もくもくもく
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/15 16:42



■オープニング本文

 今回の依頼内容は至って単純明解な、アヤカシの全滅であった。村と村を繋ぐ唯一の道が、アヤカシが現れた為に通れなくなってしまったと言う。アヤカシの目撃者は唯一の生存者である、行商人の一人であった。その男は村に戻りこう語った。

『死んだんだ、もくもくとしたら、何かがぶーんで、ぶわっとしてから赤くなって……それから暫くしてからギョロっと』

 男が支離滅裂な言葉を告げたのは、何も彼が可笑しいワケでは無い。彼は感じたままを言葉にしただけなのだ。つまりアヤカシ本体を目撃することなく、次々と仲間は倒れて言ったということらしい。

 この道で何があったのか……
 それは現場へと到着した開拓者達は、直接味わうことになる…………

●擬音の真相
 開拓者達は一本道をひたすら進む。視界は良好、道幅は一丈ぐらいだろう。舗装はされてはいないが、まっ平らな道はとても歩きやすい。道の左右には木々と草むらが生い茂り、木陰を作り日差しを遮る。この場所を通過する者の休憩には、調度良かったのかも知れない。
 その場所も今ではアヤカシの巣窟なのだが……
 開拓者達が道を歩いている時にそれは起きた。どこからともなく、煙が上がり忽ち開拓者達を包み込んだ。煙はまるで巨大な入道の顔の形をしていた。煙型のアヤカシ煙羅煙羅だ。どうやら『もくもく』とはこれの事だろう。このアヤカシは煙そのものが一匹なのだ。煙中にある本体の琥珀色の玉を破壊しなければ、精神力、開拓者達にとっての練力を減らす煙がいつまでも充満する。更に輪をかけて暫くすると、このアヤカシは虫型アヤカシを引き寄せる『ぶーん』とはその羽音の事だろう。
 だが敵はそれだけでは無かった。二つの霧状の何か、中心部には目玉が浮いている。吸血霧、こちらは体力を奪うアヤカシで、しかも煙羅煙羅の煙と違い発する霧は視界をぼかす。『ぶわっ』とはこの吸血霧であろう事を予感させた。
 部が悪い。開拓者達は態勢を立て直すため、一時的に撤退を行った。

 『ギョロッ』はその時に感じたのだ、物陰に潜み獲物が弱るのを待つ闇目玉の気配を……


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
薔薇冠(ib0828
24歳・女・弓
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔


■リプレイ本文

 開拓者達は下準備を村で行い、細道手前にて武装を始めた。道の向こう側の景色まで見渡せるほど、現在は清んだ視界。だが足を踏み入れて、待ち受けているのはきっと霧と煙と闇の世界だろうと予想出来た。
 何よりも敵の厄介さを過去の報告書を読み、羅喉丸(ia0347)は知っていたのだ。虫対策に少しでも広げ易い様にと、岩清水で闘布を濡らしている。その隣で先程偶然に煙に遭遇し、これは一大事と相棒と共に協力を申し出たのが薔薇冠(ib0828)その相棒である石榴は、今も頭上で旋回を繰り返している。
 この人数では、きつかろうと薔薇冠はこの相棒に期待をかけていた。
「もしもの時に石榴、頼りにしておるぞ」
 一方、此方ではファムニス・ピサレット(ib5896)が虫や霧の対策に装備を雁久良 霧依(ib9706)に渡していた。小さな虫型のアヤカシの侵入を防ぐため、彼女は肌が露出しないものを選んだのだが、それはまるごとねこまただ。それを霧依は笑顔で受けとる。
「フフ、ありがとう。お互いに頑張りましょうね?」
「が、頑張るでちゅー!」
 因みに顔を紅に染め、応えるファムニスの格好は、まるごとねずみさんであったりする。そして内心で、この少女の格好が平時ならば、と少々悔しいと思う霧依でもあった。
 やがて全ての準備を終え、羅喉丸が一時的に拳に闘布を巻き、手の平で打ち、呟く。
「覚悟を決めるか」
 その打撃音がまるで合図の様に、皆一歩ずつ足を踏み出したのだった……

●まさに暗中模索
 煙羅煙羅の攻撃は、それこそ道を数歩進んだだけでも効果が見て取れた。
 顔型の白煙と黒い虫の大群に関しては、流石に二度目ともなれば、新たな戸惑いは無かったのだが。
「うっすらですけど、煙にも反応はあるみたい…です。だけど、探知には支障はありません」
 ファムニスが瘴索結界を唱え、様子を伺う。今のところ存在を確認出来るのは、勢い良く飛び回る鉄喰虫ばかりだ。
「否、もっと先に反応が……二つじゃ」
 弓の弦を弾き、微か反響音のズレを耳にし、その方向を指で薔薇冠が示す。羅喉丸が言う。それは恐らく、吸血霧だろう。

 アヤカシが何なんてわからなぇよ、ただ俺は一番列の後ろにいた。そして血塗れになる仲間を、最初に見たんだ!

 そう唯一の目撃者から、改めて話を聞いたのだと、羅喉丸は皆へと話した。吸血攻撃、それに間違いない無さそうだった。
「退いて、道を作るわ」
 霧依が杖を道に向ける。その範囲から全員が退くと、同時にブリザーストームが発現した。吹雪、そう名付けられたものが辺り一帯を一時的に支配し、鉄喰虫達を凍てつかせて瘴気に還す。しかし、これは一時的になもの。すぐ蔓延する甘ったるい香りに、虫アヤカシは集まって、やがて場はまた黒に支配されてしまう。
 早急に先行したのは、羅喉丸と薔薇冠。予想通り、目の前には吸血霧が間隔を開け、並んで二匹浮かんでいた。
「タァ!」
「ゆくぞ」
 瞬脚にて素早く前に羅喉丸が出でれば、布を伸ばし目玉に当てに掛かる。更に後ろからは、瞬速の矢を薔薇冠が放つ。だがどちらも、当たりはするものの掠る程度で、威力はさしたるものではなかった。
 その時、この依頼の酷しさを、改めて二人は認識させられた。
 状況は更に悪くなる。一匹の吸血霧が、瘴気の霧を発生させたのだ。これにより道は、更に暗色に染まる。時間が経つにつれて、煙羅煙羅の煙で開拓者達の気だるさも増してくる。
 ……速急に手を打ちたいところだ。
「虫が多いのぅ。邪魔じゃ!」
 何より上空の石榴に、指示を出したくとも鉄喰虫の羽音が邪魔になるし、薔薇冠の素肌を鋭い顎が幾つも食い込んで、上手く集中が出来ない。
「くぅっ!」
 眼前まで迫る吸血霧が、薔薇冠を覆い、被さる様に霧を発する。顆粒状の霧一つ一つがまるで針の様に、全身を隈無く刺す痛みが走るのだ。しかもその霧はは吸血霧の中へ戻り、折角与えた微かな傷も回復していく。
 このまま僅かな攻撃と、回復を繰り返す輪の様な事象が起きて、最期には煙に全てを……などと薔薇冠は考えるとぞっとした。
「ファムニスちゃん、そっちはどう?」
 他の開拓者のいない方向で、虫の掃討を行っていた霧依が、今も全身を輝かせ視点を左右上下動かしながら、、捜索にあたるファムニスに声をかけた。
「はい、この辺りもあまり変わりがありません。けど気をつけて下さいね」
 そしてファムニスは更に奥へと進む。実はこの時、ファムニスは気配を潜めるアヤカシを見逃してしまっていた。しかし瘴気の霧に、視界を殆ど封じられ、益して息を殺し、奇襲を彼のアヤカシは、狙っていたのだ。沢山のアヤカシ反応が存在するこの状況で、彼女が奴を探しあてられなかったことを、責めるものは先ずいないだろう。

 この後何が起きようとも。 

 攻撃はその後も続くが、失敗したり、掠る程度で一向に改心の一撃が決まらない。だがそれでも確実に両者に傷は増えていく……
 玄亀鉄山靠を、吸血霧の目玉に当てる羅喉丸。たが、当たりが軽かったのか、然程効果が無い。
 羅喉丸は態勢を建て直すために、一時的に後退をする。崩れた彼の態勢を狙う様に、吸血霧が後を追う。
「くらえ!」
 その隙を薔薇冠が狙った。強射「朔月」により放たれた矢が目玉を居抜き、溢れた雫の様にと地に墜落して、熔ける様に消滅した。
「先ずは一匹か……」
「煙羅煙羅がいました!」
「俺が行く!」
 ファムニスが叫び、羅喉丸が駆ける。煙と霧の中をひたすら反応のあった場所へと二人が走る。到着した場所は、道の端にある一つの草むら、草枯れを起こしているが、まだ枝だけになってはいない。そんな場所に、琥珀の珠は隠れていた。
「見つけたっ」
 遭遇するや否や、草叢へと瞬脚で飛び込み回し蹴りにて、葉ごと珠を蹴りつける。
 痛打。羅喉丸にその感触は無かったが、飛び出てきた煙羅煙羅の本体は、脆弱さ故に瀕死のようであった。
 追い討ちをかける様に、闘布で巻いた拳を気を溜めて突き出す。
 何かが割れる音を聴けば、そこに珠の姿は無く、蔓延していた白煙は一瞬にして霧散する。
「や、やりましたね!」
「ああ、これで残すは……」
 漸く先が見えた。ファムニスと羅喉丸が、笑みを軽く浮かべたその時に声は聞こえたのだ。
 絹を引き裂く様な女性の悲鳴。
 やがてこちらへと走り来る、薔薇冠が二人の目に入った。驚く二人は、目の前を走り抜ける前に、薔薇冠の肩を掴んで止めた。
「ひっ、く……くるな」
「薔薇冠殿、落ち着いてくれ霧依殿は!?」
 暴れる薔薇冠の瞳から、正気の光が感じられないことをファムニスは察し、直ぐ様解術の法を唱え始めた。羅喉丸の呼び掛けに薔薇冠が、応えたのか、ただ虚ろげな独り言なのか、定かでは無いがこう呟いた。
「此方に、まだ……くるのじゃ、目玉が、く…来るなぁっ」

●最後の闇
 ファムニスと羅喉丸が、煙羅煙羅へと向かったのを確認した後、残る二人は一匹の吸血霧と対峙していた。
 霧依が唱えるのは、ホーリーアロー。狙った対象物に、必ず命中する効果を持つ光の矢であり、障害物が多い等を掻い潜る時に有効な術だ。
 霧依が術を放つ、だがここから彼女の計算違いは始まっていたのだ……
 吸血霧に迫ることなく、全く有り得ない方向で、光の矢は弾けた。
「あら、おかしいわね……」
 訝しげに思う霧依。それもその筈、先も告げた様にホーリーアローは本来必中。その上、一体に対してのみ。しかし必中の技と言うのは通常、相手の場所が確実にわかるときにのみ発動する。
 だが、煙羅煙羅の煙は、それ自身がアヤカシ。つまり薄くもアヤカシ反応があり、それに術が反応してしまったのだ。他にも理由はあれど、それが一番の原因だろう。小さく舌打ちを一つして、それから霧依が新たに詠唱を始めた時。
 其処に黒があったのだ。
 それが現れた際には目を合わさない様に、そう心がけていた。だが、闇目玉が眼前に、しかも音も無しに突如として現れれば、誰であろうと即応は難しいところだ。
 ギョロッ。
「っ……ぁ…っは、あっ」
 その攻撃に音もない。可視出来るほどの派手さも皆無。しかし、確実に闇目玉の邪視の効果で、霧依の五臓六腑に捩れる様な痛みが襲いかかる。彼女はその場に膝をつき、杖で体を支えた。
「おぬし、大事ないか?」
「こっち…ぅ…来ちゃ…だめ」
 異変に気付いた薔薇冠は、道端沿いに振り返る。ぐるん、同時に闇目玉も薔薇冠の方へと、巨大な目玉を回転させ、睨む様に瞳を三日月型に変形させる。
 その瞬間、薔薇冠には言い様もない恐怖が総身を走った。
「ひ、ひき…きぁぁぁぁぁぁ!!」
 つがえて居た弓を握る両手が震える。
 瞬間、彼女が言う事を聞かせられるものは、逃げろと叫び続ける頭中と、その命に脱兎の如く動く両脚のみであった……
 霧と煙の中、その場から走り去る薔薇冠に、空中の石榴も何が何やらと戸惑いを見せている。

 独り残された、手負いの霧依から更に吸血しようと霧が被さる。間一髪で霧を転がって避けると、中空の二匹のアヤカシに向けて、ブリザーストームを放つ。飛び回る鉄喰虫は、ほぼ始末出来た。
 だが、肝心の闇目玉と吸血霧は未だ健在だ。まるで、どんな攻撃が来るか最初から知っていたように、吸血霧は悠々と目玉を動かして急所を避けていた。闇目玉には、当たりは大きいものの、殆どが全ての攻撃が効かない霧状の部位に吹雪は当たっていた。
 奴等が近付いても、音が無い。足が無いのだから当たり前だが、迫ってくる圧迫感に霧依はただ、なんとか呼吸を整えようと、肩を上下するしか出来なかった。
「ハァァァア!」
 霧依の目と鼻の先で、闇目玉の巨大な目玉はひしゃげ、真横にぶっ飛んだ。

●迎える空色は?
 闇目玉の居た場所に佇む羅喉丸。呼吸早く、大丈夫かと霧依に手を向ける。手を取り霧依は立ち上がり、気付くのだ。既に煙が無くなっていることに……
「風を起こすのじゃ、石榴!」
 まってました!
 そう言いたげに駿龍は上空で嘶きをあげ、全力でその翼を上下させる……
 ほんの一瞬、本当に刹那的にだが、霧が失せ吸血霧の本体である、小さな目玉が剥き出しになる。風を切る音、ほぼ同時に、鏃が吸血霧の目玉に刺さる。
「先程はすまぬのぅ、もう大事ないぞえ」
 矢による一手を打った、正気に戻った薔薇冠、そしてファムニスが馳せ参じる。ファムニスは新たな術を唱え始める、そこを狙うのは闇目玉。新たな障害と新たな来訪者見たのか、羅喉丸とファムニスに無刃を発射する。この魔力の刃は、掠るだけでも致命傷になり得る。しかし二人は横に跳ねて、闇目玉の攻撃は無駄に終る。
「金・輪・際、エロ依頼以外ではあなたとは、ゴメンよ!」
 霧依のホーリーアローが、闇目玉に炸裂した。もうあの煙羅煙羅の煙は無い、鉄喰虫の大軍も一掃した。遮るアヤカシがいなくなった為に、光の矢は吸い寄せられるように闇目玉の弱点である瞳、それも虹彩を穿った。穴が開き、まるで円月刀の様な形になった闇目玉は、じわりと空間の中で滲むよう溶けていった……
「ファムニス、回復いきますっ!」
 開拓者達を、極光が包み込む。ファムニスのかけた閃癒にて、たちまちの内に傷が塞がっていき、やがて光が途切れる頃には、戦闘前と変わらぬ状態を皆が取り戻していた。
 直後、最後の一匹である吸血霧を羅喉丸が瞬時に拳でとらえたのであった……!

 偶然だろう。この時、丁度瘴気の霧が晴れて、雲ひとつ無い空が目の前に広がったのだった。

●仕上げ
 今回の依頼は、通れなくなった細道のアヤカシ退治。つまりは、道を人が通れるように、修繕しなくてもならない。
 とは言っても、道に大した被害も出てはいない為、することと言えば、凍ってしまった地面の氷を割ることと、石榴の突風で折れた枝や葉を隅に追いやる程度であった。
「あちらこちらを移動して、おぬしも大変じゃったろう」
 枯れ葉を持って抱え、一纏めにしていた薔薇冠が、羅喉丸へと声をかける。考えてみれば、今回は彼にとって、奔ってばかりの依頼だったかも知れない。
「いいや。ここを通れなくった村人達の事を考えれば、何とも無い事だ」
「おぬしは、中々に生真面目な奴じゃのぅ」
 羅喉丸は笑みを浮かべるのだ。冬真っ只中のこの時期に、水を含んだ闘布を握りしめ続けて悴んだ、手のひらで拳を作りつつ、何事も無い様に笑むのだ。
「今回はびっくりしたわ。ホーリーアローもあてにならないものね……勉強になったけど」
 杖で氷をつつき割りながら、ファムニスと語らう霧依。
 殆ど霧依が喋り、ファムニスは相槌を打つだけだったのだが。
「ファムニスちゃんが離れた後、大変だったのよ。闇目玉から攻撃うけて、痛いのに変な声は出ちゃうし……」
「そ、それは大変だったんですね」
 ちょっと窮地に追いやられて、声を荒らげる霧依も見てみたかったかも、などと思春期手前のファムニスは心の中で思っていた。
 顔にしっかり出ていたため、その心は誰かさんにしっかり伝わっていたが……

 細道の修繕、と言うよりは掃除を全員で終えれば、村へと急ぎ、こう彼らは伝えた。もうこの道を邪魔するアヤカシはいないのだ、と。