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■オープニング本文 ● その依頼は神楽の都から徒歩で四時間ほど歩いた先に位置する村の人々から出されたもの。森に巨大な猪のアヤカシが出没し、猟のため森に入った男達が次々と襲われてしまい生活がままならないからこれを倒して欲しいというのだ。 化猪の体長はおよそ二メートル。 猪突猛進という諺があるように、この化猪の突進は大木の一本や二本は軽く薙ぎ倒す威力を持つ。ましてや戦場は森の中。相当の注意を払わなければ返り討ちに遭う危険は十二分にあるだろう。 「厄介と言えば厄介だけれど‥‥」 依頼書を見つめながらギルド受付職員の高村伊織(たかむら いおり/iz0087)は苦い笑みを零す。突進は確かに要注意だが、これも作戦次第。どんなに戦いに不慣れな開拓者でも怪我人を出す事無く依頼を果たす事は可能だろう。 大切なのは作戦と、仲間との連携。 「次から次へとアヤカシ退治の依頼は後を絶たないけれど放っておくわけにはいかないもの」 伊織は浅い息を吐くと手元の書類を纏める。 キリがなくても一つ一つの依頼を確実に果たしていく事、それが人々の未来のためだから――。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
葉隠・響(ia5800)
14歳・女・シ
難波江 紅葉(ia6029)
22歳・女・巫
八神 静馬(ia9904)
18歳・男・サ
リーザ・ブランディス(ib0236)
48歳・女・騎
マリー・プラウム(ib0476)
16歳・女・陰
風和 律(ib0749)
21歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● 村の中、とある家の側にある井戸の周りに多くの人々が集まっていた。 その中心にいたのは巫女装束の難波江 紅葉(ia6029)。彼女が素足で地面に紋様を描くように舞うと、患部を押さえて顔を歪めていた人々の表情が苦悶から驚きへ、そして喜びへと変化していく。 「治った‥‥っ? 治ったぞ‥‥!」 「あんた‥‥!」 喜び合う夫婦は紅葉に深々と頭を下げるも、感謝されている本人は「なんもさねー」と片手をひらひら。 「ほれ、次の怪我人は誰さねー」 「お願いしますっ」 足に大きな切り傷を負った村人に、再びの舞が披露された。 人々の負傷の原因、それは森に現れた化猪。開拓者ギルドに張り出された依頼書を見て集まった開拓者八名はその惨状に同情を禁じえなかったが、巫女以外の彼らに負傷者を助ける事は出来ない。ならば大人数が単に村で時間を消費するよりはと、その場を紅葉に任せて森に入った七人は、更に二人と五人に分かれて作戦結構に向けた準備を進めていた。 どんな準備かと言えば、まずは穴掘りである。 「これに引っ掛かって止まってくれれば良いんだがな」 村から借りてきた円匙で体長二メートルと言われる化猪が嵌る落とし穴を作っていた風雅 哲心(ia0135)は、土を掘る手を止めて自分達が作った穴を見渡す。まだ深さ十センチ程度の浅いものだが森の中の踏み固められた土を相応に掘るのはなかなかの重労働だ。ましてや面積が有り過ぎても穴にならない為、開拓者三人が中に入れば身動きが取れなくなる広さ。掘るのも自然と交代制になっていた。 「手伝おう‥‥」 額の汗を拭う哲心に、そう声を掛けた篠田 紅雪(ia0704)が円匙を受け取るべく手を伸ばす。 「ああ、頼む」 円匙を手渡し、穴を出る哲心。そこに入れ替わるように入った紅雪へリーザ・ブランディス(ib0236)が「そっちを頼む」と指差す外周。掘った土を回りに重ねて更に高低差を出そうというのだ。 「その高低差も違和感のないように滑らかな斜面にしないとな」 面倒そうに、けれど言っている言葉ほど苦にはなっていない笑顔で八神 静馬(ia9904)が言う。 そんな彼に「自分も代わろう」と申し出たのは風和 律(ib0749)。 「静馬には化猪を誘き寄せる咆哮でも力を借りねばならない。代われる事は私が請け負おう」 「俺は大丈夫。それより咆哮を使うって言うなら紅雪さんもだし、彼女の体力を温存してもらった方が‥‥」 「‥‥女だからというのがその理由なら無用な気遣いだ」 土を掘りながらも呼吸一つ乱さず、淡々と語られる紅雪の言葉には静馬も苦笑せざるを得ない。 「じゃあ、よろしく」 「ああ」 静馬の円匙は律へ。 そうして穴を掘る女性三人、休憩中の男二人。静馬と哲心は顔を見合わせる。 「女性は強いな」 「ああ」 そんな呟きを聞いて薄く笑ったのはリーザ。 「おや、あたしは気遣ってもらえないのかい?」 「あ」 「‥‥もちろん気遣わせてもらうが」 「ハッ。冗談だよ」 二人の反応にリーザが豪快に笑えば、タイミング良くと言うべきかもう一人の女傑が穴掘りに参戦だ。 「私も手伝うさねー」 「あんたは良いよ、村人の治療で力を使ってきてんだから少し休んでな」 リーザがそう応じるが、紅葉は退かない。 「いーや、確かにこわくなっけど、そったらこと言ってる場合じゃないんさね‥‥!」 「頑固だねぇ」 「ほら、貸しぃ、貸し」 手を伸ばして円匙を欲する紅葉を、更に拒もうとしたリーザだが、相手の吐息に苦手な匂いを感じ取って思わず後ずさる。 「あんた、酒飲んでるのかい?」 「あっはー、酒は命の水さねー」 「おいおい」 陽気で、真面目で、淡々としている三者三様の穴掘り姿に、男二人は苦笑する。その後、静馬は用意していた水で喉を潤すと、手近にあった大きめの石に腰を下ろして懐から笛を取り出した。 頑張る女性陣に励ましの音を。 同時に、森を探索中の彼女達にも守備は上々の合図を――。 森の中、遠くから聞こえる笛の音に葉隠・響(ia5800)とマリー・プラウム(ib0476)は木々の葉に覆われた上空を仰ぎ見た。 「笛の音‥‥静馬かな?」 響が小首を傾げると、マリーも「きっとそうね」と笑顔を浮かべる。 「あちらも頑張ってくれているんですから、私達も頑張らないと」 そうして視線を森の中に戻して探索を再開。 「アヤカシと言ったって四本足の猪だもん。お化けじゃないならきっと見つかるはずよ」 「ん」 マリーの言葉に響も笑顔で頷いた。 注意すべきは巨大な獣が通ったと見られる跡。どんな小さなものでも構わない、今現在の化猪の所在を追うための痕跡が彼女達には必要だ。 剥げている樹皮。踏み荒らされている雑草、または食い散らかされている物の残骸。小動物の痕跡とは明らかに異なるそれらを追う内、二人は同時に足を止めた。 「ぁ‥‥」 瞬かせる瞳の向こう、前方に威風堂々とした姿で立ち塞がるのは体長二メートルはあるだろう巨大猪――今回の目的である化猪に違いなかった。 ● 化猪を発見した。 響とマリーは互いに顔を見合わせてこくりと頷く。あとはこれを仲間が穴を掘っている場所まで誘導するのは自分達の役目だ。 響は呼子笛を取り出すと、勢い良く吹き鳴らした。 化猪を発見したという合図だ。 同時に、化猪に此方を気付かせる合図。 「こちらを見てるわ‥‥!」 マリーが重なる視線に身震いする。 だが、退くわけにはいかない。 「行こうか?」 「ええっ」 響の合図に、マリーは大きく頷く。確かに今回の依頼は久し振りの仕事。だが。 「私だって遊んでいたわけじゃないだからねっ!」 様子見をするように此方を見据えるだけの化猪に、響が放つ手裏剣。 マリーが放つ呪縛符。 「ブルルルル!!」 その攻撃が明らかな敵意として伝われば、化猪は右足で地面を蹴り始めた。 「行くわよ!」 マリーの合図で二人は走り出す。 一路、仲間の元へ。――背を、化猪に追われながら。 同時刻、響の呼子笛の音を確認した落とし穴準備組の面々も大急ぎで掘った穴の上に細い木の枝を並べ、上に土に還り切らなかった去年の残りだろう枯葉を積んで地面をカモフラージュすると穴よりも森の外側に立って機を待つ。 「さて‥‥」 前に立つのは静馬と紅雪、サムライ二人。 「‥‥どうだろうな」 紅雪の淡々とした呟きに、いつしか地鳴りのような獣の足音が重なって来た。 ドドドドド‥‥‥‥ その音を聞くだけでも迫る敵が巨大である事は明らか。 皆の間に緊張が走る。 突進して来る猪は木の枝など、対象の障害はものともせずに響、マリーを狙って森を駆け抜けて来た。 「はああっ!」 そんな相手に、時折背後を振り返っては手裏剣を放つ響。 しかし、巨大な獣は掠り傷の一つや二つ、全く意に介さずに二人を追い続けた。 「っ」 「追って来てくれなきゃ困るけど、この勢いって‥‥!」 言うと、響は手近にあった木の枝に手を掛け。 「響さん!?」 驚くマリーの眼前で宙に浮いた。――否、正確には木の枝を軸に腕の力だけで体を回転させると樹上にその身を躍らせたのだ。 「マリーはそのまま走って!」 「! はいっ!」 叫ぶと同時に弓を引き絞り、矢を放つ。 「グェァアァアアァァ!!」 眉間に的中した矢。 猪は叫び、動きを止めたが、それも一瞬。 「!?」 更に怒りを募らせたのか鬼のような形相で態勢を立て直すと、響が立つ樹の幹目掛けて体当たりして来た! 「っとっ!」 それでも響は枝上から体を回転させて飛び降り、無傷。 「すごいわっ」 「ま、腐ってもシノビだからね〜」 再び二人で走り出す。 そうして数分の後、木々の間に見え隠れし始めた仲間の姿。 「来た‥‥!」 落とし穴の向こうで待つ彼らもそれに気付く。 「マリー!」 「ええ、私は右にっ」 「なら私は左ね!」 少女二人が二手に分かれて生じた隙間、其処目掛けてサムライが咆哮する。 「こちらだ、アヤカシ‥‥!!」 「うぉおおおおお!!」 激しく、大気までも震わさんとする圧力。 無視など出来るはずがない闘志。 「グゥァァアアアアアア!!」 化猪も負けじと咆哮。サムライ目掛けて突進して来た。咆哮の効果を確信した彼らは一歩後退。だが、其処まで。引いたのも軸足とは逆の足のみで、手は各々の得物を握る。 「来るぞ!」 アヤカシの殺気が彼らに届くかという直前で不意に化猪の体勢が崩れた。前足から問答無用に傾き嵌ったのは、穴。 「よしっ!!」 静馬は気合の入った声を発すると同時に刀を抜いた。 ● 森の中、紅葉の舞が仲間の攻撃力を高めて行く。設けた穴の中を水に浸し、泥状のぬかるみを作ろうと提案したのは彼女だった。 「単純な奴だけに効果は望めると思ったよ!!」 猪突猛進という諺があるように、猪相手に込んだ細工は不要と確信していたリーザが上体を屈めて地を駆ける。狙うは足。ぬかるんだ地面に埋もれていく前足を必死で地面の上に引き戻そうとしている化猪の後ろ足は隙だらけだった。 「はああああぁぁぁ!!」 リーザの気合と共に唸る大太刀。真横一閃、描かれる軌跡はアヤカシの足を裂く。 「せやぁあああ!!」 強い気合と共に放たれる静馬の衝撃波が同じ場所に更なる傷を。 「グルルァアアア!!」 「っ」 怒りを露に吠える獣の威圧感に我知らず息を呑むが、負けられない。 「天儀六国精霊御身の命以て――」 マリーは呪を唱え、符を放つ。 符はカマイタチに似た姿を象り化猪の目を狙い。 その巨体が穴から抜け出せるかという絶妙の間で顔面を襲う手裏剣は響。 続け様に唸る風がアヤカシの四肢を襲う。 「――‥‥せぃやぁっ!!」 哲心の刃が放つ衝撃波。 律の斬撃。 「猪突猛進もそこまでだ‥‥騎士の進撃はそれ以上に、重い!!」 「グルルルルッ!!」 律の言葉を拒むように。 抗うように、化猪は全身の毛を逆立てて唸る。 咆哮する。 力む後ろ足が、その着地点から地面に皹を生じさせ始めていた。 「八百万精霊等共爾――!」 マリーの符が更なる攻撃を仕掛けるが、化猪は後ろ足二本で立ち上がった! 「グルルァァァアアアアア!!!」 「っ‥‥‥‥!!」 その威圧感に響、マリーは身を竦ませた。 律も心臓が押し潰されそうな錯覚に陥るが、その拳を握り締め、爪先から来る痛みで己を踏みとどまらせた。 「‥‥っ‥‥この私の鎧と意志、大木と同じように踏み越えられると思わないでもらおうか‥‥!」 刀を振るい、駆ける。 「無茶するんじゃないよ‥‥!」 その援護にリーザが大太刀を振り下ろす。 立ち上がろうとした猪を再び穴に叩き落とす。 (タフな相手なのは判っていたこと‥‥長期戦は皆が覚悟してる) 響の胸中の呟きは皆が共有している思い。 飛び道具を放ち、斬撃を飛ばし、気合で負けず、数で押す。 「そろそろ決めるか」 哲心は珠刀を構え、気を集中させる。 全身に練力を漲らせて放たれる大技――星竜光牙斬。 「星竜の牙、その身に刻め!!」 真正面からアヤカシの脳天目掛けて振り下ろされる刃。 激しい衝撃に化猪の声にならない叫びが大気を震わせた。‥‥崩れる巨体の輪郭。それでもまだ動こうとする四肢を静馬が、律が捕らえる。 塵のように、音もなく消え行く瘴気。 「‥‥終わった、か」 紅雪が呟く。 後に残されるのは開拓者達が掘った穴。 無惨に踏み荒らされた森。 しかし敵意を放つものの無くなった土地には澄んだ風が吹いていた。 ● 「真っ直ぐな奴は嫌いじゃないがね。真っ直ぐ過ぎても駄目なもんさ」 円匙で外周に積み上げていた土を崩し、穴に戻しながらリーザ。 「勝負にも何事にも変化ってもんを織り交ぜないとね」 「正しく」 哲心がにこやかに応じ、やはり円匙で一仕事。 そんな仲間達を見遣って静馬が手を伸ばす先には律がいた。 「そろそろ代わるよ、ほんとに」 「いや、ここは私が」 「さっきからその調子で全然休んでないよ?」 「まだ疲れてはいない」 「律さん‥‥」 心配顔の静馬の言葉にも決して円匙を譲らない律は、此度の戦闘に思うところでもあったのか、目の前の役目を全うしようと強く決意している様子だ。 そんな二人を見つめ。 「気持ちは楽にしておかないとさねー」 紅葉が言いながらゆらゆらと揺らす徳利の中身は、もちろん酒。マリー、響にも勧めたが水で良いと断られたらしい。 「一緒にどうさねー?」 誘われて、静馬は思わず笑ってしまった。 少し離れた先では紫煙を燻らせている紅雪。 各々抱えているものはあるだろうが一先ずは依頼達成と、その表情は穏やかに青い空へと向けられるのだった――。 |