|
■オープニング本文 ● ギルド職員の高村伊織(たかむら・いおり/iz0087)は朝からこれまでに受けた依頼の書類を確認しながら小さな溜息。 「あっちもこっちも大変ね‥‥」 一つは森に出没したアヤカシ――巨大な猪の姿を象ったそれが狩りの為に森に入る猟師達に襲い掛かり被害が出ているので助けて欲しいというもの。 一つは川沿いに出没したというアヤカシ――姿形は鰐によく似ており、これが川に近付く人間、動物を見境無く襲い、被害が後を絶たないから何とかしてくれというもの。 そして最後の一つは白大蛇。 「これが厄介なのよ‥‥」 伊織は再び息を吐いた。 その依頼を要約すると、場所は神楽の都から半日ほど徒歩で移動した先の、小さな集落。依頼主は旅の途中にたまたま其処に立ち寄った若い夫婦の、夫である。 彼らは、まさかその土地が白蛇を信仰の対象としているとは知らなかったし。 彼らの来訪を見計らったかのように真っ白な大蛇の姿を象るアヤカシが集落から程近い沼に出没し始めている事など知る由も無く。 更には信仰の対象となる白蛇には生贄を捧げることで水害から村を守ってくれるという慣わしが伝わっていた事が彼らの最大の不幸。集落の人々はこの時期に村を訪れた夫婦の、妻を、これ幸いと生贄に定めてしまったのである。都会から隔離されたかのようにひっそりと地方で暮らす小さな集落の人々にとっては、例えそれがアヤカシであろうとも先祖代々信仰して来た白大蛇を疑う理由など無いのだ。 旅立とうという日の朝、目が覚めると妻の姿が隣に無く、村の人々に尋ねれば「朝早くに一人で村を出て行った」との返答。あまりにも不可解な事態に自分も妻を追うフリをして村を出た夫は、こっそりと村に戻って探索を続け、木造の古びた家の屋内で柱に縛られた妻を見つけ出したという。 生贄にされると涙ながらに訴える妻に、自分が必ず助け出すからと約束した夫は、しかし一人ではどうしようもなかった。 家屋が古びていて壁に開いた穴越しに会話は出来ても、小屋の周りには見張りが複数名ついており連れて逃げ出せるほど己の腕っ節に自信は無かった。失敗すれば自分は殺され、妻はアヤカシの生贄になってしまう。 どうするのが最良かと悩みに悩んだ末、夫が思いついたのが神楽の都にある開拓者ギルドで、妻を助けてくれる協力者を募る事だった――。 「助けてあげたいわね」 伊織は呟き、三度息を吐く。 何の罪もなく、たまたま痛ましい伝承を守り通す集落に行き着いてしまったばかりにアヤカシの生贄とされそうになっている女性。彼女を村から助け出して再び夫の隣に帰らせてあげること――若い夫婦の未来は、開拓者に託されようとしている。 |
■参加者一覧
有栖川 那由多(ia0923)
23歳・男・陰
葉隠・響(ia5800)
14歳・女・シ
汐見橋千里(ia9650)
26歳・男・陰
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
ベルンスト(ib0001)
36歳・男・魔
アリステル・シュルツ(ib0053)
17歳・女・騎
リア・ウィンフィード(ib1014)
16歳・女・魔
ユーフォリア・ウォルグ(ib1396)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● もう間もなく陽が完全に落ちようという時分。森の中に身を隠していた彼らは、其処から村の様子を伺っていた。見える範囲で家屋の数は十七戸。時折、木々の向こうから姿を現す人々がいる事も考えると、この村は縦に広がっているのだろう。事前の情報では救出すべき人物が囚われている家屋からは、村の全ての住居が見えるとあった。つまりは村のほぼ中央という事になる。 葉隠・響(ia5800)が全体を見渡せそうな位置にある家屋にあたりをつけている間、汐見橋千里(ia9650)は太めの木の幹に体を預けて小さな吐息を一つ。 (志体を持たぬ者が生きていくためには縋る存在が必要な事は理解出来るが‥‥) それで外部の人間を犠牲にするのは見過ごせない。 ユーフォリア・ウォルグ(ib1396)や有栖川 那由多(ia0923)も同じ思い。気配こそ静かだったかその表情は険しかった。 「こういう部族の習慣やら儀式やらには関らん方が良いんだが、巻き込まれたんじゃ仕方がねぇよな」 「確かに誰が何を信仰しようと俺は否定しませんけど‥‥」 シュヴァリエ(ia9958)の言葉に低く応じる那由多。 「‥‥けど、信仰の異なる人間を生贄にするなんて、神経を疑います、ね」 「同じ命ある人を生贄にだなんて、‥‥信じたくありませんでした‥‥」 落ち込んだ様子のリア・ウィンフィード(ib1014)の肩を、アリステル・シュルツ(ib0053)がぽんと叩く。 生贄だなんて古い考えだと否定するだけならば簡単だ。だが、否定だけでは何も解決しない。 「僕達は、僕達の信じる『正しい事』のために力を尽くそう」 「‥‥っ、はい!」 あくまで村の人々に気付かれぬよう声を殺しての言葉の遣り取り。それでも同じ場所にいる開拓者同士であればその会話は聞こえたに違いない。 だから、それは。 「‥‥チッ」 ほんの微かな舌打ちは。 「‥‥アリステルさん?」 「!」 彼女の視線が一点に固定されたまま黙ってしまった事を不思議に思ったリアが呼び掛ければ、アリステルは弾かれたように顔を上げた。 「どうかなさったんですか?」 「ううん、何でもないんだ」 言い、彼女が再び見遣る先には炎のように赤い髪を掻き上げるベルンスト(ib0001)が佇む。 (名前は同じだけれど‥‥でも‥‥) 決して此方を見ようとしないばかりか、仲間の誰とも会話しようとしない彼と同じ名前の人物をアリステルは知っている。だが。 (そんなわけない‥‥) アリステルは胸中に繰り返す。 「よっし、いこうか」 響が全員に声を掛けたのは、その時だった。 ● 黄昏時から夜へ。 辺りを覆い始めた闇に紛れて彼らは行動を開始した。四人は民家に近付かないよう配慮、誰かの目に触れる事を避けながら村の奥、沼へ。今回の依頼主の妻を救出する四人は、シノビの響を先頭に足音を立てないよう細心の注意を払いながら件の小屋へ近付く。 (見張りがいる小屋‥‥やっぱり、それだね) 身を伏せ、草むらの影からそれを視認した響は背後を振り返り、指の動きで仲間に指示を出した。見張りは三名。此方も三名なら手は足りる。 (シノビの任は完遂にこそあり、ってね) だんだんと暗くなる村に明かりが灯り始める。見張り小屋の前も同様、そこが狙い目。 (今だよ!) 響の合図を受けて木々の合間から飛び出したのはベルンスト、千里、アリステル。 「なっ!?」 突然の物音に見張りの村人達が顔を上げた。しかしその時には既に至近距離に彼らの姿。護衛用か、はたまた攻撃用に準備していた棍棒を振り上げる暇もなかった。 「がっ」 「ぐふっ」 たった一撃で昏倒する見張り達。 「うぐっ‥‥!」 気絶させた村人を小屋の影に隠し、彼らから上着一枚を剥いで被った千里が「行ってください」と声を上げる。自分が見張り役を装っている間に中の女性の救出をという意味だ。ベルンストは見張り三人の監視、小屋にはアリステルと響が入る。 「お邪魔しまーす」 相手を驚かさないよう気遣い、あえて陽気な声を上げて覗き込むような仕草を見せてから中に入った響に、柱に縄で拘束されていた女性は青白い顔に怯えの色を滲ませた。 「だ、だれ‥‥っ!?」 「しぃっ」 唇の前に人差し指を立て、静かにと伝えるのはアリステル。 「僕達は貴女の旦那さんに頼まれて、貴女を助けに来たんですよ」 「たす‥‥け‥‥?」 「そ」 聞き返してくる彼女に頷き、響は素早く服を脱ぐ。その間にアリステルは女性の縄を解き彼女にも衣服を脱ぐよう指示。二人の衣装を交換して変装する事で、僅かな時間でも村人達の目を欺く事は出来るはずだ。 「さぁ早く。旦那さんが貴女を待っていますよ」 「ぁあ‥‥っ」 ぼろぼろと涙を零す彼女を宥めながら着替えを手伝ったアリステルは、最後に響を、先刻まで女性がされていたのと同じように縄で柱に縛りつけた。桃色の髪は鬘で覆い隠し、顔が見えにくくなるよう左右に垂らして小細工も完了。 「それではまた後で。よろしく♪」 「ん。そっちも気をつけてね」 アリステルは女性を連れて小屋を出ると、千里、ベルンストと共に走り出した。途中からは彼女を千里に預け、その姿が遠ざかるのを見計らって二人が起こす騒ぎは、陽動。 「‥‥こんな面倒を起こすくらいなら、叩き潰す方が楽で良いんだがな」 ベルンストの低い呟きにアリステルは三度動揺するが、彼の手に浮かぶ火の玉に我に返った。 火球は森の木に放られ、燃え始める。 アリステルは深呼吸を一つ、火が燃え広がろうというその瞬間を狙い、叫んだ。 「――‥‥っ、火事だ!!」 ● 村の方が俄かに騒がしくなり始めた事は、身を潜めながら沼に近付いていた彼らにも伝わっていた。 「そろそろかな」 那由多が呟き、表情を引き締めた。あちら側で騒ぎを起こし村人達の気を引いている間に、此方は沼に出没したというアヤカシを退治する。そういう計画だった。 「‥‥とは言いましても、私にはアヤカシを退治する有益なスキルというものが無くて、ですね‥‥」 緊張しているのが如実に伝わってくる様子のリアにユーフォリアが「大丈夫」と背を叩く。 「救出は任せっきりになってしまいますが、私達は私達の出来る事をやりましょう‥‥!」 「‥‥そう、ですね」 リアは拳を握る。 「少しずつでも困っている方のお役に立たなければ‥‥そのために持って生まれた志体ですもの、ね‥‥」 「だよ! それに私は怒っている!」 ユーフォリアも胸の前で固く握った拳を震わせ、キッと空を見据えて言い放つ。 「信仰のためとはいえ、無関係の幸せな夫婦を巻き込むとは‥‥その所業。王を目指す者として断じて許せませんーーっ!」 二人揃って十代の少女、そして同じく今回が初依頼。互いに励まし合う二人の姿は見ていてとても微笑ましかったのだが、ユーフォリアの最後の台詞には思わず目を瞬かせてしまった。当の本人は意気揚々と沼に向かうが、リアは確認せずにはいられない。 「‥‥王様とは、天儀では目指してなれるものなのですか‥‥?」 ジルベリア生まれのリアが不思議そうに問い掛ければ、聞かれたシュヴァリエは「無理だろう」とあっさり。 ただ、ユーフォリアは本気だ。その直向な姿は冗談と笑い飛ばせるものではなかった。 「それなら、‥‥王様への第一歩か」 シュヴァリエが言い、足を止める。彼らの眼前に広がる沼の外周には、これから生贄を捧げる儀式を行なうためだろうか、幾つもの松明が灯されており視界に困る事はなさそうだ。 「‥‥沼の周りに人影は無し、ですね」 「こんなところをうろちょろしていれば自分が贄になるからだろう」 最初に到着したユーフォリアの確認にシュヴァリエが淡々と言い放ち、恐らくそれが事実なのだろうと思えばこそ眉を寄せていた那由多は軽い吐息を一つ、気を取り直して口を切る。 「さて‥‥なら後は、アヤカシをどう誘き出すかだけど」 「ぁ、あの!」 すぐに手を上げたのはリア。 「わ、私に、やらせて下さい!」 ● 別働隊が沼に到着した頃、千里は依頼主の元へ辿り着いていた。万が一、村から追っ手が差し向けられても隠れられるよう偽名で取った宿である。 「あなた!!」 救出された妻は依頼主である夫の姿を見てようやく安心したのだろうか。名前を呼び、力強く抱き締めてくれる夫の腕の中で声を上げて泣いた。 「ありがとうございました‥‥っ、本当に、ありがとうございました!」 一方で夫は妻を抱き締めながら、何度も繰り返し礼を言う。決して自分一人の力ではないと知る千里は相手からの感謝の言葉に少なからず居心地の悪さを覚えつつ、彼らにはしばらく宿から出ないようにと言い含めた。 「私は仲間達のところへ戻ります。此処まで来たなら大丈夫だとは思いますが、用心のため、私達が戻るまでは外へ出ないように」 「はいっ」 「それではまた後ほど」 言い、千里は村への帰路を走った。 同時刻、森で火事を起こし村人たちの気を引き付けていた二人の視界を彩る赤は、炎。村人達の阿鼻叫喚。水を用意出来れば火を食い止める事も出来ただろうが、彼らの最も有効な水源は今『白蛇様の住処』だ。村人総出で井戸水を汲み上げるなどして消火にあたるも、その効果などたかが知れている。 村人達は焦り、怒り、我を忘れて叫ぶ。 「だから早く生贄をと言ったんだ! 白蛇様をお待たせしたりするからこんな事が起きる!!」 そうして行き着く先が他人の犠牲だ――。 「‥‥滑稽だな」 ベルンストの低い嘲笑にアリステルはどきりとした。生贄を監禁している小屋を目指す数名の村人、その一人を唐突にベルンストの手が捕らえた。 「! 誰だ貴様っ」 突然のことに驚愕し声を荒げた村人を、彼は笑う。 「信仰の為の生贄なら村から出せば済むだろう。他人の都合で身内が殺される恐怖、‥‥味わってみるか?」 彼の言葉にぞっとしたのは村人だけではない。アリステルも同じだ。 「なかなか刺激的だぞ。生き方が変わるほどにな」 昏い瞳が笑う。細められる瞳の赤は‥‥業火。 「‥‥ベルンスト、様‥‥?」 アリステルは呼ぶ。まさかと思いながらも、かつて心からの敬愛と親しみを込めて呼んだ憧れの人――師匠の名を。 そうして向けられた彼の眼差しに確信した。 「やっぱりベルンスト様なんですね!?」 繰り返す彼女にベルンストは言い放つ。 「‥‥俺は今、この連中をどうしてやろうかと考えている」 まずは周囲の村々に生贄を求めている連中がいる事を知らせ、旅人が近付かないよう徹底させよう。その内に他所者が来る事も無くなり、村は身内から生贄を出さざるを得なくなる。 「身内を殺される恐怖もいいが、次は自分が‥‥家族が殺されるかもしれないと怯えて暮らすというのも悪くないな‥‥?」 「‥‥っ」 震えていた村人は、とうとう泣き崩れる。 「やめ‥‥っ、それだけは‥‥っ」 業火の中、泣き崩れる男を見据える彼は、まるで。 「‥‥貴様等のような連中は、生きている価値もない」 「いけませんっ!」 殺戮が行なわれそうな気配を、アリステルはその身を割り込ませる事で止めた。 「そこまでする必要はないでしょう!」 「‥‥ならば、どうする。騎士の正義でこの場を収められるのか?」 「それは判りませんが」 不意に届く第三者の声。 「貴方が暴挙に出るのなら私が止めます」 千里が合流を果たしたのだ――。 ● 生贄を監禁していた小屋の手前。見張りが倒されている事を知った男達は中に飛び込んだ。が、生贄がきちんと縛られている事に安堵の息を吐き出す。 「くそっ‥‥まずはあの女を沼だ!」 男の指示を受けて別の男達が響の縄を解く。 「さぁ来い!」 「いやっ‥‥」 響は死を恐れる生贄を演じながら、男達に連れられるまま沼へ。 その頃、沼では白蛇を模したアヤカシ退治が行なわれていた‥‥が。 「‥‥成程。まだ数をこなしていない開拓者向けとあったわけだ」 シュヴァリエが呟く。 リアが囮を兼ねて沼の水を汲んでいたところへアヤカシは何の疑いもなく現れた。その出現場所がリアと非常に近かった事もあり、彼が威嚇も兼ねた一撃を入れたのだったが、‥‥どう表現するべきか、アヤカシは姿さえ確認出来れば問題のない「弱さ」だったのだ。 「参ったな」 些か申し訳ない気持ちになる。これが初依頼だという二人に、もう少し戦闘らしい戦闘をさせてやるべきだったのではと思ったのだ。 だが、そんな彼に那由多は苦笑う。 「アヤカシを退治出来たんですから何の問題もありませんよ」 それにと指し示す先では、どうやら目の前に現れた白蛇に驚き過ぎて腰が抜けたのか未だ沼の畔で四つん這いになったままのリアと、トドメの一撃を加えようと沼から陸に掛けて昏倒しているアヤカシに自慢の太刀を振り上げるユーフォリアの姿。 「王様根性――ッ!」 跳躍することで更に圧を加えた強烈な一撃を叩き付けた。直後、その部分から蛇の輪郭が崩れ黒い粉塵が舞う。アヤカシの最期だ。 そんな光景に那由多は目を細める。 「なんで此処に現れちゃったんだ、おまえは‥‥」 その呟きには様々な想いが込められていた。 森の向こうに赤い炎。 「行くぞ」 シュヴァリエが声を上げ、那由多がリアに手を貸して立ち上がらせたその時。 「何者だ貴様等!!」 生贄を連れて来た男が、沼に平然と立つ人間達に声を荒げた。 「貴様等っ、我等の白蛇様に何をした!?」 開拓者は顔を見合わせた。知らせずに済ませたかったが、気付かれてしまっては仕方が無い。 「俺達はアヤカシを退治しただけで白蛇は知りませんよ」 「――!」 目を剥く村人達。 那由多がはっきりと言い放ち、その手に掴まれたままの生贄――響の腕を取るシュヴァリエ。 アヤカシ、と。はっきりと叩きつけられた言葉に村人達は何も出来ない。言えない。‥‥言えるわけがない。 「‥‥幸せを運ぶ白蛇様が人の命を欲する‥‥どうか、その矛盾にお気付き下さい」 リアが言い、ユーフォリアは持っていた木の枝を放り投げる。そうして立ち去る彼らを、誰一人止めはしなかった。 ● アヤカシ退治を担った四名、生贄に扮した響も炎の中を移動しベルンスト、アリステルとの合流を果たした。その時、千里が間に入っていたものの微妙な雰囲気を醸し出す彼らの事情を察する者はなく、また、追求する者もない。 開拓者達は依頼主の待つ宿へ。 一方、白蛇が住み着いていた沼の前で呆然と座り込んでいた彼らは無造作に転がる木の枝の傍に文字のようなものが刻まれている事に気付いた。 何だろうと凝視し、判読した内容に目を見開く。 これは何のつもりか。 『モウイケニエ イラナイ』 これは、何の。 「‥‥っ」 男達は泣き崩れた。声を上げて泣き、誰ともなしに詫びの言葉を繰り返し、‥‥そして。 「‥‥火を消そう」 一人が言う。 「もうこの沼の水は自由に使えるんだ。火を消そう」 「自分の力で‥‥っ」 村人達は、立ち上がった。 |