母達に愛の手を
マスター名:月原みなみ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/30 23:48



■オープニング本文

 その母親達は疲れていた。
 一人は高取まゆら。生後三カ月の男の子「竹彦」の母親で、その子が一人目という事もあり、一瞬たりとも目が離せないほど緊張し続けて、気付けば三カ月。振り返る記憶もないほど心身ともに疲弊している。
 一人は木古内綾子。生後七か月の女の子「結」の母親で、上に三人の男の子がいる。待望の女の子の誕生に喜んだのも束の間、産後の体で上の子三人の世話もし続けたためか、近頃は体がしんどくて仕方がないと言う。息子たちの名前は上から「太郎」「次郎」「三郎」という。
 一人は真鍋陽子。生後十か月の女の子「はな」の母親で、彼女もその子が一人目。ようやく育児を楽しめるようになって来たはずだったのだが、いわゆる夜泣きというのが始まってしまい眠れぬ日々が続いている。
 そして最後の一人は中井祥子。一歳三か月の男の子「正樹」の母親で、その子は一人目なのだが、今現在お腹に二人目の子供がいる。新しい命を授かったのだ。家族皆が新しい家族が出来る事を喜んだが、ここ数日の内に状況が変わった。悪阻が始まってしまったのだ。しかしどんなに体調が悪くても一歳三か月の子供の面倒を見ないわけにはいかない。結果、体力も精神力も消耗する一方である。

 そんな四人の母親の共通点は産婆が同じ女性だった事であり、数年前には開拓者ギルドの受付担当・高村伊織が世話になった人物でもある。
 ゆえに産婆は伊織に相談を持ちかけた。
 曰く「困っている母親達に一泊二日の温泉旅行をさせてあげたい。その間、子供達の面倒を見てくれる開拓者を募集したいんだ」と。
 もちろん産婆――松村 妙(まつむら たえ)も子供達の面倒を見る。
 寝泊まりするのは彼女の家。
 おむつや乳の手配はすべて彼女が請け負うから、その他の様々な事柄を手伝ってほしいのだと。
「判る判る、いくら夫が手伝ってくれると言っても、夫には仕事を頑張って貰わなきゃいけないし、両親だっていつも手伝ってくれるわけじゃないものね。どんなに子供が可愛くたって休みを頂戴って思うわよ」
 そういう伊織も双子を育てた二児の母親。
 この機会に温泉旅行に行くことで、母親達も改めて子供への愛情を自覚し明日からの子育てに対する活力も湧こうというものだ。
「判ったわ、依頼を出しましょう。きっと手伝ってくれる子達がいるわ」

 ――こうして、新たな依頼書が開拓者ギルドに張り出される。
 三カ月の竹彦。
 七カ月の結と、兄の太郎、次郎、三郎。
 十カ月のはな。
 一歳三か月の正樹。
 七人の子供の世話をお願いしたい、と。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
鳳・陽媛(ia0920
18歳・女・吟
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
紅咬 幽矢(ia9197
21歳・男・弓
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
ファリルローゼ(ib0401
19歳・女・騎
ヘイズ(ib6536
20歳・男・陰
霧咲 ネム(ib7870
18歳・女・弓


■リプレイ本文


 四人の母親達に一泊二日の温泉旅行を――そのために開拓者達が集まったその日、彼らの前には件の母親達がいた。
 開拓者達は、出来れば出発前に彼女達に挨拶をし、子供達の世話をするにあたって気を付ける事、知っておくべき情報を得られればと考えていたのだが、開拓者が聞かせてほしいと頼むまでも無く彼女達は我先にと訴えて来た。
「うちの子は卵を食べると全身に湿疹が出て痒くなるので絶対に食べさせないで下さいね」
「うちの子はもうお腹いっぱいなのにそれでもおっぱいを飲み過ぎて吐いちゃう事があるんです、お腹を触ってパンパンになっていたら飲むのを止めさせてあげて下さい」
 正樹と竹彦の母親が固い表情で念を押してくる一方、既に三人の男の子を育てた経験持ちである結の母親は「妙さんにお願いしておけば大丈夫よぅ!」と、しばらく振りに育児から解放される事を純粋に楽しんでいる笑顔。
 一方、昨夜も娘の夜泣きでほとんど寝ていないらしいはなの母親は、目の下の濃い隈を、重苦しい表情で更に濃くしながら何度も「ごめんね、ごめんね」と腕の中の娘に謝っている。
「ダメなお母さんでごめんね。ちゃんと面倒見てあげられなくてごめんね……」
 今にも泣き出しそうな彼女にそっと近付き、震える肩を叩いたのはファリルローゼ(ib0401)だ。
「子供を抱き締められる母親がダメなんて事は絶対にない」
「明日からまた育児を頑張れるように、ほんの少しお休みして体力を取り戻すだけですよ」
 フェンリエッタ(ib0018)も傍に寄り、腕の中の赤ん坊を見つめて微笑む。
「はなちゃんのお世話は私がお引き受けします。お母様は、はなちゃんの事を何て呼んでらっしゃるのかしら。好きな歌や、ご飯や、お風呂の時間……教えて下さいますか?」
「はい……っ、はい、どうか、お願いします……っ」
 娘をぎゅっと抱きしめた彼女は、フェンリエッタが教えて欲しいと頼んだ事を詳しく話した。その間にファリルローゼは正樹の母へ。
 竹彦の母親には紅咬 幽矢(ia9197)。
 穂邑(iz0002)を誘ったヘイズ(ib6536)が鳳・陽媛(ia0920)、ネム(ib7870)、そして柚乃(ia0638)と一緒に結と三兄弟の母親に挨拶し、それぞれが担当する子供の必要な情報を得ていく中、全員を順番に回って食べ物に関する情報を手帳に書き綴っていくのは食事担当の礼野 真夢紀(ia1144)だ。
 一泊二日、食事は今日の昼から明日の昼まで計四回。献立が決まれば次は食材の買い出しである。
「まぁゆっくり休んで来なって。こんだけ頭数がいるんだしちょっとの間くらいは代行出来るって」
 ヘイズが言えば、お母さんの匂いが付いたおくるみを受け取った柚乃もこくっと頷く。
 そうして不安を残しながらも妙に背中を押されるようにして温泉地へ出発した母親達を見送りながら、少女は一言。
「柚乃も温泉行きたいです……」
 ささやかな本音を零してみた。



 買い物には男手も必要だからと、ヘイズ、そして穂邑が真夢紀を手伝って買い出しから戻って来ると、家では大変な事になっていた。
 結、はな、正樹は何の問題もない。それぞれ柚乃、フェンリエッタ、ファリルローゼが、妙に教えられながら世話をする。完璧とは言わないまでも呑み込みが早く、何より彼女達に抱っこされる事で赤ん坊達が泣き出さないのだ。
 もう一人の赤ん坊、竹彦の場合はとにかく泣いた。三カ月という、そろそろ周りの様子や自分に関わる人間を認識し始めるこの頃は『男性』に抱っこされたというだけで泣いてしまう場合が多く、竹彦もそうだった。
 加えて授乳の時間も定まらず、妙に頼まれてやって来た乳母は竹彦が乳を欲しがると幽矢の前でも全く気にせず乳房を露わにするものだから、その度に慌てて顔を背けたりその場を立ち去らなければならないという、年頃の少年にはなかなかきつい試練となったようだ。
 そして大変な事になっていた最大の原因は、七歳、五歳、三歳の太郎、二郎、三郎兄弟。彼らはとにかくやんちゃだった。
 とにかく走り回っていた。
「ねぇねぇ〜、鬼ごっこするの〜? それとも〜、かくれんぼ〜?」
 ネムが一緒に遊ぼうと声を掛けるも聞く気がない。
「あんまり騒ぐと怪我をしちゃいますよっ。あ、そうだ、絵本を読みましょうか?」
「絵本なんかやだ! 決闘ごっこがいい!」
「けっとー!」
 陽媛が提案しても即拒否。
「ご本読むなら〜、お姫様の出て来る〜、童話が良いな〜」
「やだやだやだ!」
「かくごー!」
 庭で拾ったらしい長めの樹の枝を振り回してネムに飛び掛かる二郎。
「きゃぁっ」
 ネムちゃん危ないと陽媛が慌てて声を上げると同時、間に割り込んだのはヘイズ。振り下ろされようとしていた枝を掌で受け止めて軽くウインク。
「女の子相手に危ないぜ?」
「ヘイズさんカッコイイのです!」
「はぁ……」
 穂邑の絶賛、安堵の息を漏らす陽媛。
 ヘイズは彼女達に笑い掛けると、足元に転がる枝をひょいと手に取り、兄弟に。
「決闘ごっこ、兄ちゃんも混ぜて貰ってもいいかい?」
「うん!」
「けっとーけっとー!!」
 早速大暴れの三兄弟。
「せっかくだからお世話を交代して、幽矢君にも三人の遊び相手になって貰おうかな♪」
 色んな意味で心が折れそうになっていた幽矢は陽媛の提案で辛うじて踏み止まり、穂邑は真夢紀を手伝いに台所へ向かう。
「あ、そうだ。ネムちゃんは……、ネムちゃん?」
 声を掛けようとして陽媛は目を瞬かせた。
 先ほど二郎に木の枝で斬られようとしていたネムは、その時と寸分変わらぬ恰好で眠ってしまっていたのだ。
 やんちゃな三兄弟と遊ぶよりも、眠気が勝ってしまったらしい。
「さすがですね、ネムちゃん♪」
 陽媛が笑うと、竹彦の表情も心なしか和んで見えた。



 いつもと違う環境、大好きな母親のいない夜。
 真夢紀が作った美味しい食事と、ヘイズ、幽矢がとことんまで遊びに付き合った甲斐あって一郎、二郎、三郎は超熟睡。その兄達が一緒の影響もあってか結も寝つきが良く、柚乃と一緒に母親の匂いがついたおくるみを掛けられて眠り、そのすぐ傍ではネムも熟睡している。
 その一方、抱っこしていると眠るのだが、布団に下ろすと起きて泣いてしまうのが竹彦だ。
 布団が冷たいのか、ひと肌が恋しいのか、抱っこから降ろす事で態勢が変わる所為か……はたまたその全部か。
「ま、また失敗……」
 母親用語で言うところの『着地』が成功しないため、担当の幽矢は竹彦をずっと抱っこし続けている。
「うう……へこんできた……やっぱりボクじゃダメなのかな……」
「そんな事はないぞ」
 落ち込む幽矢にそう返すのは、母親がいないためか、浅くしか眠れない正樹に寄り添うようにして抱き締めていたファリルローゼだ。
「抱っこで眠ってくれるのは、その子が幽矢の腕や、匂いに心地良さを覚えてくれているからだ。だからこそ離れたくないのだろう」
「そ、そうなのかな……」
「赤ちゃんは正直ですもの、きっとそう」
 フェンリエッタも笑顔で頷く。
 はなに添い寝し、彼女を起こさないよう小声で。
「そう、だと……いいな」
「きっと〜、そうなの〜」
「!?」
 唐突に会話に加わるネムの声に、誰もが彼女が起きたのかと思ったのだが、実際には寝言だったらしく、一瞬の沈黙の後で三人は思わず笑ってしまった。空気が和らいだお陰か竹彦もようやく泣き止んでくれた。
 そうして再び寝入った頃、今度は襖がそっと開けられた。
 妙を手伝っておむつの洗濯をしていた陽媛と真夢紀が、休む為に戻って来たのである。
「まだ全員は眠れてないのですね」
 真夢紀は一人一人を見遣って言い、布団を蹴っ飛ばしている兄弟やネムに掛け直して回り、陽媛は幽矢に近付くと、その腕の中の赤ん坊の寝顔を見つめて微笑む。
「幽矢君、立派に子守されてますね。将来いいお父さんになりますよ♪」
「えっ、え……」
「ああ確かに」
「そ、そんな事は……!」
 ファリルローゼにも同意されて真っ赤になった幽矢が動揺して声を上げたと同時、目覚めた竹彦が「ふぎゃあああっ!」と泣き出し、弾かれるように、はなも泣き出す。
「ご、ごめ……!」
「わっ、わ……怖くないですよ〜、ね?」
「大丈夫よ、心配ないわ」
 幽矢、陽媛、フェンリエッタとそれぞれに赤子を抱き上げるも二人とも泣き止む事はなく、浅くしか眠れていない正樹もとうとう目を覚まして泣き出してしまった。
 このままでは結と兄達も起きてしまう、そう思ったフェンリエッタはファリルローゼと相談。
 少し外を散歩して来ようという話になる。
「ボクのせいで迷惑掛けてごめん……っ」
「迷惑なんて事はありませんから、気に病まないで下さいね?」
「子育ては大変で当たり前だ」
 二人にそう慰められた幽矢は、竹彦をあやしてくれている陽媛にも申し訳なさそうな顔で謝っているが、彼女の子守歌に竹彦の泣き声は消えつつある。
「あの二人、ああして見ると可愛らしくてお似合いね」
「……お姉様、それは幽矢君には言わない方がいいわ」
「何故?」
 天然気味な姉の応えに、フェンリエッタは「どうしてかしらね」と意味深に微笑むのだった。


 子供達が眠る部屋から泣き声の大合唱が聞こえて来るも、すぐに静まっていくのを居間で聞いていたヘイズは「どうやら大丈夫そうだ」と一緒に卓を囲んでいた穂邑と妙に笑い掛けた。
 彼らも先ほどまでおむつの洗濯を手伝っており、いまようやく一息付けたところだ。陽媛と真夢紀の分の湯呑も用意してあったのだが、二人は子供達の様子を確認したいからと先に部屋に戻ってしまったため、三人だけのお茶の時間。
 今日一日、自分達がして来たことを振り返って、ヘイズは言う。
「母親ってのは凄いな。俺達がこの人数でやって来たことを、母親は毎日一人でこなしているんだから」
 そうして穂邑を見遣り。
「どうだった? ママの感想は、さ?」
「もーーー大変でした! でも、楽しかったですっ。赤ちゃん皆可愛かったですし、不思議ですね、赤ちゃんって傍にいるだけで幸せな気持ちになれるのです!」
「そう言ってもらえると誘った甲斐があったよ」
 ヘイズが嬉しそうに笑い返すと、妙は何を思ったのかお茶をずずずっと啜って一言。
「だが自分の子なら人の子の百万倍可愛いぞ?」
「え……」
 ぼんっ! と真っ赤になる穂邑に、ヘイズは声を上げて笑うのだった。




 月が優しく微笑む夜は 夢の扉を開いてごらん
 森の奥へとお出でなさい 月の庭へとお出でなさい


 夜風にあたりながら、ゆっくりと歩くファリルローゼの背中にはようやく眠れた様子の正樹がいて。
 はなを腕に抱きながらフェンリエッタが奏でる、子守歌。


 私は此処にいるから 大丈夫
 傍にいるから 大丈夫

 みんな貴方を愛してる
 だから今はお休みなさい
 明日の扉を開くまで


 すぐ傍から聞こえて来る、自分とは違う命の静かな寝息に、姉妹の表情は自然と穏やかになり、肌を通して伝わって来る鼓動はファリルローゼに子供の頃を思い出させる。
「フェンがお母様のお腹に宿った時、私はすごく甘えん坊になったらしいの。そのくせお母様のお腹に毎日のように耳と手を当てて、まるであなたとお話ししているみたいだったそうよ。フェンが生まれる前から、フェンの事が好きで仕方なかったのね」
「お姉様ったら」
 ファリルローゼの思い出話に、嬉しいような、くすぐったいような感情から笑みを零したフェンリエッタ。
 彼女が歌った子守歌は、その頃に母のお腹の内と外で聞いた歌だった。
 その頃の思いと、いま腕の中にいる小さな命と、面影を重ねてみれば自然と会話が途切れてしまう。
 二人を起こしてはならないという気持ちも勿論あったけれど、それだけではなく、……貴族の家に生まれ、騎士として生きると決めた者の――女の、葛藤。
「……いつの間にか『少女』の時間は終わってしまっていたのね……」
 詳しくは語らずともファリルローゼのその言葉にはたくさんの思いが詰め込まれており、フェンリエッタの気持ちを汲んだものでもあり、そしてただ夜空を仰ぐだけを応えにしたフェンリエッタの姿もまた姉の想いを受け止めての事。
 授かる事、生まれる事、育み、育まれる事。
 愛されるため、愛するために一生懸命に生きる命を抱き締めて、姉妹はゆっくりと歩き出す。
 まだ朝日が昇るには早く辺りは闇に覆われているけれど、空に瞬く微かな灯を頼りに皆が待つ場所へ。


 私は此処にいるから大丈夫
 傍にいるから 大丈夫

 みんな貴方を愛している
 だから今はお休みなさい

 明日の扉を 開くまで――……。



 翌朝、昼を目前にしても欠伸が止まらない者も多い中、結や太郎たち兄弟と一緒にしっかり朝まで寝ていた柚乃は皆に向かってこう言った。
「あのね、母の日は少し先だけど」
 こそこそっと内緒話。
 話を聞いた一同は賛同の笑顔。
「それなら〜、ネムも〜、手伝えるな〜」
「はい♪」
 かくして全員が準備に取り掛かり――。



 温泉旅行から帰って来た母達を迎えたのは、太郎、二郎、三郎が中心になって書いた「お母さん いつも ありがとう」の垂れ幕だ。
 柚乃の提案で皆で協力して作ったのはこれと、子供達の手形、足形を押した手紙。
 奇しくも集まった子供達の月齢はバラバラに段階を踏んでおり、月齢順に押された手形足形は子供達の成長を伝えるに相応しい形だ。
「あはっはっ、よく出来てるじゃないか! 凄いよ太郎、二郎、三郎。お姉さん達に教えて貰ったのかい?」
「うん!」
 三兄弟の母親は兄達の頭を撫で、結を抱っこしている柚乃に歩み寄った。
「ありがとう柚乃ちゃん。結、楽しかったって言ってるよ」
「……柚乃も、楽しかったの。ありがとう」
 母親に抱っこされた結は、柚乃の言葉に、にっこりと微笑む。
 同じように正樹と、彼の母親も。
 竹彦と彼の母親もだんだん大きくなっていく手形に、これからこんなふうに大きくなっていくのねと息子の未来を想像して笑顔を見せ、そして、はなの母親も。
「はなの手形……」
 真っ先にフェンリエッタから娘を渡された彼女は、娘をぎゅっと抱きしめた後で手紙を見つめながら涙ぐんでいた。
 あんなに小さかった手足が、いまはこんなに大きくなって。
 あと数か月経てばもっと大きくなる。
「今日は、顔色が良さそうで安心しました」
「ええ……おかげさまで、久し振りに朝まで眠る事が出来て……二年ぶりくらいに飲んだお酒のせいもあったでしょうけど」
 少し恥ずかしそうに言う母親に、フェンリエッタは微笑む。
「今日からまた大変でしょうけど応援しています」
「ありがとう」
 母親が笑うと、はなも笑う。
 それはとても幸せな姿。


「皆さん、お茶の用意が出来ましたよ」
 真夢紀の声が上がった。
 幸い夕飯の支度の時間まではまだ余裕があるし、皆でお茶をしながら一泊二日の子供達の様子を語り合おう、と。
 愛する我が子の為に奮闘する母達に、今しばらくの穏やかな一時を。