を置かせず、リアは『ふばなし』を始める。 とここで、視聴者にだけ天儀にいたと言われる白い獣の様な精霊、もふらのイラストの描かれた画面が表示。 つまり『しばらくお待ち下さい』だ。 やがて画面が戻る。リアが司会者に品物は如何なるものか、と問われている場面であった。 リアは、スタッフの手伝いを借りながら、引き摺っていた箱から錆びた鉄の塊を引っ張り出し、自慢げに言うのだ。 「これが、天帝の皇妃ノエミの大剣「テンペスト」です!」 リアは更に続けた。中華風の国、泰国の帝、天帝と大恋愛の末にノエミは結ばれる。しかし、後に戦国の世を迎えた天儀。そこで天帝は、大剣を鍵として万が一の時に妃や子を助けるため、大型飛空艇「常春」の起動装置にしたらしい。 「柄にある珠が鍵になってるみたいですねー」 危機があると、自動で起動……なんてリアは言うが、客席はネタとしか思っていない。何よりもリアの予想金額が『10万ユーロ』文にすると、『14万文』と言う値段がネタ化に拍車をかける。 果たして結果は? 幾つも並ぶ0に、客席から徐々にどよめきが生まれる。 『1万4000文!?』 一人うかれる外国人をよそに、専門家が粛々と説明を始める。 「確かに、ノエミ殿は天帝がお忍びで入った大学で共に学び、その時の縁でお付き合いを始めたそうです」 そして、大剣もまた本物だと告げる……ただし。 「状態が酷すぎますよ。然るべき所で手入れをしてさえいれば、もっと高く値はついたことでしょう」 そう手入れを肝に命じるように、専門家は語ったが、リアの頭には薄い本の皮算用ばかりだ。 因みに、視聴者からも何故か反応がよかった。恐らく高値はつかないだろう、と予想して投票した人物も多かったのでないだろうか。 ●御加護とは? 続いての出品者は、戸隠 千紗。スレンダーな金髪青目の25歳の女性。彼女の祖先は武僧、戸隠 菫(ib9794)である。 千紗自身が、天儀にあった宗派、天輪宗の僧院の一応の跡取りでもある。 「幾らか伝わっている武僧の修行内容がかなり凄いんだ」 そう言って腰を屈めて、その構えを見せてくれた。何でも丹田――臀部に力を加えるやり方らしい。「変わってるでしょ?」と千紗も苦笑いする。 さて、彼女の持ってきた一品は、深紅の御守り。彼女曰く「不動明王の御守り」だと言うことだ。 先祖、菫はこれを着けてアヤカシの群れや、大アヤカシの於裂狐、名前を忘れ去られた大アヤカシ、更に三柱の神が一人、アマガツヒ、そして終わりには護大の実体とも戦った、という代物だ。 「その中で、死ぬ所だったのを不動明王に救われたのだとか。その絆と言えるのが、このお守りなんだ」 千紗は自慢げにそう語る。そして予想金額は『5000文』とそれなりの期待値を示してみせた。 天輪宗より代々伝わる御守り。これは期待しても良さそうだが………結果は? 電子蛍光板には、何と0が一つ。 『え……ごっ……50文』 想定外の数字に千紗も金額を二度見し、言葉に出来ない。そこに、公開処刑の専門家の言葉が降り注ぐ。 「残念だけどニセモノです。確かに、そう言う話は、伝わっているみたいだけど……」 御守り自体が綺麗すぎて、造られたのもこれは比較的に新しいと青年は言う。そして視聴者には、沢山のアヤカシを倒す話くだりがあまりに出来過ぎた物なためか、評価も低く見られたのかもしれない。 「まぁ、御守り自体は御利益はある物だから、大事にして欲しいかな」 「……………はい。不動明王は、いつまでも見守ってくれるから」 千紗は、沢山の生暖かい拍手に見送られながらその場を退いた。 例え確かな確信があれど、それを覆されるのがこの番組「強運。とんでも査定団」である。 ●道楽の末 続いての方は、ジャン・ピエール・イカナレフ。巫女、斑鳩(ia1002)の子孫である。 ただ、黒髪ショートボブの彼女は、誰がどう見ても日系人である。何故に斯様な名を名乗っているのか、と言えば…… 「子供たちも成人したら好き勝手に改名すればいいんじゃないですかね。あ、でも出来れば、名前の一部を残してくれると嬉しいです……と言ってたらしいです」 斑鳩は元より、自分の本名を知らなかったと言う。だからこそ好き勝手に「斑鳩」と名乗った。それを今この時まで、道楽好き血脈が引き継いだのだ。 だからこその「イカ」ナレフ、なのだろう。 「私の容姿も、斑鳩そっくりらしいですよ」 ただ、と付け加えるジャン。カタケット、という市に出た二次創作文化と言われる絵巻物しか情報もなく、真偽はイマイチついてないと語るのだ。 「だって、その資料の斑鳩は、可愛すぎますし」 それは暗に私かわいい、と言ってないかと観客に軽く笑いを誘うのであった。 さて、肝心の伝説の一品が机へと置かれた。全長は2.5mのながーい編み込まれた布だ。 観客、視聴者、司会者、皆がそれの正体を理解した。しかし、本当の伝説の一品か、と疑うのも同時でもある。 「魔神「牌紋」……と言うマフラーなんです」 自信なさげにジャンは、マフラーについて説明する。代々蔵で眠っていて、大掃除を機会に引っ張り出したものらしい。 とある合戦で、斑鳩が一番槍をあげたため下賜された一品として伝わったものだ。 しかし、ジャンの顔色も浮かばず、予想金額も『100文』と小さい。 「斑鳩というご先祖さんが開拓者だって話は聞いたことありますけど、これはさすがに偽物だと思います。功績を讃えて下賜されたなんて、明らかにネタっぽいですし」 それに武器や骨董品ならわかる。だが目の前の一品は、マフラーだ。 ジャンが、半信半疑なのも頷ける……が、果たして結果は? 『1000文!』 まさかの大幅アップに、ジャンも開いた口を手で押さえて驚嘆している。解説を中年の専門家の男性が始めた。 「いやはや、珍しいものが出てきたね。確かに間違いなく、下賜されたマフラーだよ」 更に語る。魔神の話はつい最近に出た新説であり、まだ多くが解明されていないのだ、と彼は言う。 「だからこそ、このマフラーの価値は、これから大幅に上がります。大切になさって下さいな」 「はい!」 道楽一家のネタではなかったお話は、観客には大きな拍手で迎えられたのだ。 只し、視聴者の評価は今一つ。だからこその、この金額であったのだろうか。 ●カタチニノコルモノ 続いての出品者は、匿名希望の女性。彼女は、蜂蜜色の長い髪、光の加減によって、紫にも緑にも見える不思議な双眸の持ち主であった。 女性は、手に桐の箱を持ち、こう司会者に語るのだ。 「祖先の名はジョハル(ib9784)という砂迅騎で、医師だったそうです」 尤も先程の斑鳩と同様に偽名のため、本当の名は伝えられてなかったらしい。 では早速、と問題の桐の箱の中身を女性は見せてくれた。彼女は蓋を開けながら言う。家には、他にも蔵に武具や装具があった。 「これだけ、丁寧に桐の箱に入れられて綿で包まれていたんです」 恐らくとても大切なものであったのだろう。それを知るために彼女は、今回のイベントに応募した。桐の箱から取り出されたのは、ピンクサファイアの装飾品であった。 宝石の原石が動物の皮を紐状にしたものに付けられて、形状から首飾りと推測出来る。皮紐には何やら黒く変色した血液のようなものが付着している。 その首飾りの光景に、観客者も息を飲んだ。言い伝えでは、これは恋人に贈ったものであった、と彼女は告げる。だが、それが今ここにある。 と言うことは、失恋したか、身を結んだか、そのどちらかであろう。 「この血は誰のものか分からないそうなんですけれど、ちょっと不気味ですよね……」 寂しげに笑う女性に、皆は無言になる。彼女は続ける。この宝石が原石であるのは「二人が結ばれる時が来たら綺麗にカッティングしてもらおう」と言う意味であったこと。そして、金星が綺麗に見える夜には、この首飾りを庭先に出す習慣があることを告げた。 由来は、祖先・ジョハルは『明けの明星』ということかららしい。 「……不思議とそうしている時が一番綺麗に光り輝いている気がするんですよね」 と、話はつきないが、そろそろ予想金額を出す頃だろう。女性の予想金額は『500文』とあれだけ語ったわりに、評価は低めだ。 「すごい能力があるようにも見えないので……」 と女性は言っているが……果たして結果は? 『1000文!』 多少の金額UPながら、女性は丁寧に会釈をして敬意を表した。そこに専門家と思わしき、赤髪の男の声が響く。 「これは本物です。彼の話は、こちらでも多くは伝わってはいません。ただ、娘がいたこと。その後に結婚に至ったと言うことは伝わってます」 新たな新事実に女性は眼を見開いた。 「これは家宝と言われるべきものだ。大切にして下さい」 「ハイ!」 そう頷くと、桐の箱に包まれた宝石を胸元に優しくあてた。 やはり、女性の装飾品への想いが強く。それが視聴者へも通じたのか、かなりの高評価が出たことをここに付け足しておこう。 ●いつまでも傍らに そして、この番組もいよいよ終了の時間が近付いてくる。そんなトリを飾るのは、音羽 冴子。黒髪に碧色の瞳の白肌の日本人女性だ。 彼女のご先祖様はシーラ・シャトールノー(ib5285)と言う女騎士だ。シーラは、菓子造りに長けていてパティスリー・エムロウドでパティシエを勤めていた。時のジルベリア皇帝の側室、オルガにもケーキを献上したり、大会で大賞をとったこともある実力者だと言う話だ。 「これは、口伝で伝わっている初代のレシピを再現したシフォンケーキなのよ、さあ、召し上がれ」 これは先程告げた、献上した一品。それを司会者が、遠慮なくパクリ。その素朴だが、後をひく味を噛み締めた。 テレビの前じゃ、菓子テロも良いところである。 さて、問題の一品は、どうやら剣のようだ。長さにして85cmの片手剣、柄には薔薇の意匠が施されている。 「騎士剣「ロッセ」初代が剣とお菓子の師匠から餞別に頂いた一振りだそうよ」 刃こぼれ、錆び一つない武具に観客も感嘆の声をあげる。シーラは、この武器でアヤカシを切り伏せ、罠師で忍のキサイと言う男性の手助けもしたと言う。 「その罠師が後の旦那で、私の先祖でもある、なのだそうよ」 刃を眺める冴子、その笑みは刃に確かに映っていた。そんな、思い出の詰まった品であるためか、冴子の予想金額も『25000文』と確信を持ったものだ。 「不安はないわよ」 果たして結果は? 『50000文!!!』 出ましたぁぁ!本日最後にして、最高金額です。 「すっ、すごいわね」 予想の倍をいった金額に、自分の声すら冴子は耳に届かない。スタジオの熱狂もそれを手伝っているのだろう。 「間違いありません、本物ですよ」 専門家の男は、マイクを片手に言う。確かにキサイと言う有名な開拓者は居り、その手助けした女騎士がいたことが伝わっていた。 「何より剣の状態が良いのです。拙者もここまで綺麗に残ったジルベリア武具は初めてみましたよ」 そう言って専門家は、言葉を終えた。視聴者からのどれほどの評価があったか、それは言うまでもないだろう。 ● 以上で全ての伝説の一品が出揃った。今一度、出品者五人が会場に現れる。本日のMVPを決めるのだ。 しかし、出てきたのは四人。どうやら、リアは興味がないのかとっとと帰ってしまったらしい。 なんとも自由な人だ。 こうして、MVPが決定する。それは今回最高金額をラストに出した、音羽 冴子に、であった。 スポットライトを浴びて、沢山の拍手に囲まれ嬉しそうに盾を受け取る冴子。他の出品者も拍手をしながら、色々と思う…… (ああ、寺院に帰ったらなんて言えばいいの) (これは家宝。首飾り、飾っておこうかしら) (フフ、また一つ良いネタになったわ。みんなテレビ見たかなぁ) ――俺の大切な人の物、大事にしてくれてありがとな―― 「え?」 冴子は振り返る。だが勿論、何もない。先の台詞も、番組の終わりを告げる拍手で掻き消えてしまった。 ● そして番組終了後。 「あっははは〜、まって〜♪」 「待ちませんよー!」 リアは秋葉原の路地裏を駆けていた。リュックにあの大剣を詰めこみながら、何故か男たちから逃げていた。 恐らく、あの番組を見たものに狙われたのだろう。 しばらく続いた鬼ごっこ。だがそれもリアが行き止まりに行き着いたことで終わりを迎える。 「さぁ、渡せよ」 ジリリ、ジリリ、と詰め寄る男たち。その時だった。 『ゴダイシステム作動、ゴダイシステム作動』 大剣の宝珠が光る。それはまるで、玩具のそれのような発光。 その瞬間、男たちは何かに吹き飛ばされた。 天を仰ぐリア。肉眼には見えない何かが……だがリアは確信して両手を振った。そのまま彼女は光に導かれ、やがて消失した。 ただ一言の言葉を遺して。 「新たな冒険の始まりです!」 |