魔の森に雫したたる
マスター名:鳥間あかよし
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/04 20:32



■オープニング本文

 生木のくすぶる、すえた臭い。
 弓術士の国、理穴東部は魔の森に汚染されている。
 しかし人々は粘り強く焼き払いを続けていた。
 今日もある村で男たちが集まり、開拓者に護衛を頼んで森に火をかけている。

「おいどうだ」
「見てのとおりだよ、濡れたみたいに火がつきゃしねえ」
「雨はしばらく降ってないんだがな」
 炎羅の討伐前から細々と続けてきた魔の森の焼却は、4年前のあの合戦以降、一定の成果をあげつつあった。
 しかしここ一ヶ月、油を撒こうとも火の手は広がらない。
 護衛をしていた開拓者が渋い顔でつぶやく。

「……まずいことが起きてるのかもしれん。早急に調査せねば」

 男たちは森の奥を不安げに眺める。
 濃密な瘴気漂う森の奥は、アヤカシが跳梁跋扈している。
 人間にとってそこは不浄の地。
 踏み込んだならば瘴気感染を起こし、心身ともに疲弊していく。
 現状、これといった予防法はなく、また治療できるのは開拓者ギルドの専門員だけであった。

「しばらく焼き払いは中止するよう村長に伝えてくれ。俺はギルドに依頼を出してくる」
 開拓者の一声で、皆は早々にその場を後にした。
「調査か、あの森へ分け入るなんて考えただけで背筋が凍る」
「土地が広がってうれしく思ってたんだが……はがゆいことだ」
 帰路に着く人々は顔を曇らせる。そのうちの一人が護衛に声をかけた。
「よけりゃ依頼の中身を教えてくれ。俺らも事の次第くらいは知っておきたいからよ」
 護衛の開拓者はもっともだとうなずいた。

「魔の森でうかつな行動をとれば命はない。
 引き際を心得た冷静な判断のできる奴が適任だ。

 多くは望まない。
 そうだな、せいぜいあの一本杉のところまで行ってくれりゃ十分だろう。
 反対側には枯れた沼があったはずだが、今はどうなっているんだろうな。
 以前に焼き払ったところも見回りが要るかもしれない。
 手分けして調べてもらおう。

 道中、険しい地形はないから行くだけなら苦労はしないんだが、アヤカシがな……。
 魔の森でやつらと正面から戦うのは、水の中、丸腰で鮫の群れに襲われるようなものだ。
 かといって出ないわけがないから、どうにかやり過ごしてもらわなくては」

 そう、骸は何もしゃべれない。
 重大な情報をつかんだ者ほど、生きて帰らねばならないのだ。
 かくしてギルド掲示板に一枚の依頼書が張り出された。


■参加者一覧
黎阿(ia5303
18歳・女・巫
紗々良(ia5542
15歳・女・弓
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
月雲 左京(ib8108
18歳・女・サ
炎海(ib8284
45歳・男・陰
弥十花緑(ib9750
18歳・男・武
結咲(ic0181
12歳・女・武
白鷺丸(ic0870
20歳・男・志


■リプレイ本文

●焦げた大地の
 弥十花緑(ib9750)が顔をしかめる。
「瘴気が消滅してたんやったら、何故今頃……」
 辺りを見回す。下草はすべて炎に刈り取られ、燃え残った切り株がそこここにある。見た目だけなら順調に開墾されつつある魔の森だ。だが彼の手にある懐中時計「ド・マリニー」は、不穏な値を叩き出していた。口調を改め、時計を見せながら僚友に注意を促す。
「いつ誰が瘴気に感染してもおかしくありません。撤退の条件を決めておきましょう。重い疲労を感じたら、作戦は中止したほうがいい。動けない人が出た場合は、すぐに。日没までには戻ってこれるよう、太陽の位置にも気をつけてください」
 炎海(ib8284)は人魂で鳥を形作る。
「全く忌々しい森だ。この調子で焼き払いを続けたところで、国境を取り戻すのに、はて何年かかるやら」
 人魂を通して上空から眺めた魔の森は果てしなく続いているように見えた。瘴気なのか濃霧なのか、視界は遮られ、すっきりとは見通せない。彼は僚友を振り返る。
「ここらで三手に分かれよう」
 何かあったときのため、狼煙銃での合図を決めお互いに確認しあう。『青』なら撤退開始、『赤』なら。
「緊急事態だ。なるべくなら見たくないが、ここは魔の森だ。何が起きるかわからん」
 そう言うと白鷺丸(ic0870)は顎に手をあてる。その横顔を月雲 左京(ib8108)はじっと眺めていた。視線に気づいた彼が手を降ろす。
「何かな?」
「はく、ろ……丸様、で……御座いますか?」
「確かに、俺は白鷺丸だが……」
 どこかで会っただろうか、目の前の修羅に。考えあぐねていると、左京が頭を振った。
「いえ、申し訳有りませぬ。忘れて下さいませ……」
「他人の空似かな。そういうこともあるだろう」
「ええ……きっと……」
 背を向けた彼女に白鷺丸は首をかしげたが、今は依頼の方が気にかかる。
「……いつかは、ぜんぶ、ぜんぶ焼いてやる」
 エルレーン(ib7455)は、もやの向こうの一本杉を見つめる。強い決意が彼女の口からこぼれていた。
「レアよ。よろしくね」
 そんな彼女に寄り添ったのは黎阿(ia5303)。
「森が突然、燃え広がらなくなったって言うのは怖いわね。私たちで原因を突き止めましょう」
 紗々良(ia5542)は杉とは反対側を見つめていた。
「私、結咲さんと左京さんと、沼に行くよ。瘴気の勢いが、増してる? 何か見つけられると、いい、んだけど」
 ふと黎阿の視線に気づいた。
「……あ、えと。無茶は、しません、はい」
 神妙な顔をする紗々良を黎阿は抱きしめる。
「頑張ってね、だけど無理はしちゃだめよ」
 二人を見つめて結咲(ic0181)が、たどたどしく言葉をつむぐ。
「みんな、一緒に、帰る。それも、お仕事、だよ。カロク、も、ね」
 花緑もうなずき返した。
「結咲さん。はぐれんよう、お気をつけて」
「カロク、も、気をつけて。また、後で……」
 武僧の彼女は足に自信がある。赤の狼煙を見たならすぐに駆けつけるつもりでいた。その場に居た誰もが、彼女と同じ思いでいる。
 左京が手持ちから止血剤を取り出し、そっと炎海に差し出した。
「無事に、お戻り下さるよう約束してくださいますか……?」
 受け取った炎海は穏やかに答える。
「勿論だとも。君が望むのならば……この誓い、必ず守り通してみせるよ」
「中は、危うき場所となりましょう。せめてもの無事をお祈りいたします」
「では指きりでもしよう。君こそ、どうか無事で。……そしてまた、君の愛らしい微笑みを見せてくれたまえ。約束、だよ」
 小指を絡め誓いを交わす。命の保障などない、せめてもの慰めだ。けれどそんなたわいもない約束が、死地では絆となる。

●光るは宝玉に似て
 人魂鳥が焼け跡の三人を先導する。先頭には炎海が立ち花緑をはさんで、殿は白鷺丸が務める。
「この異変、ナマナリと関連があるんやろか」
 つぶやく花緑の脳裏に、大アヤカシが最後に吐いたという呪の言葉がチラつく。
「どうなのだろう。今は何とも、ん?」
 白鷺丸が足を止める。焦げた倒木をひっくり返した。
「新芽か?」
 キノコのようなものが地を割って頭を出している。念のため槍の先でつついた。反応はない。青や緑に彩られているが、血管の浮き出た肉塊にも見える。
「これ、持ち帰れないだろうか?」
「どうでしょう」
 いかつい芽を素手で撫で、水気の有無を調べる花緑。つかんで引っ張ってみたが、みしみしと音を立てるばかりでびくともしない。
「根は深いようです」
 脇でながめていた炎海が声をかける。
「燃やせるだろうか。調べてみようじゃないか」
 風下等を考え位置取りをしたうえで火炎獣を召喚する。燃えつきたのは直撃したものだけで、飛び火した先はわずかにくすぶるだけだ。
「ただの炎はお気に召さないか。そう好き嫌いをするものでないよ、お嬢さん」
 嘆息する彼のとなりで、花緑が周囲を見回した。
「あの、砂が、舞っていませんか?」
「いいや特に……どうした」
 風は吹いているが、たいして強くはない。しかし花緑はくりかえし髪に手をやり、何かを払う仕草をしている。
「なんや頭の中がザラザラ言うて……」
 炎海が厳しい顔つきになる。
「やられたか、まだ軽いな。白鷺丸、ついてやってくれ。ここからは俺が行く」
「無理はしないでくれよ」
「尻尾の巻きかたなら心得ているとも」
 にやりと笑い、炎海は奥へ踏み出した。
「すみません……。言った本人がこんなことに」
「気にするな。これだけの瘴気にあてられているんだ」
 しきりに髪を払う花緑の背を、安心させるように軽く叩く。
「自分の身は守れそうか?」
「はい。せやけど、足を引っ張るのは不本意なので、ここで大人しくしています」
 花緑は手持ちから包帯などを取り出し、準備しておく。
「いい判断だな」
 白鷺丸も槍を握りなおした。
 二人を残して先を進む炎海。視界の端で、何かが光った。そちらへ人魂を飛ばし、彼は我が目を疑った。鳥が舞い降りた先、焼け野原と森の境目には、宝石がちらばっていた。日差しを受けキラキラと輝いている。
「なんだこれは。魔の森の産物か?」
 仮に見た目どおりの宝石だとしても、瘴気に汚染されていてはなんの価値もない。不吉な予感に、炎海は来た道を戻ることにした。

●不浄の沼は騒ぎ
 左京が刀を振るう。アヤカシが首を落とされ、塵に還る。結咲は剣に全体重を乗せ、人ほどもある芋虫に突きたてた。紗々良の弓の追撃を受け、虫もまた瘴気に戻る。
 無言のまま始めた戦いは、無言のまま終わった。幸い、仲間が寄ってくる様子はない。索敵を担う紗々良は手をこまねいてた。鏡弦が返す反応は、目的地から発せられている。気配の薄い方角を探して森の中を歩いていたが、新手と出くわしてしまった。
「このまま、周りを巡っていても、しかたないね」
「背中、守るよ」
 結咲の声に後押しされ、紗々良は踏み出した。左京が退路を確認する。
 森の奥に水場が見えてきた。すり鉢状になった中央、枯れた沼と聞いていたそこは、澄んだ青で満ちていた。
「……変だ」
 紗々良が足を止め、異変に気づかず前に出ようとした結咲を制した。沼は、青い。
「絵の具を溶かしたようで御座います」
 左京が刀に手をかける。紗々良は改めて鏡弦を弾いた。先ほどから感じていた強烈な気配は、確かにここから立ち昇っている。目をこらして沼を見る。水面が揺れている。不規則に、不自然に。
「よく、見えない。教えて」
 すまなさそうに結咲がたずねる。
「あの沼、アヤカシだ。近づいてたら、危なかったよ……」
「お二方、あれを」
 押し殺した左京の声に二人は沼を注視する。水がふちを越え、下から上へ流れ出す。陸の上で、一抱えはある青の粘泥になった。盛り上がった中央部分は人の姿に似ている。両手を突き出し、何かを求めるように揺らす様は屍人のようだ。沼からはいくつかの粘泥が吐き出され、森の奥へ消えていった。
「これ以上は、やめておこうね」
 手にしていた水筒を携帯入れに戻し、紗々良は撤退を決める。とつぜん、左京がふらりと歩を進めた。
「だめ」
 結咲が手をつかむ。左京は夢から覚めたように辺りを見回した。
「森が、急に輝いて見えて……まるで桃源郷のように……」
 視線をやっても、陰鬱な茂みと、奇怪に捻じ曲がった木々があるばかり。
 紗々良は左京の顔色を確かめる。
「具合はどう?」
「今は、特に……」
 その時だった。乾いた破裂音と共に、赤の狼煙が上がったのは。

●こぼれ雫は鬼となる
 時は前後して。
 エルレーンと黎阿の二人は、魔の森を順調に進んでいた。
 心眼使いのエルレーンと、瘴索結界を駆使する黎阿。息を合わせて直感も頼りに進む二人は、アヤカシの気配を先んじて探り出すことができていた。迂回したので遠回りになってしまったが、日没にはまだ十分な時間がある。
「なんで急に魔の森がちょーしにのってるのか……げんいんが、あるはずだよ」
 小鬼の群れをエルレーンは茂みに隠れてやりすごす。奇声をあげながら走り去る群れには赤い小鬼が何匹か混じっていた。あいつは戦いの時に大将になるやつだと、これまでの経験もあわせて判断する。
(「ちょっとでも、アヤカシを調べておこう。長いたたかいに、なるかもしれないしね……」)
 安全とハンドサインを出すと、隣の茂みから黎阿が顔を出した。腰には大きめの巾着がある。中には土や植物のサンプルが小袋に分けて入れられていた。
「燃え広がらないっていうのはどういう事なのかしらね……」
 黎阿は油断なく辺りを見回す。しわがれた鳥の鳴き声に注意を向け、近づかないよう気をつけながら杉にたどりついた。
「何かあるとしたら土じゃないかしら……木も草も、土に根を張っているのだから」
 黒い瞳がほんのりと緑を帯びた。杉を眺め大地を見つめた彼女は、しゃがもうとして姿勢を崩す。
「何かしら、今の感じ」
 言いながら立ち上がった拍子にぐらりと揺れ、たたらを踏む。両腕で自分を抱きしめ、固い笑みを浮かべた。
「……寒いわ。氷室に入ったみたい。ごめんなさい、戻りましょうエルレーン」
「狼煙、あげておくね」
「お願いするわ」
 エルレーンは念のため心を研ぎ澄まし気配を探った。これから撤退だというのに、銃の音に反応されても困るのだ。
 全身が総毛だった。
「上!」
 エルレーンは黎阿をかばい、飛びのく。枝から落ち、湿った音を立てて大地にはりついたそれは、澄んだ青の粘泥だった。中央が盛り上がり、人に似た形を成す。
「逃げよう。走れる?」
「ええ」
 顔色は紙のように白い。黎阿は自分が内側から溶けて、足元から流れ出していくような感覚に襲われていた。
 鳥アヤカシが頭上に羽ばたき、しわがれた声で叫ぶ。黎阿の瞳が焦点を失う。
「エルレーン、紗々良が! 紗々良があぶない!」
「黎阿、しっかり」
「私にはわかるの! 大丈夫よ。妹ですもの。光でつながっているの。ねえ、紗々良が!」
 エルレーンは狼煙銃の弾丸を詰め替え、天へ向ける。
 乾いた破裂音と共に、赤い煙が立ち昇った。

●知り得たは凶報
 戻ってきた炎海に、白鷺丸が声をかける。
「交代だ。花緑を頼む。何かあったら先にあがってくれ」
「承知した。あちらは任せる」
 白鷺丸は槍を持ち直し、一本杉へ向かって駆け出した。
「もうっ、じゃまだよぉ……消えちゃえッ!」
 その杉の根元では、エルレーンが孤軍奮闘していた。しだいに数を増し、隙あらば動きを封じようと伸び上がる粘泥を、桜吹雪を舞わせ、すばやい斬撃でしとめていく。一方で、違和感の正体を考え続けていた。
(「どうしてこんなに具合がわるいの? 森に入って半日もたってないのに」)
 黎阿の様子が尋常ではない。瘴気感染を起こし、鳥アヤカシに混乱させられているのは明らかだったが、それでもだ。
(「まさか」)
 確証はない。だが彼女は黎阿に剣を向ける。
「うごかないでね!」
 腰の巾着を斬り飛ばした。袋が地に落ち、瘴気に汚染されたサンプルの数々がまろびでる。
 そこへ仲間が駆けつけた。最初に森から飛び出したのは結咲だ。悪路をものともしない脚力で駆け抜け、青の粘泥に剣を突き刺し、蹴り飛ばす。
「しずく、たくさん、きてる」
「沼から、多くのアヤカシがここを目指しております」
 そう言う左京の背後に新たな青が現れた。人型が崩れて伸び、彼女を呑みこもうとする。左京は振り向きざまに切り捨てた。炎をまとった刀身を受け、たちまち澄んだ青は失われ、泥水と化した。紗々良がそれを飛び越え、黎阿に駆けよる。
「義姉さま!」
「……紗々良、無事なの?」
「私は大丈夫よ。義姉さま、戻ろう」
「嗚呼、よかった……」
 ぼろぼろと涙をこぼし始める。普段なら冷静な彼女は、ここまで取り乱したりなどしない。
「泣かないで義姉さま、今は私が守るから」
 紗々良は手をとる。
「皆、動けそうか?」
 白鷺丸が姿を現した。槍の穂先には粘り気のある泥水が絡み付いている。
「道中の掃除はしておいた、戻るぞ!」
 結咲が先頭に立って道を駆け下る。紗々良と手をつないだ黎阿が続き、左京とエルレーンが脇を固める。白鷺丸は追手を槍で牽制しながら後を追う。アヤカシの群れを振りきり、一行はどうにか焼け跡までたどりついた。待っていた炎海と花緑と合流し、森から遠く離れる。
 澄んだ空気の中で、左京が深呼吸をくりかえす。
「……まだ、視界がおかしい。魔の森が……あんなに美しく見えるなんて……」
「だが俺との約束は守ってくれたね。うれしいよ」
 炎海が微笑み左京に寄り添う。
「ギルドで治療を受けよう。俺も一緒に行くから」
「……はい」
 両手を炎海の大きな手に包まれ、左京はかすかに笑みを浮かべた。
 黎阿は紗々良をきつく抱きしめたままでいる。離れていると不安なようだ。
「義姉さま。私はここよ」
「わかってるわ。もう少しだけ、こうさせていてちょうだい」
 結咲が花緑に近づき、顔を見上げている。
「カロク、へいき?」
「ええ。まだ、今は」
 力なく笑う彼は、頭痛に悩まされ疲れがにじんでいる。
「なんだったんだ、あの青い粘泥は。大して強くもなかったが、何度も呑みこまれそうになったぞ」
「私もだよ。うごけなくなるとこだった」
 白鷺丸の繰り言にエルレーンもぷっくり頬をふくらませる。
「魔の森が成長を始めたのは間違いないな。それも急速に。理穴に、一体何が起きたんだ?」
「わからない。あんなアヤカシ知らないの。報告書になんて書こう」
 彼女のぼやきに白鷺丸もふむと顎をつまむ。
「雫のようで、人の形にもなる、青い粘泥。さしずめ『雫鬼』と言った所か」
「しずくおにかあ……」
 エルレーンは魔の森に顔を向けた。きつくにらむ。
「いつか必ず、森ごと、消し飛ばしてやる……!」
 理穴の地に響いた決心を、嘲笑うように、強い風が吹いた。