【相続人】招かざる客
マスター名:津田茜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/08 00:40



■オープニング本文

 気持ちの良い朝だった。
 時節柄、少しばかり寒いけれども穏やかな、出立には申し分のない上天気。
 温かな暖炉とクッションの利いた寝床を後にするのは未練も残るが、吹雪かなければ2日後には首都ジェレゾの城門を潜っているだろう。
 行商人を護衛して点在する村々を巡るこの旅は、天気にも恵まれた。仲間の裡に強力な晴れ男、若しくは、晴れ女がいるのかもしれない。――片道2日程度の近場だとはいっても、厳冬期のジルベリア。うっかり垂らした洟が凍る程度には寒いのだから、ここは天恵だと有難がっておくべきかも。
 おかげで、依頼主である行商人も機嫌がよかった。
 食料品の蓄えは都市部より農村地帯の方が潤沢だが、白い季節に押し込められて引籠る事に飽き始めた人々は煙草や甘いお菓子といった嗜好品の他、ジェレゾを賑わすニュースなども聞きたがる。
 殊に先年、ジェレゾからこの地に招かれたばかりだというラーヴル子爵領の若いご領主は熱心で。折からの厳しい冷え込みへの危惧もあり、結局、勧められるまま領主館に2泊もすることになってしまった。――政治やファッションの流行ではなく、市場の様子や工房街の息災といった少しばかりチープというかマニアックな話題を向けられるのには困ったが――供された温かな食事と寝床のおかげで旅の疲れはすっかりリセットされて、いつもより頑張れそうな気がする。

「長々とお引留めしてすみませんでした。宜しければ、またいらしてください」
「いえ、こちらこそ何かとお心遣いを戴きまして‥‥是非、また寄せていただきます」

 自ら玄関先まで見送りに出てきた若いご領主の爵位まで有する貴族にしては妙に低姿勢な言葉――表情や口調から察するにお世辞や愛想ではなく、本気で言っているらしい――に、行商人だけでなく護衛役の開拓者たちもちょっぴり後ろ髪を惹かれる気分だ。
 実際、金払いの良い客であったから、大きく頷いた商人の言葉も全くの嘘ではないだろう。

「皆様の旅に精霊のご加護を――」
「ご、ご領主さまぁ〜〜」

 晴れやかな中にも少し物悲しさの漂う別離の雰囲気は、男の絶叫によってぶち壊された。
 毛皮の帽子に、毛皮の外套、こちらも分厚い革の長靴。幅のある大きな背中に猟銃を背負った猟師らしい男が、橇の轍が残る雪の上を慌てふためきながら駆けてくる。

「た、た、たたたたた、大変、大変です―――っ!!!」

 転けまろびつつようやく唖然と立ちすくんだ若い領主の許へ辿りついた猟師は、出立の支度を整えた橇と開拓者に気付いて力が抜けた風にヘタリとその場に両手を付いた。

「だ、大丈夫ですか!? ええ、と‥‥ミスマルさん?」

 村人の顔と名前をちゃんと覚えているらしいご領主にこっそり感心した開拓者の耳にも、彼らにとってはとても馴染みのある単語が飛び込んでくる。――と言っても、歓迎すべきものではなかったのだが。

「森の外れにゴブリンが――」

 いずこの瘴気より発生したのか、あるいは、餌を求めて森を徘徊していたものが彷徨い出てきたのか。いずれにしても、平和な村には招かざる陳客だ。
 ひとつ、ふたつなら普通の人間にでも追い払える小物とはいえ‥‥数が多ければやはり恐ろしいアヤカシには違いない。
 荒事にはあまり慣れていないのだろう。困った風に眉を潜めたご領主の視線が、ふと成り行きを見守っていた開拓者たちに気がついて‥‥
 闇の中に一条の光を見出したかのような。これも天恵だと信じて微塵も疑わぬ純粋な安堵と信頼を向けられては、無碍にするのも難しい。美味い食事と温かな寝床、高待遇のもてなしへの恩もある。
 これも巡り合わせの妙というもの。――まったりとした行商の護衛も悪くはないが、少しばかり刺激が欲しい。なんて、秘かに想い始めていたところだ。
 俄かに慌ただしくなった領主館の前庭で、またひとつ小さな村の英雄譚が紡がれようとしている。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
美空(ia0225
13歳・女・砂
空(ia1704
33歳・男・砂
アイリス(ia9076
12歳・女・弓
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
藤吉 湊(ib4741
16歳・女・弓
エリーセ(ib5117
15歳・女・騎


■リプレイ本文

 世の中、楽して稼げる仕事などそうそう転がってはいない。
 お天気と依頼主に恵まれたこともありその数少ない僥倖であるように思われた此度の依頼もまた、思わぬ横槍によって開拓者たちに予想外の労働をもたらした。義を見て為ざるは勇なりき、なんて言葉もあるが。――なかなか上手く帳尻が合うようにできている。

「やれやれ、うまい飯と暖かい寝床にありつけて、依頼も無事完了と思うたらとんだお客さんやな」
「ま、メシ恵んで貰ったし。別にヤってヤってもいいんじゃね?」

 思いがけず目方を戻した皮算用の天秤に、腰に佩いた殲刀「秋水清水」を軽く叩いて天津疾也(ia0019)はごく小さな苦笑を零した。それでも、日頃は辛辣な空(ia1704)がちょっと手を貸してやっても良いかなと思えるくらいには気分が良いし、身体も動く。

「依頼にはない事ではありますが、旅の道すがら露払いなのであります」
「色々良くして貰いましたし、そのお礼をするですよ〜」

 出立の朝にアヤカシを放置して旅立つなんて縁起でもない。
 こちらは幼いながらも受けた好意に報いようと素直にやる気になっている美空(ia0225)とアイリス(ia9076)に、エリーセ(ib5117)も嬉しげに微笑んで強く頷いた。――報恩もさることながら、民の平和を守るのはエリーセが心に想い描く騎士の正しくあるべき姿でもある。心躍らぬ筈がない。
 否を唱える者がいないことを確認し、美空はくるりと身体ごと雇い主である行商人を振り仰いだ。

「では。お待たせして申し訳ないでありますが、ここは美空がはばかりへ行っていると言うことでお許しいただきたいでありますよ」

 のほほんと紡がれた美空の言葉に、降って湧いた突然の凶事にすっかり顔色を失くした行商人とおろおろ猟師を慰めていた若い領主はようやくやるべきことを見つけた風に肩を落とした。
 神の加護、皇帝の加護を口しないのは、単純にそんなことを考える余裕がなかったのかもしれない。あるいは、そうやって人心を導く術が身についていないか、だ。――ジルベリアの貴族にしては、確かにとても珍しいことではあるのだけれど。

「も、もちろんだとも! よろしく頼む!!」
「お願いできるのであれば、是非‥‥助かります‥‥」

 ご領主はもちろん行商人としても村を見捨てて逃げたとあっては寝覚めが悪いし、今後の商売にも差し障る。旅の途上で行き合うことを思えば、むしろ幸運だったくらいだ。

「アフターサービスも大事やねんな」

 時には損得勘定抜きで親身になってみるのも、顧客の心を掴む秘訣だろうか。未来の大商人を志す藤吉 湊(ib4741)にとっては、何かと学ぶことも多い。

「寒さも和らいできたのでしょうか‥‥」

 うっすらと雲を吹き流す蒼穹を見上げ、柊沢 霞澄(ia0067)は流れ行く風を読もうと双眸を細める。頬に触れる風精の指先は、まだ冴え冴えと切れるように冷たいのだけれども。――深い森の奥では、既に雪融けの蠢動が始まっているのかもしれない。

「んじゃ。終わるまでの少しの間だけだからさ。がまんしてくれなー」
「戻るついでに村の連中にも声をかけてやってくれ」

 雪の上に座り込んだまま呆然と成り行きを見守っていた猟師に羽喰 琥珀(ib3263)は、家に戻ってしっかりと戸締りをするよう声をかけた。
 その間にも湊は煉角の手綱を曳き、首を巡らせる。風を巻き上げ空へと駆けあがった甲龍の影を視界の端に、エリーセはアーマーケースと共に留守番中の朋友を想い羨ましげに眉を顰めた。自律しては動けない駆鎧をコンパクトに運ぶ為の便利なアイテムなのだけれども‥‥人によっては、やはりそれなりに重いらしい。

「さ、寂しくなんかないぞ。ウィルフレッドはいつでも私の心の中にいるのだ。本当だぞ」

 自身に言い聞かせるように呟いて、皆を追う姿勢のよい背中には、ほんの少し哀愁が漂っていたとか、いなかったとか。
 物語に謳われる颯爽たる騎士に焦がれるエリーセが理想に至るまでには、まだまだ乗り越えなければいけない課題が山積している。描いた夢の実現の為にも‥‥今は、力を尽くす時だった。


●招かざる客
 ミスマルの話によると境界を越えて村外れに現れたスノーゴブリンは約20匹ほど。
 雪融けを前に飢餓が深刻化するこの季節、大方、餌を求めて数を頼みに侵入を試みたのだろう。アイリスの指が掻き鳴らす《鏡弦》が拾い上げたアヤカシの数とも概ね一致する。――幸か不幸か鉢合わせた猟師たちの頑張りもあって、何匹かは瘴気に還ったのかもしれない。
 ひとつ、ふたつなら志体を持たぬ者にも討払える――職業柄、腕っ節には大なり小なり自信のある者が多いのかもしれない――相手だが、今回は多勢に無勢。助けを呼びに行かせたこともあって、残ったふたりがじりじりと追いつめられているのが空から見ると良く分かる。

「ああ、あかん〜」

 群れの真ん中に焙烙玉でも落としてやれば気持ち良く吹っ飛んでくれそうだが、生憎、湊の手持ちに在庫はない。――爆風は相手を選んではくれないので、応戦する猟師まで一緒に吹き飛ばしてしまいそうでもあった。
 上空より見下ろすその距離感に苛々が募る。
 逸る朋友を抑えながら唇を噛んだ湊の視界の中で、スノーゴブリン相手に手当たり次第手斧を振り回していた男が踏み荒らされぬかるんだ雪に足を取られて大きく態勢を傾けた。

「ひゃあっ!!」

 刹那――
 冴えた大気を切り裂く乾いた風音が、龍の背で思わず身を縮めた湊の耳をかすめる。
 無駄のない最小限の動きでアイリスが放った瞬速の矢は、吸い込まれるようにスノーゴブリンの振り下ろされる直前の腕を穿った。身より削がれ飛び散った瘴気の欠片が、一瞬、雪上に淡く靄のような影を揺らした。
 それは致命的な傷ではなかったが、調子付いたゴブリンを混乱させるには十分で――
 力任せに武器を振るうその勢いを殺しきれず大きく態勢を崩したゴブリンに周囲を見回す隙を与えず、走り込んだ天津の一閃は青味を帯びた冷気の中でいっそう怜悧なきらめきをもってその首を刎ね飛ばす。

 ギャアアァァァ―――ッ!!!!

 断末魔が凍てた大気を軋ませ、冬将軍の懐中にて眠れる森は俄かに騒然と生気を孕んだ。
 斃れたアヤカシが瘴気に還るのを待たずに天津は身を翻し、次の標的となるゴブリンと対峙すべく視線を転じる。飄々と調子の良い平素の軽さからは想像もできぬ鋭い光に、睨まれたゴブリンは気圧されて蹈鞴を踏んだ。

「さて、テメェ等は運が悪い」

 いっそ邪悪にさえ見える壮絶な笑みを浮かべて。
 脚絆「瞬風」に《炎魂縛武》の炎を纏わせた空は、にやりと未だ数に於いては開拓者たちを上回るスノーゴブリンの群れを睥睨する。――尤も、いかに数で勝っていようと空の目に映るのは恐れるに足りぬ雑魚に過ぎない。――殊更、時間を掛けるのは、力の差を知らしめより深い絶望を与える為だ。
 気紛れではあるが、気分はノっている。
 語り継がれる武勇伝をひとつ、土産に置いて行くのも悪くない。

「せめて俺がジルベリアから帰ってから出てくるんだッたな」

 数を頼みに蛮勇を奮い猛然と突き出された切っ先を一重で躱して、空は精霊の炎を宿した「瞬風」を正確にゴブリンの咽喉へと叩き込んだ。
 みしり、と。
 頸骨の折れる鈍い感触が脚絆を伝い、酷薄な快感となって這い上る。立ち向かう勢いのまま火の粉を撒き散らしながら弾き飛ばされたゴブリンは、雪に覆われた白い大地に叩きつけられる前に霧散した。

「遅ェ遅ェ、らァァッ!!」

 闇雲に振り回される手斧を軽くあしらい、勢いに流れた身体を立て直す暇など与えてなどやらない。埋められた宝珠が雪の乱反射に眩い光を散らす度、清廉な色を湛える雪上に姿を保てぬ瘴気が舞った。
 手当たり次第にアヤカシの生を断ち切って行く天津と空が生み出す剣戟を、少し離れた場所から身の丈に合わぬ大鎧を着込んだ美空の神楽舞が支援する。

「四股ふんじゃったー、四股踏んじゃった―♪で、あります」

 舞いというよりは‥‥土俵入り?
 少しばかり珍妙に見えるかもしれないが、美空はいたって大真面目。そして、しっかり加護もある。
 見慣れぬ動きに思わずぽかんと見入ってしまった猟師の肩にそっと手を置き、霞澄は戦いの輪より少し外れた場所へと彼を導いた。
 厚く着込んだ毛皮のお陰で幸いにも猟師たちに大きな怪我は見当たらなかったが、勿論、まったくの無傷というワケでもない。――志体を持たぬ身では善戦した方なのだろうけれども。

「‥‥精霊さん、怪我を癒して‥‥」

 《閃癒》によって目に見えて塞がる傷に、男たちは目を丸くする。

「ありがてぇ。これで、また――」
「‥‥あ、ダメです‥っ」

 そう言って戦列に戻ろうとした猟師を霞澄は慌てて押し止めた。内気でたおやかに見える霞澄の口をついた思いがけず強い語調と志体持ちの膂力の片鱗に、彼は更に驚いた顔をする。

「ここは私たちに任せて、おふたりは村に戻っていてください‥‥必ず村の皆さんが安心して暖かい春を迎えられるように尽力しますから‥‥」
「連携してこないなら、ゴブリンなんて怖くないのですよ」

 ひらりひらりと白扇を振るう美空の神楽舞も、より賑々しく軽やか‥‥エキセントリックに、戦場を包む士気を盛り上げた。
 前線と霞澄との間に小さな身体を割り込ませてアヤカシの視線を切ったアイリスも、洗練された流れるような動作で次々を矢を放ち、群れの中で鬼神の如く刀を振るう天津と空を援護する。
 未だ鞘に納められたままの刀に、勝機を見出しでもしたかのように。やや後方にて構える羽喰に、混戦の死角をすり抜けたゴブリンは汚れた歯を剥き耳障りな呻りを上げた。

「そんじゃまー挨拶代わりっ、と」

 影が交錯する瞬間、
 寒地の生き物らしい固い毛皮に覆われた腹から喉へ、殲刀「朱天」は朱銀の弧を閃かせる。
 《居合》、そして、《銀杏》――斬り上げられた血飛沫が瘴気へと変じた時、覇気を宿した刃は何事もなかったのように鞘に収まっていた。血泡を噴いて上体の浮いた無防備な胸へ、氷を想わせる冷たく白い《オーラ》を纏ったエリーゼは「闇照」と呼ばれる黒い剣を突き立てる。
 黒い地金に散りばめられた白銀が、瘴気を纏い‥‥そして、再び闇を照らすきらびやかな輝きを放った。

「さて、逃げられる思たらあかんよ」

 煉角より下りて駆け付けた湊も加わり、戦局はより危なげなく一方的に。冬の森より訪れた招かざる客は、僅かの損害を与えることなく、殲滅された。


●勝利の後に――
 供された葡萄酒は、なかなかの上物で。
 今の季節のジルベリアに於いて、酒も料理も気兼ねなく腹いっぱい食べられるこの村は、スノーゴブリンたちが手を出したくなる程度には豊かなのだと改めて思う。

「これでもう、安心なのですよ〜」

 熟成が進みより口当たりが丸くなった葡萄ジュースをご機嫌に飲みほして、アイリスは誇らしげに胸を張った。
 殲滅が終わった後も、《鏡弦》を使いみんなで時間をかけて万が一の討ち洩らしがないか――あるいは、他にもアヤカシやケモノが潜んでいないかを――をしっかり見回ったのだから。
 絶対に、大丈夫だと。自信を持って、告げられる。

「はい、本当に助かりました。‥‥皆さまがいなければどうなっていたことか‥‥」

 誇張でも、謙遜でもなく。心底安堵した風に、ディミトリ・ファナリは少し隈の残る目許を和ませた。
 せっかくの旅立ちが水入りになってしまったけれど。
 すみません、と。やたらに恐縮するご領主の憂い顔には悪いが、うっかり頬が弛んでしまうくらいには気分が良い。――美味しい食事と温かい寝床。これに文句をつける者がいるとすれば、単なる天邪鬼かひねくれ者だろう。

「でも、今回はたまたま俺達がいたけどさ。次も都合よく誰かが居るとは限らねーぜ?」

 武器を揃えるなり、傭兵を雇うなり。もっと自衛の策を講じるべきだという羽喰の意見に、若い貴族は困った風に言葉を探して視線を迷わせた。この手の荒事を仕切るのは苦手なのかもしれない。
 確かに、起こるかどうかも判らぬ凶事の為に、武装するのはなかなか勇気のいる決断ではある。
 飢饉に備えて穀物を蓄えるのとは異なり武器や人は水もので、使い廻しが難しい。この朴訥とした若造には難しい仕切りだと空は冷ややかに内心で肩を竦めた。

「まあ、なんやね。ここら辺はジェレゾにも割かし近いさかい、《ぎるど》と仲良くなっといたら何やあった時に風信機で応援を呼べるんとちゃう?」

 村を囲む柵にもう少し手を加え、避難場所などを備えておけば、助けがくるまで持ちこたえられるかも。
 湊の折衷案に、ディミトリは少し考え込むように顎を引いて小さく頷く。行商人に相場を尋ねているところを見ると、それなりに真摯に受け止め考えているかもしれない。

「季節も人の世も‥‥寒い冬は決して永遠には続かない‥‥いずれは暖かな春が‥‥」

 小さく春を言祝ぐ霞澄の言葉に、美空が「はい!」と元気よく手を挙げた。
 いかにも厳めしい大鎧を纏った少女は、物々しく重厚な兜の下でその稚けない顔に蕩けるような愛嬌を浮かべる。

「では、僭越ではありますが、この美空がこの地に春が訪れんことを祈して舞など奉納するであります」

 少々、面倒事に巻き込まれはしたけれど。
 たしかに、今回の旅はツいていた。――ぱちぱちと小気味よく燃える暖炉の炎をのんびり眺め、開拓者たちは其々の信じるモノに、ほんの少しだけ感謝してみる気になった。