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■オープニング本文 野蛮だな……力づくとは…… 一人の青年を円に囲う役人達。相手がヒトで無いことを良いことに、罵声や口汚い言葉が飛び交う。急ぎ真実が知りたいとはいえ、朝廷に仕える者達とはとても思えない。 「我々が優しいうちに言うのだ。なぜ護大討伐に意味はないと言った!? 答えろ!」 「………………」 格子越しから見ていた女は、深くため息をついた。 ● ところ変わって、ここは神楽の都の開拓者ギルドの一室だ。 部屋には一人の青年が、何をするでもなく正座している。白髪の長い髪に端正な顔立ち。これで額の第三の瞳と、背に生える第三の腕が無ければ、彼をただの青年、と済ませられるのだろう。 彼は唐鍼(からはり)と言う名前で、古代人と称す一族らしい。 いくつかのギルドの報告書で存在が確認され、ついこの間アヤカシに追われている所を開拓者達に保護された。そこまでは良かったのだが、朝廷の役人は唐鍼をまるで罪人のように扱っていた。 間接的とは言え、神楽の都を放火しようとした奴と同じ組織なのだから、役人達の態度もわからなくはない。 そんな役人の言葉を耳にすれば、侮蔑と嫌悪を入り交え彼が沈黙するのは、ある意味当たり前だろう。 このままでは拉致があかない。それどころか、悪化の一途を辿るだけだ。 そう思い、豊臣雪家は開拓者ギルドに唐鍼を預けることにした。 が、相変わらず黙りこくって、後退もしないが進展もない。 何か打開策は無いものか、そう一人雪家が思案する。恐らく『強引な手段』では先ず口を割りはしないだろう。だからと言って、何時までもここに意味無く留めて置くことは出来ない。最悪、開拓者自身に始末を着けさせることも…… ギルドの係員らしき人物が話し掛けてきた。 「あの豊臣様。彼の古代人と話がしたいと言う、修羅の少年が……」 詳しく聞くとその少年は、開拓者であり、唐鍼の話を聞いてギルドへ飛んできたらしい。何でも、ある依頼で対峙したことがあり、それで話をしたいとのことだ。 雪家は、それを許可した。この出来事が何かの切っ掛けになるか、と期待して…… 唐鍼は一つの部屋に通されていた。見張りと思わしき開拓者が、部屋の外で構えている。だが、唐鍼自身に縄等の拘束は無かった。 「………………」 前に通された部屋よりは広い。それが彼らにとって、どういう意味を成すかは唐鍼は知らない。 ここに通されてはや数日が経つ。傷もだいぶ治ってきた。 (「早く…………決めなければ」) 視線に移るのは、自らの二本の両手。いつこの身を滅ぼされても可笑しくない所業を行ってきた。しかし、同じくこの手で異なり忌む筈の彼らを助けたのだ。その時生まれた想いは、蟠りは…… 「失礼するぞ、ぬしに客よ」 急に開かれた襖の音に、唐鍼の意識はそちらに向けられた。声をかけたのはここに自分を連れてきた男。そしてその背後には、見覚えある陰陽師がいた。 「……………」 「え、えっと……久しぶ、り?」 とある依頼で、唐鍼と戦った少年、流韻(iz0258)であった。 ● 唐鍼はとある依頼で、村人を一人殺して防衛中の村に混乱を招いた。しかし、それは結果として開拓者達を助ける結果になったのだ。 その時、その開拓者達の内の一人がこの流韻なのだ。 そんな流韻と得物なしとは言え二人きりだ。 「……何用だ紛い物。俺に話とは、誰かに頼まれたか?」 「ぼくがおばさんにお願いしたんだよ……えっと、そんな口調だっけ?」 たどたどしく、だが思ったことは口に出す流韻。あまり、自分に畏れなどは持ち合わせてないらしい。 「……潜入任務中だったんでな。口調を変えていた」 それで、と。まるでその前の話など無かったものかのように、唐鍼は返した。 「その………ごめん。攻撃しちゃって」 流韻は続けて語る。唐鍼が他でも注意を冥越で促していた、とギルドで聞いていたらしい。 「だから、あの時のこと謝らないと……って」 「……まさか、俺にそれを言うためだけに、話をしたいと言ったのか」 「う、うん」 予想はしていたものの、流韻の言い切りに唐鍼は言葉が無かった。 「くだらない」 思わず、第三の腕も項垂れる。前回闘った時の殺気は影の、かの字すらない。その分それが、本心であり、本音であることも理解できた。前の偉ぶった奴らよりは、幾分かマシだ。 「……おい。くだらないついでに、一つ頼みがある」 「外に出たい」 こくり、と流韻は頷いた。何でも神楽の都を周って見てみたい、と言ったらしい。ギルドの係員は首を振る、どうせ逃げるための口実だろう、と。だが、流韻はこう口を挟んだ。 「大丈夫、逃げる気はないよ。多分」 流韻の台詞には、今までのおどおどした口調とは違い、しっかりした裏付けがあるように雪家には思えたのだ。 (「もしかすれば、何かあるのかも知れぬのう」) 「良いだろう」 こうしてギルドに依頼が密かに受理されたのだ。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
ノーマ・ビブリオ(ic0100)
11歳・女・魔
リシル・サラーブ(ic0543)
24歳・女・巫 |
■リプレイ本文 開拓者達は、唐鍼と顔を合わせた。本当に、彼は何が違うのだろう。そう考えさせるほどに、自分達と変わりなかった。 開拓者達は、彼に優しく言う。無理に何かを話すことはない。ただ、何か話したくなれば言えばいい、と。 「………」 唐鍼は頷くこともない。それは、やはりこう来るだろう、ととっくの昔に気づいていたようだ。鞭の後の飴など、良くある手段だ。 「なぁ、ええかな? お願いがあるんや」 そんな話の中で、流韻に芦屋 璃凛(ia0303)が話し掛けた。彼女は言った、自分を監視して欲しいのだと。 「実は前にちょっと過ちをな……」 「そっか、あなたもなんだ……わかったよ」 各々考えはあるものの、開拓者達が皆が皆楽しもう、と言うのは一貫していた。特に緋那岐(ib5664)は、自らも唐鍼と同じく観光気分だ。 「俺も腕が三つ欲しいー! 何故二つなんだ……」 「……狭いところはぶつかって邪魔だ」 「そういや、もふらは知ってるのか……? これぬいぐるみ、やるぞ?」 「知らない、いらない」 唐鍼に話し掛ける人がもう一人。リシル・サラーブ(ic0543)だ。 「ごめんなさいね、先の方がきつく当たってしまったみたいで。……申し遅れました、リシルと申します」 「今更だな。お前達が野蛮なのは心得ている」 「………」 とイチイチ棘を刺す唐鍼である。が、それも今は仕方ないのかも知れない。何よりお互いのことを、まだ何もわからないのだから。きっと彼の理想の中にも、私達と共有する部分はきっとある筈。 そう、全てはこれからなのだ。 「神楽の都を隅々まで堪能してくださいですの☆」 ●一日目 まず最初に、唐鍼達が訪れたのは市井だった。 そしてルオウ(ia2445)の『気分転換に服着替えよーぜ』の一言に、皆して呉服屋を目指す。 染色された幾つもの布が、私を見て、とばかりに掛けられている。唐鍼はそれを眺めていた。そこへケイウス=アルカーム(ib7387)が気付いて声をかけた。 「唐鍼。何か気に入った柄でもあるかい?」 「いや……体温調節の為の布に、こんなに種類を用意するのか」 「ははは、楽しむことが大切なんだよ」 その言葉にあまりピンとしたものが、唐鍼には無さそうだ。一応呉服屋の店主に、唐鍼に誂え向きなもの用意して貰えた。 「袖を通して、こちらが帯になります」 宿奈 芳純(ia9695)は着付けを手伝っていた。唐鍼も身を許していた、と言うより、されるがままであった。唐鍼の背中には、恐らく第三の腕をくっ付けていた名残のようなものがある。芳純はそれを隠しながら、着替えを終わらせる。すると…… 「おー似合ってんじゃん。後は髪の毛を」 ぐいっ いつの間にか羽喰 琥珀(ib3263)は後ろに回り込み、むんずと唐鍼の緑色の長髪をひと纏め。 「待て、ケダモノ。瞳が見えるだろう」 瞳とは無論、第三の瞳の事だ。 「俺みてーに耳や尻尾生えてる奴、羽があったり耳が尖ってたり角もあったり、からくりもいるんだ。三つ目なんてふつーふつー」 現に恐らくちらっと、店主に瞳が見えただろう。が、からくりか何かと思われたのか確かに気にしてはいない。 「少し違うけどみんな同じ人だろー?」 な?と眼で相づちを打つ琥珀。 (「……同じ、だからこそ悩む」) 続いてやって来たのは、市井である。 芳純が前以て人魂にて周りを確認しているので、安心して見て回っている。所々からかぐわしい香り、そこら中で聴こえる無利益な雑談。駆け回る子供の声。 そして、ここで開拓者達は重大な事態に気付かせられる。 「そ、そうなんですの?」 「ああ……だから、この前お寿司食べてなかったんだ」 「唐鍼、それは宗教的なものなのか?」 何か食べたい物はあるか、そう唐鍼から聞いたところ。どうやら肉や魚は食べないらしい。 「何故わざわざ生命を食い潰す。野菜で充分だろ」 「もしかして、唐鍼さん。あまりお肉食べている所見たくないのでは、ないですの?」 恐る恐ると聞いてくるノーマ・ビブリオ(ic0100)に、唐鍼は大きく肩を落とし口を開く。 「今更だ、何度も見ている」 少なくとも、忌避や嫌悪を覚えてはいないように見える。 とは言っても、結局先程前髪だけは死守されて、三つの瞳は全く見えない。 ルオウが代案、という名のリクエストをする。 「なら、蕎麦とかどうだ?」 「何でもいい」 その一言で、全員に蕎麦屋に向かうのであった。 「狸……?」 「実際は揚げ玉だね」 箸でプカプカと浮く衣を、珍妙につつく唐鍼。 「なぜ斯様な名前に」 「一説だと、天麩羅のタネ抜き、でタヌキになったと言う説があるですの」 「成る程」 ノーマの話に頷けば、ズゾゾゾゾ、と勢いよく蕎麦を啜る唐鍼。咀嚼すると口元が、綻ぶ辺りは無言であっても味はわかりやすい。 「どうだい市井は?」 何気無しにケイウスが聞くと、首を捻った。 「どう?」 「何か楽しめるものあった?」 「楽しい……わからないな。ただ賑やかだ」 「その賑わい。普通の人々の織り成す営みと生活。そして命達。それらを護る為に私達は彼らを害するアヤカシと戦っています」 「害する……か、お前達にとってはそうなのだろうな」 芳純の言葉に、唐鍼はそう言いながら外を眺める。どうも、彼の興味は物よりヒトにあるのかも知れない。 「この他にもアルカマル市街があるんだ。で、そこのケバブが美味しいんだよ」 「おー。後で行こうぜ!」 と答える緋那岐に、お前じゃないと突っ込むケイウス。更に、肉食べらんないじゃんと、流韻につっこまれるのであった…… ●一日目・夜 夜を迎え、無事にギルドまで帰り、夕食後全員が浴衣に着替えた。 「夏といったら花火は欠かせねーよなー」 と言う琥珀の一言より、市井で買った花火を西瓜片手に始めたのだが…… パチパチ 「………」 「………」 皆の顔を照らす色とりどりの光。だがその花火の火をただ無言で、しかも一本終わったら、次、と。着火させていく唐鍼に…… ((「い、息が詰まる!!」)) 無表情で、ひたすらに花火を凝視し続ける様に璃凛も内心ひやひやする。 そして、唐鍼の手が止まる。 「ど、どしたんや?」 「……い」 今まで花火に向けていた顔を、璃凛へ動かす。 「自ら身を犠牲にし、華々しく散る……お前達の中にも、それを知るものがいるのか」 今までに一番感情の籠った唐鍼の一言に、ルオウも固まる。 「ようするに、花火気に入った……ってことだな」 「そいつは良かった。もっとでっけー打ち上げ花火だってあるんだぜ!」 浴衣姿で、両手を夜空に掲げる琥珀。釣られるように夜空を見上げる唐鍼。 「これなら、暗くとも……か」 大部屋を借りて皆で雑魚寝をすることになった。 やがて寝息が聞こえはじめてから、ルオウ、芳純、リシルの三人は唐鍼のことを考察。 「少なくとも、彼は敵意は向けてはきていませんね」 芳純は昼頃の自分の台詞を思い出していた。特に『アヤカシは敵』と言った際に、悲しげな表情をしたのを思い出す。 「後、良く外を眺めてました。あれは確か市井の時です」 リシルはどうも、唐鍼は自分達とは違う何かを見ているような気がした。ただ、同時に彼が自分達の全てを否定していないことにも気付いていた。 「どっちにしてもよ、アイツが話してくれるまで待つしかねーよな!」 ルオウの言葉に、二人も頷くしかなかった。そう自分達で相談して決めたのだ。唐鍼が話したい、そう思えるまで待とう……と。 「何か話そうとしてますよね?」 最初の沈黙していた時より、皮肉を交えながらも確かに受け答えていたのだ。 恐らく、その時は思っていたより近くに来るのかも知れない。 そしてルオウは、一つ考えていた。もし『その時』が来た場合。自分は問うつもりだ……例え、その後が最悪の結果になろうとも。 ● あの時全てが終わる筈だった。毒入りのお茶を彼らに飲ませて、後はあのアヤカシに任せる。 だが、俺はそれを見過ごすことは出来なかった。あの時のあの感覚は、このわだかまりときっと同じなのだろう。 ●二日目 開拓者達は図書館を訪れた。そして沢山の所狭しと並ぶ、本棚を眺めた唐鍼の感想は…… 「わざわざ紙に記録など、かさばるだろうな。御苦労な事だ」 の一言である。ケイウスは、その一言に尤もだろうと思えた。前に見た記憶媒体はそれだけで、まるで夢を見るような感覚だった。 きっと、古代人もその様な技術を持ち合わせているのだろう。 「わたくしは図書館をご案内するですの♪」 「………」 そう言いながら、ノーマは唐鍼の腕を引いた。物語や絵本、簡単な歴史書まで唐鍼に言われてそれらしきものを見繕う。唐鍼もそれなりに、文字は読めるのか、それに合わせてノーマのフィフロスの活躍により、さくさくと読めていった。 「こんなに書物があると図書館の中に世界の全部が詰まってる気がしませんです?」 (「それはない」) ノーマの言葉に心の中で唐鍼は否定した。もし世界の全てがわかっているなら、自分達のことも知っている筈だ。 それなら、護大がアヤカシの親玉、なんて畏れ多い書き方もされない。 まるで夢物語のように、世界と言う名前の書物について語る。天儀のできる前からその後、そしてこれからも全てが物語になる。それは人の数だけ。 「だから、いろんな人たちと会ってもらって、唐鍼さんの物語をたくさん作って欲しいですの」 「ものがたり……?」 本を読み流しながら聞いていた言葉だったが、ノーマのその台詞だけは引っ掛かった。 「うっ、辛っ」 目が疲れた休憩にとばかりに、璃凛に渡された水。思わぬ刺激に、額から涙が出た。 「せやろ炭酸水や」 からから笑いながらと同じく、炭酸水を口にする璃凛。こうなると知っていて飲ませたらしい。 「しかし、統一者が鍛冶屋の真似事か」 璃凛から今までの経験話を聞いていた。そこで朱藩や五行の王様の話を聞いていてこの反応である。 引きこもりは兎も角、と半ば呆れていた。 「王も人間ってことやな」 「人間か……」 「うちも、この炭酸水も一緒や、薬にも毒にも成る」 なーんてな、と小さく呟く璃凛。 「押し付けやったらごめんなさい」 「……いや」 それだけ言えば、唐鍼は炭酸水を煽り、噎せたのだった。 (「大丈夫そうだね、璃凛お姉ちゃん」) 「うぉー高っけー!!」 ゴォ、と言う風鳴りが耳に響く。ルオウの希望により、都を見渡せる高台へ訪れていた。 「水羊羹うめー!」 「なぁなぁ、ここから、叫べばこだまするか!?」 「山じゃないですから」 緋那岐と琥珀は、側にある甘味処で花ならぬ、景色より団子を味わっている。 今この場には、ケイウスが奏でる竪琴の演奏が広がる。 そこにもの虚ろげな唐鍼の出で立ちは、何とも様になる。眼下に広がる都には、どこもかしこもヒトで溢れかえっている。そして、終始喜怒哀楽と賑やかだ。 「多いな」 「ここが俺たちの国だ。ほらよ」 そう言うとルオウは柵に飛び乗り、芳純から渡された林檎のパイを唐鍼に渡した。それを一口に頬張り、咀嚼しながら言う。 「食えよ、毒味はしたぜ」 「今更だ」 キッパリといい放つ唐鍼に、確かに、とルオウは笑みを浮かべた。 「良いやつも、悪いやつもやっぱいる。けどな俺はそれでも良いと思えるんだ」 「………」 それが何故か、は多くはルオウは語らない。だが自分からしてみて赤子同然のルオウなのに、自信に満ち溢れているように思える。 「壊したくない。俺これをは一つ残らず壊したくないし、その為にいるんだ」 「!?」 その台詞に、思わず唐鍼は膝から崩れた。 (「これだ、これがあのわだかまりの意味……」) 「だ、大丈夫ですか?」 リシル達が駆け寄り、顔色を伺う。唐鍼は口元を震わせて、彼女が声をかけていることにも気付かない。 「唐鍼、おい唐鍼!?」 (「ああ……そうか……俺はとうに」) 「もう、違っていたか」 「……違う?」 芳純が、その囁きに疑問符を覚えながらも、何事もなかったかの如く唐鍼は立ち上がる。 「大事ない。それよりも、次の場所は港だな」 それは彼処か、と遥か遠く港のある場所を指で示した。 「あーそうだな」 「なら先に行く、後からついて来い」 そう言えば、唐鍼は髪を手でかきあげて……その場から消えた。 「は?」 「え、ですの?」 「何ですか?」 「な、なんやて!?」 「はぁぁぁ!?」 「うぉ、消えた」 慌てる一同。がそれを眺めているルオウと流韻は、妙に落ち着いていた。 「そういや、唐鍼、瞬間移動出来たんだよな」 「寧ろ、律儀に歩いてたんだよね。ぼく達に合わせて」 勿論、大急ぎで開拓者達は高台を降りることになったのだ。 ●二日目・夕 唐鍼は一人港で、雲海の彼方に消える夕陽を眺めていた。最初の日、感慨も感傷も生まれなかったのに、今はとても胸部が痛む。 気付いてしまったのだ。ルオウが言ったあの言葉が、自分のあの時の感情だったことに…… 「もう、昔の俺には戻れない」 やがて、ガヤガヤと聴こえる声に息を切らす音、開拓者達の到来を教えた。 「ま……前もって言うてくれへんと」 「つかれたー」 が、そんなことはお構いなしに唐鍼は口を開く。 「いいだろう。問いたいことがあるならば言え」 相変わらずの無表情ながら、その口調は柔らかい。 「その前に、遅れたが自己紹介か。俺は唐鍼、護大派の古代人だ」 唐鍼は更に続ける。護大派とは護大と共にあり、護大と共に滅びを享受するもの達である事。そして滅びこそ正道であり、天儀のヒトにもそれを望んでいることを教えた。 そして更に護大は、世界そのものである、と語る。 「えっと……それが本当だとしても、なぜ護大を破壊する意味がないのか教えてもらえないかな」 あまりの突拍子もない話に、しばし言葉を詰まらせていた一同であったが、やがてケイウスが語りかけた。 「これは古い話で、俺も真偽はわからない。護大、現し身が存在す、其は墓所で眠り、護大に加護を与えん……つまりは破壊しても、やがて復活する」 「それが『無意味』の理由ですか」 芳純の言葉に、唐鍼は頷く。他にも緋那岐が、昔の都の様子が聞きたいと言う質問があった。 「墓所の中枢や重要な施設についてはあまり解らない。だいたい百歳足らずの俺が、知るわけがない」 「ずいぶん若作りだなー」 そう言う問題でもないのだが。最後にルオウが意を決して質問した。 「結局、ここで何をするつもりなんだ?」 その言葉を聞いて暫くの沈黙の後に、わからない、と言う声が僅かに聴こえた。 「だが、護大派にとって背徳と言えど、内にあるこの想いは大切にしたい」 そう言いきれば、俯いたまま拳を胸元に置いたのだ。 「そうなのですの」 ノーマには、今のが唐鍼と言う本の、天儀での書きだしに思え、笑みを浮かべる。同じく、リシルも唐鍼の胸中は掴めねど、変化があったことは理解できた。 「じゃあ、もう一つ聞くぞ。あんたは……俺達の敵か?」 ルオウの質問に、大きく息を吐いてから告げた。 「それこそ、今更だ」 |