【初夢】太極世界
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/16 08:58



■オープニング本文

 ※このシナリオは、初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に影響を与えません。

 薄暗い祠。彼はそこで、目を覚ました。眩い光が自分達を包み込んだと思えば、この場所に居たのだ。
 自分は何をやっていたのだろうか、漸く覚醒を始めた頭で、修羅の陰陽師 流韻は考えた。
 依頼を受け、他の開拓者達と共に、その場所まで行ったのは覚えている。だがそれ以降は………
「ちぐはぐ角に、黒髪の少年。伝説は本当だったのですね!」
「ア……アヤカシ!?」
 起き上がった全員が、自ら周りに集まる異形達に戦慄した。数は多くない。各々が牙や角に鱗など、特徴を持ち合わせているが、然したる強さは見受けられない。しかもどのアヤカシも、通常ではあり得ない姿、そう傷だらけなのだ。しかも傷口からは人間と変わらぬ、赤い色の液体をにじませていた。
「異世界のアヤカシ様!た、助けて下さい。あいつらはオレ達を食い物にしか、見ていない……」
 嘴をもち、羽毛の生えた手で開拓者達に懇願する、天儀ではあり得ない光景だ。
「どういう…こ、と?」
 話す余地があると、流韻は異形達へと問う。
 詳しく話をしだせば、こう言うことだった。暫く前、本当に数日前は平和な村であった。しかし数人の敵が襲来して、村のアヤカシは、ただただ殺されては喰われ続け、とうとう自分達だけになったと言う。
「まだ幼い赤ん坊だっていたんだ、ヒデェよ」
 涙ながらに語る若い(と思われる)鬼型のアヤカシの表情に嘘偽りは見えない。それにまして、嗚咽を含む鳴き声は、異形であっても人間くささを含んでいる
 話を戻そう。そこで祠に祈ると現れると言う、『異世界よりちぐはぐ角の黒髪の少年とその仲間が出でる』伝説に望みをかけたのだ、と言う 。
(「恐らくボクのこと、だよね…」)
 帽子にて普段は隠している、左右不対称の角だとわかれば、流韻としては些か微妙な気持ちになる。帽子を深く被り直して、異世界のアヤカシ達に向き合った。
「お願いします、どうかこの村をお救い下さい」
 そうすれば、元の世界に帰れる。アヤカシ達も、詳しくはわからないらしいが、祠はそう言う仕組みらしい。
「うん、そうするしか無さそうだし」
 流韻の了解に祠は相変わらず薄暗い。だが、アヤカシ達の表情には、希望の火が灯る。
「一つ教えて欲しいんだけど、何でボクたちがアヤカシ……な、の?」
「それを聞きますかぁ?と…世界が違うのですから、当たり前でしたなぁ」
 冗談を言う様に理由を、笑って説明するアヤカシ。だが流韻ならびに他の開拓者達はその台詞に動揺を覚えた。

「え?本当……!?」

●恐るべき敵
 流韻達はアヤカシ達から教えて貰い、祠から隠し通路を抜けて、村へと出た。そこで彼らを迎えたのは、じゅうと言う肉の焼ける独特の音と薫りであった……

「ああ、美味しい。やはり絞め立てのアヤカシはこれにかぎるわね」
「あの、小鬼とハーピーは幾つか残して下さいよ。ウチが持って帰るんですから」
「おいしいから良いじゃん♪」
「僕は生け捕りにすべきと、言いましたが聞いておりませんでしたか?」
「こいつら、質より量なんだろうな。ハァ」
 楽しい立食会。しかしその材料は異形なるもの、アヤカシに他ない。
「あらぁ?誰か来たみたいね」
 後ろを向いていた筈なのに、一番にその女性がこちらに気付き振り返る。
 アヤカシ達の言葉を思い出す。

 あなた様方が『開拓者』なら、私らとっくに腹の中にいますよって。

 そう、目の前でアヤカシを食していたのはヒト。しかも自らと同じ開拓者達なのだ……
「生き残り…ですかね、一体どこから」
「まぁまぁ、お腹に入れば一緒だよ〜」
「僕は生け捕りにしろと、ですが……彼らは、今までの相手と格が違うでしょうね」
 男性と思わしき相手が、得物を手にする。どうやら戦う以外に道は無さそうだ。向かい合う流韻も、懐から苻を出して、他の開拓者達に小声でこう漏らす。
「…出方を見たいから、ぼくは援護に回るよ」
 多少だが、流韻の台詞には狼狽が見えた。アヤカシとヒトの立場が、逆転したこの世界。修羅で、開拓者な彼で在れど、まだ青年なのだ。非常識が常識な今に、動揺するなと言う方が難しい。アヤカシを助ける……なんとも奇妙だ。
 後退をする流韻を見送れば、他の開拓者達は敵開拓者五人に向き直る。
「それじゃあ始めるわよ、魔術師の藍鼠。いくわよぉ」
「巫女、朝臣 あむ!」
「騎士の東雲ホメルです。よろしくお願い致します」
「志士、村井朋靖だ…何故名乗る必要がある?」
「そして、泰拳士の月宵です。あはは…お約束と言うヤツですので……」

尚、余談ではあるが、この世界は天擬と言われている。


■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
門・銀姫(ib0465
16歳・女・吟
藜(ib9749
17歳・女・武
ルーガ・スレイアー(ic0161
28歳・女・サ
スチール(ic0202
16歳・女・騎
衝甲(ic0216
29歳・男・泰


■リプレイ本文

 さて、話は開拓者達がこの世界の開拓者達と、対峙する少し前に戻る。アヤカシを食するその正体は、ヒト……その現実味の無い真実に流韻を含め、開拓者達は少なからず困惑を見せていた。
 その中で、衝甲(ic0216)と門・銀姫(ib0465)だけは様子が違った。衝甲はこの状況に、否でも応でも高揚を覚えていた。鬼の、修羅の血が騒ぐのだろうか、それならば敵開拓者の前で、見事アヤカシを演じきってやろう。そう彼は、見えぬところで笑みを深くする。もう一人、吟遊詩人の銀姫はこの状況に、もう慣れた。と言いたげに、普段と変わらぬ歌と言う口調を、皆に奏でている。それは彼女にとって、この現実は英雄譚の一節でしかないためだ。
 気分は優れないが、自分の世界に戻るためにアヤカシを助けることを、致し方無しと自らに言い聞かせるのは、龍の獣人 ルーガ・スレイアー(ic0161)その隣で、視線を落とす流韻の肩をさするのは、藜(ib9749)だ。何故あなたは戦うのと聞く流韻に、彼ら自分達と同一と認めれば、仏の道に外れるから、そう彼女は伝える。
「じゃあ、姿が違えばアヤカ、シ?」
「それは……あなたはあなたの道を、もしもの時は私が守ります」
 言葉無く、少年は頷いた。
 言うは簡単だが、実際敵開拓者を目にすると戸惑う。そう僅かながら、アヤカシを食すヒトの光景を見て、鞍馬 雪斗(ia5470)は思う。現実感が無い、それでも殺すべき対象はヒト……だがやるしか無いのだ。その為には、何事も善処するしかない。

 対峙の時は来た。彼らと言う悪鬼を、野放しに出来るわけは無い。とうに覚悟を決めていた、と言うよりか、吹っ切れたスチール(ic0202)自ら鎧を、自慢するかの様に体躯を見せ付け、最初に高らかに台詞の如く言葉を言い放ち、後の面子もそれに続く。
「貴様ら!人間を食らうなど悪鬼の所業ぞ!絶対に許さぬ!」
「見た目がどうあれ、許していけないものは許さないよ〜♪」
「すまないが…ここで死んでくれ、汚れた同族よ!」
「見た目は開拓者ですが、やっている事は人型アヤカシと大差なし。開拓者浄化の覚悟、完了しました」
「…なんだって面倒な…ヒトが、ね… ともかく、今はやるしかないのか…」
「よくも我らの仲間を食らうてくれたな、人間ども!」
 衝甲という大山鳴動が響く。先に告げた通り、アヤカシ……鬼を演ずる。

「死にたい奴からかかってこい…皆殺しにしてやろう!」

●開拓者達の闘い
 初動はほぼ同時で、あっただろう。先ずは術者を狙う。その為に動く。しかし意外にも最初に、技を成したのは藍鼠と朝臣であった。
 場違いな鈴の音と、飛び跳ねる彼女の舞は、村井に届き彼を助ける。同時に藍鼠と朝臣を隔てる様に二丈弱の鋼鉄の壁が、どこからともなく出現した。
「正面は無理かな、左右に別れよう!」
「俺は左から、あなたは右を」
 衝甲と雪斗は、後衛を左右からの挟撃で狙うため、二手に別れる。
 ……が、それを見逃す敵開拓者達ではない。直ぐ様前衛に構えた村井が、衝甲を出迎える。それをまた丁寧に、衝甲はお出迎えする。
「お前は……他の野郎より、やりやすそうだな。来いよ鬼」
 繰り出されるのは、骨法起掌拳。衝甲は相手の装備の隙間を縫い、拳で、蹴りで、肘で、確実に狙っていく。だがその全てを村井は、盾を細かく動かし対処したのだ。それこそ、殆どと言っても過言で無いほど、外傷は無い。
「ウォォォォ、これならどうだぁぁぁぁ!」
 身体を傾け、肩を突きだし体当たりを行う。が、入りが甘い。衝撃は全て、盾に吸収された。
「力は良い……が、精度はないな」
「何い!?」
 零距離の衝甲に、村井が口を動かし、数歩動く。ここで始めて、彼は刀を抜き身を低め傾けて……
「ガハッ……」
 薙いだ。攻撃を衝甲は予感し、背を大きく反らしていた。しかし回避は出来ず、脇腹を深く刃が食い込み、血が振り撒かれる。
 後ろで呻く、鬼を気にせず、村井は雷を刀に集中させれば、銀姫へと向けた。
「いっ」
「銀お姉ちゃん!」
「ああ、やはり術者にはあまり効果は無し……か」
 痺れただけと、僅かに音程を外しながら銀姫は隣の流韻に応える。村井が、体勢を立て直す衝甲に視線を戻せば、その途端彼の視線は白に晒された。
「がっ」
「くっ……」
 雪斗のブリザーストームが前衛と壁に、打撃を受ける。
「行きます」
 次いで藜が、不動明王剣に纏わせた精霊の幻が彼を突進、腹部を貫く。外傷は無くも村井は屈み痛みに切歯する。
「酷い傷、今手当てを行います」
 その隙に、藜は浄境を衝甲を施す。しかし予想より、回復が出来ない。思ったとおりこの場所では精霊の力が弱まるらしいことを、藜は苦く感じた。

 同時刻。ルーガは一人、東雲と膠着状態にあった。吹雪を身に受けても尚、東雲は、騎士の誓約を唱え、付与されたその力をルーガは痛烈に皮膚に感じる。
「ふん…面識がない分、容赦なく行けそうだ!」
「此方こそ、光栄ですよ。僕は貴女と言う、龍を食せるのですから」
 最初のルーガの咆哮は、失敗に終わった。しかし、その声に気に入ったか、本来の役目であった為か、知らないが彼は彼女との勝負を買った。
 二人の得物が交差し、二対は均衡を保たれる。
「さあさあ騎士殿!弱き者を殺して喰らう騎士殿! ご立派な騎士道に生きる騎士殿! 次は私を殺して喰ってみては如何かな?!」
「言われずとも、そのつもり……ですっ」
 ルーガの剣気による威圧に、東雲は危険を察知し、槍の長柄で刃を押し返し、ルーガと距離を空ける。未だ互いに一刃、一突とて無いが二人は確かに戦っていた。

 敵開拓者も、守るだけではない。月宵は他の前衛を正面から潜り抜け、一目散と後衛に向かう。
「おっと。うちの姫達はをやらせはせんよ。喰らいたければ私を殺してからにしろ!!」
「では、遠慮なく?」
 六尺の棒に手を添えたまま、移動してスチールに突きを喰らわせる。が、元より力無く、 何より重い鎧の完全武装の彼女には、蚊の血吸いほどしか効かない。月宵はお次とばかりに、しゃがんで棍を振り回し、脛にぶつける。が、痺れる衝撃が、足に響く程度。
「効かんぞ!斯様な攻撃では、私は倒せん!!」
「では、もう一回」
 身体を反対に旋回すれば、棒をぶんまわし膝裏を狙うと、スチールは音を立てて尻餅を突いた。辺りに響く、大きな金属音。
「いや〜、まるで鉄の亀。いや鉄のダンゴ虫のアヤカシですかね?ではでは」
 チャオとポーズ指で付けて、月宵はそのままスチールを放置して進む。倒す気など、元より彼女に皆無であった。
「おのれぇぇぇぇぇ!!」
 重い鎧で暫く、もがいていたが起き上がれば、スチールは長剣を力の限り振り上げて、流切……
「はい残念」
 は、また綺麗なまでに、空に剣の切っ先の軌跡が描いていた。
 そして、スチールから逃げきれば、目の前には琵琶を引く銀姫。良くみれば、弦を激しく打ち鳴らし、撥を激しく上下させる。訝しむ月宵はその意味を、聴こえた背後の爆音にて理解る。
「ぐぁ!」
「うう」
「あ、壁が!」
 遥か向こうで、音と言うの爆弾に苦しむ。村井と東雲、そして鉄の壁は粉々に碎けた。
「ホメルさま、送るよ!」
 朝臣の白霊癒が、東雲に送られ回復を促す。しかし発光が弱々しく威力も弱い、どうやら敵側も、回復には手こずっているらしい。
 やがて後衛へと辿り着いた、雪斗の瞬脚が藍鼠の二の腕を裂いた。
「くぅっ、やるじゃない。強い娘は好きよ。飼ってあげたくなるわぁ……」
「残念ですが、藍鼠……さん。自分は男なので」
「うふふふ、それは好都合じゃぁない。寧ろ、愛玩してあげる」
 鞭を片手に、藍鼠は距離を離す。妖笑を顔に施すも、彼女の開く扇は紅く染まり、地面に液体が吸い込まれる。
 太刀、扇を媒体とし両者が、魔法を紡ぐ……そして、相手を仕留める為のその言葉が、彼から放たれた。

「…氷雨司る者よ、その憤怒此処に来たれ!」
 太刀から噴射された、雪吹が朝臣と藍鼠に襲いかかる。朝臣は堪えるも、藍鼠は唱える予定の言葉すら凍てつき、細い指は芯から 氷と化していく。
「そう、この私がコオリに、……ネェ」
 死ぬ。その事実すら彼女は落ち着きを払い、受け入れたのか、藍鼠が氷砕ける最期の瞬間に、その紅を引いた口元はつり上がっていた。
「藍鼠ちゃぁぁん!?」

 朝臣の声は他全員に届き、一人の開拓者の消滅を教えた。同時に、村井は精霊剣を衝甲に当てようと、刀を横に切りかかるも、この一撃は避けられる。息を荒げる村井に対し、藜と衝甲が刃を向ける。
「く……運、悪いな…相変わらずか」
 月宵は、なんとしてもこの厄介な歌い手を潰そうと、銀姫に狙い付ける。
「くっ、浅いですね。ちょこまかと!」
「銀お姉ちゃん、回復するね」
 歌いながらも回避され、なかなか決定打出ず、銀姫の肌や服を掠めるばかりであった。加えて、流韻が治癒符を唱えると、粘泥が銀姫の傷を癒す。どうやら、アヤカシの村では、瘴気が濃いためか逆に回復が促進される、らしい。
 銀姫が、銀杏型の撥で先程とは、打って変わり緩やかに弦を奏でる。
「ぅ…やられ……ましたね」

 「っ!?」
 自ら意識と身体に異常を感じたのは、東雲であった。力が入らない、目蓋が錘の様に重い。その理由は、先程から銀姫が、紡ぐ子守唄。無論その変化を、ルーガは見逃さない。両手に柄を握り締め、離れた場所から駆けてくる。しかし東雲とて、引けない。仲間を一人殺され、冷製な表情と裏腹に実は、沸点はとうに越えている。
 ケリをつけ、その身を骨を鱗を、戴く。その想いだけが、今東雲に槍を握らせ向かい合う力を与えた。
「さああッ!我が名はルーガ、殺戮者(スレイアー)のルーガ… その名の通り、貴殿を微塵にしてやろうッ!」
「例え我が身、砕けようとも貴女を、貪ります!」
 そして、決着は早々と着いた……

「降ろして下さい!まだ一突きだって、僕はあの女に入れてないのですよっ」
「ダーメ、命が一番大事」
 二つの得物がぶつかる瞬間、東雲は朝臣が呼び寄せた相棒と思われる、龍達にかっ浚われ、撤退を余儀なくさせされた。
「面目無いな、練力切れとは……ゴッホ、ッハ」
 他二人も龍に無事乗り、既に上空にいた。村井は練力を使いきり、月宵に至っては、既に夢の中である。
「皆様今年も、よろしくお願いいたしますねー……ぐぅぐぅ」
「誰に言っている……」
「あーあ、ご飯。本部に持って帰れないよ」
 彼らが龍の背を見送る形で、全員が視線を空に向ける中、スチールは一人大きく勝鬨をあげる。
「見よ!悪鬼は失せて、我等が勝利よ!」
 拳を掲げて喜ぶ彼女に、貴女は何をしていたか……と問う無粋者は誰もいなかった。
「…」
 一太刀として、浴びせることの剣を振ってルーガは鞘にしまう。なんであろうか、敵は去ったのに蟠りが残る。そこに、アヤカシ達が彼らに集まってくる。
「ああ、アヤカシ様!開拓者は去ったのですね、ありがとう御座います!ありがとう御座います!」
「お前たちを助けたわけではない、ただ帰りたかっただけだ…勘違いするな」


●アヤカシの笑顔
 とうに日は沈んだ頃、藜は一人手を合わせていた。
「ありがとう御座います、お墓まで作っていただけるとは……」
 花を模した様な、そのアヤカシが藜に礼をする。既にほぼ欠片しか残ってアヤカシ達の死骸を集め、簡易ながら埋葬して墓標を建てたのだ。
「これもまた、仏の道ですから…それで私達が帰るには如何に」
「心配はありません、朝日と共に祠に行けば道は開いております。それまで今宵は、宴を楽しんで下さい」
 大したおもてなしは、出来ませんがとアヤカシははにかむ。その笑顔に、藜も微笑み返した。

「運命の輪……けど逆位置か」
 雪斗はタロットの、結果に眉を潜めた。アヤカシ達は、この村を離れ別の場所へ動く、彼らは開拓者に襲われる度にそうしてきたのだと聞き、雪斗は得意のタロットで占ったのだが……あまり良い意味ではない。
「ニイサン、そりゃどういった意味で?」
 イツマデンが、カードを除きこんで、興味津々と聞いてくる。悪いことが起きても、運命と受け入れよ。そう雪斗は教えた。
「ああ、まっ仕方無いか、ほとんど喰われちまうから」
 ただで喰われる気はないが、と鳴き声をあげる。恐らく笑っているのだろう……

「へぇーんじゃ何か、アンタの世界じゃ、俺達が開拓者と言うか、ヒト食うのかよ」
 一つ目鬼と、衝甲はお酒を互いに注ぎ合いながら話していた。それこそ、一個の瞳を丸くして、だ。
「そう言うことに、なるか。すまん、変な話をしたか?」
「いいや、しかし変な世界だなぁ。だがよぁ、もし俺にそっくりの奴が出ても、しっかり殴れよ!」
 そりゃ、アンタの敵なんだからよ。口からはみ出た、犬歯を見せて彼は笑った。衝甲は応として、数倍はあるだろう拳に、確かに拳をつき合わせた。

「ラララ〜我らはアヤカシ、義はこちらにあり〜♪」
「見よ!我が鎧は強靭よ、何人も砕くこと敵わんわ!」
 宴には歌とばかりに、銀姫は好き勝手に琵琶をひき。その隣では、焚き火に輝く鎧を身に付け、アヤカシ達に高らかに自慢する、スチールの姿。獣の様なアヤカシ達は、彼らの歌や自慢話に耳を傾けていた。因みに結構誰も彼もが、酒気で顔が赤い。

「んで、昔は種族間でちゃんとした国もあったワケよ。っても、もう数百年も前、オイラも実際は知らないけどさ」
 流韻に符で、治療を行って貰っていた大蛇が、その姿に親近感でも持ったのか、気楽にルーガに話し掛けてくる。このアヤカシが言うには、ヒトが現れたと同時に、アヤカシは散々になり今の様にバラバラの種族が、一つの村で生活してる。と語った……
「ボクからも、聞いて良い。ヒトは何人くらいいるの?」
「そうだなぁ……志体を持たないヒトが生き絶えたから、一万人は行かないんじゃ」
「何?一般人と言うものは……いないのか……」
 今まで沈黙を守っていた、ルーガが聞いた。大蛇は首を数度傾けていた。そしてこう付け足した。
 オイラ達アヤカシを食えない、最弱のやつらが生きていけるワケ、無いだろ……と。
「これが開拓者、何だね」
「正しい姿……とは、私は考えたくないがな」
 沈む二人に、それこそキョトンとした顔で大蛇は首を傾げた。


 かくして、異世界でのささやかな宴は、夜明けまで続いた。そして彼らは明くる日の朝陽に照らされて、この世界を去った。そして、それぞれの想いを抱えたまま、彼らはまた本来の敵に挑むのであった……