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■オープニング本文 ●御託が長いんです 「護衛に開拓者を頼まねばならぬというのは、本来ならば歓迎しかねる事で御座います」 依頼人の『考 亮順』はあなた達を前に目をすがめた。 彼は嵐の壁を越えた先にある浮島の儀の、侍従長であり、懐刀だ。 誰のって、『春華王(しゅんかおう)』の。 泰国の若き主は、次男坊。 無二にして無比無謬、そして無邪気、無頓着。 仕事は部下に丸投げ、よきにはからえ。 趣味の芸術に関心強く、帝王学を叩き込まれた兄と比べ、のんびりと育ってきた。 十一のとき、その兄が突然駆け落ちして、転がりこんだ天帝の座。 在位はまだ両手で足りる。 「彼の御方へは侍従としてふさわしい者が幾人もおります。対して開拓者は、どこにも属さぬ自由な人々。心根もピンからキリまで。しかしながらギルド総長大伴老から招待された手前、開拓者を頼らぬのも筋が通らぬ話。従いまして、あなた方に仕事をお願いする運びとなりました。 ……お忍びの護衛で御座います」 亮順は深くため息をついた。 「今上春華王は、明朗闊達なお方。公の場では王者としてふるまっておられますが、今ひとつ泰国の頂点たる自覚が……いえ、よしましょう。お年を召せば落ち着かれると思います」 そう信じたいのは言ってる本人だろう。続けてクドクドと護衛の心得と説明が続いた。 ●一方その頃 どこかの話 神事と国王会議が開かれるこの迎春、いつも以上の大騒ぎ。道を埋めつくす露店には、食べ物、飲み物、みやげ物、各国の特産品に記念メダルやシャツなんかも売っている。 小さな帽子をかぶり白い服を着たその少年は、扇子を手に目をキラキラさせていた。 あちらもこちらも、自分を手招きしているように見える。 「前に神楽の都に来た時もお祭りだったな。あの時は巨勢王と鉢合わせておどろいたっけ。私の顔をご存知ないようだったから助かったけれど」 華やかな街並みを楽しみながらのんびり歩いていく。前方に黒山の人だかりが見えた。人ごみから頭三つは抜けた大入道が赤ら顔をほころばせていた。周りを固める護衛よりも筋骨隆々だ。 「苦しゅうない近うよれ。こたびはお忍びじゃからな、無礼講でよい。はっはっは!」 巨勢王その人であった。 (「……居るし。あいかわらず忍んでないし。目的地は同じなのか、顔バレするとめんどうだ」) 扇子を隠し、そそくさと脇道にそれる。 「さて」 少年はぐるりと辺りを見回し、楽しげに口の端を上げた。 「どうしようかな」 ●さて戻りまして 亮順は扉を叩き、よく通る声を出した。 「春華王よ、お待たせいたしました。護衛の方々で御座います」 静寂。 「失礼します」 返事も聞かずに亮順は扉を開け放つ。部屋は、もぬけの空。 豪奢な紅いカーテンは切り裂かれ、縄に編まれて外へ続いていた。開きっぱなしの窓が風に吹かれて鳴っている。 「脱走なさった……」 顔を覆う亮順。 「お忍びで外へ出るたびに余計な知識と体力をつけてお戻りになられる。これだから開拓者と接触させたくなかったのです」 咳払いをすると彼はあなた達へ向きなおった。 「一刻も早く王を探し、護衛をお願いします。 王は普段、伝統的な装束でいらっしゃいますが、本日は市井に混じるべく、簡素な白い服を着ておられます。もっとも、みすぼらしい格好をさせるわけには参りませんので、天帝御用達である老舗の……」 長々とした説明をかみくだくと、地味な風だが生地も縫製も職人手製の一点もの、見ればすぐにそれとわかる逸品なのだそうだ。 「また、(中略)でして、そのためにも私どもは……」 「(前略)(中略)(後略)」 「(略)(略)(略)(略)(略)」 王冠代わりに小さな帽子をかぶって、大振りな扇子を持って、見る人が見れば一発でわかるいい服着て出て行ったんですね、わかりました。 あの、もう行っていいですか。 けっこうな時間がたってるんですけど。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
朱華(ib1944)
19歳・男・志
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
雨傘 伝質郎(ib7543)
28歳・男・吟
中書令(ib9408)
20歳・男・吟
祖父江 葛籠(ib9769)
16歳・女・武 |
■リプレイ本文 ●春を探して 「……待っていてください、今ルンルンが行きます!」 侍従長から必要事項を聞き終えた途端、ぽわんと熱に浮かされた瞳でルンルン・パムポップン(ib0234)は窓の外へ身を踊らせた。 「坊っちゃんが一人で街に、これはチャンス……じゃない、一大事だもの! 何処にいたって、私のハートに感有りなんだからっ」 中庭から黄色い声が聞こえ足音が遠ざかっていく。柚乃(ia0638)が咳払いをした。 「気を取り直していきましょう。さて、常春クンの件だけど……」 何か思いついたのか、護衛に呼ばれて来た開拓者たちを見回す。 「常春は、春華王のお忍び時のお名前なの。外ではそう呼んであげてね。今回の事件は、まぁいつものこと。特に驚くことでもないかな」 ですよねと、振られたパラーリア・ゲラー(ia9712)が肩をすくめた。 「兎に角、常春くんを探せばいいにゃ? 起きて、ケロリーナさん」 「う〜ん?」 ケロリーナ(ib2037)は長椅子で船をこいでいた。侍従長の長話に付き合わされたのだ、無理もない。のびをすると、パラーリアから要点を聞き、愛用のかえるのぬいぐるみを抱きなおした。 「春華王さまがいなくなっちゃったですのね? たいへんですの! けろりーながんばって春おにぃさまをおさがしするですの〜」 朱華(ib1944)がまばたきして視線を落とした。 「春華王……常春さんなら、顔はよく知っている。色々と首を突っ込むところもあるし……心配だから、早めに探そう」 「泰儀の天帝だけあってすげえお大尽でやすな。こいつァ急いでオコボレに、いやいや、ご威光にあやかりてェもんでやす」 部屋を埋めつくす豪華な調度品に、よだれを垂らさんばかりなのは雨傘 伝質郎(ib7543)だ。侍従長に一睨みされても、愛想笑いを浮かべつつ目は値踏みを続けている。 「貴人のお忍びとくればやや悪所、気取って人払いでもして見物できる名所より雑多の中の楽しみを求めるに違いありやせん」 「そのために脱走しちゃうなんて、野生児な王様なんだね。お祭り騒ぎ好きなのかな……なんだかお友だちになれそう」 明るい声をあげた祖父江 葛籠(ib9769)が、ちらりと侍従長を見やる。 (「お付きの人があんなんじゃ、息がつまっちゃうのも分かる気がするな」) 視線を読み取った柚乃とケロリーナがこくこくうなずいている。 琵琶を手に中書令(ib9408)が、一同へ優雅に会釈した。 「探索がてら回復しましょう。一曲いかがですか皆さん」 穏やかな旋律を奏で始める。心安らぐ調べに部屋に篭っていたげんなりした空気が消えていく。 気晴らしついでに柚乃が、タロットカードを取り出した。 「女神さまお願い、どうか常春クンに会えますように……」 精霊に助力を願い、一枚引き抜く。ケロリーナが興味津々で手元をのぞきこんだ。 「いかがですの、柚乃おねぇさま〜」 「『皇帝』の正位置。幸先いいかも」 「意味はなんですの?」 「告白成功率90%」 何故今それをと、誰もが思った。 「無事常春クンに会えたら、玉の輿を狙ってみようかな」 上機嫌でカードを収め、柚乃がウインクした。中書令が調べを変える。 「では、『小さい帽子をかぶって、大振りな扇子を持って、いい服着てる人』の足取りを追うといたしましょうか」 あたりにもやが立ちこめ、少年の幻影が像を結んだ。 ●あっちとこっち 屋敷を出た一行は、さっそく足止めをくらっていた。 「春華……常春さんは見つけられましたか皆さん」 中書令の問いに全員そろって首を振る。時の蜃気楼で映し出した過去は、祭りに浮かれ騒ぐ人々と混じって区別がつかなかった。修羅頭巾の下から目をこらすも、幻影と人ごみで辺りは芋の子を洗うようだ。物見高い見物客まで集まってくる。 「やれやれ頼みの綱が。これ以上は無駄ですね」 中書令が演奏を止めた。見物人が残念そうな顔をする。 一人遅れて出てきた朱華が屋敷を振り向いた。 「出入口……といっても、隠し通路も抜け道もなかった。木に登って塀を乗り越えたみたいだな常春さん。帰ってくる時どうするつもりなんだ」 よく警備の目を盗めたものだと呆れる。 パラーリアが手帳大の紙片をぴっとかざした。 「脱走時の春くんの服装で似顔絵描いたにゃ」 羽ペンで綴られた似顔絵は特徴をよくつかんでいた。 「常春クンの行きそうな場所ってどこかしら」 柚乃の声に、パラーリアは視線を都のはずれに投げかけた。 「そぉ〜いえば泰国は紙幣を使ってるから春くんがお金持ちだとしても両替をしないと神楽の都でお買い物をするのは不可能なのにゃ。 というわけで、まずは神楽の都にある旅泰街を訪れて、両替に来た人とかから似顔絵を見せたりして情報をあつめるのにゃ。じゃ、いってみよ〜♪」 「どうしようかな」 楽しげに辺りを見回した少年は、露店の店先に飾られていたあるものに目をつけた。 分厚い財布を取り出して、しょっぱい顔をする。 (「そうだ、紙幣のままだった。両替しなくちゃ」) 人に揺られて大通りへ出ると、泰国の国旗を掲げた両替屋に入る。勘定台で札束をそのまま出しそうになり、手を引っ込めた。 (「前も札束を出してやらかしたことがあったな。今日は一人なのだし、目立たないようにしないと。小額だけ両替して……」) 小額、小額ってどのぐらいだ。 (「少しで大丈夫ってパラーリアさんが言ってたっけ」) 札束を解き、2枚と3枚、どちらがいいか悩む。天儀の相場がわからない。買い食いもしたいし、何よりあれを手に入れないと。そういえば値札を見てなかった。5枚くらい行っておくべきか。そうこうしているうちに順番待ちの客の視線が気になってきた。 「すみません、やっぱりいいです」 ほうほうのていで外へ逃げ出す。 「こちらにカモは来やせんでしたかい。いやいや、カモつっても河に浮いてるカモでなくて、通りを流れて来るカモ。お大尽のことでやすぜ」 旅泰街を目指すついでに一行は聞き込みを続けていた。水を得た魚のように伝質郎はある事ない事吹き込んでいく。軽妙なしゃべりに乗せられ、的屋が身を乗り出した。 「なんでもど偉いお大尽が銭を撒いて歩いてるそうですぜい。見つけて皆でヨイショしておこぼれにあずかりやしょうぜい」 お大尽とは赤入道のことかと返って来た。振り向けば黒山の人だかり。武天の王が、焼き鳥屋で全メニュー制覇中だった。 「ちまちまして食いでがないぞ。店主、丸焼きで持って来い!」 「ははっ、ただいま!」 よく見れば護衛まで走り回り、焼きそばやらお好み焼きやら両手に抱えて王へ届けていた。 「ご健啖でやすな」 腹もすごいが懐もすごい。お近づきになれないかと周りをめぐっていたら。 「すごーい。巨勢王さんよく食べますね」 王の隣で葛籠がにぱっと笑っていた。 「腹が減っては戦はできぬ。娘、おまえも食え。かまわんぞ」 「いただきまーす! わあ、あっちのところてんもおいしそう」 「おう食え食え。そこならは連れか。おお、見知りも居るではないか。こちらへ来い、許す」 断れるわけもなかったのだ。 「どうしようかな」 地図を広げ、行先を変更して万商店へ。 懐の財布を上から押さえ、少年は大通りを歩いていた。従者を介さず何事も自分でするのは楽しい。浪士組がはりきっていて警備も厳重と聞いている。護衛がいない分、帝都朱春をぶらつくより気やすい。 屋台の香りが胃袋に響く。未練がましく値札を見ているうちに相場がつかめた、ような気がする。 (「こんなに安く提供して生活は大丈夫なのだろうか」) 大きなお世話を胸に抱きながら進むうちに、万商店が見えてきた。 帽子を手に取り、横目で見やる。開拓者に混じって買い取り窓口に並んだ少年は、丁稚へ帽子を差し出した。 「いくらになりますか」 例のものが5枚は買える値段だった。 「ごちそうになっちゃった」 「巨勢おじさまはふとっぱらですの〜」 おなかを押さえる葛籠に、かえるのぬいぐるみを手にご満悦のケロリーナ。腹も膨れて心機一転、葛籠が言った。 「常春さんは、絵と飛空船が好きなんだね。すると、大通りの錦絵とか見に行くかな?」 ケロリーナも言った。 「お忍びの春おにぃさまは顔見知りにお会いするのはさけるかしら」 朱華も言った。 「巨勢王さんが居るところには、近づこうとはしないだろう」 綾姫が言った。 「父様は、次は万商店に行くと言っていたのじゃ」 「連れてきたにゃ」 と、パラーリアが言った。 「……今、常春さんの逃走率が大幅に上昇したように思う」 「にゃ。いい機会だから仲良しになるにゃ」 綾姫の肩を抱き、パラーリアは朱華へ悪びれない笑顔を見せた。 例のものを手に入れた少年は万商店へ戻り部屋を借りて着替えた。 丁稚へ礼を言ってふと気づき、邪魔になった服を見せる。 「どのくらいになりますか」 「けっこうなお品ですね」 財布をもう一つ買った。 ●そっちでどっち 「見つからない……!」 一人飛び出したルンルンは後悔し始めていた。肩を落とし、人ごみをとぼとぼ歩く。 後ろから背を叩かれた。 「なんですか。ナンパなら他所で……坊っちゃん!」 「やあ。ルンルンさん見っけ」 常春がいた。 帽子はないし、扇子は腰に差していて、とどめに王様総選挙のダサイ記念シャツを着ている。 「どこからどう見ても浮かれたお上りさんですよ坊っちゃん!」 「変装成功かな。それより、なんだか元気がないようだけれど」 事の元凶は心配そうにルンルンを見つめた。彼女は首を振り、にっこり笑う。内心のときめきを抑えて。 「亮順さんに言われて坊っちゃんの護衛に来ました。折角だから一緒に町を見て歩きませんか、私色んな所を案内しちゃいます」 「お願いするよ」 さりげなく彼の手をとろうとしたら空振りした。 「あれはなんだろう。ルンルンさん、どうしたの?」 「……なんでもないです」 一歩先で常春が、ふしぎそうに振り返る。ルンルンはそっと涙をこらえた。 気になったのはあんず飴だった。隣で飲み物を買ったら、常春がルンルンの分まで払ってくれた。恐縮する彼女に笑みを見せる。 「いいよ。いつもお世話になってるし。少しは恩返しさせてよ」 ありがとうと返事をし、ルンルンは顔を伏せた。 (「恩人かあ……。そうだよね。坊っちゃんにとって私は」) 目の前を何かが遮った。鼻先にあんず飴がある。 「はい、あーん」 顔を上げると常春がいたずらっぽく笑っている。 「海でやられたからね、お返し」 ぽかんとしたルンルンは急いでそれを一口かじると、常春の手から取り上げ、逆に突き返した。 「はい、あーん!」 「えっ」 「ルンルン忍法、倍返しなのです!」 周りから冷やかし半分の視線が集まり、常春が真っ赤になる。 「さすがに、その、人前だし……」 「坊っちゃんてば、私にだけ恥ずかしい思いさせてっ」 右往左往した常春の視線が何かを見つける。財布を手にそちらへ行くと、すぐに戻ってきた。 「代わりにこれでいい?」 受け取ったそれに目を丸くしたルンルンへ、常春は恥ずかしそうに続けた。 「またお忍びに出る時は知らせるよ。来てくれるとうれしい。……今日のこと、忘れないでいるから」 「はいっ!」 ●とったどー 「これだけ探して見つからないなんて……」 嘆息する柚乃。歩きまわるうちに綾姫が疲れてしまったので、一同休憩所でゆずジュースをいただいていた。 「そのことなんだが」 前置きして朱華はぼそりとつぶやいた。 「常春さんは、変装している気がする」 中書令がつまらなそうにコップをつついた。 「聞き込みにも蜃気楼にも手ごたえがないと思ったら、そういうことですか」 朱華がうなずく。 「お忍びの時は髪型を変えていたりするんだ。今日は一人だから念を入れているだろう。だが扇子は持っていると思う。常春さんだからな」 「どんな格好になってますの〜?」 「そこまではわからない」 団子を頬張っていた葛籠が顔を上げる。 「見つからなければ、向こうから来てもらえばよくない?」 串を振りながら葛籠は続けた。 「舞台部門はパフォーマンスするんだっけ? 予行演習みたいにみんなで楽しく歌ったり踊ったりしてたら、お祭り好きなら、見に来ないかな?」 「それだ、嬢ちゃん」 伝質郎が指を鳴らした。 「あっしらは常春さんをお探ししてやす。騒ぎのお代は必要経費ってことでツケにしてもらいやしょうぜ」 「ならなかったらどうしますの〜?」 「その時は地に額をこすりつけるだけでやす。無い袖は振れやせん」 言うが早いか周りの酔客を巻きこみ、牙を彫った角笛を吹いた。勇壮な音が響き渡る。 「名無しのお大尽、ばんざーい!」 葛籠も笛を取り出す。 「あたしはこれ、ブブゼラ! お祭り騒ぎの時に使う楽器なんだって! 王様、早く来て、一緒に楽しもう♪」 「派手な曲は不得手ですが。必要とあらば」 中書令も琵琶を奏で、笛の音に華を添える。食べ放題の宴会場と化した休憩所に人がつめかけてきた。集まって来た人の間に、朱華はルンルンを見つけた。隣に居る見覚えのある姿が、綾姫を見つけてきびすを返す。 人ごみを強引に抜け、朱華はその人の肩をつかんだ。 「見つけたぞ。常春さん」 「春くんと綾ちゃんははじめましてかな〜」 パラーリアの隣で綾姫が、怪訝な顔で常春を見上げた。 「どこかでお会いした事が……」 「初めまして。常春と申します、姫」 視線をそらしたまま常春が挨拶した。瞳をしばたかせた姫は、合点が行ったのか扇を開いた。 「わらわもお忍びじゃ、無粋は抜きにしようぞ」 「綾ちゃん、春くんのこと知ってるのにゃ?」 「存ぜぬ。泰国の天帝へ苺を届けに参ったことはあるがの」 パラーリアを振り返り、姫は目を細める。 「アヤカシの妨害にあって大変だったのじゃ。何せ二国間の式典も控えておったからのう」 綾姫はここぞとばかりに見知り者の勇猛果敢を自慢しだした。柚乃が笑顔で姫の細い肩を押す。 「立ち話もなんだし、おすすめスポットにご招待します。都を一望できる高台で……柚乃もお気に入りなんです。皆でスケッチしませんか」 「『開拓ケット』もみせてあげたいですの〜」 「あそこは……やめてあげてくれ」 ケロリーナに曖昧な返事をし、朱華は常春を振り向いた。 「言いたかった事があるんだ。分不相応かもしれないが……俺は、常春さんは友人だと思っている。俺の中では春華王さんじゃなく、常春さんだけどな。……あそこまで追ってきた曾頭全と、この手で決着をつけられなかったしな……すっきりしない部分も、正直、ある」 わずかな逡巡の後、朱華は切り出した。 「俺は、常春さんの力になれただろうか?」 常春が静かにうなずく。 「友と呼んでくれてうれしいよ。あなたの誇りになれるよう頑張るから、これからも傍に居てほしい」 朱華は顔をほころばせた。 「いつでも駆けつける」 「二人とも!」 柚乃が間にとびこみ、二人と手をつないだ。 「もたもたしてたら引っ張っていくよー☆」 |