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■オープニング本文 ●戦場を遠く離れて ここは泰国、天儀からさらに向こうの常春の儀。 木剣が宙を切り裂く。 短い気合が発せられ、肩にかけた手ぬぐいが踊る。二度、三度と、同じテンポで振り抜き、掲げ、また振り下ろす。中庭で日課の素振りを終えると、娘は流れる汗を手ぬぐいで拭いた。 姓は玲、名は結花(リン・ユウファ)。志体を持つ泰拳士だ。 目元に紅など引いて気取ってはいるがまだまだ幼い。先日などは、功を焦るあまり重体になり開拓者に助け出された。 呼吸を整えつつ結花は髪をほどく。たまっていた熱気が溶けだし、つかのまの心地よさを得る。けれど彼女の心は浮かないままだった。 (「ギルドの前線はどうなっているのかしら……」) 胸のもやを払うように彼女は剣で宙を凪いだ。 「わっ」 すぐ近くから悲鳴が上がる。振り返ればひょろりとした青年が壁に隠れてガタガタ震えていた。 「何してるのよお兄ちゃん」 「だ、だっておまえ、さっきから怖い顔して木剣振り回してるから……」 「来てたなら声かけなさいよ!」 姓は玲、名は結壮(リン・ユウチャン)。志体はなくとも肩書きだけは立派なもので泰国最高学府の学生だ。今年こそ卒業しなくてはまずいとわかり、ようやく重い腰を上げたらしい。 結花は兄へ苦しい胸の内をうちあけた。 旧世界へ攻め込んだ開拓者には、知った顔もいるのだ。彼女にとって儀の下に果てのない世界があったことでさえ驚きなのに、天儀からの発表によればそこはすさまじい瘴気が渦巻く死の世界らしい。 一兵士の彼女は銃後で案じることしかできず、暗雲が胸に広がったままでいる。 せめて何か噂話でも聞ければ心が休まるのだけれど。 「へー、そんなことより泰大で学祭があるから行こうぜ」 「そ、そんなこと? そんなことですって!?」 「警備の名目で開拓者も来てるからアンケート取りに、開拓者になった経緯とか、心に残ってる冒険とか称号とか、おまえも手伝ってくれよ。どんな話が聞けるか楽しみなんだ」 結花が目を剥いた。 「お兄ちゃん、今どんな状況かわかってるの!?」 「あー世界滅びそうなんだってなー」 「そうよ、そうなの!」 「開拓者がいるから大丈夫だ」 「どうしてそう言いきれるの!」 兄は大真面目に言い張った。 「なんかあの人らすげえじゃん? 手からビーム出すし、たぶん自力で空とか飛ぶ」 飛ばな……、ごく一部は、飛ぶ、かも……。 結花は気づいた。そうだ、兄は、志体を持っていないのだ。兄のような一般人からすれば駆け出しの開拓者でさえ超人なのだ。スーパーマンが集まってるから大丈夫、世界は絶対滅びない。よって卒業式も必ず来る。だから俺は単位を取らないといけないのだ。という理屈であった。 「明日がきっと来るなら、俺も落第避けないとまずいだろ」 全幅の信頼に、結花はため息をついた。 「それでお兄ちゃん、肝心の卒論は?」 「はっはっはっ、見くびるなよ結花。4・5・6・7と四か月分の資料を集めた俺は無敵だ」 「だから卒論は?」 「……書いてる、よ? 教授から資料が偏りすぎじゃないかねって嫌味言われたけど……」 「ダメじゃない!」 気を取り直した結花は髪を結い上げた。 「着替えてくるから待っていて」 彼女は兄へ背を向け自分の部屋へ駆け込んだ。学園祭は町をあげてのお祭りだ。集まった開拓者から、前線の情報も聞けるかもしれない。そう思うと彼女の胸も弾んだ。 妹を見送った結壮は深く息を吐きながら壁へ体を預けた。 (「少しは気が晴れたかな」) ●泰大学祭 帝都朱春から離れた場所にある小さな城塞都市。それが泰大学だ。 全寮制の広いキャンパス内には文学、芸術はもちろん鍛錬や彫金といった様々な学科が軒を連ね、学府を抱いた賑わいある町といった風情だ。八百屋から湯屋まで生活に必要なものはすべてそろっている。 正門をくぐると普段は静謐な大通りに模擬店が並んでいた。銀杏の葉がほとりとこぼれ、あなたの受け取った汁椀に彩を添える。 ゆったり見回っているうちに、枯れた芝生の広場へ出た。この一角の模擬店はビーフンや手作り餃子を中心に体の温まりそうなものを扱っているようだ。幟が立ち並び、提灯や張子の人形が所狭しと飾ってある。学生達が輪になって歌い杖やボールで曲芸を披露しているが、素人に毛の生えた集団のこと、見ているこっちがはらはらする。 そのうち人ごみに紛れて二人組があなたの後ろを通り過ぎた。兄と妹のようだ。 「お兄ちゃんのところは何をやっているの?」 「模擬店とおみくじ」 「おみくじ? ああ、三日月型の板をふたつ投げて、満月ができたらご託宣がもらえる奴ね。お店のほうは?」 「うちもビーフンと水餃子」 「手抜きね」 妹は鼻で笑った。 「手抜きじゃないぞ、ちゃんと手作りだ。ちょっと見た目は悪いけど、もちもちの麺が汁に絡んでジューシーな仕上がりなんだぞ。餃子もでかいしな、バナナくらいある」 「具は?」 「パイナップル」 何故餃子にした。あなたは目元を覆い天を向いた。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / 明王院 浄炎(ib0347) / 明王院 未楡(ib0349) / 燕 一華(ib0718) / 蓮 神音(ib2662) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ウルシュテッド(ib5445) / 緋那岐(ib5664) / 蓮 蒼馬(ib5707) / ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905) / 月・芙舞(ib6885) / ラビ(ib9134) / 霞澄 天空(ib9608) / 雁久良 霧依(ib9706) / サエ サフラワーユ(ib9923) |
■リプレイ本文 ● 具材の下ごしらえが整い、明王院 浄炎(ib0347)は腰を伸ばした。 「おつかれさまです、浄炎さん」 「なんの。本番はこれからだ」 明王院 未楡(ib0349)がそうねと微笑する。縁起物の雀が刺繍された旗袍に身を包み、長い髪を複雑に編みこんだ妻に、いつもと違った新鮮な心持を抱く。まったく、愛しい相手は見飽きるということがない。 未楡は熱した銅板に水で溶いた小麦粉を薄く引いている。浄炎は鉈で青竹を細工し、食器を作る。縦に割って皿を作り、余った竹で割り箸を作る。持ち手の飾りに青を残すと、他はやすりがけしささくれを落としていく。 提灯南瓜のジャックが手元を覗きこんだ。 「危ないぞ、離れていろ。おや客か、店を開けるには間があるが」 「アンケートおねがいしますーだって」 顔をあげると気の弱そうな青年がジャックと並んでいた。話を聞いた浄炎は椅子を勧め、ゆっくりうなずく。 「九月生まれとして協力しよう。十八日が誕生日だ」 「ありがとうございます。いいですねこれ、俺、朝食べるの忘れてて」 未楡から試食品を受け取った彼は、食べながら頭を下げた。餅を入れて薄く焼き、焼きそばを挟んでクレープ上に丸めたお好み焼きだ。どうやら気弱なのは見た目だけらしい。子供たちの、いとけなかった頃を思い返し浄炎は心の中で苦笑した。 「さっそくですが、心に残っている称号はありますか」 「ふむ……」 浄炎が顎に手を当てた。未楡が隣に座り口を開く。 「私は『暖かき厳父』が似合っていると思います」 「……土産に飴を渡しただけだ、身に余る」 「浄炎さんにはいつも厳しさの裏に優しさが滲んでいるのです」 「のろけられてますか俺」 きょとんとした未楡が頬に手を添える。咳払いをした浄炎は次の質問に答えた。 「開拓者として成すべき事と考えているのは、妻の協力もあり行っている孤児らの親となり、独り立ち出来るように支える事であろうか」 穏やかな彼の横顔へわずかに憂いが混じる。 「出来る事であれば、孤児らが生じぬ、人々が安寧の中で暮らせるようになれば良いのだが、その為のささやかな手助けしか出来ぬのでな」 聞き取りを終えて手を振る結壮を見送り、未楡は夫を見上げた。 「ねえ浄炎さん。ささやかでも続けていくことが、きっと……」 浄炎が静かにうなずく。 ● 門をくぐったとたん、注目が集まった。 開拓者だ。開拓者が来ている。 ささやきが波のように広がっていく。 サエ サフラワーユ(ib9923)は相棒駿龍の尻尾をぎゅっと握り締めた。 (「わ、私なにかしましたっけ、今日はまだ何もしてない、してないはず、ですっ。い、いえ、普段はしてるのかっていうと、そういうわけじゃ、あ、あのその……」) 学生達は遠巻きのままサエの様子を伺っていた。 (「な、なんなんですか、何が起きてるんですか。てゆっか、えっと、あの、サエは怪しい者ではないです」) 「そ、そうだ、依頼書。依頼書の写しがあれば警備のお手伝いだってわかるはず。えっと、えっと、あれ、どこ?」 懐に手を入れたサエは真っ青になった。かばんをひっくり返し中身を外へ放る。 「どうしたのー?」 急に肩を叩かれ、サエは飛び上がった。すぐ後ろに自分よりずっと小さな女の子と、薄絹をまとい真っ白な翼を背負った美女が立っている。 「背後を取られると死ぬって爺ちゃんが言ってたよ!」 ロングツインテールの羽妖精をつれた女の子が、そう言ってきゃらきゃら笑った。 「あたいはルゥミだよ! ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)!」 「月・芙舞(ib6885)。探し物をしてるのかしら、サエさん」 ちらばった小物を拾い、芙舞が艶っぽく微笑む。 「そ、そうなんです依頼書の写しを探してて、確かに入れたんですけど、いえ、そんな気がするっていうか、うっかり置いてきちゃったかもですが、とにかく私は怪しい者じゃないって証明しようって、それで……」 「あやしいもの?」 「だ、だって皆さんが私のことじろじろ見てきて、だからその」 首をかしげたルゥミは辺りを見回し、事情を察した。 「今世界滅びかけてるからじゃない?」 「ええええっ、そ、そうなんです?」 「うん、どーん、ばーん、ぼーん、きしゃしゃしゃしゃしゃ、ズドゥーンって感じだよ!」 「い、一大事じゃないですかっ」 (「今のでわかるんだ」) 手に汗握るサエに芙舞はすこし感心した。 「儀の下の旧世界なんて一般人には想像つかないし情報も断片的だから、開拓者から詳しい話を聞きたい人が多いのでないかしら」 芙舞の袖をつまみ、サエは潤んだ瞳でみあげた。 「も、もしかして、サエたち、人類代表扱いされちゃってます?」 「そうね」 背中に刺さる学生達の視線を受け流し、芙舞はサエから受け取ったかばんに小物を詰めていく。 「……彼らも不安でしょうがないと思うわ。できる事は食料を送るくらいだもの」 「私、あの、開拓者っていっても、私、ぜんぜんダメなんですけど」 あ、開拓者がダメじゃなくって私がダメダメってゆーか……な、なに言ってるかわからにかもですけど、私がよくわからないってかんじで……っ。顔の前で両手を振ったサエは、急に動きを止めぽつりとこぼした。 「あの、でもでも、それでもちょっとでも前で戦うみなさんやだれかの為になるならって、がんばってるつもり……」 ってゆーか、足手まといになってないかちょっとコワイ……。どんよりするサエに芙舞は吹きだした。 「上がったり下がったり、面白い子ねえ」 ルゥミがサエの手をとる。羽妖精大剣豪が頬をすりよせた。 「あたいが開拓者になったのはね、育ててくれた爺ちゃんがくれたもの全部で、困っている人を助けようって思ったからだよ!」 「すっごく偉いねルゥミ!」 「私達が明るい顔をしていれば、それだけで彼らは安心するの。率先して学祭を楽しみましょう。故郷の中に籠っていたら、広い世界を知ることはできないわ」 サエの背中をぱんと叩き、芙舞は学祭パンフレットを広げた。 (「広い世界を知って、そこで学んだことを持ち帰るくらいの志が無ければ、故郷を良くする事なんてできないものね」) 美しい野山とそこを飛ぶ駿龍アヤメを思い浮かべ、芙舞は柔らかなまなざしになった。サエが手をもじもじさせる。 「あ、あの、えっと、焼きビーフンってどこで買えますか?」 「おいしいわよね。一緒に行きましょうか。おみくじもしてるのですって、秋生まれだと運気が上昇するとか」 芙舞は紅を引いた唇で笑みを形作った。 「え? 秋生まれ、ですか? はい、私八月十一日生まれです」 「あら私も八月生まれよ、十五日なの」 「ええっ、奇遇です!」 「あのー」 「は、はうっ? 誰ですかあなたっ!」 横から声をかけられ、三人は結壮のアンケートに応じた。 「『安寧を祈る白羽』よ。巫女の一人として、祈りにちなんだ呼び名を頂いたことは嬉しいかしら。それも、この純白の羽に掛けて貰ってるのですものね」 そう答える芙舞をサエはうらやましそうに見つめた。 (「私も、いつかはなりたい自分になれたらいいな……」) ● スタートの合図が鳴るなり、二頭の戦馬は馬場へ飛び出した。ひづめが乾いた芝ごと土を蹴りあげ、弾丸のように疾駆する。インコースを走るのはウルシュテッド(ib5445)のミーティアだ。それをジルベール(ia9952)のヘリオスが猛追する。若さと溢れるスタミナで速度勝負に賭けるヘリオス、対して繊細な手綱さばきで最短コースを堅持するミーティア。二頭は最終コーナーへもつれこんだ。踏み荒らされ悪路と化したゴール前を、ミーティアが一馬身の差をつけ走り抜ける。 賭けの代償を買い込むと、ジルベールは親友へ一皿献上した。 「ほい、もちもちビーフンと水餃子。あつあつやで」 ウルシュテッドがはにかんだように顔を伏せ、危ないところだったと呟く。 「圧勝やったやん。ヘリオスが全力で挑んだのに、最後まで抜けへんかった」 「こっちは冷や汗ものだったさ。ミーティアのペースを崩されそうで」 二人は土手に腰掛け馬場を見渡した。近くでは馬術部の青年たちが乗馬の体験会をしている。彼らに相棒のことを根掘り葉掘り聞かれ、百聞は一見にしかずと馬場を借りたのだった。一仕事終えた戦馬たちは、見学の子供たちに囲まれながら、まぐさをのんびり食んでいる。ジルベールがいたずらっぽく笑う。 「テッドと出歩くん久し振りやな。俺というもんがありながら彼女ばっかり構って」 「ははっ、お前こそ誘ってくれればいつでも応えるぜ?」 (「お前になら信じて託す事ができるのにな……命も未来も」) 先の見えない戦況が戦士の心を膿ませていた。ジルベールの横顔を眺めウルシュテッドは残念そうに笑うと、足を組み替えた。 「これが大学かあ……いい雰囲気だ。お前と一緒に学び競い合うのも楽しいだろうな」 「確かに楽しそうやけど、しょっちゅう試験や論文があるんはかなわんなあ」 いやそうな顔をするジルベールの視線をたどれば、学会のお知らせやら試験日程やらがべたべた張られた掲示板がある。予想通りの返事にウルシュテッドは声を上げて笑った。 「そう言うと思った、論文書いてるジルは想像がつかん。でもほら、彫金学科ならお前も」 「泰大の彫金というと駆鎧みたいなの作るんやったっけ」 「俺が見た作品は月の満ち欠けを模したアクセサリだったぞ?」 どっちがどうやったっけ、謎やな。そうだな、後で見に行こう。目だけで会話すると、ジルベールはビーフンのつゆをすすった。 「テッドは大学とか似合いそうやな。落ち着いたら真面目に考えるのもアリなんちゃう?」 「ああ……子らが成人したら、それもいいかもしれない」 ウルシュテッドがうつむきがちになり、声が低くなる。 (「なんや考え事してんな。無理に問いただすのも野暮やし、そっとしておこうか」) ジルベールはビーフンを平らげ、餃子に箸をつけた。決めた、と隣で声が上がる。ジルベールが餃子にぱくついた時、傍らの親友がこちらを見つめきっぱりと宣言した。 「ジル。戦が落ち着いたら、彼女に結婚を申し込もうと思ってる」 「!?」 生きるべきか死ぬべきか。舌に刺さる甘ずっぱさと、親友の爆弾宣言、どっちに反応すべきか。ジルベールは餃子をお冷やで喉に流しこんだ。 「具にパイナップル…?! って、それは兎も角、結婚? ついにか!」 「……ああ」 少年のように頬を染めるウルシュテッドには、同時に一人の男としての誇りも浮かんでいる。吉報を聞いたジルベールは、どこか嬉しいような寂しいような複雑な気持ちを抱いた。 「いよいよテッドも身ぃ固めるか。誕生日も近いしめでたいなあ」 「有難うな。それじゃ景気づけに飲むか!」 ジルベールは満面の笑みで両手を叩いた。ぱんと爽快な音が響く。 「っしゃ!ここからは俺の奢りや!」 ● 緋那岐(ib5664)音を立てて汁ビーフンをすすりあげた。 「うん、不揃いだけど食感は悪くないな。湯もしょうががきいててうまいや」 「でしょー?」 妹の柚乃(ia0638)はにこにこ顔。枯れた芝の道を通り兄を連れ歩けば、さくさくと軽やかな音が立った。十一月五日が、二人の誕生日だった。柚乃は兄を見上げ隠し切れない喜びを滲ませた。 「十七歳おめでとう、莉玖」 「十七歳おめでとう、柚乃」 (「今年の誕生日、どうしようかなって思ってたんだけど……ちょうど大学祭でうれしいな。兄様も誘えたし」) つられて緋那岐も表情が緩む。 (「……久しぶりに兄妹で過ごすのもいいな。今年もこうして、顔を合わせられたことを喜ぼう」) 緋那岐の背中のリュックから人妖が顔を出し、ぽすっとひっこむ。まだ生まれたばかりの女の子だった。いつの日か陰陽の秘術を会得する、そのための第一歩がここに居る。 隣で柚乃は楽しげにあちこち見回す。右手は提灯南瓜のクトゥルフ、左手は兄と。さらりと冷たい風を受けても、両手のぬくもりが柚乃を笑顔にする。 「あっちのつみれ入りもおいしいよ。向こうはかに玉を乗っけてくれるし、それからそれから」 「そんなに食べたら腹がパンクするって」 「あ、またとない機会だから、柚乃の寮見ていく?」 「勝手に入っていいのか?」 「寮母さんがOKならいいはずっ」 双子の兄は無造作にくくった髪をかきまわした。どうしようかなあなんて考えていると、視界の隅を何かがよぎる。白くてもふもふな、あ、れ、は。 (「もふら!」) ほてほてと歩いていくのは、まぎれもなくもふらさま。緋那岐の額に汗が滲み出る。何を隠そう、緋那岐は若干もふらにトラウマがあった。嫌いじゃないんだけど、なんていうか、微妙な乙漢心。 「こ、こんなところで出会うなんて。柚乃、もふらさまが通り過ぎるまでやりすごすぞ!」 「ラジャー!」 二人して街路樹のイチョウの影に移動、隠れたつもりになる。 (「隊長、ぜんぜん隠れてないけど大丈夫でしょうか」) (「問題ない柚乃隊員。もふらさまはおいしいものしか見えてないから、そっちへ逸れて行くはずだ」) 小声でやり取りしていると二人の前までやってきたもふらさまが、突然二本足で立ち上がり、かわいらしい声で歌い始めた。 「みんなー! お誕生日おめでとうもふ〜♪ ハッピーバースデイ秋生まれ、かっこ8月生まれこみかっことじ、もふらの幸福パワーでみんなを祝福もふ♪」 (「もふら!?」) ツーステップで軽やかにダンシング。つつっとムーンでウォークしたと思ったら、セクシーなえびぞり背筋から連続ジャンプで跳ね回る。機敏だ。 (「……もふ、ら? もふらだよね、兄様」) (「俺、断然自信なくなってきた」) あれが天儀の象徴、精霊の御霊、飲んで食ってだらだらすることにかけては他の追随を許さぬもふらさまか。そうこうしているうちに空から炎の塊が降ってきた。模擬店の梁を蹴ったもふらさまが迎え撃つように飛び込む。 きゅぴーん。もふらの背に雄雄しい翼が生えた。 「もふらうぃんぐもふ♪」 (「もふらあああーッ!?」) 混乱のきわみにある兄の隣から、柚乃は空飛ぶもふらさまを指差した。 「もしかして、ラ・オブリ・アビス!?」 「ばーれちゃった」 もふらの姿がぶれ、リィムナ・ピサレット(ib5201)が現れた。柚乃は顎を引き挑発的な笑みを浮かべる。 「変身なら私も得意ですよ、柚乃ちゃんめいくあーっぷっ」 ぽんと煙が立ち、星が散らばった。残り香が消え、柚乃の代わりに真っ白い毛皮で赤い装いな神仙猫が立っている。 「ふぉ、ふぉ、ふぉ。いかがかな。最近お気に入りの化身じゃよ。第二の人生にしようかのう」 「お、いけてる! ここは百の二つ名を持つ者として負けられないね、次は……」 「よーし、じゃあ柚乃はくうちゃんに化けちゃいまっす。ツイン南瓜ズ提灯あたーっく!」 やたら本格的な仮装大会に熱中する二人が楽しそうで、緋那岐は模擬店の長椅子に腰をすえた。次の行き場所を決めておこうとパンフレットを取り出す。 「へえ、おみくじやってるんだ」 元気な少女達の裏で、緋那岐はお茶を味わう。 ● 「十月の十日生まれよ。気になることがあって急いでるの、またね」 文学科の展示から抜けてきた雁久良 霧依(ib9706)は、ひょろっとした青年に手を振ると人ごみで足を止めた。派手な着物の少女が地味な着物の女の子の手を引いている、のだが。上空で旋回しているあれは、輝鷹のサジタリオではないだろうか。それに。 (「……あの子、仕草の端々がリィムナちゃんぽいわ」) 少女に目を留め、霧依は最後の餃子をちゅるんと飲みこんだ。提灯南瓜のロンパーブルームもが鋭い目を光らせる。 「霧依さん、追跡ですか」 「そうね、んふ。保護観察をお姉さんから任されてるんだもの。もしリィムナちゃんが悪さしてたら心を鬼にして、お、し、お、き、しなくちゃ♪」 何もなければお祭りを楽しむだけよ。ちびっこの背中やうなじってのは薄くていいものだし。霧依は人ごみから離れていく二人の後ろをつけていった。 「クマやん、用事ってなんだい」 「……あのさ」 クマユリが妙に真剣な顔をしているので、八重子は気おされた。苦悩を表すかのように刻まれた眉間のしわ、ニヒルな斜線まで入っている。 「実はおいら……ずっと前から八っちゃんの事が……!」 「へ?」 壁ドンされた八重子は逃げ場を求めてあたふたした。クマユリはかまわずタコみたいに口を尖らせ顔を近づけてくる。唇と唇が触れそうになったとき、大地を突き破り触手がクマユリをからめとった。 「いったーい! ふぇっ!? 霧依さん、クマユリちゃん、どうしてここに?」 本物のクマユリをハグしたまま霧依が黄金の錫杖を突きつけている。どう見てもアイヴィーじゃないツタに絡まれ、集中が途切れたリィムナの変化が解けた。 「リィムナちゃん、なりすましは駄目だって言ってあるわよね? ……いらっしゃい♪」 「ま、待って! 軽い悪戯なんだってばー! うええええん! ごめんなさーい! もうなりすましはしませーん!」 「おねーさんおねーさん」 クマユリに腕をつつかれ、霧依は尻叩きを止めた。 「お仕置きだし、このくらいしようよ♪」 言うなりクマユリはリィムナの水着を力いっぱい引き上げた。日焼け跡の残る丸いお尻がぽろんと出てくる。 「ぎゃー! 痛い痛い、くいこんでる! ひーどーいいいい!」 「く、クマやん。そこまでしなくても」 引き続きリィムナの尻を叩きながら、霧依はさわやかな笑顔で答えた。 「八重子ちゃんたらやさしいのね。でもこれは、おしおき、だから♪」 (「ああん最高♪」) ● 「わ、大学って字の通り大きいんだね」 蓮 蒼馬(ib5707)の腕に抱きつき、蓮 神音(ib2662)は歓声をあげた。学部生向け案内掲示板が大量の看板にのっとられている。『<芸術学科>展示はこちら』『【絶叫】呪ワレタ旧校舎【流血】』『**いざ鍛錬**』『〜彫金体験コース〜』。手書きの看板からは奔放に矢印が伸びており、結局どこへ行けばいいのかわからず、訪れた人はパンフレットを開いている。ごった返す大通りを蒼馬は迷いなく進んでいく。神音は人ごみの隙間から見える屋台の彩りに興味深々だった。 「もう過ぎちゃったけど、今日はセンセーのお祝いに神音が色々奢ってあげるよ」 「うん、そうかそうか」 「飴細工かわいいなあ。美味しそうな点心もいっぱいだね♪ 月餅に叉焼饅に、朱春甘栗、 センセーもきっと食べたいよね、ね♪」 食べたいのはおまえだろうに、と蒼馬は目を細めた。 「左手に曲がったら広場がある。そこなら人が少ないし屋台もゆっくり見て回れる」 「なんで知ってるのセンセー?」 「寄り道したことがあるんだよ」 「いつ?」 「昔」 養女の無垢な瞳に蒼馬は小さく笑い、肩に止まっていた上級迅鷹を空へ飛ばした。 「散歩でもしておいで、絶影」 ふしぎそうにしている神音の手を引き、蒼馬は人の流れから抜けた。左右に並ぶ模擬店からおいしそうな匂いが漂い、神音は目を輝かせる。 「センセーもお祭りに来たのかな? センセーの子供の頃ってどんなだったんだろ?」 「盛大だったよ。今も変わらずこの学科では焼きビーフンが定番のようだな」 あえてすこしずれた答えを返すと、素直な養女はなるほどと語尾を延ばし模擬店のメニューに注目しだした。まばたきした蒼馬は色づいたイチョウの梢を見上げた。 (「あれから二十年か、早いものだな……」) 「ねえセンセー、天儀っぽいお店があるよ」 物思いにふけっていた蒼馬が足を止めた。こげたソースの香りが鼻をくすぐる。 似たような泰料理が並ぶ中、お好み焼きとパンシチューを扱う明王院夫婦の料理屋店は異彩を放っていた。引きもきらず押し寄せる注文を未楡は笑顔でさばいていく。裏で竹の枝を落としているのは夫の浄炎だろう。未楡は夫の手から竹の皿を受け取った。 (「珍しさもあるのでしょうか。他の儀の料理を扱うお店がこんなに喜ばれるなんて……」) 中身をくりぬいた二つ割の堅焼きバケットを竹皿へ乗せると、未楡はくつくつと幸せな音を立てるシチューへおたまを入れる。底をさらうように優雅にかき混ぜ、濃厚なとろみをバケットの凹みへ注いでいく。 神音が急に蒼馬の腕を引っ張った。 「センセー、どこ見てるの?」 ほっぺたを膨らませる神音に、蒼馬は今度こそ笑いを隠しきれなかった。 「小腹がすいてきた、シチューをひとつ買ってきてくれ。お好み焼きも頼む。半分こして食べような」 「うんっ♪」 元気よく走っていく神音のために、蒼馬は舞台の近くに席を確保した。椅子に余裕があったので、荷物の上に仙猫くれおぱとらをでんと乗せておく。それに気をとられたのか、誰かが立ち止まった。蒼馬は顔をあげた。 「……結花か、久しぶりだな。今日も図書館に用事か?」 「お久しぶりね。今日は模擬店の手伝いよ。ついでだからアンケートにも協力してちょうだい」 エプロンをした結花が餃子のチケットをさしだす。買え、ということらしい。ちゃっかりしていると思いながら蒼馬は小銭を出した。メモ帳を取り出した結花に体を向ける。 「9月27日生まれだ。開拓者になったのはリハビリの為だな。4年ほど前に記憶を失い、大怪我を負ってな。開拓者として動くことで回復を図った」 「以前は?」 「裏家業に片足を突っ込んでいるのなら知っているか、『蓮家』を」 押し黙る結花に蒼馬は口角を上げた。 「そう尖るな。記憶は戻ったが力はまだ半分程度だ」 舌を湿し蒼馬は続けた。 「あの魔術師の娘は元気にしてるようだから心配するな。……何故それを、と考えているな」 結花の反応に蒼馬は喉を鳴らして笑い出した。占い結果が芳しくなかったのか、とぼとぼ戻ってきた神音が結花を見かけて背筋を伸ばした。 「センセー、ほらほらっ。半分こしよーよっ♪」 ● 広場の片隅で彼らは、箸をつかんだまま硬直していた。眉間にしわを寄せ真剣な面持ちの燕 一華(ib0718)、半笑いのまま首をかしげる霞澄 天空(ib9608)、そして黒ウサ耳をへちょりとさせたラビ(ib9134)。三人は餃子を飲み下し、大きく息を吐いた。 「「「パイナップルはどうかと思う!」」」 一華が皿の餃子をつつき、ふたつめを口に入れる。 「ユニークですねっ。ピンポイントな酢豚味の水餃子って初めてですっ」 「同じ屋台の汁ビーフンは美味しいから、差別化を図って失敗したパターンじゃないか?」 天空の返事にラビも、確かに、とうなずき頭をめぐらせた。餃子を蒸す湯気が天へ昇っていた。天儀人らしい夫婦の店に行列ができており、立ち止まった通りすがりが周りの店へ流れていく。 「賑わってるよね! 色んな模擬店があるみたいだから食べたらまたお店めぐりしよう! ほらあそこ、香菜乗せほうだいだって!」 「盛ってますっ、すごい盛ってますっ! 器見えてませんっ!」 店頭に置かれた雪崩が起きそうな見本に、一華ははらはらした。 餃子を平らげた天空は馬場を闊歩する戦馬を眺めていた。広い構内を端から端まで見て回るなら、あれに乗るのも楽しそうだ。考えを悟られたのか駿龍の駿香が鼻面を押し付けてきた。 (「勉強は親父に教わったから、大学とか初めてだな。今はちょっとだけ羽を伸ばそうっと」) 旧世界へ思いを馳せた彼はビーフンをすする一華と目が合った。 (「気分の切り替えできましたか?」) こくりと首を縦に振り、天空は箸を置いた。 「戦場が夢のようだな」 「そうだね。泰国に来る機会ってあんまりないし、皆と遠出するのも久しぶりだなぁ……」 炎龍オズロイドに餃子をわけていたラビはウサ耳をピンと立てた。 「そうだ、今日来れなかった二人にお土産買わなきゃ!」 使い捨ての皿をゴミ箱へいれると、三人は人ごみへ混じった。 「何か良いのあるかなぁ?」 「んーとこんなお面とかどうだ?」 ごてごてした蝶のような仮面を指差し、天空がにやにやする。気もそぞろなラビから半歩さがり、天空は一華へ話しかけた。 「隊長はこういう所よく来るのか?」 「雑技衆の頭目ですから、面白そうなことがあったら調べるようにしていますよっ」 てるてる坊主を揺らしながら微笑む一華に、天空が耳打ちする。 (「ラビの誕生日祝い、どうする? 俺としては……」) (「うーん、そうですね……」) 「あ、おみくじやってる! 一華くん、天空くん、チャレンジしようよ!」 ラビの指差す先では、神妙な顔で半月状の板を地面へたたきつける人々が居た。双子らしい兄妹や羽妖精をつれた小さな女の子が混じっている。 「変わったおみくじですね。面白そうですっ」 「これを投げればいいのだろうか。なあ、おまえ、知ってるか?」 天空は手近に居たルゥミへ声をかけた。 「そうだよ! 今神様にこれでいいか聞いてるから、ちょっと待ってね!」 神様にこれでいいか聞いてる? 三人は同じタイミングで首をかしげた。ぺちんと板が落とされ、満月が形作られる。ルゥミは拳を天へ突き上げた。 「やったー! 爺ちゃん見ててくれた? あたい、大吉にしたよ!」 「おめでとうルゥミ! 通算二十八回目にしてまごうことなき大吉だね!」 羽妖精の大剣豪も涙を流して喜んでいる。 「どういうことだ……」 天空はごくりとつばを飲んだ。一華は双子の兄へ近寄る。 「あ、あのっ。皆でおみくじを引きたいのですけど、どうすればいいのでしょうか」 「ほい、おみくじね。これはまず半月を二つ投げて満月にするんだ。それからが大変で……」 緋那岐は自分の板をラビたちへ見せながら話した。 「満月ができたら、おみくじを引いてよしっていう神様のお許し。そこでおみくじを引いて、結果の吉凶を神様へ申請して、許可が出たらはれて運勢が決定するんだ。そのためにはおみくじを引いた後に三回連続で満月を作らないといけない。一度でも失敗したら、最初からやりなおし」 絶句する三人にゆるい笑みを見せながら緋那岐は続けた。 「ちなみに泰国の神様は天国の戸籍と照合できない願い事は突っ返すらしいから、例えば気になる相手と相性を占うためには、最低でも好きな人の、名前、職業、住所を念じながら、だったかな」 「流れはどうするんですかっ!?」 「どうしよう僕半分ジルベリアの血なんだけど……泰国の神様には返品されちゃうかな」 「大吉が出てからが勝負ってことか、厳しいな」 額を押さえた三人に向かい、緋那岐は奥を指差した。 「……ってのは腰をすえて吉凶立てたい人用。泰国は浮島の犠だからおみくじも地方で全然違うんだってさ、時短バージョンはあっちー」 満月を作った柚乃が木箱の中に手を突っ込み、何かを探っている。引き出した手には、翡翠を彫って作られた魚の根付が握られていた。 「身に着けると災いから守ってくれるんだって」 (「それでいいんだ……」) まったく同じことを感じた三人は、さっそく自分達も試してみた。乾いた土の上で三日月がからりと鳴る。最初に満月を作ったラビはわくわくしながら箱へ手を差し入れた。 (「思ったよりぎっしり詰まってるや。何が出るかな、何が出るかな。よし、これに決めた!」) 連なった丸い感触を取り出すと桃の根付だった。ラビは目を丸くした。二つの根付の紐が絡まりふっくらした輝石がサクランボのように添っている。隣でひょうたんの根付を引き当てた天空がにっと笑った。 「ラビの想い人に渡せよ」 柿の実を引いた一華がくすりと笑い、不意に目をしばたかせる。 「っとと、そうだ。ラビ、お誕生日おめでとう御座いますっ。これはボクからのお祝いですねっ。……実は、天空の分も作っちゃいました」 照れ笑いを浮かべながら一華は懐紙に包んだ手ぬぐいを二人へ渡した。ラビが広げると手ぬぐいは一枚の絵になっていた。手前には開拓衆『飛燕』の花に遊ぶ燕と兎が描かれ、大空では鷲と烏が悠々と羽根を広げている。天空も笑顔を咲かせる。 「ラビ! 誕生日おめでとう! これからもよろしくなっ」 「今度は皆揃って遊べると良いですねっ」 「あ、ありがとう……」 胸が詰まったラビは、あわてながらも満面の笑みを浮かべた。もらったばかりの手ぬぐいで目元を拭う。 (「友達とこうしてワイワイするのってヤッパリ楽しいなぁ……。お祭りに来たすべての人に、僕のこのうれしさを伝えたいよ……」) ふと広場の舞台が目に付いた。鮮烈なまでの白が脳裏に焼きつく。芙舞が背の翼を広げ、ふるさとの奉納の舞を披露していた。弓をとった巫女が邪悪と対峙している場面だろうか。ラビは彼女の、洗練された舞に心を奪われた。手足を躍らせる緊張感が全身にみなぎり、歌い踊る喜びが体の芯を貫く。 うずうずしながら続きを見ているうちに、観客の声援が轟いた。踊りきった充実感を浮かべ芙舞が礼をする。 続いて飛び出た羽妖精の大剣豪が、ヨートゥンを鞘から抜く。羽根をひらめかせて飛び回り、思いっきり空に放り投げる。宙へ仁王立ちして腕を組み、決めポーズ。大剣が背中の鞘へ見事収まった。歓声の中、ルゥミが跳ねた。 「あたいも大技行くよー!」 ずいと突き出した試作片手長銃に観客がざわめく。 「この『ケヴト』があれば、長銃と魔槍砲両方のスキル持っていけるのだ♪ あたいったら天才ね!」 片手長銃から魔弾のマスケットと赤刃との魔槍砲をかまえ、ルゥミは虚空へ狙いを付けた。少女を中心に青い炎が燃え上がり、雪の結晶が舞い散る。重たい羽ばたきが空気を震わせた。凝固した練力が彼女の背から吹きだし、翼の姿をとる。 「奥義、ルゥミちゃん最強モード! 祝砲だよー!」 小気味良い音が秋空へ響き、白銀の輝きが上空へ吸い込まれていく。 ラビは声をひそめて二人へ相談した。 「僕もね、あの舞台に出たいなぁ」 「飛び入り参加で演舞ですねっ。ボクもさっきから気になってたんですっ」 「ええっ、な、慣れてないからなんだか恥ずかしいな……」 「お祭りは楽しんだもの勝ち、だよ!」 一華とラビは天空の手を握り、舞台へ駆け出した。 |