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■オープニング本文 我々開拓者は遺跡調査、それを一つの目的としている場合があり、それは幾日と言う時間をかけて今は失われた技術や宝珠を探すことだ。 そして今彼ら開拓者達はその地下最深部に立ち入ろうとしていた。 異様に広い空間、一体何の為の空間だろうか? そう足を踏み入れ見渡した途端、それは動いた。 ゴゴゴゴゴゴ ありがちな擬音の中、開拓者の遥か視線の先にいた。ガーディアン、この遺跡の守護者。二足歩行で歩く石の兵器。その大きさは高さにして10丈(30m)大型飛空挺ほどの大きさはあるだろう。 攻撃はない。しかしこちらへ向かってくる、足音はまるで地響き。もし我々の方へとこの守護者が向かってくれば、この遺跡はたちまち瓦礫と化す。 しかし、一般人と力が異なる我々開拓者とて、倒す術はない。ここに龍の様な大型相棒でも連れていれば、対抗は可能であっただろうだが、連れてきてはいないのだ。 いくら開拓者と言えど、この巨体には為すすべもない。もはや、万策は尽きた…… かと思えたその時!開拓者の一人が、あるものを発見した!! それは魔方陣。そう表現しても、おかしくないほどの幾何学模様が地面に書き記されている。一体なんだ? おそるおそる、開拓者が足を踏み入れた。 その時! 陣に入った開拓者を囲うように、六つの珠が空を舞い幾何学模様が何と光出したのだ。だがそれだけでは終わらない。珠の一つが喋り出したのだ。 「術式ブースト装置。音声ガイダンスヲカイシシタシマス。コノ中デ使ッタ術ハ条件二ヨリ、効果ヲ増幅シマス」 開拓者達が起動したもの、それは遺跡内の装置であった。宝珠らしきそれは条件を読み上げ始めた。要約すればこうだ。 一つ、知覚攻撃であること。 一つ、術が10秒以内で終了するものであること。 一つ、呪文を唱えた長さだけ術が増幅される。 一つ、その呪文を10秒以内に唱え終えること。 一つ、術者は詠唱装置内部から動けない。 一つ、いくら詠唱に失敗しても構わないが、術の発動は一度のみ。 つまり、どれだけ早くそして長く、呪文が詠唱出来るかが鍵となる。これであの守護者を止めることが出来る、そう一つの光明を見出だした……その時であった! おびただしい量の吸血蝙蝠が、我々開拓者に襲いかかろうとしていた!これではまともに詠唱に入れない、何とかしてこのアヤカシを退かなければならない! だがその間にも、守護者はただただ地を踏み締め、前進前進前進してくる! 我々開拓者の運命や如何に!? |
■参加者一覧
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
リディエール(ib0241)
19歳・女・魔 |
■リプレイ本文 宝珠が説明を終えて点滅が終わり、最初に口を開いたのは青嵐(ia0508)だ。 「詠唱を略式にせず、という事かね 」 守護者の近付いてくる最中でも彼は冷静で符を手に手順を頭の中で繰り返す。 正面今はまだ遠い守護者の姿に声をあげるのは ルオウ(ia2445)。 「ひええ…でけえなあ、あれ。アーマーの何倍だ?マジできくのかよ!?」 彼本人には隠しているつもりだろうが、声に含まれる好奇が全く隠せてはいない。 「ちょっと聞きたいなりっ。増幅装置使った場合の、おいら達への負担はどうなるなりか?」 返答をせんと点滅を繰り返す説明宝珠に語りかけるのは、陰陽師の平野 譲治(ia5226)だ。宝珠は、相変わらずのカタコト言葉とともに応える。 「ブースト発動時、術式ニカカル負荷ハ全テ装置ノ珠ガ対応。術者二影響ハアリマセン」 「ふむふむ、ありがとうなのだっ!」 小さく頭を下げれば、譲治は戦闘の準備を始めた。 一人目を瞑る男性が一人。目の前には、ゆっくりとだが確実に崩壊への一歩を踏み出す、守護者巨体。そんな守護者の関節周りを絡み付くように飛び回る、鳥が一匹。守護者から攻撃が無いことを良いことに、悠々と飛び回るそれは 劫光(ia9510)の人魂による式であった。鳥の瞳を通し、見たままの光景を口頭する。 「腹回りが動力源、関節は強化済み……なかなかヤバそうな敵じゃねえか 」 邪なまでに愉しげな笑みは、ルオウと違い隠すことすらしてはいない。 「来るぞ!」 最初にそれを気付いたのは、 エメラルド・シルフィユ(ia8476)。天井を仰いだ先、吸血蝙蝠と言う名の濁流が開拓者達に襲いかかった。 「甘いのだっ!させないっ!のだぁっ!」 立ちはだかる様に、譲治は結界呪符を真正面に出現させる。他に呪縛府と言う手もあったが、夥しい数の蝙蝠には、恐らく効かないと判断したためだ。 当然、急遽出現した黒壁に蝙蝠は対応出来ず、ぶち当たる。しかし飛び散った蝙蝠達は壁の脇を通過。開拓者達には未だ沢山の吸血蝙蝠が迫りくる…… 「相手は俺だって言ってんだろ!シカトしてんじゃねえよ!」 ルオウは喉を震わせる程の咆哮を放ち、蝙蝠達に意識が向くように仕向ける。策は成功し、ほぼ完璧にルオウへと襲い掛かる。 その数は百を昔にこえて、一斉にルオウに噛みついてきた。その姿はまるで、黒いおくるみ。与えられるのは、無論苦痛だが。 「イテ、イテ、イテテ!このぉ、回転!剣舞!!いけえ!」 そんな中でも鞘から刀を抜き、牙が食らい付く腕を伸ばし、足取りを軽く回転し、幾つもの蝙蝠を瘴気に還す。ほぼ同時にシルフィユが蝙蝠に切りかかり、首を降って他の術者に合図をした。 「先にやれ、私のはまだ機が満ち足りない」 彼女が唱える技、雷鳴剣と言い雷撃を飛ばす攻撃だが、まだ守護者は射程に入ってこない。 「俺が行きましょうか」 青嵐は躊躇する事もなく、陣中に入った。そして先ず隷役を唱えた。これは後に使う式を強化する術式だ。そこに近付く影が一つ、彼女は魔術師リディエール(ib0241)。青嵐次いで譲治にアクセラレートを施す。 「これで少しは、詠唱に役立つとよろしいのですが」 符を片手に青嵐は構える。 ▼詠唱▼ 力も知識も言葉さえ、毒にして病である。 それらは人を傷つける刃であり、癒やす事はない。 人は言う、それは違うと。 人は言う、それは己が作ったのだと。 我は言う。 それらは元来屍の上に築かれたものである。 我らは無数の屍の上に小山を作ったに過ぎない。 故に、我は言うのだ。 「忘却の果てより来たれ時間の屍≪黄泉より這い出るもの≫」 符を突きつけ、式を喚ぶ。式は形には成らずともそこに在り、確かに守護者に襲いかかった。 ボロッ そして細かい破片が守護者から崩れた。青嵐は思わず表情に困惑をあらわに、口を開閉させる。そして無慈悲な、金属音声。 「十秒以内二詠唱デキマセンデシタ。モウ一度最初カラオネガイシマス、ピー」 そう、詠唱が間に合わず術は増幅されず守護者に掠り傷を負わせた結果に終わったのだ。これには他の面子、かける言葉が見当たらない。それは同じ陰陽寮の譲治と劫光の二人も、また反応に困る。 そんなことをしている間に、吸血蝙蝠達が黒い壁を決壊させた。一つの攻撃が掠り傷でも、百数多も集まれば致命傷だ。どれだけルオウが切り払っても、あっという間に蝙蝠の濁流は再生する。 「むぅっ!キリがないなりっ!」 とある考えを元に、譲治もまた増幅装置に入る。続いて劫光、そしてリディエールも準備する。 「どうやら、効果は無さそうですね」 「術者の思念や想像力が影響されている、と仮定するならば寧ろ必要なのは精神力かも知れないな…」 しかし、今更そんなことを言っても始まらない。青嵐も気を取り直して、再び詠唱を開始したのであった。 急がなくてはならない、何せ未だ守護者の足が止まる気配はない。だが皆がみな馴れない長文詠唱は、なかなか成功しない。 「色は白にしてしゅるどき、ちゅ、ちゅめ」 「詠唱ヲ確認デキマセンデシタ。モウ一度最初カラオネガイシマス、ピー」 「折々に見ゆる夢うぎゅっ!…か、噛んだのだ〜」 「詠唱ヲ確認デキマセンデシタ。モウ一度最初カラオネガイシマス、ピー」 「…塞ぎし者を身の裡より……あ、あれ?何でしたっけ」 「詠唱ヲ―――――」 「もう少し早くか、ちかりゃっっ………」 「詠――――」 時間は過ぎていく、守護者は近付いてくる。漸く範囲内に入ったため、シルフィユが詠唱を始めるが情況は好転はしなかった。 これには一人、劫光が造った壁の裏で蝙蝠を打ち払うルオウも焦る。 「美味しい所は譲ってやんだからよ!しっかり決めてくれよなあっ!?」 失敗しても繰り返せば、成長するもので何度となく失敗してもいつかは、実を結ぶ。それが一番先に訪れたのは、譲治であった…… ▼詠唱▼ 折々に見ゆる夢うつつ、それは夢か真か枯れ柳か、アヤカシにアヤカシにて向かうその姿、されとて折を得た鳥は檻からここぞとばかりに顕現す、各々様に見ゆる今、彩りを加えて龍と成すっ! 「行ってくるのだっ!大龍符っ!」 譲治の手甲の宝珠が輝く、呼応する様に増幅装置の宝珠も輝き燐光は天井に伸びる、そして龍の形となり浮かび上がった。 「で、でっけー!!」 ルオウがそれしか言えないのも納得の巨体。蛇腹の体が部屋中を巡っていて。吸血蝙蝠もその姿にビビったのか半数以上が逃走していく。 その巨体を引き摺り、龍は鋭い牙で守護者を抉るように突進し、そしてすり抜けた。 同時に増幅装置の宝珠が、真っ二つに割れてしまった。 「あーあ、やっぱりだめだったぜよ」 「……大龍符だからな」 その龍は幻の産物。ただそこに存在するだけの無用の長物というやつだ。 「しかし、増幅装置の力は本物と言うことが証明されたか」 幻でしかない龍から、蝙蝠が恐々したのがその証拠だ、と青嵐は分析をした。 「って、青嵐は何でこっち来てんだ?」 「符がきれたからだ」 陰陽術の弱点。それは符が消費を必要とする術式があるということだ。蝙蝠が殆ど消えた今、露払いはあまり必要とはしない。 「……………」 憮然と役立たずを豪語されて、沈黙以外することのなくなった譲治であった…… 「まだ補充は出来る、そんな顔するな」 そんな外野の会話に耳すら貸さず、リディエールは守護者を見据える。ここまで調査した遺跡を、瓦解させるわけにはいかない。その決意を心に、流れるような詠唱が部屋に響く。 ▼詠唱▼ 衝動を抱く白銀の輝き 無慈悲なる氷の女王 その怒り 刃となりて降り注ぎ 我の行く道を塞ぎし者を 身の裡より砕きたまえ 「アイシスケイラル!」 条件をクリアした証拠に、呼応する増幅装置。彼女は幾つもの氷柱を守護者に突き刺す、そんな術式を彼女は思い浮かべていた。だがそこにあったのは、彼女のイメージを凌駕した長さと大きさ、まるで氷の矛が宙に現れた。 矛は守護者にヒビを入れるでもなく、幾つもの貫通し、そして一気に爆ぜた。爆風のような冷気に、吹き飛ばされかけつつも、リディエールは守護者を再び見据える。 そこには、左手から肩にかけてを失った守護者の姿があった。 「よっしゃ!スゲーな、リディエール!」 漸く術式の成功にはしゃぐルオウ。それと対比して、神妙な面持ちなのは劫光だった。 手持ちの符はこれが最期。つまり、今はこれが最後の装置発動の機会となる。補充の隙は正直手痛いので、これで決めたいところ。 瞳を閉じて、頭の隅々に今までの情報で埋め尽くす。応援する声も今の彼には聞こえない。 ▼詠唱▼ 力強き者よ神々しき者よ 色は白にして鋭き爪と牙をもちたる神の獣よ 我はこの地に汝を招きて今ここに契約を為す 「神すら引き裂きて降臨せよ、白銀の神龍!!」 劫光の掲げた符を中心に渦が出来る。中央に産まれたのは白銀の鱗をたたえる龍。その大きさは守護者に負けず劣らず。見上げた開拓者達はその美しさに、声をかけることなく見上げていた。 「オラ、いけぇぇ!」 白龍は素早く、守護者の四肢にまとわりついて締め上げ牙を突き立てる。歩行を停めることはなくも、牙から内側から流し込まれる瘴気に装甲は地に墜ちていく。これで八割方は崩壊した、と行ったところだろうか。 これで未だ術式を唱えてきっていないのは、シルフィユただ一人となった。増幅装置の陣中にて、儀礼宝剣を手に刃を見つめるシルフィユ。 守護者には後一撃、後一撃当たれば止まる。だが守護者自身もすぐ目の前まで迫っていた。これは失敗出来ない。 「ああ!やっぱり駄目なりか」 声の主は譲治。少しでも黒壁で守護者の足止めをしようとしたが、踏み潰されたらしい。 その声に再び、シルフィユに不安が襲った。そんなシルフィユの柄を握る手を、リディエールは握り締めてこう優しく言った。 「大丈夫です、もし壊れずとも……私があなたの後を引き継ぎます」 次いでルオウも口元を引き上げながら言う。 「もしもの時は背負ってでも、逃げてやるよ」 「殿はまかせてくれ」 その言葉にシルフィユは瞳の光を強くし、頷き宝剣を胸元にゆっくりと移動した。 ▼詠唱▼ 原初なる力の奔流よ! 父より託されし裁きの炎よ! 崇高なるその意志を我が両手に宿し、今こそこの身を代行者とし給え! 我、その黄金の輝きを剣(つるぎ)として使わん! 「立ち塞がる全ての敵を薙ぎ払う為に―――!! 雷鳴剣(ジャッジメント・レイ)!!」 彼女の高らかな宣言と共に、宝剣の刃が雷の奔流を帯びる。シルフィユのブロンドの長髪を更に眩く照らす光の剣。彼女は守護者に向けてつきだした。場所は装甲の外れた、宝珠剥き出しの腹部。 「精霊よ、私に力を貸してくれ! 」 轟雷は剣より迸り、青白い筋を伸ばして守護者の腹部に迫るそして、目が眩むほどの閃光と鼓膜を破壊しかねない程の爆音が部屋中を直撃した…… ● 「ようやく出口なのだああっ!」 開拓者達は遺跡から外へと出ていた。久しぶりに浴びる日光の光のありがたさを、譲治は感じるように伸びをしていた。 「格好よかったよな、ジャッジメントレイ!」 「い、いや、あれはその…必要に応じてやむなく…だな…!」 ルオウとしては素直な感想なのだが、詠唱し守護者を停止させた本人、シルフィユはそうとらえていない。 「俺もあんな技があったらなー」 「だから、ふ、普段から考えている訳ではないっ!」 一方肩を落とすのは、陰陽寮三人衆。結局守護者が停止したと同時に、未起動の増幅装置も停止し、まったくのくず鉄になってしまっていた。恐らく守護者の停止と共に、全ての装置が停止する仕組みであったのだろう。 「もっと調べたかったなりねー」 「資料も全くなし……か」 「あの装置は、実用的では無かったのかも知れませんね。コストの問題と発動条件を考えると……」 「「そ…そうだな」なり、ねっ」 青嵐が言うと言葉の重みに、根深いものを感じ深くふかーく納得してしまう譲治と劫光であった。 そんな太陽の元でじゃれあう五人を眺めながら、リディエールは微笑みを浮かべあるものを手にしていた。 今はもう硝子玉と遜色ないそれ、しかしそれが無ければ貴重な遺跡が一つこの世から消えていたのだから。 「お疲れさま、ありがとう」 彼女は説明宝珠であったものを、労るように手のひらで優しく撫でてあげていた。 |