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■オープニング本文 あっと言う間の出来事だった‥‥‥‥ 街の外れにて好事家達は自らの興味、探求と言う欲に取り憑かれ。はたまた陰陽術の名への憧れか、其処には老若や志体の有無の隔ても無い。自らに天性の才が無くとも諦めきれず、書を読み耽り。または少なからず屋敷に居る開拓者の術技を眺め、感嘆の声をあげる大衆がいた。屋敷の一角にて行われ、其れは談笑も交える、彼らにとって軽い娯楽だったのだろう。その日は一日中の土砂降りに、陰鬱な気分にみんな成りつつも、書に集中するにはと気を取り直した所だった。 「逃げろ!」 一人が部屋に滑り込む、その後ろから続々と人は続きしかも皆血相変えてと言う熟語が良く似合う。どうしたと誰かが言う前に其れは侵入してきた。 最初見たものは水と其奴を呼んだだろう、しかし粘り気と言うものを保ち、尚且つ透明ではない其れを水とは言わない。確かこの様なアヤカシがいると誰かが記憶していた。しかしこんな所にアヤカシはいない筈‥‥ならばコレはと最初に部屋に入った者を見れば。 「召還に失敗したら、こんなものがぁぁ!!」 そんな情けない声を出されても、だが其れならば倒せるだろうと一人が失敗作に飛びかかり、もう一人が術を述べた。攻撃も難なく当たり呆気なく霧散した、良しと何人かが言うも‥‥もこもこもこ、とまた増殖しさっきと変わらない失敗作の姿。 直感する、これは攻撃してもキリがないと全員で屋敷を放棄し、脱出した。幸い失敗作に攻撃意思は無くかすり傷一人として負わなかった。 しかしこのままだと、何れ失敗作の式神によってこの屋敷は倒壊するかも知れない。これはもう自分達の手にはおえないと、一同はギルドに頼ろうと頷くのであった…… ●詳しく話を‥‥ 依頼を受け、たどり着いて見ると其処には、確かに屋敷があった。築三十年と言ったところだろう、瓦屋根のあちらこちらにヒビが見える。幾らかの屋敷内に居た人は街へ避難した様だが、心配なのか野次馬なのかまだ番傘片手に屋敷を見守る姿もチラホラ確認出来た。話を聞こうと側によると、依頼者たちの気持ちは藁をも縋るが一番近いのだろう、みんな口々に喋り出す。 「どうやらあの失敗作は水を吸って成長しているらしい」 「けどおかしぃんでさ、水場は井戸一つ、しかも外にしかないときた」 そう言って指で井戸を示す、円形の井戸が一つきり此処から何時も用事があれば水を汲んでいるらしい。 「媒体になってる、符を破けば消えるんじゃないか?」 そんな声も聞いた。だが最後にこの室内を出た奴によると天井近くまで、失敗作は増殖を続けていたという、だとすると符を探すのはこのままだと手探りになりかねない。 そして最後にこんな一言を付け加えたられた。 「中に残っている書物や資料結構重要なので、破壊はしないで下さいね?」 その後勿論だが建物の倒壊はもってのほか‥‥‥‥と続く、誰のせいでこうなったんだよと心中ツッコミを入れたくなる。が困っているのも事実、それにもしこの土砂降りの雨の中で、失敗作の式神が室内から出てきたら、それこそいくら弱かろうと悲惨の三文字は眼に浮かぶ。今はまだ変化すら起きる様子のない、静寂守る屋敷内でうねり増え続けるだろう其れに、身震いすら覚えた‥‥ |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
熾弦(ib7860)
17歳・女・巫 |
■リプレイ本文 どうかお願いします。そんな声が彼らの背で聞こえ、だったら失敗なぞするなと何人かは思いつつ、先ずは全員で屋敷玄関へと引き戸を開けた。 八人は引き戸を閉めるのも忘れ、魅入る。まだ玄関へ侵入は許されなくとも、そして意思なくとも光沢感満載の不定形な失敗作に一同は気圧される。そんな中でいち早く場を抜けたのは、喪越(ia1670)だ。彼は踏み込むと同時に下着一枚得物片手に、ぷよぷよな失敗作の上を泳ぎだした。実学モットーな彼からして見れば、当然な行動も他から見れば唖然であった‥‥ 斎 朧(ia3446)は先程喪越が脱ぎ捨てた、衣類を回収する。天井を見るかぎり、やはり原因は屋根の老朽化による雨漏りと見ていい。ならばこれは穴を塞ぐのには調度良いだろうと思いあたる。借りますね、と伝えるも聞こえてるかは別問題。とりあえず各自作業に早く移るべきだろうと、役割別にその方向へ歩を進めた。 ●下準備・先ずは土嚢 他の人を見送り、再び失敗作を見る。ほんの少し目を離しただけなのに、もう数十センチは此方に近付いている。やはり土嚢は必要だなと、玄関先にてエルレーン(ib7455)は予め用意しておいた麻袋に砂を詰め縄でせっせと縛る。しかし失敗作は何もしない、けど退治されなければならないと考えると少し可哀想にもなる。けど手を抜くワケには行かないと、砂で汚れた手を軽くはたく。其れを天津疾也(ia0019)は渡された。 一つ、二つ、三つ漸く膝小僧ほど迄に土嚢は積める。もしもう此処まで失敗作が来るようなら、槍で露払いをと考えていたがまだその域には幸い達していなかった様子。めしの種が無くならなかった事に内心安堵。まだどうやら武器を使うのはもう少し後になりそうだと、今はまだ見えない符を見据え、またエルレーンから土嚢を受け取った。 ●下準備・原因はやっぱり 降りしきる雨の中、出水 真由良(ia0990)は借りた番傘を片手に屋敷の裏へ走った。他に出入り口があれば大変と、壁伝いを一つ一つ触って確認する。井戸も一応と見てみたが、雨水による増水は蓋がされていた為無い。だが念にはとに不備がないか見たときだった‥‥ キシリッ 其れは閉じられていた筈の雨戸から聞こえた。良く見てみれば、雨戸の一枚が溝から外れている。まだあの水色は漏れてはいないが、これは皆に教えなくてはマズイと、水たまりが跳ねるのも気にせず真由良は駆け出した。 一方その頃、雨漏りを直そうとした残り四人は依頼主である男性へ事の次第を説明する。 「屋根へ登りたいので、あの、後‥‥もし有れば屋敷内の見取り図か何か‥‥」 たどたどしくも、必要なものをと利穏(ia9760)は話した。依頼主は梯子があったろうと、他の仲間を呼び取りに行かせる。そして見取り図かと口元へ手を伸ばし思案すると、懐から紙と筆を取り出し書き始める。 これで大丈夫だろうかと、差し出された見取り図を利穏は確認する。簡易的ながら襖と玄関しか位置記されて中央にばってんがある、聞くとその部屋で召還は必ず行われる為、符があるとしたらバツ印の所だろうと依頼主指で示す。礼を述べ、見取り図を折り畳み懐へと入れた。 何かを引き摺る音が耳に届き、リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)はその正体にうめき声を放つ。音の正体は先ほど頼まれた、梯子だ。ヒビは入ってはいないものの、木製の足かけは所々腐りかけている。その梯子の出で立ち、心もとないなんてものじゃない、不安でしかない。その様は他の会の人から、風呂敷包みを回収していた朧にも伝わる。其処へ脱いだ羽衣を手にした、熾弦(ib7860)が彼女へそれを渡した。私ではこれくらいしか出来ないと、傘を借り土嚢の手伝いに向かった。彼女を見送ると朧のその視線は心配そうに梯子を見上げる利穏に常の貼り付けた微笑を、更に深めた視線を送る。 お先にどうぞ?‥‥と。その笑みに負けた利穏は、大人しくリーゼロッテが押さえてくれた梯子を登る。本来なら、駿竜に乗り上空から確認したかったが、風圧で屋敷が壊れる危険性があった為やむえず断念した。 そんな事を回想する内に、屋根の上へと地に足を着けた。結果は予想通り恐らく問題になっただろう場所は、一枚瓦が剥がれている。雨漏りするのは当たり前、他の箇所もヒビが入り雨粒が染み込んだり。肥大していった失敗作がその場所の雨漏りした水を吸収したことが、更に増殖を早めたのだろう。やがて安全を確認して登ってきた、朧と共に布をあて始めた。 急いて屋根を足で踏み抜いた、なんて事になれば弁償だけの問題では済まない。恐る恐ると二人は作業を完了させ、一通りの穴を塞いだ。そしてまたあの梯子を降りるのかと、うなだれた。 ●準備完了。 熾弦が屋敷の玄関を開けた時、土嚢は腰の近くまで満遍なく詰まれていた。多分これが最後と思われる土嚢を持ち上げ、積み上げた。ありがとう、エルレーンはたどたどしくも心から精一杯のお礼を告げる。 其処に真由良が飛び込んで来て口を開く。内容は先程の雨戸の件、このままだと失敗作は外へ飛び出るかもと伝えると胸元へ手を置き、息切れを整える。その言葉に熾弦は杖を強く握り締め、私が行くと先程閉じた傘をまた開く。 「ほなあんた、頼めるか?」 土嚢に隙間が無いか、確認していた疾也が振り向いて彼女に問う。 「まだ粘泥が外に出てないから、私の出番はありませんが」 笑って頷けば、また熾弦は玄関を後にした。 ふとを廊下奥を眺め気付く、失敗作の動きが先程より鈍い。どうやら雨漏りを塞ぐことに成功した様だ。その証拠に残りの朧、利穏、リーゼロッテが軒先に顔を並べている。 「布をあてただけですので、完璧に塞いでいませんでしょうが‥‥遅くはなりましたね」 朧がそう確信持つように呟く。まだ布地から水滴はしたたるだろう、だがそれでもかなりの効果が出たようだ。疾也は見取り図を、利穏から譲り受け。その紙面を指で追い確認する。これからが本番なのだ‥‥ ●失敗作と自分。 真由良に言われた場所へたどり着いた、熾弦。傘を閉じた処で、其れを発見した。 「このままだと、まずいよな」 外れた雨戸の隙間から、水色の半透明がはみ出て来ている。今は雨樋に阻まれ直接水を吸う状況では無いが、このまま放置すれば溢れる。熾弦は杖を両手で振り上げて、勢いつけて失敗作へ打ち付けた。手応えは杖を伝い、全身に伝わる。そして衝撃のを受けた失敗作は、霧散した。だが油断は出来ない、本来なら雨戸をいじった方が良いのだろう。だがこの内側にはぎゅうぎゅう詰めの失敗作がいるのだ。その中での行為は風船を針でツツく様なもの。仕方なく、少なからず出て来る失敗作へと再び熾弦は杖を振り上げた。 玄関にて、真由良とリーゼロッテは土嚢の側に居た。足下まで来ている失敗作を迎撃すべく呪を唱え始める。先ずは真由良の火輪が完成し、式が呼び出される。式が作った炎は輪となり不定形な光沢に飛び込む。じゅわり、蒸発して湯気と共にその姿は減る。次いで、リーゼロッテの浄炎が放たれた。空間から生じた真紅は対象物を包み込み焼き払いその範囲を消滅させた。 「あーあ‥‥家ごとやっていいならもっと大火力で焼き尽くしてあげるのにさー」 地面に手を付けて、瘴気回収をしつつリーゼロッテは不穏な言葉をあっさり紡ぐ。その言葉に苦笑以外は思いつかない、真由良であった‥‥‥‥ そしてその前に突入した、疾也・朧・利穏・エルレーンは部屋を進んでいた。エルレーンの炎魂縛武は失敗作に触れる度に、辺りに刃にまとった炎で気化させていく。偶に落ちている書物を見つけるが、剣に触れれば丸焦げ確実、小刻みに剣を振る。 「うわあ‥‥ぽよぽよしてる」 誰が見てもわかる感想を一言。それは本人もわかっている。が、目の前に立ちはだかるゆらゆらする物体に、どうしても口は勝手に感想を述べてしまう。疾也は見取り図を眺める、実際玄関から符の部屋まで距離はない。幾らかを消滅させたからと言って、失敗作は隙間を埋めようと下へ流れてくる。そう言ったものは、利穏が剣気にて散らす。 そうやって歩を進めて行けば、失敗作に浮く人影、喪越だった。何とも楽しげに、失敗作の中に居られるものだと、一同は見上げる。気付いた喪越がアミーゴだの、まるで女性の肌の感触などとのたまう言葉は割愛させて貰う。 兎に角、無事合流出来たことに感謝しよう。やがて失敗作の中に沈んだ、開きっ放しの襖を見つけた。この部屋ですと、利穏が目で合図をする。朧が動く、唱えた術は浄炎。すると失敗作が消滅した部位にどうにか壁が顔を見せ。同時に水色に埋まる符がやっと視認出来た。漸く見つけた、一枚の希望に疾也は天辰を行う為精神を研ぐ。槍に精霊の力が宿り始め。それと同時に喪越は砕魂符を行う、まるで抵抗などを感じさせず、符へと当たる。浮遊していた符はほんの一時、動きを止める。 初使用の武器にしてはしょうもない役目になってしまったと申し訳なさを思いつつも、疾也はその隙を突く様に、グングニルを符へと力強く投げた。 「撃ち抜けや、グングニル!!」 槍は一直線で符へ鋭い先端を向け、最後はあまりに呆気ないほど符は真っ二つにされた。ほぼ同時に部屋を包むほどだった、失敗作は影すら無くなった。やった!どうやら全ての問題は解決と、一斉に声が上がる。中には勿体無かったなどと言う声も混ざっていたが‥‥。外からも歓声が聞こえた、どうやら屋敷の破壊は免れたと喜んでいるようだ。 ●かくして屋敷は守られた。 屋敷内に続々と足を踏み入れ、お礼を言いながら依頼者達は片付けを始めていた。その中で先程破壊された、あの符を拾う者がいた。 「よう!アミーゴ、あのスライムを召還したのてめぇなのか」 喪越は同じ陰陽師として、話がして見たかった。それだけなのだが、巨体が下着一枚はこの少年で無くともビクつく。同じく、やってきたリーゼロッテも自分より年下の陰陽師に目を丸くした。十幾つかの声変わりもまだの少年があの式をよんでいたのだ。それが更に探究心が掻き立てられ、口早に本が見たいと急かす。 「ボクの本なら、お詫びに‥‥‥‥こっち」 楽しい時間が紡げそうだと、少年の後を二人は続くのであった。 外では、各自依頼主から報酬を受け取っていた。その中で利穏は、もうこんな事の無いようと諭そうと言葉で持ち上げる。その言葉に依頼主が気を良くした、此処からが本題と口を開こうとした。が、ならこの書に関してはなどと話を流され結局言えずじまい。 だが例え忠告をした所で、彼らが素直に言うことを聞くとは思えない。何しろ彼らは、変わり者と言われる陰陽師へ憧れを覚えた、輪をかけた変わり者なのだから‥‥ |