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■オープニング本文 ●言葉の先 「護大派との交渉を持ちたい」 武帝の言葉に、豊臣雪家は表情を変えずに面を伏せた。 「は……しかし彼ら護大派は、かの唐鍼なる者の言葉が確かならば、とても我等の言葉に耳を貸すとは思われませぬ」 「そうかもしれぬ。だが、彼らはアヤカシではない」 そう前置いてから、武帝は静かに話し始めた。 私は私なりに、天儀の未来というものを考えてみた。私の心は、かつて虚無の中にあった。彼らもまた、そうした虚無に取り付かれているのではないのか――今、護大派に属した若者が我々に協力しようとしてくれている。決して、不可能なことではないと思う。 (まことにお変わりになられた) 雪家は、伏せた面を僅かに綻ばせた。 この話は書状にて、ギルドを通して唐鍼にも届けられた。 ●古代人の非日常 ここは神楽の都の万屋。 ドサッ ドサッ そこに大量に花火を買い込む青年が一人。名を唐鍼と言う。 「買い物したいって言うから着いてきたけど、目的はそれなの?」 唐鍼の監視役を命ぜられた陰陽師の少年。名前は流韻(iz0258)という。山積みの紙袋に呆れ気味だ。 唐鍼、彼はただのヒトではない。彼は古代人と言う種族なのだ。とは言っても、はっきり言うと修羅の流韻のように角があるわけでもない。見た目だけで言えば、人間と変わりはない。 そんな唐鍼が珍しく買い物したい、と言い出したワケでギルド側は、流韻を目附役を命じて二人で外出していた。 「紛い物。この中で、空に上がる花火はどれだ?」 「ない。あんなの、素人じゃ無理だよ」 「……………」 あまり表情は変わらない唐鍼だが、凄く残念そうな雰囲気は伝わった。 ●それは突然。 買い物を終えれば、何するでもなく市井を歩いていた。 (「変わらず賑やかだ」) これほど様々な声が、耳に入るのに耳障りとは思わず、寧ろ唐鍼には心地がよかった。 そこに身長的に不本意ながら、流韻は唐鍼を見上げながら聞く。 「ねぇ、出入りしてさ敵に見つからないの? 確か古代人って瘴気で身体を強化してたよね?」 「その通り」 開拓者と共に都を回った後、彼は古代人の特徴を教えてくれた。古代人は長年にかけ瘴気を用い、身体を強化してきたのだ。そのおかげで400年は生きていられるらしい。 「それって、瘴気を感知されたら居場所バレるんじゃない?」 その術技は、既に天儀にも存在する。ならば、それを護大派が知らないはずはない。 「ないな。俺達はある程度、瘴気を操れる。隠すことも出来る。そう言うアヤカシも存在することは、お前達も理解しているだろう」 「へぇ」 次いで、もしもの時に腕持ってきた、と背中の荷物を示した。 「それ、外に出さないでよ」 「わかっている」 「後いい加減、その『紛い物』やめてくれない?」 「何故だ。まともにアヤカシも作れぬ、紛い物だろ。俺の様に実体化させることも出来ない」 「そうだけどさぁ……」 何気無い会話。 だが、そんな時だからこそ気付かない。無意識にヒトを避けて、避けてと、通路を通り、更に二人は路地裏まで入り込んでいたのだ。 流石に日の光の届かぬ景色に、流韻も気まずさを感じたのか、この場所を離れよう、と開口した……時同じくして。 「見つけましたよ。背徳者、唐鍼」 正面で響く女性の声。うら若き筈なのに、あまりの無機質さに流韻は肌が粟立った。 「………………」 流韻だって曲がりなりにも開拓者だ。この人物が、抱くものが殺意であることは感じ取れた。恐らく彼女は古代人であろう。 「紛い物、背後もだ!」 唐鍼の言葉に振り返り、同時に目の前を通り過ぎる禍々しい楔。 トス トス 「ぐぁ゛ぁ」 唐鍼の両手の平に音もなくくい込むソレが、彼を瓦礫に磔る。力なく、楔が投げられた方向へ顔を向けた。 「唐鍼ちゃん。その腕は封じさせてもらうよ。転移すること知ってんだから」 「その腕、瞳を触れられたら困るんだよね」 笠を被る男性が、浮遊しながら笑みを浮かべていた。その回りには、禍々しい楔がいくつも浮遊している。 「ま、待ってて、今抜いて……」 急ぎ唐鍼を封じた楔を抜こうと、流韻は手を近付ける。 「触るな! これは瘴気そのものだ。ただの人間が触れば感染する」 唐鍼の言葉に伸ばしていた手を止め、再び古代人達に立ち回る。 前後挟み撃ちされたこの状況に、流韻は符を取り出す。 「そこの蛮族。逃亡をするなら追いません。我等が目的は唐鍼の抹殺のみ、ですから」 その言葉に続くように、唐鍼が言うのだ。逃げろ、俺から入手可能な情報はもうない筈だ、と。 だが、こう言われて逃げたくなるほど、流韻は大人ではなかった。 「そうはいかないよ。ここは通さない!」 「しっかたないなぁ〜」 そう言えば、流韻へ女性は四本の腕から刃物が、男性からは瘴気を凝固した礫が襲ってきた。 流韻が応戦する様子に、驚愕と焦燥が走る唐鍼。 なぜこれ程に、自分に拘るかわからなかった。だが唐鍼は気付いていない。同じく自分が流韻を助けんと行動をしたことが、 (「走れ、ギルドへ!」) ●緊急事態 そしてギルドでは一大事が起きていた。 ガシャーン! 一匹の青い四足歩行のアヤカシが、ギルドに入り込んだのだ。そして、こう担当者に言う。 『カラハリダ! オソワレタ。ルインヲ、タスケテクレ!』 それは唐鍼の作り出したアヤカシであった。これを操り、ギルドまで知らせたのだ。 そして、アヤカシは開拓者達を案内し、路地裏に連れてきたのだ。 薄暗い路地裏に、ばら蒔かれた荷物。そこには磔られた唐鍼、敵と思わしき古代人が二人、重傷を負った流韻がいた。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
朱宇子(ib9060)
18歳・女・巫 |
■リプレイ本文 壁が壊れ、灰と化した最後の符。刃物で切り刻まれ、瘴気を溜め込んだ流韻の身体は、とうに限界だった。 自らが不本意に作り出した水溜まりに膝を浸す。足音が自分に迫る。「守れなくてごめんなさい」と磔のままの唐鍼に呟く。無言のまま、両手の平から血を流し、ただ沈黙の中で応えた。 「問題ない」 唐鍼の声を皮切りに、竪琴の旋律と勇ましき咆哮が薄暗い場所に響いた。 ●最終楽章 古代人の一人が、耳障りなそれに振り向く。目の前には、雷刃。咆哮をあげるフェルル=グライフ(ia4572)が霊剣を振り抜いていた。 「やらせませんっ!」 「っと、あっぶなっ!!」 文字通り軽く身を浮かして、一撃を避わす。 「今ね。アイヴィーバインド」 そんな優男古代人の足に蔦が絡む。避けて接地したところを狙ったのだ。これでしばらく浮遊は出来ない。ユリア・ヴァル(ia9996)は小さく笑みを浮かべた。もし失敗すれば高く浮遊されて、この術は届かなかっただけに、この発動には価値がある。ユリア、フェルル、そしてその奥から、宿奈 芳純(ia9695)が現れる。 古代人の目の前に黒い壁。 「盾のつもりー? そんなの直ぐ壊し――」 彼は嘲笑気味に、壁の正体を理解して瘴気の礫の照準を定めた。 「…………」 背後の古代人は、無言で刃を構えた。 「唐鍼! 大丈夫か!?」 素早く壁に飛び乗ったルオウ(ia2445)は、最奥の女性古代人に向き直り、空中を加速し優男古代人の頭上を通り過ぎる。 女性古代人の刃がルオウと互いに交わされ、その勢いに星の花が飛び散る。一度だけ背後を見た。唐鍼は磔られているだけだが、流韻の法衣は斑に赤い。 「ああ、背徳者は護大の子を……」 「おい! お前ら唐鍼の仲間なんじゃねえのか!」 一瞬は歪んだ彼女顔も、すぐさま淡白な表情に戻る。 「同志にすらなりませんが、塵芥でしょう」 「このっ!」 唖然と天を仰いでいた優男古代人であったが、気を取り直し黒い壁に目を向ける。しかし、芳純は瞬時に壁を消して、更に鎮壊符を放ち、古代人の周りに浮かぶ瘴気の礫を一つ溶かす。 「よーし、今だ!」 言魂を使用し、辺りを伺っていた緋那岐(ib5664)が合図を送る。通路の側面を縫い竜哉(ia8037)と朱宇子(ib9060)が、流韻と唐鍼の付近へ前進する。 二人が目的の箇所に辿り着いたことを確認した上で、一時的に永遠の最終楽章の演奏を止め、四つ足のアヤカシと共にケイウス=アルカーム(ib7387)が、同じく路地裏を走り抜けた。最後に流韻達の側に緋那岐が到着する。 「あ……朱うお…ぇちゃ…からは…は?」 「喋らないで、唐鍼さんなら大丈夫ですよ」 朱宇子は急ぎ流韻に白霊癒を促し、同じく竜哉も流韻の元……と思いきや、フェイントをかけ近場の壁を蹴り飛ばし、唐鍼の元へ向かった。 微々たる回復ながらも、流韻には正しく生命線だ。アヤカシの背に、彼を持たれかけさせるケイウス。後は「ギルドまで頼んだ」と言えば『繋がっている』唐鍼は制止した。 「待て。出来れば、人気のない場所を通りたい。誰か案内を……」 「あー……そうだよね」 行きでさえ、どうにかアヤカシとバレずに市井を通ってきたのに、ましてや今度はアヤカシがヒトを背負っている構図。事情を知らなければ、訝しまれるだろう。 いや、端から見ればただの誘拐か。 「それなら大丈夫だ。言魂を浮かばせた」 そいつの案内に従えば、と緋那岐が補助を申し出た。 「紛い物でも使える……だろ?」 唐鍼もその言葉に了承し、アヤカシを路地裏より走らせた。 段々と姿が小さくなる青いアヤカシを見て、唐鍼は安堵を覚えた後、ケイウスに一声かける。 「逃げてもいい。俺はお前達に恨みはない」 流韻の救出という目的は達した。ならば……とその続きを言わせる前に、ケイウスが口を挟む。 「情報はもう持ってない、だっけ? そんなの関係ないよ」 むしろ情報が無い方が、情報収拾とか関係なく普通に話ができて良い。彼は笑みを溢しながら、譜面を変えつつ言い放つ。そうか、とそれ以上の言葉を優しく唐鍼は口を噤んだ。 手早く唐鍼の様子を確認する竜哉。手のひらを貫通した禍々しい楔から、血が滴り落ちていた。 竜哉は唐鍼の目の前で、輝く剣を生み出す。そして「これが瘴気のみを滅するものだ」と説明し、更に続ける。 「だが、それを古代人に使用して良いものか……」 瘴気と強い結びつきを持つ古代人だ。場合によっては、唐鍼自身に甚大な被害を与えることにならないかと、彼は懸念していた。唐鍼は光の刃を眺める。それがその男の言う通りの物であると即座に理解した。 朱宇子も続けて、「他にも浄炎と言う手段があります」と言う。 そして、暫し間を置き、唐鍼は竜哉を仰ぎ見て口を開く。 「お前に委ねよう」 天命を……と心の中で付け加える。 「………わかった」 剣を振り抜き、何かが砕ける音を朱宇子は目の前で聴いた。 ●逢引 緋那岐は壁に沿いながら、瘴気吸収を行う。こういう術や、人妖は唐鍼にはどんな風に見られているんだろう。そんなことが頭を過るも「今はこっちに」と術技に集中した。 「大丈夫ですか、唐鍼さん?」 「……やはり、無駄か」 磔にされた手のひらは、無事に繋がったまま床に落ちていた。だが、深く食い込んだ楔は肉と骨を砕いていたのか、主人の言うことを聞いてくれない。無表情ながらも、口元を引き締める唐鍼。 彼から伝わる感情の意味を朱宇子は、何となく理解し、乱雑した床を調べ、長細い袋を見付けて掴む。袋の中の冷たいそれの感触に、本物と変わらず一瞬びっくりするもソレを抜き出した。 「符を背に」 自分の一部を、段々と説明する唐鍼。 彼の背後に回ると、朱宇子は彼の襟首辺りを割り開く。二人は交互に小声で術を口ずさみ始める。これならば、予想よりも早い段階で腕を接着出来そうだ。そう感覚を取り戻す唐鍼は、その結果を確信した。 耳に残る二人の言葉に、竜哉は作業が始まったことを知る。 とすれば、自分の仕事は奥にいる女性古代人の足止めに変わるだろう。今はルオウに目が向いているが、あの様子を感付かれたくはない。 先程の唐鍼の様子から、斬神を古代人に使うと不味いことになるだろう。無事に楔のみを破壊出来た時の、彼の僅かに動いた表情が竜哉にそれを感じさせた。 なんてことをさせやがる、とは思いつつも目的の古代人に駆け出し、脚絆に灯る炎が道を青白く見せる。 「駆け走り唸れ、狼。アル・ディバイン! 」 ルオウが抗戦する最中に、竜哉は足元から咆哮をあげながら古代人を蹴りつける。 しかし、彼女の動作は最小限、そして最低限の腕の傷で抑えた。竜哉は自分に注意を向けるために叫んだことを見越し、うまく対応する。 「竜哉!」 その大袈裟な介入に、ルオウも意味を理解し、更に古代人へ言葉を投げかける。 「一緒にメシ食ったダチなんだ。死なせはしねぇ、絶対守る!」 「愚鈍ですね」 相変わらず眉の一つにも反応はない。ルオウは「これ能面じゃないか?」とさえ疑いたくなった。二人を相手にしていると言うのに、短剣で殆ど去なしてくる。 それ以上に、根本的な力が強い。そして速い。おそらく長期戦は不利だ。竜哉がいくら盾で防いでも、フォルセティ・オフコルトを使い続けるのには限界がある。 「……護大は対立概念を内包する、だったよな?」 「覚えも悪いのですか? 貴殿方は」 肯定を意味する悪意めいた単語に、寧ろ竜哉は好機を見た。 「なら、認めたらどうだ? 護大に抗う意志も……」 「は?」 在るがままに受け入れ、滅びも再生も一巡として繰り返す。それが世界ってもんだ、と少なくとも自分は考えていると、竜哉は言う。 「護大に頼り護大に縋り、自分の足で立つ事忘れてんじゃねェのか?」 その侮辱に、女性古代人の目付きが変貌する。そして、とどめの言葉。 「お前はそんなことをも忘却してしまったのか。それを赦すとは、護大は随分とお優しいな」 「黙れっ!」 「うぉ!?」 攻撃がいきなり大振りになる。ルオウの盾が弾かれたのだ。 「黙れ黙れ! 我等が意思は、護大の意志! 愚弄するな下衆が!」 (……底が見えたな) 滅びというぬるま湯には、竜哉という存在は少々激甚であったようだ。まさに『年寄りに冷水』。 「低脳! 暗愚! 去ね!」 女性らしくもない言葉を吐きながら、古代人の斬撃は激しくなる。刃の動きには休む暇がない。ルオウと竜哉、互いに対し左右の腕を二本ずつ動かす。盾で受け続けていた二人であったが、確実に体力は削られていた。 「はぁ!」 「うぐ……は、これで暗殺か」 盾を避けた一撃は、竜哉の腹を裂くも彼は信念すら感じなくなった一撃に一笑をこぼす。 「この―――」 「感謝する、反する御遣い」 青年の声が響く。古代人と竜哉達が声の方向を向けば、そこにあるのは白髪の長髪。傍らには朱宇子。 唐鍼は立ち上がり、背中の腕を動かして、掌をゆっくり開閉する。しばらくして、女性古代人も現況を理解した。更に奥を見れば、ユリアの獄界の鎖で拘束された、ほうほうの体な古代人が目に入る。 が、すぐさま障害の二人を跳躍し、唐鍼の元へ…… 「隙あり!」 緋那岐の陰陽術により生まれた毒蜘蛛が散らばり、彼女の四肢に神経毒を流し込む。突如、動きが鈍る。 殺意を滲ませつつ、徐々に鈍くなる六肢に伸ばす手の先。唐鍼は、場違いの穏やかな表情で彼女に告げる。 「どうやら、俺は護大の元へはまだ行けない」 第三の手を額に持ってきつつ、ルオウへと一言返す。 「次はキツネがいい」 「ああ、おごってやるよ!」 その答えを聞くと、唐鍼はその場から忽然と消えた。これで彼らも目的が消失し、逃亡するだろう。そう思い、芳純は安堵した。 が、何かが疾走し、煌めくと拘束した古代人の喉へと切っ先が向く。 「うぐっ……な、何故ですか!?」 どうにか近くにいたフェルルが、盾を構えて短剣の前進を拒んだ。隣で眺めていたケイウスも、彼女の行動に驚愕した。 「そんな……どうして仲間を殺そうとしたのかな?」 彼女は「理由? 答えなど出きっている」と言わんばかりの冷やかな視線を、優男古代人へと向ける。 「……では、此度はこれにて」 彼女は背中の二本の腕で壁を登り、路地裏を飛び越えていった。緋那岐が言魂を飛ばして周囲を確認するが、もう女性古代人の姿は確認出来ない。 今度こそ、本当に戦闘は終わった。 ●狂騒曲 戦闘の場に戻ってきた唐鍼のアヤカシが、唐鍼と流韻が無事ギルドに着いて治療を受けていると開拓者達に話してくれた。 しかし彼の身体は、何故か傷付いている。聞いたところ、どこからともなく攻撃を受けたらしい。 『カレラヲ、ミアヤマッタカ』 そう呟くアヤカシであった。 ユリアと朱宇子は、散らばった唐鍼の荷物を回収していた。幾つもの花火を眺めていれば、ユリアは『余程好きなのかしら、なら後で花火大会の予定表でもあげようっと♪』と考えるのであった。 「ギルドに教えてくださり、ありがとうございます」 荷物をアヤカシの背に乗せながら、朱宇子は微笑みを向ける。 『ナニカシタカ?』 不思議そうに首を傾けるアヤカシに、彼女は小さく声を出して笑う。 朱宇子には「誰かを助ける」と言える唐鍼の気持ちが、心から嬉しかった。 竜哉やルオウ達が捕まえた古代人を見張る最中、芳純は唐鍼のアヤカシを瘴欠片で癒す。そして、毒味した甘酒を古代人に渡そうとする。 「先のアヤカシを癒した術ですが、貴方がたの仰る世界派が新たな地で生きる為、試行錯誤した結果、私の術の様な紛い物を作ったとしても、己の出自を消さぬために敢えて遺した物と思いませんか?」 「さ〜ね〜。知ったこっちゃないな」 「あーあー、唐鍼ちゃん殺りたかったな〜。同族なんて、レアなのにさぁ」 逃げる気は毛頭無いようだが、相変わらず笑っている。芳純の話すら、どうでも良さそうだ。 「つーかその話、俺が聞いてて良かったねー。世界派なんて言ったら殺されるよ」 「ご、ご忠告ありがとうございます」 そんな相変わらず笑みだけを向ける古代人に、フェルルが質問する。 「あ、あの、何故あなたは唐鍼さんを狙ったのです?」 「ん? 俺はそーいう命令だったから。あっちは、本当に裏切り者を粛正する気だったんじゃない」 まるで他人事のような物言いの古代人に、さすがのフェルルも言葉を失った。すぐ傍で話を聞いていた竜哉といえば、「先程の女性古代人よりはある意味潔いな」という感想を抱く。それが良いことかどうかは別として。 今まで唐鍼が友好的であったおかげもあるが、改めて見る本当の護大派と天儀の人間の交流は、あまり現実的ではなさそうだ。 (俺は諦めないけどな、だって唐鍼とも仲良くなれたんだ!) ちぐはぐな古代人との会話を聴きつつも、ルオウはそれを心に決めていた。 翌日、ギルドを通じて唐鍼から書状が渡された。内容は正式に、天儀に自分は協力をしたい、と願うものであった…… |