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■オープニング本文 ● 『流星祭』の時期、街はいつもと違った喧騒に包まれる。 祭は西の空が薄紫に染まる頃に始まる。次々と灯が灯る祭提燈 風に乗り聞こえてくる祭囃子。祭会場となっている広場は大層な 賑わいで、ずらりと並んだ屋台からは威勢のいい呼び込みの声が 響き、浴衣姿の男女が楽しげに店をひやかす。 時折空を見上げては流れる星を探す人、星に何を願おうかなん て語り合う子供達、様々なざわめきが溢れていた。 ●祭の前の静けさ…… それはまだ流星祭当日より、まだ少し前のこと。祭現場の北側では大工達が櫓(やぐら)を組み立て始めていた頃、まだ南側は屋台骨すら出来ておらずその中でも一際広く場所を取ったそこに、一人の成年がいた。彼は依頼に集まって貰った、開拓者達に説明をしている。 「どうも、こんな無茶ぶりな依頼に集まって貰えて……」 青年は深々と頭を垂れた。それもその筈、この依頼は彼が提出したものではない。男の名は神流三好(かんる みよし)、と言う名の大工である。ひょんなことから、何度か依頼主と開拓者の仲介をするということがあり。今ではすっかり、神楽の都の便利屋扱いである。 「あっしが聞いたかぎりを説明します。ここに射的屋を作るんです。一般人用と志体持ち用に……」 あなたも夜店に行けば、こんな立て板を見たことが無いだろうか。『志体持ち禁止』特に射的などを行う場合に、だ。 志体持ちとは、一般人に比べて格段に身体能力が高い。そのため、的を撃って落とすなんて造作もないことなのだ。そんな志体持ちが沢山店に来れば商売は上がったり、一日を置かず景品が棚からが消え失せることだろう。 ハンデとして的から、それこそ30丈でも離れない限り同一条件とは言えない。何より、そんなに場所は取れないし見ていて地味なので、客寄せの効果も薄い。 しかし店側としては、志体持ちを客にとりいれたいのは事実。彼らはそれなりに懐が温かい為に、落としてくれやすいのだから。 そこで的屋の店主は思い付いた。そうだ、的が一般的だからダメなんだ。的が『志体持ち』なら条件は一緒だ……と。 「要するにですね、ここで」 と言いながら三好は、開拓者から距離をとって止まる。その距離1丈と6尺強、普通の射的を行う距離とそうかわらない。 「的をやって貰いたいんです。的になる物と射つ道具は、そちらにお任せしますんで」 つまり、こう言うことだ。的役の人が的となる物を持って、射ってくる物を回避せよと。そしてこうも続ける、最初は客引きのためにサクラ役も欲しいと。他にもその他もろもろも、一緒にするらしい。要するに志体持ち的屋を開拓者達に試験的に任せる。と言うことらしい。 「後、景品もそっちで決めて下さい。と、言ってました」 遊びとはいえ、志体持ちが一芸を見せるのと変わりない難易度になる筈だ。それに合わせた景品を用意するのが良いだろう。そう依頼主の店主は判断したらしい。知り合いの商家に景品を頼むため、それなりのものは用意出来るという。 「では、あっしは本職のが忙しいので、これで……あ、的役の人は報酬に色がつくみたいでしたよ」 そう言い終えれば、三好は会釈を一つ。北側へと走り去った後開拓者達は互いを見回した。 なんて依頼なんだ、と。 |
■参加者一覧
皇・月瑠(ia0567)
46歳・男・志
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
メリエル(ic0709)
14歳・女・吟
奏 みやつき(ic0952)
19歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ここは神楽の町の開拓者ギルド。そこの庶務方掲示板にチラシを貼り付ける、虎の少年 羽喰 琥珀(ib3263)の姿があった。そのチラシにはこう書いてある。 『開拓的屋 〜当てられるものなら当ててみろ!!〜』 何とも挑戦的な、チラシを貼り終えれば琥珀は二人の元へ向かった。 「こっちはこれで終わり。後はトラブルのないように挨拶回りだな!」 「はい、確か泰の方からも屋台が出ているとか聞きましたです」 こくりと頷いたのは、琥珀と同じく雑務担当に回った メリエル(ic0709)だ。 「景品。高そうなもののほうがいいけど、あんま高いと赤字になりそうだなあ」 そう一人ぼやくのは、 奏 みやつき(ic0952)。今も彼の頭の中の算盤は、鳴り続けている。 「えっと。料金どうします?やっぱり高めにするのですか?」 「んー周りとおんなじ方がいいんじゃん。その代わり弾数は減らすけどな」 大体通常的屋が用意する弾数は五、六発が普通だ。但しそれでは開拓者には多すぎる半分の三発が適当だと琥珀は思った。 「としますと…… と言う人数くらい来れば、赤にならないみたいですね 」 ひそりとみやつきが、琥珀の縞模様の耳に囁いた。 「へーそんなに必要なのかー!」 二人はまるで邪なことを考える様に、口元を吊り上げた。まさに虎と狸の皮算用である。 「よーし、後は景品ですね!」 かくして、裏方三人の相談はまだまだ続くのであった…… ●開店 開拓的屋はメリエルの奏でるベルと、琥珀の呼び込みから始まった。揃いの水色の法被が、良くはえる。 「志体持ち専門の的当て屋「開拓的屋」だよー。普通の射的に飽きた祭り玄人な志体持ちさん寄っといで〜」 それから物見高い目が集まり、お客様第一号がくるのは直ぐであった。手には配布したチラシ、どうやら効果はあったらしい。 「一回、難易度簡単で」 「はい、五十文。難易度は『易』ですね」 笑顔を浮かべたみやつきが銭を貰い、同時に吹き矢と筒を渡した。吹き矢の先の針には安全のためコルクが刺さり、コルクには墨がついていて判定がとりやすくなっている。 やがて客である男は、的の正体に小さく声をあげた。 一番に目が向くのは、愛らしいもふらのお面。腹や額、四肢には的となる紙風船を付けた肉々しいムキムキな体・躯。仮面で厳つい顔を隠した……つもりの、 皇・月瑠(ia0567)だ。 それが仁王立ち。男は気をとりなおして、筒を月瑠に向けた。 フッ、フッ、フッ。 結果は大きな的へ一回命中の小当たり。月瑠、動いてないように見えて若干だが体の軸をずらしている。それでも、何とかこの開拓者は当ててきた。彼は線香花火を貰って帰っていった…… 月瑠がおめでとうと手渡したせいで、気圧され気味ではあったが…… 「な………なにあれ?イタイ人」 などと冷やかすカップルを無言の殺気で黙らせれば、見事みやつきからお説教される。 「月瑠さん、お客さんには優しくお願いします」 「…………すまん」 弱めた眼光が、彼の精一杯の謝罪であった。 的屋の難易度には、もう一つ『難』と言うものがあった。こちらの景品は易の比ではない。易がお菓子や花火であるのに対し、難はヒトほどある大きさのぬいぐるみや、一品物で装飾品『紫水晶の指環』であった。 それだけに簡単には、取らせてはくれない。 「残念だったね!今日は1日やってるから、また遊んでね〜♪」 艶やかな笑みで握手をお客とする彼女こそ、難の的役ジプシー。アムルタート(ib6632)その人だ。 「ま、待ってくれ。また金を持ってくっからよ?」 そう言って先程の客はその場を去った。アムルタートの魅力に晒された(実際はヴィヌ・イシュタルを使用のため)だが彼女の身体能力が実際たいしたもので、中々的に当たらないのだ。 しかし残念賞でもアムルタートのサービスが待っているので、負けても悪いことはないと男性客は続けてしまうのだ。それ故か景品が無くとも、表情が緩い。 もし女性や子供が外した場合場合は、月瑠が提案した小さな杏飴が贈られるから、問題は無い。 また一人お客がやって来た。年の若い弓術師だろうか、難を選び吹き矢の筒を手に取った。 くるりくるり、アムルタートが舞を始める。それなりに目で追うのも一苦労だ。。戦舞布を纏い、旋回を繰り返し飛び回る彼女に幾度と目標をかわされ涙を飲んできた。 ヒュン しかし今回は違った。墨のついたコルク付き吹き矢が的の数寸を通過した。見物客達も歓声をあげて、 メリエルのベルと口笛が場面を奏でて盛り上げを補助する。 二発目、狙う的はかなり小さいそれでも後紙一枚の差で当たらない。そして最後…… 息も切らさず、ジプシーはくるくる回り。戦舞布を翻し、光を反射させる。 その時だった。射たれた吹き矢の墨が、黒く的に残ったのだ。 歓喜のベルが鳴らされた。 「えーっ、こんな簡単に高得点稼がれるなんて。うわー予想外っ、見通し甘かったー」 耳を垂れさせて、落ち込む琥珀。 「うわ!?当たっちゃった。凄いね本気で避けたのに!しょうがない!!もっ てけドロボー♪」 楽しげに言いながら、天儀風鈴を手渡そうとするアムルタート。しかし、弓術師が掴んだのは、アムルタートの手首。しかもかなり力強く引っ張るのだ。 「では、景品は貰っていくぜ?なぁ、踊り子さんよ」 三日月を象る口元、しかしそこはアムルタートも開拓者。 「ぐあ!」 お止め下さい、の柔らかな一言と共に後ろに回り込みラストリゾートだ。 倒れる弓術師。そこにもふらお面(月瑠)がその人を肩に担ぎ、あっという間に彼方へと行ってしまい。悲鳴すら聞こえない。 「と、このよーに困ったお客さんが来ても全員が開拓者なので安心安全ですっ」 と笑顔で話す琥珀。暫し不穏な空気は流れたものの、また的屋は賑わいを取り戻していった。 こちらはそんな、的屋の幕の裏要するに、内幕だ。 「アイタタ、アムルタートさん容赦ないですね」 「大丈夫。あなた?」 そこには先程の客とメリエルが和気藹々と話をしていた。そう、実はさっきのは全て演技。サクラであった、 篠崎早矢(ic0072)の芝居であったのだ。サクラの役目を終えた彼女は着替えを始める。基本的には被り物だ。とても大きな的の被り物、無論顔を隠すためにだ。 「では、行ってきますね」 そう言ってタイツを履いた足をシャカシャカ動かし、何とも滑稽な姿で早矢は表へと出て行くのであった。 ●来客 「お兄様お姉さま方、寄っていかれませんかー?」 それからも、開拓的屋は人が減ることはない。早矢と言う的が増えたことにより『並』と言う難易度と景品も増えて更に景品入手の幅は広がった。 それでも会計担当のみやつきが、少々浮かない顔なのは現在の売上だった。料金箱には山積みの貨幣。しかし問題はそこではない。 「やったぁ!おおあたりだ、もふらさんありがとう!」 月瑠が予想以上に的に当たっているのだ。どうも小さい子へのサービス精神が、仇になっているのかも知れない。かと言ってお客様にやさしくと言ったのは、自分なだけに言いにくい。 わざと吹き矢に向かって動いたりして、当てやすくしている。その証拠に、月瑠の非情に狭い、彼の額は黒くなっている。当然景品は減りやすい。 他二人は調度良い塩梅であるだけに、少し不安は残る。早矢は、某有名なくず鉄王の似顔絵を貼り付けた的の被り物で頑張っている。……ストレス発散にと、かなりの吹き矢の雨が吹き荒れている。 「俺の刀をかえせぇ!!」 「あれにどんだけ、お金をつぎ込んだと思ってンのよ!」 全く的外れなところに墨の跡が残っているのは恐らく彼女のせいではないだろう。少し痛そうだが、この的を選んだのは早矢である。 お客様の中に、帽子を被り紺色の浴衣を着た陰陽師の青年が来た。 「ここ……か」 「流韻!」「流韻さん、今日はカブお化けさんは?」 いないよ、そう顔見知りである琥珀とメリエルに彼、流韻は答えた。 彼は世話になっている商家の系列が、ここの景品を出していると知って、様子を見に来たらしい。この場合彼には高価な景品が減っていないことの安堵で、どうも他のお客とは勝手が違う。 「流韻もやってけよ!」 「いいけどさ、琥珀。豆はいらないからね」 流韻は景品棚に置かれた大量の豆を横目にしつつ、金を払い吹き矢の筒を手に取った。 そしてまさか、一発で一等の的を得るとは予想していなかった。 「「あっ」」 「あっちゃー、油断しちゃったぁ♪」 大きく奏でられるメリエルのベル。と舌を出すお茶目なアムルタート以外一瞬動きを停止していた。それは的のど真ん中を射た、流韻も同じだった。 アムルタートは黒いそれを、両腕で回して抱え持ち流韻の元へ持ってきた。そして大きな溜め息。交わされる視線と視線。 「景品は特大闇目玉先生ぬいぐるみだよ!」 「い、いらない」 それでも無理矢理流韻にぬいぐるみを持たせれば、背後より忍び寄る月瑠が流韻の細腰を掴み上げ、かくばった自ら肩に乗せてワッショイと祝いだした。 「うわわわ」 「おめでとうございます。もしあれならばぬいぐるみの中に私が入っておもちかえ……」 「いらないから!」 流韻以外は店側とお客様側皆が拍手で祝福した。 「何でこうなるのかなあ……」 日は暮れてそして、開拓的屋も終わりを迎え始めていた。今早矢が最後のお客へと近付きオリーブオイルの瓶を渡していた。するとお客は瓶を受け取らず、早矢の左側に動き。的の側面、つまり早矢の耳元でこう囁いた。 「篠崎殿、指先に墨が付着しておりますよ?」 その言葉に慌てて、指先に目を向けるもそこにあったのは、タイツに包まれたまっさらな手のひら。そして、今のお客の不条理な台詞にはたと気付く。 「なぜ……私の名前を…!?」 「サクラやるなら、もう少しバレにくくしときな。ではでは」 早矢の動揺を他所に、いつの間にかオリーブオイルの瓶をもって帰りそのまま最後のお客は帰ってしまった。早矢はただそのお客が器用に煙管を回す様子を、見送るばかりであった。 ●感想 長らく続いていた開拓的屋も漸く店じまい、残った景品を皆で片付けていた。結局特賞の紫水晶の指輪は誰も獲得出来ず、景品棚でずっと輝き続けていた。 片付けの中で、貨幣が一枚また一枚とみやつきによって積まれていき、同時に算盤の珠が上下にと素早く動く。 「ちょっと普通の人と違うから遊べないのはかわいそうですよね。ですから、楽しんで貰えて良かったです」 「ふーちょっと疲れたけど本当、楽しかったよねー」 メリエルが用意されていた岩清水を、アムルタートに手渡せば彼女は適当な場所に座った。その隣では、残念賞用に残った杏飴を食べながら琥珀と月瑠が会話していた。 「月瑠結構人気あったよな〜」 「……ああ、最初は泣かれたが」 「俺は喉がらがらだよっ、叫び過ぎたー」 「頑張ったな……」 そう仰々しく言えば琥珀に岩清水を渡した。 早矢は漸く被り物を取って、蒸して乱れた黒い髪を直していた。どうやら法被は持ち帰り可能らしいと、記念にもって帰る気満々だ。 「はい、皆さん。売り上げが出ましたよー!」 みやつきの威勢のよい声と手招きで、他の五人を算盤の周囲に集まり、結果を算盤で表して見せた。 「あらー、こんなもんかしら」 「え、えっと……黒字ですよね?」 「黒ですが、トントンと言ったところですね」 「…………景品を出し過ぎたな」 「まーいいんじゃん、赤字になんなくてさ?」 結果は黒字、だけど少しの黒と言ったところだ。結構な儲けが出たか、と言えば唸り声をあげたくなるところだ。 何はともあれ、開拓的屋はこれで終わったまた次があるかはわからないが、何より志体持ちのお客様を喜ばせられた。ある意味それが一番大きな収穫かもしれない。 それはまた次に繋げる意図になるのだから…… 夜空を彩る星達。一度は崩れたと言う櫓も今は修復され、その回りを人々が賑わっている。そんな様子を眺め、そしてこの言葉でこのお話を終わらせよう。 「「「「「「乾杯!!」」」」」」 |