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■オープニング本文 某日、とある商隊の飛空船が泰国南方にて難破し、偶然に小さな無人島に漂着する。海岸で修復を行った数日の間に訪れる者もなく、おそらく完全に無人の島なのだろう。温暖な気候は野外での寝起きも苦にならぬ程。帰国後、商隊は無人島の発見を届け出る。 「……風光明媚なだけかな、と思い、からくり主体の調査団を送ったところ、これが意外と面白い所のようなのです。できれば早めに再調査したいのですが……」 泰国は動乱の終結直後で、すぐに全面的な調査を行う余裕はない、と春華王は柔和な表情で言う。さっぱりした格好は御忍びゆえで、今は春華王と呼ぶべきではないのかもしれないが。 「なるほど、それで開拓者に調査をと?それはありがたく。皆も喜びましょうぞ」 大伴老は、察したように笑みを見せた。いかに貴重な宝珠を蔵しているとはいえ、無人島の調査など来年でも良いし、危険も少ないのだから依頼を出す必要性も少ないし、少人数で十分なはずだ。つまりこれは、依頼の形を借りて風光明媚な無人島でのんびりしていい、泰国からの開拓者への礼……というようなものだろう。 ●新たな生物を求め…… その情報はその内に、天儀にも伝わり、ここ北面に属する源繋の統治者、高戸 賢吏(iz0307)の耳にも届いた。しかも、とある呉服屋の娘は既に意気揚々と森へ探検に向かったと聞く。 考える暇が勿体無い。彼はその日の内に開拓者を集め、依頼内容を説明し始めた。内容は北海岸地域一体の生物調査、及び採集であった。 元より、生物を商いに発展した源繋。その他にも各地域の生物調査や繁殖、研究も担っている。未開の島に未知なる生物がいるのでは、と考えれば賢吏が調査に乗り出すのは至極当然であった。 「採集は最低一匹一種。必ず、生きたまま持って帰ってきて下さい」 採集後の飼育や調査があるため、なるべく生物の身体に負担をかけないように、そう開拓者達に賢吏はお願いする。 「それで出来ればですが、釣りは水中で行って貰えないでしょうか?」 賢吏は、とある提案をした。通常釣りとは、水面に針のついた糸を垂らして行うものだ。 賢吏が言うのは、これを水中でやれ、と言うことだ。聞いたところ、水中は岩礁が多いと聞く。釣った魚を岩等に擦り付け、鱗などを傷付けては生命に関わる。 その為に賢吏は、水中での釣りを推奨した。 「釣り道具、エサ、水中呼吸器は俺が提供致します」 だが、今の季節は晩秋。いくら雪は降っていないと無人島言えど、水中は普通の格好では、外の温度の比ではないだろう。 他にも磯での採集や、海鳥の監察なども頼むため、無理でなければ水中釣りをやってほしいと……是非、やってくれと年齢のわりに輝かせた瞳で訴えつつ、賢吏が声を張り上げる。 話せる所はこの辺りであろうか、と書類を捲った。 「それか、ら……もし釣ったお魚たんを食べるなら構いません」 魚を食すこと、これ自体は生命を蔑ろにするものではない。賢吏も自らは生物を殺せぬが、他人に制限を強いたりはしない。何より、開拓者にも少しくらい楽しみは必要だろう。 「但し、各自『自己責任』です」 と、同時に沢山の図鑑らしき書物を、開拓者達に渡す賢吏であった…… 「本当なら俺も同行したいが、場所が場所だからな。ではお願い致しますよ」 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
ミリート・ティナーファ(ib3308)
15歳・女・砲
リュミエール・S(ib4159)
15歳・女・魔
澤口 凪(ib8083)
13歳・女・砲
雲雀丘 瑠璃(ib9809)
18歳・女・武
松戸 暗(ic0068)
16歳・女・シ
リズレット(ic0804)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 岩に波飛沫が散る。海はうねりを上げてはいるも、潜るには大事ない程度であった。水着姿になった天河 ふしぎ(ia1037)は、新たな冒険の到来に胸を躍らせていた。 ビシリと白い猫の手が海を示す。猫心眼を使い、ポイントを教える仙猫の雪とその主ルオウ(ia2445)だ。 『ボン。あの辺がいそうじゃないかと』 「確かに鳥の群れもいるな!」 心躍らせる人物がいる一方、オドオドと不安がる面子もいる。特に潮は、獣人にとって致命傷である。その為に採取後の毛並みのケアはかかせないと雲雀丘 瑠璃(ib9809)は準備する。尖った耳を労るように触れて悩んではいたものの、両手を握り締めて海に入る覚悟を決めた。 「リズちゃん頑張ろうね〜♪」 「は……はい、空賊団の皆さまと一緒ですし」 水着姿で背後より抱き付くミリート・ティナーファ(ib3308)に驚きながらも、リズレット(ic0804)は振り替り微笑みを浮かべた。 薄手の真っ白な絹衣を羽織った澤口 凪(ib8083)も、筆記用具でこの場所の様子を書き込みつつ、二人を見守った。次いでにふしぎへ、団長殿、と強めの一言。 「べっ、別に気になんてしてないんだからなっ…でもみんな、よく似合ってると思うんだぞ」 と顔を赤くして言われても…… 「海辺の生物捕獲ならまかせるがいいでござる!」 「呼吸器なんぞなくともどうということもないわ!」 そう言うが早いか否か、釣具も持たずに相棒の蛙と共に共水踊で松戸 暗(ic0068)は海に潜って行ってしまった。高速泳法で潜る一匹と一人は、あっという間に姿を消した。 それに乗じて、次々と皆海に飛び込んでいった。 「よし、誰が新種を発見できるか、競争なんだからなっ!」 「負けないよ〜!」 「つ、つめてー!でも我慢!」 「さってほどほどに仕事してほどほど遊びますかねぇ」 「はわわ、っと、準備運動を忘れないようにしないと」 「潮……やはり苦手です」 七人を岩場から見送るのはリュミエール・S(ib4159)だ。海に入ることを寒いから、そして首から下のストーンとした都合により雪と待つことにした。 「んー、肉体労働はお任せ?してのんびり釣りでもしますか」 ●捕獲開始! 当たり前だが、この時期の海水は冷たい。しかし、それも暫し泳げばそれも慣れる。ふしぎは術技を頼りに魚の気配を察知し、魚群のいる岩礁に辿り着いた。その岩礁が住み処なのか、沢山の魚が目視出来る。悠々と緩やかに魚は泳いではいるものの、流石に手掴みは無理であろう。 賢吏に注意された通り、足音を立てず静かにオモリのついた釣糸を垂らした。 それにミリート、リズレット、瑠璃も近場の岩礁にて続く。 エサを魚の少し手前に泳がせれば、最初の食いつきは早かった。 (「きたきた!」) 針が魚に引っ掛かれば、後は巻き取るのみ。糸が切れぬ弱力で釣車を巻く。魚が抵抗を見せるも、手元に来れば魚籠に入れられる。 掌ほどの大きさの魚なら、この辺りいくらでも釣れそうだ。自慢気なふしぎに対し、ミリートは水中で見事と拍手を送る。無論音は出ないが、誉められて悪い気はしない。彼女のゴーグル越しに、照れ臭げな黒髪の少年が映っていたしっかりと見えていた。 リズレットも負けてはいられない、と竿をしっかり握り締めて振りかぶる。 そして、見事に針がガッチリとキャッチしたのだ………胸元の水着の胸当てに…… (「だう!?」) (「ーーー!?!?」) 何が起きたかは、直視してしまったふしぎが底に沈んで行くのを見て、察してくれたら嬉しい。 後方のハプニングに顔を覆いつつも、瑠璃は釣糸を垂らしていた。しかし、釣り自体が初めての様な彼女に魚がエサに食いつくタイミング、所謂『あわせ』がわからなかったのだ。おかげで、お魚達に餌をあげるばかり竿を垂らしつつ回りの巻き貝を拾っていた。ションボリと耳を萎れていた瑠璃であった。だが、諦めかけたその時、竿が動いた。 そっと釣糸が続くその先を眺める。そこには…… (「え………えび?」) ふしぎ達から少し離れた位置で、釣りを行っていたのは凪であった。めぼしい場所を一通り回り、筆記用具で記した後、らしい場所を狙った。釣果は上々、次いで海藻なども採集しておいた。 (「食べれんかねぇ?」) 今は目の前にふよふよと浮遊している白い傘(別名クラゲ)を品定めしていた。 ルオウは更に沖へ、更に底へと潜っていた。魚は釣れたもののその釣果に納得がいかなかった。 (「メッキ(アジ等の幼魚の一種)ばっかりだな」) 賢吏に前以て注意点を聞いたところ、水中では大物は難しいと聞いてはいたが、それでも釣りたいと言うルオウはそれ用の竿を貸して貰っていた。賢吏からしてみれば、新たな採取の可能性が増えるのは、願ったり叶ったりだ。 もう糸を垂らして、何十分と経っただろうか釣りで待つのは当たり前だが、水中呼吸器がもつか少し不安になる。 (「大物こいよーこいよー」) その時は来た。竿が大きくしなり、ルオウの小さな身体は反動に持っていかれた。 (「うおおぉぉ!?」) ルオウが大物とバトルしている頃。遥か底では、暗と蛙の小野川がいる筈なのだが見当たらない。 いるのは、泥岩とその側を通る蟹…… ガバァァァア 泥から腕が生え、蟹を捕まえる。そう。埋伏りで気配を消し、暗は砂の中に埋まっていたのだ。そんな様子を小野川は、ガッツポーズ一つで答える。 蟹を縄で縛れば、さて次は、と暗は小野川と共にほの暗い海の中を泳ぐ。 そんな彼女の目の前に、それは現れた。情報ではアヤカシはこの海域にいないと聞いていた。 (「何でこんな所にいるので御座るか!?」) 黒い靄、中央の目玉。これだけ言えばわかるだろう、闇目玉だ。暗は念の為に持ってきた得物を抜き、闇目玉を睨み付け……ある事に気付く。足があるのだ。 恐る恐る近付くと、その正体に気付き捕まえた。 ●のんびり釣り 七人が海中で暴れていた頃、リュミエールは崖から釣糸を垂らしていた。心地よい潮風が彼女の長髪を撫でて、微睡みを味わっていた。 隣では雪が火を起こした後に、リュミエールの釣りを観察していた。 「お、掛かったね」 竿の動きにアタリを感じ、ゆっくりと竿を引き上げた。 「フグみたいね……キタマクラ?」 今しがた釣れた、体の青い、赤く光った模様の入ったフグを図鑑で探した。が、似たのはいたのだが異なっていた。この魚は産卵時期に雄が、色を変えると言う。 「新種かな、神代マクラとか?」 何とも、御大層な名前を付けたものである。 そんなことしている内に開拓者達は続々と海から上がってきた。 ふしぎは砂から、真水を水槽一杯に作り持ってくる。 「リ……リズ、海水に浸かって尻尾とか気になるなら使って」 「は……はい、ありがとうござい……ます」 リズレットがそうたどたどしく言えば、視線そらしつつ水を貰い手入れを始めた。彼女の白髪から、バラの香りが漂った。 「団長殿とリズレットどしたの?」 「よそよそしいよね」 「んー秘密。あ、は〜い出来たよ♪」 お茶を濁すならぬ、樹糖入り生姜湯で場を濁すミリート。海水で冷えきった身体には、なんともありがたい一品だ。 「プハァ、五臓六腑に染み渡るで御座る」 そこでふしぎは気付く。ルオウと瑠璃がまだ帰ってきていないのだ。そう頭に過ったところで、海面から泡がぷくぷくと現れるのを見て、ふしぎは指を海面に示した。 「何だアレ?」 ばっしゃぁん。 細かい水飛沫と同時に、頭に変な海老を乗っけた瑠璃が頭を出した。 「海の中からこんにちは〜、瑠璃だよ♪」 「…………えっと」 「はぅっ………………」 一斉に視線を自らに向けられ、瑠璃は海の青色に負けないほど顔を赤くして、また潜っていってしまった。 「恥ずかしいならやらなくても」 「だぅ」 ●れっつくっきんぐ 採った魚介類は一度水槽に入れられた。ミリートが魚達のストレス緩和に、と大きめな水槽をいくつか用意してくれた為か、採取された魚達は未だ元気に泳いでいる。ふしぎとミリートは石窯を作りながら、残ったルオウを待つことにした。 「カサゴのトゲが毒にあるんだ…」 「鰻の白焼きに御座るー」 着々と下拵えが進む中で、凪は自らさばいたら鯵の刺身を雪にあげていた。 「あなたのご主人遅いなぁ」 『ボンのことだ、心配ないだろ』 とでも言いたげに、器用に刺身を手で掴んで口に運んでいた。凪はそんな雪の様子に眼福、と癒されていた。 「た……ハァハァ、帰っ……た」 漸く磯に上がってきたルオウ。息をきれぎれ、背中には平べったいドでかマンボウを背負って浜辺に帰還した。 魚籠に入らない超重量級の獲物に、押し押され流されつつも気力を使い、持って帰ってきたのだ。 「お……大きい……です」 リズレットが驚くのも無理はない。その大きさは、ルオウが両手広げてもまだ足りない程だ。今回一番大きな魚と言えるだろう。 そこに凪は包丁を手に一言。 「で、さばいて良いの?」 「ダメダメ!」 ひしっ、とマンボウに抱きつきながらルオウはその赤毛から水滴が飛ばしながら、大きく首を横に振った。 鍋に具材を入れてから焼き石を投入し、後は煮立つのを待つだけとなり、各自で図鑑(ヘンリー・コード作)を手に調べ始めた。 大方の魚介が元々知られている生物の亜種が殆んどであったが、瑠璃が持ってきた海老だけは元となる種類が無かった。 実際、海老だと思っていたがソレに足は無く、とても平べったい。瞳はとっても大きくて丸くて黒い。何より特徴的なのは、口元にある二つのくるんとした固い触手(?)だ。口も開くと言う形では無く、円状になっていた。 「すごいな瑠璃、負けたよ」 ふしぎが図鑑を閉じて感嘆の息を漏らすと、瑠璃は恥ずかしそうに頬を赤らめた。 (「大きいから焼いて、お姉ちゃんのお土産にしようと思ってたのに……」) 少し危うかったようだ。 「それにしても、へんてこで不思議な海老ねぇ。いっそのこと、ふしぎ海老って呼ばない?」 「えぇ!? 悪意を感じるぞ。その名前!!」 と一部人物より反対は上がるも、リュミエールの提案は多数決で命名『ふしぎ海老(仮名)』となったのであった…… ●実食!! サザエからホクホクと汁が溢れ、磯の香りが一気に皆の鼻腔に広がった。鍋の蓋を開ければ、鯵の切身がピチピチ、食べてくれとばかりに出汁が跳ねる。 蟹も、ふしぎ海老と同じくらい茹でられ赤くなっている。 海を泳ぎに泳いだ開拓者達は、くたくたになりながらも、未開の海の幸に期待を膨らませた。それでは…… 「「「い……「「「「「いただきます」まーす!」で御座る」くわよ」」」」」 俗に言う『採りたては何でも美味い』と言うのは事実らしい。 「この季節に鍋って最高だよね、焼き魚も凄く美味しくて…熱っ」 と美味しさに食すことを急きすぎて、火傷するものもいるのだから。 「ん……ヤミメダマモドキ。歯ごたえが凄いわね」 「良く……食べれるで御座いますな」 いくら捕ってきた本人と言えど、否、擬態光景を見た暗だからこそ、そのタコは食べられないのかもしれない。そう先程暗が発見した闇目玉は、墨と模様で擬態をしたタコであった。 疑問を持ちつつも、焼けた蛸足を凪は食むのであった。 「それでそれで、ふしぎ海老がいたとこ目印とかある〜?」 「え、えっと…岩礁の影のところ、目印は……背の高い海草とイソギンチャク、です」 ミリートは自分達のいた辺りから、瑠璃の言うポイントを割り出す。これからの飼育のためにも、生息地域はぜひ知っておきたい。手製の簡易地図に書き込みながら、ミリートは瑠璃の手元を眺めていた。その手には、いくつもの焼きうにがあった。七輪でじっくり焼いたそれは、いまや葉っぱに包まれている。 聞けばお姉さんのお土産にするらしい。瑠璃の料理の手際が良かったのも、どうやらこのお姉さんの影響らしい。 リズレットは持ってきた七輪を片付けていた。火入れに協力してくれた雪に感謝しながら、つい先程口の中を火傷したふしぎを笑って眺める。あんなこと、があって最初は怒っていたリズレットであったが、今はあんなふしぎの初心な反応がみれて嬉しくもあった。 (「後で仲直りしましょう……」) ルオウは鍋の鯵をつまみつつ、水槽で泳ぐ(浮かぶ?)マンボウを眺めていた。書物によると、この魚とってもデリケートらしい。自分良く釣れたな、と思う。それと同時に、これほどの大物は中々お目にかかれないと思えば、釣り師として疼くものがある。 (「墨汁があったらなー」) 『とりたくなる』のは、恐らく必然であろう。 リュミエールは一人岩場で寝そべっていた。黒い大岩に照りつける太陽光で温まり、ぽかぽかと彼女に睡魔が襲いかかった。 「(ふあー。やっぱり、ふしぎ達と遊ぶの楽しいわ。見ていて飽きないし)」 未だ楽しげな会話を耳にしつつ、リュミエールは目を瞑り、夢の海に潜るのであった…… |