襲来、煙羅煙羅
マスター名:月宵
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/05 09:54



■オープニング本文

 本日は晴天なり、雲すら日輪の光に申し訳無さを覚えたのか姿を見せない。そんな気候でも樵達が快適に休憩を行えるのは、この場所に草むらや木々に葉が多く茂り影を濃く作るためだ。

「ほう?随分値打ちもの、の煙管と見受けるが」
「だろう、だろう?コレがその辺りで二束三文さ、お得じゃないか?」
 何かが詰まっているのか、カラカラ中から音がするのが気になるがと四方山話に飾り付け。だが使う分には支障はないと、葉の焼けた匂いを醸し出す吸い口を若者は銜える。

 彼らは商売道具、命とも言える斧や、道具箱を切り株の傍らに置き。肩からかけた手拭いで汗を拭い、一時の喫煙や昼飯を楽しんでいた。
 景気はどうだ、かみさんは喧しいやらそこはかとなく愚痴も混ざる。彼らにとっての普段、日常だった……

「っ……がっ……ア゛」

 先程の煙管を自慢して男が文字通り泡を吹く、黒い眼は裏返し痙攣し、口を何十も開閉。あるはずの空気を足りないと言う様に、求める。仲間が肩を揺する、が反応を返すことはない。
 直前まで彼が吸っていた、黒塗りの煙管が音を立て地に落下する。光が当たり雁首が輝き、金属音を響かせる。煙たなびく火皿から何かが零れた。
 だがそれが何か確認するものはいない。それ以上に彼の口から白煙が、吐き出され、それはまるで入道の様な顔が辺りに蔓延する。誰かが叫ぶ、アヤカシだ!と。
 声を皮切りに、木を斬る時には根を生やした様に動かない樵達の足が、一目散にその場を後にした……

●煙の中は?
「煙のアヤカシを吸った本人は一命は取り留めましたが、意識は戻らず」

 至極重い口調で彼は開拓者達の耳にため息を届けた。
 歳にして二十前後、青年は申し訳なさげに息をつく。名を臣野三好と言い、神楽の都にて大工を生業としている。実のところ彼は直接の依頼者ではない。
 今回の本当の依頼者は、彼が必要とする材木の切り出しを行っていた、樵だった。
 三好は彼らが問屋に下ろす予定の、材木が届かないと探しに来た件。以前ギルドへ依頼した事実を買われ、代表としてギルドの門を叩かされたのだ……
 この際何時もは溌剌とした樵らが、情けなく腰を抜かして懇願したのは三好の心の中にしまっておくとしよう。

「で、彼らも一度は道具だけでも取りに戻ろうとしたんですよ……」




「あ……あんなのただの煙だ!息を殺していけば」

 勇ましく言う誰かの声、その時開拓者がいれば言ったことだろう。それは無謀だと……
 彼らはつい放ってしまった仕事道具と、散らばった煙管を取りに休憩場所に戻った。だが煙管の葉の香りに集まって来ただろう、蜂の群が羽音と言う帯を作っていて。彼等の鼓膜を身と共に震わせる。だが諦めるワケにはと、制止も聞かず真っ白な手拭いを頭に巻いた一人が飛び出した。
 まだ白煙は相変わらず立ち込めている。だが気だるさは覚えるものの毒性が無い。思っていたより視界は開けていて、周りを見れば食い散らかした弁当や誰かの煙管などが散乱。全ての物を回収したい。だがあまり時間はない、何より蜂の群の中に自分はいるのだ。
(道具箱……どこや?!)
 瞳をあちらこちらと動かす、その内今まで嗅いだことのない胸焼けするほどの甘い匂いが鼻を掠める。

「ゆき?」

 煙に誘われる様に、白い雪に似た何かが集まりだした。
 彼の肩に降り積もる、どんどんと数が増えていく冷たくも無いそれを肩で払う。が、どんどん集まってくる。異変に気が付いたのは辺りを見て自分の周りにしかこれが降らないことだ。
 端から見れば煙の中を漂う、柔らかで微細な白は極めて幻想的だが。その正体は小さなアヤカシ、その名は雪喰虫。一匹一匹は弱くとも、数が集まれば脅威になり得る存在。

 ズブッ

「いっぎゃぁぁぁぁ!」



「幸い、まだその時は数が少なかったから大事には至らなかったのですが」
 三好は聞いた話をそのまま口にした。
 襲われた樵は、素肌に幾つもの吸血跡があった……と。

 樵達の休憩場を二度目に襲った事態に彼らは混乱に次ぐ混乱。そんな三好が彼らを発見。先程やっとことさ、事の次第を聞き出した、と言うワケだ。

「開拓者様、アヤカシ追っ払って彼らの道具を取ってきて下さいよ。こっちの作業が遅れて、あいつの機嫌も悪くなる一方で……場所はあっしが案内しますのお願いしますよ!」

 三好は、常ならば朗らかな友人の怒りの形相を思い浮かべつつ、彼らの目の前で手を合わせるのであった……


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
和奏(ia8807
17歳・男・志
五十君 晴臣(ib1730
21歳・男・陰
嶽御前(ib7951
16歳・女・巫


■リプレイ本文

 目的地より三丈離れた草むらから、三好と開拓者達はそれぞれの準備を初めていた……

「では本来は、アヤカシも少なくそれでいて緑の多い場所なのですね」
 地形の一つ一つを、三好から丁寧に聞くのは和奏(ia8807)相槌を打ち、三好からの情報を受け取っていた。

「わかりました。あぁ、それと樵さん達へ、来て良い。と言うまでここに来ない様に伝えて下さい」
 勿論と三好は頷く。その隣では地肌が見えなくなるほどに、さらしを巻き。望遠鏡を片手に覗く羅喉丸(ia0347)が居た。

 これを覗く先には、件の樵達の休憩所があった。
 白い煙、その中を幻想的に舞う雪。これだけなら実は両者がとても恐ろしい存在だとは、端から見ては考えられはしないだろう。
 中央に切り株が集まっている。樵はここに座ってそして、煙羅煙羅と遭遇したとひっくり返された弁当箱等や、道具類から伺い知れる。次いで、望遠鏡を中央から離す羅喉丸。 散らばった煙管、煙羅煙羅が好みそうな木々や草陰が見受けられる。

 望遠鏡の視線を下へ落とした所、予想していなかった物があった。蜂の死骸、それに雪喰虫が群がっている。本来アヤカシは死ねば、形を保つことなは無い。どうやら、蜂は本当に蜂であったらしい。ならば何故、未だ殆どが無事蜂は飛んでいるのだろう。理由もすぐ知れた、蜂の速さに雪喰虫がついていけないだけだ。
 だがそれでも、数が勝り蜂を雪喰虫が飲み込み始めたのだ。しかしそうすると、何故蜂が雪喰虫を襲わないのか、羅喉丸は眉を歪め、他の全員に事の次第を説明をした。
 それに一番早く、単純明快な答えを出したのは五十君 晴臣(ib1730)だ。


「私達を攻撃するだろうことに、変わりはない。ならば、正体など関係ないかな」
 自分はただ依頼を完遂させるだけ、穏やかな表情に反ししっかりとした意志が伺える。これに同意した様に、溌剌と元気に答えたのはペケ(ia5365)。

「そうそう、とにかく本体のタマを潰さないと!」

 この的確でいて、別な意味を踏みそうなペケの台詞に男性陣がどの様な顔をしたか、ご想像にお任せ致します。

●探索、煙羅煙羅
「改めて、巫女の嶽御前と申します。この度はよろしくお願いします」

 三好が、都に戻り本格的な突入までの作戦が述べられた。そしてこの作戦の主軸ともなるだろう存在が彼女。今回唯一の索敵能力を持つ巫女の嶽御前(ib7951)。
 作戦はこうだ。
 先ずは、和奏・羅喉丸・嶽御前の三人が煙の中へ突入、それからそれぞれ別方向からペケと晴臣が煙の中へ入る。
 そして全員で虫の大群を相手にしつつ、煙羅煙羅の本体を探し出す。
 言うは易いが、行うは難し。刻々と減る精神力と体力、時間との勝負と言えよう。

「さて、行くとしよう」
 その羅喉丸の声に嶽御前もゆっくりと頷き、木刀を片手に煙へと近付く。
 するとまるで開拓者達に気付いたかの如く、形を成していなかった煙羅煙羅が入道の姿を取り始める。
 入道は威嚇するように、顎が外れる程の大口を開いた。

「先に行きます!」

 先鋒は和奏。温存は無用とばかりに、練力を刀へと収束させる。得物を両手でしっかりと振り上げると、虫を、煙を、空気の刃が薙払う。そのままの勢いで、彼は口の中へ飛び込んだ。
 続くのは、羅喉丸と嶽御前。最後に側面から、ペケと晴臣が煙の中へ入り。作戦を開始した。

●突入、煙羅煙羅
 軽々と枝によじ登り肢体を揺らす少女は、ペケ。前もって施した超越聴覚からは雪喰虫と蜂のどちらからともとれる、羽音ばかりが鼓膜を擽る。
「ここも無いや、やっぱ最初の煙管かなー」
 木の洞を手探りする、が手応えは無い。ただ底を指先が滑るばかりである。  ここは切り株から多少距離を取った場所。中央より蜂や雪喰虫は少ないが、やはり出現はするようで、風神で真空の刃をかましながら敵を散らして行く。
 やはり煙管を探そう、そう思い木から降りた時だ。耳が何か微かな音を捉えた。それは酷く粘着質で、咀嚼音にすら聞こえる。そしてペケは、全員に聞こえる様にこう叫ぶ。

「ねぇ!何か食べてる人いる?そんな音が聞こえる!」


 白い尾長の隼が、虫達を飲み込む。晴臣の式が、魂喰を行っているのだ。今の彼にペケの科白を訝しげに、思う余裕は無い。ある程度の敵は式で追い払い、後は得物で打ち払う。
 この方法で途中までは、なんとか凌げてはいたものの煙羅煙羅の煙の気だるさに、避ける事がままならず幾つもの噛み跡と刺し跡が残る。幸いな事に毒は無かったが……
 迂闊に近付き過ぎた。札を手に後退りをし、草影が背に向く位置に貼り付いた。
 符を一枚、言葉を紡ぐ。どこからともなく、黒い壁が術者を護るよう配置された。厚さも頑丈さもある、もしアヤカシに回り込まれたら。武器を使うまで……と、考えていた。
「…………え゛?」

 恐らく壁の登場と、ほぼ同時だろう。蜂の羽音が獣のうねり声かと、勘違いするまでに低音になる。まるで一番の天敵とでも言いたげに、壁を針で滅多刺しに、し始めた。
 壁を刺す速さは、まさに啄木鳥のそれと同じ程だろう。蜂の狙いは壁ばかり、術者の晴臣は二の次と言えた扱いか……
 ある意味で自分の役目は陽動であった為、この行動は大成功していた。もしこの壁がこれほどに頑丈では無かったら……考えただけで冷汗が垂れる晴臣であった。


「……駄目です。思った以上に雪喰虫が、地面に留まっていて今は未だ判別がつきません」
 身体がぼんやりと輝く、嶽御前は緩く首を振る。その表情から彼女の申し訳なさを、羅喉丸は伺えてそれ以上は責めはしなかった。

「ならば俺達が、雪喰虫を散らす」
「そうですね……、後もし襲いかかる群があれば教えて下さいね」

 続く様に和奏が言う。今も身体には、雪の虫が貼りついて彼の血を奪っている。一匹一匹を剥がしはするも、やはり痛みはある。
「二人とも、そのまま右側へ!」

 嶽御前が指さす地面には白い塊。彼女から距離を取るように煙中を跳ねる。そのまま足を踏み込み、崩震脚を発動させる。大地からの衝撃波は、雪喰虫を吹き上げて消滅させる。
 その様子に気付くのはとうのアヤカシ、幾重の雪が羅喉丸を包み込む。あらかじめ腕で上部を庇うも、さらしを数ヶ所紅で染めていく。
 だが不思議なことに蜂は、ほぼ彼に狙いを定めない。もし刺されても、さらしのおかげか蚊ほどの痛みも無い。
 さらしに、これほどに効力があるとは予想外も良いところだと、アヤカシを叩き落としながら羅喉丸は呟いた………

●何処、煙羅煙羅

「違う……かぁ〜」

 地に落とされた煙管は金属音が響かせ、灰が零れる。
 なるべくアヤカシの被害を受けぬ様に、そして煙管を見逃さない為、匍匐前進をするペケ。粗方、草場の影や洞を探し終え、休憩所の奥へと進んで、煙管の火皿の中を確認する。

 一番に予想をしていた、煙羅煙羅の出現した煙管は不発。ならば他の煙管を探す事が先決、そして今その一つがすぐ側にある。しかし、煙管の火皿からは未だもうもうと煙が立ち上り、釣られた蜂が幾つも止まって羽根を煌めかせている。
 息を切らしながら、ペケはこれを取るか、取らざるべきか、と指先を虚空に踊らせる。

 そこに真っ白のマントをはためかせた、嶽御前が来て彼女の傍らへ屈んだ。
「調べずとも、どの煙管にもアヤカシの反応はありませんでした」
 そう一帯を見回してから呟けば、嶽御前は術を唱えペケを爽やかな風。神風恩寵で包み込んだ。ペケは安堵とお礼を述べる、だが全てを聞く前に彼女別の方向へと、歩を進めていた。


「あなたも大分、お疲れのようですね」

 嶽御前の声をかけた先には、手のひらに瘴気を集めて糧としていた晴臣の姿があった。声に気付くと晴臣は彼女へと身体を向ける。練力は回復しても、体力を回復する術が彼にはない。瘴気を吸い込む手甲が重たげに揺れるのは、疲労の証だろう。
 先程と同じ様に、嶽御前は治癒を行う。礼を半分以上台詞にした所で、晴臣は声を低く呟く。

「それよりも、嶽。そっちが大丈夫なのかい?」

「大事ありませっ……、後ろにアヤカシが!」

 覆い被さる様に晴臣に降ってきた雪喰虫、跳びすさり彼は後退した。その為嶽御前とそれ以上の話は出来なかった……

 和奏と羅喉丸はそれぞれ嶽御前の護衛の為に、虫を倒していた。
 しかし羅喉丸の技は範囲が広いと言う長所の他に、無差別に対象を屠るのだ。結果嶽御前と距離が空く。何よりも思っていたよりも、樵達の道具が狭い間隔で置かれている場合が多く、彼は思う様に身動きが出来なかった。

 直接的に嶽御前を守っていたのは、和奏一人と言う状態であった。その和奏も虫を払いつつ斧の側を探したり、と多くの範囲は確認出来なかった。その中でも彼は情報をなるだけ取り込んいた。外側の木々や草影は前に調べ終え。今ほどの近さにある、煙管にも姿は無い。

 そうなれば残るは、最初の中央の切り株近くのみ。先程は地に這う雪喰虫で確認が難しかったが、殆どが宙に飛び交うこの状況なら判断も容易いはずと、嶽御前に言い三人は切り株近くへと向かった。

 羅喉丸が拳で虫を打ち砕く空気が張り詰める音の仲、嶽御前は得物を引きずり切り株の一つに立ち上がる。

「これで見つかんないと……キツいかのう」

 誰にも聞こえぬ声で呟き、彼女は鋭い八重歯を見せて、力なく笑う。腕には数は少なくとも、皮膚に貼り付き吸血する虫に苛まれ。唱える声は絶え絶えで、彼女の体力の限界は近付いていた……
 刃無き得物を両手で持ち替え、念ずれば彼女の感覚に幾つものアヤカシの明滅が生まれる。

……そして嶽御前は木刀の切っ先を、とある一方向に向けた。

「見つけました、道具箱の下敷きになった。そちらのお弁当箱の中です!」


「これか!!」

 発見したのは羅喉丸。足で弁当箱を蹴りだしひっくり返す。米が飛び散り、中から確かに琥珀の珠が浮遊し始めた。

「そっか!さっきの音ってご飯だったんだ」

「後は……任せました、私は一度外に出ます」

 口元をマントで覆い、場を去る嶽御前とすれ違い様にペケは、自ら耳に聞いた音を理解した。


「ハァッ!」

 広範囲技を煙羅煙羅の珠に向ける羅喉丸。しかし回避され元々小さいアヤカシの為か、その風圧に乗せられ彼から逃げる。それを向かい討ったのは白く長い尾を持つ隼、晴臣の式だ。
 二つは、白煙を巻き上げて、二重螺旋を描く。
 隼は何とか爪で、嘴で、珠を捕らえようとするが決定打とは行かない。


「行きます………」

 その様子に視線を仰ぐは、和奏。霊気を帯びた納刀された得物に手をかける、息を停め……


 カラン

 和奏は鞘に刀を納めていた、その時に聞こえたものは両断された煙羅煙羅の本体が、落下した音であった。

 やがて、珠が消滅すると白煙が薄らいで互いの戦いの終焉を実感する表示がはっきり確認出来た……

「終わったんだ、よね?」

「まだですよ。残りを片づけ、そして持ち主の方に道具を返還しなければ」

 煙が消え始めて大部分はいなくなった雪喰虫も、まだ残りがいる。蜂に関しては、未だ煙管の煙に誘われて飛び交っている。

「嶽、もう良いのか?」

 中央に戻ってきた嶽御前に晴臣が問えば、先程は曖昧であった台詞がすんなり聞けた。
「煙管は……難しそうだな、道具だけでも集めよう」
 羅喉丸が言う通り、蜂は未だ煙管にべっとりで時を置くまで手を出さない方が無難と言ったところだろう……

「土埃はありますが、拭けば綺麗になりそうですよ」

 腕に斧を抱え、反対の手に手拭いを持ち、早速掃除を始める和奏。それを眺めれば各自最後の総仕上げへと、移った…………

 残念ながら、暫くこの場所は蜂に占領されているが道具は無事取り戻せた、仕事には支障はないだろう。
 これにて煙のアヤカシの脅威は名前通り影も形もこの場から消えたのだった……