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■オープニング本文 ● 『流星祭』の時期、街はいつもと違った喧騒に包まれる。 祭は西の空が薄紫に染まる頃に始まる。次々と灯が灯る祭提燈風に乗り聞こえてくる祭囃子。祭会場となっている広場は大層な賑わいで、ずらりと並んだ屋台からは威勢のいい呼び込みの声が響き、浴衣姿の男女が楽しげに店をひやかす。 時折空を見上げては流れる星を探す人、星に何を願おうかなんて語り合う子供達、様々なざわめきが溢れていた。 ● 紺色の浴衣に深緑の帯。長い髪はあっさりと結い上げ、あと一つになった焼き鳥をぱくりと串だけにしつつ、月草は祭りの屋台と人ごみを眺めていた。 「ふふふ。大盛況ですね」 勿論、ここまで何もかもが全く順調に進んだ訳ではない。櫓が崩れたり、ならず者が騒いだり、ハプニングは結構起こっている。 とはいえ、そんな騒動だって過ぎてしまえば祭りの華だ。そう思うと、今年の祭りは十分に華やかで賑わっている。神楽の都と祭り、そのどちらも愛する月草にとって、目の前の情景はとても心弾ませるものだった。 けれども、『流星祭』はこれだけのお祭りではない。 その名の通り、流星祭は流星群の到来に合わせて開催される祭りである。鮮やかな屋台の提灯だけではなく、きらめく軌跡の流星もまた祭りを彩る明かりとなり、それら一瞬の流れ星に三度願いを唱えられれば、その願いは叶えられるという風説さえある。夜空を見上げ、こぞって願い事を口にする子供たちは多い。大人たちさえ、ちょっとしたおまじない気分で試みる者は多かった。 しかし、確かに叶えて欲しい願いを捧げるには、流星はあまりに素早く瞬いて儚い。 ひとの願いは時にひどく切実で、星に託すには重過ぎることもあるのだ。 「ああ、やっぱりとてもきれい」 ――だからひとは、切実な願いは舟に乗せることにした。 「本当に、流星のよう……」 月草が足を向けたのは、祭りの広場の東。浅いせせらぎの川が流れる、屋台や櫓からは少し離れた場所である。 そのため、熱気はいささか遠く、空気は静かで夜風がぬるく通り抜ける。恋人たちの語らいに、よく利用される場所である。 流星祭では、この川に蝋燭を立てた笹舟を流す風習があった。舟が沈まず無事に下流まで流れていけば、舟にかけた願が叶うというのである。 流れ星に祈るよりは確実だからと、実行するものは割合に多い。宵闇の中、蝋燭の炎が川を緩やかに流れていく様は、たしかに地上の流星のようにも見えた。 「……あら?」 うっとりと笹舟を眺めていた月草の目に、ふと小さな背中が留まった。 見れば、幼い少女のようである。更にその周囲にはもっと小さな子供がいて、しゃがみこんで何かをやっている。常であれば笹舟を作っているのだろうと気にも留めないところだが、気を引いたのはか細い啜り泣きの声だった。 ――泣いている。でも、なぜ? 月草はそっと近づくと、なるべく驚かせないよう、出来るだけ優しげに声をかけた。 「お嬢さん、どうしたの?」 「…………っ!」 振り向いた少女の目は大きく、宵闇の中で分かるほど赤い。 見れば足元の子供も一様にぐずぐずと泣いているようで、月草は首を傾げた。 「迷子にでも、なってしまった? お母さんは……」 「お、おかあ、さっ」 ぶわり、見る間に少女の目から涙が溢れる。すっかり慌てた月草は、ひとまず少女の話を聞くことにした。 「まああ……」 少女の話は、要約すれば、「上手く笹舟が作れない」ということだった。 少女と子供たちは姉弟で、姉一人、双子の弟二人ということらしい。今日も本当なら、父親と共に祭りに来るはずだったのだという。 ところが、お腹を大きくしていた母が、産み月に少し足りないにも関わらず急に産気づき、父は医者を呼んだり親戚を呼ぶのでてんやわんや。構ってやることも出来ないから、これでお祭りに行っておいでとお金だけ渡され、姉弟は家を出たそうだ。 「お母さん、とっても苦しそうだったの」 「ぼくね、妹がいい!」 「ぼく弟がいいもん!」 下二人はいまひとつ事が分かっていないようだったが、姉である少女は母親を心配し、無事を願って笹舟を流そうと考えたのだった。ところが、どうにも上手く作れない。試しに蝋燭を立てずに流してみても、あっという間に沈没してしまう。 「お、お母さん、無事じゃなかったらどうしよう……っ」 それで途方に暮れて、ついには泣き出してしまい、弟たちもつられたのだろう。いまだべそをかきながら笹の葉を握り締める少女に、月草は自分の胸の奥がきゅうと引きつれるのを感じた。 お祭りは、みんなが笑っているべきだ。こんな顔をさせていてはいけない。 ぎゅっと左手で拳を握り締め、右手は優しく少女を撫でて、月草は微笑む。 「大丈夫。お母様はきっと無事ですわ。だから、もう一度笹舟、作ってみましょう? それに……」 小鳥のさえずりのように耳に馴染む声が、少女の心をやんわりと宥めた。 「お祭りは笑って楽しまなければ。ね?」 その言葉に安心したのだろうか。 「あ」 少女のお腹が大きく鳴って、弟のお腹もぐうと合奏した。月草は小さく笑い、背筋を伸ばすと小さなせせらぎを振り返った。 ――どうしましょう。私、笹舟作れないんですよね……。 実は彼女、ものすごく不器用だったり、した。 |
■参加者一覧
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
アン・ヌール(ib6883)
10歳・女・ジ
蛍火 仄(ic0601)
20歳・女・弓
蔵 秀春(ic0690)
37歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●協力者 「泣いてんのか? 俺様でよければ相談に乗るのだよ」 月草が川を見つめ、内心で途方に暮れたのとほぼ同時、少し離れてかかる声があった。 明るい星空の下、金の髪をきらめかせ、白地に朝顔の浴衣を身に着けた少女。アン・ヌール(ib6883)という名の彼女は、振り向いた一同を緑の目で見つめている。 協力してくれそうな人が現れたことに、月草はほっと息を吐いて顔を明るくした。 「はい。あの、この子達と笹舟を作ってあげてくれませんか?」 「笹舟? なんだそれ」 きょとん、とアンは目を丸くする。まるで、そんなものは初めて聞いたというように。 「お姉ちゃん、笹舟知らないのー?」 「のー?」 双子たちの無邪気な問いかけに、彼女はあっさりと頷いてみせた。姉である女の子は慌てて、握りしめてしまった笹を高く掲げて見せる。 「あのね、あのね、こうやって、笹を折って、舟にするのよ」 「この笹舟に蝋燭を立てて川に流すんです。沈まずに下流まで流れていけば願い事が叶うと、このお祭りの風習なんですよ」 月草の捕捉に、なるほどどアンは頷いた。近くの笹をむしって、女の子から詳しく作り方を聞き出す。 「ふむふむ、ふむふむふむ……って、難しいな、これ」 「ぼくも作るー」 「ぼくも!」 「で、では私も……一応」 弟たちと月草も混じり、とりあえず一同はしゃがみこんで、ああだこうだと笹舟を作ってはみた……の、だが。 「うっ」 「うー」 「あう」 「ごめん、マジごめん……」 「こ、これは……」 出来上がった五つの笹舟は、見るからに不恰好だった。これでは蝋燭など浮かべなくても、直ぐに沈んでしまうだろう。 じわり、子供たちのまなじりに涙が浮かぶ。 「ふえ……っ」 どうしよう、と月草が慌てたとき、しゃがみこんだまま笹舟を見つけていたアンが、勢いよく立ちあがった。 「――俺様、皆様に聞いてみるのだよ!」 「へっ?」 「どなた様か、笹舟作りが上手な方、いませんかーーーー!!」 そのままの勢いで駆け出した彼女に、子供たちは泣くのも忘れてぽかんとした。見る間に遠ざかっていく声に、月草もまた呆気にとられている。 しかし直ぐにハッと気づくと、ぱちんと手を打ち合わせた。 「そうですね、上手な方に教えて頂けばいいんです」 「でも……ほんとに、ちゃんと、出来るかなあ……っ」 既に失敗を重ね、今もまた上手くいかなかったことが女の子を気落ちさせたのだろう。せっかく作った笹舟をぐしゃりと握りしめた彼女の声は、ほとんど泣いているように水気を含んでいた。 せっかく着せてもらったのだろう浴衣の袖も、泣くまいと頬を拭ったのか濡れている。それは双子の弟たちも同様で、ぐ、と喉の奥に泣き声を詰まらせた。 「こいつはまた、どうしたい?」 「ちびちゃん達の泣き声がするのだぁ〜」 驚いたような声と、少し間延びした声。 二人の男性――玄間北斗(ib0342)と蔵秀春(ic0690)はなかなか対照的な印象を一同に与えたが、どちらの声にも優しそうな、いたわるような色があり、子供たちは一瞬の警戒をほうと解いた。 「折角のお祭りなのに、泣いてたらメ〜なのだぁ〜」 子供たちの視線に合わせてしゃがみ込み、玄間が言う。 「あのね、あのね、お母さん赤ちゃんいるの」 「だから笹舟作るの!」 双子は柔らかな声に惹かれてか、口々に説明不足な説明を零しながら玄間に纏わりついた。知らない人に、と姉である女の子はそれを止める声を上げかけたが、それは彼のおっとりした物言いに遮られ、包み込まれた。 「そっか、お母さんがおめでたなのだぁ〜」 その言葉は、なぜか月草に対し向けられていた。 「……いえ、あの、私ではありませんよ?」 「え?」 「ちょっとお母様が大変なご様子で、お父様はそれに付きっ切りだそうです。だからこの子達だけでお祭りに来ていたところを、私が通りがかって」 「ああ、そういうことだったのかい」 蔵はようやく得心がいったように手を打ち、玄間はちょっと誤魔化すように笑った。 月草は自分の年齢を鑑みてもあまり強く言うことは出来ず、気を取り直して説明を続けることにした。 「それで、お母さんの無事を祈って、笹舟を作ろうとしたんですよね」 「う、うん、でも笹舟作れなくって、あたし、あたし……っ!」 ぽろり、女の子の目から涙が零れる。切羽詰まった言葉は、それほど彼女が思いつめていたことを示していた。 父親が居らず、弟たちは幼く。もしかしたら、彼女が一番不安だったのかもしれない。 ぽん、と女の子の頭に手を置き、ゆっくりと撫でて微笑んだのは蔵だった。 「大丈夫」 「でも、でも、お母さっ、無事じゃなかったら……! ふえ、うぅっ」 「大丈夫だって。お母さんも赤ちゃんも無事さね。笹舟、作るんだろう?」 「笹舟作り、お手伝いするのだぁ〜」 二人の慰めに、女の子の嗚咽が微かにゆるむ。 つられて滲みかけていた双子の涙も、浴衣の袖がぐしりと拭った。 ●そして協力者 「あらあら、本当に、こんなところで泣いている子が…」 ふんわりと柔らかな声のまま、蛍火 仄(ic0601)は少し目を丸める。 「はあ、はあ……あ! 人、増えてる!」 荒い息は、先ほど駆け出して行ったアンだった。 話は、少しだけ前に遡る。協力してくれそうな人を探してアンは河原を駆けていたが、行けども行けども見かけるのは恋人同士、または親子連れ。せっかくの語らいを邪魔するのも忍びなく、アンは少し焦っていた。 そんなとき、ふと視界の端を行き過ぎた淡い明り。 「あ」 足を止めると、宵闇に溶けそうな紺色の浴衣の女性が、手元の刺繍をきらきらさせながら行燈を手に歩いていた。考えるより早く、すうっと息を肺に吸い込む。 「そこの、すごく綺麗なおねえさんっ。笹船作りってわかるかな!」 「……え?」 道すがら事情を説明しつつ、女性二人は足早に、子供たちの元へ向かって来たのだった。 ●笹舟作り 事情が分かっているのであれば話は早い。 「お母さんの無事を願ってあげたいなんて優しい子ですね」 蛍火にも頭を撫でられ、女の子は落ち着いたようだった。今は、じっと玄間の手元を見ている。 「蝋燭を流すなら、ちょっと大きめで青々とした元気な葉っぱが良いと思うのだ。こうやって折って、端を一寸千切って折り込んで……はい。出来たのだぁ〜」 「おお、凄いっ。器用だなぁ」 「たぬきのおじちゃんすごいっ」 「すごい!」 先ほどとは違ってきれいに作られた笹舟に、アンは歓声を上げた。双子も頷いて手を叩いている。 ちなみに、たぬきのおじちゃんというのは、玄間の頭に狸耳がついているための呼び名である。同様に甚平にもかわいらしいたぬきが染められているため、双子はすっかり玄間をそう呼ぶことにしたらしい。 「あのね、舟が壊れちゃうのは、どうしたらいいのかな」 四人の歓声の後ろで、女の子はぽつりと尋ねた。 いくつも沈む舟を見たので、大体どういう風に沈むかは検討がついている。 「ああ、じゃあ」 何事か思いついたのは蔵だった。 「折ったところが解けちまうんなら、簪を挿したらどうだい?」 「かんざし?」 ことりと首を傾げた子供たちに、蔵は少し笑うと、手近な小枝の一本を折った。 本当ならもっと堅い素材がいいのだが、生憎このくらいしか見当たらない。あとは、笹と水辺の草々ばかりである。それでも、小さな笹舟を待ち針のように留めてやるくらいなら、不足は無かった。 懐から細工のための道具を取り出せば、それに合わせて蛍火がすっと行燈を掲げ、蔵の手元を照らした。 「おお、ありがとさん」 「いえ、お気をつけて」 行燈の灯りと同じように優しく微笑む蛍火に対し、子供たちは明るくなった彼の手元に興味津々である。 「何するの?」 「まあ、見ておきな」 そう、複雑な細工では無かった。しかし少ない手数でやや小さめに作られた簪に、子供たちはわあっと声を上げる。 「すごーい!」 「おじちゃん、すごい!」 「織り込んだ部分にこうして簪を差し込めば、な?」 女の子の手のひらに笹舟を置いてやると、彼女はぱっと頬を赤らめて笑顔を零した。 「わあ……!」 いま泣いたカラスがもう笑ったと言わんばかりに、子供たちは熱心に笹の葉を選び、蛍火や玄間に見てもらいながら笹舟を作り始めた。アンもまた、初めての経験が楽しいのか、一緒になって笹を折っている。 一方で、相変わらず難破船しか作れない月草は早々に離脱していた。彼女の不器用は、相当深刻な部類である。 「蔵さんは、お歌だけではなく、簪作りもお上手なのですね」 子供たちのために何本かの簪を作りにかかっている蔵へ、月草はそう話しかけた。 「こっちが本職さね、あれはまあ、成り行きというか」 「あら、とってもお上手でしたのに」 ころころと笑う月草に、蔵も少し笑った。 「ついでだ。月草さんにも何か簪をつくろうかい?」 「まあ、素敵」 しかし月草は、少し考えてから首を左右に振った。口元は微笑んでおり、声音もまた明るい。 「今度、お仕事でお願いしますわ。素敵なものを作って下さいませね」 ●小さな灯り ちょこんと手のひらに乗った笹舟。青々とした葉できっちりと折られたそれは、いかにも軽やかに水面を滑りそうに見える。 「アンちゃんも出来たね」 「ね!」 「ねー!」 「おおお、出来たぞ!」 年下にちゃん付けで呼ばれても構う様子はなく、手の中の笹舟に感激してアンは目を輝かせた。 蔵から簪を受け取って端を留めると、更に嬉しそうに子供たちとはしゃぐ。 それを微笑ましげに見ながら、玄間がおっとりと口を開いた。 「蝋燭は長いままだと不安定になってしまうのだ。程好い長さに切って、笹舟に蝋を垂らした上に載せるとしっかりくっつくのだぁ〜」 「あ、そっか。蝋燭を立てて完成だな」 「火は、こちらをどうぞ」 そっと差し出された行燈で、子供たちの嬉しそうな表情が照らし出される。 「火には気を付けてな」 「はーい!」 蔵の注意に頷いて、子供たちは慎重に、慎重に……せっかく上手くいったものを台無しにしてしまわないように、笹舟に蝋を垂らした。 「蝋燭も綺麗にたつんだなぁ」 アンの感嘆に、月草がふふ、と笑う。 「これが流れるところは、もっと綺麗ですよ」 「何といっても、『流星』祭さね」 「よぉし、それじゃ流すのだぁ〜」 「傾けないように、気を付けてね」 双子は少し緊張した面持ちで、笹舟を持って川べりに駆け寄った。けれど、足音は一つ足りない。 「お姉ちゃん?」 「どしたの?」 「あ……」 ――不安、なのだろう。また沈んでしまったらどうしよう。今度こそはと思うけれど。 きつく目を瞑ってしまった女の子に月草がかける言葉を探した、その一瞬。若く明るい声が力強く彼女を励ました。 「大丈夫だって! そんなに綺麗に出来たんだぞ? それに、すごく頑張ったじゃないか」 「アンちゃん……」 「ほら、行こう! 俺様も一緒に流すのだよ!」 「う、うんっ」 歩き出した二つの足音に、大人たちは今度こそほっと肩の力を抜いた。 ●笹舟流し 「流れたー!」 「いけいけ、ずーっといけー!」 嬉しげに、子供らしい高い声で双子は笹舟を応援する。 「よかった……」 女の子はきゅっと胸を押さえ、安堵に滲む涙を堪えながらも、心からの笑みを浮かべた。 アンは、初めて見る美しい光景に見惚れ、自分の流した笹舟がずっと遠くにいくのを見つめている。 「綺麗だねぇ。まさに流星のようさね」 「ええ、本当に」 感嘆し、頷きあう蔵と蛍火の横で、月草もまた笑いながら――しかし、いささか無粋なことを口にした。 「ほっとしたら、お腹が空いてきましたね」 「あ、ぼくも!」 「ぼくもぼくも!」 けれども粋も無粋も関係ない子供は、我も我もと飛び跳ねる。女の子のお腹が控えめに、再びぐうと鳴ったのが、決定打のようなものだった。 蛍火がそっと笑みを深め、女の子の手を握る。 「美味しい物を食べに行きましょう。お嬢ちゃんは何が好きですか?」 ぱちりと瞬きして、女の子は少し躊躇いを見せた。けれどもはにかむように笑い、小さな声が「あんず飴」と答える。 「弟君達、肩車しようかなのだぁ〜。美味しい物を沢山見つけにいくのだぁ〜」 「わーいっ!」 「たぬきのおじちゃんおっきいー!」 広がる笑顔に、蔵自身も目を細め、眩しそうに笑った。 「何よりかにより、笑顔が一番綺麗か」 「笑顔が沢山だから、お祭りは綺麗なんですのよ」 お祭りをこよなく愛する月草である。何より先に母の無事を願った子供たちに、流星祭を堪能させる。そのことに否やのあろうはずも無かった。 「アンさんも、行きましょう?」 「あ、ああっ」 川の流れと笹舟に見惚れていたアンは、月草の言葉ではっと我に返ると小走りに駆け出した。蛍火と手を繋ぐ女の子に追いつくと、その頭にぽふりと手を置く。 「よかったな?」 「……うんっ!」 ようやく、女の子は満面の笑みを零した。 そしてこの夜の思い出は、子供たちの新しい弟と妹へ、繰り返し語られることになるのだった。 |