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■オープニング本文 ここはとある酒場。ギルドで依頼を受けた開拓者達は、依頼主に指定され此処へと集まっていた。 歳の頃なら三十前後の男性なのだが、あまりそうは見えない。それは彼自身の童顔のせいもあるだろうが、それ以上に開拓者達に向ける微笑が彼を更に若く見せる。 「お待ちしておりました。貴殿らの依頼主となる、阿尾と言います。以後お見知り置きを」 煙管を着物にしまいながら、男性──情報屋の阿尾は、開拓者達に向き直った。 「実は、とある場所に向かってほしいのです」 阿尾の依頼は、あるものを持ってきてほしい、と言うものだった。阿尾の依頼と聞けば、それだけで身構えるものがいても可笑しくない。それほどに彼自身が危険で不可思議な存在として、世に名を知らしめているのだから。 彼が望むもの。それは聞くと、その場所なら幾らでも採れるらしく、それなりに重いらしい。それでいて、触感が気持ちよく、衣服を汚す…… 「ぶっちゃければ『泥』が欲しいのです」 そう、阿尾は泥を欲していた。その泥は『海泥』と言うらしい。 「塗布すると肌がみずみずしくなり、化粧のノリが良くなるんです。貴殿らもお試しになっては如何です?」 三十路過ぎた男が肌を気にするか、とも思いたくなるが、女への変装を得意とする彼にとってはかなり重要な問題らしい。 その場所は阿尾が見つけた誰も知らない穴場らしいのだが、どうやら近辺で『一悶着』やらかしたらしく、阿尾は近付けないらしい。 命は捨てたくないので、と語る辺り何があったかは察っせるだろう。 「酒樽で一つ。後は皆様でご自由に」 |
■参加者一覧
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 開拓者達は目的地へ到着した。見渡す限りの泥、泥、泥。からくり・空澄と共に不破 颯(ib0495)が大地を踏みしめた。 「泥パックねー」 馴染み深いものではないが、あの阿尾のオススメなれば効能は確かだろうとも考える。 「ねぇ、空澄――」 精々堪能していこうか、と荷物持ちをしている空澄に振り返る。 「……はい、マスター」 そこには、既に直立不動で膝下まで沈みかけている空澄の姿が…… 荷物はタオルに、水筒用皮袋、シャベル、そして仕上げに『中身入り』酒樽だ。この大荷物では、どんどんと相棒の体は泥に吸い込まれる。 「空澄、荷物をこっちに渡せ!」 「……荷物を持つのは従者の務めでございますから……」 「そーじゃなくてな〜?」 向こうで颯が慌てれば、こっちではリンスガルト・ギーベリ(ib5184)が緊急事態に陥っていた。人妖のカチューシャが、その様子にいち早く気付く。 「……お姉ちゃま、どうしました?」 「……水着を忘れた様じゃ」 そして、それの代わりというが如く主張されたソレが、リンスガルトの手に握られていた。 「どうしたのリンスちゃん?」 日除け兼着替え用の衝立。更に、洗浄用の水桶まで準備をしていた雁久良 霧依(ib9706)が問う。すると、「何でもない」とリンスガルトは言って、そそくさと相棒と共に岩影へ隠れてしまった。 「干潟の仕事みたいなものか……」 愛馬・夜空に鍬やら何やらを装着させ、仕事内容を確認していたのは草薙 早矢(ic0072)だ。 現在つけている農具を確認する夜空。どうも泥を酒樽一個分取ってくるには、この装備は大掛かり過ぎる。翔馬ながらに嫌な予感がする、夜空なのでした…… 褌一丁に着替え、ぶつくさと相川・勝一(ia0675)は独り言を呟く。 「……お酒欲しいなら自分で依頼をやるべきじゃ……いえ、なんでもないです」 気弱な受け答え。実は独り言ではなく、勝一の頭上に浮かぶ上級人妖・桔梗に話し掛けていたのだ。今回この依頼を受けざるを得なかったのは、この桔梗が『酒を呑みたい』と言う理由からだ。勝一は振り回される形でついてきただけ。 この様な会話から、二人の関係は直ぐに察せるだろう。 「どう? 似合うかしら♪」 衝立から出てきた霧依は、ビキニ「ノワール」を見事に着こなす。 「うわぁ、似合うなぁ」 「着こなしておりますよ」 「……………」 皆がそれぞれ霧依にたいし声をあげる中、勝一だけはだんまりを決め込んでいた。というよりも、なるべく目線を彼女に入れぬよう、横に流している。そして、その意味にちゃちゃを入れるほど、彼の相棒は無粋だ。 「勝一はウブよのぅ〜?」 「うっ、うるさい!」 そんなそれぞれの感想を口にしていると、リンスガルトも着替えて岩影から出てきた。僅かに耳を真っ赤にし顔を俯かせて、褌に腹掛け、ほぼむき出しの臀部を守るように相棒がくっついていると言う格好で…… 「あら、カワイイ♪」 「見事な、着こなしで御座います」 「……空澄、それちがくね〜か?」 こうして、始める前から本当に色々ありながらも、海泥の採取作業は始まったのである。 ●ドロドロ シャベルや鍬、それから樽を沈めたりと各開拓者がそれぞれの方法で海泥をかき集めていた。しかし、地面の泥は予想以上に足を取り、歩くだけでも場所によっては一気に足首まで沈むために重労働だ。勝一も顔に泥を跳ねさせてながら、泥にはまったシャベルを引き抜く。 「うわぁ!?」 そしてお約束どおりこける。 「ほれ、手が止まっておるぞ」 「桔梗も手伝ってよ」 「手伝っておるじゃろ?」 と言いながら、酒樽の中のぶどう酒を空中で舌鼓する桔梗。彼女曰く、酒樽の中身を空けなければ泥は詰められぬ。その為これも立派な仕事じゃ、と言い張るのだそうだ。別に予備の樽はあるのだが…… 「プハーッ!わしを言い負かそうなぞ100年早いのじゃ」 (「後で覚えておけよー!!」) 颯も泥を掘り進めていた。掌が沈むほどの深さまで掘れば、少し固い泥になるらしくそれを重点的に集めている。流石に樽を沈めて直接入れるには泥は重すぎた。 颯はふと、泥をひとつまみする。ザラザラ、という言葉が想像出来ない程に粒子が細かい。何よりさわっていて気持ちがよいのだ。少しくらい貰っても、と彼の脳裏に魔が刺す。 「……マスター」 まるで貴方の考えていることお見通し、とも見える空澄の無表情に慌てて弁明する颯。 「ん? べ、別にちょっとぐらい持って帰ろうなんて――」 狼狽の声を隠せない主に、無表情で空澄は手のひらを霧依と早矢に向けた。無意識に颯も、その手の方向へ視線を向けると? 「それそれそれ!」 「霧依さん手際良いですね〜」 ドササ、と量産販売でもするのか、と言いたいほどに泥を集める霧依と、早矢とその相棒。 「うちの田舎では、田植えの前に泥んこ祭りっていうのをやるの♪ だからかしら」 「ほーら夜空も、霧依さんに負けないよう頑張る!」 「ブ、ブヒヒヒーン……」 泥を闊歩しながらも、「その大量の樽は自分が持ち帰るのかー!!」と嘆く様に翔馬が嘶いていた。 「あの様に大量にお土産になさっております。とすればマスターの行為は許容範囲と推察致します」 「ああー……うん」 そうだねぇ、としか応えられなかった。 ●美容に、遊びに、セクハラに!? 「終わったぁぁぁ」 「ヒヒーン!!」 ビッチャァァァァン! 皆で酒樽に海泥を摘め、蓋をし終えたところで早矢と夜空はいち早く泥に頭から飛び込んだ。 「ほーら夜空、泥浴びだぞ、泥パック!」 ココが緩い泥溜まりなのか、バチャバチャ、と音を跳ねさせて早矢は泳ぐ。それに呼応する様に、夜空も身を屈めて泥を大きな図体に擦り付ける。とても気持ちが良いのか、泥が跳ねるのも気にならないほどだ。 泥に潜行すれば、両足(四つ足)だけををバタバタさせて…… 『オコシテ……オコシテ………』 「そう言うのあぶないぞ」 「なーにやってんだ、ありゃ」 空澄に葡萄酒を杯に注いで貰いながら、颯は腰にタオルを巻いて泥に浸かっていた。日で焼かれた皮膚に、泥の冷たさがちょうど良い。向こう側で行われる、馬と人の戯れに若さが滲んでいて。身に染みていた。 隣には仰向け大の字で泥に浸かる霧依がいる。 「んん…一仕事終えた後の開放感っていいわね♪」 ぷかぷかと泥に浮かぶ黒地の丘二つ。雄々しく大地に寝そべる霧依に、苦笑いを浮かべる。それからやがて、隣で給仕をしてから待機していた空澄に目を移す、。お前も入れ、と颯は促す。最初は自分はからくりだから、と遠慮していた彼女であったが…… 「こう言うものは気分だろ〜?」 と言う主の言葉に従った。従ったは良いものの、もとより体は陶磁器、白くてツルツルである。 やはりこれでは意味がない。それにどうせなら、空澄はヒトである颯にツルツルになって貰いたい。髪にも効果があるならば、塗布してあげようと思う。しかし颯が座った状態では、指が頭皮など細部までは届かない。 こうなれば…… 「マスター失礼します」 「え、うぉ!」 空澄は颯の背後に立つと、肩を引いて彼を引き倒した。後頭部が何かに当たると、頭上には空澄の無表情があった。要するに膝枕だ。 ペタペタペタ…… そして、颯の長髪へ丁寧に無言で泥を纏わせ頭を揉んでゆく。手櫛で自分の髪を鋤く空澄に、苦笑いをしつつも、颯は制止させることはない。そして、制止されることはない。相棒もそれを理解した上で、作業を続けているのだろう。 「アラアラ、ふふ」 大人組が、優雅に泥を満喫している頃。おこちゃま組の間で、泥のつぶてが飛び交っていた。 ことの発端は勝一から始まる。仕事を(勝一が)終えても未だ酒に舌鼓を打つ桔梗。これは絶好の応酬する機会だ。 片付け、と称して機を伺い、泥を握り締める。 「……隙ありですよ!」 ベチャ! 「働く者達を見ながら飲む酒も美味じゃのぉ。……ぬぉ!? な、何をするの、じゃ!!」 「たまには僕も反撃することがあり……わぷ!? ちょ、桔梗、倍返しどころじゃないでしょ、それは!?」 桔梗は素早く勝一の周りを旋回。そして泥団子の応戦だ。無論人妖のすばしっこさに、彼はついていけない。そしてこれまた予定調和の如く、泥団子の一つがリンスガルトに直撃する! 「やりたおったな〜そら!」 そして始まるのは、単語通りの泥沼の戦いであった。勿論、この勝負に勝ち負け何てない。ただ単に泥団子を投げて、相手にぶつけるだけなのだ。それなのに、これ程に興奮するのは何故なのだろう。 カチューシャもまた、チラリチラリとリンスガルトのお尻を隠しつつ、気にしつつ、他の泥団子を三人に投げ付けていた。 だが、彼ら四人は知らない。自分達に迫る危機のことを…… (「フフフ……」) 全身に泥を塗り這い寄る混沌、草薙 早矢。ターゲットは無論、彼ら(おこちゃま達)だ。泥の中を潜りつつ、今か今かと手をワキワキさせている。 『アードロンコ、キモチイーヤ』 と、夜空は気にしない方を装い、未だ頭を泥に擦り付けている。 「はぅぅ、やりすぎじゃないですかー? 別に肌はすべすべにならないでもいいですよ!?」 「ふんっ。わしに泥を投げつけた主が悪いのじゃ。ま、それだけ泥塗れになれば、お肌はすべすべになるじゃろうて」 「てやっ、此方も忘れるでないぞう」 「んな! やりおるのぅリンスガルト」 機を伺い、標的リンスガルトに二本の腕が迫る。目前には白く、熟れたとは言いがたい水蜜桃。 ((「「もう、我慢出来ない!いただきま〜す!」」)) がぶっ 「ギニャァァァ〜!!」 悲痛な叫び声に、思わず声の方に振り返る三人。そこにはリンスガルトの背後で、カチューシャに手首まで噛まれ、泥んこをのたうち回る早矢の姿があった。 「ふぁ、ふぁれ?」 「イタタタ、ごめんごめってば。ほんの冗談だって!」 元々言葉も喋れないが、夜空は主のザマに言葉がでない。 「ククク……おもしろい……」 「何をなさってるんですか……早矢さん」 呆れ気味な勝一に、笑声を隠しきれない桔梗。いい大人(結婚済)が送られる視線でないことは確かである。 「うむ、助かったぞカチュ」 「お、お姉ちゃまの為ですぅ!」 頭をなでなでしてくれるリンスガルトに、まさか『桃を噛じろうとしてました』等とは言えない雰囲気のカチューシャでしたとさ。 さて、泥遊びも一段落し、リンスガルトとその相棒が草臥れたところで、霧依は向こうでマッサージしてあげる、と衝立の向こう側に連れていった。勿論彼女達も同意の上で、だ。 「ふああっ……柔らかくて暖かくて全身が蕩けそうじゃっ……こんなの初めてなのじゃあっ……」 「姉ちゃまぁ! 私、へんになりそうですぅ」 「んふふ……たっぷりサービスしちゃうわ♪ ひゃう!? そんな所に入れるのかぁ!」 「アラ? しっかりマッサージしないとダメだもの♪」 「ひゃう、ふぅ……ん、ん」 特に他意のないマッサージがリンスガルト達に降りかかる。 悲鳴なのか、笑い声なのか、はたまた別な何かか。それが聴こえていた勝一と颯は『何故か』泥に肩までしっかり浸かっていた。 「なんつーか、毒だよな」 「です……ね」 若干視線が泳ぐ男二人。その様子を無言で見守る相棒達。 「「………………」」 かたや、ニヤニヤ。かたや、無表情なのが何ともその場に不思議な雰囲気を醸し出していた。 「ちょ、何を目の前で繰り広げてるの! ねぇ、開けてください〜! もう何もしませんから〜!!」 因みに何故か、霧依達のすぐそばの重石の置かれた樽がガッタンガッタン動いて、女性の声がしたことを付け加えておこう。 ●帰り支度 楽しい時間はあっという間に過ぎて、あんなに青かった空も泥地の上で今は赤くなっていた。 「水をありがとう御座います」 泥を落とした髪を、横に垂らして颯は指通りを確かめる。 「これも空澄のおかげだ、ありがとな」 「マスターのためですから、当然です」 まるで流水に触れているかのように、重力に従い黒髪はストンと下に落ちた。やはり、阿尾の情報は侮れないな、と同時に颯は思案した。 「お役にたてて何よりよ♪」 泥だらけのまま眠ってしまったリンスガルトとカチューシャを、水で洗いながら霧依は応える。きっと、余程マッサージが気持ちよかったのだろう。体が綺麗になれば、そのまま着せ替えを始めた。 「んー一仕事したのぅ。お肌もツルツルじゃ」 「殆どお酒飲んでただけじゃないか。大体効果があると思えな……いたっ」 ほっぺに触りながらホクホク顔の桔梗に、思わず茶々を入れれば頭上に蹴りを一発。黙らせた。 「やー良いお土産が出来たね」 ドサッ 「ブルルルッ!?」 早矢が夜空に乗せたのは、大量の海泥入り樽を四つ。彼女はこれで翔べ、と笑顔だ。因みに全く反省の色は見えない。 「じゃあ頼んだよ!」 『アトデニンジン、ニンジンヲ』 こうして早矢は夜空の背に飛び乗った。こうして、夜空は飛び立った。但し、樽の重量のおかげか、速さは期待出来なかった。 リンスガルトは寝息をたてている。身体を優しく現れていたとはいえ、全く起きる気配がなかった。きっと余程疲れたのだろう。 その背中には同じく金髪を揺らす、カチューシャがいた。 霧依は肩に彼女達を担ぎながら、滑空艇を飛ばしながら帰路へついていた。 「んむ……お、姉ちゃま……」 「ん、カチュ……負けぬ、ぞぉ」 寝言を呟く二人に霧依は、変わらぬ微笑みと一段と妖艶な声で呟くのだ。 「……んふふ、おいしそうねぇ……」 |