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■オープニング本文 護大派との和平会議が神楽の都で話題になっている頃のこと。 とある宿場では、彼らが喧々諤々としていた。部屋に特殊な結界を張り、会話が漏れぬようにしているという徹底ぶりである。 ここでいう彼らとは、神楽の都にヒトに紛れ込んでいた古代人だ。以前、唐鍼暗殺に失敗。更に同志の一人を捕虜とされて憤慨している。 (実際は彼女が殺しかけたがね) 彼らを纏める隊長の役目を担う男は、この中では年長者の300代だ。先程から聞いていれば、「唐鍼に制裁を」や「赦せない、護大の冒涜だ」などと飛ぶのは暴言ばかり。 しかもその論を振りかざすのが、副隊長である女性だからやりにくい。 (やはり、まだ教える情報じゃなかったな) そんな後悔をよそに、予想通り隊長である自分に200才足らずの若者達が進言をする。新たな情報で「とある遺跡に唐鍼が訪れる」と言うのだ。 どうやら自分達の世界(地上)へ下降する転移装置があり、それの起動実験を行う。この情報は秘匿されている為、一般的には知れていないらしい。 「出来れば、穏便に葬りたかった」 「『あの時』隊長が仕留めれば、事は済みましたよ」 「……公私の混同はしない」 何を隠そう、前回唐鍼の情報を教えたのは彼だ。 若い古代人が、自分より下と見ている種族の侮辱を許せないだろう。だが、唐鍼をどうにかしなければならないのは確かだ。男は「無駄に死ぬな」とだけ呟いた。 ●予定調和 作戦当日。古代人の隊長は、階段を降りてローブ姿にフードの唐鍼と護衛達の後を追っていた。副隊長は、遺跡の外で待機し、二重で仕留める作戦だ。 しかし隊長はどうも違和感が拭えない。重要施設の割に、外に見張りが居なかった。それから、唐鍼自体にも違和感がある。周りは気付かない自分だけが気付いた違和感。 一応、同志の一人に瘴気感知能力を使わせてみたが、唐鍼の体内には確かに瘴気の反応があったと言う。 (杞憂……であってほしいな) やがて、それらしき装置の場所で、唐鍼達は止まった。 唐鍼の暗殺は勿論だが、転移装置の破壊も目的に含まれる。出来れば、目標だけを破壊して―― 「唐鍼、覚悟!!」 「おいおい」 合図も待たずに、血気盛んな一人が飛び出す。置いていくわけにも行かず、自分も追い掛ける。一斉に振り返る開拓者と唐鍼。だが、その顔に誰一人として一切の驚愕はない。 予定調和。そんな在り来たりな言葉が、彼の背筋を通り抜ける。同時に念力で入る連絡。 『リーダー! 奇襲が読まれてた! クソッ卑怯なり、天儀人!』 嵌められた。 その一言だけで彼は冷静に事態を受け止めていた。その考えに呼応したかのように、唐鍼はフードを外した。 「……やっぱりね。偽者か」 ●異なる笑声 唐鍼が、護大派に襲われた。 この話を聞いた際に、ギルドでは困った問題が起こる。恐らく未だに都には、幾人もの古代人が潜伏しているはずだ。しかし、彼らはアヤカシの様な食生活ではない。むしろ、ヒトに近い存在なのだ。 そして唐鍼から聞いたところ、瘴気は完全に体内に隠し通せる。このままでは、いつどこに敵がいて襲われるかわからない。このままでは、都はそのうち疑心暗鬼に陥る。 そこで――― 「拙者が偽の情報を流し、集団で襲いかかってきた彼らを一網打尽……となります」 「御理解いただけましたか」と情報屋の阿尾(iz0071)は、目の前のその人に話し掛けた。その人と言えば、くつくつと狂気も隠さず笑みを晒す。 「いいよ〜♪ 同族殺せるなら、何でもさ」 いかにも優男、という表現が似合いそうな男性。だがその口から発せられる台詞は、殺意しか感じられない。 「先程も言いましたが、彼らの生死は開拓者に委ねますからね」 貴殿も含めて、と阿尾は心の中で注釈の様に付け加える。 「知ってるよ〜。けどね阿尾ちゃん。あいつらは投降とか、あまっちょろいこと考えないから」 まるで全てを見てきて、これからを知っているような口ぶりだ。ある意味、当たり前だが。 ちゃん付けは、取り敢えず無視。 「俺を含めてだけど、ミンナ護大サマの所に行きたがるし。死ぬことに躊躇ないから」 だから『いつでも背後からどうぞ』などと相変わらずの狂喜で話すのだ。 「……では明後日、よろしくお願いしますよ。『古代人、紅逅津(ぐぐつ)』」 ●撤退命令 隊長格の男性は、一つ疑問を持っていた。 確かに先程感知した時、確かに体内に瘴気の気配があった。確か通常、ヒトは瘴気をもたない筈だ。 「っ!? ……そっちも本気ってワケだね」 その理由に気付いて、隊長も覚悟を決めた。 自分の背後の連中は、驚愕しつつも騙されたことへの怒りが大きいのか、次々と得物を構え始める。 「撤退だ、諸君逃げてくれ。今ならまだ出口の同志に手間取っている筈だ」 そう言って隊長は戦闘態勢に入る。両足、両手に瘴気を被せて覆うように固めるのだ。 「そんな! 敵前逃亡など」 「殿は私がやる、いいから逃げるんだ!!」 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
イデア・シュウ(ib9551)
20歳・女・騎 |
■リプレイ本文 遺跡内部にて、足音だけが幾つも響いていく。 フードを外した彼、竜哉(ia8037)は、輝く刃で向かってきた一人の喉笛を薙いだ。 血も無ければ傷もない。だが、隊長にはわかった。それだけで彼は今事切れたことを。倒れた古代人の頭部を、竜哉が踏み抜く。嫌な音だ。 これでこの刃の危険性を、この場の全員が理解しえた事だろう。 「まて〜!」 隊長は部下が階段を上がる様子を確認、その他に三人が階段に続く。 彼らはそれぞれ、リィムナ・ピサレット(ib5201)、宿奈 芳純(ia9695)、そして笹倉 靖(ib6125)だ。 隊長の鼓膜に火元のない爆音が響く。正体は直ぐに割れた。囮役の護衛についていたケイウス=アルカーム(ib7387)の演奏だ。 「唐鍼を殺したいなら、俺達は邪魔だよね。あっさり諦めていいの?」 「これ以上深手を負うよりはね」 爆音に多少でも身体は参っている筈なのに、いたって冷静に受け答える隊長。 油断も隙も見当たらない。 「彼奴が、か……な、ないよ。わざわざ正体をあちらがバラしているのに、本物なはず、て……あの子はもう」 独り言らしきものを呟きながら、それでいて竜哉には素早く接近。フェイントを入り交えながらのワンツーは、損傷は微々たるものの、打つ数で傷を与えていく。 そして理由はわからないが、この場でケイウスだけが隊長に既視感を覚えていた。 ●夜戦 それは、突然の平地での出来事だった。降ってきた幾数もの火球。目を眩ますほどの光が終われば、剣を交わす副隊長とルオウ(ia2445)の姿があった。 「よお! また会ったな!」 「愚者の一つ覚えです」 相も変わらぬ女性の冷えきった瞳が、ユリア・ヴァル(ia9996)の放ったマシャエライトの明かりでぼんやり解る。 「敵前逃亡なんて、本当に無能ね」 「無能な奴等です。だが貴様達を葬れば何ら変わりありません」 (……部下が、何て言ってないわよ) 得物を手にユリアは、遺跡側へと副隊長を導くように走るのだった。 そこから離れた場所で、シャッターを開けたカンテラを提げる柚乃(ia0638)がいた。 現在、彼女はラ・オブリ・アビスにて、唐鍼に変身していた。標的である彼に化ければ、逃走はしにくい筈だ。 予想通り。盾で殴り付けるイデア・シュウ(ib9551)の背後にいれば、古代人達は見事に足を止めた。 ……そう、どう見ても古代人にしか見えない柚乃。そんな彼女の目の前に、瘴気の礫が降り注ぐ。 「っ!?」 「あ〜、ごめん柚乃ちゃん。見分けつかなかった♪」 幸い肌を浅くかすっただけで済んだが、やはり瘴気そのもの。ジクジクと傷が熱い。 正体は、中空を漂う紅逅津の攻撃だった。 第三の腕を持つ今の柚乃の姿は、まさに古代人そのもので、紅逅津の獲物にぴったり当てはまっていた。作戦の前にルオウが遺跡内部を薦めたのはこう言うことが原因かも知れない、と柚乃はひそかに思えてきた。 そして、紅逅津の登場は部下の動きを二極化した。簡単に言えば、逃走又は徹底抗戦だ。彼の反逆に怒る者、と彼の実力に恐怖する者の違いとなる。 (……やっぱり殺しておこうかしら) とユリアは、ため息気味に考える。 逃走する古代人を襲うのは、何も副隊長の殺意だけではない。遥か遠くより、矢が自分へと飛んできて心の臓を貫く。 正体は、不破 颯(ib0495)の月涙であった。照明は、用意したカンテラ。 だがそれだと手元は明るくとも、先の見通しは夜のそれである。 古代人達とて馬鹿ではない。自前の明かりを消し、灯りの無い場所へと走った。恐らく、前以て撤退手順も決めていたのだろう。 今の一撃も漸く当たったものだ。同時に発砲音が辺りには響いている。颯は、遺跡の方に目を向けるが、未だ入口から出てくる『誰か』が出てくる気配はない。 「何やってるんだろうね?」 ●挟撃作戦 隊長に言われて、仕方なしに階段を上がり通路へと出た部下達。しかし眼前には、何故か後ろにいた芳純が待ち構えていた。リィムナが事前に遺跡内部を調べておいた結果、先回りが出来たのだが、そんなこと古代人は知る筈もない。 まずいと思い、部下達が戻ろうと振り向いたそこには、黒い壁が出現していた。それは、芳純の結界呪符。 そしてベイル「ホーリーガード」を手に、彼はこう言い放つ。 「『世界派』、宿奈。参ります」 古代人達と相貌が変わる。有り余る手に武器を持ち、芳純に怒りの感情で接近する。その直後、背後で数人が横道に退く。彼の思った通りの展開だ。 そして更に暫くすると、予想通りの悲鳴。 「むぐ!? ふぐぐ」 「んー!」 「おっとと」 瓦礫で隠しておいたトラバサミ、更に暴れることで黒い糸に触れて天井からトリモチ付き布が落下。 「ひーかかった、ひっかかった!」 仕掛人は、リィムナと靖。四肢以上に他『手足』ある古代人には、効果的であった。もがけばもがくほど、歪な肉玉になっていく…… 一人が浮遊能力持ちで罠にかからず、今リィムナに向かって弓をつがえてはいるが。 彼女の隷役を備えた見えない式が、古代人に歯牙をかける。噴き出す血に地面へと墜落するが、ぶつぶつと何かを喋る声が聴こえた。 (なんだろう?) そんな風に考えていたリィムナだが 超越聴覚を使っていたので、別の音楽も聴こえていた。その音を聴いていた古代人は、そのまま眠ってしまう。 「世界派など、過去の汚物を名乗るなど恥を知れぇ!」 手には剣。別の手には盾を構える。眼前の斬撃に芳純は、ホーリーガードで応戦する。 「はぁ!」 何かが溶ける嫌な音がする。同時に苦悶の表情と、盾を落とす古代人。そして背後から白い球が襲いかかり、古代人の脇を掠める。白霊弾だ。 「唐鍼のところまで行かせない」 黒い壁に隠れていた靖の出現、更にその台詞に古代人は動揺した。 「本物が居ないなんて言ったか」 面白いように挑発に引っ掛かる。他に古代人がいないため、制止するものがいなかったのも理由のひとつだろう。 そしてとどめ。 「死ぬのが怖いのか」 「……その様かことがっ! なっ!?」 言葉が言い終わるか否か、芳純の式が古代人の獲物を溶かす。 向こうは万事休すだろう。しかし、破壊したものの中に自爆を行うらしき『物』を持ち合わせていないことに芳純は気付いた。 「――――、……――、……」 少し遅れて先程の古代人に荒縄をかけていたリィムナが、靖の背後に到着。それと同時に気付いた。 皆が戦っている古代人の体に赤い模様が浮き上がり、聴こえない何かを唱えながら笑っているのを…… 「わー逃げてー! やな予感がするよ〜!」 次の瞬間、古代人より炸裂音。更に紅い煙が、遺跡内部に噴き出して渦巻く。 「っハ……」 「ぐ、待ってろ宿奈、今治療を」 呪を唱えていた芳純はまともに血煙を飲み込み、気だるげに膝をつく。閃癒を施す靖も前以てかけた加護結界もむなしく、その血煙にやられたようだ。幸いしたのは、爆風の衝撃のみを受けただけのリィムナ。傷口に包帯を巻いていたのが、功を奏したのかも知れない。爆発の周りを確認するとそこには、誰もいない。 あるのはただ、芳純が熔解させた得物と人間の大きさの『みずたまり』であった。 時は幾ばくか戻って、竜哉と隊長の戦闘時。 「俺の行動、お前らに理解できるか?」 盾によるバッシュブレイクを狙って剣戟と交互に合わせる渦中、竜哉はそう隊長に言葉を溢した。 「天儀の人にとっての毒。それを君が取り込んだ理由、と言う意味かな……」 彼は戦闘中とは思えないほど、ゆるく首を横に振った。その瞳には憂いを帯び、瞳に光を宿していない。 「生き残る為に命を賭ける、というのはお前達に理解できるか?」 「それは私達が諸君に滅びを受け入れろ、と言うのと同意義じゃないかな?」 質問に質問で返す。 竜哉は口を噤む。挑発のつもりの羅列は、この男には効果をあまり成さないようだ。今、竜哉に返答しているのも、恐らくは逃がす為の時間稼ぎだろう。 だが、実際この隊長が焦っていることに、ケイウスは気付いていた。首の後ろに取り付けてある第三の瞳が、瞳孔を開いたりと、忙しなく動いている。それが何を見ているか知らないが、平静で無いことは察せる。 そして、その内ケイウスは観察している内に気付いたのだ、隊長の正体に…… (あの時の蕎麦屋? ……もしそうなら) 彼は気力いっぱいに集中し、竪琴の琴線に触れた。 (コイツは理解しているのか?) 竜哉は今までの古代人と何かが違う。だが、それでも敵対していることに変わりはない。 何より油断が出来ない。斬神は悉くかわされ、精神的にもだいぶ竜哉は参っていた。 「くっ!」 盾が四肢に当たり、足がもつれ身を屈める隊長に、光の刃を抜く仕種をし―― 「はっ」 「う!?」 その隙を利用し、足を踏み込み体勢をそのままに体当たり。竜哉の額に脂汗がたれる激痛。 更に、第三の瞳はケイウスの初動を見逃さない。そのまま回転蹴りで周囲に瘴気の風を起こした。 「させない!」 回転に合わせ、竜哉は蹴り返すような形で受け流した。 「……っ……しまった」 楽曲が続くのにつれて身体が重くなり瞼が重くなる。 だんだんと近付く竜哉の足音に自らの最期を悟った。 (どうか、逃げて……くれ) ●護大派 遺跡内部で起きた爆発は、同じく外でも起きていた。 前以てユリアと柚乃の瘴索結界等を駆使し、辺りの古代人を確認した。が、最初より反応は少なくなっている。 恐らく逃走用に古代人が、瘴気を潜ませたのだろう。念のために、と足音や影で追跡していたのが功を奏した。 全体的な人数は見失わずに済んだ。そして今何よりの問題は、目の前に一気に迫る刃。 「…………」 無言のままに、槍の柄で受ける一撃は重く、数が増すごとにユリアに傷を増やしていった。そこに横から蹴りをかまして副隊長の身体をくの字にし、ルオウが割り込み一喝。 「護大とか、そんな訳のわかんないもんの言い分信じて殺し合いとか、訳わかんねえんだよ!」 腹を深く抉る刀の連撃。彼らにとって、『それ』が何れ程の存在か知っていた筈だった。それでも、その言葉を飲み込むことは彼には出来ない。 「ぐ、だから貴様ら野蛮だ! 護大の尊さすら理解しえないのですから」 だらりと糸のちぎれた、操り人形のような腕、それでも未だ残る腕で、彼女は切り裂くのを止めない。ユリアも応戦するが、衣は所々赤く染まっていた。 唐鍼だって解り合えたのだ。だからこそルオウは、幾度と刃を合わせてながらも副隊長に語りかけた。 やがて赤を通り過ぎ、白く変わる身体。それでも彼女は立っていた。恐らくこの一撃で最期をむかえる。 「俺達以上とか偉そうにしといて、そんなんで滅びていいとか、その程度なのかよ! お前らは!」 その瞬間、嘲笑を口元だけに残し、得物を最期まで手にし、人間の形を保っていた。攻撃に合わせ、自ら前へと一歩踏み出していたのだ。 「……っんでだよ」 ルオウは、秋水清水を片手で一振り、立ち上がりながら誰にでもなく大口を開く。 「死んじまったら、何にもできねえじゃねえかよ!」 ●日は明けず 「どうして殺してくれないのかな」 「今舌噛めば死ねる」 「そんなことじゃ、私は死ねないから」 隊長が覚醒し、一言目がそれだった。彼が眠っている間に竜哉が自らと共に、包帯と薬草を巻いて手当てしていたのだ。その際にケイウスが鎖分銅で、手足を拘束されている。 そして、次に言い放った言葉が、自分の身柄と引き換えに、拘束した部下達の安全の提案であった。 元より、古代人は捕縛寄りで考えていたためそうするつもりではあったが…… 「……聞いていいかな。どうして仲間を逃がそうとしたの?」 ケイウスの言葉に、瘴気汚染がキツく、石台に腰を下ろしていた竜哉も二人へと顔を向けた。 これでも自ら肉体で挑む彼を、竜哉はそれなりに買っていた。 隊長は一言こう告げた。 「『滅び』と『死に急ぎ』は異なる。私がそう思っているから」 こんな考えだから、「こんな生きて帰れるかも知れない辺境に飛ばされたのだけど」と苦笑いを溢すのだった。 副隊長がいなくなれば、後は比較的容易に制圧出来た。自爆されたことにより瘴気溜まりが出来たため、悠々と紅逅津がそれを活用し、楔を作り出し部下達の四肢を穿つ。 「裏切者! お前にやられるくらいなら――」 「させませんよ」 唱え始めた呪は、イデアの騎士剣に咥内を突き刺され、血液と共に沈んだ。 「護大、ねぇ。約束された滅びなんて」 ヒトと変わらぬ赤を滴らせる刃を引き抜きながら、イデアは呟いた。 騎士なれど、信仰心をツユほども持たない彼には、護大を妄信するサマは哀れにも思えた。 「……そんなもの待つ位なら、自分は最後まで抗いますよ。」 「え? なんで〜?」 独り言のつもりだった。それをよりによって、古代人である紅逅津に返されたのだ。その一言には、侮蔑や怒りなどの感情が詰まってない純粋な疑問符であった。わかりやすく言えば、「生き物は何で夜は寝るのか」とでも言った質問であろう。 「何で抗うの、ねぇイデアちゃん?」 生きるに執着心を持たない彼らに、どのようにして説明すれば良いか彼は、言葉で表わすことが出来ず、ただ無言でを貫くのみであった。 「少し逃がしたな」 古代人がいなくなったことに気付いた颯は、得物を肩にかけてすっかり開けた平地を見回した。殆ど捕縛に至らず、何人も自爆、もしくは自刃を出してしまった。 改めて彼ら古代人との和睦の難しさを知りつつ、柚乃は呼子笛を奏で皆の回復に徹していた。 作戦の終わりを誰かに報せるように、暗闇に二羽の烏が羽ばたいていった…… |