絆太鼓
マスター名:月宵
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/08 19:53



■オープニング本文

 ここは、楼港と言われる場所。ある丸く、屋根が開閉式の屋内施設があった。中央には段差のある丸いい舞台、その周りを囲うように広がる客席。
 今はまだ、開催前で人数は疎らだ。その舞台の中央に、一人立つ中年男性がいた。彼の名は、高戸 賢吏(たかど けんり)とある資産家で、この施設の所有者だ。
 本来ここは、稀少な生物を競りにかける、市場の様な役目を担う場所だが、今日は違う。
 簡単に説明するなら、生物感謝祭を開催する。
 と言ったところだろうか、この施設の周辺には生物同士を交流させられる広場や、色々な出店や屋台が並んでいる。無論、生物の販促目的を、賢吏が兼ねているのは確かだ。
 だが、彼自身天儀の生物が好きだ。この仕事だって、本来の目的である調教士育成用の学校や、希少生物の保護に相当量の資金を賄うための手段だ。偽善的だ、そう言われても彼はこの仕事に誇りを持っていた。

 だが、そんな彼の元でも、問題は起きる。部下に呼ばれ賢吏は、先程の舞台へ向かった。中央で雷の如く、轟く音。そこでは、調教士達が、生物を流れる長胴太鼓の音に合わせ、踊らせる……この祭の、出し物であったのだが……

 ダッダッ、ダァァァァァァァァァン

「違うって、そこは回転をするんだ」

 ダンダンダンダンダンダン!!

『無理、怖いよ!』
「待て、逃げるなよ!」

 太鼓の音で、生物達は調教士から指示が聞こえず、命令をこなせぬもの。他に、太鼓の轟音に逃げ出すものが続出していて、とてもじゃないが演舞にならない。

「やはり、多すぎたのですよオーナー!!」
「……みたいですね」

 それもその筈、舞台を囲む和太鼓の数。なんと、三百個。それが舞台をぐるりと、囲むように四方八方に太鼓は置かれたのだ。
 数百の太鼓を間近に、生物と人間が演舞を行う。迫力と生物の勇ましさ、を試す名付けて『絆太鼓の陣!』

 賢吏はそうこの舞台を名付けていた。宣伝にも大掛かりな費用をかけて、今更太鼓の数を減らしたり、別の楽器にするわけには行かなかった。賢吏の決断は、早かった。
「開拓者達に、頼みましょう」
「か……開拓者など、素人ではありませんか……」
「確かに、だが彼らの生物……いや、相棒との絆は誰よりも強いのです。と、この俺が言うんだ……」
 賢吏はスーツの襟を、直しながら笑みを唇に強く讃える。元開拓者である、俺がと、つけ加えて……
「今すぐ、依頼書をギルドに送って下さい。今日は何より、お客様とその生物達を楽しませる事を、みんな考えて下さい」
 善は急げとばかりに、てきぱきと部下たちに指示を送る賢吏にこの人についてきて、良かったと何度目かわからない、確信を彼らは覚えた。

「さぁ、まもなく可愛い生物たん、達が席に溢れるんですよ!炎龍たん、とか忍犬たんとか、ハァハァハァ」



(((「これさえ、無かったらなぁ」)))


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 倉城 紬(ia5229) / からす(ia6525) / 村雨 紫狼(ia9073) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / 澤口 凪(ib8083) / 紫ノ宮 莉音(ib9055) / スチール(ic0202) / 大根(ic0626


■リプレイ本文

 この祭の賑やかさを表すのに、人混みと言う言葉は、恐らく合わないだろう。一定の大きさの生物でも、通れるように整備された通路にはヒト、龍、犬、猫、もふらさま。その他諸々が雑多に詰め込まれていた。
 相棒のもふら、百八(じょや)を両腕に抱き締め、倉城 紬(ia5229
「どこから行きましょうか?」
 今日は生物感謝祭。たまには彼女に導かれるまま、食べ歩きをしてもバチは当たらないだろう。
「もぶぅ! 紬(むぎ)、何時も以上に今日は気前いいもふもふ♪」
 じゃあこっちへと甘い香りに早速誘われる百八は、オリーブ色の体を彼女の腕から乗り出して、紬へと指示を出し始める。
 時同じく、通路を歩いていたのはユウキ=アルセイフ(ib6332)とその相棒、駿龍のカルマだ。ユウキは戦闘でも無いので、と常に着けている仮面を今日は外していた。
 喧騒の中、誰も見ることなく吹雪く桜の花弁を見るように、ユウキは天を仰いだ。
 不意に言葉が、心を巡る。あの頃を思い出す。お祭りに似合わない涙が、ユウキの頬を伝った……
「 …ゴメン、カルマ、少し、移動しよう…。 本当の自分の――も、同時に思い出しちゃった…。 」
 心中を察するかのように、カルマはユウキの顔を、瞳を覗き込んでいた。言われるまま、カルマは主と広場へと歩き始めた。心なしか翼で主を隠すようにして……

 場所は戻って屋台エリア。大判焼き屋の前で、二人は一つずつもふらの焼き印のついた大判を嬉しそうにほお張っていた。二人して、口の端っこに粒餡がくっついたのも気にせず、サラリとした餡と、餅の様な食感の生地を味わった。
「美味しいか、嬢ちゃん方?」
 その様子を大判焼き屋の店主が、口元を弛めて聞くと、合わせたかの様に二人して笑顔で答え頷いた。
「いい面してんな。この辺りの食いもんの売上は、殆どが稀少生物育てるのに割り当てられたりすんだよ」
 だから沢山喰えよ?そう言うと、彼の肩に乗せていた小鳥がチィと鳴いた。
「それは、凄いですね」
「全部コードさんのおかげさ」
「も、も、もぶぅ! もぶ!! 次行くもふもふ!」
 それならば、色々食べ歩かなければと、話に感心を覚えている紬の服を引っ張る百八。尤も店主の有難い話を聞こうが聞くまいが、このもふらさまの行動に変わりはないだろうが……

●もうすぐ開幕だよ。

 こちらは演舞会場の楽屋。演舞を行う相棒とその主たちが、続々と揃いだしていた。
「曲は選べるか?出来ればテンポの早い、アルカマル風なものを」
 高戸 賢吏と交渉を行っていたのは、借り物のタキシードを身に纏った村雨 紫狼(ia9073)だ 。
「曲目は幾つか用意してましたから、問題はありませんよ。譜面持ってきましょう」

『よかったのです!マスター、ううんシロウとの絆パワーを見せつけるのです!』
 賢吏の言葉に紫狼の相棒も、思わず顔を綻ばせた。これで、主と共に踊れる……と。

「この部分で、動きを合わせて欲しいの……出来る?」
 太鼓の奏者達に合わせて欲しいタイミングを頼むのは、古くから伝わる秦風の衣装を、その若さながらに着こなすからす(ia6525)。
 その傍ら、炎龍の虎雀が堂々とした表情で、日頃と同じく仁王立ちしながらからすを見守っていた。
 何も拘るのは、曲目だけではない。甲龍、頑鉄の主である 羅喉丸(ia0347)など自前の衣装で出場する予定だ。

 そんなシャッキリした空気なんぞいざ知らず、ゆるゆるとした時間を流す存在が二人と二匹。
「今日はずっと一緒だよ♪」
「三百もの太鼓って、どんな音だろう?でもきみなら、大丈夫だよねルベル」
「終わったら、屋台へおいしいもの探しに行こう♪」
 相棒ルベルこと、走龍のアストラルベルの背を撫でる紫ノ宮 莉音(ib9055)常日頃、一緒にいられる場所が限られる為今日と言う祭にはしゃいでいた。その気分はアストラルベルも、一緒なのか赤い翼を震わせ反応する。
 うまくいけば、それで良いな。そんな風に楽しむ気持ちが先行しながら相棒、岳の胸元に邪魔にならない程度に装飾を施す澤口 凪(ib8083
「んーまあ本職じゃないけど、何事も経験ってぇことで。よろしく相方 さん。」
 凪は手綱を装着しながら、そう岳に伝える。そんなお気楽な主に、内心不安を覚えながら首を動かし、円舞台に目を向ける岳なのだった……

●絆太鼓の陣、開幕だ!
 会場内には開拓者だけでなく、一般の人たちとお気に入りと思われる生物達が、観客席を埋めていた。
 常なら値段が言葉に飛び交う場所、しかし今日だけは中央円舞台への言葉は、歓声に変わるのだ。
そんな中であらかたの食べ物を買い終えた紬と百八が、息を切らせて円形の会場へと足を運んだ。
「もう……ハァ…百八のせいで、もう始まっちゃいましたよ…ハァ…」
「紬だって、一緒に食べてた……もふ、もぐよも」
「って、また食べてる!」
「甘みは別腹ッ! 女の子もぶ!」
 そして、絆太鼓の陣は開催された。

「レディースアンドジェントルマン!紳士淑女の皆様方、ごきげんよう!!」
 司会が特殊な宝珠を使った、拡声器の声が会場に響いた。
「さぁ、三百の太鼓の中で、彼らはその絆を魅せることが、出来るのか……それではエントリーナンバー1番。莉音&アストラルベルペアです!」

 広い円舞台。莉音はアストラルベルに騎乗し真ん中へ進む。
「さぁお仕事だ!」
 そして、バチが一斉に太鼓へと降り下ろされた………

ドォン ドンドン ドォォォン

 莉音とアストラルベルは、太鼓の音。いや攻撃に包まれる、体の奥から骨肉に至るまで響き渡る、それ。これ程とは、そう思いながらも莉音は手綱を引いた。
「くっ、まっ、ルベル待て!ああ」
 上下に首を振らせ、左へ、右へ跳ねる跳ねる。アストラルベル命令はしっかり聞いてはいた、だが太鼓の音に包まれ興奮したのか全くリズムが合わない。それに莉音まで動揺して、しっかりしたバラバラな躍りを、見せることになってしまった……

「やはり手綱だけに、一筋縄では行かないようです。では次に参りましょう!エントリーナンバー2番、凪&岳ペアです!!」

「じゃ、いっくよー相棒さん!」
 返事とともに、凪は岳の正面に立って勢いよく側転、そのままの体勢から岳の背中に座り手綱を握った。
「それ、そりゃ!えいえい!」
 響く太鼓の音を踏み締める様に、岳は足踏みをこなす。手綱から伝わる主の命令は、この甲龍を通して舞台に染みるように、自然に伝わった。
 そして、岳は高く飛び上がる。それに合わせる様に凪は膝を曲げ、飛び上がる。手に持つ布が、ひらりくるりと揺れて空間を演出した…………が。
「うわぁぁぁぁ!」
 体がうまく起こせず、このままでは円舞台に激突してしまう。空より落下した彼女はどんどんと地に引き寄せられ……そこを大きな影が飛び付いた、勿論岳である。太鼓の陣を飛び越え、観客席近くに不時着した。
「あはは…ありがとう、失敗しちゃったねー」
「…………………………」
「あ、怒ってる?」
 岳の腕の中で、凪は思わず苦笑いをした。

「さてさて、色々不祥事多発ですが……気を取り直して参りましょうかぁ。エントリーナンバー3番、羅喉丸&頑鉄ペアです!」

 円舞台に羅喉丸と頑鉄が、揃い並び立つ。
「これまでに幾多の死地を共に乗り越えてきた。だから、今回も大丈夫さ」
 そう言って、彼は頑鉄に騎乗する。しかも手綱も無しで、両手には 泰術棍「林冲」を構えながら、だ。

「せっかくの祭りだ、楽しんで貰わなければな」
 太鼓の始まりと同時に、彼らは空へと足を運んだ。羅喉丸は、頭部に鳳翅紫金冠。身体には 鎖子黄金甲。そして脚部には藕絲歩雲履。
 そして、龍戈衛装を行いほんのりと、鎧が金色に光る頑鉄。空を自由に泳ぐ様は、まるで金斗雲。棒を操る羅喉丸は、正に孫悟空そのものであった。
「頼むぞ、………頑鉄!」
 ラッシュフライトにて、大きく翼膜を広げ奇怪な動きで飛ぶ頑鉄。その上で羅喉丸は高く、宙返りをして墜ちていく。
 またもや同じことが、そう観客は思った。 だが羅喉丸本人だけは違った、何故なら、頑鉄との絆を信じているから。
 スタリ、ほぼ太鼓が止むのと同時に頑鉄の岩肌のような背中に、彼は降り立っていた。
 羅喉丸と頑鉄は、太鼓とは違う拍手と言う音に包まれたのだ……

「おっみごとでした……さぁ、続いてはエントリーナンバー4番。からす&虎雀ペアです!どうぞぉ」
 虎雀は炎龍の中でも小型だ、さっきの頑鉄と比べると少々見劣りしてしまう。
 からすは太鼓の鳴る直前、虎雀にただ一つの命を出した。

「派手にやれ」

 ガルァ゛ァァァァァァァァ

 太鼓の轟きに見劣りしない咆哮が、観客の鼓膜をも痺れるように貫いた。からすは鉄扇を手にして踊る。優雅に身体を曲げては、鉄扇を翻し流れるような動きを見せる。
 その背後、虎雀はヒートアップ。観客に飛び掛からんばかりに身体を浮かして、鋭い爪で空間を掻き散らす。
 からすは鉄扇を閉じて、暴れる虎雀を呼びつける。
 勢い良く、主に向かって尻尾を叩きつける虎雀。しかし、からすはそれを鉄扇で難なく受け、弾く。更に彼らの距離は詰まり、二合目を打ち合う……更に三合目を打つと思わせたところで、からすは虎雀に騎乗した。
 そのまま、それこそ我が物顔で虎雀は円舞台を駆け回る。その間からすは安息流騎射術にて、自由になった両手で横笛を演奏する。
 これこそ、つい先程まで太鼓に合わせる様に頼んだ演出であった。一周が終われば、虎雀の動きは更にヒートアップ。爪に焔を纏い終りを近付く。最後にからすを尻尾を使って弾き飛ばしてからの、片手でキャッチ。
 そのままストンと舞台に戻れば、虎雀は仁王立ち。からすは鉄扇を観客席に示し、 この曲の締めとしたのだ。両手取りが上手くいかなかった、その点だけが彼らの間では不満に残る。
 戦いを彷彿とさせた、からすの演舞は観客には好評であった。
 ……が舞台袖で次の番を出番を待つ、礼野 真夢紀(ia1144)はそわそわとしていた。
「緊張するよ、まゆにあんな踊り出来るかな……」
 悄気る真夢紀は、駿龍の鈴麗が顔を見合わせる。あれほどの凄い、演舞の後なのだ彼女で無くとも、不安に掻き立てられる。
「案ずるな、奴らは奴ら。貴様は貴様の躍りを見せれば良い。貴様と相棒はそんなものではないだろう」
「スチールさん」
 金属音をその身体に、鳴り響かせて スチール(ic0202)が、彼女にはっぱを駆ける。
「そうだよ、まゆちゃん。幼女はそれだけで、ポイント高いんだ大丈夫だって!」
「皆さん……ありがとうございます!まゆ、頑張って来ます」
 不穏な台詞も漏れたが兎に角、真夢紀は気合いを取り戻し、鈴麗と共に舞台へと向かった。
「大丈夫だ、何せこの私がトリだ。見ていろ騎士の誇りをしかと、客に見せつけてやる!」
 高らかな声を上げるスチールに、その相棒の甲龍モットアンドベリーは不安のあまりにため息にも、思える鼻息を吹いた。

「盛り上がってまいりましたぁぁ!それでは、次はエントリーナンバー5番。真夢紀&鈴麗ペアです!」

 最初の太鼓と同時に、真夢紀と鈴麗は互いの翼を広げる。実際には真夢紀は両手に閉じた扇子を持った腕を、伸ばしただけだ。今までと違い、鋭さも猛々しさも無い。ただその真夢紀の舞いに、皆は魅了された。
 右手の赤い扇子「紅葉」が開けば、ふわりと鈴麗は翔び、左手、白い扇子「鈴蘭」が開けば尾をその通りに、音を鳴らし振った。
 無駄の無い、洗練された命令はしっかりと、鈴麗に伝わっている。舞いに溶け込んで、素人目にはわからないが。
 その様子はまるで、真夢紀が扇子を介し鈴麗を導いている、そんな神聖さを覚える。不意に真夢紀が、両方の扇子を鈴麗に向ける。鈴麗は足音も厳かにしながら、彼女に近付き拝すように首を差し出す。
 そして、騎乗。
「鈴麗、空へ!【高速飛行】!!」
 ここから彼らの演舞は、最終段階に入る。真夢紀が背に乗った途端、今までとは違いすぎる程の動きで一気に上昇をする鈴麗。

 ダァン ダァァァァァン……

 最後の太鼓の音が止まるころ、ひたりと空中で停止。観客達が遥か天を見上げれば、轟音の余韻の中、落下傘と変わらぬ速さで下降する彼ら。そして氷で出来た沢山の華が真夢紀の周りに咲いていた……
 歓声は無い。だがその数倍をいく拍手が、会場の外にすら溢れた。

●一方こちらでは……
「向こうは盛り上がってるみたい」
 交流広場にて、ユウキは用意された長椅子に座りながら、遠く会場で聴こえる音へ呟いた……
 この場所は人気も疎らで交流と言う目的を果たせないでいた。会場の方へ皆行ってしまったから、と言えばそれまでなのだが。
 会場に入るには、身長制限がある。客席で演舞を鑑賞するには、カルマは大きすぎた。
「カルマ、また、ごめ――――って踊ってるし」
 寂しくしてるか、そんなユウキの心配知らぬ存ぜぬ。太鼓に合わせて軽く足踏み、尻尾をふりふり。その楽しそうな様子に、感化されたのかユウキは道具袋から横笛を取り出し吹き始めた。
 桜の香り薫る広場に、響く柔らかな笛の音。するとそこに、小さなお客様が近付いてきた。
「かっくいいー!これおにぃちゃんの龍なの!?……噛む?」
 カルマの目の前に、男の子が来ていた。駿龍が珍しいのか、興味津々に瞳を輝かせている。
「カルマはそんなことしないよ、触っても大丈夫だよ」
 男の子は最初は恐々と、カルマが低くした鼻の頭に触ったが、大丈夫と一度解れば、好奇心が勝ってぺちぺちと触っている。
「すみませんウチの子が」
 母親だろうか、隣には小型の犬を連れている。この祭の参加者は、何も開拓者ばかりではない。寧ろ志体を持たぬ、一般人の方が多いのだ。
「いえ、構いませんよ。僕もカルマも楽しいですから」
「さっきの笛は貴方よね、また吹いて貰える?この子が気に入ったみたいで」
 わが子のように、犬を抱える女性。ユウキはゆっくりと頷けば、また横笛を奏でた。
 いつの間にか、桜に思い更ける涙は今は無く。ただ穏やかな時間が彼らを、夢見心地に運んだ。

 それはいきなりだった。太鼓が鳴り止み数秒後、会場のざわめきが微かに聴こえた。全員が顔を見合せた。
「一体会場の中、どうなってるの……かな」
「ガウ」

●ざわめきの正体
 戻って会場内。
 相変わらず百八は菓子を頬張っているが、紬及び観客の多くがざわつく。
「何……え?」

 現在は太鼓鳴り響く中、エントリーナンバー6番。紫狼&ミーアが舞台の上で踊っている。

 ドンカッカッ ドンドドンッ
 カッカッドン カッカカッ

 幾つもの太鼓の素早い連打。それは紫狼が求めた曲である。彼は先程のタキシード服で、相棒とダンスを披露していた。
 その相手は、深紅のドレスを身に纏う金髪の長身の女性であった。
 今回は生物や相棒とのコンテスト、そう言う名目であった。ならばどう見ても『ヒト』が出てくればそりゃ、騒然とするのは当たり前。もしかすると、この男はそう言う趣味?などと、奇異な目で見られてもいる。
 が、実際はそうではない。彼女はドグーロイドと言う歴とした、人形土偶なのだ。それをどうにか、こうにか紫狼が改造を行う内に、こうなってしまった……
「確かにオレは無機物でも、意思あれば構わないとは言ったが……」
 これには賢吏もどう感想をするべきか、と兎に角歪んだ笑いを浮かべていた。
 が、そんな周りなど気にせず二人は、自分達の世界にどっぷりである。

 周りの批評に臆することもなく、互いの手をとり二人はステップを踏む。ミーアを安心させる為、肌を密着させているのだが……どう見ても他人からは、別の目的に見える。
 身体を緩急付けてくねらせ、仕上げには回転そして、そのままフィニッシュ。

『最後は、熱い口づけなのです・・・ん』
 近付いてくるミーアの顔、そしてそのまま………

「………ま゛、いっ……か…グゲァッ」
「誰か運んであげてぇ!!」
 唇と唇が倒されたままで、紫狼の上にミーアがのし掛かる形になっていた。その表情に苦悶が無かったのは、救いなのかなんなのやら……
 因みにミーアの重量は70キログラムである。もっと説明するなら、70キロの鉄の固まりが自らに向かって飛んで来たのだ。

「えっと……次に参りましょう!トリを飾るのは、エントリーナンバー7番スチール&モットアンドベリーです」

 司会に言われるや否や騎乗したまま颯爽……とは、やや言いにくいほどの突進で、円舞台に中央に立ち止まる。
 鳴り響く太鼓に合わせるよう、モットアンドベリーの手綱を引いて嘶かせ、スチールはセントクロスソードを頭上に掲げ、こう言いはなった。

「私はスチール・ド・サグラモール。鉄を愛する騎士なり、我が名を誇り高くこの場に轟かせん!!」
 騎士としての当然の演説。だが客席は無論……

「今何か言ってなかった?」
「いや無いだろ、この音の中だぞ」
「ないない」
 そう、太鼓に阻まれて一切届いてないのだ。だがそんな事スチールは、舞台の上で気付かない。次の演舞に入る。剣を片手に掲げたまま、モットアンドベリーを走らせてから飛行させる。可もなく不可もなく、綺麗なモットアンドベリーの舞いなのだが……
「「「(((凄く重そうだ……)))」」」
 龍鎧で武装した甲龍、足すことの主の鎧だ、幾ら動きやすく何時もよりは軽いと言えど、見てるこっちはひたすらに重そうだ。
 やがて、演舞を一通り終えるとモットアンドベリーから地面に着地、そして剣を納め、お辞儀をするスチール。
 拍手は返ってきた、そう疎らに……

「は……はい、以上を持ちまして全チーム演舞終了です。さぁ優勝はどのチームへと贈られるのか……」

 締めがこれでは司会は非常にやりにくいのだが、これは公平な籤の結果。誰に文句をつけることも不可能なのだ。

 ざわりざわり、出場者全員が舞台へと上がった。紫狼など、さっきの負傷など無かったかのようにミーアの隣に立っている。

●優勝は、誰の手へ?
「ねぇ、百八はどれが良かった?」
「どれも、美味しかったもぶぅー!」
「やっぱりそうだよね、うんわかってた」
 膝の上で、お腹まんまるな百八は置いといて紬はいよいよ発表の舞台へと目を向けた。

「皆様お待たせしました。演舞・絆太鼓の陣コンテスト。優秀者は……」
 皆の鼓動が高まる、無言の中で太鼓が鳴り響く。
「エントリーナンバー5番、真夢紀&鈴麗ペア」
 真夢紀は一瞬、この世界が偽物に思えた。それほどに、意外な話に彼女には思えたのだ。だが周りの開拓者から贈られる拍手と、祝いの言葉に今が真実なのだと意識する。

 後に話を聞いたところ。どの出場者にも、甲乙はつけがたいものであったらしい。しかし言葉も無く、動作だけであれほどに相棒に指示を出せた事。それを短時間で、習得させた彼女への評価と鈴麗の絆が優勝の決めてだった。

 皆に導かれ真夢紀は表彰台に上り、傍らに鈴麗が控える。そこに正装をした賢吏が近付き、彼女に微笑みを向け手の平を前へと出した。
「おめでとう御座います。これからも、彼ら生物と共に自ら道を歩み、絆を深めてください」
「あ……ありがとう御座います!」
 そう二人は握手を交わした。そして皆に聞こえない声で、彼はこう続ける。
「……後でその駿龍たん、触らせてくれっ」
 息遣いが荒い。まさに裏と表というやつか……

 そしてフィナーレは、七組の相棒達が一斉に演舞を行う。空を舞い、地を駆けて、そして回る。観客席間近に相棒達が迫る。では、そんな彼らの様子をダイジェストでお送りしよう。

「喜んで貰えているようで何よ
り、なぁ頑鉄!」
「ガウッ!」
「シロウとの踊り、楽しいです!」
「俺もだぜ、ミーアァ!」
「もう無理しないよー。だから機嫌直してよ相方さん?」
『心配かけて……』
「ハァハァ……その、炎龍たんも黒くてかっこいいね。翼膜ぺたぺたしたいぃ」
「やれ、虎雀」
『よしきた』
「オーナー!ダメですよ、まだ終わって無いんですからぁ!?」
「見よモットアンドベリー、我らを民衆が祝福しているぞ!」
『どうでも良いが、動くな落ちる!』
「ング、ング」
「ちょっルベル、それ参加賞の吉備団子だよ。まだ食べたら駄目だよぉ!」
「まゆ、びっくりした。優勝しちゃったよ」
「ガウガァ!」
「そうだよね。やっぱり鈴麗も嬉しいよね」

 こうして、絆太鼓はその幕を閉じたのである。だがお祭りはまだまだ続く、各地で散らばりそれぞれの相棒とのふれあいを楽しんだ、開拓者達であった。

「ああん、やっぱり生物って最高!!」
「あのぉ……カルマが困っているのですが……」