【初心者歓迎】発掘スライム
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/14 14:30



■オープニング本文

 危険と言うのは、不思議なもので突如としてやってくる。そう例えば、今現在形で神楽の都に発生した、山程の大きさがあるこの大粘泥の様に……
 悲鳴をあげる、人々。だがその誰もが直接に、被害を受けてはいない。アヤカシはヒトを食す、又は恐怖を糧とするのだが、この粘泥の場合、今の所、ヒトを食してない。
「いやぁあぁ、鼈甲の簪ぃ!」
「あぁ……わしの煙管」
「あ、アタシの注染め源氏車ぁぁぁ〜」
 といったように、貴金属や高価な装飾品、とにかく高級なものを粘泥がその体に、埋めて溶かし、その物を喪失する人々の恐怖を味わう。
 ……何とも、ある意味高級嗜好な奴だ。
「うぎゃぁぁ、商品が!」
 時同じくして、叫ぶ小さな狐の獣人が一人。偶然、偶々いた。
「お前ら、アレを倒してくれ!倒してくれたら、あの中の物好きな奴、一つやるから!」
 粘泥を指で示した。彼の名は、暁(iz0153)。彼こそ若くして、開拓者御用達の、神楽屋を後継した人物である。粘泥の中の、物資は今更売り物にならない。それよりも、未だ被害の無い商品を守る方が大事だ。

 ブチン

 予兆も無しに、大粘泥は三つに分裂して、三ヶ所に別れて飛来する。
 あの大きな体(?)では動きにくい、効率良く金品を集める粘泥なりの、工夫だろう。飛んでいく、貴金属を飲み込んだ粘泥を眺めて。もう取り戻せないと、絶望が表情に広がっていた。そこで、暁は言葉を開拓者達にこう続けた……
「出来れば、だけど粘泥に盗られた、彼らの持ち物も回収して欲しい」
 そしてその品物を、自分に渡して欲しい。その品物に見合う、報酬は出すからと暁は続けた。なるほど、その回収した品物を暁自らが盗られた人々に返すことで、信頼を上げるといったところだろうか。

 大きさに、反比例して弱い。強さが、全体的に弱い。
良く見ると三匹は色も形も、大きさも同じ。しかし開拓者がぱっと見で、それを察することが出来る。
 そしてもう一つ、粘泥の中で道具を溶解する速度だ。それは、物質に依存しない。物が高価値であれば、あるほど、溶解する速度も速い。
 つまり、一番弱い粘泥は、高価な品をもって、尚且つ溶けやすい。
 弱くとも、粘泥はアヤカシ。いつ人を襲い始めるかわからない。

 粘泥を倒す依頼、そう、それだけなら、簡単な依頼だ。
 貴方は、この粘泥に何を見る?


■参加者一覧
羽紫 アラタ(ib7297
17歳・男・陰
煌星 珊瑚(ib7518
20歳・女・陰
ゼクティ・クロウ(ib7958
18歳・女・魔
ロイド・ハーシェル(ic0245
17歳・男・魔
ユエン(ic0531
11歳・女・砲
アリア・ジャンヌ(ic0740
18歳・女・騎


■リプレイ本文

 開拓者達は自らが狙う粘泥が、飛び散った軌跡を追った。一般人の避難はある程度を、都の警邏が終わらせた。悲鳴という名の不協和音は、もう殆んど聴こえない。安心して術技を放てそうだ。

 各自が求める、粘泥の元へ辿り着いた。先ずは梅から見ていこうか……

●梅の話
 最初にそれを見付けたのは、 ユエン(ic0531)だった。見上げるほどに大きな粘泥に畏怖を覚えて、うっすら涙を浮かべていた。
「あうぅ、みためが、怖い、です……っ」
 まだ幼い彼女からしてみれば、いくら弱くとも自らに覆い被さるほどの大きさの粘泥だ。余程の驚異と言えよう。
 視界に入るから怖いのだ、ならば見なければ……などと考えるが当たり前だが狙うことすら不可能な事実に気付く。
「大丈夫、わたくしが前に出ている限り、後ろに攻撃は当てさせません」
 ユエンを背にアリア・ジャンヌ(ic0740)が決意を固め、目の前の巨体に自らを奮い起たせる様にオーラを纏う。
「ユエンもアリアも、宜しく。先ずは私から」
 煌星 珊瑚(ib7518)が二人に話しかけ、そのまま最初の詠唱に入った。 彼女の掲げる符から赤い蛇が幾数匹も迸り、粘泥の巨体に絡み付いた。いわゆる呪縛符である。
 その遥か遠く、ユエンが短筒が炸裂する。しかし、まるで弾は包み込まれる様に粘泥に吸い込まれた。 だが、彼女に動揺する時間はない。直ぐ様単動作で、弾を込めて二発目を当てる。これは手数で攻めるより他にない。
 しかし粘泥だってただ攻撃を受けるだけではない。どれだけ雑魚でもアヤカシであり生命だ、反抗はする。 
 珊瑚に粘泥は標的に見定め、粘液を放った。
「させません!」
 珊瑚の前にアリアは躍りかかり、魔剣を胸元で構えた。粘液に追尾精度は無い。ならば、アリアを巻き取る様に、粘液が肢体に絡み付くのは必然であった。
「アリア!」
「く……早く、今のうちに」
 粘液にて、全身が沸騰するような痛みを僅かながら、継続的に受ける中で珊瑚を急かす。珊瑚は霊青打で籠手に赤の力を宿せば、粘泥に近付いて拳を粘泥にぶつけた。
 飛び散る粘泥。だが彼女は本来陰陽師、力は無いに等しい。
 恐らく、今の自分達ではこの粘泥に対抗するには役者不足だろう。このままでは、アイテムはどんどんとこの巨体に吸い込まれていく。ならば、と珊瑚は粘泥の中に両手を突っ込んだ。
 粘泥は柔らかく半透明、ならば倒さずともその体からアイテムや、品物を取り出せば良いだろう。そう考えていた……
 実際それは成功した。小さな簪や宝石の類いをどんどんと、粘泥の体からひっぺがして地面にばら蒔いた。
 だけど皆様忘れてはいないだろうか、この粘泥は『高価なものほど』早く溶かすことが出来るのだ。
「ああー!あなたの武器」
 最初に気付いたのはユエン。そして遅れて当事者珊瑚も気付いた。腕が嫌に軽い、そしてその正体を知り目を見開く。
「と、溶けてる!?」
 今しがた装備していた、陰陽甲「六芒」が無くなっていた。そう、高価であった。故に溶けてしまったのだ。
 幸い手は溶けてないため、以後の戦闘には支障は無いものの今は得物一つの損失に、珊瑚は舌打ちをした。
 同時に剣で粘泥を削ぐ、そう考えていたユエンの一手は使えなくなってしまった。
 ならばどうするか、アリアを拘束するため粘泥はそちらに気を取られている。ならば攻撃あるのみ。ただただ他の粘泥を倒した援軍を望む様に、彼女らは攻撃を続けた。



●竹の話
ロイド・ハーシェル(ic0245)は一人で粘泥と対峙していた。頼みにしていた、松粘泥へ向かった ゼクティ・クロウ(ib7958)からの援護は、距離が遠すぎる為不可能と相成った。
それならば、それで自らで動くだけだ。ロイドは宝珠を手に持ち、お得意の詠唱を始める。
「放て、火炎球!!」
 ロイドの命じるままに、宝珠から生まれいでた火の玉はそのまま目標、粘泥へと一直線。炸裂した火の玉は、粘泥を燃焼し始めた。粘泥に痛覚は無いから、怯むことは絶対に無い。しかし、確実に粘泥の身体は、縮小していた……
 二発目のファイヤーボールを打ち終われば、ロイドは粘泥の巨体に回り込む様に近付きその身体を入念に眺めた。
 そして、珊瑚の様にアイテム等を粘泥の体内から引き摺りだした。
 音を立てて落ちる、アイテム。しかしさっきと違い、ロイドの装備が溶けることは無かった。理由は単純だ。粘泥に触れず、ただ縮小の際にむき出しになったアイテムに手を掛けて引っこ抜く。
これなら、全く問題も無くアイテムや装飾品を回収出来た。
 ロイドは風の唸る音を聞き、慌てて身をひねった。しかし、粘泥の腕(?)の幅の方が大きく平手打ちをまともに喰らう結果に到った。
 元よりロイドは、他と比べて体力のあまり無い魔術師。はっきり言って、粘泥と彼の強さは互角である。
 ロイドが粘泥を消滅させるか、はたまた粘泥がロイドを飲み込むか……その半々であることをロイドは察してぎこちない笑みを浮かべ。またもや詠唱に入る。
「上等だな、おまえ何かに俺の炎は負けない!」 

●松の話
 さて、此方は弱くとも最難関。松粘泥に挑むゼクティと 羽紫 アラタ(ib7297)。しかし二人の間にはそれこそ氷の様に冷たく、針の様な鋭い空気が流れていた。
 それには、こんなことがあったからである……

 アラタも陰陽師。発見した粘泥の足止めにと呪縛符で封じたまでは良かった。が、その後に使った技が問題だった。
「臨兵闘者皆陣列在前 」
 その名を暗影符。これは対象を影で覆い、視力を奪うそう言う術だ。その術が見事粘泥に決まった、そう喜ぶアラタにキツいゼクティの凍てついた台詞が突き刺さる。
「……この粘泥の何処に、目があるのかしら」
 その通りであった。元より粘液型知能細菌並な、粘泥に瞳何て高尚なものがついてるワケも無く。 アラタはただ粘泥に、黒い靄を着飾っただけであった。しかも、符一枚を消費して。
 時間が無いのに、無意味な術を放たれたらそりゃ誰だって怒る。
 狼狽えるアラタを他所に、ゼクティは杖を粘泥に向けて一言呟く。
 フローズ、瞬間に凍てつく空気の中で粘泥は少し形を崩し、表面を凍らせていく。本当はアムルリープも考えていたのだが、眠らせたところで粘泥の体内の活動止まらないと瞬時に判断し、こちらに切り換えたのだ。
「何故か、すぐ氷技つかっちゃうのよね…」
 もう一回と唱え始める、そのゼクティを抜いてアラタが前へ出た。手には短剣を、粘泥の凍りついた部位に足を掛ければそのまま勢いよく刃を切り上げ、そして粘液を削ぐ。
 梅の粘泥の時と違い、凍てついた粘泥を斬ってもアラタの手にしていた彷徨う刃は、全く溶けることは無かった………が。
「雑ね」
「時間が無いんだ!!」
 凍った粘泥、だが表面層から中間にかけてしか凍ってはおらず、解凍も早かった。その為に粘泥の切り取りは雑になり、粘泥もろともアイテムにまで傷を残していく始末。
 これでも、アイテムが全て飲み込まれるより、マシと言った、正しい判断からの行動だ。

 やがて、松粘泥の姿が消滅した頃辺りには、もう動かない粘液にまみれた、アイテム(ほぼ破損)が散らばっていた。
 予想より時間が掛かってしまった。原因はスキルの吟味不足、と言ったところ。二人は明らかにこの粘泥より強かった、だが状態異常に特化したスキルが多き、主砲となるスキルが無かったのが退治時間を大幅に伸ばした原因だろう。
 これほどの状況が揃えば、現在の針詰めた様な空気を、おわかりいただけると思う。
「……………」
「………………」
 そして無言のまま、二人は他の粘泥へ援護に行くのであった……

●全員集合
 ゼクティとアラタは、粘泥の中で一番の強敵と思われる梅粘泥の元へと急いだ。
 その光景に二人は、頭の中で警鐘を鳴らした。
 粘泥は未だ健在。どうにか、ユエンと珊瑚が攻撃をひたすら繰り返しているものの、全く歯が立たずと言ったところだ。
 珊瑚に至っては、得物を溶かされ更に符も尽きた様で素手で相手をしている。
 しかしそれより不味いのは、拘束により足止めを行っていたアリアであった。粘液による拘束は、先程より更に悪化してもう彼女の口元までを覆い掛けていた。
「ハァ!」
 アラタは駆け寄り、勢いよく拘束する粘液を短剣でぶった切った。残った粘液と共に、力なくアリアが地に伏し、彼女の金色の髪の毛が散らばる。アラタはアリアに駆け寄り膝に抱き起こして、素早く取り出した聖符水の栓を開けて、ゆっくりと飲ませ始めた。
「急ぐなよ……よし」
 アラタは流石医学の知識があるためか、アリアを通常より素早く回復させるに到った。
「御世話をかけ、よう……ですね」
「全員離れなさい、巻き込むわよ」
 酷くこの戦闘に場違いなまでの、冷静な声が響き渡る。その声の主はゼクティ、杖を既に粘泥へ向け終えている。
 これはマズイ。
「ユエンこっちだ!」
 杖の放射線上にいた珊瑚は急ぎ粘泥から離れ、次いでに状況理解に未だ至ってないリエンの手を引いた。
「ふぇ?……なっ――――」
「ブリザードストーム」
 リエンの頬を掠める位置に、辺りに吹雪が発生した。粘泥をすっぽりと包むほどの吹雪は、みるみるうちに自由を奪い、その体力も奪って行く。恐らく、今日一番の攻撃威力ではあったのではないだろうか。
 そして未だ吹雪に黒髪が揺れるなか、ゼクティは残りの開拓者達にいい放つ。

「さぁ、総攻撃なさい」

 その言葉を合図に、固まった粘泥に一気にアラタ、珊瑚、ユエン、そしてアリアが得物を手に駆け寄った……

 やがて時は過ぎて……竹粘泥を無事、アイテム吸収前に倒、し両手いっぱいに取り出した高価な品物を持ってたロイドは、梅粘泥の居場所へと辿り着いた。
「終わったみたいだな」
「ええ、どうにかね」
 ロイドの見た光景はこうだった。毅然と立つゼクティと、グッタリと座り込む他三名。粘泥の居たと思われる場所に、その姿は無く代わりに無傷の品物が山積みに、無造作に置かれていた。
「ロイドさん、品物の回収頼めるかしら?」
「ええ、俺だって疲れてんのに……わかった」
 実際のところただ一人で、巨大な粘泥と渡り合っていたのだからかなり疲労は貯まっているはずだが、他三名は未だ復帰出来ていないのだから仕方ないと、ロイドは大人しく頷いた。

●結果発表
 漸く全ての品物の回収を終えて、開拓者一同は近場の井戸で粘液まみれのそれを洗い落としていた。ユエンはアラタの隣で、井戸水を品物や装飾品にかけて丁寧に、素手で洗い落としていく。
「うわぁ!アラタさんの方の粘泥、強かったんですね。品物ボロボロじゃないですかぁ」

グサッ

 尊敬すらすると言う台詞と、純真無垢な円らな緑の瞳に何故殆どが破損した真実を知るアラタに、呻く姿無くとも異様なダメージを内部に与えている。そんな事は内部状況ユエンは全く知らない。

「 いったい、どれだけ飲み込んだんだい、こいつら… 大喰らいもいいとこだ。 」
 半ば呆れ気味に、綺麗になった粘泥から回収した品物を珊瑚は分別していた。
「いい訓練にもなりました、次もこの調子でしっかり鍛えていかなくては、しかし先ずは……」
 体を洗い流したいですと、隣でアリアが髪に貼り付く粘泥を振り払いながら珊瑚に話しかける。同感、そう彼女もアリアへと返答した。
 その一方ロイドは自分の粘泥から、洗い回収し終え、暁へと渡していた。
「火関連のアイテム……無さそうか」
 報酬を貰い終えたロイドは、商品の中から一つ選ぶことにしたのだが、本人好みの装備品は見つかりそうになく結局、一番使えそうなローブを選ぶことにした。

 やがて、全ての品物を洗い終わり暁は元の持ち主へと返していく。
「ま……さか、戻ってくるなんて、ありがとう御座います!!」
 暁が一つ一つ、手渡したする様子をゼクティ手伝いながら眺めていた。片手には先程小さくて唯一破損から助かった、粘泥をモチーフにした根付きを握りしめていた。
 声には出さない。だが、一人また一人と返還され、喜びに綻ばす表情を見るたび、氷の女王と言われていた筈の、彼女の口元は順調に幽かにつり上がっていった……

「これにて、一件落着なのです。さぁ皆さんお茶にしましょう?」



結果
アラタ、アクセサリ獲得。
ゼクティ、アクセサリ獲得。
ロイド、ローブ獲得。
アリア、プレート獲得。
ユエン、本人希望により商品は暁へ返却。
珊瑚、ローブ獲得。