郷愁
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/02/22 16:04



■オープニング本文

 ここは神楽の都のはずれ鴨弥 忠禅(iz0273)の屋敷だ。彼は今、開拓者に依頼を出し終え、火鉢の炭を火かき棒で砕きながら暖をとる。
 今年も寒くなってきた。その内、雪も降るだろうか。その前に蔵の書物の整理を行うべきかなどと考えを巡らせていた。

「ねぇ……会長。なんであんなこと言ったの?」
 忠禅の思考を別方向に向けたのは、この屋敷で世話なっている修羅、流韻だ。手には盆と湯飲みと板海苔を巻いた焼き餅。先程忠禅が彼に頼んだものだ。

 流韻の言う『あんなこと』とは、忠禅が依頼した依頼のことであった。

 今回の依頼は忠禅の息子、明扇に関するもので、彼は現在とある山奥の監視塔を訪れていた。前々より新たな流通の開拓を前々から行い、現在その下見を赴いているのだ。
 忠禅はその一隊に差し入れと、監視塔の彼らの慰安を兼ねて料理を作ってあげて欲しいと言うものであった。
 その時忠禅がこう話していたのを、流韻は聞いていた。

『皆には「この依頼は明扇からのものだ」と言って下さいますかな?』

 流韻にはその理由がいまいちピンと来なかったらしい。第一、忠禅が出した依頼だと言うのに、なぜ明扇が行ったとする必要があるのだろうか……
 漆塗りの小皿から餅を掴めば、湯気を冷ますようにため息を一つ。困ったように目を細めて、流韻の問いに応えた。

「彼はまだ、郷愁の恐ろしさを知らないのだよ」
「『きょうしゅう』?」
「だからこそ、明扇の依頼で無ければ……ね」


 冬だというのに北面に属するその山は、神楽の都より比較的暖かい。
 しかし、そんな場所でも一人困窮する成年がいる。商家鴨屋の若き現当主、鴨弥 明扇その人であった。
 常日頃から冷静で、表情を歪ませる事をしない彼だが、今は顔に色すらない。
 開墾作業は予定の半分も達成されておらず、広がるのは中途半端に斬られ置かれた丸太の数々。耕されず固く乾いて白みを帯びた畑の土。
 今になって彼が思い出すのは、出立前にうけた忠禅の警告だ。

『明扇や、食料が足りなくないかね? 私としては出来れば、もう少し日保ちのする漬け物や乾きものも増やすべきと思うよ。他の荷を減らしてでもね』
『先代。いくら山奥といえ、向こうは食料も豊富ですから、無理に増やす必要は無いでしょう』
『いやはや。きみはまだ、長旅の怖さをわかっていないね……』
『航路の長さを計算し、幾分か増やしてはある。親父は口を出さないでくれ』

 その後忠禅は、渋々提案を退いた。意味深に「これも勉強だ」と、最後に明扇に添えて。
 そして、その意味を明扇は嫌と言うほど実感してしまった。明扇の予想通り、この地域には狩猟の獲物も、野菜も豊富であり、持って来た食料は無くなれど食料に事欠かなかった…………のだが。

『ああ……空が広い、元気かなおっかさん』
『またこの味かよ……甘過ぎだろ……』
『故郷はもう冬ですね……ここはこんなに暖かいのに、アハハ変な気分』
『ふーるさーとのー木々は見えぬー』
『海はいずこよ、緑緑緑緑』

 そう。同じ天儀といえど、風土は大きく変わる。加えて食べ慣れない食物に、見知らぬ土地だ。
 数月とこの場所にいた彼等の精神はすっかり擦り切れていた。一人症状が出れば、次から次と膝で出来た三角座りと丸まった背中が完成していく。
 元より隊は、神楽の都の出身者が多い。食生活が変化が追い討ちを掛けた。
 彼等はやる気をなくし、作業効率は下がる一方である。監視塔の役人達も心配し、彼らを気遣ってくれるが、症状は一向に良い方に向かない。
 今は自ら浅はかさを悔いるしかない。明扇は痛いほどに拳を握り締める。重症の者を一時的に帰すのもまた、一つの手かも知れない。だが遅れている予定を更に遅らせるべきではない。
 何よりも、次の定期船がこの土地を停泊するにはまだ数日以上かかるだろう。

「オレはどうすれば……」

 明扇が籠る屋内に、開拓者達が現れるのはこれより四半刻後であった。


■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
黒葉(ic0141
18歳・女・ジ
御堂・雅紀(ic0149
22歳・男・砲
近衛 棗(ic1327
23歳・女・シ


■リプレイ本文

 それは鴨弥 明扇にとって、名前通りの助け船であった。役人達から、明扇に依頼され慰安に来たと言う開拓者達が訪ねてきたと連絡があったのだ。
 明扇は急ぎ、彼らを迎え入れて詳しい話を聞く。五人の開拓者達が大荷物を携え、彼に詳細を話し始めたのだ。
 忠禅が明扇の依頼だと偽り、監視塔の慰安に、と開拓者達が料理を振る舞う依頼を出した。この話に彼は押し黙ってしまう……だが彼は理解していた。またとない好機であることを。
 明扇はただ一言すまない、と小さく彼等に告げてから、開拓者達やここにいる全員に聞こえるよう更に言うのだ……
「では、依頼した通りに頼む……」


 明扇に案内され、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)、雁久良霧依(ib9706)、黒葉(ic0141)、近衛 棗(ic1327)は監視塔の調理室へ早速入室した。長時間滞在する為に造られた施設のせいか、調理台の広さや、調理器具はかなり充実している。
 リンスガルトは早速出発前に、忠禅に貰った情報を他の開拓者達へも開示する。隊の故郷の情報を集めていたのだ。本当は、故郷からの文などもこちらで用意出来れば何よりだったのだが、その暇が出発前に無かった。その代わり忠禅は、バッチリ他の情報は教えてくれたのだ。なんとも用意周到なこと。
「味噌は白より、赤が良いらしいのじゃ」
「わかったわ、リンスちゃん♪」
 霧依に教わった通りに手早く米を研ぎながら、リンスガルトは同時に彼女に故郷の味付けを教える。リンスガルトは、あまり料理が上手いとは言えない。しかし、今回ばかりは失敗は出来ないので彼女も張り切っているのだ。
 霧依が、故郷特産の極太葱を菜切り包丁で斜めに切る度、耳に触り良い音が響く。
 黒葉は、その隣で冷凍してここまで持ってきた鰹の切り身を、切らずにまるごと網で炙っていた。山の中ならば、磯の香りのするものと忠禅に相談した。するとご丁寧に下拵えまでして鰹を持たせてくれたのだ。他に米焼酎まで揃えて貰っている。これは忠禅他皆さんの期待に応えなければ、と彼女も奮闘していた。
 調理室の近くには早くも人だかりが出来ていた。役人達や、隊の人々が慰安のことを人伝に聞いたのか、興味本意で集まってきているのだ。
「流石明扇様だな。我らを気遣い、無料で慰安など」
「ああ……一時はどうなるかと」
「見直したぞ。若旦那と言うだけあるんだなー」
 明扇の予想外の労いに称賛の意味でこぼす言葉。そう、これこそが忠禅の狙いであったのだ。明扇と言う人間を引き立たせ、尊敬を集めさせる。
「………」
 そして同時に、明扇の戒めにも出来るのだ。
 彼とていくら若いとはいえ、もう子供ではない。公と私の分別もつくし、父親が何を言いたいかも理解出来る。
 しかし、血縁者だからこそ残る消えない蟠りもあるのだ。
「依頼主、玉子焼き器はあるか?」
 棗が手招きをして問えば、応えるように明扇は近付く。そして、使われた形跡すらない四角いそれを探し当て、棗へと手渡したのだ。
「こいつだ」
 そこで笑みを浮かべながら棗は礼……と明扇だけに聞こえる小声でこう耳元で囁いた。
「食事は日に三度、生活の中で一番回数の多いもの。体を作るだけでなく、心の栄養でもある。その影響は…この場を見れば一目瞭然だな」
「……それも先代からの言伝て、か?」
 腕をまくりながら、水に浸した干し椎茸を絞りつつ、棗は軽く首を振った。
「いいや、あたしのお節介だ」
「…………」
 何を言うでもなく、明扇はその場を後にした。

「では、後は任せたのじゃ」
 リンスガルトは研いだ米に、みりんや、酒、醤油を入れて炊くと火の番を霧依に任せた。多分自分が見ているより、正確に飯を炊き上げてくれる。
「任せておきなさい。炊けた時は手取り足取り……じぃっくり教えてあげるわ」
「あ、あの霧依様……言い方が」
 黒葉が何かを勘づいて言うも、気になるの、と何とも艶かしげ霧依が応えれば、ふるふると耳を動かしながら、無言で首を横に振ったのであった……
「あら残念」
「おい、そこの鍋吹き零れるぞ」

●現状
 リンスガルトは監視塔を離れ、雑木林へ足を運んでいた。最初に彼女が出したのは溜め息。
「大の男が何という体たらくじゃ……」
 精も根も尽き果てたように、何をするでもなく切り株に座る輩がチラホラと見える。ここの様子を見れば、まだ監視塔に居た彼らがあまり重症では無い連中だと良くわかる。
 給金もそれなりに貰っているだろうに、だらしないな、と聞こえない様に彼女は呆れて溢した。
「そう言うな嬢ちゃん。人間って難儀なもんなんですよ」
 聴こえた声は、アーマーを中で操縦しながら、散らばった丸太を片付けていた御堂・雅紀(ic0149)のものだ。彼と、雇用関係にある黒葉の二人は、各地を転々としていたこともあり、郷愁自体はある程度身に染みている。だからこそ、雅紀は率先として後片付けを行っているのだ。隊の皆が無事に仕事に復帰した後、少しでも精神的な負担を取り除く為に。丸太は揃えて立てかけ、細かい枝葉は山積みに纏めていく。
「汝に一つ聞きたいのだがの」
「ん、何ですか?」
「あれは何じゃ。彼処にあると言うことは、食料では無いのであろ?」
 リンスガルトが目を物置小屋に向ける。それは出発前から後生大事に雅紀が持ってきた、一抱えもある布でくるまれた荷物だ。
 ギクリ、そんな音がアーマーの中から響いた……様な気がした。
「な、なななんでもねぇって!」
(「バレバレじゃな……」)
 そして、一通りの片付けを終えた雅紀はアーマーから出てくると、ずれた眼鏡を直しながらこうリンスガルトに話した。
「ちょっと向こうの様子を見てきます。くれぐれも荷物のこと、黒葉には話すなよ!!」
 丁寧だか、ぶっきらぼうだか、わからない捨て台詞を吐きながら、雅紀は監視塔へと向かって行ってしまう。やれやれと幼いながらに、事情を察するリンスガルトは、気を取り直し自分も開墾作業を手伝うことにした。
「道具の手入れでもすれば良いかのう」
 そしてまた、林の辺りを見渡す。アーマーが停まった以外何も変わらない。動かない隊の面子にいい加減苛つきも限界で叫んだ。

「妾の様な幼子が汗水垂らすのだぞ、皆もシャキッとせぬかぁ〜〜!!」

 様子を見に雅紀が調理室へ向かえば、彼を芳ばしい薫りが出迎えた。一仕事終えた雅紀の腹にとっては、抉られる程のたまらない一撃だろう。
「主様、主様……これ、どうです?」
 菜箸で切り身を挟み、黒葉が雅紀の口を開けるように促す。未だ出来立てのそれを、空腹の雅紀は迷うことなく口に入れた。咀嚼すること数度。彼は笑みを浮かべて応える。
「……そうだな……大体こんな感じか。しかし良く再現できたな、黒葉」
「タタキですし。皆さんも手伝って下さいましたので」
 焼いただけ、そんな風に謙遜する黒葉。だが、頭上の神威人特有の獣耳を見れば、歓喜は一目瞭然だった。
「あたしらは何もやってないさ」
 根菜の煮しめに落し蓋をしながら雅紀に言う棗。同じく、うどんを味の付いた醤油出汁で煮込みながら、同意する様に霧依も頷いた。

「そうだ……そろそろ炊き上がるから、リンスちゃんを呼んできてくれない?」
 これで飯が完成では無いことを知る霧依は、手に道具に指を入れて持ちながら雅紀に伝えたのだ。
 

●いただきます
 程無くして料理は完成した。失敗することもなくて良かった。手を米粒で汚しながらリンスガルトは、ご馳走を並べ始めた。
 監視塔には食堂もあるのだが、たまには外で食べないか、と言う明扇の提案で見晴らしの良い場所で食事をすることになった。
 ぞろりぞろり、懐かしい匂いに足を引かれたのか隊の人達が集まり始めた。
 大鍋二つを器用にかき混ぜる霧依。鰹出汁を利かせた、キノコと野菜と鳥のおっきりこみうどん醤油仕立て。もう一つは特製の根深汁(葱の味噌汁)だ。
「極太の葱が満載なのよぉ〜♪」
 最初に動いたのは役員達だ。大きな茶碗を手に、葱だ野菜だと駆け付ける。そして、次はこちらとばかりに黒葉が大皿に温かな鰹のタタキをどん!
 もう一丁とばかりに、リンスガルトが薄い大きな四角い盆に、先程炊いたご飯を物相を使い猫の形に抜いて焼き海苔で飾りを付けたものを持ってきた。
「さくらごはんのにゃんこ握りの出来上がりじゃ」
「桜……?」
 ほんのり色付いたその握り飯には、とても暖色とは思えない茶色。しかし、かぶり付いてみれば、そんなことも気にならないくらいに美味。
「桜……もうすぐあっちも、春なんだろうな」
 噛み締めれば味醂の甘さと醤油がちょうど良い塩梅で、無意識にもう一個と食が進んでしまう。
「こちらもどうぞ」
 黒葉は、酒器に焼酎に注ぎ、梅干しを浮かべて手渡した。こうしたことで味の変化と、食欲の増進を促せるのだ。どれもこれも、かなり好評で其処彼処で啜り、飯をかっ込む音が聴こえた。
 だが、中には箸にすら手をつけない面子もいた。その様子を明扇も傍観する。箸をつけなかったのは、彼もまた然りであった。
「ほら、食いなよ」
 棗は彼等へと配膳をする。白飯、味噌汁、焼き魚に、出汁巻き玉子に納豆と根菜の煮しめ、そして白菜の香の物だ。一人が無言で漬け物に手を出した。
「…………」
 次にワカメの味噌汁。それをご飯にぶっかけて胃の腑に流し込んだ。飯茶碗はあっという間に空になる。
「うぷっ……」
 肩を震わせて、俯き嗚咽する。言葉に出来ない。塞き止めていた何かが、彼を動かした。棗は男の肩を叩きながら、喰え、ただ一言だけ言うのだ。
「男を掴むには胃袋を掴め、だな」
 と、周りの女性陣に棗は話した。あまりに当たり前の食事、だが時として人はその当たり前が命綱となることもある。これがこの光景であった。
 その光景を皮切りに賑やかさは増して、今まで手をつけていなかった人達もゆっくりだが食事を始めたのだ。明扇も同じく白菜の漬け物を一口噛み締めていた。
(これは……)
 何かを想う明扇。だが誰もその意味に気付かない。
 昼間だと言うのに酒が入って笑い声が場を和ませる。頃合いか、そう思った所で黒葉が石舞台に移動した。
「余興に一舞……と行きたい所ですが、囃しも無しでは盛り上がりに欠けます……かね?」
 はたと、舞を舞おうにも音源が無いことに気付き立ち尽くす黒葉。そこで雅紀は箸を茶碗に置いて、何かを手に立ち上がる。
「舞に音楽がないってのもなんだろ。併せてやる」
 それは先程リンスガルトが発見した謎の荷物である。掛けていた布を外すと、形の良い平家琵琶が姿を現した。
「……何時から練習してたんでしょう」
 おお、と言う一同の声が上がれば、雅紀は黒葉の背後で胡座を掻いて、銀杏の葉に似たそれを弦に乗せる。
 突然の主の行動に目を丸くする黒葉。よく見ると、雅紀の指がボロボロだ。恐らく何度も練習して弦で切ったのだろう。
 自分の舞いと併せるため、そう考えればその痛々しい傷に申し訳なさを覚えても、黒葉は笑顔になる。
 二人は一度だけ視線を交わしてから戻し、舞と曲を開始した。弾むような調子で足音を響かせ軽やかに舞う彼女に、雅紀は精一杯の演奏を披露した。
 息は勿論ピッタリ……とは流石に行かなかったものの、黒葉の助力もあり二人の演舞は中々のものであった。


 さて、食事会を終えれば。へべれけになる輩もチラホラと出てくる。明扇も慰安の意味を知らないわけではない。
 『今日は各自好きにしろ』と言う命令が先程彼より出たのであった……

「ほらぁ、もっと積極的でも良いのよ。男でしょぉ?」
「くっ……霧依のアネさん、か……勘弁」
 焦りを滲ませる男に、霧依が手慣れた所作で……捲る。
「はい三光! また私の勝ちね♪」
 彼女が気分転換に持ってきた花札は、彼女のこいこいの強さもあり、かなり白熱している。

「太陽の正位置。約束された将来と未来への発展―と言った感じです、上手く事を進めて、故郷に凱旋……と言うのは如何です?」
「そ、そうですか! ヨシ!」
 不安にぼやく人々に、黒葉は占いを行っていた。場合によっては、イカサマと取られる『モイライ』も今の彼等には活力になるのだ。

 娯楽に嗜む一方で、食事で取り戻した闘志を今すぐ放出したい隊の面子もいた。そんな彼らはリンスガルトと共に、畑を開墾している。多少の寒気を気にせず、雑草取りに汗と泥にまみれた幼子の姿、が彼らの負けん気に火を着けたらしい。
「ようし、この勢いで、頑張ろうではないか皆の衆!」
「「うおおおお、負けるもんかぁぁ!!!」」
 歓声にも似た一部宗教じみたやり取りを、棗は鍬を使い腐葉土を耕し眺めるのであった……
 そこに様子を見に来た明扇が訪れる。そして彼は棗に尋ねたのだ、あの白菜の漬け物は忠禅の手作りだろう、と。
「おや、わかるかい?」
「芥子菜でな。ガキの頃から食していたんだ……ずっとな」
 母親は幼い頃に亡くし、それから父一人が自分を育てたのだと話す。そして更に淡々と言うのだ。
「お前の言葉嬉しかった……おふくろって、叱られたらこんな感じか」
「未婚の女性に失敬なやつだ」
 苦言を漏らしつつも、僅かに口元を上げながら棗は鍬を振り上げた。きっと明日には、また開墾作業が始まり沢山の声がこの場所に溢れる。明扇は隊の様子にそう確信した。


「手伝おう」
「若旦那に出来るのか?」
「……教えてくれ」