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■オープニング本文 ※この依頼は五行国の陰陽寮の一つ【青龍寮】に所属しているPC様を対象としたシナリオです。青龍寮に所属していない方が参加されましても、描写は極僅かになってしまいます事を予めご了承ください。 ● 次代の陰陽師を育成、教育する、五行の国が誇る研究機関、陰陽寮。 青龍、朱雀、白虎、玄武の名を冠した四つの寮が独自の課題に取り組みながら、または他の寮生達と腕を競い合いながら技術、技能の向上を目指すもの――その本来の姿が、ある時を境に失われ始めた。 老朽化が進んでいた白虎寮の建物を修繕する必要があるからと、新入生を受け入れなくなって三年。全ての寮生が巣立った年から修繕作業は開始されたが、陰陽寮への入学希望者が年々減っているという状況が、其方に予算を割くという選択を困難にさせた。 そして、青龍寮。 しばらくは他寮と共に新入生を迎えるなど恙なく運営されていたが、震上きよ(iz0148)がやむを得ない事情で寮長を辞任、後任として五行の国王である架茂天禅が自ら教鞭を取ると宣言し、……そのために青龍寮は立ち止まってしまった。 一度は丹波丸一なる王の知己が寮長に推薦されたものの問題外とされ、以来、青龍寮単独では一度も授業が行われていない。 その期間、およそ二年。 青龍寮に所属していた生徒達の半数は朱雀、玄武への転寮、または退寮し、そしてもう半数は今なお青龍寮に籍を置いている。 そんな生徒達の心情を慮れば、――五行王、架茂天禅(iz0021)は執務机を睨み付けるような表情で思い悩んでいたのだ。 そんな主の姿に、唯一の友と言っても差し支えないだろう部下、矢戸田平蔵は複雑そうな笑みを覗かせる。 「馬鹿だねぇ」 不意に聞こえてきた平蔵の声に天禅は面倒臭そうに振り返る。 その眉間に刻まれた深い縦皺が更に平蔵の笑いを誘った。 「馬鹿だから馬鹿だっつってんだ。つい最近まで他人の事なんか露ほども考えなかった奴が、今になって寮生の事を考えたからって名案が浮かぶはずもないだろう」 「……」 「一人で悩むくらいなら本人達の話を聞け。共に悩んで、助言をくれる奴を傍に置け。―−おまえだってそう考えたから、青龍寮に新しい講師を迎える事にしたんだろう」 平蔵の言葉に、天禅は無言のまま視線を外した。 そう、確かに彼は青龍寮に新しい講師を招く事にした。自分自身に【人に教える事が出来るか】を問うた結果、無理だという結論に至ったからだ。 それもこの男が「考えて、悩んで、煮詰まって身動きが取れなくなるくらいなら、とりあえず動け。何かを始めれば何とかなる」と背中を押したからで――。 「む……?」 天禅はふと気付いた。 そういえば講師が到着するのは今日ではなかったか……? 「……迎えを送るのを忘れていた」 「は?」 数分後、青龍寮の生徒達には【新しい講師となる人物、菅沢あきらを三陣の港まで迎えに行って欲しい】と伝えられるのだった。 ● その頃、首都結陣から南東に位置する三陣ではひと騒動が起きていた。 三陣は海路にて他国との輸出入を唯一扱う商業都市だが、此処に盗賊が現れたのだ。 その数は十七名、全員が屈強な男達で武器を所持しており、港に着いた荷を奪って馬で逃走。その際、盗賊達を止めようと彼らの前に立ちはだかった若い男が人質として連れ去られたという。 周辺の人々の話を総合するに、どうやらこの若い男というのが、陰陽寮からの迎えを待っていた新しい講師のようで……。 盗賊たちの逃亡先は、幸いにも足跡が追える。 三陣の港に到着した寮生達の選択は……? |
■参加者一覧
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
樹咲 未久(ia5571)
25歳・男・陰
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
无(ib1198)
18歳・男・陰
成田 光紀(ib1846)
19歳・男・陰
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 港で情報を集める組と、先に賊を追跡し運が良ければ連中の情報を得たいと考えて先行する組とに分かれた陰陽寮、青龍の面々。 龍に騎乗し、空を行く樹咲 未久(ia5571)と成田 光紀(ib1846)は、地上で霊騎を駆りながら賊の足跡を追うモユラ(ib1999)に先導を任せた。 その、モユラの心は燃えていた。 (架茂王様がナニ想ってるのか、あたいなんかにゃ……解らないケド、でも、決めたんだ) ぎりっと手綱を握る手に力を込めて前方を見据える瞳には烈しい炎。 (おきよさんや、青龍の皆や、自分自身の為に……最後までやり通すって。だから――) 手綱から伝わる主の想いに応えるように霊騎が速度を増す。 (だから、さ……これ以上、回り道させンなってーの!) 更に速度を増して森を駆けるモユラの背を追いながら、上空の未久は穏やかに微笑む。 地上から滾るような熱気を感じた気がしたからだ。 「新しい講師殿が青龍寮に来る時はいつも事件が起きますねぇ」 「……フン」 光紀は同意とも否定とも取れぬ反応で未久の笑いを誘い、ただ静かに、この先に待つであろう『それ』を思うのだった。 ● 一方の情報収集組。 「漸くの授業だと思ったのにまた事件ですよー」 カンタータ(ia0489)の普段と変わらぬ柔らかな呟きを背に聞きながら、宿奈 芳純(ia9695)と无(ib1198)の二人は賊に襲われたと言う現場で聞き込みを始めていた。 賊の人数や構成の確認、どちらの方角に去ったのか、奪われた荷の内容、そして何よりも連中の前に立ちはだかったと言う人物の特徴だ。 「あぁ、あン人は陰陽師だろうな。あの兄ちゃん達と似たような服を着てたから」と、鈴木 透子(ia5664)が治癒符で腕の切り傷を癒していた町人が无と芳純を指差した。 透子はほんの僅かに首を傾げて問い掛ける。 「どういう風に立ちはだかったのですか?」 「どう、って……こう『おやめなさい!』って勢いよく俺らと盗賊連中の間に立ちはだかってな」 その瞬間を思い出すように両腕を広げて見せる町人。 「自分は五行は陰陽寮の講師だ、このまま退けば見逃してもいいけど乱暴を続けるなら容赦はしねぇって、こう、格好良く符を構えてさ」 「けど戦い慣れはしてねぇなぁ」 「ンだなぁ。俺らが、背後から襲われちまってよ。相当焦ったんだろうさ」 「叩っ斬られそうになって、何とか逃げたんだけどよ、転んだ拍子に眼鏡が落ちて」 「眼鏡、ですか?」 无が聞き返し、町人達が大きく頷く。 「ありゃぁきっと近眼って奴だな。それもかなりの。何も見えなくなっちまったみたいでさ、大慌てするあン人に盗賊どもが大笑いしやがって」 「そうそう。でな、着ているもんも上等だし陰陽寮の関係者なら金になるだろうって港に着いたばかりの荷物と一緒に連れて行かれちまった」 「これがその眼鏡さ。助け出したら渡してやってくれ」と、町人の一人が无に眼鏡を差し出し、无は「確かにお預かりしました」と受け取る。 「で、官憲に連絡して治療やら片付けやらしているところにあんた達が来たってわけさ」 「そうですか、ありがとうございます」 透子は礼を言い、治療を終えた町人の腕を下ろさせる。 つまり官憲よりも自分達の方が早く着いたのだという確認もしたところで青龍寮の四人は顔を見合わせ、透子が更に問いを重ねた。 「ちなみに、その陰陽寮の講師だという方の人相など、判る範囲で結構です。教えて貰えますか?」 「ああ、最初は子供だと思ったくらい背の小っちゃい兄さんでな」 「女だろう?」 「いやいや、ありゃあ男だろう。髪も短かったし」 「しかしあの声の高さは……」 町人達の意見が割れるのを聞いて、无が口を挟む。 「年齢は幾つくらいでしょう?」 顔を見合わせた人々は、しかし揃って首を傾げるばかり。終いには「講師っつーくらいだし二十は越えてるんじゃないか?」という非常に微妙な返答だった。 結局、先行している仲間への伝達のために芳純が飛ばした人魂の小鳥の足に括り付けた手紙には、 『年齢不詳、性別不詳、眼鏡が無ければ何も見えず』と記載された。 官憲が来たら陰陽寮の生徒が人質救出に向けて先行している事を伝えてくれるよう港の人々に頼み、それぞれが各々の相棒に騎乗し先行組を追うべく出発した直後、 「お会いするのが楽しみですね」という无の苦笑交じりの台詞は、周囲に何とも言えない空気を漂わせたのだった――。 ● 芳純が飛ばした人魂は程なくして先行していた光紀の手元に届き、その足に括り付けられた手紙を確認すると、先ずは未久にそれを渡す。 「やはり一筋縄ではいかないと見るべきでしょうか」 楽しげな反応を見せた未久は、どのタイミングでモユラにも手紙を渡そうか思案した。と、不意に彼女の霊騎が速度を緩め、完全に止まる。 その前方に目を凝らせば、いつ倒壊してもおかしくないような古びた木造家屋の屋根が見える。 「少し下がりましょうか」 「ああ」 近付き過ぎれば相手に自分達の存在を知られると懸念した二人は僅かに後退し、光紀は上空待機。 未久は相棒を着陸させて森の木々の合間に隠れているよう指示すると、同じく霊騎を森に隠すモユラと合流する。 「どうかな?」 「少し待っていて下さい」 真剣な顔付のモユラにそう応じながら件の手紙を渡した未久は、人魂を天道虫型に変化させて廃屋へ飛ばした。 「……年齢不詳、性別不詳ってどゆこと??」 モユラの極自然な反応に笑いを零しつつ、未久の閉じられた瞼の裏側に映し出される、人魂が見る光景。 複数の馬の足跡が歩幅を変え、人の足跡が混じり、屈強な男達が二人一組で佇んでいる。恐らく見張りだろう連中が、四方に八人。 廃屋の向こう側には馬が――十七頭。 未久は人魂を更に移動させ、隙間だらけの壁から中を伺い、……そして納得する。 「その情報は確かだったようですね」 「え?」 「年齢不詳、性別不詳です。たぶん、男性かなとは思いますが」 「いたの?」 問い返しに軽く頷き、更に中の様子を探る。 講師と思しき人物の傍には二人。どちらも細身の刀が武器らしい。その他に七人の男達が、奪って来たばかりの荷の中身を確認中だ。 全部で十七人。 幸いと言うべきか『全員』が其処にいた。 話を盗み聞く限り、この廃屋を見付けたのは盗賊連中にとっても偶然だったようで、とりあえず戦利品の中身の確認と、人質として得たその人――菅沢あきらをどう利用すべきか相談するための一時的な休憩らしい。 後は情報収集組との合流を待つばかりとなったところで、上空待機していた光紀が下りて来た。 「来たぞ」と二人同様に相棒を森の中に隠しながら話している間に、同じく空からは无とカンタータが着地、木々の向こうには芳純と透子の姿が確認出来た。 「全員合流だね」 「ええ。では最後の作戦会議といきましょうか」 未久がにっこりと微笑みながら仲間達を促した。 ● 森に小さな紫色の蝶が舞うのを、盗賊達は胡乱臭そうに眺めていた。 「こんな季節に蝶?」 不気味と思いつつも無視するのは盗賊の矜持が許さないのか、握り潰そうと考えて伸ばした掌にチクリと走った僅かな痛み。 「うっ……」 「どうした?」 近づこうとした相方は、しかしふくらはぎに痛みを感じて其方を見下ろし、眩暈を起こす。 四肢が痺れて膝を付き、次の瞬間には首筋に重い一撃を食らっていた。 カンタータと透子の『毒蟲』、无の手刀によって、まずは盗賊二人を確保。その南方では芳純の『毒蟲』が盗賊二人を刺し、未久と光紀によって昏倒、縄で縛り上げられていった。その流れで見張りとして外にいた八人全員を、これと言った声や物音を出させる事無く完璧に無力化した彼らは、連中を森の中に集めて相棒達に監視させた。 更に透子の案で、盗賊の足となる馬達を全頭、森に解き放つ。 屋内にいる連中が移動を再開するのと、官憲の到着。どちらが先でも誰一人逃亡を許したりしないためだ。 「さて、では誘き出しますか? それとも連中が動き出すのを待ちますか?」 无の確認に、しかし仲間より先に反応したのは縄で縛られ布で猿轡までされた情けない恰好の盗賊達。 「んぐぐぐむぐっ!!」 かなり機嫌が悪そうだが、気分を害するというなら青龍寮生の方こそだ。 それまで黙っていた光紀が火炎獣を空に放ち、眼光鋭く盗賊達を見据えると、その無言の圧力に盗賊達は目を見開いたまま固まってしまった。 无は困ったように笑う。 「あまり時間を掛けるのも好ましくありませんし、此方から仕掛けるとしましょうか」 「賛成です」 人質となっている人物の事を考えると、怪我はしていなさそうだが早めに救出するに越したことはないという透子の判断と、仲間が一緒であるという自信。 「モユラさん、いけますか?」 「勿論。いつでもいけるよっ」 未久の声掛けに力強く答えるモユラ。 「ではいきましょうか〜」 カンタータの意気揚々とした声掛けに全員が動き出した。 今にも壊れそうな家屋に向かってカンタータが「すみませ〜ん」と声を掛けた直後、 「何者だ!」と警戒心丸出しの応えがあった。 屋外に出て来たのは二人。 今にも襲って来そうな雰囲気を醸し出す彼らにはカンタータ、透子、无の三人が対峙し、少し離れた場所で光紀と芳純が事の成り行きを見守る。 更にその奥、人魂――天道虫を、屋内に捕われている人質の元に飛ばしている未久は、眼前で不自然な円を描くように飛ぶ事で救出に来た事を知らせようと試みたが、此方は本人の超がつく近眼が理由で期待する効果は得られなかった。 ただ、盗賊の一人が天道虫に気付き、そちらに注意を払った事で、作戦の要であるモユラの行動を援護していた。 ナハトミラージュで周囲から己の存在を消したモユラが、開いた扉の隙間から屋内に侵入し、人質の姿を確認、近くに移動。 同時に屋外のカンタータが、所持している龍花を示し「五行国陰陽寮、青龍の者ですが〜」と身分を明かすと、当然ながら対応していた二人は苛立ちを露わに「殺されたくなきゃさっさと失せろ!!」と怒号を響かせた。 一方、屋内で縛られたまま身を乗り出した人質の、その人。 カンタータの「陰陽寮、青龍の者」という声に目を瞬かせ、その動作に盗賊の一人がハッとする。 「チッ! おいてめぇら見張りの連中はどうした!!」 どうやら頭目らしい男の怒声に仲間達はぎょっとする。 「あ、おい、見張ってた奴らは……」 「どこ消えた!?」 俄かに浮き足立つ悪党たち、この瞬間が正に好機だった。 无がわざとらしく肩を竦めつつ更に相手の怒りを煽る。 「ですからね、盗賊家業なんて儲からないと思うんですよ」 「何をごちゃごちゃと!」 「俺達の仲間を何処にやった!?」 「おいっ、その人質をこっちに――」 そうして盗賊の手が人質に伸びようとした瞬間だ。 「!!」 人質と盗賊の間に突如として現れた黒と白の壁――未久とカンタータの術によって敵の視界から消えたその人を守り。 「もう大丈夫、貴方は自分の身を守って。それ位はやってみせて下さいな……ね、先生?」 「えっ」 誰もいないと思っていた虚空からの声にぎょっとしたのも束の間、己を戒めていた縄が解かれ、壁が意図的に消失する。 「出口に向かって走って!」 「えっ、あ、はいっ」 目が見えないながらも虚空からの声に従って出口だと思われる方向に向かって走った。だが足元が覚束なく転倒。 再び捕まえようと伸びる盗賊の手、それを遮るのは光紀の呪縛符だった。 何が起きたのか判らないまま動けなくなった盗賊の後ろから「こうなったら……!」と太刀を振り翳す男。しかしそれも、ナハトミラージュの効果が切れて見えるようになったモユラが受け止めた。 同時に、相応の衝撃を受けて消えゆく九字護法陣。 しかし無傷で済んだ理由はそればかりではない。 「そんな錆びついた得物じゃ切れるものも切れないよ?」 「何だと!?」 目を剥く盗賊だったが、その刃は確かに劣化しており、そればかりか仲間の武器も半数が使い物にならなくなっていた。 芳純の錆壊符だ。 そもそも屋内にいた九人の盗賊達――今や立っているのはモユラの目の前にいるその男だけ。代わりにカンタータ、透子、芳純、光紀が講師を庇うように佇んでいた。 毒蟲や呪縛符で動きを制限された者は早々に彼女達に縄を巻かれていたし、逃げ出そうとした者は未久の氷龍に恐慌し、无の鋼線「墨風」の餌食になった。 更なる追い打ちは遅れていた官憲の到着だ。 そちらを一瞥した光紀は、次いで冷たい視線を孤独になった盗賊に向ける。 「どうする。まだ抵抗するつもりならば相手になろう。予定とはいえ青龍寮の講師に手を出した事を後悔させてやらねばならないしな」 「ぐぅっ……!!」 男は顔を歪め、その場に膝をつく。 事実上の降伏だった。 ● 「ふむ、少々あっけなかったですね」 盗賊連中を官憲に引き渡し、役目を終えた鋼線を仕舞いながら言う无に、芳純が小さく頷く。 「相手は盗賊と言えど一般人です。私達が術で応戦してしまえば万が一がないとは限りません。犠牲者が出なかった事を喜びましょう」 「芳純さんの言う通りです」 透子も頷く。 「こういう仕事はいつも困ります、人と戦うのは専門外です」 「何はともあれですねー」 カンタータの歌声に促されるように皆の視線がその人――菅沢あきらに向いた。 「はっ。あ、えっと、初めまして、菅沢あきらです。これから青龍寮で皆さんの講師として一緒に過ごしていく事になります、よろしくお願いします!」 一言で言うならば「可愛い人」だ。年齢不詳、性別不詳、身の丈が百五十センチ程で真っ黒さらさらの短い髪を揺らしながら大きくお辞儀する。 眼鏡も装着済みだ。 「先生は、陰陽寮の卒業生なのですか?」 一通りの自己紹介を終えた後で透子が問うと、あきらは肯定した。 「七年前に青龍寮を卒業しました。幼く見られがちですが、もう三十のおっさんです。いや、ほんと、それなのに生徒さん達に助けられてしまってお恥ずかしいです」 年齢、性別が判明したが、お恥ずかしいと言いながら頬を掻く外観は十代の子供のようだ。そんな講師はハッと気付いたように寮生達に声を掛ける。 「盗まれていた荷ですが、港の方々にお返ししたいのです。手伝って貰えますか?」 「最初からそのつもりですよ」 芳純が即答すれば「ありがとう」とあきらが微笑う。 「では、荷物を運びながら、皆さんの話を聞かせてください。これからどういう授業を、未来を望むのか……私は皆さんの声を受け止めるために招かれたのですから」 まだ五行王が彼を招いた意図は不明であり、どのような結果を齎すかは誰にも想像すら出来ないけれど、しかし、長く時を止めていた青龍寮はここから確かに動き出す。 「これからよろしくおねがいします」 「よろしく、センセ」 未久、モユラの言葉を嬉しそうに受け止める、新たな道標を迎えて。 |