|
■オープニング本文 ● それはスタニスワフ・マチェク(iz0105)率いる反乱軍三百が初めて天儀の開拓者ギルドの一軍と交戦した夜の事だった。 「やはりどうにも納得がいかん」 難しい顔で言い放つ指揮官に部下の一人が苦く笑う。 「まだ言ってるんですかマチェクさん。あの開拓者ギルドの連中が現れたのは全くの予定外だったんですし、それが読めなかったからって‥‥」 「違う」 最後まで言わせずに制した彼へ「ボスが言ってンのはロンバルールの事だろう」と別の部下が口を挟み、そうして告げられた名前に周囲からは「あぁ‥‥」と納得の声が漏れ聞こえた。この百余名からなるマチェク直属の傭兵部隊は戦士としての武名を高めるという目的や金銭的な関心という共通の目的の下に集まった面々であり、肝心なのは武勇を以て歴史に名を残すための舞台と報酬。反乱軍の勝敗云々には全くと言って良いほど興味がない。だが、それはあくまで人間と人間の戦いにあってこその台詞だ。 マチェクは雇い主である反乱軍総大将コンラート・ヴァイツァウと度々意見を衝突させて来た。数多の戦で戦功を挙げた彼にとって、コンラートが下す命令はあまりにも無茶が過ぎるからだ。今回の作戦とて同様、もしもあの場でハインリヒ・マイセンの軍とアヤカシが交戦中でなく、開拓者ギルドの連中が敵軍と合流していれば自分達傭兵部隊は壊滅的なダメージを負った可能性も十二分にあったのである。 全てを見通した上で傭兵部隊の奇襲を提言した総大将の相談役ロンバルールの千里眼を賞賛するか? 答えは否だ。 「アヤカシの動きを読むなんて真似が人の身に出来てたまるか」 万が一にも自分達が契約した雇用主とアヤカシが通じていれば、自分達は武名を高めるどころかアヤカシに手を貸した外道。 マチェク達からしてみれば契約違反も甚だしい。 「調べる必要があるな」 「調べるったって、どうやって? 俺らの顔なんて大概が把握されているでしょう」 全体の三分の二を占める実力者達はもちろんのこと、従軍医師や鍛冶師、文官、商人など部隊のサポートに付いている面々は顔を覚えられていて当然。残り三分の一の、充分な実戦をこなしていない騎士、兵士達ならば顔を知られていない可能性もあるだろうが大将の懐を探るなんて危険な真似は任せられないというのが指揮官の見解だ。 それでも調べると言い切る彼には考えがあった。 何も此処で自分達が危険を犯さずとも、真実を知りたがっている連中はすぐ傍まで来ているのだ。 「少し出てくる」 「ボス?」 剣を携えて立ち上がる自分に怪訝な顔をして見せる部下達にマチェクは笑む。 「なに、これを機に開拓者ってのを知っておくのも悪くないだろう?」 「あー‥‥まさか」 意味深な指揮官の笑みに部下達も彼の考えを察した様子。 「だったら一人くらい供を連れて行ったらどうです? その方がハクが付くってもんでしょう」 立ち上がったのはマチェクよりも背が高く、筋肉質で坊主頭の厳つい男。なるほど迫力ならば充分だと笑い声が広がった。 ● 深夜、マチェクは開拓者ギルドの陣に潜り込んだ。 そうして耳を澄ませ自分の思惑に乗ってくれそうな開拓者を探す。例えばロンバルールを怪しいと話し合う小隊だ。利害が一致するならば手を組めるはず。 開拓者はどのような作戦を組んでロンバルールの正体を探ろうとするだろうか? 人質になって反乱軍の本陣に潜り込みたいと言うのなら、自分達が連れて行こう。 奇襲を掛けるべく情報が欲しいと言うなら相応の情報は流そう。 ただし開拓者が口を滑らせ、自分が手を貸した事が知れ、傭兵部隊に火の粉が掛かるような事になればその時は容赦なく斬らせてもらう。 此処に在るのはスタニスワフ・マチェク。 ジルベリア随一と謳われる指揮官であり、剣士。 それだけは、忘れるな――。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
陽(ia0327)
26歳・男・陰
箕祭 晄(ia5324)
21歳・男・砲
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
ウィンストン・エリニー(ib0024)
45歳・男・騎
ルシール・フルフラット(ib0072)
20歳・女・騎
リーザ・ブランディス(ib0236)
48歳・女・騎
ファリルローゼ(ib0401)
19歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● その日は朝から雪で、空には灰色の重たい雲が掛かり辺りは薄暗かった。 視界を覆うように降り続く冷たい雪の結晶を頬に感じながら、メーメル城の下町を歩く彼らは目的地を前に足を止めた。 「何者だ!?」 それと同時に飛んで来る怒号。 幾つもの武器が彼らを囲い、恐怖とも怒りとも取れる感情をぶつけてくる。 「答えろ、何者だ! 此処に何をしに来た!?」 此処に。 コンラート・ヴァイツァウを総大将とする反乱軍の本拠地へ、何をしに。 応じたのは低い吐息。 防寒用のフードを目深に被っていた一人がそれを取り払い、顔を上げた。赤茶色の髪を後ろに流しつけた四〇半ばの男の顔半分は、髪と同色の髭に覆われていたが、雪国を思わせる肌色と瞳の銀色は恐らくはジルベリアの血。 「何者かと聞いている!」 更に声を荒げてくる連中に、男――ウィンストン・エリニー(ib0024)も更に溜息を重ねる。 「そう短気になるな、短気は損気を呼び込むでな」 「何‥‥?」 「俺の名はウィン。反乱軍に加わりたく此処まで来た次第‥‥後ろの二人もである」 「二人?」 聞き返す兵士達の前で、更に二人がフードを外す。ちらつく雪が赤い髪に纏わり付くのを些か迷惑そうに手櫛で振り払ったリーザ・ブランディス(ib0236)と、どこか緊張した面持ちのファリルローゼ(ib0401)。 「他の三名は!」 苛立ちも露にウィンストンを急かす兵士に肩を竦めつつ、リーザが一人一人のフードを剥いでやった。何故なら他の三人は自分の手でフードを取る事が出来なかったから。 「そいつらは?」 聞かれたウィンストンは答える。 「途中で取り押さえた開拓者とかいう連中だ。何やら帝国軍側の情報を持っている身らしいので連れて来た次第であるな。ほんの手土産である」 「開拓者か‥‥!」 そう聞いた途端に顔色の変わった兵士達は、つまりは捕虜となった開拓者達を睨み付けながら「開拓者が捕まったのか、口ほどもない連中め‥‥!」と悪し様に罵ることで今日までの戦の鬱憤を晴らすかのようだった。また、それらを受けて絶望的な表情を浮かべるのは箕祭 晄(ia5324)。 「‥‥見世物じゃ無いっつ〜の」 誰にも聞こえぬよう呟く陽(ia0327)の傍ではルシール・フルフラット(ib0072)が耐え忍ぶように唇を噛み締めた。 「良いだろう、入れ。おまえ達を歓迎するぞ」 反乱軍の兵士達は武器を納めて彼らを中へ促した。ウィンストン、リーザ、ファリルローゼ、三人は三人の捕虜を拘束する縄を手に反乱軍の本陣を行く。 まさかその全員が開拓者であり、チームだとはこの場の反乱軍の誰一人として疑いもしていない様子。 反乱軍はいつでも志願兵を募っている。 それほどまでに戦局は厳しくなっていたからだ――。 時は前後し、反乱軍の傭兵部隊を率いるマチェクに件の話を持ちかけられた開拓者達がしばし相談し合って決めた作戦は、捕虜と志願兵という役所を利用した潜入捜査だった。 「‥‥誰も彼も、自分は他人より抜け目ねぇと思ってんだよ」 話を聞き終えた直後、淡々とした物言いで虚空を見据えるように呟いた北條 黯羽(ia0072)の言葉は誰に対してのものだったのか。 マチェクは薄く笑うと「どうする?」と問い掛け、開拓者達は互いの意思を示し合う。 「‥‥人と人との戦。共に大義を抱くならば避けられない事もあるでしょう。‥‥しかし、そこにアヤカシが絡むとなれば話は別です。反乱も何も、全て茶番に貶められてしまうのですから」 重苦しい表情で語る彼女へ気遣うような視線を向けつつ、陰陽師の劫光(ia9510)はそのクラス故にロンバルールが行なうという占術に興味を持つ。 「占いや予言が成就する場合ってのは偶然か必然か‥‥人為的に何かした結果が殆どだよな。そりゃ胡散臭ぇや‥‥」 言い、マチェクに利き手を差し出す。 「劫光という。よろしく頼む」 「俺も陰陽師としては興味津々だねぇ。出すもん出してくれるなら引き受けるよ」 陽も頷く。 「まぁどうせなら、ジルベリアの可愛い娘でも紹介して欲しいね」 陽気な態度は真剣味からは程遠かったが、しかし眼差しは逸らされない。 「期待に応えるだけの事は致そうな」 頭を垂れて応じるウィンストンや晄らとも手を合わせ、作戦は実行された。 ただ一人。 「いいかいルシール、絶対に無茶だけはするんじゃないよ? あんたに万が一の事でもあろうもんならあんたの母親に顔向け出来なくなるからね」 別の意味で不安を感じている騎士はいたけれど。 ● そうしてこの日、機を迎えるまで外部から情報を収集すべく行動を開始していた黯羽は劫光と共にメーメル城付近に点在する城下町の人々が集まる避難所へ潜り込んでいた。 「まさかヴァイツァウのコンラート様が生きておられたとは‥‥」 「この戦に勝利して下さればわしらの暮らしもきっと楽になる‥‥」 現在の暮らしを圧迫する重税等が人々にそのような言葉を語らせるのだろうか。二人は頻繁にそのような声を耳にしながら一つ一つの情報を記憶していった。 途中、五、六人で集まって遊んでいた子供達が地面に描いている絵に気付いたのは黯羽だ。 「絵が上手いじゃないか、これは龍だね?」 膝を折り、子供達と同じ目線の高さで声を掛けてやると「そうだよ!」と元気に少年。 「おれたちの守り神さまさ!」 「へぇ」 黯羽は子供達の楽しげな雰囲気を決して崩さぬよう細心の注意を払いながら、ともすれば自分達が実際に見たヴォルケイドドラゴンよりも勇壮で瞳の輝いている龍の姿に「視力はどのくらいだい」なんて皮肉の一つも飛び出しそうだったが、そこは堪えて幼い少年少女達の説明に耳を傾ける。 巨神機を正義の味方だと信じて疑わず、コンラートこそ正義の使者だと親から聞かされたのだろう話しを自分の口で繰り返す子供達の絵は、まるで反乱軍に属する人々から見た今回の戦の絵巻物。だから隅の方に描かれている老人らしき人物像も黯羽には想像がついた。 「これはもしかしてロンバルール‥‥のおじいさんかい?」 どう表現したら不審感を抱かれずに済むか一瞬躊躇し、実に不本意ながらそのような呼称を選んだ黯羽に子供達は大きく頷いた。 「そうだよ、ロンバルールさんはものすっごくよく当たる占い師なんだ!」 「占い師ねぇ」 似たような情報を大勢で暖を取るための火の傍で耳にした劫光は些か呆れた調子で繰り返す。それ以前に近々帝国軍および開拓者達との大きな戦があると確信していた人々はまた始まるだろう日々への不安や恐れを口にしながらも、自分達には占者ロンバルールがついているから大丈夫だと、そのような奇妙な自信を示したのだ。 「その占いってのはそんなによく当たるのか」 「そりゃあもう!」 ことアヤカシに関しては抜群の的中率で、おかげで救われた仲間の命は少なくないと男は興奮した調子で捲くし立てた。だが、一人が興奮して周りが見えなくなっている時にはかえって冷静になれるというタイプの人間も決して少なくはなく、幸い劫光が接した人々の中にもそういうタイプの人物がいた。 「まぁ‥‥確かに奇妙だなって思う事もあるにはあるが」 「奇妙?」 劫光が聞き返すと、その人物は周りの仲間達の視線を気にしつつも最後には話して聞かせてくれた。 「なんて言うか‥‥あくまで噂、だけどな。たまに人が消えるんだよ‥‥軍が他所から連れて来た捕虜だったり、罪人だったりするし、俺達の仲間がってわけじゃないから‥‥あんまり気にならないんだけどさ。連中が消えるのはロンバルール様の取調べを受けた後だなんて噂もあってさ」 それは気にしないのではなく、気にしないようにしているのではないか? ――そんな言葉を飲み込んで劫光は難しい顔。 「‥‥人が消える、か」 それは酷く嫌な予感を彼に抱かせた。 ● 一方、敵陣に潜り込んだ開拓者の内、志願兵に扮したリーザは堂々と陣の内部を歩き回っていた。 「来たばかりで右も左も判らないからね。何かあった時には即座に動けるよう位置情報を頭に叩き込んでいるのさ」 何をしているのかと問われた時には胸を張ってそう返す。 その実は捕虜役として潜り込んでいる仲間と共に逃走するための経路確認だったが反乱軍の人々は疑いもしなかった。 (しっかしまぁ‥‥) 辺りを見渡し、思った以上に辺りが静かな事に肩を竦める。 ほとんどの兵が出払っているのだ。潜入を決行するにあたってマチェクが漏らした言葉。 ――きみ達は運が良い。今ならエヴノ・ヘギンの軍が侵攻中で本陣は手薄だぜ? 運が良いのか人が悪いのか。 (どうして全く食えない男だ) リーザは失笑し、ふと一つのテントに目を留めた。 中を覗き込めばどうやら武器庫代わりらしく、ほとんどの兵が出払っている今は保管されている武具の数は非常に少ない。 「ここらへんに放り込んでおくか、捕虜から武器を奪ったって使わなきゃ意味はないしね」 説明じみた台詞と共に放り込むのは『仲間』の武器。捕虜が捕まっているテントと、ロンバルールがいるらしいと聞く城、そして脱出口。諸々の条件から見ても悪くない位置だ。 「逃げられなきゃ問題ない話さ、‥‥逃げられなきゃね」 そうして覗かせる意味深な笑み。 リーザは武具を残し、再び陣内の散策に戻った。 捕虜に扮したルシールの武具はテント内。陽は衣服の内側に符を縫い止めて隠し持つ他、ウィンストンに武器を預け、晄の武器はファリルローゼが預かった。 そのファリルローゼは不慣れな身なれど見張りくらいは出来ると申し出、捕虜達の傍についていた。 外部で情報を集めている黯羽と劫光、内部事情を探っているリーザとウィンストン。 そして――。 「いい加減に態度を改めたらどうだ?」 「っ」 ジルベリアの兵に頬を叩かれたルシールは、その痛みに顔を歪めるも真っ直ぐに相手を見据える。 「何度も申し上げますが私は反乱軍と呼ばれる貴方達の行いを責めるつもりは毛頭ありません、ただ!」 一息に言い放つ、その言葉が。 「帝国軍、開拓者を都合良く襲うアヤカシの群! その動きを読んだとされるロンバルールの占いっ、それらに不審はないのですか!」 「しつこいぞ」 更に頬を打つ平手には陽が顔を顰め、晄が憤慨する。 「女の子に手を上げるなんて男の風上にも置けないんだぞぉ!」 「女に言う事を聞かせたかったら優しくするのがセオリーってもんだろうに」 「黙れ」 「っ」 別の兵士から腹へ蹴りを食らい体を折る晄。 「あぁあぁ野蛮だねぇ」 「黙れと言っているだろう!」 陽にも重い蹴りが入れられ、見張りについていたファリルローゼは胸中に募る怒りを必死に押さえ込み、言葉を紡ぐ。 「話を聞く前に殺してしまっては意味がありません‥‥どうか落ち着かれて下さい」 「‥‥ふんっ」 此方は味方である美しい女性騎士に言われれば男達も無下には出来ない。 「しばらく頭を冷やせ!」と捕虜達に言い残して気まずそうにテントを出て行った。 「ぁ‥‥」 ルシールは声を上げ掛けて、止める。捕虜の相手をする兵士達に心理的な揺さぶりは効果が薄いと、認めざるを得なかった。 そうして時は過ぎ、内外から可能な限りの情報を集めて三日。 機は訪れた。 ● 白鼠の式が合図だった。 夜、捕虜に扮していた彼らは動き出す。 (そろそろ出るか‥‥) 陽は隠し持っていた符を鼠に変化させ拘束する縄を噛み切らせる。 「俺も俺もっ」 晄に催促されて彼を解放し、ルシールを解放し。 「‥‥さて、行くか」 この数日間でリーザやウィンストンが食事と共に運んで来た知らせからロンバルールの所在はほぼ確定されていた。外で開拓者と反乱軍の争いが起きている今、陣は手薄。故に外から黯羽と劫光が騒ぎを起こせばどうなるだろう? 遠くに爆音が聞こえた。 「晄」 「陽」 見張り役についていたウィンストン、ファリルローゼが彼らの武器を手渡す。 「行け」 後は、任せた。 途中のテントでルシールが己の武器を取り戻した頃、リーザは騒ぎに慌てふためく反乱軍の兵士達を落ち着かせているように見えて一人一人確実に戦力を奪っていた。 「おとなしく寝ていなよ」と、きっと何かしらの情報を持って帰ってくれる仲間達の退路確保の為に。 黯羽と劫光が更に騒ぎを広げればウィンストン、ファリルローゼの行動範囲も絞られて互いの位置を把握し易くなるだろう。 そんな中でロンバルールの姿を捜し求めて走る三人。 途中で兵を気絶させて頂戴したジルベリアの服に身を包んだ彼らは夜闇に紛れて仲間の情報を頼りに陣内を駆け抜ける。 「あのテントだ!」 ロンバルールの個室だと聞かされた陣内の、そのテントに細心の注意を払う。警戒を強め、中を伺えば‥‥ロンバルールと思われる老人は何処にもいない。 「‥‥まさか彼も戦に?」 「どうだろうねぇ」 卓の上に積まれた書物等を持ち上げるなどして陽が探しているのは占いの道具か、否か。 「どっかに春画でも隠してないかねぇ」 「しゅっ‥‥」 さらりと言われた探し物に頬を赤くするルシール。対して晄は無邪気にめぼしいものを物色中だ。 だが、これといった物は見つからない。むしろ、何も無さ過ぎる事が奇妙だった。 「ロンバルールは何を使ってアヤカシの同行を占っているのでしょうか‥‥」 ルシールの疑問は皆が共通する疑惑。 あの老人は、何者だ? 「――‥‥っ?」 不意に三人の肌が総毛立った。それほどまでに強烈な、見えない何かを感じた。 「‥‥っ」 三人は顔を見合わせテントを出ると、息を殺し周囲を探る。――そうして発見した、それ。 闇夜に浮かぶ老人の周りには仄かに揺らぐ数多のアヤカシ。 ロンバルールはアヤカシと言葉を交わしていた。 「開拓者共の背後を突け」と。 ● 再び陣内を駆け抜ける三人が最初に遭遇したのはリーザ。 「お、ルシール‥‥」 「リーザおばさま、退却です」 淡々と語るルシールにリーザは違和感を覚えたが陽や晄の表情も硬く、リーザは言われるまま駆け出す。ウィンストン、ファリルローゼと合流し、式に更なる陽動を任せ別地点に移動していた黯羽と劫光とも合流を果たす。 元々が手薄な陣。 陽動班によって更に減らされた戦力。 彼らの逃走を止められる人員は、今の反乱軍には無かった。 「急ぎ本陣に戻りこの事を皆に伝えなければなりません」 ルシールは早口に語り、これに異議のある者はない。マチェクには前以て預かっている鳩で書簡を飛ばせば良い。事実を知れば彼は彼なりの行動に出るだろう。あとは‥‥信じるだけだ。 「何と言うか、内情を知るといざ合戦のときに矛先が鈍りそうだぜぇ。マチェクとかいいやつだし‥‥」 「あの男、なかなか面白い」 晄、リーザと応じればウィンストンも微笑う。 「勝ち負けよりも人の義を通すとは話せる相手であろうな」 また会えるといいけれど――そんな言葉を胸中に抱きながら開拓者は向かう。そう、それぞれが行くべき場所へ――。 |