蛇と鰐と、化猪〜鰐
マスター名:月原みなみ
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/07 23:06



■オープニング本文

 ●

 穂邑(ほむら/iz0002)は開拓者ギルドで次の依頼を探すべく多くの依頼書が張り出された掲示板の前で立ち止まった。と、同時に気付く見覚えのある姿。ギルド職員の高村伊織(たかむら いおり/iz0087)が一枚の依頼書を外しているところだった。
「伊織さん、伊織さん」
「あら、穂邑ちゃん」
 声を掛ければ彼女も笑顔で応じてくれる。そうして手元を覗き込めば、彼女が外したそれは人数が揃いもう間もなく出発しようという依頼書。
「アヤカシが信仰対象‥‥?」
「アヤカシがというよりも白い蛇が、ね」
 地方によって信仰対象は様々ということである。
 些か痛ましい概要はあえて伏せ、依頼書を四つ折りにして胸元に仕舞い込んだ伊織は、話題を逸らすようにまだ歳若い少女に問い掛ける。
「今日はどんな依頼を探しているの?」
 そう聞かれた穂邑は小首を傾げ、難しい顔。
「どうしようかな、と思って」
 少女は自分の力の使い方を悩んでいると告げる。志体持ちとして生まれて来たから、この力を役立てる生き方をする事に疑問を感じた事など無かった。とある切っ掛けから開拓者となった事も恐らくは穂邑の人生にとってとても自然な流れだっただろう。
 だが実際に開拓者となった今、どうしたら良いのか。
 自分には何が出来るのか。
「‥‥考え過ぎだって、笑われるでしょうか?」
「いいえ」
 自嘲気味な事を言う穂邑に伊織は優しく笑う。
「じゃあ、まずはこんな依頼なんてどうかしら」
 そうして指し示したのは、水源である川に鰐に良く似たアヤカシが出没したから倒して欲しいという依頼だった。場所は開拓者ギルドから徒歩で二時間程度の村だ。その村に暮らす人々には、アヤカシを警戒して川に近付かないよう既に告知済み。敵は腹が空けば本能のままに餌を求めて姿を現す獣だ。囮を準備するなどして誘い出したところを皆で叩けば、依頼は達成されるだろう。
「たまにはこういう初心に返る依頼も大切だと思わない?」
 そう言って母親のような笑顔を浮かべる伊織に、穂邑も笑った。
「鰐は顎が強くて噛み付かれでもしたら大変な相手ですし、そんな時にはあたしの巫女の力が役に立てますよね」
「ええ」
 たまには初心に返って戦おう。
 穂邑はその言葉に不思議な心地良さを感じて頬を緩ませた。


■参加者一覧
一條・小雨(ia0066
10歳・女・陰
神流・梨乃亜(ia0127
15歳・女・巫
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
有栖川 那由多(ia0923
23歳・男・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
のばら(ia1380
13歳・女・サ
シア(ib1085
17歳・女・ジ
ユーフォリア・ウォルグ(ib1396
16歳・女・騎


■リプレイ本文


「わぁ‥‥っ」
 その依頼を受けるために集まった開拓者達を見て穂邑は目を輝かせる。
「はじめまして。有栖川 那由多(ia0923)、です」
 穏やかに微笑み掛けて来る那由多に穂邑も自己紹介。よろしくおねがいしますと手を握る。すると、その横から「嬉しいな」と喜びの声を上げて腕を伸ばしてきたのは水鏡 絵梨乃(ia0191)だ。
「穂邑と一緒に行動出来るなんてね」と問答無用に抱き締め、触り、触り。
「え、きゃ、わっ?」
「んー、七二、五四、八〇って感じかな?」
「何を言っているんですか絵梨乃さんっ」
「あはは、真っ赤になって穂邑可愛いー」
「え、絵梨乃さん‥‥っ」
 以前から親交がある相手の過度なスキンシップに顔を真っ赤にする穂邑には、のばら(ia1380)も「可愛いのですっ」と頭を撫でて来た。そうされていると決して悪い気はせず、それはそれで困った穂邑は気を取り直すように声を出す。
「のばらさんも、今回の依頼にご一緒して下さるのですよね?」
 尋ねれば「はい!」と気持ちの良い返事だ。
「慣れたと思った時こそ基本を思い出す、‥‥母様もそう言ってましたから、ワニ退治、油断なきよう頑張るのですっ」
「ボクもね。頑張らせてもらうよ」
「俺でよければこき使って下さいな」
 のばらが言い、絵梨乃が頷き、那由多はギルド職員の伊織を一瞥して微笑む。
 同時に両手を上げて元気いっぱいな声を発した神流・梨乃亜(ia0127)は小柄で華奢な外見に反してやる気充分。
「よーし、わにさん退治がんばっちゃうよぉ〜♪」
 一條・小雨(ia0066)、紬 柳斎(ia1231)、シア(ib1085)、ユーフォリア・ウォルグ(ib1396)と集まった面々にも異論のあるはずがない。穂邑も加わり、九人が揃ってギルドを出発した。


「にしても鰐退治の舞台が川やったら、今の時期が旬の川魚もおった筈やな‥‥」
 道中、そんな事をぽつりと呟いたのは小雨だ。
「川魚、川魚‥‥塩焼き‥‥」
 ぎゅるるるるる‥‥。
 聞くだけで不思議と美味しく感じられる少女の呟きに、お腹の音で応じたのはユーフォリア。
「いえっ、今のは‥‥その‥‥!」
 恥ずかしそうに頬を染める彼女に小雨は「ふっふ〜ん♪」と得たり顔。
「よっしゃ、依頼が無事に済んだら魚釣りして皆で食べよか!」
「無論その席には酒も有りだな?」
「もちろんやわ♪」
 柳斎の言葉にも小雨の笑顔は満開。
「穂邑姐はんも居ることやし、この機会に親睦深められたらえぇな」
「え、あたしですか?」
 唐突に名前を呼ばれた穂邑が驚いて振り返れば「それはいいね」と絵梨乃。
「ボクも賛成だよ」
 先ほどから静かに話を聞いているだけのシアも、別段断るつもりはなさそうだ。釣ったばかりの魚をその場で焼いて食べれば美味しいに違いないし、そこに酒と楽しい話題も加わったなら上々。そんな話をしていたらユーフォリアの腹はますます空腹を訴えてくる。
「鰐肉って美味しいのでしょうか‥‥いやまあ、相手はアヤカシですが‥‥」
「ふむ‥‥そういえば鰐の皮は良い材料となるらしいな‥‥そう考えると何も残らぬアヤカシであるのが勿体無い」
 ユーフォリアに続いて柳斎もぽつりと一言。
 すると梨乃亜は小さな手を上げる。
「梨乃、わにさん釣りたい!」
「んー、鰐を釣竿で釣れるかっていうのが疑問だけど、誰かが囮になればある意味、釣れるかも?」
「囮‥‥?」
 その単語にはシアが微かに眉根を寄せるが、作戦はその方向で決まりらしい。誰が囮をやるかでしばらく心優しい譲り合いが続いたが、最終的には回避能力に長けた絵梨乃が担当する事になった。
「よっしゃぁ皆! 気張っていくでぇ!」
 まずは釣竿の準備から! ‥‥娘達は、本気である。



 準備した釣竿を担ぎ、件の村から川上に向けて探索を開始した一行。川岸からでも川底の砂利が目視出来る透明度は鰐が近付けば見逃しようがないように思えるが、単に川縁を歩いているだけでは何処かに隠れているかもしれない鰐を誘き出すのは難しいだろうというのが全員一致の意見だった。
「ですが囮には危険が伴います」
 囮役になる絵梨乃を思い、シアが淡々と告げる。
「適当に人間大の布の塊でも作って服でも着せて、誤認させられないかしら。アヤカシだから生命の気配を察知してる可能性はあるけど、間違えてくれるなら、誰かが囮をやるより安全だから」
「シア‥‥」
 自分の身を気遣ってくれる相手に、絵梨乃は胸の前で両手を合わせて感動のあまり瞳を潤ませた。
「ありがとうシアっ、君の気持ちに応えるためにもボク頑張るよ‥‥!」
「!」
 がばっと両腕を広げて抱き締め体勢に入る絵梨乃の動きは早業だったが、ノリで抱き締めようとした彼女と、本気で拒もうとしたシアの回避は、若干だがシアの方が勝った。
「それは結構よ‥‥!」
「えー?」
 ギルドで彼女が穂邑にした事をしっかり見ていたのだろう。本気で拒まれては絵梨乃も無理強いしない。残念だと苦笑するだけだ。
 そんな彼女達の遣り取りが終わったのを見計らい「囮の件だが」と柳斎が口を切る。
「シアも言うようにアヤカシは命あるものを本能で察知するようだ。鰐みたいな本能だけの獣相手じゃ布の塊で誤認させることは難しいだろうさ」
「それに絵梨乃姐はんの事やったら心配は要らんわ。特に急ぐ事情もないようやし、皆で警戒しながらゆっくり進んだらえぇ。それにもしも万が一が起きはったら、しゃぁないから骨だけは拾っといたるし」
「言うじゃないか」
 小雨の辛口を笑顔で受け止める絵梨乃。
「小雨も一緒に囮になるかい?」
「冗談きついわ。うちみたいな良い子が囮になったらアヤカシも遠慮して出てこんくなるし」
 どちらも本気か冗談か区別のつけ難い言葉の応酬にユーフォリアは目を瞬かせる。
「‥‥というか、参加メンバー、色んな意味で凄まじいですよね、うむ‥‥」
 感心したように呟くユーフォリアへ、たまたま聞こえていた那由多が「だね」と苦笑い。そこに戻って来たのはのばらと梨乃亜だ。
「周りには、この川以外の水場はないようです!」
 村人達から情報を集めに行っていた二人の報告で、ならば鰐がいるのはこの川沿いに絞って良さそうだと判断した一同は、周囲を注意深く探りながら川上に向かって歩き始めた。


 注意すべきは川沿いに動物の死骸などが無いか。
 川沿いに生えた草葉が不自然な動きを見せないか。
 裾を捲り上げて川に入った絵梨乃から一〇メートル程の距離を取って川沿いを歩く面々は、そういった事に注意していた。
 更に、そうして歩きながらも釣り竿を手に、糸を川に垂らしていたのは梨乃亜だ。一箇所に留まって釣りだけをしていれば仲間達と離れてしまい、鰐が此方に引っ掛かった場合に梨乃亜一人で対処する事は難しい。
「わにさんもおなかが空いているはずだけど、これで釣れるかな〜?」
「釣れると良いですね〜」
 ほわわんとのばらが言う。
 穂邑も「ですね!」と同意しながら川に視線を戻し、‥‥ふと、その視線に影が差す。
「‥‥穂邑さん?」
「えっ‥‥」
 呼ばれて声の主を見上げれば那由多が小さく笑った。
「何か考え事、してたのかな」
「いえ‥‥っ」
 左右に首を振って否定する少女に、けれど那由多は誤魔化されなかった。
「結構顔に出やすいって、言われない?」
「そんなことは‥‥」
 無いと言いたくても否定出来ずに言葉を詰まらせる穂邑の背を、那由多はトンと叩く。
「まだまだ若葉印のついている俺が言うのもおかしいけど‥‥気楽に、いこ?」
「気楽に‥‥」
「俺達が一緒だし、それに‥‥絵梨乃さんは大丈夫だよ」
 その言葉に穂邑の目は見開かれ、いつしか笑顔を取り戻す。
「そう、ですね‥‥」
「うん」
 向けられる笑顔に不安を取り除かれて、進む川沿い。
 囮役である絵梨乃は古酒を口にしながらゆっくりとした歩調で川の中を行く。川底には大小様々な石が転がっているため、足裏を怪我しないようにと履かされた草鞋が些か指の付け根を締め付けるが動きを妨げる程ではない。
 時折、背拳を使用して背後にも警戒しながら進む内――。
「と、とと」
 絵梨乃は川底にゆらめく塊を避けようと体をふらつかせた。
「これは‥‥」
 何かと確かめるように目を凝らせば、その塊から赤い筋が延びている事に気付く――血、だ。黒よりも茶に近い毛色の小さめな塊は、兎だろうか。
 まだ血を流す動物の死骸が川底に転がっている理由、それは‥‥?
「見つけたかもね」
 絵梨乃の声に全員の集中力が一瞬にして高まった。
 梨乃亜は釣竿をその場に置くと天に手を翳し、その幼い指先で虚空に波を描き、舞う。高めるは絵梨乃の防御力。
 温かな風が仲間を包み込んだ。



 水面に波紋が生じたのを彼らは視認した。川沿いを歩く仲間とそれぞれに目線で会話した絵梨乃は気付かぬフリで更に前進。近付く波紋に押されたかのようにふらりとよろけながら手にしている古酒で喉を潤す。
 水面に浮かぶ黒い影。
 絵梨乃の身体は川岸を向く。
「‥‥っ」
 一同の間に走る緊張感、そして――。
「あ」
 絵梨乃は気付いた。回避能力に長けた身とはいえ膝から下に水圧の掛かる水の中で動きが鈍るのは当然、更に水中は鰐の領域。
「早い‥‥っ」
 来た、と気付いた時には間近。
 その巨大な口が川から飛び出した!
「グァアアア!!」
「!」
 激しい水飛沫と共に迫る獣の本能。
 鰐の牙が絵梨乃の腰目掛けて剥き出され、絵梨乃は川岸に腕を伸ばして手を付いた。
「「急々如律令!!」」
 同時、那由多と小雨、二人の陰陽師が式を飛ばす。式は鰐の手足を、大きく開いた口を拘束。岸についた手で自身の身体を支えた絵梨乃は横飛びの要領で川を飛び出した。
 しかし拘束は僅か一瞬。
 細い足が鰐の開いた口の傍を過ぎる前に勢い良く閉じた。
「ぁっ」
「絵梨乃さん!!」
 穂邑が叫んだ。
 鰐の牙が絵梨乃の足首を掠める。
 血が、散る。
「この‥‥っ!!」
 シアが飛び出した。上体を屈めて疾走、鰐に迫る彼女にのばら、ユーフォリアが続く。接近する獲物に――シアに再び鰐の巨大な口が迫った。
「グァアアア!」
「その口もそこまでだ!」
 柳斎が怒号を上げ、鰐の口目掛けて短刀を放った。
 ガキンッ!!
 凄まじい音を立てて放たれた短刀を噛み砕いた鰐は、しかしさすがに違和感を禁じえなかったのだろう。僅かに動きを止めた、その一瞬に。
(囮などと危険な真似を任せるしかなかった分‥‥っ、ここで役に立たねば‥‥!!)
 シアが脳天目掛けて踵を振り下ろす!
「グァフッ‥‥!」
 口の中で息が泡となって割れたような音を立てる鰐は、しかし元来丈夫な皮を持つ為に気を失うでもない。
「グルルルル‥‥!!」
 むしろ更なる敵意を剥き出しにシアに牙を剥く。だがその直前、開いた口に刀を握る手を突っ込んだのは、のばら。
「!」
「っぁあっ」
 刀を立てて素早く抜くも、口の中に気配を感じた瞬間の獣の口を閉じる速さは神速。牙は彼女の腕を掠め、血を滴らせた。
 しかし同時に口内で立てられた刀は問答無用に内から外へ刀身を現す。
「フギュルルルル!!!!」
 さすがの痛みに鰐が叫び。
「うぉおおおお王ぉぉぅ様根っ性ぉおお――――!!」
 口の真ん中から突き出した刀に解いた腰紐を巻きつけて握り、鰐を川から引っ張り出そうと試みるユーフォリア。
「拙者らに喧嘩を売るなら同じ土俵に上がってくるんだな‥‥!!」
 柳斎、のばらが力を合わせる。
 のばらは練力を用い腕の筋力を強化させての援護だ。
「グルルルル!!」
 振り上がる、尾を。
「させません!」
 歪む空間で捕らえた梨乃亜。
「邪魔はさせない!」
 那由多の火輪が鰐の気を散らせる。
「さぁて、そろそろ絵梨乃姐はんの仇を取らせてもらうでぇっ!」
「まだ死んでないから」
 小雨の縁起でも無い台詞にからからと笑いながら、穂邑の治癒を受けた絵梨乃は立ち上がった。
「おおおおーー!!」
「出た!」
 ユーフォリア、柳斎、のばらの合わせ技で川から引っ張り出された鰐。
「あとは任せる!」
 不意に柳斎は手を離し、所々血の滲む掌を着物で拭いながら走り、己の刀を鰐の尾目掛けて振り下ろした。
「くっ‥‥」
「グフゥーーー!!」
 尾に突き立てられた刃に鰐の巨体が痙攣を起こす。
 しかし固い表皮に阻まれて刃は地面まで届かない。
「そのまま!」
 そこに走りこんだのは那由多だ。
「尾を地面に縫い付けるんですね!」
「ああ!」
 こちらも二人掛かりで鰐の尾を貫いた!
「さぁ、いこうかシア」
「っ、はい!」
 絵梨乃とシア、二人の泰拳士がその身一つで駆け、鰐目掛けて拳を、踵を振り落とした。
 鰐が苦悶の声を上げる。
 動きを拘束され、痛みと、怒りが獣の本能をも崩壊させる。――そうなれば、あとは攻撃の数を重ねるのみ。
「鬼さんで鼻っ面殴りつけたるんと斬撃符でどでかいの一発かますん、どっちがええやろな?」
 小雨が考えた末に繰り出したのは斬撃符。
 鰐がその巨体を塵と化し消え行くまで、多くの時間は必要なかった。



「ほな当面の問題も片付いたところで‥‥魚釣るでー!」
 小雨が釣竿を掲げて宣言。
「はいっ、釣るのです♪」
「付き合おうじゃないか」
 梨乃亜、絵梨乃と続く。
「そうですね。依頼は無事に達成できたわけですし」
 言う那由多がにこりと微笑みかけた相手は、穂邑。
「穂邑ちゃんと梨乃亜さんのおかげで怪我人も無し、だし」
「‥‥あたし、お役に立てましたか?」
 不安そうに聞いてくる穂邑に那由多は笑みを強める。
「自信を持たない事と、持てない事は、違うよ」
 難しい表現に小首を傾げる少女に那由多は続けた。
「悩んだり、考えるのは全然良い事なんだ。そこで立ち止まりさえしなければ。今に満足してないってことだし‥‥後ろを知っているから前を向ける」
「はい‥‥」
 穂邑がまだ難しい顔をしていれば、ユーフォリア。
「いずれ王になる者としても初心忘れるべからずですね、うむっ」
「志体を持つからアヤカシと戦える‥‥だからのばらは、出来る限りアヤカシから人を助ける為に力を使いたいな、と」
 のばらもそう言葉を紡いだ。
「‥‥お飾りの人形より、その方がずっと」
 人形、と。その言葉が穂邑の胸を疼かせる。
 それを知ってかしらずか、のばらは微笑んだ。
「自分の居場所も、開拓、しなくちゃです」
「少しずつでも歩いていこう。‥‥ね?」
「‥‥はい!」
 仲間の言葉に穂邑は大きく頷く。迷っても、決して立ち止まらない事を自身に固く誓いながら。
「そういえば」
 ふと聞こえてきたのは柳斎の声。
「鰐の肉は鶏のようと聞いた事があるが‥‥今となっては確かめようもないか。さて、ジルベリアにはあるのであろうか?」
「では、今度はジルベリアに鰐肉を探しに行きましょうか!」
 穂邑の唐突な提案に乗り気の者、苦笑する者、反応は様々だったが、シアは一人、己の拳を見つめていた。
(‥‥こんなところで躓くようじゃ、もっと上なんて夢のまた夢だから‥‥)

 強くなろう。
 まだまだ、これから。