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■オープニング本文 ● 傭兵団ザリアーの隠れ里。 傭兵達が次々と慌ただしく出入りする部屋には、団の長、スタニスワフ・マチェク(iz0105)が控えていた。 傭兵達は中に入ると彼から「報告を」と促されて調査結果を報告し、「そのまま続けてくれ」の言葉を受けてすぐさま任務に戻る。 一切の無駄がない言動。 部屋の外にまで漂う張り詰めた空気。 誰の表情も決して和らぐ事がないのは、年の瀬を目前にしてやり残している事があるからだ。 赤いペンダント――フェイカーを滅ぼすという、約束。 奴が帝国内で暗躍しているらしい情報は入って来ているが、その情報も内部事情が複雑だったり、量が膨大過ぎたりなどし、自分達だけでは纏めきれていないのが実情だ。 聞くところによれば、どの事案にも開拓者が関わっているらしく、彼らの中に懇意にしている相手も少なくないアイザック・エゴロフ(iz0084)は、彼らに協力を頼み情報を共有したら良いと思うのだが、それもまた簡単ではなくて。 「何せ強情だからなぁ、うちの副長……」 あの日、あの時、開拓者と傭兵団の間には深く悲しい溝が出来てしまった。 フェイカーを倒したいという思いは同じなのに、手を取り合うには心情が邪魔をする。自分達を襲った悲しみはアイザックも共有するものだから仲間の葛藤はよく判っている。 ……それでも。 (彼らの仇を取る為には開拓者の皆さんの協力が必要不可欠ですよ、副長) アイザックは深い息を吐く。 そうして彼もまた自分の任務に戻ろうと踵を返したところで、里の子供達と目が合った。大人達の緊迫感が子供達の気持ちまでも強張らせているようで、思えばここ最近、里には子供の笑い声すら聞こえていない気がする。 「ボス達……今日も忙しい……?」 「剣を習いたいの……今日もダメかな……?」 「あぁ……」 アイザックが応え難そうにすると、唐突に「だから言ったろ!?」と大きな声。 ディワンディである。 「ボス達は忙しいんだ、オレ達が邪魔するわけにいかないって!」 「でも……」 「っていうか何であんたが偉そうに言うのさ、あたし達はアイ兄ちゃんに聞いてるのに!」 「俺は傭兵団の一員だ!」 「単なる見習いでしょ!? それだって自分で勝手に言ってるだけじゃん!」 「なんだと!?」 「はいはいはいはい落ち着いてー!」 アイザックは慌てて止めに入るが、その傍で別の子供達が呟くのを聞いてしまった。 「何か……寂しいね……」 「もうすぐクリスマスなのに……」 ――もうすぐ、クリスマス…… ● 「鬼ごっこ?」 「みたいな追いかけっこです。開拓者が子供達と四人一組になって、サンタクロースに変装した俺達を追う。捕まえられたらプレゼントを渡す、っていう」 アイザックは部屋に集まったイーゴリとニコライ、そしてマチェクを順番に見ながら、先ほどの子供達と話した内容を伝えた。 「あの日から隊内は沈みがちですし、子供達もしんどいと思うんです。クリスマスくらい笑顔にさせてあげられたら、って」 「子供達を笑顔にって案には賛成だ! だが何で開拓者と一緒なんだ!?」 「必要だと思うからです」 イーゴリの反論に、アイザックは冷静に言い返した。 「これからの事を考えたら絶対に開拓者と協力をした方が良いのに、このままでは副長やニコライさん達も気まずいでしょう……? この機会に、改めて開拓者の皆さんと歩み寄ってみたらどうかなって」 言われて顔を見合わせたイーゴリとニコライは、互いに複雑な心中を覗かせた。 彼らだって本気でフェイカーを滅したいと思うなら開拓者との協力が不可欠な事くらいは理解していて、それでも心情的な理由から「頼む」と頭を下げられないなら、きっかけを作ればいいと言うアイザックの意見は尤もだろう。 「俺は賛成だよ」 マチェクがそう言うのなら、もはや決定も同然だ。対象的な表情を浮かべるアイザックと副長達。 「……っそ、アイザック……どうせならクリスマスくらい恋人と仲良く過ごすくらいの甲斐性を見せてはどうだ?」 「っ、こ、恋人って……そんな……っ、そんな事を言うんだったら副長だって早くエーヴァと結婚したらどうですかっ」 「!? どうしてエーヴァの話になるんだ! 大体けっけけけっこんて……!」 「あぁまあそれはアイザックの言う通りだよな。おまえ彼女と付き合って何年になるんだ?」 「いま関係無いだろうそんな事は! アイザック! おまえが余計な事を言うからニコライまで!」 「先に余計な事を言い出したのは副長の方じゃないですかっっ、そもそもニコライさんだって……!」 「結婚三年、二児の親父になっている俺が何だって?」 「「くっ……!」」 わーわーぎゃーぎゃー! 厳つい男が顔を真っ赤にして、同じく顔を真っ赤にした年頃の青年と言い合う姿が、彼らのボスには不思議と微笑ましく見えてしまった。 だから彼は、部屋の奥に大切に立て掛けられている二本の剣を見つめて微笑んだ。 今は亡き刃の主達に心の中で語り掛ける。 見えているだろうか、前に進み始めた自分達を、と――……。 ● 「そういう事でしたら喜んで土地を提供しますわ! どれくらいの広さが良いかしら? 折角だからお隣さんの土地もお借りしようかしら?」 「いえ、遊ぶのは子供達なので、あんまり広すぎても……」 「じゃあ十キロ四方くらいかしら」 「い、一キロ四方で充分かと……」 「まぁ……あらでも狭い方が見学するには良さそうね」 「えぇ……」 「障害物や何かはアイザックさん達で用意されるのかしら? もしよろしければ牧草を積んだものなんかをお貸しするけれど」 「ありがとうございます、雪山だけじゃ物足りない気がしていたので、助かります」 「あらやだ他人行儀だわ。私達の仲でしょう? うふふふふっ」 「仲……」 レディカ夫人とアイザックの遣り取りに、すっかり傷も癒えて本調子を取り戻したマチェクは声を殺して笑う。 あの件で深い悲しみを抱いたのは夫人も同じ。今年は盛大なパーティーを催す気分にはなれないという話を聞いていたマチェクは、彼女にも笑顔でクリスマスを過ごして欲しかったのだ。 こうして場所は確保され、準備は着々と進んでいく。 あとは、この遊びに付き合ってくれる開拓者の到着を待つだけだ。 |
■参加者一覧
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
リディエール(ib0241)
19歳・女・魔
アイリス・M・エゴロフ(ib0247)
20歳・女・吟
ファリルローゼ(ib0401)
19歳・女・騎
風和 律(ib0749)
21歳・女・騎
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● 「いらっしゃい、お元気でして?」 開拓者を迎えたレディカ夫人の横には、マチェク。 「ようやく会えたね」と微笑む彼に、開拓者達は各々の表情を浮かべた。 「お怪我が治って、本当に……本当に、良かった……です」 涙ぐむレジーナ・シュタイネル(ib3707)をイリス(ib0247)がそっと抱き寄せ、傍にいたリディエール(ib0241)も「本当に良かった……」と柔らかな息を吐く。 敢えて何も語らない風和 律(ib0749)も恐らくは同じ気持ちだったろう。 もちろんファリルローゼ(ib0401)、フェンリエッタ(ib0018)姉妹も同様で、何故か距離を置いて立ち止まってしまった姉にくすくすと笑うフェンリエッタは、夫人に菓子の包を差し出した。 「今日のイベントが終わったら皆さんでどうかなと思って、作って来たんです。お口に合えば良いのですけれど」 「何て美味しそうなクッキー! ふふっ、これに合う紅茶も用意しないと」 「でしたら」 スッと割って入ったのはリディエール。冷えるだろう体を温めるべく彼女はジンジャーティーを用意していたのだ。 更にはレジーナも。 「私も、これ……ココアのパウンドケーキです……日持ちしますし、気が向いた時にでも、食べて頂けたら、って……」 誰の気が向いた時なのか、少女の不安そうな表情から察した傭兵は優しく微笑む。 「大丈夫だよ」と言われてレジーナの表情が僅かに和らぐと、フェンリエッタも安心して次の包みを取り出した。 「そしてこれはマチェクさんに」 「俺に?」 「ずっと渡しそびれていたお誕生日のお祝いとか、お見舞いとか、色々な気持ちを込めて。受け取って貰えますか?」 「ああ、勿論」 「良かった。お姉様、頑張ったんだから♪」 「フェン……っ」 手渡されたのはパウンドケーキ。結ばれているクールな色合いのリボンの間には白薔薇を模した飾り付のバースデーカードが挟まれていた。 「ありがとう。後でゆっくり味あわせて貰うよ」 その言葉に一人離れていたファリルローゼがそっと安堵の息を吐いた頃、遠くから「皆さーん!」という声が聞こえて来た。 サンタ服に身を包んだアイザックだ。彼の傍には子供達と、やはりサンタの格好をした大男が二人。 「気を楽に、ね」 マチェクは開拓者達に言う。 「今日は子供達の為に笑顔を、ね」 ● 「今日はよろしくな!」 「うわぁ……その以前から顔見知りだみたいな態度がヤな感じ!」 「ンだと!?」 開拓者と子供達が自己紹介をしている最中、突如として始まる言い合いに内気なヴェンらが身を竦ませるのに気付いたレジーナ。 「あの……仲が良いのは素敵な事だけど」 「「仲良く無い!」」 「息ぴったりですね」 レジーナに言い返す二人、ディワンディとセーラの見事な合唱に、くすくす笑うリディエール。 「その調子で皆と協力し、三人のサンタを捕まえような。セーラはリリィと、私、それにフェンのチームだ。よろしく頼む」 ファリルローゼが手を差し出すと、セーラは素直に「よろしくお願いします」とお辞儀する。 「リリィも頑張ろうね」 「う、うん……」 姉妹の目から逃れるようにセーラの背中に隠れてしまうリリィ。初対面の相手と打ち解けるにはまだ時間が必要のようだ。 「ディワンディは私達と一緒だ」 律がリディエール、ベティの手を引きながら言うと「よっしゃっ、俺頑張るぜ!」と自称傭兵見習いの少年は息巻く。 「張り切り過ぎて怪我しないでね〜」 「おまえこそちょっとは本気見せろよな!」 「うん〜。それなりに〜」 性格だけでなく口調ものんびりのベティに、律とリディエールも何となく心配になる。 「そしてヴェンさんとユージンさんは、私達と一緒です」 「仲間にして下さいますか?」 イリスがレジーナと二人、少年達に微笑み掛ければヴェンはほっとしたような、ユージンは照れたように鼻の下を指で擦る。 自己紹介を済ませた後は各組ごとの作戦会議。 「作戦とか、必殺技とか、ありますか……?」 レジーナがこっそり尋ねると、アイザックを狙うならこんな作戦が……と子供達。 それはとても楽し気で。 彼女達の準備が整うまで待機中のこちら側は「頑張りましょう!」と意気込むアイザックに、イーゴリとニコライはとても複雑そうだった。 「さて、そろそろ準備は良いかな?」 夫人と温かな場所で紅茶を楽しんでいるマチェクが笛を手にして双方に問い掛けた。 彼が笛を鳴らす、それが追いかけっこ開始の合図となった。 ● 子供達に楽しいクリスマスを。 もちろん子供達だけでなく、夫人にも笑顔のこの日をと開拓者達は願う。 アジュール姉妹が作ってくれた大量の雪玉を、ディワンディや律に追われて逃げて来るサンタクロース目掛けて投げまくるセーラとリリィ。恥ずかしがりのリリィも傭兵相手には遠慮が無い。 偶然とはいえ雪玉がニコライの顔に命中したならきゃっきゃっと笑い、 「よくもやったなー!」と追い掛けられれば「きゃーっ」と笑顔で逃げ出し。 「おじちゃん今日は追われる方よ!」 セーラが言うと「お、そうだった!」と改めて逃げ出すニコライの姿に笑いが起きるが、開拓者と目が合うと、何とも言えない微妙な空気が流れた。 だが、その度にそんな雰囲気を払拭するのが子供達。 本気でサンタクロースを追う姿に大人達は和まされた。 そうして二〇分程が経過した頃だろうか。手足の先が冷えて来たのを誰もが自覚しつつあり、これ以上体を冷やせば風邪を引いてしまうだろう。 だから。 (アイザックさん済みませんっ) 雪山に身を潜ませながら心の中で詫びたレジーナは、追われて走って来るアイザックの前方に挟み撃ちのつもりで回り込んでくるイリスを確認し、秒読み開始。 イリスとアイザックが接近。 レジーナは足を延ばす。 ユージン、約束の地点を確認して声を上げる。 「あ……アイ兄ちゃん、オレ足攣ったかも……!」 「えっ?」 驚いてアイザックが振り返る。 その足下にレジーナが足を延ばし、引っ掛けた。 「えっ、わ!」 「きゃっ!」 転ばされたアイザックは、そのままイリスの胸に倒れ込んで、アウト。……かと思いきや。 「だ、大丈夫ですか……っ?」 押し潰しては大変と、両腕を地面について堪えていたアイザック。 イリスは雪塗れになったがまだ捕まってはおらず。 「アイ兄ちゃん、そこは事故ってチューするところじゃねーの?」 「なっ、って、ユージン足攣ったって……!」 「うっそだよーん♪」 「ぐはっ!」 頭突き同然に飛びつかれたアイザック、アウト。 レジーナはイリスに「大丈夫ですか?」と立ち上がるのに手を貸し、そしてヴェンに声を掛ける。 「さぁ、最後の大仕事ですよ」 「う、うん……っ」 言われ、内気な少年はマチェク召喚の笛を力いっぱい吹き鳴らした。 直後に硬直するイーゴリとニコライ。その一瞬の隙を子供達は逃さない。開拓者達にも言われていたのだ、もしかするとその時が絶好の機会かもと。 立ち止まったサンタクロース目掛けてセーラとリリィ、アジュール姉妹の一斉雪玉攻撃にニコライ撃沈。 「覚悟〜♪」 「おわっ」 その時に合せて雪山を登っていたベティが、リディエールの手を借り、律とディワンディによって追い込まれていたイーゴリに飛びついた。 頭上に被さった突然の重みに耐えきれず、豪快に雪原に倒された副長も、これでアウト。 大人も、子供も、みんな見事に雪まみれ。 「……ぷっ」 「あはっ」 「あははははは!」 子供達の元気な笑い声が雪原に響く。 捕まえたサンタクロース達から子供達への贈り物。 そして開拓者達へ。 何を贈ればいいか判らないと言い切った傭兵達が彼女達に贈ったのはクリスマスプディング――これが『手作り』だったのは絶対に秘密である。 ● 「お疲れ様」 リディエールが用意したジンジャーティーを淹れて雪に塗れた彼女達を迎えたマチェクと夫人は、子供達の笑顔に、同じように笑っていた。 その姿もまた開拓者達には嬉しい。 「体が冷えたでしょう? さぁさぁ、リディさんが用意して下さったジンジャーティー。温まりますわ」 「レジーナ達が用意してくれた菓子も、ほら。彼女達に感謝して、貰うと良い」 「ありがとうお姉ちゃん!」 「すごく美味しそう!」 丸いテーブルに全員が着き、夫人とマチェクから順に紅茶と菓子を受け取る。夫人はともかくボスにもてなされる傭兵達の緊張した面持ちが、また笑いを誘う。 子供達は興奮した様子で鬼ごっこの話題に興じ、とても楽しそうだった。 だが、その一方で開拓者と傭兵達の間に確実に生まれつつある緊張感。 このままではダメだという思いが隠しきれなくなろうかと言うその時、おもむろに口を開いたのはイリスだった。 「アイザックさんにお願いがあるんですが、聞いて頂けますか?」 「え、あ、はいっ、勿論です!」 イリスのお願いと聞けば否の有るはずがなく、その場に直立する彼へ、イリスは微笑んだ。 「では、子供達と一緒に散歩に行きたいのですけれど」 「さ、散歩? 子供達も一緒に……です、か……?」 「ええ」 他意なく微笑むイリスと、ほんの少し気の抜けた様子のアイザック。一緒と言われた子供達の方がアイザックに同情したとかしなかったとか……ともあれ、そうして二人が子供達を伴ってその場を離れると、場の空気は確かに変わったが、まだ『足りない』。 その原因をマチェクは自覚していた。 「ロゼ。少し付き合ってくれるかい?」 「え、ぁ、ああ……」 どうして自分をと思わないではなかったが、マチェクが居てはイーゴリとニコライ、二人が本音で開拓者と向き合う事が困難なのは判った。 だから素直に席を立ち、そうして彼らも遠ざかれば、それが傭兵達の覚悟を促した。 「俺達は、回りくどいのは好かん」 言うイーゴリ。 「だから単刀直入に言わせてもらうが」 「待ってくれ」 律が声を上げる。 相手の言葉を遮って立ち上がるのは、せめて筋は守りたいと思ってこそ。そうして傭兵達に真っ直ぐに向き合うと、続いてレジーナ、フェンリエッタ、リディエールが並び立ち、告げる。 「フェイカー追撃に、力を貸して貰いたい。――頼む」 深々と頭を下げて告げられる律の言葉に応じるように全員が頭を下げた。 「お願いです。どうかフェイカーを一緒に追って下さい。私達だけでは……、それに、失礼ですが、皆さんだけでも、きっと力が足りない」 レジーナは言う。 許せない、信用できない、そう思われるのも当然。 挽回のチャンスが欲しいと言ったところで自分達は失敗を重ね過ぎたし、傭兵達も応とは言い難いだろう。 「……それでも、目的の為……フェイカーを倒す為、最前の手段を選んで下さい……」 それが仇同然の開拓者と手を組む事であったとしても、きっと傭兵達は受け入れてくれるはず。 受け入れて欲しい。 今度こそフェイカーを討つと言う、共通する目的を果たすために。 「「お願いします」」 全員で声を揃えた、その一言。 伝えたい言葉は山のようにあるけれど、どれだけの言葉を重ねても傭兵達の心には響かない。 彼らの心を動かせるのは「言葉」ではないから。 「……手を組めばフェイカーを討てるか」 イーゴリの言葉に、律は顔を上げた。 真っ直ぐにその瞳を見返して言い切る。 「必ず」 もう失敗は許されない、それこそお互いの共通認識なら、答えはそれで充分だろう。ニコライとイーゴリも立ち上がり頭を下げた。 「頼む。あいつらの仇、取らせてくれ」 「……っ、必ず……!」 繰り返す約束。 ――フェイカーを、討つ。 互いに頭を下げる仲間の姿に、マチェクとファリルローゼはそれぞれに理解した。 開拓者と傭兵団は手を組める。 今度こそ奴を滅ぼすために。 「近々此方の情報も出揃う。そうなれば、また頼むよ」 「それは此方の台詞だが、……傷は、本当にもう大丈夫なのか?」 「そんなに心配なら脱がせて確かめてみるかい?」 「っ、誰がそのような真似……!」 真っ赤になって言い返すも、意地の悪い笑みを見せられて、またからかわれたのだと察する。 人の気も知らないで、と。 責める気持ちと同じくらい胸中を占める、後悔。 「さて、もう戻ろうか?」 言い、仲間の元へ歩き出したその背に、ファリルローゼは深呼吸を繰り返した後で告げた。 「君が命を落とし掛けたのは私達の所為だ。だが……もう自分の命を犠牲にしようとしないでくれ。君を大切に想う皆を悲しませるな」 真摯なファリルローゼの言葉に、マチェクは静かに微笑った。 「君には辛い役目を負わせてしまったと思っている。ただ、俺は勝算の無い賭けをするほど無謀ではないよ? 尤も――」 言いながら間近に寄る相手の顔。 「君が悲しむというなら、今度からは少し自重しても良いけれど?」 「……っ」 当然だ。 自分も悲しい、と。 素直に言えればどんなに楽だろうと思う。 だが、素直になるには目の前の相手が悪過ぎるのだ。当然、それも自覚していてなお素直な言葉を誘い出そうとして来る彼は。 「……君は、卑怯だ……っ」 精一杯の反抗にも「知っているよ」と微笑う男。 「それが判ったなら無暗に近付かない事だ。俺は何をし出すか判らないよ?」 「――」 くすっ、と吐息のように響く笑い声。 意味深な言葉を残して茶会の席に戻る後姿に、ファリルローゼは得体の知れない不安を抱くのだった。 ● 散歩と言いながらも、イリスには目的地があった。 あの場では言い難かったが、せっかくだからと切り出せばアイザックが断る理由は無く、子供達も喜んで同意した。 そうして彼女達が訪れていたのは、墓地。 傭兵達の大切な仲間が眠る場所だ。 「……手と手を重ね合える日が来ると願って……」 イリスは途中で買った花を墓に捧げ、祈った。 アイザックと子供達も一緒に、傭兵団の仲間が眠る墓に来ていたのだ。 子供達は此処に眠る二人との思い出を語る。 アイザックが頷く。 そのやり取りに涙ぐみそうになりながら、けれどイリスは微笑みを絶やさなかった。 しばらくして会話に飽きた子供達が降り積もった雪で遊び出すと、アイザックは緊張から顔を赤くしつつイリスに話し掛ける。 「今回、イリスさんに来て貰えて、嬉しかったです……そのっ、何ていうか、くっ、クリスマス、ですし!」 よほど緊張しているのか上を向いたまま目を合わせようとしないアイザックに、イリスは思わず笑ってしまう。 「そうですね」と答えながら左手を鞄の中でごそごそ。 右手はアイザックと手を繋ぐように彼に寄せた。 「え」 イリスは驚く彼を見上げると、左手に持ったマフラーを彼の首に掛けた。 「捕まってしまったので、プレゼント、です」 捕まったという言葉に、まさか貴女の心を捕まえたとかそんな意味ですかと混乱極まるアイザックは、それでも感謝の言葉を忘れない。 青年の葛藤など知る由も無いイリスは、彼の手を握り、子供達が雪遊びを楽しむ姿を微笑ましく見守っていた。 |