作麼生(そもさん)
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/20 20:53



■オープニング本文

 東房の開拓者ギルド。そこにとある依頼がギルド直々に貼り出された。
 内容はとあるアヤカシについて、調査をしてほしい。そう言う内容であった。

 場所は東房に山の中で、アヤカシも多く生息している。そう大きくも無く人里からも離れている為、開拓者達が修行に活用していたらしい。
 前にギルドで森を調査したが、そうそう強いアヤカシは存在していないと言う。
 それなのに、一人きりで出掛けた開拓者が次々と殺されていると言う話だ。ギルド職員は依頼を承けた開拓者達に、唯一の手掛かりとなる装備品を机の上に幾つも見せた。これは、遺品が発見された時から、今までそのままの状態であったものだ。
 開拓者達は息を飲んだ。血塗れであったのだ。遺髪や骨、肉片の一つ無くそこには被害者の装備品しか無かった。
 防具には、真新しい傷は見当たらない。女性ギルド職員は呟く。
「きっと賢いアヤカシよ、防具以外の場所を狙ったのよ」

 次に得物はと言えば、種類は大剣、太刀、脇差等、多種に渡る。しかも中には鞘ごと破壊されているものもあった。
「余程、力のあるアヤカシなのね……」
「しかし……何か違和感を覚えるんだ」
 説明をしていた、男性のギルド職員はおもむろに得物を鞘から抜き、刀身を眺めては鞘に戻す。
 壊れされていない全ての得物で繰り返すも、彼の違和感は拭えなかった。そして、集まった開拓者達へ彼は向かい合い、こう言葉を続けた。
「君達にはこの大量殺人の原因を、調べて貰いたいのだよ」
 原因となったと思われるアヤカシは、何度も退治をしていた。だがそれでも被害は減らないのだ。
「特に志士やサムライの被害者が、その中でも多かったの。騎士はまちまち。泰拳士やシノビには被害ゼロよ」
 そのシノビや泰拳士から話を聞くと、敵は数匹の足らずの小鬼であったと言う。
「一体何故、こんなにも開拓者の被害が広がっているのか早急に調べてくれないか」


■参加者一覧
柄土 神威(ia0633
24歳・女・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
レイア・アローネ(ia8454
23歳・女・サ
ヴィクトリア(ia9070
42歳・女・サ
松戸 暗(ic0068
16歳・女・シ
アオ(ic0773
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

 赤髪の青年は腰の得物に軽く手を添えてから、目的地である小山に目を向けた。何か他と変哲があるかと言えば何もない。それこそ、ただの緑葉の生い茂る山だ。それを確認すると彼は振り返り、こう皆へと話し掛けた。
「んじゃ、いってくんなー!」
 サムライ、 ルオウ(ia2445)は先に山へと入っていった……


●準備とか
 ルオウを山にて囮役を引き受けて先に、その後をシノビである 松戸 暗(ic0068)が着いていく。
  残りの面子はそれから、数分遅れての出発であった。ある程度、森の深部にいないと小鬼は出現しないらしく、そこまでの道筋でも感づかれぬように注意しなければならない。
 先頭を行く柄土 神威(ia0633)と、 アオ(ic0773)は今依頼の開拓者襲撃の謎を話していた。
「撤退すら難しい相手なのかしら」
 ギルドから入ったアヤカシの情報は小鬼のみ、未確認の知能の高いアヤカシがいるのではそう推理した。アヤカシに関してもだが、装備に関しても謎がある。
「被害者がサムライや志士なのは、攻撃を受けるとダメなのかな?武器は何かの妖術によるのかも知れないし」
 神威はアオの言葉を、噛み締めるように聞いた。幼いからと言っても、その観察眼は彼女でも舌を巻くものであった。特にアオの台詞で気になったのは『抜き身の得物が落ちてない』ことだ。
「これ以上は見ないとわからないね、けど相手は小鬼かー」
 自らも修羅であり、小さな出で立ちの種族のためか小鬼の一族と呼ばれたこともあるアオとしては、少々複雑である。神威はただ、そのくたけた年相応な彼女の顔に、微笑みとクスッと言う小声を安堵と共にこぼした。

「…… 鎧に傷一つ負わせずに殺せるのに何故わざわざ抜いてもいない武器を壊す? そして死体がない事…おまえはどう見る、ヴィクトリア? 」
 先頭の二人に遅れて、 レイア・アローネ(ia8454)も今回の謎を一人で逡巡していたがいっこうに結論も到らず傍らの ヴィクトリア(ia9070)へと返答を求めた。だが、そのヴィクトリアと言えばからからと、常日頃と変わらずおおらかの表情を見せてこう言うのだ。
「小難しい理屈を明らかにするのは任せるから その真実にあたいは斬り込むさね」
「そうか……その、えっと……すまない。私の力不足で……」
 そう言えば、何故レイアのすぐ近くにヴィクトリアがいるのか説明が足りなかったであろう。始まりはこうだ、ルオウへと予備の武器を運ぼうとレイアは考えた。いくら、小隊の隊長を勤める彼とは言え、未知の敵に油断は出来ない。
 その為の準備……の筈だったのだが、ギルドの荷物から下ろして漸く気付いた。
 重すぎる。
 重量オーバー、このままでは動くことも不可能。そこでヴィクトリアと二人で、武器を担ぎ運ぶことにしたのだ。
 申し訳無さを腕にかかる剣の重さで実感するレイアだが、ヴィクトリアは乗り掛かった船とばかりに全く気にしていなかった。
 寧ろ役に立ったのが、嬉しかったぐらいだ。

 やがて彼らは、目的に到着した。とある木陰、調度ルオウの背中が見える位置だ。
 アヤカシとルオウが遭遇する、様子はまだ見当たらない。
 そして、暗の姿が見当たらない。
「皆様こちらですよ」
 聞こえた声は頭上から、どうやら葉っぱに紛れているらしい。四人は声がする方向を探すが、目視は出来なかった。埋伏せを行った暗は、流石シノビと言ったところだ。

「出やがったなあ!」

 大きなルオウの声が、木々を揺らした。それは出現した小鬼ではなく、潜伏中の5人の開拓者達への連絡が目的であった……

●説破
 小鬼達の出現は思った以上に早かった。もう少し歩いてからか、ともルオウは考えていたのだ。数は六体。四方八方を囲む形で、得物はと確かめれば随分と古めかしく最近の襲撃の際に盗まれたものではないと見える。
「タァァァア!」
 手近な小鬼へと、一蹴りぐらついた所を鞘から出した殲刀「秋水清光」で低い肩から腰までを一気に薙ぐ。一瞬の内に一匹の小鬼が灰塵と相成った。殲滅は容易い、小鬼は弱い。だがそれは、小鬼通りの強さと言う意味でもある。
『ギィィィ!!』
「いてっっ、コノヤロー!」
 そこに、小鬼は意地悪く二匹同時にルオウに向かって砂をかけてきた。
 目には入らなかったものの、全体砂まみれである。
 そして、逃げた。
 恐らく挑発、そして罠だ。だが今回は調査を目的とする依頼だ。ここは誘いに乗るべき、ルオウはそう確信し、狭い道を逃げる小鬼を追うために刀を鞘に納めて。
 ギルドから貸し出された、呼子笛を胸元で掴み追跡を開始した……

「わたくし達も追いましょう、気付かれぬよう注意を払って……」

 ルオウは小鬼の後を追った。非常に入り組んだ道を選んで逃げる。そのわりに此方を撒く、と言う意思が見えないような、そんな気がした。しかし小鬼如きがそんな行動を、単独で取れるのだろうか。無理だろう、ならば必ず黒幕がいる筈だ。
 そんなことを考えている内に、小鬼はとある場所で止まった。少し窪地になっていて、相変わらず周りには沢山の木々が生えている。違うと言えば、緑を汚すほどの黒で夥しく汚れている。
 恐らく元の色は……あか。
(「ここが目的地ってワケだな……」)
 恐らく先程の小鬼は囮役。そして追い掛けたその先で、本隊が表れそこで襲撃を受けたのだろう。
 生存者が見たアヤカシは、小鬼数体と言うのはあくまで『生存者』だからこそ知る情報であった……
 小鬼が続々集合、その数は五十を越えていた。
 蠢く緑から茶色の肌は、なんとも不気味だ。同時に幾つものスリングで、ルオウを木陰から狙っている。しかし、全て小鬼だ。これなら先ず負ける筈がない、ならば何故……敵を睨み付けながら、ルオウは鞘に手を添えて鯉口に指をかける。

「え、………はっ?え、何でだよ!!オイ!?」


 未だ様子を木陰から伺っていた五人。最初に怪訝そうな顔をしたのは、レイアであった。
「ルオウ……どうしたんだ?」
 刀を眺めるばかりの青年に、小鬼が徒党を組んで飛び掛かった。いくら、弱くとも数が数だ。気力のままに回避を続けるも、脹ら脛や腕などにかすり傷を残していく。
「回復の準備を致します」
「合図の笛はまださね?」
「やっぱり……装備になにか」

ピイィィィ―――

 アオの台詞を制す様に、呼子笛が鳴った。いち早く反応をしたのは暗、続いて神威だった。
「行きましょう」
そうして、なるたけ足音を立てずにルオウの方へと接近しはじめた。
 一方ルオウは口に呼子笛をくわえたまま、距離を詰める小鬼達を見定めていた。
(「わかったぞ、こりゃ確かに一人ならキツいな」)
 今は単なる掠り傷、だがこれを何回も何回も何回も何回も何回も、それこそ手の指で数えられぬくらい、くらったらどうなるか考えただけでもゾッとした。
 次の瞬間だった。自らに向かう一筋の眩い光が見えて傷口へと、当たる。痛みは徐々に消えて、次いで聞こえたものは小鬼の悲鳴であった。
「お待たせ致しました。ルオウさん」
 そこには、拳を満遍なく小鬼に叩き込む神威の姿があった。続いて姿を見せたのが暗だ。どこからともなく出現し、背中の忍刀を手に刃を走らせ、序でにマキビシを地面に落としていた。
「えーい!」
 続々と開拓者達は姿を見せる。アオはジプシー独自の接近戦を挑む。頭突きに猫だまし、拳と思いきやの脛蹴り、そんな狡い戦法で小鬼を翻弄する。これでは、どちらが小鬼がわからない。
「ヴァ゛ァァァァアァァ!」
 咆哮をあげたのは、ヴィクトリア。小鬼達は声に誘われ、彼女に集まる。それこそが彼女の狙い、楽しげに笑みを浮かべて斧を勢い良く一周――

『避けろ!』

 させたが、攻撃の殆どが回避されていた。斧の犠牲は数匹のみ。恐らく先程の声が、隊長なのだろう。しかし、ヴィクトリアはワケがわからず、斧を振り回し続けていた。
「ルオウ受け取れぇ!!」
 木陰より声一つ、同時にルオウに向かって曲線を描き、両手剣が一つ大地に突き刺さる。そして声の主、レイアが漸く肩の荷を下ろして、舞台に躍り出た。
 そのまま地に大剣を叩きつけ、その衝撃波で向かい側にいたスリングを構えた小鬼を吹き飛ばした。
 それぞれがそれぞれの戦法で、敵を蹴散らしていく。だがそれでも小鬼は多い。ルオウが慣れぬ両手剣を構えた時。
 再び、小鬼達が砂を舞わせた。
「そうか、罠にかかったのは我等と言うわけだな」
 開拓者の誰でも無い声が、砂煙の中で響いた。
 その正体に誰よりも先に気付いたのは、最初から大将探しに的を絞っていた、神威であった。

「あの個体だけ他と違います」
 彼女が指を示す先を、砂中で目を凝らして視認する一同。そこには、赤い小鬼がいた。
 若萌木色の着物の袖を首元で結び、まるで外套を身に纏っている。
「お前が大将何だな!」
「如何にも。俺の名前は……発音が難しいか、赤オニィさんとでも呼んでくれ」
 部下がやられていると言うのに、そのアヤカシ――赤オニィさんは、極めて淡々と名を告げた。
 ルオウは剣を両手に、小鬼を切り飛ばしながら威嚇をしていた。その視界に暗が入る。攻撃の度にマキビシを仕掛ける、その為に懐からマキビシを出そうと忍刀を背中の鞘に瞬時に納め……
「「暗、ダメ」だ!」
 ルオウとアオの声が重なった。 

 カチン

 しっかりと、刃が納められたその瞬間。暗近くにいた小鬼に、赤オニィは指示を出した。
 その声に捨て身に近い形で、飛びかかるそれはまるで『攻撃が来ると思って無い』程に……
 暗は小鬼へと、再び素早く背中の忍刀へと暗は手を掛けて。
「なっ……抜けない!刀が抜けませ、うわぁ!」
 それでも何とか、後退して回避。抜けないならば、鞘を砕くまでと背中から忍刀を外して、近くの岩に叩きつけた。
「と、止めて!」
「え?」
 声に勢い良く振った力を、少女に言われた通りに弱めるが少し遅かった。岩に当たった鞘と同時に、刃にもたくさんのヒビが入っていた。自ら得物の様子に、肝を冷やす暗とは対照的に赤オニィさんは拍手をアオへ送る。
「ほう、見事だな。そこまで読みきっていたか」
 レイアはここで、今まで破壊された鞘の意味を理解した。壊したのは小鬼ではない、鞘を壊して出そうと開拓者達自らが砕いたのだ。
 だがいくら何でも、刃がそんな簡単に壊れるワケはないのだ。
「恐らく先程の砂に、秘密があるのかしらね」
 神威はそう結論付けた。
つまりこう言うことだ、最初の小鬼が砂を掛けて相手を陽動。挑発に乗った相手は、邪魔な得物を鞘にしまう。そして小鬼が目的地にきて、鞘から得物が抜けず無防備な、開拓者を数で潰す。
 それが襲撃の正体であった。
「何て姑息な手なんだ!」
「あのな…元はと言えば、オマエラが我等を修行と称して一掃してきたからだが」
 呆れた、そう赤オニィさんは呟く。今までやられるだけであった、弱小の存在小鬼。ヒトがアヤカシに対抗するように、またアヤカシもヒトに対抗する策を練る。ただそれだけのことであった。
「俺達の不利は、変わらないようだがな」
 現状を確認する、赤オニィさん。暗の忍刀を使えなくしたとは言え、バグナクを手にして攻撃に転じているし。ルオウも新たな武器を手に入れ、アオは砂を浴びずに済んだ短剣を鞘から外し、小鬼の攻撃を受け流している。
 神威とヴィクトリア、そしてレイアに関して言えば、鞘に納めてない大剣や籠手、斧では全く効果は無い。
 戦力差は歴然、ならばすることは一つ。

『好きに逃げろ』

 その命令が下れば、小鬼の動きは早かった。しかし、詳しい逃走経路の指示が無かった為か逃げる方角は一定ではない。無事き逃げ延びれるか、それすら不明だろう。
 赤オニィさんも小鬼に紛れ直ぐに見失いかける、神威はその後を追う。
 そして直ぐ様小鬼達から悲鳴があがる。先程暗がまいていた、マキビシの罠に小鬼達がかかったのだ。のたうち回る、小鬼。赤オニィさんもマキビシの前で、立ち止まっていたが考えたがそれも一時、直ぐに解決。
「ギァァァア」
「ウガァ」
 小鬼を踏み台にして、まるで飛び石の様にして渡っていく。
「な、仲間になんと言う……」
「逃がしませんよ!……っ」
 神威は足を強く踏みしめ、跳躍。しかし、マキビシには敵味方など、関係は無い。傷は負わぬものの、神威の足止めには十二分に効果を発揮した。
 やがて赤オニィさんは、森の中へと消えていった。本来の赤を外套で隠してしまえば、もう草木とは見分けがつかなかった……

 これはオマエラ、ヒトの驕りが生み出した結果だと知れ。

「待て!」
「目の前で、見逃すなんて……ぐぅっ!!」
 レイアは悔しさに、顔を歪ませた。そしてその怒りの矛先を、得物へ集中させて残党を掃討へと向けたのであった。

●終えても、終わらない
 アオ、暗、レイアの三人は戦いを終えて下山し、東房ギルドへと報告へ向かった。
「……実に巧妙な手口だな。当たり前を利用したのか」
 男性職員はさんにんが書き記した、報告書をそれぞれ照らし合わせて言葉を口にした。
 狭い場所なら得物を納める当たり前。刃が鞘から、外れなければ壊す当たり前。
 
「すみません、わたくしのせいでアヤカシの大将を」
 深々と頭を下げる暗に対し、気にすることもなく女性職員が笑みを絶やさず声をかける。
「気にすることは無いわ、今回は調査が目的なのよ。貴方がいてくれたから、対策もたてられるんじゃない」
 だから、破損した得物はギルドが補修して返すわとヒビの入った忍刀を、指さした。
「ところで後の三人はどうしたのだ?」
「あるものを見つけたから、それを取りにいってるんだよ……」
 何とも言えない表情で、アオは外を眺めながら呟いた。

 山の麓でヴィクトリアは熱心に穴を掘って、丸太をたてていた。
「こんなところで、いいさねぇ?あんたが決めんなせ」
 「御苦労様ですね、後は私がやりますから」
 神威がそう言って取り出したのは骨。小鬼達の襲撃にあった、犠牲者達の遺骨であった。
 先程、小鬼達と戦闘を行った場所のすぐそばに、肉片残らず食べられた骨が纏めて見つかった。
 どうやら小鬼は襲撃した後、装備を剥ぎここで食していたらしい。恐らく防具や武器を、違う場所で見つけさせたのは本来の狩り場を悟らせない為だろう。考えてみれば、遺品はどれもこれも小鬼には大きすぎるものが多かった。
「仇はとったぜ。ゆっくり眠ってくれよな」
 ルオウはそう言って、遺品を墓標の側において両手を合わせた。それに合わせる様に、神威、ヴィクトリアも祈りを捧げる。
「これで終わる……ことは無さそうよね」
 墓標の去り際に神威が呟く。誰も声には出さないが、先程の赤オニィさんの台詞を思い出していた。ギルドは今日の事を元に対策は取っていくだろう、だがそれで解決できるとも思えない。
 ルオウはああ、と頷き。何時になるかわからない、これからを思いその場を後にしたのだった……