|
■オープニング本文 ● カラカラカラ‥‥ ‥‥カラカラカラ‥‥ 風が吹く度に揺れては嘆く髑髏(されこうべ)。人が立ち入って久しいのが明らかな荒地で風雨に曝されて来たそれは、見る側に人骨であるという恐怖心よりも哀れみの念を抱かせる。どのような理由があって人里離れたこんな場所に置き去りにされたのか。周囲には衣類の切れ端がそれとは判らない程に朽ちて散乱し、錆びてぼろぼろの刀が転がり、もしかすると落ち武者だろうかくらいの予測しかしようが無い。その割には鎧と思われる残骸が見当たらないのだけれど。 骨に絡みついた草の葉は、せめて体の線だけは崩れないようにという自然の哀れみだろうか。 孤独に眠る、哀れな骸を包む緑の褥――。 ‥‥カラカラカラ‥‥ ‥‥‥‥カラカラカラ‥‥ 鬱蒼と生い茂る木々の葉に陽の光りを遮られた其処に立ち入る者は久しく無く、辺りに唯一響くのは風に吹かれて揺れる葉擦れの音と髑髏の嘆き。 ‥‥‥‥カラカラカラ‥‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥カシャ‥‥ッン‥‥ 不意に異質な音色が重なる。 響く、アヤカシの咆哮。 『ウォオオオオオ‥‥!!』 長い年月を掛けて生じた瘴気は形を成す。目の前に落ちていた髑髏を象り立ち上がり、更には転がる錆びた刀を手に取り前進を始めた。同時に、刀に絡み付いていた草の端が散るのに隠れて地面に転がり落ちたもの。それは小さな鈴だ。 とても、‥‥とても小さな鈴だった。 ● 「すんませんっ!」 その日のギルドに突風のように現れ、受付職員の高村伊織(たかむら・いおり)に声を掛けたのはまだ歳若い少年だった。此処まで馬を駆って来たらしく息が上がった彼は、伊織が「落ち着いてください」と差し出した水を一気に飲み干すと間髪入れずに訴える。 「俺の村に出たアヤカシを退治してくれ! このままじゃいつか誰かが死んじまう!!」 その勢いに圧されながらも伊織は受付職員としての責務を忘れない。 「判りました。では落ち着いて、詳細を話してください」 席に着くよう促すが切羽詰った様子の少年が素直に言う事を聞くはずも無く、その勢いのままに語り始めた。 少年の訴えを纏めればこうである。 最初にそれが現れたのは三日前。骸骨の姿をしたそれは錆びてボロボロの刀を振り回して少年の村の人々を次々と襲った。そのボロボロの凶器が幸いして死人こそ出てはいないが、負傷した人々の具合は決して良くないし、更には昨晩もアヤカシが現れて再び人々を襲ったという。 アヤカシの数も増え、前の晩には一体だったものが次の晩は二体。昨晩は四体。この調子で今夜も倍なんて事になれば、‥‥時が経つにつれてアヤカシの数は幾つになるだろう。 「昨夜は二回目だったから皆警戒してて酷い怪我人は出なかったけど‥‥っ、このままじゃいつまで経ってもみんな不安なまんまだ! 頼むよ姉ちゃん! 俺の村を助けてくれ!」 「確かに急を要するようね」 伊織はさらさらと依頼書に内容を書き込むと、手を止めて少年の瞳を見つめる。 「大丈夫。開拓者なら必ず君の村を助けてくれるわ」 「お願いしますっ!」 少年は大きく頭を下げる。 こうして新たな依頼がギルドに貼り出された。 |
■参加者一覧
一之瀬・大河(ia0115)
21歳・男・志
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
小野 灯(ia5284)
15歳・女・陰
深凪 悠里(ia5376)
19歳・男・シ
アイリス(ia9076)
12歳・女・弓
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
卯月 黒兎(ia9474)
13歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 「要請がアヤカシ発生後になるのは仕方のない事だが‥‥被害者の発生を防げないのが遣り切れんな」 一本気な内面を醸し出す凛々しい面立ちに今は憂いを漂わせキース・グレイン(ia1248)が呟くと、深凪 悠里(ia5376)は視線を村の方向へと走らせた。 「現時点で大きな被害は無いと言っても、いずれ犠牲者が出るかもしれない。ならば今の内に片を付けてしまおう」 淡々とした口調は、しかしこの依頼を受けるに当たって関るだろう全てのものへの痛みが込められている事に気付いたのかどうか、これまで微かにも表情を動かすことの無かった一之瀬・大河(ia0115)がギルド職員である伊織を振り返る。 「馬を借りる事は出来るか?」 「ええ」 一日五〇〇文の賃貸料と保証金三〇〇〇文が用意出来れば問題なく、また保証金に関しては馬を無事に返却出来れば戻って来る。 「では頼む。‥‥何頭必要だ」 大河は共にアヤカシとの戦に臨む仲間を見遣り問うた。自分とキース、皇 りょう(ia1673)、悠里、霧咲 水奏(ia9145)、卯月 黒兎(ia9474)が互いに相乗りするのは難しそうだが、小野 灯(ia5284)とアイリス(ia9076)の二人が他の誰かの馬に乗る事は出来るだろう。 だが。 「あかりは、俺と歩くかい‥‥?」 「いいの?」 黒兎が灯に声を掛ける。金銭的な理由で馬を借りるのは些か厳しいからと二人が言えば、りょうも。 「夜に間に合わないとなれば是非もないが、この時間から出られるならば問題無さそうだ」 それに、と声には出さずとも紡がれる思いは彼らを二人だけで歩かせるのは心配だという気遣い。何せ二人とも、‥‥何と言うか。 「ならば拙者は今回の依頼主である少年を乗せる事に致しまする」 道案内出来る者が同行した方が迷わずに済むと言うのが、水奏がそう申し出た理由。 「なら俺はアイリスを乗せよう」 「おねがいしま〜す」 キースが言い、アイリスが応じる。 「では馬を四頭、急ぎで頼む」 「判ったわ」 大河に頼まれた伊織は即手配に動いた。準備を待つ間、依頼主となる少年に村までの道程を聞いた水奏が地図を描いて徒歩組みに渡し、此方が先に出発する。 勝負は夜。 今夜で終わらせよう、――それが開拓者達の共通の決意だ。 ● 徒歩で行く三人は当然と言うべきか只管に目的地を目差して歩き続ける。少年の説明を受けて水奏が描いた地図の通り、進路に間違いが無いかを時折確認する他には口数も少なく、気付けば灯の息が上がっていた。 黒兎は苦い表情を見せると、そんな少女に声を掛けた。 「疲れて、ない‥‥? 少し休憩しないか」 急がなければならないのは承知しているが此処で疲労を嵩ませればアヤカシとの戦いに影響しかねない。だが、聞かれた灯は激しく左右に首を振る。 「ううん、あたしがんばるの」 言い切る瞳には強い意思。だから黒兎は一瞬躊躇った後に自分の手を見つめ、彼女に差し出す。 「なら、‥‥手を繋ごうか?」 そんな事で少女の体力が増す事も歩幅が広がる事も無いだろうけれど、一緒に歩いているという実感を得られるのは精神的に大きな励ましとなるはず。だから灯も笑顔で大きく頷いたのだ。 「ありがとう、くろと」 「‥‥いや‥‥」 しっかりと握られる二人の手。 思わず顔を逸らした黒兎の頬がほんのりと赤くなった事に、後方を歩いていたりょうは気付いた。 (「いやはや‥‥」) まったく可愛い二人だなと、言えば黒兎から怒鳴られそうな事を胸中にこっそりと呟くりょうだった。 一方で馬を駆り早々に村に到着した面々は夜の戦闘に向けての下準備に取り掛かっていた。 「よければ手伝って欲しいですよ。アイリスたちだけだと、手が足りないですよ」 「さぁ皆の村だ、力を合わせて守ろう」 アイリスが先頭に立って村の人々に声を掛ける傍ら、人見知りをするのか隅の方で小さくなっている子供に声を掛けたのはキース。件の神社から村へ続く道の各所に土嚢を運び入れて道を塞いだり、竹を組み合わせるなど簡易的なものではあるが一時的に柵を設けるといった作業が進められていた。 「後はアヤカシが侵入した場合にすぐに拙者らが気付けるよう周囲の木々に鳴子を結びつけておくと致そう。また、夜間の光源確保のためにも篝火の準備を」 水奏の指示を受けた村の若い衆は鬼気迫る勢いで働いた。自分達ではアヤカシと戦う事が出来ない、だからどんな防御も無駄だという自責と諦めが人々に怒りを先行させるが、こうして開拓者が手を差し伸べることで一般の人々には希望が溢れ、希望は活力となる。悠里に声を掛けられた女もとても協力的に彼らの質問に答えてくれた。 「そうか‥‥昼間はほとんどの人々が村を離れ外へ仕事に行くのか」 「ええ、ご覧の通り、ここらには田畑があるわけでもありませんからね‥‥皆、町まで下りてそれぞれの仕事をするんですよ」 そのため昼間の村に残るのは働けなくなった老人がほとんどになると聞き、それが、アヤカシが夜にしか現れない理由だろうと開拓者達は察した。老いた血肉よりも若い血肉の方が連中にとっては美味なのだろう。その証拠のように襲われて負傷したのもほとんどが若者である。 「アヤカシはこの道を通って村に侵入したのか」 「ええ、そう。骨だけの姿で‥‥あぁ思い出しても身の毛がよだつ‥‥っ」 女は青い顔で一昨日の夜の光景を思い出しながら語り、話を促す悠里は静かにそれを聞きつつも「しかし」と小首を傾げた。彼の疑問は大河とも共通する。骨だけの姿で錆びてぼろぼろの刀を振り回すアヤカシとは果たして自然発生したものだろうか。魔の森以外の場所でもアヤカシが発生する事自体は決して珍しくないが、アヤカシが人骨という形を得るには発生現場に在った骸に憑くか、または何らかのきっかけが必要のように思われる。 (「となれば‥‥放置されていた骸に取り憑いたと考えた方が妥当か‥‥?」) 大河は周囲を見渡し村の様子を探る。 「この近くでは過去に戦でもあったのか」 「? いいえ、この辺りは戦火に見舞われた事はありませんよ」 「‥‥そうか」 低い声で応じた彼に村の女は不思議そうな顔をしたが、悠里の丁寧な謝辞に表情を綻ばせると自分も皆を手伝ってくると告げてその場を立ち去った。同時に周囲に落ちた沈黙の帳は二人の視線を神社の方へ引き寄せた。 「‥‥行ってみようか」 「ああ」 そうして二人、途中で土嚢を積み上げる仲間と擦れ違いながら神社へ向かう。 「聞いた話で判断するならば村に出没したアヤカシに高い知能があるとは思えないのだが、道は真っ直ぐだ‥‥村と神社の延長線上に何かある‥‥か?」 「どうかな」 静かな大河の問い掛けに悠里はやはり起伏のない調子で応じる。 「延長線上と言うなら俺達が来た神楽の都もそうだろう」 「‥‥確かに」 それにアヤカシは人を食らうもの。たまたま人のいる村が延長線上にあっただけの事だと考えた方が自然だ。 結論から言えば神社の周りに不審な点は無かった。アヤカシが潜んでいる気配も皆無。ただしアヤカシが踏み荒らしたのかどうか、神社の後方に鬱蒼と生い茂る森の木々の葉が落ちた地面は踏み荒らされて間もない状態だった。 ● 「ありがとうなのですよ〜」 村の防衛準備を終えて村の人々に向けられたアイリスの明朗な声が響き渡る。その頃には徒歩で此処に向かっていたりょう、灯、黒兎も到着し、それぞれの情報交換も済んでいた。 「あとはあたしたちががんばるよ!」 「念のため一つの家に固まって避難していてくれ。それが無理なら、せめて近くの家数件に集まってもらえればと思う。無論、連中を村に入れさせる事は無いよう努めるがな」 灯、キースから掛けられた言葉を素直に受け入れ、人々は「よろしくお願いします」「頼んだぞ!」という声を上げながら、開拓者達に言われた通り比較的頑丈と思われ近距離間に位置する数件の家屋に分かれて避難する。 「‥‥さて」 呟くりょうの視線は神社へ。 「聖なる社より漏れ聴こえる骸の嘆き‥‥天の怒りなのか、それとも精霊が辱められているのか‥‥」 珠刀の柄に手を掛けた彼女の足先は進む。 「何れにせよ速やかに鎮めねばなるまい」 「んと‥‥、ひとにけが、させる‥‥わるいこは、にがさない‥‥の」 灯が後に続き、キース、大河と赴く先へ、それまで足元を見つめたままだった黒兎が顔を上げた。真っ直ぐな視線。 「‥‥無念抱き朽ち果てども、アヤカシとなりて尚業を重ね行く‥‥」 水奏はぽつりと零し。 「何とも哀しいものに御座いまするな」 トンと黒兎の背に手の平を重ねて送り出した。 「此処は拙者らが必ずや守り抜くゆえ卯月殿は卯月殿の役目を果たされるが良かろう」 「頑張るですよ〜」 「‥‥ああ」 そうして仲間の後に続く黒兎を見送った悠里。彼は不意にその視線を周囲に流した。 ――‥‥気配が、散る‥‥―― 青空がいつしか淡い色の空に変わり、ゆっくりと世界を翳らせて行く。ゴオオォッ‥‥と音を立て虚空に赤い軌跡を残すのはりょうが掲げた松明の炎。 「‥‥来たか」 それまで瞳を閉じ、周囲の気配の変化に気を研ぎ澄ませていた大河は腰元の柄に手を掛ける。 「ああ、来たな」 「ここからさき‥‥には、いかせない‥‥」 符を指先に挟み凛と言い放つ灯を見つめ、黒兎は拳を握る。力は彼女の方が上かもしれない。開拓者としての経験も彼女の方がずっと豊富だ。 けれど今彼女と共に戦うのが自分なら。 「あかりは、俺が守ってやるから」 少女が少年を見上げる。とても大きな目で。 「‥‥だから、出来れば、支援してもらえると、嬉しい‥‥」 「うん」 勿論だよと微笑む少女は「仲間」として当然の支援を約束したに過ぎないだろう。だが、それで構わないのだ。灯は今回の面々の中で唯一の回復術の使い手だ。仲間として守るべき対象である事も事実。ただ、自分側にはそれ以上に「大切な人」だから傷つけさせない、と。そういう強い思いが加わるだけのこと。 (「俺は戦う」) 大切な人を守るために。 カシャリ、カシャリ、骨が歩く。 がしゃり、がしゃり、群を成す。 「おぉっと‥‥」 りょうが思わず笑ったのはその数が二〇を超えていたからだ。森の向こうから続々と現れる骸骨の群。手に錆びた刀を握り締め、草木を痛めつけながらの侵攻。 「他に望む者がいなければ、‥‥先陣を切らせて頂こう!」 りょうは駆けた。左手に松明を握り締めたまま右手で抜刀。その軌跡に最初の一体を捕らえて振り抜いた 『キシャアアアアァァァアア!!』 激しい物音を立てて斃れた一体目、同時に振り抜いた手を振り子代わりに、右足を軸に回転したりょうは勢いそのままに次を狙う! 「こんな姿になっても、刀を握り続けるか‥‥」 りょうの刀によって二体目が斃れた直後、大河は彼女のがら空きになった背後に走り込み下から上へ刀を奔らせた。骸の右腕が肩から斬り落とされて地面に落ちる。 「はあっ!!」 攻撃手段の無くなった骸に更に一太刀。 黒兎。 「おのあかり‥‥まいるっ!」 両腕を広げ左右に翳した手元に現れたるは白い炎を纏う白虎だ。前足に煌く鋭い爪は標的目掛けて空を駆け、骸を裂く。 「そうか、憑依ではなくそのものが瘴気か」 倒されて行く骸が、手にした刀ごと漆黒の霧を放ち輪郭を狭めている事を視認したキースは、ならばと飛び込んだ敵の懐で利き足を大きく踏み込んだ。これが骸を象った瘴気であれば誰に詫びる必要もない。 「往生しろ!!」 直後に突き放たれる拳はアヤカシの頭を打ち抜いた。 消え行く姿。 それでも襲い掛かろうとするアヤカシの塊。 「させぬ!」 放たれる矢は水奏とアイリスの二連射。アヤカシを村には近付けさせないのが彼らの役目、だがそれは同時にアヤカシの手の及ばぬ位置から仲間の援護も出来るという強みだ。 撓る理穴弓。 大部分のアヤカシが前線の彼らの手によって消滅させられていく中で、やはり彼らの隙を突いて抜けてくる骸もあった。 だがそれも理穴弓と悠里の飛苦無が首を落とす。 刀を持った腕を落とす。 「おてつだい‥‥してね?」 灯の周囲に螺旋を描いた紫と紅色の蝶が骸に放たれ纏わり突く。動きを阻害され逃げる術を失くしたアヤカシを黒兎の刀が。大河の刃が斬り崩す。 「数は多くとも所詮は烏合の衆! ――我らに武神の加護やあらん!」 りょうの活に仲間達の士気が上がる。 「ハァアアアア!!」 黒兎の精神統一、武器に宿る炎。 一体一体を確実に仕留めていこうという慎重さと、二手に分かれたが故の内外からの小気味良い連続攻撃が二十体のアヤカシを殲滅するまでにそう長い時間は必要なかった。 長いようで短かったアヤカシ退治の末、静寂を取り戻した夜の大地で最初にそれに気付いたのは悠里だった。 「これは‥‥」 誰が斬り落とした腕が所持していたのか、それとも斬り落とされる以前に朽ち果てたのか。骸の一体が開拓者達の眼前に遺していったものは錆びて朽ちたと言っても過言ではないような状態の、一振りの刀であった――。 ● アイリスの先導で村を一回りして、もう一体のアヤカシも残っていないことは勿論、村人の中にも負傷者がいなかった事を確認した開拓者達は、水奏の指示を受けながら防衛策として設けた土嚢や簡易的な柵などを外して元に戻し、人々から最大限の感謝を以って見送られて帰路に着いた。 だが、誰からともなしに彼らの進路は都から外れ、あの神社の奥、アヤカシたちが踏み荒らしたのが明らかな森の中の道を進んでいた。しばらくして森を抜け、彼らが辿り着いたのは人が立ち入って久しいと思われる草原‥‥と言うには余りに荒れ果てた土地だった。 八人は仲間を見失わないよう注意しつつ辺りを探り、‥‥そうして見つけた一体の骸。 「‥‥この骸骨、先の戦で亡くなった人、か?」 悠里が淡々と呟く。‥‥哀れだった。 「刀を掲げた粗忽物だが信心は深いつもりだ」 弔いの代わりに精霊への祈りを捧げながら剣舞をと告げるりょうに異を唱える者は無く、誰もが祈るのはこの骸の主が安らかに眠れること。 「あれ‥‥?」 胸が締め付けられるような感覚を覚えて俯いた灯は、偶然、足元に転がる小さな鈴を見つけた。それを拾い上げる少女に気付いた黒兎がそれを覗き込む。 「‥‥この人の遺品、かな‥‥」 「その可能性は高そうだ」 キースが言う。 「この鈴と、アヤカシが残した刀‥‥念のためにギルドに届けておこう」 「‥‥ああ」 頷く大河は仲間の剣舞を見遣り、空を見遣る。 あの村を襲ったアヤカシがこの骸を見て形を真似た瘴気であるとして、この地にあれ程の瘴気を生じさせた原因は何であろうか。 それは、判らずとも。 願わくは二度とあの村の人々がアヤカシの恐怖に苛まれることのないようにと、彼は変わらぬ表情の下で思う。瞼を閉じ、ただ静かに祈った――‥‥。 |