【夢夜】君の魂に捧ぐ絆
マスター名:月原みなみ
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 31人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/11 22:47



■オープニング本文

 ● それは某日に見た奇跡の夢

「ちょっと聞いてくれるかしら♪」
 その日、開拓者ギルドに勤務する職員・高村伊織(iz0087)はとても上機嫌な様子で同僚に声を掛けた。まだ朝も早い時間帯。ギルド屋内には人気もまばらで、依頼を受けに来る開拓者の姿も少ない事を確認した同僚は「少しなら付き合うけれど」と苦笑。
「ちょっと待っていてちょうだい」
 話が長くなりそうなのを見越して熱い茶を淹れ直した彼女は自分と伊織の前に湯のみを置いた。
「で、どんな話?」
「それがね!」
 促せば彼女はもう我慢ならないと言った様子で身を乗り出してくる。
 どうやら、とにかく誰かに話して聞かせたくて仕方がないらしい。
 伊織は言う。
「夢を見たのよ! それも、とっても不思議で奇妙で、けれど目が覚めた時に懐かしくて仕方が無くなる夢を!」
「懐かしい‥‥って、昔の思い出の夢、とか?」
「いいえ違うわ、だって夢の舞台は天儀じゃなかったもの」
「え?」
「異世界よ、異世界! ふぁんたじー!」
「――」
 聞き慣れない単語に同僚は目を瞬かせるが、‥‥まぁ、夢の話なら何でもアリかと自分自身を納得させる。
「‥‥で」
 深呼吸を一つして、改めて問い掛ける。
「どんな夢を見たの?」
「それがね」――伊織は語る、夢の物語。


 舞台はウィスタリアと呼ばれる緑豊かな美しい世界。
 この世界で開拓者と呼ばれる彼らと通じる生業に就いている人々を、その世界では「ブリーダー」と呼び、ブリーダーの傍らには犬や猫といったよく見かける動物の姿から、伊織が見た事もない動物の姿を模した「エレメント」と呼ばれるパートナーが寄り添っていた。
 国の名前はカルディア。
 首都はエカリス。
 伊織はその世界で「シンディ」と呼ばれていた。
 シンディ・ウエハース、それが彼女の名前。
 そしてシンディは「ウェディングドレスの奪還」という依頼をブリーダー達に向けて張り出していたという。
 ブリーダーギルドは管理局の管轄になり、その管理局の局長が近々結婚する事になった。そこで彼女の親友であり異国に外交大使として出航している人物が、その異国――志芯国と呼ばれるどことなく天儀に似た国で彼女のためのウェディングドレスを発注。これが完成し、いよいよエカリスに届けられるかという時になって元ブリーダーと思われる二〇名弱の盗賊がドレスを奪った。どうやらブリーダーとしての資格を剥奪されて管理局を恨んでいた連中の仕業らしく、連中からドレスを奪い返して欲しいというのがその内容だ。
 依頼主は外交大使。
 そして依頼を受けたブリーダー達の姿を見てシンディは――伊織は驚いた。そう言いつつも顔が緩むのは目覚めた後に感じた懐かしさ故だろうか。
 依頼を受けたブリーダーは、この開拓者で見かける彼らによく似ていたのだ。
 姿形が、ではない。
 何と表現するのが適切か定かではないが、とにかく似ていた。それはまるで、魂が呼び合うかのように――‥‥。




 ※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
/ 音羽 翡翠(ia0227) / 有栖川 那由多(ia0923) / 礼野 真夢紀(ia1144) / キース・グレイン(ia1248) / 滝月 玲(ia1409) / アッシュ・クライン(ib0456) / キオルティス(ib0457) / 門・銀姫(ib0465) / サヴィーネ・シュルツ(ib0468) / 美郷 祐(ib0707) / ネネ(ib0892) / アリスト・ローディル(ib0918) / 音影蜜葉(ib0950) / ルーディ・ガーランド(ib0966) / 禊 神寿(ib0975) / フィン・ファルスト(ib0979) / リア・ウィンフィード(ib1014) / レイス(ib1763) / ルティス・ブラウナー(ib2056) / 瞳 蒼華(ib2236) / コチョン(ib2592) / 蒼海 理流(ib2654) / エミリア・ウェンヌ(ib2742) / レビィ・JS(ib2821) / ライディン・L・C(ib3557) / リリア・ローラント(ib3628) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / 御影 銀藍(ib3683) / 螺巖(ib3760) / ティセラ・グリフォード(ib3776) / 勇霧(ib3804


■リプレイ本文


「ローラさんが結婚!?」
 開拓者ギルドの依頼がたくさん張り出されている掲示板に両手を叩きつけ、素っ頓狂な声を上げたのはレインと呼ばれる少女。
「は?」
「なに?」
「レインちゃん?」
 友人の叫びに怪訝な顔付きで振り返るのはユギリ。キランと目を輝かせたのはエミリア。そして自分の耳を疑いながら聞き返してくるのは帝だ。
「なに‥‥レインちゃん、いま何て言ったの?」
「せ、先輩‥‥先輩、先輩、ろ、ローラさんが‥‥!」
「‥‥っ」
 わなわなと震えながら掲示板の依頼書を指差すレインを待つや否や帝は掲示板に突撃。
『局長のウェディングドレスを取り戻す』という、その依頼内容に目を丸くする。
「レインも弟君もどうしたの?」
「エミリアさん!」
「姉さん!!」
 次いで近付いてくるエミリアの右腕をレインが、左腕を帝が掴んでぐぐいっと掲示板に。
「これですよ、これ! ローラさんが結婚!!」
「ウェディングドレスが準備されているんだよ!!」
「うわー、ホントだー」
「局長が結婚って‥‥相手は誰だよ」
「そんなの大臣さんに決まっ‥‥!」
 ユギリの根本的な疑問に、思わずその役職名を叫びかけたレインだったが不意に背後から吹き付けてきた冷たい風に言葉を飲み込む。
「「「「‥‥」」」」
 四人四様の無言の表情で振り返れば予想通りの人物――噂の局長ことローラ・イングラムが仁王立ち。ギルドが寒い。いや、いま確実にエカリスの気温が三度くらい下がっている。
「‥‥誰がこのような依頼書を張り出したのですか」
 キッと睨まれたギルドの受付嬢達は一斉にくるりと椅子を回して沈黙。犯人であるシンディ・ウエハースも自首出来ない。
 そんな光景に軽い息を吐いたローラは、件の依頼書を掲示板から取り外すと綺麗に折り畳み、そのまま彼らに背を向けた。
「ぁ‥‥」
「このような依頼に皆さんが労力を割く必要はありません。貴方達は貴方達の本分を全うして下さい」
「で、でも!」
 言うだけ言って立ち去ろうとするローラに慌てて言葉を発したのは帝だ。
「その依頼の内容‥‥ウェディングドレスが盗まれたっていうのは、本当なんですか‥‥?」
 返答は、‥‥無言。
 無言は肯定だ。
「だったら取り戻します!!」
 レインが断言する。
「お相手が‥‥えっと、誰かは判りませんけど‥‥っ」
 今にも泣き出しそうなくらい瞳を潤ませながらも少女は真っ直ぐに局長を見つめる。
「ウェディングドレス、とっても大事なものだと思うから‥‥っ」
「そうだよね」
 エミリアが頷き、ユギリも。
「‥‥ま、局長が依頼書を持ってっちまっても、依頼主があの人なら、俺達で勝手に動いてもどうにかなりそうだしな」
「うん」
 依頼主はレオナルド・ヴィスケスティア。志芯国に派遣されている外交大使は局長の昔からの友人で、帝やレイン、ユギリとの面識も有る。
「俺達が俺達の意思で動くんです。‥‥良いですよね、ローラさん」
 帝の問い掛けにも彼女が振り返る事はなく、沈黙は長く続いたけれど。
「‥‥相手は二十人近い元ブリーダーです。万が一にも、貴方達の誰か一人でも負傷するような事があれば、その‥‥ドレスは私の手で処分します。‥‥良いですね」
「「「はい!!」」」
 ブリーダー達の朗らかな応えに、ギルドの受付嬢達は顔を見合わせ、膝の上でVサインを出し合った――。



「その開拓者‥‥じゃなくって、ブリーダー? の、子達、元気ね」
「ええ、とっても元気で明るい子達だったわ」
 同僚に言われた伊織は満面の笑顔で話す。
「しかも此処からが更に面白いのよ。何せギルドで依頼を受けた子達が‥‥あ!」
「!? 何よ急に大声なんか出して‥‥」
 驚いて言い返す同僚を半ば無視するように、伊織は受付の卓から身を乗り出してその先にいる開拓者に声を掛けた。恐らく依頼を探しに来たのだろう少女の名はリア・ウィンフィード(ib1014)。
「あの子、あの子」
「え?」
「夢の中のレインちゃん、あの子なのよ」
「はぁ?」
「あ、しかもそこの那由多君!」
 伊織は同じく依頼を探しに来ていたらしい有栖川 那由多(ia0923)を見つけて手招き。リアと那由多、この二人と伊織は、以前に同じ依頼で面識があったのだ。
「二人ともこっち、こっち。面白い話があるのよ、付き合わない?」
「面白い話、ですか?」
「‥‥私も‥‥?」
 不思議そうな表情を浮かべながら近付いてくる那由多と、少し不安そうな表情で近付いてくるリアは、互いに「久し振り」と挨拶を交わし席に着く。そうして伊織から聞かされた話に二人は首を捻るばかり。
「夢の世界、ですか」
「そうそう、そこで二人は帝君とレインちゃんって呼ばれていて、一緒にエミリアちゃんとユギリ君って二人が――」
「呼んだ?」
「え?」
 唐突に背後から掛かった声に三人が揃って振り返ると、そこには緩やかなウェーブが掛かった長い金髪を揺らす少女が佇んでいた。伊織は目を丸くしたが、すぐに黄色い声を上げて手を叩く。
「そうよ、そう! エミリアさんこの子!」
「確かに私の名前はエミリアですけど、お会いした事ありました?」
 エミリア・ウェンヌ(ib2742)が理解に苦しみつつ問うも、伊織は興奮し通し。
「夢の中でね!」と即答したならエミリアの顔付きが変わった。
「夢‥‥」
 更には。
「これは‥‥俺も声を掛けた方が良いんだろうか」
「え?」
 再びの声掛けにそちらを振り向くと、銀髪に青い瞳、長身の男が立っていた。リアや那由多、エミリアには解らない。だが伊織は――。
「ユギリ君?」
「‥‥ああ、勇霧(ib3804)という」
 聞けば自分も奇妙な夢を見たと話す勇霧。そして気付けばギルドに来ていて、たまたま伊織が大声で話す内容が耳に入って来たのだと。
「全く知らない世界のはずなのに、俺は其処でもユギリと呼ばれていた‥‥確かに、おまえ達と一緒だった‥‥気がする」
 その言葉に那由多とリアは顔を見合わせた。二人はそんな夢は見ていない。だから気のせいでは、とも思ったがエミリアが「実は‥‥」と言い難そうに告白。
「私も‥‥そんな夢を見たかもしれないんです」
 だから此処に来た気がする。開拓者ならギルドに来るのはとても自然な行動なのだけれど、今日は朝から少しだけ世界が違って見えたから。
「‥‥‥‥っ、これは面白い事になって来たわ‥‥!」
 伊織は拳を握って立ち上がると、ギルド全体に響き渡るような声を張り上げた。
「ちょっとごめんなさいね! もしも今この中に、今朝、奇妙な夢を見たという人がいたら集まってくれないかしら。面白い話が出来そうな気がするの!」
 驚く那由多とリアを前に、伊織は楽しげで、‥‥そして、真剣だった。
「夢‥‥」
 伊織の声を聞いて反応を示した開拓者は、驚くべき事に大勢いた。否、今日という日だからこそ自然と此処に足が向いていたのかもしれない。
 アッシュ・クライン(ib0456)が。サヴィーネ・シュルツ(ib0468)が。フィン・ファルスト(ib0979)が、レイス(ib1763)が――夢の中でも同じ名前で呼ばれていて‥‥と話せば「いたわ、確かにいたわね!」と伊織。
「懐かしいような、不思議な感覚がする夢でしたー」
「俺もそんな夢を見た気がするよ」
 夢の世界でカムイと呼ばれていた禊 神寿(ib0975)の言葉に、同名で呼ばれていたキオルティス(ib0457)が微笑む。
「ふぁんたじー、いい響きです。何でもありです」
 こくこくと頷くティセラ・グリフォード(ib3776)も、同じ名前で呼ばれていた一人だ。同様にレビィ・JS(ib2821)、音影蜜葉(ib0950)、コチョン(ib2592)もその名で呼ばれていた面々。リュイと呼ばれていた美郷 祐(ib0707)、インヒと呼ばれていた門・銀姫(ib0465)。蒼海 理流(ib2654)はリルと呼ばれ、礼野 真夢紀(ia1144)はエリ、音羽 翡翠(ia0227)はアスラ――違う名前で呼ばれていた面々も少なくない。その違いが何によって生じるのか彼らには知る由もないが、そこにはきっと大きな意味があるのだと思う。
「他にもね、此処に姿は見えないんだけど、以前に私が担当した依頼を受けてくれた滝月 玲(ia1409)君や、キース・グレイン(ia1248)君が、レイ君、ヘヴィ君って呼ばれていたわ」
「へぇ」
 ギルドの同僚は呆気に取られたような反応。
 夢と聞いて集まってきた彼らはそれぞれの顔を見遣って困惑した表情。此処で初めて会う相手が大半であるはずなのに、心の奥底から生じる懐かしいという感覚を払拭出来なかったのだ。
「‥‥どう思う?」
 那由多はリアに問い掛ける。
 リアは、小さく首を振る。
「解りませんけれど‥‥」
 ちらと一瞬だけ勇霧を見たリアは、そのまま視線を落とした。口に出してはいけない気がするから言えないのだが、伊織が言うレインとユギリを、リアは知っている。‥‥両親と、同じ名前なのだ。
(もしかしたらお父さんとお母さんが夢を見ているのかも‥‥伊織さんが間違ったのは、私が二人に似ているからかもしれません‥‥)
 そう考えれば那由多も「帝」に似ているところがあったのかもしれず、キースや玲も伊織の記憶の中の姿と重なったが故にそうだと感じたのかもしれない。
 そう思うと、ドキドキして来る。
「あの‥‥伊織さん。夢の続きはどうなるんですか?」
「ええ、そうね。そろそろ続きを始めましょうか」
 伊織は語る。
 夢の続きを。



 局長のウェディングドレスを盗賊から取り戻す、そんな依頼内容はレイン、帝、エミリア、ユギリの四人からエカリスの各地に散らばる仲間達に知らされた。
 中でも最初にレインが知らせたのは宿屋を営む友人、エリ。
「局長さんのウェディングドレスを盗むなんて許せないですの‥‥! アシュ、一緒に取り戻しに行くですの!」
「はいはい‥‥」
 幼馴染のエリに半ば強引に連れ出されたアスラは内心で思う。
(エリ、怒り心頭だなぁ‥‥これで局長の結婚相手はあの人じゃなかったらエリ自身がドレスを盗む側になってたと思うけど‥‥)
 そういえば実際問題、局長の結婚相手は誰なんだろう?
 肝心のそこが謎のままながら、ブリーダー達は続々と集まって来ていた。
「あの局長が花嫁になるなんてね〜♪」
「局長さんのドレス姿、是非見たいですのね」
 インヒ、リュイの言葉にレビィ、キオルティスが笑む。
「しっかし‥‥そう言う事をするから資格を剥奪されるんだろうに‥‥」
 ヘヴィが冷静にまだ見ぬ盗賊――ブリーダーの資格を剥奪された連中に突っ込めばレイも「全くだよ!」と憤慨する。
「あの人のウェディングドレスを盗むなんて‥‥久し振りに暴れちゃいます!」
 拳を握って宣言するフィンの側には「やってやろうね」とやる気満々のエミリアと、それこそまだ見ぬ盗賊連中に同情せざるを得ないレイスの姿があった。
「初めての依頼も結婚式だったですの」
 リュイののんびりとした言葉に対し、コチョンの語調は荒い。
「ウェディングドレスは乙女の浪漫なのよ! それを奪うなんてコチョン許さないの!」
「局長の花嫁姿はきっとお似合いだろうけど、それを汚すドレス強奪は許せないんだよねー」
 更には謳うようにコチョンの気合に同調するインヒ。
「ドレスを取り戻した後は首謀者にお仕置き観光するんだよねー」
「「「当然ですっ!」」」
 レインにエリ、フィンの声が重なり、ユギリとアスラ、レイス、幼馴染トリオが息を吐く。勿論強奪犯からドレスを取り戻す気合は彼女達に勝るとも劣らないのだが‥‥何と言うべきか、不安だった。
「ですが‥‥」
 不意に聞こえてくる小さな声は彼らの耳元を掠めて行く。
「こんなにも多くのブリーダー様と一緒の依頼は久し振りで‥‥何だか、嬉しいです」
 青いシフール、リルが宙を舞いながら呟く。
「‥‥頑張ります」
「うん!」
 リルの言葉が更にブリーダー達の心に火を点けて、そして、更なる合流。
「お、皆集まってるね!」
 帝を先頭に近付いてくるブリーダー達、その人数は十四名。
 カムイにアッシュ、ティセラ、蜜葉。
「あらまぁ、あらまぁ。この面子で集まるのも久々ですわねぇー♪」
 サヴィーネが嬉々として「腕が鳴りますわっ」と意気込む手の先で。
「これは何の集まりなんだ?」
「お祭‥‥という雰囲気では無いようですけれど‥‥」
 ルーディアス、リリー、藍、エルマ。
「こっちですよー!」と元気に手を振るレインに応えつつ、アーク、ライディン、アレン、ゲオルグ、ブラッド。
「‥‥まだどういう依頼内容か話してないのか?」
「皆集まったところで話した方が、反応が面白そうな気がして」
「さっすが弟君!」
 ユギリ、帝、エミリアのこそこそ話しに、ルーディアスが難しい顔。
「そろそろ話せよ、帝。これは何の騒ぎだ?」
「実はね‥‥」
 答える帝はエミリアと、ユギリと顔を見合わせてにっこり。
「ローラさんが結婚するらしいんだ」
「へぇ、局長が結婚」
 ルーディアスは素直に帝の言葉を復唱する。‥‥復唱してから。
「結婚!? 誰と!?」
「それはまだ解りませんっ!」
 即答はレイン、同時に彼女のウェディングドレスが元ブリーダーという盗賊連中に盗まれてしまった事を伝える。
「なので、まずは私達でローラさんのドレスを取り戻すんです!」
「です!」
「だよ」
 レイン、フィン、エミリアと続く台詞に、新たに到着した彼らは各々の表情。
「‥‥ローラのを盗むなんて命知らず、だよね」
 集まった面々をチラと見ながらアーク。
「局長が結婚する事は百瞬天速歩譲って受け止めるとしよう。けど‥‥女性に軟派な紳士としては、見過ごせないよな。局長の晴れ姿も、幸せ泥棒も」
 ライディンが笑む。
 それはいつもの彼らしくて、らしくない不敵な笑み。
「一生に一度の、大切なドレスを奪うなんて。‥‥ちょっと、怒ったかも、です」
「リリー、無茶はするなよ? 父さんも、やり過ぎないように」
 アレンが大切な家族に告げる言葉は願うのにも似た響きを伴い――。
「だとさ?」
 ブラッドに意味深な視線を投げ掛けられた、ゲオルグと呼ばれる彼は楽しげに笑った。
だから、彼らは。
「行きましょう、ネネ」
 エルマが微笑む。
「素敵な純白の夢のために」



 朝、目覚めて。
 最初に頬を濡らしたのは涙だったと彼らは語る。


「ずっと昔から、同じ夢を見るんです」
 その縁で自分達は知り合ったのだと説明するのはリリア・ローラント(ib3628)。夢の中ではリリーと呼ばれていた女性だ。他にもエルマと呼ばれていたネネ(ib0892)や、ルーディアスと呼ばれていたルーディ・ガーランド(ib0966)。アレンと呼ばれていたルティス・ブラウナー(ib2056)。
 アルマ・ムリフェイン(ib3629)はアークと呼ばれ、ライディン・L・C(ib3557)はその名の通りライディンと呼ばれていた。
「そう‥‥ずっと昔から同じ夢を‥‥」
 あの後、夢の続きを語る伊織の元に新たに集まった彼らはとても切ない表情だった。伊織の見た夢を「本当ですか?」と縋るような眼差しで問い掛けて来て。
「特に今朝の夢は‥‥なんて言うか、懐かしくて、‥‥嬉しいのに‥‥、とても悲しくて、涙が止まらないんです‥‥」
「夢の続きは、そんなに悲しいものだったんですか?」
 リアの遠慮がちな問い掛けに「いいえ」と伊織は首を振る。
「そんな事はありません」と、そう言葉を重ねたのは御影 銀藍(ib3683)だ。
「私の夢は他の方々とは少し違うのですが‥‥それでも、とても素敵な夢でした」
「少し違う?」
 聞き返す伊織に「そうなんですの」と応じたのは瞳 蒼華(ib2236)。
「夢の中の皆さんには必ず『相棒』がいたと思うのですけれど‥‥アオと、銀藍君は、その相棒に自身が重なるんですの」
「そういえば‥‥」
 藍と呼ばれていた彼女の相棒が銀藍。
 ゲオルグと呼ばれていた男性の相棒がアオだった事を思い出す。
「‥‥僕達は、全員が同じ夢を見たのかな?」
 アルマの問い掛けに、伊織は少し考えた後で言う。
 続きを語りましょう、と。
「違うところがあれば、違うと指摘して頂戴。もしも指摘がなければ、それは一緒に同じ夢を見ていたという証だわ」――。



 ブリーダー達は管理局から志芯国へ、移動装置サームを利用して一瞬の旅を終える。
「さぁ、行きますよ!」
 意気揚々と拳を固める者がいれば。
「局長が結婚‥‥相手は誰だよ、一体‥‥」
「ルディ、まだそこに拘ってますの?」
 難しい顔で頭を悩ませて恋人に小突かれるルーディアスがいる。
「此処に拘らないでどうするよ、あの局長が結婚だぞ?」
「今はその謎に迫るよりもドレスの奪還ですわ」
 此方のサームが設置されている『小鳥遊の社』では今回の依頼主である外交大使レオナルド・ヴィスケスティアと合流する予定になっており、彼から志芯国の地図を受け取る手筈になっている。
 その地図と、これから行なう情報収集の成果次第で必要になるのはルーディアス達、ソーサラーの術バーニングマップだ。
「頭を切り替えなさいな、頼りにしてますわよ。あ・な・た♪」
「ああ‥‥」
 突然の展開に対しての衝撃が強すぎるのか、サヴィーネが腕を組んで来るのにも上の空な反応。
 サヴィーネ、こめかみが疼いた。
「ふっ‥‥ふふ‥‥よぉっく解りましたわ、まずはくだらない悪戯をしてくれた坊や達に徹底的なお仕置きをして差し上げなければならないという事ですわね‥‥!」
「ぇっ」
「さ、サヴィーネさん‥‥?」
 理流、リュイが彼女の変貌に驚いて一歩下がり、さすがのルーディアスも異変に気付いた様子。
「そういえばサヴィ、本業に戻っていたはずなのによくこの依頼を受けたな」
「当然です、理由など単純明快」
 ルーディアスが参加したから等、甘い台詞が返ってくるかと思いきや、言い放たれた理由は。
「暴れ足りないからですわ!」
「――」
 実に潔い理由だった。


 それから彼らは幾つかの組に分かれて近隣住民からの情報収集を開始。局長のウェディングドレスを盗んだという盗賊連中の情報を着々と集めていった。その内に大使レオナルド・ヴィスケスティアとも合流。
 彼は依頼の内容を改めて説明するに至って「聞いて頂戴!」とアッシュに抱き付き、ライディンにときめき、アークに目を付けるも寄り添うように立つリリーに舌打ちして帝の両手を握り締めた。
「ローラちゃんが結婚だなんてあたしどうしてもどうしてもどぉおおしても納得出来ないんだけれど!! ローラちゃんが決めた事っ、大事な大事な大事な大っっ事な親友が幸せになろうとしているんだから力にならないわけにはいかないの!」
 だからお願いっ、と今度はユギリの両手をがしっと掴み。
「私が志芯国の職人に依頼して作って貰ったウェディングドレス、何が何でも取り戻して頂戴!!」
「ぁ、ああ‥‥」
「頼むわよ!」
「ぉおっ!?」
 がしっと最後に抱きつかれたのはヘヴィ。
「相変わらずだなぁレオ大使は」と慣れた様子で笑っているのは合流後真っ先に強烈な抱き付き攻撃を受けていたレイである。
 かくしてウェディングドレスを作った職人の名前やその素材等といったあらゆる情報を付け加えてソーサラーの面々が発動させるバーニングマップは、容易に盗賊団の所在地を割り出した。
 彼らが術を使用した村から程近い山中に、朽ち果てる間際といった荒れた風貌の、かつては身分ある人物の隠居後の別邸として建設された屋敷があった。其処が敵の本拠地だった。



「というわけで、だ」
 ルーディアスは三つの部隊に分かれる仲間達の顔を順に見遣り、作戦の再確認を行う。彼は正面から盗賊連中と戦闘を行なうチームを率いる事になり、行動を共にするメンバーは蜜葉、エルマ、アッシュ、カムイ、アーク、フィン、レイス、エミリア、ユギリ、レイン、レイ、ヘヴィ、そしてサヴィーネの計十三名。
 帝が率いる奇襲チームには彼とカムイ、藍、レヴィ、ライディン、エリ、アシュ、リルの計八名。支援チームはティセラ、ゲオルグ、ブラッド、リリー、アレン、キオルティス、コチョン、リュイ、インヒの計九名だ。
 総勢三十名の討伐隊となっていた。
 ソーサラー達のバーニングマップによって盗賊連中が山小屋に潜んでいる事、其処にドレスを持ち込んでいる事は明らか。更にハーモナーやプリースト達の術によって敵の配置も概ね把握済み。
 既に資格を剥奪され、現在のパートナー(恐らくは野良のエレメントを飼い慣らしてパートナーとしているのだろう)との絆も怪しい連中を相手に、人数からして勝っている彼らとの勝負の行方は、油断云々とは別次元の問題として見えているも同然だった。
「なんていうか‥‥お気の毒様、だね」
 アークの苦笑交じりの呟きにはリリーが。
「仕方ありませんよね。逆鱗、触っちゃったんですもの」
 にこぉ、っと微笑む彼女も逆鱗を触れられた一人。
「覚悟してもらいましょう!」
「乙女の晴れ舞台の邪魔なんて言語道断、お仕置きだーー!」
 レイン、フィンらも気合充分。
「人の恋路を邪魔する人は私に蹴られて星になっちゃえばいいですよ」
 カムイはのほほんと恐い事を言ってのけ、ルーディアスが苦笑する。
「じゃあ、行くか」
 ――作戦は決行された。


 夜の静寂にハーモナー達の歌声が響く。
 一人、また一人と見張りの男達がその場に倒れ込み、気持ち良さそうな寝息を立て始めたところで彼らを起こさないよう細心の注意を払いながら作業する支援班の彼らに捕縛された。
 盗賊団、早々に残り十八名。
 支援班が敵戦力を削ぎ、正面突破班が文字通り正面から攻撃開始、そうなれば恐らく敵はウェディングドレスを取りに行くだろうから、これを奇襲班が奪還するという流れだ。
「――‥‥」
 闇の中、蜜葉のホーリーライトによって光りを灯されたルーディアスの手指が仲間達に指示を出す。
 右へ、左へ。
 人数を振り分けて呼吸を整える。
「いくぜ、やろーども! ローラさんの敵をぶっ潰せ!」
 帝の小声での気合投入に仲間達も小声で応の返答。秒読みが開始される。
 エルマ、レイン、サヴィーネ、そしてルーディアスがアジトの東西南北に準備し、同時にその体を緑系の淡い光りに包み始めた。
 大切な初撃。
 四方から四人のソーサラーが放つは威力最大のライトニングサンダーボルト――!
「ぎゃぁああああああ!?」
 朽ちた屋敷から複数の男達の絶叫が響き渡る。
 外装は今にも崩れ落ちそうだが案外丈夫で倒壊する事はなく、また、元々は身分の高い貴族か武士の別邸として建設されたものらしく三十人のブリーダーが踏み込んだところで狭さを気にするものではない。故にウェディングドレスの位置も把握し難いから盗賊連中自らその場所まで案内してもらおうと言うのが彼らの作戦だった。
 ソーサラー達が屋敷の壁に開けた穴から彼らは飛び込む。
「覚悟してもらいますよ!!」
「うぉおおおおお!!」
 所々で拡散する輝きは誰か彼かが武器に相棒を宿した光り。敵であれ味方であれ、いまこの瞬間に目の前の敵以外の事を考えている者は――。
「一人後退していますですの!」
 奇襲組のプリースト、エリが屋敷の内部を感知魔法で探索、敵に背を向けて屋敷の奥へ走っていく人物を捉える。
「エリとアシュでこの人を追うですの」
「うん」
 帝は頷く。
「ウェディングドレスを確保したらすぐに知らせてね」
「はいですの! 行こうアシュ!」
「うん」
 そうして二人を闇の中に見送り、奇襲組の面々は更にその援護へ。
 屋敷の中からは見えずとも察せられるような激しい声と物音が飛び交い、その凄まじさを物語る。


「うぉおおおお!!」
「甘い!」
 激しい気合と共に得物を振り翳して突進して来る元ウォーリアーの盗賊を相手にアッシュは上体を屈めると同時、一歩を踏み込んで左から右へ走る重い一撃をその胸部に叩き込んだ。
「まるで子供の何とやらだな。呆れて物も言えん」
「くっ‥‥!」
「目先の事に捉われ、何故そうなったかを考えないおまえ達にブリーダーを名乗る資格はない。悪人に人権はないという言葉を覚えておくんだな」
「がはっ!!」
 続けざまの第二撃に、それきり気絶するウォーリアー。
「さすがだな」と微笑むルーディアスは屋敷中に響き渡る声を上げる。
「一気に叩き潰す、逃げる暇は与えん!!」
 それは仲間への鼓舞、同時に敵への重圧。
 挑発。
 頭に血を上らせた連中は自ら墓穴を掘り始めるだろう。
 エミリアの人をおちょくると言っても過言ではないハーモナーならでは連続攻撃に冷静さを欠いた武人をカムイが一撃で落す。
「さぁ派手にやるよレイス!」
「‥‥えー‥‥あなた達に逃げ場はありません。さっさと投稿してドレス返した方が身のためですよ、本当に」
 何だかもうやる気充分のフィンとは対照的に投げやりな物言いをするレイス。
「ちょっ、何を優しい事を言ってるの!」
 優しいっていうか‥‥と溜息を吐くレイス。
 なんともやるせない気持ちになって来た。
「そっちだレイン!」
「はいっ!」
 キース、レイン、そしてユギリの連携。
「いけぇええ!!」
「はああ!!」
 盗賊ソーサラーのライトニングサンダーボルトをレインの同術が相殺、否、粉砕。
「!?」
 隙だらけの背中にキース、懐にユギリが飛び込めばそれで終わりだ。
「上上!」
「!」
 不意に響いたレイの声に見上げれば、屋根から逃げようとしている盗賊。
「逃すかよ!」
 レイが足を止め、力み、放つ技は――。
「真空斬!!」
 天上が壊れた。


 その天上から逃げる盗賊を襲ったのは支援チームのソーサラー達。
 どかーんと派手な一発に、高笑い。
「はっはっはっ、僕達から逃げようなんて考えるからだよ」と、真っ黒こげになって気絶している盗賊にポーズを決めているゲオルグ。
「おいおい、アランにやり過ぎを注意されたばかりだろうに」
 ブラッドが肩を竦めればゲオルグは笛に宿した相棒に語りかけるように、その腹を撫でる。
「何、行き過ぎる僕の攻撃はアオちゃんがちゃんと制御してくれる」
 気持ちの抑えが効かずとも心根の優しい相棒はきちんと主の想いを汲み取ってくれるのだ。自分を臆病だと感じているらしいスワローは、だが、ゲオルグにとっての唯一の相棒。
 必要な存在。
 今は闇に包まれていても、必ず訪れる美しい空の色――蒼。


「この‥‥っ」
 歯噛みしながら距離を稼ぎ、彼らに遠距離攻撃を仕掛けようとしていた狙撃手達は、しかし、突如として目の前に現れた女性に目を剥く。
「こんにちは」
 にこっと微笑まれて絶句。
「余所見してちゃダメですよ?」
「がっ‥‥」
 左右からの攻撃を受けて昏倒、そこにいたのは奇襲班の帝と藍だ。
「はい、お疲れさん。リリーさんもあんまり無茶しちゃダメだよ?」
「大丈夫ですよ、今日は何だか調子が良いのです」
 そうして先ほど盗賊に見せたのとは違う、心からの笑顔を浮かべるリリーに二人は失笑。その向こうでそっと胸を撫で下ろしているアークがいた事は、内緒だ。


 各所でハーモナー達の唄が互いを牽制し合い、光の粒子が輝き、散る。
 その中で聞こえた朗報。
「ウェディングドレス奪還ですの!」
 エリがアスラと二人、ふんだんにレースがあしらわれたドレスを抱えて仲間達に知らせる。
 奇襲班側でドレスを確保したなら、正面攻撃の彼らもいよいよ遠慮は要らない。
「覚悟してもらうんですから‥‥!」
「何でも良いがやりすぎるなよ!?」
 レインが言えばユギリが言い返す。しかし今宵、危険なソーサラーは彼女だけではなかった。
「ほーぉっほほほほ!!!」
 爆炎の中から上がる高らかな笑い声。
「久しく忘れてましたわ‥‥この感覚、この感覚! ああ、気持ちいいっ!」
 どかーん!!
 サヴィーネの暴走も手伝い、家屋の倒壊まであと僅か。
「さすがだね」
「うんうん」
 軟派紳士二人、女性の行いは本人に害が及ぶまで黙って見守るのがモットーである‥‥? 否、触らぬ神に祟りなし。



 無事に奪還したドレスを抱え、また、ドレスを盗んだ盗賊連中を全員捕縛、縄でぐるぐる巻きにして共に山を下りたブリーダー達は、一休みしようと立ち寄った村で驚くべき相手に出迎えられた。彼らが取り戻したウェディングドレスを贈られる本人――局長だ。
「ローラさん!?」
「レオ大使も!」
 レインとレイが声を上げて駆け寄れば他の面々も続く。
「どうして此処に‥‥もしかして、心配、してくれたんですか?」
 帝が尋ねればローラの表情が僅かに固まり、そして、目線を逸らす。
「‥‥最初に伝えたはずです。万が一にも貴方達の誰か一人でも負傷するような事があれば、そのドレスは私の手で処分します、と」
「はい、覚えていますよ!」
 ローラの言葉に帝は笑顔で頷き、仲間達を見遣る。どの顔を見ても掠り傷一つ負ってはいない。本当に無傷の、完全勝利。
「あの!」
 だから彼らは局長を囲む。
「ご結婚、おめでとうございます!」
 フィンが言い、エミリアがささっと近付き囁く。その顔がによによとからかうつもり満点。
「お相手の方のどんなところが気に入ったんですかぁ?」
「プロポーズの言葉、教えてください」
「え‥‥っ」
 続いてずずいっと近付いて来て核心を攻めるティセラ。
「招待状、此処にいる全員に送ってくれた? 今まで内緒にしているなんて水臭いじゃない」
「さすが師匠、その通りです」
「此処はもやしプリンを茶菓子にゆっくりと局長のお惚気談議なんて如何ですかっ」
「賛成です!」
「賛成―!」
 ライディン、ティセラの師弟技に、ノリの良い仲間達の賛同。ローラは思わず一歩後退するが、そこで素直に逃がすわけがない。
「っていうか相手は誰なんだ」
 ルーディアスが相変わらずそこを気にする。
「私もそこがひじょーに気になります」と煽るのはエルマ。この依頼を受けるまでエピドシスに留学していた彼女は「最近のエカリス事情に疎いので‥‥」なんて白々しく追求だ。
「局長さんのドレス姿、是非見たいですの」
「きっと似合うよね〜♪」
 リュイ、インヒが謳うように言う。
「結婚おめでとうなの!」
「えぇっと‥‥お、おめでとうございますっ」
 コチョン、レビィが声を大にして祝う。
「それは、あの‥‥っ」
「局長」
「ローラさん」
「ほら、ちゃんと答えてあげなさいな」――‥‥たくさんの祝福と、たくさんの喜びに、頬を赤らめるローラを囲む数多の笑顔が。

 ‥‥‥いつしか朝陽に霞み、夢と気付かされた――。



 伊織が夢の物語を語り終えるまで、開拓者達の間から補足はあっても「違う」という言葉はただの一度も上がる事がなかった。それは言い換えれば一つの夢を彼らが共有したという証――以前から同じ夢を見続け、ある可能性を考えて来た彼女達に一つの結論を導き出させる。
 つまり。
「やっぱり私達はその世界の生まれ変わり‥‥っ?」
 瞳を潤ませながら身を乗り出して来るリリアに「そうかもしれないわね」と伊織は笑む。だが「じゃあ‥‥!」と表情を輝かせた少女に「けれどね」と間髪を入れずに続ける言葉は。
「私達はあの世界で生きて来た命の生まれ変わりかもしれない‥‥けれど、その事を理解出来るのは同じ世界の夢を見る事が出来た私達だけ‥‥この世界しか知らない人達にとっては全く関係の無い世界だわ」
 この世界の理に、夢の世界を持ち込む事は関係のない人達にあの世界を押し付ける事になる‥‥それは迷惑でしかないと伊織が告げれば、その場に集まった開拓者達は悲しげな表情を浮かべた。
 それでも伊織は微笑む。
 夢の世界を此処まで想い、愛している彼らに。
「この世界に夢の世界を持ち込む事は出来ないけれど、だからってあの世界が消えるわけじゃない。遠い記憶を共有出来る仲間はこんなにたくさん居るじゃない」
「――」
 リリア達は周りを見渡す。
 其処にいる全員が、想いを共有出来る‥‥魂の絆を持った仲間達。
「あの世界はとても遠くなってしまったけれど、絆は、こうして私達の魂に受け継がれたわ」
 だから悲しまなくて良い。
 この世界でまた巡り合えたのは事実。
「これからも、一緒だもの」
 此処で生きていく今の自分が、堪らなく寂しくなる日が来たなら、その時は仲間で集まるといい。
「機会さえあれば、またきっとこんな風に夢の物語を一緒に紡ぐ事も出来るもの」
「‥‥っ」
 涙が零れる。悲しいのでもないけれど、ただただ溢れ続ける水滴。
「終わったかに思えた世界は、まだ、終わっていない‥‥」
 銀藍は言う。
「私達は変わってしまったかもしれないけれど、それでもまだ世界は続いている、‥‥嬉しいです」
 嬉しい、と。
 こうしてまた、皆と出逢えた事が、奇跡。
(そう、私がいつも見る夢はこんな風に暖かく‥‥)
 ルティスは周りにゆっくりと視線を巡らせて、一人、微笑む。
(自分は大切な何かを『護る』為に強くあった。だから私も‥‥)
 今の自分も――そんな心の決意を、偶々視線が重なった蜜葉は感じ取ったのだろう。‥‥否、彼女自身もそう心に誓っていたのかもしれない。
「この世界と、この繋がりが‥‥いつまでも続きますように‥‥。またお会いしましょう」
 その言葉が総べてだった。



 きっと今も何処かで、誰かが笑っている。
 喜んでいる。
 泣いている。
 怒っている。
 そして誰もが、きっと、独りじゃない。
「そういえば夢の中のブラッドさん‥‥この世界では誰なんだろうね?」
「‥‥判りませんけれど‥‥会えば、判るような気がします」
 リリアは言う。
 泣きそうな笑顔を浮かべながら。
「いつかお会いしたいです、この世界のおじさんと‥‥」

 ――‥‥いつかお会いしたいです、この世界のおじさんと‥‥

「‥‥ふん」
 アリスト・ローディル(ib0918)は無言でギルドから立ち去る。彼らから少し離れた柱の影で、何とはなしに聞いていたギルド職員の話に思うところがないわけではなかったが、何を言えば良いか判らなかった。
「‥‥」
 ただ、決して気分は悪くない、と。
 そう思った。


「――‥‥なんだろう」
 ギルドから離れた道端で、玲は晴れ渡る空を見上げて呟く。次の依頼に向かうべく急ぐ道中、誰かに呼ばれた気がして立ち止まったまでは良いが、周りには見知らぬ相手ばかりでわざわざ自分を呼び止めるような理由がある者など見当たらない。
「気のせい、かな」
 玲はもう一度念入りに周囲を見渡すと、少しだけ思案する素振りを見せるも、それきり再び走り出した、――次の依頼へ。

 新しい今日へ。

「グレイブ?」
 キースは空を見上げながら喉を鳴らすパートナー、甲龍グレイブの首を撫でてやった。
「どうした、空に何か見えるのか」
 問い掛けに甲龍は微かな声を漏らすだけ。何かを訴えるでもなく、望むでもなく、ただじぃっと空を見上げて音を紡ぐ。
 高く、遠く、‥‥見えない何かに想いを馳せてグレイブは鳴く。

 今日の世界も、美しい――‥‥。