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■オープニング本文 一仕事終えたあなた達は依頼の報酬に眉を寄せた。 現物支給っすか。 アヤカシは倒したし村人にも感謝されたし、街道の安全は確保した。 だけども、旅泰の在庫は消えはしない。 おぼれるものは藁にもすがるし、壷も印鑑も買うし、トンチキな企画だってでっち上げる。題してメンズバレンタインデー。 9月14日は、かわいいあの子に下着を送り、愛を告白する記念日。 製菓業界もドン引きする豪速ストレート人間大砲な愛の告白は、まあ当然、すぐすたれた。 そんなものを送られて喜べる相手など、四六時中パンティについて語っているマニアかコレクター、あるいは既にできあがっている恋人のどちらかだ。そもそも思いを告げるには不向きだったのだ。 だがしかし、議長。 発言を許可する。 愛の再確認には、有益であると判断します。 などという脳内会議があったかどうかはしらないが! あなたの手には過激なランジェリー(そのまま持ち歩くのは気が引けたので、紙袋につっこんである)。 報酬が現物支給だったんだ。仕方がなかったんだ。せめて自分の好み、いやいやははは、多少なりとも高く売れそうなものをと選んだらこうなったんだ。大丈夫だ。水着の範囲内だ。万屋の番頭だって平然とブラジャー出してくるこんな世の中だ、二種類もな。水着の範囲内だとも。ああ、そりゃあ、引っ張ったら脱げる、かもしれないけれども、そんなの水着だって同じさ。 何の因果か、今日はかわいいあの子と会う約束をしていて。 待ち合わせ場所まであと数歩。相手は既に来ているらしい。 あなたは唾を飲み下した。 いざ逝かん。 男には、女なら、やらねばならん時がある! |
■参加者一覧
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
リズレット(ic0804)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●ベビードールと黒パン いつもの挨拶も忘れるほど、戸隠 菫(ib9794)は呆れ果てた。 (「はあ、どうしようもないみたいだから、せめて可愛いのとか綺麗目のを選ぼう……」) やがて彼女の手が止まった。光沢のある紫のそれは、丈の長いキャミソールに見える。胸元とすそに薔薇の刺繍が大きく入っているが、上品、の範囲内。 「というわけだったんだよ。もう散々」 帰宅するなり相棒たちに愚痴り倒しながら、菫は木桶にせっけんと糠袋を放り込む。ビーズ細工の手を止めた相棒が、主に先んじて箪笥を開いた。 「あれ、あたしの下着は? あぁ、ここのところ立て込んでたっけ……」 たらいに山積みになった洗濯物が頭をかすめ、落ち込み度は二割り増し。ついで冷や汗。つまり、今、下着って、袋の中身だけじゃん。おそるおそる着替えた菫は。 「違うよこれ、キャミじゃないよー!」 唐竹割りでもくらった如く正中線にスリットが。一歩踏み出すたびに、ふくよかな下乳になだらかなお腹、へそから下も丸見え。さすがに大胆ではと、相棒が姿見を持って来た。 「っ……、これ、予想以上に破壊力あるかも……」 それにセットでついてた黒のローライズ。中央に黒薔薇の刺繍がある、あるけど、そこ以外はスケスケで。えっ……殆どと言うより、まるっきり隠れてない? 「どうしよ、いくら湯屋でも、いや、湯屋で全くの他人に見られるの恥ずかしいよ。これ。誰に勝負を挑むつもりだって議論されちゃうよ」 恐ろしいのはたむろする井戸端会議連合。あの戸隠さんがねえ、お年頃なのねえ、などと尻の割れ目まで実況中継され、どんな尾ひれをつけられることやら。頭を抱えた菫に、相棒はいつもの下着を差し出した。外出中に洗濯を済ませてくれたらしい。 「うわああん、ありがとー! って、あるなら先に出してよっ!」 ●編み上げビスチェとTバッグ 神座早紀(ib6735)は平静を装うべくがんばった。 「おかえり早紀。父さん見かけんかった? 何や突然、何故ドラ猫はお魚を咥えて走り出すのか検証する言うて出て行ってな。魚屋にでも行ったんやろか?」 早紀は見た。おっとりと小首をかしげる姉、姉の神座真紀(ib6579)の後ろに、後光が差している。 (「妹も今いないし、すなわち、姉さんと二人きり。これは精霊様のお計らいです! あ、鼻血出そう……」) 早紀は草鞋を脱ぎ散らかし大事に抱えていた紙袋を押し付けた。 「ね、姉さん、これ姉さんにプレゼントです! 今すぐ着てみて下さい、さぁ、さぁ、さぁ!」 「え? 何これ。下着?」 「はい、ジルベリア三点セットです!」 真紀は目が点になった。興奮気味にまくしたてる妹いわく、ビスチェとショーツとストッキング。黒でそろえた下着セットは職人技のお値打ち品。妹の審美眼は確かだ、が。 「ショーツってこれ、ショーツかこれ? 尻ほとんど丸見えなるんちゃうん?」 「Tバッグですって姉さん!」 ジルベリア、侮れんな……。ニヒルな影が真紀へ落ちる。と、いきなり腕を掴まれた。 「さぁ、着替えましょう姉さん、今すぐ、どうしても」 「いやいや早紀、ここ玄関やからね」 「そこがいいと思います!」 どないしたんやろ、この子。あっけにとられた真紀は回り込まれてしまった。 「こら、帯はずして、何してんのこの子は! わかったから、着替えるさかい部屋入ろ? って、帯ひっぱったらあかーん!」 着崩れを抑えながら部屋へ逃げ込む。乱れた着物を真紀は、えいと脱ぎ落とした。 「でもこのビスチェ言うん、着け方解らんけども」 「そんなこともあろうかと! 手伝います!」 ほんまに今日は、どないしたんやろこの子。説明を聞いた真紀は、バニースーツの一種かと、当たらずとも遠からずな納得の仕方をした。そういうことならと後ろの編み上げを早紀へ任せる。 違和感があった。もぞもぞと体をくねらせる。血走った目でリボンを編んでいた早紀が気づくほどに。 「どうしました姉さん」 「なんやらこれ、サイズ違うような」 「もっと締めましょうか?」 「腰はともかく、胸がきついねん」 「まあ」 まあ。 まあ。 一大事です。 「それはですね姉さん。ジルベリアの服飾は立体裁断という、天儀とは正反対の発想でデザインされていて、つまりですね」 言うや否や、早紀は両手を姉の脇へつっこんだ。 (「きゃあああ、もっちもちよー!」) 突きたてのお餅みたいな感触に包まれ、感動に打ち震えながら手を動かす。 「こうやって、寄せて上げることで自然な、も、盛りあがりをっ」 「めっちゃわしづかまれてんねんけど」 「下や斜めからも寄せることで、より美しいラインに……!」 「ていうか胸ばっかり触ってへん?」 後ろから抱きついて夢見心地。こうなったら下も手伝わないと! 早紀は捕食者の手つきで指をうごめかした。 「流石に下はわかんねんで。どした?」 何故か舌打ちをする妹には気づかず、ストッキングへ爪先を差し入れ、最後にTバッグ。腰から下が涼しくて気恥ずかしいけれど、大人な雰囲気が悪くない。意外と気に入ったかも。真紀はその場で踊り子のように回った。 「ほら、着てみたで。どや?」 パァン! 血柱が立った。 (「はみでてるー! 姉さんのお胸が! ストッキングはち切れそう! Tバッグが、いや、そんな! あの食い込みはなんだ、お尻に、お尻に! 姉さん、姉さんは天使のような悪魔のような天使です!」) 「ね、ねえしゃん、素敵でふ……」 「……具合悪いんちゃうか早紀。今日はもう横になり」 姉に膝枕され、早紀は覚醒する。後頭部に感じるむっちりした感触、急速に鮮明になる視界を埋め尽くす、下乳。鼻血と幸福に包まれ、早紀は召された。 ●三段レース(メンズ) 包装リボンは何色がいいだろう。天河 ふしぎ(ia1037)は大真面目に悩んでいた。下着を贈るのが流行ってるらしい。なら想いと感謝をこめて、最愛の妻に。 実状はともかく、ふしぎは真剣だった。妻とは周りも羨む相思相愛の仲。記念日は多ければ多いほどいい。彼女の笑顔のためなら、いつでも白い飛空船に深紅の薔薇を満載して駆けつけてみせる。 サーモンピンクとチョコレートブラウンの小箱に包み、見た目はシックに。包装を終えたふしぎは鼻歌を歌いながら川岸を歩いた。茶屋の店先で立ち上がる猫耳の少女。 「リズ!」 喜びもあらわに手を振る夫に、リズレット(ic0804)は自然と微笑み返す。いまだに彼と顔を合わせるたび、ほんのりと体が熱くなり、胸の奥にはときめき。 「ふしぎ様、お会い、できてうれしい……」 背中に隠したプレゼントを、リズレットはぎゅっと握った。ふしぎが近づいてくる。風になびく黒髪、白皙の手が彼女へ贈り物を伸べる。 「いつも側に居てくれてありがとう、今日はそのお礼と僕の気持ちを込めて……リズ、愛してる」 「……ふしぎ様」 大きな緑の瞳は深い湖のよう。湖面に映る自分は今も恋わずらいの最中、夫の一挙一動から目が離せない。見とれてしまう。何気ない仕草も、皮手袋に包まれた華奢な、けれど、男の人を感じさせる手にも。 頬の感触に酔っていた彼女は、おでこにキスされ我に返った。プレゼントをふしぎへ差し出す。 「あ、あの…っ。リゼが選んだ物なので、ふしぎ様の好みに合うか分かりませんが…っ」 ふしぎは顔を輝かせた。 「わぁ、ありがとう、嬉しいな……なんだろう? ここで開けていい?」 「そっ、それは!」 銀猫が尻尾の毛を逆立てた。下着とこぼしかけ、紅葉のように赤くなる。 「なんだ、同じことを考えていたんだね。あの、じゃあ今日は予定を変更して、このまま家に帰って……」 ふしぎは猫耳に顔を寄せた。ふうわりと柔らかい感触が唇をくすぐる。 「お互い、着た姿も気になると思うし」 そう囁いたふしぎの頬も朱に染まっている。 リズレットが湯を使っている。手桶の温水をあびるたびに、ほっそりした肢体に濡れた銀髪が絡んだ。 まだ日は高いのだけど、布団を敷いてみたり。少しばかり開放的な格好で昼寝などしようかなあ、なんて。ふしぎは体を拭くのもそこそこに箱を開け、固まった。 「こっ!?」 これって……。 妻の足音が聞こえる。ふしぎは急いでそれを履くとだぶついたシャツを羽織った。ふすまを開けると、上気した妻の姿。潤んだ上目遣いのままリズレットはバスローブをするりと脱いだ。薄いピンクのマイクロビキニ。形のいい胸や薄いお尻のまろみが露になっている。普段なら選択すらしない下着だけど、夫婦二人きりなら……。 「きゃ!」 急に抱きつかれ、リズレットがよろめく。 「……凄くよく似合ってる」 万感の思いを耳元で告げられ、動悸は痛いほど。頭はガンガンするし、熱くてのぼせて、天にも昇りそう。 (「ふわぁっ…っ。ふしぎ様…様っ」) 「ところで。あの……さ」 ふしぎはリズレットから離れ、顔を赤く染めたままシャツのすそを両手でそっと持ち上げた。 「これって、男物?」 形は、ジルベリアで言うところのボクサータイプのメンズ下着。ただし赤いフリルがわんさと入り、リボンがボリュームを引き締めている。 「そそそ、そ、れ、は! 違うます、私が用意したものではありません、依頼人が余計な気を利かせて……!」 プレゼントの、ああっ、渡す順番を間違えた! わたわたしながら弁解する妻にふしぎは笑みを誘われた。 「似合うかなあ?」 リズレットは蚊の鳴くような声で、はいとってもと答えた。消え入りそうな心地に自分からふしぎへ抱きつく。 「こ、これならお互い見えません、よね……?」 「そうだね、一緒なら恥ずかしくないよね」 ふしぎは妻を抱きしめた。本命の白フリルと黒ボクサーは、まだまだ箱の中で昼寝中。 ●ペアルック (「……京香に渡しちゃおう。うん、だって元々そういうイベントの物なんだもの」) なんだか旅泰に言いくるめられた気がする。紙袋片手に家路を歩く真亡・雫(ia0432)。いつもならきりりとしている赤い瞳は、有らぬ彼方を見ていた。 妻は、館の庭で掃き掃除をしていた。豆鉄砲でも食らった如く、雫は生垣に隠れた。砂利を踏む音が近づいてくる。 「あなた、お帰りなさいですよ〜♪ おや、お土産ですか〜?」 後ろ手で紙袋を隠す夫に、猫宮 京香(ib0927)は疑問符を浮かべた。 「絶対ここで開けちゃダメだよ。家に入ったら……ね?」 「はいはい、あなたがそこまでおっしゃるなら〜」 長椅子に腰掛け、包みを開けた京香は、面妖な布切れに怪訝な顔をした。 「あらあら〜、これはまた過激な物を〜。私が猫宮だからって安直です、こ、と」 「え? そ、そういうつもりじゃ、あわわ」 メタリックなゴールドカラーのストッキングに、ファーで縁取られた豹柄のランジェリー。紐やガーダーで輝石が光る。京香は微笑んだままブラをつまみ夫の頬へ、ぺちぺちぶつけた。無言の圧力で事の次第を吐かされ、雫は小さくなる。 「なるほど〜、そういうことでしたか〜」 「……ちょっと過激? ご、ごめん」 「でもあなたはこれを選んだ、ということは……此れを付けた姿を見てみたいということですね〜?」 え? うん、その、結局選んだのは……僕だけど。ますます小さくなる雫。京香は組んでいた足を入れ替え、夫の膝に置いた。爪先で膝頭をまさぐりながら笑みを深める。 「どっちなんです?」 「えっと、その、ぅっ! う、うん、その、見たいです…!」 爪先を引き上げた京香が立ち上がり、雫の前で着衣を落としていく。赤い紐ショーツをサイドから解き、雫のプレゼントに着替える。襟元のファーを整え、京香はどこか初心さを感じる苦笑いを浮かべた。 「あはは〜、やっぱりちょっと恥ずかしいですね〜。ええと……どうでしょうか、こういう格好は〜……あなた?」 雫は真っ赤になっていた。顔を押さえ小刻みに震えている。 「ひゃ、ひゃなぢ」 「あらあらあら」 ハンカチで夫の顔をぬぐい、懐紙を手渡す。長椅子にぐったり体を預ける雫を休ませ、京香は手慰みに箱を片付けようとした。 「まあ二重底」 同じセットの色違い、シルバーの豹柄が。まだ落ち着かない様子の雫に、京香は意地悪な笑みを浮かべ振り返った。 「んふふ、私だけこういうのを着ているというのも不公平ですよね〜? せっかくですしあなたも着てみましょうか〜♪」 「僕も? それ、女子用だよね!?」 あ、でも、お互い様、だよね。僕だって京香に着てもらったんだし。京香のその格好、とっても綺麗だから、もっとよく見たいもの。こんがらがった頭で、そう結論を下した。なんだか京香に言いくるめられた気がする。 「あらあら、すごい格好ですね〜。予想以上に過激だったかもですよ〜?」 腰のラインを京香になぞられながら、二人で姿見の前に立ってみた。筋っぽい自分に比べ、京香の身体は思わず触れたくなる肉感。 「なんていうか……成功なのかな、このイベント。複雑な気分だよ。こんな夫だけれど、これからも宜しくお願いします……京香」 「こちらこそ宜しくお願いします。あ・な・た♪」 二人はおでこをくっつけ笑いあった。 ●これは下着ですか。いいえ紐です。 「おっぱい! おっぱい!」 私はファムニス・ピサレット(ib5896)。怪しい者ではないんです。少しばかり自分の殻に閉じこもる癖があるだけなの。 「お姉さ……っ、ブゥえフェフェフェおっぱーい!」 紙袋を天へかざし、とめられない、このときめき。今日は仲良くしてもらってるお友達のお姉様とお泊り会なんです。待ち合わせの宿まであと少し、わずかな距離が埋まらないのは、私が往来で転げまわって悶えてるせい。 憧れのおばさまが胸をよぎるけれど……恋愛とおっぱいは別なんですよ! それはそれ! これはこれ! イエアアアアザッツライッ!!! お姉さまがこの下着を装着したらと思うと、嫌が応にも私の胸は原始のリズムを刻み始めるんです。いつも黒ビキニなお姉様が、上下共に鮮烈な赤、枠は紐状で布部分はオーガンジー。蒸れそうな部分は縦に大きく、ス・リ・ッ・ト。ショーツにもス・リ・ッ・ト。隠す? お姉様はそんな女々しいことはしません。しかもお尻は布無し! 脱がずに用が足せるなんて実用的ですね、蒸れ対策も完璧。敏腕開拓者は下着にも手を抜かないんです。きっとお姉様はこうおっしゃるわ。 (「あら、素敵な下着ね♪ ありがとう♪ 着けてみるわね」) 開放的なお姉さまのこと、きっと私なんか気にもせず着替えを始めてしまうのね。そして、どうかしらと笑顔で投げキス。ムッハアアアアア! 最高じゃわい! もう我慢できぬゥゥゥゥゥ! (「きゃん♪ ……んふふ、下着のお礼をしないとね♪ たっぷり可愛がってあげるわ♪」) 「はいい! お姉さまの好きにして下さい! そのたわわなバズーカーお胸で、私を! 隅から隅までええええ!」 やだ、私、がにまたブリッジでカサカサ進んじゃう……。私はファムニス・ピサレット、怪しい者では……。 |