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■オープニング本文 ● 『流星祭』の時期、街はいつもと違った喧騒に包まれる。 祭は西の空が薄紫に染まる頃に始まる。次々と灯が灯る祭提燈風に乗り聞こえてくる祭囃子。祭会場となっている広場は大層な賑わいで、ずらりと並んだ屋台からは威勢のいい呼び込みの声が響き、浴衣姿の男女が楽しげに店をひやかす。 時折空を見上げては流れる星を探す人、星に何を願おうかなんて語り合う子供達、様々なざわめきが溢れていた……その、ほんの少し前のこと。 ● 「今年はどんな方々がいらっしゃるでしょうね」 ようやく昼に差し掛かろうかという時間、まだ蒼穹は高く、日差しは刺すように強い。設営された天幕の影とはいえ高まる気温に汗を滲ませながら、美しい浴衣を身に着けた小柄な女性――名を、月草という――は、隣の長身に声を掛けた。 錆色の渋い着物に身を包んだ背の高い男が、それを受けてそっと顎髭を撫でる。 「さて。ですが、盛り上がることは確かでしょう」 「そうですね」 うふふ、と月草は笑う。 「わたし、去年の親爺さんのあれ、あんな方がもっといらっしゃればいいと思いますの。とっても面白かったでしょう?」 「ああ、あの凄まじい声量の……いやはや、あれは殺人的でしたな。観客からはブーイングも出ておりましたよ」 「でも、とっても格好良かったですわ。こう、魂を揺さぶられるというか……」 「はあ……私はどちらかというと、少女たちの合唱に心惹かれましたねえ」 「あ、あれも可愛かったですねえ。お揃いの浴衣で、綺麗に声が重なって」 「何とも愛らしかったですね」 「ええ、今年も楽しみですね。どうやら、無事に開催となりそうですし」 『流星祭』の初日には、例年、のど自慢大会が開かれる。祭りがまだ小規模であった頃から「飛び込み歓迎・素人大歓迎」を掲げ、上手いも下手も老若男女も入り乱れての人気イベントの一つである。 一応は大会形式をとっており、審査員もいるのだが、なにせお祭りの中のことである。こちらも観客や参加者と一緒になって楽しんでおり、審査員の評価でまた一笑い、なんてことも珍しくは無い。その分観客も遠慮がなく、歓声やブーイングがよく飛び出す。観客の声援で評価が一転ということも毎回一度くらいはあるもので、とにかく、みながみな参加者として賑やかに盛り上がるのが、このイベントだった。 何にしろ、喧騒は祭りの華なのだ。それを分かっているから、二人は組み上げられた舞台をいかにも愛おしそうに見つめる。 「もうすぐ始まりますよ」 審査員の一人、神楽の都で知られた歌姫の月草は、生ぬるく吹き抜けていく風に応えてそっと呟いた。 その空が薄紫に染まる頃、祭りが始まる。その始まりを祝うように、少し遅れて声が響くだろう。歓声と喧騒と歌声。重なっていく人々の興奮。 それを思うと、とうに成人した彼女の胸すら、鼓動を速めて血を巡らせた。白い頬を暑さのためばかりではなく上気させ、月草はほっとほどけるように笑う。 「私たちの『流星祭』が」 「そうですね」 男もまた表情を緩め、深い色合いの目を細めて彼女のあどけなさに微笑した。 「『のど自慢大会』、もうすぐ始まるよー!! 歌に自信のある姉ちゃんも、音痴な兄ちゃんも、騒ぎたいだけのお祭り野郎共もよーっとーいでー!!」 大会受付の机の前で、一人の獣人の少女が声を張り上げていた。丈の短い法被を羽織り、汗の浮かぶ額にはねじりハチマキ。由緒正しいお祭りスタイルである。 「なんと前座には神楽の歌姫が! 参加もまだまだ受け付けてるよおう! 恋歌、わらべ歌、自作だって大歓迎! あっそこのお兄さん、恋人への愛を舞台で歌い上げてみない!?」 びし! と突きつけた人差し指に合わせて大きな耳もピンと伸びている。たいそう可愛らしい様子だが、本人はいたって真面目に一生懸命である。その証拠に、祭りは始まったばかりだが、既に少女の首筋にまでも玉のような汗が滴っていた。 「あのう」 その背へ、不意にかかる声。ぱっと振り向いた少女の表情は明るい。 「はーい? あ、参加者の方ですかっ? じゃあね、ここの受付で参加申請をして、札を受け取ったら控えの天幕に……あ、特技や二つ名や職業を言っとくとね、呼ぶときに司会のひとが気の利いたアオリを……そんでね、開会があとちょっとだから……」 日が傾き、宵の時刻が近づいてくる。その日が沈みきる頃が、のど自慢大会の始まりだった。 |
■参加者一覧
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
雨傘 伝質郎(ib7543)
28歳・男・吟
アルフィリウム(ic0400)
15歳・女・吟
蔵 秀春(ic0690)
37歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●大会直前 「へぇ、のど自慢ねぇ」 獣人の少女に声を掛けられ、蔵秀春(ic0690)は面白そうに自分の顎をさすった。 「簪以外はとんと門外漢だが、手伝える事があれば手伝うさね」 「ええ! そんな、悪いよ」 「気にしなさんな。……よっ、そこのお二人さん。おしゃれに決まってるねぇ。どうだい、二人一緒に参加してみないかい」 「え?」 蔵の呼び掛けに顔を上げたのは、小柄な少女――鈴木透子(ia5664)だった。傍らの雨傘伝質郎(ib7543)は振り向いてニッと大きく笑い、応ずるように大きく右手を上げる。 「そのつもりだあ。雨傘伝質郎、歌わせていただきやすぜい」 「わあ!」 大きく溜息を吐いた鈴木には気付かないようで、獣人の少女はぶんぶんと尾を振る。蔵はというと、また人ごみの中の一点に目を留め、ちょっと口元を綻ばせた。 「おう、羽喰さん、あんたは派手に歌うかい?」 「もちろん!」 明るく応えたのは羽喰琥珀(ib3263)である。うきうきとした表情で、大きな目がくるりと周囲を見回す。 「いいねーこの喧騒と歓声、そしてこの熱気っ。やっぱ祭りはこーでなくっちゃ」 無邪気な笑顔につられ、蔵も思わず笑みを深くする。賑やかな祭りの人ごみは、大会の始まりに向けて一層の高まりを見せていた。 一方、控えの天幕には、どこか涼やかな空気が漂っていた。 「誰もが知っている曲というと、そうですね、……」 月草は指折り数えながら、いくつかの有名な民謡を挙げた。斑鳩(ia1002)はふんふんと頷きつつ、ぱっと頬を緩めて穏やかに笑った。彼女の中で、演目が決まったものらしい。 「ありがとうございます」 「いいえ。楽しみにしていますね」 ふふ、と笑って月草も目を細める。その手には、なぜかお茶請けの菓子があった。 本来、のど自慢出場者と審査員の控えは少し離れているのだが、彼女がわざわざこちらを訪れたのには訳がある。 「あちらで見ていて、何てたくさん召し上がるのかしらと思ったの」 もぐもぐと屋台の食べ物に齧り付くアルフィリウム(ic0400)のことが、大層気になったらしい。 「これもどうぞ」 「ありがとうございます」 もぐもぐ、もぐもぐ。 月草はそんな様子を見て、「素敵、素敵」とはしゃいでいる。香ばしい匂いに誘われたか、斑鳩も楽しそうに黒い瞳をしならせて笑った。 「お祭りっていいですよねー。普段とは違ったワクワク感というか」 「はい、大好きなんです」 そっと両手で口元を隠しながら、月草は少女のように笑い声を立てた。 「ふふっ、皆さんのお歌、とっても楽しみですわ」 ●一曲目 前座が終わり、会場は独特の不思議な空気に満ちていた。 楽しいことを期待するような、思いもかけないことを待ってドキドキするような、そんな 空気。 少しだけざわめきが残る中、舞台に現れたのは小柄な少年だった。体格に似合わぬ大太鼓に、一瞬、息をひそめたのは誰だったろうか。 「神楽のお祭り少年! 羽喰琥珀ゥ!」 司会の高らかな声に、会場中からワッと大きな拍手が上がる。少年はそれに応えて右手を上げると、拍手に負けないよう大きく声を張った。 「盛り上がったら手拍子よろしくー!」 まず、はじまりのほんのワンフレーズ。それだけで子供たちはぱっと顔を明るくした。知っている歌だ。お祭りの、歌。 そしてうねるように太鼓が続き、お祭り好きの観客たちの血は熱くなっていく。誰が始めたのかわからない手拍子は会場にさざなみのように広がり、高まり、まるでそこが祭りの櫓のようですらあった。唄うことが楽しいとばかりきらめく少年の目に応え、子供たちの目も輝き、頬が紅潮していく。 力強い声が一度途切れ、桴が空中高く放り投げられると、そこでようやく観客たちは曲が間奏に入ったことに気がついた。 「すごーい!」 「お兄ちゃんかっこいーい!」 パフォーマンスには幼い拍手が送られ、大人たちもそれに遅れて拍手を送る。終盤に向けて一層高まる興奮に、曲の終わりを寂しいと誰もが感じた。 けれども、くるりと観客を向いた少年の笑顔は鮮やかだった。 「聞いてくれてありがとーっ」 会場の熱気にか、歌い終えて緊張が解けてか、少年の額には汗が滲んでいる。 「一曲目から、とっても素敵でしたわね」 「選曲が良かったですなあ」 審査員の二人の表情はにこやかで、高評価であることが窺えた。特に祭りを愛好する月草の評価は高いらしい。白い頬が上気している。 「やっぱり、お祭りはこうでないと! 俄然燃えてまいりましたわ」 「ははは、貴女はほどほどに……ですが、素晴らしい歌声と演奏でしたね」 「はい!」 観客も評価に深く頷きながら拍手をし、一曲目は賑やかに終了した。 ●二曲目 「次の演奏者はこの人! 食欲娘、アルフィリウム嬢ー!」 会場中にクエスチョンマークを飛ばした司会の発言をよそに、二曲目は、一曲目の興奮を穏やかに慰撫するような癒しの歌だった。 「まあ……」 「おお、これは……」 するりと滑り出すように、綺麗な声が会場へ広がっていく。いくらかざわめいていた会場は気付けば静まり返り、微かな銀鈴の音までもが、静々と人々の耳を撫でていった。 りーん、と涼やかにハンドベルが鳴る。 「なんてきれい」 思わずこぼれた月草の呟きも無理からぬこと。ほう、と漏れる感嘆の溜息は、会場に落ちてほどけていく。大人も子供も、誰もがみな息をひそめて舞台の上の細い身体を見つめていた。 ――それは祈りのような歌声だった。 祭りの喧騒が嘘のように、星々のきらめきそのもののように。そっと人々の心に、冷たく心地よい清水が染み込んでいく。 さらさらと興奮を鎮め、穏やかな優しさが誰もを癒していった。 そうしてあまり長くはない歌の終わり、一羽の小鳥の羽ばたきが舞い降りて、観客はハッと目を瞬かせた。微笑んで小鳥を撫でた少女に、誰かが小さな声で呟く。「夢を見ていたようだ」と。 「綺麗な歌声でしたなあ」 「本当に。心が洗われるようでしたわ」 「小鳥が寄ってきていましたね」 「仲間だと思ったんでしょうか。それくらい、可憐な歌声でした」 一礼した少女がいなくなっても、観客たちはどこか夢見心地で盛大な拍手を送り続けた。 ●三曲目 ふっと篝火が消えたので、観客たちはぎょっとして周囲を見回した。 「逃げた女に未練はないがァ……」 暗がりの中に、少女の声が不意に響く。演出かとホッとしたのが大半、独特の節回しにぎょっとしたのが子供たちである。 「なに?」 「おかあさあん!」 「シッ、静かになさい」 「雨傘伝質郎、心をこめて歌い上げます!」 ぽぽぽぽっ、舞台の篝火が再び灯されたとき、ささっと舞台端に逃げる少女よりも目を引いたのは、ド派手な衣装を身に着けた長身の凶相だった。 「ひぃっ」 前の方に座っていた子供が思わず悲鳴を上げたのは――無理もないことかもしれない。 すっと伸びた長身が傘を掲げ、にやりと弧を描く口元から芝居がかった流し目が滑る。 子供こそ怯えているものの、思わず何が起きるのかを期待させるような、芝居っ気たっぷりの前振りである。 と、ととん。 短く太鼓の音が鳴り、ついで軽やかに鳴り響いた笛の音に合わせて始まったのは……。 「演歌ですか」 「演歌ですね」 何だか、どこかで聞いたようなド演歌である。 意外にも技術は確からしく、声量のある歌声に小節がばっちり聞いている。笛や太鼓と絡む三味線の音も高らかに、興が乗った年配の観客からは応援するように野次が飛んだ。 「よっ、天儀一!」 「いいぞー! 色男!」 とはいえ、子供たちには何が何やらである。聞きつけない節回しが不満なのか、大人たちを真似て野次を飛ばすが、あまり評判は芳しくない。 「へたくそー!」 「こわいー!」 そして、それに乗っかってしまうのがお祭りの空気というものである。会場の至る所から評価入り乱れた野次が飛び、舞台端の少女は呆れたような目を相方に向けた。一方、雨傘は気持ちよさそうに、情感たっぷりに歌い上げている。締めたところでようやくまばらな拍手に気付いたのか、めげることもなくニッと笑って傘を上げ、 「よぉーし、それならもう一曲」 ばふり。 顔面に当たった座布団は、子供が投げたものだったのだろう。 後ろにひっくり返るように倒れた男に、一瞬、会場は息を呑んで静まり返った。 「あ……」 投げてしまった子供が「どうしよう」と目を潤ませかけたが、鈴木は相方の昏倒に動じるでもない。緩やかなざわめきが会場から持ち上がりかけた刹那、むくりと起き上がった長身は、どこをどうしたのか白装束に早替わりしていた。 「うーらーめーしーやー」 きゃああああああああ! 歓声とも悲鳴ともつかない声が、会場からどっと上がった。一気に緩んだ雰囲気と共に、お菓子や座布団が次々に舞台へ投げ込まれていく。 「舞台に物を投げないで下さい! 投げないで! あ、鈴木さん、ありがとうございます!」 司会の制止も空しいもので、舞台の上を片付ける鈴木の手が追いつきそうにない。手助けに出てきたのは裏方を手伝っていた蔵だったが、盛り上がってしまった会場は次の標的を彼に定めた。 「よう兄ちゃん! 次は何だい?」 「賑やかなやつ頼むぜえ!」 「へ? 自分かい?」 いや、聞き専なんだがね……そんな呟きが聞き入れられるはずもなく、司会にも目で懇願され、蔵は苦笑を浮かべた。 ●幕間 落ち着いた色合いの浴衣姿で舞台の上にすっきりと立つ。 後ろではちょこまかと片づけが行われているため、それが終わるまでの場繋ぎならば、と蔵は歌い始めた。 曲目は島唄。少し異国情緒を漂わせながらも、天儀の人々の耳にはよく馴染む旋律である。 飛び入りの気安さからか、観客の中には鼻歌を合わせるものもいた。子供たちからは手拍子も聞こえてくる。 「いやはや、落ち着きましたな」 「うふふ、面白かったですわね」 「いささかやりすぎという気もしますが……」 「あら、お祭りに騒動は付き物ですわ」 月草の言葉に、会場からは小さな笑い声が上がった。 「こちらの曲も、何だか懐かしいような心地が致しますね」 「そうですね。だいぶ上手いじゃないですか」 「はい。落ち着くような、わくわくするような、不思議な感じがしますわ」 「浴衣もよくお似合いで。伊達男ですねえ」 こちらもまた、小さな笑い。尻馬に乗ってひゅーひゅーと口笛で囃すものもいる。 短い一曲を歌い終えるころには、舞台も観客もゆったりと落ち着き、しっかりとした拍手が会場を包んだ。 ●四曲目 「失礼しちまったねぇ、頑張ってな」 舞台袖に戻り際、次の曲を待機する斑鳩に蔵は声をかけた。 「いいえ、お疲れ様でした。お上手ですね」 「ははっ、ありがとうよ」 お世辞と軽く流した蔵だったが、本当ですよと斑鳩は微笑む。彼が舞台を治めてくれたことに感謝しつつ、彼女は舞台袖から明るい篝火の中へ向かった。 「二胡の音はどう響くのか? 斑鳩嬢だー!」 期待でもって迎えられた舞台に、まず響いたのはしゃらんと華やかな金鈴の音だった。 白い浴衣の金魚が、その拍子に合わせてさらさらと揺れる。唇からこぼれ出した声は美しく透き通り、どこまでも響きそうなほど伸びていった。ふわりとそれを追うように、彼女の身体を淡い陽炎が包む。 「まああ……」 妖精さんみたい、小さな女の子がうっとりと呟いた。 曲目は、天儀でよく知られた古い歌である。誰もが口ずさむことの出来るそれを、口ずさむ者は今はいない。全く違う歌のように、けれどどうしようもなく懐かしい歌のように響く旋律に、聞き惚れるばかりである。 微かに侘しい二胡の音が、大人たちの郷愁を駆り立てる。 しゃらしゃらと華やかなグングルの音が、子供たちの心をわくわくと駆り立てる。 炎の幻影と共に舞い、美しい歌声で夜空を飾った少女のことを、観客たちはその後長く忘れることが無かったという。 そっと一礼をして、彼女は舞台を降りた。 割れるような拍手が、しばらく鳴り止むことはことはなかった。 ●そしておしまいに 「今年も皆さん、素晴らしかったですね」 「大変盛り上がりましたな。こちらも、選ぶのに苦労しました」 審査員の二人は、ぱたぱたと団扇で扇ぎながら、にこやかに結果発表を始めた。 「本当に、とってもとっても迷ったのですけど。私はやっぱり、賑やかなものがお祭りには相応しいかしらと」 「ですが、祭りの中の清涼剤となるような、素晴らしい歌声を忘れてはいけません。私は、心洗われるような、美しい歌声が好ましくてね」 「で、喧々諤々、あわや審査員が座布団を飛ばしあうところでしたわ」 「それは貴女だけですが。ともかく」 ごほんと咳払いを一つして、審査員の男はもっともらしい顔を作り、重々しく宣言した。 「審査の結果としましては、優勝を斑鳩嬢に」 「特別賞を、雨傘伝質郎さんと、鈴木透子さんのお二人にお送り致しますわ」 月草は相変わらず、にこにこと微笑んでいる。審査の結果に、いやあっちが、こっちがという声も聞こえたものの、すいと片手を上げた月草に皆が注目した。 「ですが、皆さんいずれも祭りの華、それも素晴らしい華でいらっしゃいました。今年ののど自慢大会は終了となりますが、お祭りはまだまだこれからです。参加者の皆さん、観客の皆さん、どうぞ最後の一曲はご一緒に」 そして来年もよろしくお願いしますねと言って、彼女は最初の一声をあげた。 それを追うようにいくつかの歌声があがり、やがて大きな一つのうねりとなって夜空へ昇っていく。きらめき注ぐ流星は、その歌声を讃えているかのようだった。 |