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■オープニング本文 雄蝉が盛んに腹を震わせる真夏にて開拓者達は依頼をこなすべく、依頼主の鴨弥 忠禅(かもや ちゅうぜん)に目的地までの案内を受けていた、のだが…… 「……それが陰陽術は昔からの憧れなのだよ。私はこの屋敷を提供して、同じく志ある者に知識や技術の提供を行っているのだが、開拓者は勿論一般人も参加してくれているのだよ。知識を学ぶだけで術の行使は出来ないけどね。いやはや私もこれだけの人が同じ思いを抱いてくれた事を驚きつつも嬉しく思うワケだ。何より不思議だとは思わないかい? 陰陽師とはアヤカシを使役すると存在と言われているが……」 長い。彼の屋敷から目的地の蔵まで十分もかからない筈なのに、扇子片手に持ちつつ道中喋り続ける忠禅の話は兎に角長い。 照りつける日光に開拓者と同じく忠禅も額に汗をかいているのだが、喋りに集中をしているのか舌の根が様々な意味で乾く事がない 「いやはや時が経つのは早いものだ、もう到着したよ」 色々とツッコミたいの飲み込んで、開拓者達は目の前を確認した。話では土蔵周りの雑草取りと言った話だと、今一度頭で確認する。そして目の前に広がる青々と凛とした生い茂る草を眺めた。蔵の漆喰壁が見えない……隠していないのに、まるで隠れ家と変わらぬ物にこの場所は化していた。少しだけ瓦屋根がチラリとだけ草葉の先から、波打つ姿を覗かせていた。 今回の依頼を詳しく説明するとこの忠禅の屋敷にて行われる同好会にて、同志が持ち寄る本の数が日に日に膨らみ、本棚に入りきらず既に畳に平積み状態が増えていたのだ。そこで今は使っていない蔵を、この際同好会で提供しようと思い至ったワケだ。 「本当は私が処理しなければならないのだろうけどね、どうやら厄介なことに雑草の中にいつの間にか確か足斬草が紛れていまして」 証明しようと、忠禅は小石を一つ雑草の中へ投げ入れた。 瞬間に雑草がざわめく様に見え、幾つもの鎌鼬が周囲に現れ傷跡を残した。 「あれも草と一緒に刈ってくれ。蔵の整理の一切は私がやる」 パチン 説明すると同時に忠禅が自ら頬を叩く音が聞こえた。草むらが多いと言うことは、この季節の嫌われものの風物詩である蚊も沢山いる。何か処置をしないと、結構喰われるだろう。寧ろ足斬草よりこちらのが厄介だ。 「もし蔵の周りが殺風景なら、花でも植えてくれると嬉しいね。それと、もしも蔵に何かあったら困るから火は使わないで貰えますか?」 ある程度草むしりが済めば、忠禅は蔵を開けて整理を始めると付け加えた。 「作業が終わったら、皆様に冷やし飴でも御馳走致しましょう。それではお願い致します」 開拓者皆へ向き直り、深々と頭を下げて願う忠禅であった…… |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 そよぎ揺れる、蔵の周りに円形に集まった緑の生命、その名は雑草。彼女ファムニス・ピサレット(ib5896)は、目の前に広がるそれを見据えて、瘴索結界を発動させていた。 「ファムニス、足斬草どの辺りにいるの?」 「ほぼ草むらの全体に散らばってる」 「そっかー、じゃあ手当たり次第かな」 「…………」 ファムニスに声をかけたのは、実の双子の姉であるリィムナ・ピサレット(ib5201) 暢気に応える彼女が動く度に、たぽーんたぽーんと音が聞こえる。音の正体は水。屋敷側に井戸があることを知っていたリィムナは、そこから水を汲み持参した沢山の水袋に詰めて来たのだ。幾ら水分補給は重要でも、ファムニスは限度はあると心から思った。 「なるほど、四阿か」 「リィムナちゃんのアイデアなんですよ。書物の整理や読者などを出来ればと……」 双子のすぐ側で鴨弥 忠禅に提案をしていたのは雁久良 霧依(ib9706)忠禅は勿論だと嬉しげに頷く。 それを最初から知る様に、大八車に木材や工具を乗せたフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が、息をつきながら袖で汗を拭っていた。 「さぁ頑張ろう子猫ちゃんたち♪」 「うん!頑張ろうね、霧衣さん♪」 フランヴェルに返事を返すこともなく、リィムナの蔵の入り口周辺の草むらに手を翳し、ウインドカッターを放つことが作業の開始を告げた。 ●舞い散る草吹雪! 忠禅が蔵へと入った後、ファムニスは持ち込んだ蚊遣り豚に入った蚊取り線香を焚き始める。雑草をぐるっと囲む様に置かれる陶器は異様で、まるでこれから呪術でも行われる様だ。 「えい!」 「たぁ!弱いのに多いね」 草むらの中を飛び交うは、真空の刃と聖なる白き矢。リィムナと霧衣がファムニスの言葉を頼りに、雑草の中の足斬草を確実に倒していた。 「リィムナちゃん、私もお水〜」 「んく?……良いよ!」 今し方飲んでいた水袋をさして気にもせず、霧衣は内心の間接口吸いに歓喜するも、臆面も見せず微笑み礼を述べる。 しかし談笑をしながら、殆ど片手間で反撃の暇すら与えられず瘴気に還る足斬草は……何とも哀愁が漂うものだ。 やがて足斬草が全滅したことを確認する様に、大八車から荷を下ろしていたフランヴェルが金剛刀を握り締めて、草を踏みしめる。 「ハァァ!」 そよ風に身を任せる様にその身体と得物を惜しみなく旋回させると、彼女を飾る様に葉が宙を舞い踊る。 「おりゃおりゃおりゃおりゃぁ〜!」 その隣では、リィムナが七光を保つ曲がった刃を草の根元近くで振り回し、雑草の図太い生命を刈る。 「あぁ、可愛い子猫ちゃん。ボクもきみの水が飲みたいな」 「ええー!……ファムニスから貰ってよ」 柔らかな飴の様に歯に絡み付きそうな台詞を呟くフランヴェルだが、息遣いで台無しである。その言葉が聞こえていたかの様に、ファムニスがフランヴェルに石清水をそっと手渡す。 勿論悦ぶ。そしてお返しとばかりに淡い色のファムニスのを髪に触れる。そして言葉無く彼女は桜色に染まるのだ…… 「ファムニスちゃん買い出し?」 「うん……ファムニスが花買ってくる」 「なら、この鉢植えがあったら買ってきてくれないかしら?」 大八車を一人で引くファムニスに、霧衣はメモを見せる。あれば買ってくると頷いてから、神楽の都まで一人買い出しに行くファムニス。 ……その大きな大八車を懸命に引っ張る幼女の姿に、成人女性二人が萌えたのは言うまでもない。 ブチン ブチン ブチン 蔵の壁を隠す程あった雑草も今は姿なく、殆どが刈られて彼女達の膝ほどの高さも無くなっていた。残す作業は根っこから草をぶち抜くだけ………つまり淡々と草を抜き続けるのだ。地味で楽と思われるかも知れないが、しゃがみながら背を太陽に灼かれるのはそれなりに辛い。そして大量に焚かれる蚊取り線香の煙は目に染みる。 「あづいー」 「膝が……腰がぁ…」 「ほらほら後少しでしょ、頑張るのよ」 農作業を得意とする霧衣には手慣れた作業だが、他二人は広大な草地に暫しうんざり気味であった。 リィムナなど既に水袋を二つ消費して、袋をぺちゃんこにしていた。結構な量の水を飲んでいるが、下腹部は膨れていない。 その姿はまるで、幾らでも水分を底無しの様に吸収する海綿体にすら思えた。 「ただいま……鉢植え買ったよ」 大八車に大量の鉢植えと庭道具を引いて帰ってきたファムニスを迎えたのは、山盛りの雑草と掘り返された土であった。 「ゲホッ、いやはや燻製にされるかと思ったよ」 蔵から咳き込みながら忠禅が笑って出て来た。どうやら草むらがなくなった事で、線香の煙が蔵の入り口から入って行く結果になっていた。 「蔵の整理は終わったよ。いやはやここも綺麗なったものだね」 「お姉ちゃん達が終わらせたみたい……」 そのリィムナは四阿造りに夢中なのか、ファムニスが帰ってきた事に気付いていないが…… 「お帰りファムニスちゃん、重くない?私も降ろすの手伝うわね」 言うや否や霧衣が鉢植えを大八車から降ろし始めた。鉢植えには色とりどりの待宵草、白妙菊に藤袴の苗他にも様々な植物が用意されていた。 「うわぁ〜ファムニスまるでお花屋さんみたい、か・わ・い・い〜!!」 そこに乱入しときたのは、フランヴェルとリィムナであった。 「え……え、そんな」 「それは良いからさ、おかえりー。早速だけど刺されちゃったんだよね」 リィムナはふにふにとした自ら腕をさらけ出す。そこにはぷっくりと膨らんだそれを見せた。 「蚊遣り豚持って作業してたんだけど」 「待ってて、今解毒するね」 「ああ!ファムニス、ボクも蚊に食べられちゃった」 「フランヴェルさんはこれで充分よ、ね!」 べちょ、霧衣は有無すら赦さず先程ファムニスに買ってきてもらったアロエの葉肉を引きちぎり、フランヴェルに刺されほっぺたに塗り付けた。 「ボクの為にファムニスが買ったアロエ……ハァハァ」 この時の彼女の描写は、あえて書かないでおこう。 「先程蔵で長椅子を見付けてね、四阿に調度よいと思うのだけど」 忠禅は長机を引き摺ってきていた。見れば埃は被っているが、壊れている様子は無い。 「良さそうだね。これに布でも掛ければ華があるかも」 「では私は先に屋敷に戻って、冷やし飴の準備をしておくよ。また後で見に来るね」 忠禅の後ろ姿が小さくなるまで手を振れば、リィムナとフランヴェルは四阿造りに、ファムニスと霧衣は庭いじりを始めた。 新たな蚊取り線香を蚊遣り豚で焚いて、二人は作業を再開した。こじんまりはすれど、風格漂う方形の骨組みが出来あがっていた。 体重の軽いリィムナは偶木から、中央の真束へ飛び移り屋根にフランヴェルから受け取った、薄い木板を取り付けていった。 一方ではファムニスが先程山盛りにした雑草を大八車に乗せていた。屋敷に持ち帰り腐らせて堆肥にすると、前もって忠禅が言っていた為だ。霧衣は先程雑草を掘り起した土に、白妙菊の苗を植えていた。まるで雪の降り積もった様な不思議な葉だが、その内に綺麗な黄色の花を咲かせ、同好会の面子を楽しませることだろう。その様子を暫し考えながら、彼女は口元を緩やかに上げた。 「………出来た」 「こっちも完了ー!」 四人はそれぞれの場所から離れて、蔵の側へと集合した。綺麗と口々声が上がる様に、雑草の影は払拭されて暖色系の花弁が彼等を迎え、蔵の入り口の傍らには虫さされ用にアロエの鉢まで常備されている。 「いやはやご苦労様。何とも、見事な庭にしてくれたものですね。これならきっと同志の方々も気にいると思いますな」 いつの間にか戻ってきた忠禅は、撫子色の天鵞絨を片手に四阿を眺めて呟く。その笑顔には、衣服にこもる湿気の不快感も吹き飛ばす程の威力があった。忠禅は四阿に、置かれた長椅子に近付けば天鵞絨を敷いたのだ。少々勿体無い気持ちもしなくは無いが、この場所に座る人への僅かな気遣いなのだろう。 「さて屋敷へどうぞ、冷やし飴の準備整いましたよ」 脱兎……この言葉通りに、誰よりも早く走り出したのは勿論リィムナであった。 ●お仕事後のご褒美! 屋敷の縁側で四人は、今日各自で動かした四肢をほぐしていた。背伸びをしたり揉んだりとする姿が、落ち始めた日の光には良く栄えた。 「お待ちどう」 忠禅が洒落た切子細工の硝子の椀に並々と満ちる、黄金色の液体を盆に乗せて床へと置いた。 冷やし飴の中にはファムニスが氷霊結で、作った氷が気泡も無くふかふかと浮いていた。 「いっただきま〜す♪」 「ん……辛くて、それでいて甘いんだね」 喉を鳴らして、みんなが冷やし飴を体に染み込ませていく。特にフランヴェルは冷やし飴初体験の為か、一口飲んで生姜の辛みと水飴のコクのある甘味に感嘆の呟きを漏らした。 早速リィムナは硝子の椀を空にして、おかわりと忠禅の目の前へ向ける。その様子にファムニスは、常より目を細めてその様子を眺めて口を開く。 「姉さん……飲み過ぎだよ」 「だって美味しいんだもん」 「またおねしょしちゃうよ。もう一週間も連続だし、言われたよね?布団乾くまで物干し台のまえで立……」 「うわぁぁぁ!余計なこと言わなくていいから」 顔を真っ赤にしつつ慌てるリィムナを余所に、事実でしょと短く閉め切り冷やし飴を口にするファムニス。 そんなムキになりそうなリィムナの頭を撫で、霧衣は諭すように優しい声色で話した。 「気にすることないわよ、いずれ治るから」 郷里に伝わるいい治療法があると紡ぐ声に、リィムナは満面の笑みと好意で応える。ただフランヴェルは見た。霧衣が自分へと向けた勝ったと言いたげに見据える茶色の瞳を…… だがそんなリィムナとファムニスを眺めるだけで、フランヴェルは悦に浸れる様だが…… 「おねしょか、いやはや懐かしい話をしているものだ。実は私の息子もなかなかおねしょが治らずにね、それもお嬢ちゃんより全然年上だと言うのにだ……そしてそれがね……」 忠禅がその話に続く様に楽しげに昔話を語り出した。開拓者達は楽しげに笑い声を上げて聞いているが、この忠禅の息子とは今や立派な鴨屋の三代目若旦那なワケだが、そんな事はこの中の誰も気にはしないのだった…… |