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■オープニング本文 ●襲来 アヤカシの五色の帯がクマユリをぎゅうぎゅうしめつけ、アバラが折れそうだ。 クマユリは近くに宝珠の鍵が転がっているのに気づいた。 夢中で手を伸ばし、きらきらしたそれをつかむ。 ――スパァン! クマユリの服が弾けとんだ。 アヤカシの帯がやぶれ、重圧が消える。 「そうか、この空間は脱げば脱ぐほど強くなるんだ! 八っちゃん、これを天へ掲げて!」 クマユリは帯にからまれ団子になっている八重子へ鍵を投げた。 「やだ」 「八っちゃん!」 「公衆の面前で脱ぐくらいなら食われて死ぬ」 「八っちゃん!? ああもう言い出したら聞かないんだから!」 すっぽんぽんはさすがにまずい。クマユリは破れた振袖を体に巻きつけ、ギルドへの道を走り出した。 ●何が起きたんです? 「よう八っちゃん」 「なんだいクマやん」 「桃の節句だったね」 声をかけたのは派手な着物の少女。墨を含んだ筆のような髪から察するに鶴の獣人らしい。鶴瓶クマユリ(ツルベ・―)と言うようだ。 そうだねェと返事をしたのは地味な着物の女の子。名は銭亀八重子(ぜにがめ・やえこ)。開拓者ギルドに貼られた依頼を見るともなく見ている。 「ひな祭りの衣装を蔵へ運び入れるんだとさ。見に行くかい?」 「行く行く」 「迷わないように手をつないでいこうか」 「うん、クマやん」 ふたつ返事で八重子はクマユリについていった。見目麗しい衣装は目の保養なのだ。二人は楽しみでほわほわしながら、都はずれの倉庫街まで歩いた。 クマユリがひょいと振り返る。 「八っちゃん、袖をひっぱるのはよしとくれよ。歩きにくいったらありゃしない」 「ひっぱってないよゥ?」 口を尖らせた八重子がつまづき、クマユリにしがみついた。 「大丈夫、八っちゃん?」 「急にわらじが鉄下駄みたいに……」 「アヤカシだー!」 だしぬけに悲鳴が聞こえた。 にわかに空がかきくもり、視界が灰色に染まる。開け放たれた正面の蔵から、薄い霧が立ち込めていた。あたりから人が飛び出し、ばたばた倒れる。 「お、重い……」 「潰れるぅー……」 往来が呻きで満ちる。身動きできなくなった人々から白い蒸気があがり、蔵へすいこまれていく。やがて奥からぞろりと這い出てきたのは。 「つづら!?」 壊れた南京錠をぶら下げた、黒塗りの大きなつづらだ。半開きになった蓋から五色の帯がだらりと垂れ、さながら舌を突きだす獣のあぎと。表面にびっしりと経文が書かれているのは、蓋の下から垣間見える十二単姿のアヤカシを封じるためだったのだろう。 「うわわっ」 「ぐえっ」 八重子の服が、わらじが、髪飾りが、鉛よりも重くなり、糊でも塗ったように体へ貼りついた。遊びの多い振袖のクマユリは、潰れたカエルみたいな声を上げている。 アヤカシの帯が伸び、二人を縛りあげてぶんぶん振り回す。霧はさらに広がっていき、倒れる人が続出している。傍らを持ち主らしき旅泰が亀の歩みでギルドに這っていく。 「いたしかたない……討伐依頼を……」 そのときだった。クマユリが鍵を見つけたのは。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ウルシュテッド(ib5445)
27歳・男・シ
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 生臭い息が八重子のところまで漂ってくる。棺おけがそのまま入りそうな黒塗りのつづらは、落ち着きなく蓋を上下させる。そのたびに、ふちに生えそろった牙が音を鳴らすのだ。八重子は青い顔で宝珠の鍵を握りしめた。 その時、つづらから伸びた帯が、そろって同じ方を向いた。警戒先に目をやれば霧の奥からこちらへ走ってくる影が。 「八重子ちゃん! ボク達が来たからもう、わお」 「あーちゃァん!」 金の錫杖を鳴らしながら走る神座亜紀(ib6736)がつんのめった。地面に激突しそうになったが錫杖を支えに起きあがる。 「急に服が……聞いていたとおりだ。大丈夫だよ、すぐそっちに行くからね!」 「いま助ける」 片鎌槍の切っ先とともに、羅喉丸(ia0347)は鋭い視線をアヤカシへ向けた。全身を包む気が爆発的に膨れあがった、次の瞬間、彼はつづらの目と鼻の先へ迫っていた。不意を突かれた相手が帯を引き寄せる間もなく、片鎌の鋭い穂が振り下ろされる。 ギャリィン! 鋼の打ち合う不協和音がはじけた。 「硬いな、まるで龍の鱗だ。奥義を振るう価値ありとみなす!」 真横から胴を薙ぎに来た帯を、八方を極めた流れる体捌きでかわすと同時に鞘から魔剣を抜き放つ。アヤカシの狙いが羅喉丸に向けられた。 その隙を見逃す天河 ふしぎ(ia1037)ではなかった。全力疾走から一足飛びに宙への階段を踏む。雷の霊剣が火花を纏い、ふしぎの全身へ細かないかづちが走る。 「八重子、じっとしているんだぞ。天歌流星斬!」 ひきしぼられた一本の矢よりも速く、ふしぎは飛んだ。光刃が八重子をつかむ帯を切裂き、余波が穢れた空気を波打たせた。すっとんでいく八重子を、瞬脚で先回りした羅喉丸がキャッチし向かいの倉庫の陰へ降ろす。放物線を描いたふしぎがその屋根へ着地する。足元がぐらつき転びそうになった。重心がいつもと違う。 「服がべたべたする。これがつづらの力……でも、僕を動けなくする事は出来ないんだからなっ!」 全身に張り付く、まるで……。 (「この重量感は……あれだ、全身鎧を着た時の」) 佐藤 仁八(ic0168)の大八車を後ろから押しながら、ウルシュテッド(ib5445)がうそぶいた。車の手ごたえは変わらないが、身になじんだはずの漆黒の装束が鉛のようだ。 合図をして足を止めるなり、仁八は倒れている人の襟首をつかむ。重さがずしりと腕に来た。 「これっくれえの寒さでこんなに厚着をしてるんじゃあねえ、重くて仕方ねえじゃあねえか。話にゃ聞いていたが一癖あるアヤカシだ、無事かい大将?」 「生憎これで動けなくなるほど半端な鍛え方はしちゃいないのさ」 「そうそう。あたしくらいになると余裕だしー」 いつの間にそこへ現れたのか。前掛け一丁の少女が大八車の上であぐらをかいている。こんがり小麦色の肌に特定指定水練制服の日焼けあとがまぶしい。 「神出鬼没地獄耳のリィムナ・ピサレット(ib5201)だよ。アヤカシあるところリィムナあり、そこに理由はいらないのだ!」 ヒュン! 空を切り、二本の帯がこちらへ飛んできた。リィムナが車上から飛び出す。輪郭がぶれ、鏡写しの式が現れ迎え撃つ。 「「あちょー」」 空中で同時に蹴りを入れられ、帯は二本とも地べたへ叩き伏せられた。 「「えっ、いまのでやられちゃうわけ? あたし的に牽制でもなんでもないんだけど貧弱すぎウケル、きゃはは!」」 悪魔が二人であった。 跳ねまわる帯を、叢雲・暁(ia5363)の絲鞋が踏みつける。好奇心たっぷりの赤い瞳がじたばたする帯を見つめていた。 「ふぅん、単純な物理攻撃が主体だけど、やたらめったら射程が長いようだね」 「ずいぶんとまた面倒だけど〜」 長い黒髪をかきあげ葛切 カズラ(ia0725)は、帯の縦筋にそって斬撃符をすべらせた。包丁を入れたように帯が裂け瘴気に戻る。カズラは陶然としたまなざしを化けつづらへ注いだ。 「この瘴気イケてるわね〜。ドヤ街で朝まで飲んだ後の占めに食べる泰国麺くらいギトギトでオイリーであまじょっぱいわ。とっつかまえて私専用遺跡の備品にしたいくらい」 「カズラー、よだれ拭こう?」 暁は愛刀の柄に手を伸ばした。武器を重く感じる、が。 (「この程度なら普段どおり動けそう」) 暁はシノビの頂点と噂されるNINJAを目指す歴戦の勇者。己を磨くため様々な能力のアヤカシと戦ってきた。重力増加も聞いた事はあるが、服だけを重くするアヤカシは初耳、初対峙。 「そう考えるとレアな奴だがこれも仕事、さっさと片付けちゃおう!」 爽やかにドライな一言を放ち、からみつく帯を紙一重で避けながら本体と距離をつめる。 ゆらりと鎌首をもたげた帯が再度空を裂いた。 仁八は虚心になると尾を立て、直し興重の切っ先を揺らした。辺りから白い蒸気が吹きこぼれ、名もなき人々の呻き声が高くなる。ウルシュテッドと目配せを交わし、仁八は空いた手を八重子へ突きつけた。 「おう、ちび助。その鍵、こっちに投げて寄越しねえ」 八重子から鍵を受け取った羅喉丸は、一瞬考えこんだが、いやいやと首を振った。 「ろくでもない雛祭りだな。受け取れ、仁八!」 宝珠の鍵が投げ上げられた。鎌の鋭さが仁八の喉笛を掻ききろうとした。 ――キィン! 直し興重が、篭手返しの一撃が帯を打ち返す。鍵をつかんだ拳が輝き、仁八の全身へ広がる。雷が落ちた。目もくらむ光の中、仁八の歌舞伎羽織が吼えたける虎の如く身を縮め、音を立てて裂ける。飛び散った衣装の中から褌だけをつかみ取り、仁八は目にもとまらぬ速さで装着した。白い褌に『天晴』の二文字がひるがえる。 「見ねえ。こちとら義理と褌だけぁ欠かしたことの無えお兄いさんだ!」 ……見せていいのか? とウルシュテッドは仁八の尻えくぼを見ながら思った。 仁八の二の腕が盛り上がる。割れた腹筋に力を込め、帯の一撃を正面から断ち切る。太刀筋に残った椿の紅い花びらが、瘴気とともに溶けていく。 「さあ同心が来る前に一仕事、盗み先ぁ野暮なアヤカシ、宝は人質の命だ。外側だけ粋がってたって何にもなりゃあしねえてえことを、ちょいと教えてやらなくちゃなんめえ」 直し興重を口にくわえ、町の人の着物をひっぺがすと手当たりしだい大八車へ放りこむ。リィムナがおもしろがってそれを手伝い、褌一枚の病人の山ができあがる。 亜紀が手を伸ばした。 「仁八さん、鍵を!」 八重子がはっと息を呑む。亜紀は拳を握って言い放った。 「友達のためならなんだってできる!」 「なんだかツヤツヤしてないかい?」 「心配要らないよ、いざとなったら何処からともなく謎の光線や謎の湯気や謎の反物が飛んでくるから!」 鍵を受け止めた亜紀の全身を青い光が包み、感応した精霊が銀河のように輝きだした。亜紀は錫杖ごと拳を天へ突きあげる。清らかな法衣が突風にはためいた。 「弾けろ!」 ――ドォン……。 地上から青龍が昇った。帽子もブーツも、法衣も下着も、すべて引き裂かれ塵になる。長い髪が強風にさらわれ、無駄なふくらみの一切ない華奢な体躯が露になった。柳眉を逆立て、亜紀は錫杖を突きつける。 「ボクの友達を苛めた事を後悔させてやるんだから! アイヴィーバインド発動!」 魔法のツタが吹き上がりつづらをがんじがらめにする。蓋を盾代わりに開拓者の連携を防いでいた化けつづらは、動きを縛られ身もだえした。 あらかた救助を終えたリィムナが、分身に鍵を受け取らせる。 「「「奥義、無限の鏡像! 一気に潰すよ!」」」 鍵を指先で跳ね上げ、一回転して握りこむ。金のオーラを全身にまとったリィムナの、前掛けの結び目へ粒子が集まり、蝶の羽を形成した。 ぱっつん。 紐が切れ、前掛けが落ちる。当然鏡像からも。 「ハプニング? 否、予測済み! リィムナ様に死角は?」「「ない!!」」 鎖骨の下のひらべったい胸、そしてなだらかなおなかのさらに下へ、花札ぺとり。 イノ!(右) シカ!(左) チョウ!(下) イーノイノイノシカチョ!(分身分) イノシカチョー!(決めポーズ) 「ってちょっ、女の子がそんなっ。何も! 僕は何も見てないんだからな、あ、ああっ!?」 真っ赤になったふしぎが屋根から転がり落ちた。 「情け無用のフルファイヤー!」 「「あたしの強さに、あんたが泣いた!」」 リィムナが黄泉路の使者を呼び出す。分身たちがレ・リカルで華を添える。不可視の呪塊がつづらの帯を食い荒らす、その威力は宝珠砲の一斉射撃をはるかに凌駕していた。 (「みんな思い切りがいいな」) ウルシュテッドは苦笑をかみ殺した。 地に伏せたまま助けを呼ぶ人々。稲妻のように飛んでくる殺気。ここのところ家族中心の生活を送っていたせいか簡単な依頼ばかりこなすようになり、それはそれで幸せいっぱいではあるのだけれど、子どもの目がないところでは髀肉之嘆をかこっていたのも確かだ。 「……さて」 彼は笑みを消した。骨ばった手が髪紐を解く。やわらかなウェーブのある黒鳶の髪が零れ落ちうなじを隠した。 ● 新たな帯を吐瀉し、つづらは四足獣の動きで身をたわませた。 「跳ぶつもりか、させん!」 瞬く間に走り寄る羅喉丸の心の隙間に影がさす。 (「そもそも本体はつづらなのか十二単なのか。もしや中身も損害に含まれるのか?」) もやもやしながら分厚い蓋とやりあう。敵もさるもの肝心の中身を見せない。 「スプラーッシュ!」 怒気をはらんだ呪文が響いた。錫杖から飛んだしぶきが水流へ変じ、つづらの後退を阻む。 「エレメントパターン更新完了、アイシスケイラル!」 氷の矢が命中しアヤカシが半身を氷付けにされる。好機と判じた羅喉丸は瞬脚で回りこむ。白日にさらけ出されたつづらの中身は、キノコとカビの巣窟だった。 (「あっ、ダメだこれ」) 十二単だったものめがけ、羅喉丸は躊躇なく槍を振り下ろした。岩盤を貫通する感触。全体重を乗せた穂先がつづらを地へ縫いとめる。 「手刀で首を刎ねられれば楽なんだがな」 羅喉丸の体幹を気の本流が迸り細部にまで広がっていく。骨法起承拳から始まる泰拳の道を、求め続けた答えのひとつを魔剣を握る腕に篭める。 「真武両儀拳!」 「ギイイィィ! えげぇっえげえげっ!!」 連撃の豪雨を受け、つづらへ亀裂が走る。内側からカビが湧き上がり帯が放たれた。つづらを中心に車輪のように回りだす。 「おうおうおう、あたしを攻撃しようてえのかい。面白え、やれるもんならやってみねえ。今あたしの褌に何かありゃ、困んのぁおめえの方かも知れねえよ」 蚊帳の外を目指し車を引く仁八。ウルシュテッドが彼らを守るべく前へ躍り出た。振り回された帯が家屋へ届く前に短刀ですくいあげる。 「先端以外は安全、横からの攻撃に弱い。コツさえつかめば簡単だな」 仲間の動きから学んだ彼は、迫り来る帯を影が付き従うように最小のステップで捌く。すれ違いざまに割られた帯が足めがけ絡みつく。背を向けたままウルシュテッドはわずかに跳ねた。獲物をつかみ損ねた帯を踏み潰し伸び上がる鎌首を短刀で切り飛ばす。 つづらに張り付いたまま忍刀を振るっていた暁が、つと横へ腕を広げる。ぽんと投げられた鍵を取り、刀をつづらの内側へぶちこむ。空いたその手で雷帝の槌をふりかざした。弾みでたっぷりした胸が揺れる。 「キャスト・オフ!」 NINJA装束MURAKUMOが甲殻の黒に変じた。 「チェンジ! フルフロンタル!!」 紅い光を放ちながらひびわれ、羽化するさなぎのように殻がはげていく。金のツインテールの結び目が解け、長い髪が上昇気流になびく。 「スーパーニンジャターイム!」 時が止まった。鼓動も呼吸も感じ取れない灰色の刹那に、生まれたままの姿で暁は忍刀めがけて雷帝の一撃を打ち込んだ。それが致命打になり、つづらがまっぷたつに割れた。破片がちらかり瘴気へ戻っていく。まろび出たカビの塊は粘泥のように家屋の隙間へ逃げ込もうとした、しかし。 「遊びの時間よ」 突如、地面から触手が生えた。暴れるアヤカシを肉の檻が囲う。元をたどれば不気味な血管の浮いた一つ目の式だ。ぬらぬら光る触手の一本が、妙に清浄な輝きを帯びている。宝珠の鍵を握っているのだ。隣でカズラの左腕が、同じポーズを取っていた。アヤカシを弄びながら触手職人が微笑む。 「ここから先は私の陣地、蠱惑姦淫蕩……触手遊戯のね」 甘ったるい薫りが鼻をくすぐる。生暖かい風がカズラの神衣を巻きあげた。はいてない。十字の閃光が神衣へ奔る。 ――キィン、ッパアン! 衣が粉々に砕け散った。腰のくびれに黒髪が絡みつき、双丘のなめらかな輪郭にそって流れ落ちる。カズラは胸元から新たな符を取り出した。 「このねっちゃりどぅるどぅる感、思い出すわあの晩を……!」 粘泥が触手に打ち上げられ斬撃符に切り裂かれる。他の触手が大きく弧を描いて追尾し、空中でなぶりものにする。 ぽかんとしたまま見ていたふしぎは、転がっていた宝珠の鍵を掴んだ。 (「この状況では、防具は所詮身に纏わり付く重石に過ぎないということか……」) 「……防具強制排除、燃え上がれ僕の練力よ!」 ふしぎの体が燃え盛る炎に包まれた。赤から青へ色が変わるにつれ火の粉が舞い、炎から生まれた不死鳥が翼を広げる。火の粉が振り払われる。なめらかな肌の若木のような肢体へ炎の残滓がまとわりつく。天歌の構えで壁を蹴り、天へ。触手がアヤカシをトスし、ふしぎの刃が両断する。甲高い絶叫が響いた。 「舞い散る桜の残光を残し、今僕は流星になる!」 全裸で。 ● 「わああん、男が4人も集まって脱いだの僕だけなんだぞ!」 「香織さんの手前、有難くもない称号を頂戴するわけにはいかなくてな」 「俺は妻がどこでかぎつけるかわからなくて……」 「最後の良心をしっかり握っておくのも粋ってもんよ」 車に腰掛けた仁八が涼しい顔で煙管をふかす。 「ふしぎの兄さん、上着ありがとう」 「わあっ、クマユリいつのまに!? 見ちゃ、駄目なんだからなっ!!」 耳まで赤くしたままふしぎは煌びやかな単の山へ頭からもぐりこんだ。倉庫街の人々から、せめてものお礼にと差し入れされた品だ。 「僕はNINJA! マッパなのはバッチコイ!」 全裸仁王立ちのまま指を鳴らす暁。 まっぱだかのまま事件跡を物色していたカズラは不埒な視線に気づいた。舞い上がった連中へおいでおいでをし、物陰に引き入れる。 「八重子ちゃん、クマユリちゃん。十二単の試着をしたいな。せっかくだしお姫様気分になるのもいいよね」 「……どうしようかな」 亜紀の言葉に、照れて顔を隠す八重子へリィムナが抱きつく。 「着ようよ! あたしが脱がせてあげるから♪」」 「ボクも手伝うよ。結構重いって聞くしさっきみたいに動けなかったりして♪」 「ひゃァ!」 もみくちゃにされる八重子をながめ、暁はわざとらしくこくびをかしげた。 「ところで、さっきから悲鳴が聞こえるけど気のせいだよね?」 |