|
■オープニング本文 ● 新年を迎えた開拓者長屋の一角、藤子さんの花邸と呼ばれる家の縁側では、此処に居候している穂邑(iz0002)が頭を抱えていた。 「んー……んー……どうしましょう」 右手には筆を持ち、左手に持っている真っ白な半紙は、時に太陽に透かしてみたり、時には冬でも色鮮やかな花が咲く庭に向けてみたり。 それで半紙に文字が浮かんで来るはずもないのだが、いまだ書初めに相応しい文字――今年の抱負を書き初めにしたいと拘っているせいで、何を書くかが決められずにいる少女は困り切った顔で空を仰ぐ。 「んんんんーー……どうしましょうっ」 穂邑は完全に煮詰まっていた。 そんな少女の様子を微笑ましく見ていた家主の十和田藤子は、ふと思いついて声を掛ける。 「穂邑ちゃん、気分転換に私のお願いを一つ聞いて貰えないかしら」 「! はいっ、喜んで!」 少女は満面の笑顔で立ち上がった。 穂邑は人のお願いが大好きだ。 それが好きな相手なら特にで、その人の役に立てる事が純粋に嬉しいから。 「何でも言って下さいっ、頑張ります!」 「ふふっ、そんなに頑張らなくても大丈夫なのよ」 藤子は言い、ゆっくりと「お願い」の説明を始めた。 ● 邪気を祓い万病を除くという呪術的な意味を擁すると同時に、年末年始の御馳走に疲れた胃を休めると言う意味でも一月七日に食べる七草粥には、芹(せり)、薺(なずな)、御形(ごぎょう)、繁縷(はこべら)、仏の座(ほとけのざ)、菘(すずな)、蘿蔔(すずしろ)という春の七種の野菜を刻んで入れる。 藤子は、穂邑にこれらを集めて来てほしいと頼んだのだ。 「穂邑ちゃんは真面目ですから、書初めに書く言葉は年の初めの覚悟だと思ってつい考え過ぎちゃうのね。そんなに拘らなくても良いのに」 「穂邑ちゃんらしいわぁ」 藤子から話を聞いたギルド職員の高村伊織は、そう言ってくすくすと笑う。 「で、藤子さんは開拓者に何を頼みたいのかしら」 「ええ、実はね」 言いながら、藤子は七つの小さな包みを取り出した。布で包み、紐で結んであるそれには七草粥に使う七種が一つずつ入っていると言う。 「蘿蔔は私が持っていますから、その他の六つを開拓者の皆さんに一つずつお持ち頂きたいの。でね、穂邑ちゃんに会ったら、なぞなぞを出して欲しいのよ。穂邑ちゃんが大切な事を思い出せる、なぞなぞを」 そして最後、藤子は蘿蔔の包みと交換で「書初めの文字は決まった?」と聞く。そこで少女が答えられれば大成功である。 「大切な事を思い出せるなぞなぞって言うと……」 「例えば『辛い時に傍にいてくれるのは?』『友達』とか、そういった事ね」 「ふむふむ」 藤子の例えも依頼書に記入して、伊織。 「人として大切な事。開拓者として大切な事。穂邑ちゃんとして、大切な事。……考えられるなぞなぞは、いろいろですね」 「ええ」 二人はくすくすと笑い合い、今回の依頼書を完成させた。 「出すなぞなぞや、渡す七草、その場所なんかは開拓者にお任せでいいんですよね」 「ええ。一人目の方が、二人目の方の居る場所を伝える。三人目の方の居場所を、二人目の方が教えるという事にして頂ければ。穂邑ちゃんには、私から一人目の方の場所をお知らせしますから」 「承知しました。穂邑ちゃん、良いお散歩になれば良いですね」 にっこりと微笑んでギルドを去ろうとした藤子は、ふと思い出して振り返る。 「そうそう、大切な事を忘れるところだったわ。協力して下さった開拓者の皆さんには、最後に私の家に集まって下さいと、お伝え頂けるかしら。七草粥をご一緒したいの」 「はい、必ずお伝えします」 こうして、新たな依頼書が開拓者ギルドに張り出されるのだった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
風和 律(ib0749)
21歳・女・騎
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
カメリア(ib5405)
31歳・女・砲
ヘイズ(ib6536)
20歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ● 当日、藤子からの依頼を受けた開拓者達は約束の時間より随分早くからそれぞれの場所に待機して穂邑が現れるのを待っていた。 玲璃(ia1114)の場合は、今は種付けの時期を待つ静かな畑に面した道の途中だ。 周りをきょろきょろと見渡しながら早足で近付いてくる穂邑を前方に確認した玲璃は、手の中の小さな包みを確認してから穂邑に近付く。 「穂邑さん、ですね」 初対面の相手に声を掛けられた少女は目を丸くして驚くが、玲璃はそれも予想済み。 「巫女の玲璃と申します。穂邑様がお探しの春の七草を持っています」 玲璃は静かに微笑むと、困惑の色を濃くする少女に事の次第を説明し始めた。 実を言えばこの藤子からの依頼、三番目か四番目あたりを希望していた玲璃だが、諸事情から先頭を切る事になってしまったため、 「今夜食べる七草粥を作る為の、七草を集めて来て頂戴。七草の一つは市を東に抜けた先の田んぼの傍に自生していると思うから」とだけ言われて此処まで来た穂邑に、これから彼女が解いていかなければならない謎々の説明をするのも玲璃の役目になってしまったのだ。 「――というわけですから、謎々にお答え頂ければ私の持つ仏の座をお渡しします」 そうして仏の座が入った包みを見せる玲璃に、穂邑はようやく納得。 藤子が意味深に微笑んでいた理由も察したのだろう。 「判りました、頑張ります!」 「そのように気を張らなくても結構ですよ」 玲璃は柔らかく語り掛ける。 「それでは最初の謎々です。この仏の座は別名『小鬼田平子』とも言います。これより大きな野草に『鬼田平子』というものがありますが、その花言葉は何でしょうか?」 「花言葉は苦手なのです……っ」 一問目から難問ですと頭を抱える穂邑に、玲璃。 「答えは、貴女がとても困難な事を抱えてしまった時、どう解決するか、です」 「もちろん頑張って解決します!」 即答は、けれど正解では無くて。 「頑張る事も大切ですが、他にも何かありませんか?」 「何か……粘って解決する、とかです?」 「いえ……」 下手に問題を解く鍵を与え過ぎては本来の目的に反してしまうため、玲璃も慎重に言葉を選ぶが、穂邑から返って来るのは「諦めない」「全力」「出来るって信じる」など正解からは遠い。 玲璃は深呼吸を一つ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「そうですね、貴女ならきっと、どんな困難もお一人で抱え込んでしまうのでしょう。ですが抱え込んでしまう前に誰かに……仲間に助けを求める事は、本当に当たり前の事ですよ?」 だから困難に直面した時には仲間を思い出して貰いたいと続ける玲璃に、穂邑はまた目をぱちくり。 「あ、はい。一人じゃどうしようもなくなった時には仲間……というか、お友達に相談しますし、助けて貰います。……ただ『私が』抱えた困難なら、やっぱり自分の力で解決したいです。お友達がいてくれるから頑張れるって思います。心の中でいっつも頼りにしているんです。だから、甘えたくないです。これからも一緒にいたいので」 これまで自分を支えて来てくれた開拓者達への想いを笑顔で語る少女。 玲璃は思う。やはり話に聞くだけでは判らない、こうして言葉を交わしてこそ判るものがあるのだと。 「申し訳ありませんが問題を変えても構いませんか? 例えば、そう……楽しい時間を、もっと楽しく過ごすためには、どうしますか」 新たな謎々に穂邑は笑顔になる。 「お友達と一緒に過ごします!」 迷いのない即答に玲璃は笑みを強め、七草・仏の座が入った包みは穂邑に手渡された。 ● 風和 律(ib0749)は、今は休耕田のあぜ道で穂邑が来るのを待っていた。 足元にはたくさんの雑草が広がっており、芹も其処ら中に見る事が出来る。 藤子も此処で芹を摘んだのだろうか――彼女から預かった包みを手に乗せながら、これだけ無造作に自生する草に「清廉で高潔」という花言葉が付いているというのは、些か妙な気がして来る。 (言い換えれば、それだけ自然に生じるものなのかもしれない、か) そう在れと自らに戒めて来た律にとって、今回のこの依頼は自らへの問い掛けでもあった。 (私は、私自身が目指すものに近付けているのだろうか) ほんの僅かな苛立ちを押し隠すように瞳を伏せた。 それからしばらくして聞こえて来る軽やかな足音。 弾むような呼び声。 「こんにちは! もしかして律さんも春の七草をお持ちなのです??」 緊張気味な、けれどどこか嬉しそうな表情の穂邑に、律も自然と表情を和らげた。 「ああ」 「やっぱり! ではお願いしますっ」 身を乗り出して真っ直ぐに律の目を見て来る少女の素直さに思わず笑いそうになりながら、律は考えて来た謎々を出す。 それはお互いが共に挑んだ霊剣『鬼鎮陽平御剣』修復の一件で得たもの。 皆を護ったものは何か。 これに対し穂邑は悩まず「皆さんの愛と勇気です!」と即答。 次いで、緊張した面持ちで「正解、ですか?」と聞いてくるから「答えは君自身の中にあるものだからな」と応じ、芹が入った包みを手渡した。 「芹には『清廉と高潔』という花言葉があるそうだ。君に相応しいな。私も……」 「? 律さん??」 いつもであれば「そう在りたい」という言葉が続くだろうに、そこで口を閉ざしてしまった律に、穂邑は目を瞬かせた。 そうして生じる沈黙の時間を、先に終わらせたのは――。 「え、っと……きっと律さんは真っ白過ぎるのです!」 眉間に皺を寄せた律へ、穂邑は必至に言葉を紡ぐ。 「つまり、あのっ……そう、そうですっ、いつもよりお団子を一本多く食べてみませんか!?」 「団子……」 「御饅頭を一つ多く食べるとか! 普段は我慢している事を、思い切ってやっちゃえば良いと思うんですっ」 「……別段、菓子が欲しいとは思わないが」 「くぅっ」 がくっと項垂れる少女の力説は、はっきり言って完全に的を外していたが、その想いを無下には出来ないと思わせるには充分だった。 「そうだな……では、近いうちに団子でも食べに行こうか」 「! はい、是非っ!」 そうして少女は芹と一つの約束を手に入れた。 ● その後、ケロリーナ(ib2037)と会って御形を受け取った穂邑を待っていたのは薺を持ったヘイズ(ib6536)だった。 「よう、可愛いお嬢ちゃん。アル=カマルの宝珠ン時以来だなぁ」 「わっヘイズさんなのです! 御無沙汰してます!」 久方ぶりの再会を喜び合う二人は、あれからの事を互いに報告するように、しばし談笑する。 「さて、それじゃあ突然ですが謎々の時間です」 ヘイズはジャラランと、戦闘時には彼の武器ともなるエレメンタル・ピアノを弾き鳴らす。 「『それ』は親が子に捧ぐもの。子が親に捧ぐもの。友でも恋人でも形は違うかもしれないが、大切な誰かに対し胸の内から捧げるもの――『それ』はなんだ?」 「んー」 穂邑は左右に首を捻りながらしばし考え続け、不意に「あ」と声を上げる。 「判りました! たぶんですけど、……『心』です……?」 「正解」 再びジャラランと陽気な音を鳴らしたヘイズは、おもむろにピアノを手から離すと、スッと紳士的な動作で薺の入った包みを差し出した。 「君は心を尽くし、だからこそ皆が君にそれを返す。良い友を持っているな」 「わっ……わっ、何だかとっても照れるのです……っ」 真っ赤な頬を両手で隠す少女にヘイズはくすりと笑うと、その手に薺を握らせる。 「願わくば、その心をいつまでも大切にな」 穏やかに微笑み、――直後にヘラッと崩れる笑顔。 「なーんてなっ! ちょっとかっこよかったかい?」 「えと、えと……っ」 「さぁそれじゃあ次の七草の場所だが!」 平静を装って自分の役目を果たそうとするヘイズが、その胸中でどれほど緊張し、また照れていたのか、穂邑は気付かない。 察する事もないままに少女は言うのだ。 「あ、あの! ヘイズさんも、良いお友達の一人なのですよ!」 言われた言葉に、一瞬の沈黙。 「へへっ、そりゃ光栄だ」 五番目の七草を求めて去っていく少女の背中を見つめながら、ヘイズはぽつりと呟く。 「全部、本心だけど、な」 その呟きは何処にか。 ● ヘイズに言われてやって来る穂邑を、五番目に待っていたのはカメリア(ib5405)だ。 「さて、と」 茶店の軒先で少女の姿を確認したカメリアは口の中の団子を抹茶で流し込み、相棒と一緒に歩み寄る。 「あけましておめでとうございます、穂邑さん」 「え、あ、おめでとうございます」 初対面の相手に声を掛けられて焦る穂邑だったが、今日一日の流れを思い返せば状況は理解出来た。 「あの……もしかして七草の一つをお持ちですか?」 「はい。カメリアっていいます。よろしくお願いしますね♪」 「此方こそよろしくお願いします」 深々とお辞儀する穂邑に小さく笑い、二人は並んで歩きながら言葉を交わす。 「私が持っているのは繁縷なのですけれど、小さくて瑞々しい、可愛いお花で、追想っていう花言葉があるのですって、……ふふ、さぁそこで謎々です」 「は、はい!」 さぁ来いと言いたげに身構える少女へ、カメリアは問う。 「今までの日々の中で、一際きらきら光る大切な思い出は何ですか?」 「思い出、ですか?」 穂邑は聞き返してから、一番と言える記憶を思い出そうと思案顔に。 「藤子さんのお家で皆で誕生日をお祝いしたのも良い思い出ですし、霊剣の修復や暗殺の阻止も皆さんと力を合わせた大事な思い出ですし……あ、空さん達と里帰りしたのも……」 次々と思い出しては一番を決められず悩んでいる少女。 カメリアは「ふふっ」と楽しげに微笑むと、 「全部の思い出、大切にしてくださいね」と繁縷の入った包みを手渡した。 穂邑はきょとんとする。 「でも、私はまだ一番を決められなくて」 「くっきり一つ浮かぶのも、たくさん浮かんで選べないのも、素敵な事です。今年もそんなきらきらが、たくさん穂邑さんに降り注ぎますように♪」 幸せを祈るカメリアの言葉に、最初こそ困惑していた少女も笑顔で「ありがとうございます」と七草を受け取り、次の七草のある場所を教えられるのだった。 ● 開拓者長屋から、走れば数分で行ける橋の上。 左右を忙しなく見渡している穂邑の姿を少し離れた場所で確認した朝比奈 空(ia0086)は、足音を立てないようゆっくりとその後ろに近付いた。 二人の距離が狭まり、穂邑が背後の人気に気付いて振り返ろうとした、正にその時。空は袖を垂らすようにして相手の視界を塞ぐ。 「えっ、え?」 「……驚きましたか?」 「! その声は空さん、なのです!」 すぐに気付いて満面の笑顔になる少女に、空は微笑み返して「よく此処まで辿り着きましたね」と声を掛けた。 「空さんも七草の一つをお持ちなのですか?」 「ええ、此処に」 藤子から渡された包を見せると、穂邑は深呼吸を一つ。 「では謎々をお願いしますっ」 ものすごいやる気を見せる少女にくすりと笑い、空は「それでは」と用意していた謎々を出す。 「辛い時、楽しい時、嬉しい時、共に気持ちを分かち合えるものは?」 「分かち合う……」 問いを復唱しながら、見返す、その人。 無言で自分をじぃっと見て来る少女に、空は首を傾げた。 「……どうかしましたか?」 聞き返しても応えはすぐにはなかった。 穂邑は考えていたのだ。 辛い事、楽しい事、嬉しい事、分かち合えるのは――誰かと分かち合うと、辛いのは半分になる。 楽しかったり、嬉しかったりは、二倍に。 なら、分かち合う人が三人なら。 四人なら? 最初の玲璃の謎々が思い出された。 「お友達……お友達だけじゃなくて、藤子さんや、兄様や、大好きな人達と、辛い事は乗り越えたいし、楽しい時、嬉しい時は、一緒にいたいです」 「……そうですね」 穂邑の真っ直ぐな笑顔に空は頷く。 それは彼女が望んだ答えでもあったから。 「それでは行きましょうか」 「行くって何処へですか?」 「七草の最後――蘿蔔を持つ方の処へ、です」 空と一緒に帰って来た穂邑に、藤子は七草の最後の一つ、蘿蔔を持って声を掛けた。 「お帰りなさい、穂邑ちゃん。七草は揃った?」 「いえ、あと一つ……藤子さんがお持ちなのですか?」 藤子は頷き、言う。 「それじゃあ最後の質問よ。穂邑ちゃんの、今年の書初めの言葉は決まったかしら」 少女は大きく頷いた。 皆の謎々が考えさせてくれた大切なもの。 愛情も、勇気も、そういう心から生まれるたくさんの力は、大切な人のため。 友達、家族、大切にしたい人達。 大切な人達と自分を繋ぐのは――。 「『絆』です」 真っ直ぐな瞳で語るその言葉に、藤子は微笑んで最後の七草を手渡した。 「とても素敵な言葉を、選べたのね」 「はいっ、皆さんのおかげです♪」 そう言いながら隣に立つ空に笑い掛ける。 屋内に律やヘイズ達の姿を見付けて、驚きながらも嬉しそうに駆け寄る。 皆の表情に浮かぶ笑顔が、穂邑が得た掛け替えのない宝物。 ● 「さぁお待たせ。七草粥が出来ましたよ」 「おお待ってたぜ!」 「楽しみ〜♪」 ヘイズとケロリーナの楽しげな声に引かれるように、盆に四人分ずつの七草粥を乗せた藤子と穂邑が台所から戻って来た。 一人一つずつ受け取るその部屋の壁には、穂邑の書初め『絆』の文字が誇らしげに飾られていた。 「熱いから火傷をしないように気を付けてね」と藤子が言うが早いか、早速食べ始める一同。 「美味しいです〜♪」 「初めて食べるが、……優しい味だな」 ケロリーナと律の言葉に、カメリアも「ええ、本当に」と幸せそうな笑顔だ。 「そういえば……書初めも終わりましたし、食べ終えたら以前に約束していた初詣に行きませんか」 「行きます!」 空からの誘いに大喜びの穂邑。 せっかくだから皆さんも一緒にという話になればますます場は賑わった。 年明けて、仲間と過ごす楽しい一日。 「どれ、せっかくだし一曲披露しようか。いずれ来るだろう春の歌でも」 ヘイズの提案に、玲璃が思案顔。 「せっかくですから歌に合わせて舞でもと思うのですが、私の舞では賑やかさに欠けるでしょうね……」 「そんな事はないのですよ! ヘイズさんの歌に合わせて『すてっぷ』というのを踏めば良いのです♪ ほら、こうして……」 「食事の途中に踊るというのはお行儀が良くありませんね」 「はっ、すみませんっ」 空の指摘に慌てて座り直す穂邑に、笑いが起きる。 空も笑みを浮かべ。 「……と、うるさく言うつもりはありませんが……男性の手にそう気安く触れようとするのは、いろいろと心配ですね」 「え?」 穂邑は聞き返し、玲璃を一瞥。 空を見直し。 「え……えぇぇ!?」 室内には再び皆の笑い声が響き渡った。 今日のこれもきっと良い思い出になる――賑わう仲間達の姿を見ていたカメリアは、ふと澄んだ青空を見上げた。 (雪が溶けたら、いい加減、一度里帰りでもしましょうか) 故郷がすっかり思い出になってしまう前に。 |