【遊島】がらくた宝珠砲始動
マスター名:鳥間あかよし
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/28 19:55



■オープニング本文

「よお八っちゃん」
「なんだいクマやん」
「宝珠砲打ってみない?」

 話しかけたのは派手な着物の少女。墨を含んだ筆のような髪から察するに鶴の獣人らしい。話しかけられたのは地味な着物の女の子。砂浜で貝をためつすがめつしている。
 拳を握って熱弁している『高戸 賢吏(iz0307)』の話を聞いて、新種が見つかったらいいなと、波打ち際でぱちゃぱちゃやっていた。
 どちらも年は十の頃合、二人して件の島の噂を聞き、遊びに来たのだ。女の子はふしぎそうに幼馴染をふりかえった。

「宝珠砲ってなァ、開拓者さんしか扱えないもんじゃないのかね」
「それがさ。この島で採れた宝珠ならもしかするとって、からくりさんが言ってたんだよ」
「はい、私です!」
 天高く手を掲げ激しく自己主張するのは髪を七三に分けたからくり、たぶん男型じゃないかな。ジルベリア風のスーツを着込んでいる。
「このたび発見されました未知の島、いまだ名前も定かではない常春の地の宝珠ならば、エクセレントアーンドゥブリリアントな弊社の新製品をさらにパパパパワーナップさせること間違いなし!
 今なら簡単なテストにご協力いただく事で(目の玉の跳びでる額)を(宮大工一個師団が屋敷を立てる額)にプライスダーン!」
「なんだってー」×2
「赤字覚悟! 赤字覚悟でございます! からくりの私ですら心が出血大サービス! あ、申し遅れました。わたくしこういうもので御座います」
 名刺を差し出し、深々と頭を下げるからくり。
『朱藩砲技術振興会 出張案内人 御津菱 重工(みつひし しげたく)』と書いてある。
(「振興会って、商店だっけ……」)
 名刺を手に眉間にしわを寄せる女の子こと八重子の隣で、少女ことクマユリが声をはずませた。
「テストって何やるのさ」
 乗り気なクマユリに、からくりは黒縁メガネをくいっと引き上げる。

「森の北側。そこにいるという未知のアヤカシを倒し、手に入れた宝珠を、こちらの!」

 からくりが背後を指差す。いつのまにかそこには馬車があった。後ろに連なる連結車両には、四台の小型宝珠砲らしきがらくた。

「宝珠砲にセットしていただき、その場で打ち初めと相成ります」

「わあ楽しそう」
「さあ、新世界の産声を聞いてみませんか。この便、もうすぐ発車です」
「行く行くー!」
 ほいほいついていくクマユリ。八重子は真っ青になって声をあげた。

「お待ちよ、それつまり宝珠砲が未完成ってことじゃないかァ!」

 八重子の叫びは届かず、あとには砂煙だけが残された。
「お願いだよ開拓者さん、クマやんを助けてやっとくれ」
『九十九屋』の料理をかきこみつつ一部始終を見ていたあなたは、八重子の頼みを聞いてやる事にした。


■参加者一覧
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫
鍔樹(ib9058
19歳・男・志
佐長 火弦(ib9439
17歳・女・サ
曽我部 路輝(ic0435
23歳・男・志
ウルスラ・ラウ(ic0909
19歳・女・魔
伍 凛々(ic1386
20歳・女・陰


■リプレイ本文


●探せ
 森の中を八つの影が走りぬけていく。
 北を目指し轍をたどり、全速力で。
「やー、二人とも嵐みてェに行っちまったなァ。……って言ってる場合じゃねーや。轍、轍っと」
 鍔樹(ib9058)のぼやきにロック・J・グリフィス(ib0293)が薄く微笑んだ。
「やれやれバカンスのはずが……だがレディのピンチとあっては、放っておくわけにもいかぬからな。それに、その宝珠砲とやらも面白い。鬼が出るか蛇が出るか、胸のはずむ話ではないか」
 足を取るように曲がりくねった木の根を器用に避け、ウルスラ・ラウ(ic0909)が地を蹴った。
「あのからくりは志体が無さそうだし、もちろんクマユリも一般人だし。どうやってアヤカシ退治するつもりなのか分からないけど……無策のまま特攻するほど馬鹿じゃない、と思いたいけど」
 後ろから小走りでついていく神座早紀(ib6735)が心配そうに眉を寄せた。
「八重子さんは妹のお友達なんです。クマユリさんに何かあれば八重子さんも悲しみますし、八重子さんが悲しめば妹も悲しみます」
「大丈夫。お友達は必ずボク達が連れ戻してみせるさ。ついでにぽんこつからくりも。うさんくさい奴だけれど、子猫ちゃんの笑顔を曇らせるのは趣味じゃないからね」
 爽やかな笑顔で殲刀に手をかけるフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。伍 凛々(ic1386)も笑みをひらめかせる。
「浜辺で待ってる八重子の為に、さっさと片付けてしまいましょう。最も少ない手数で追い込んでしまえば、すぐよ」
「お店で待っていてくれるので助かります。クマユリさんという方も、八重子さんくらい聞きわけの良い方だといいのですが」
 うなずき、手帳で行先を確認する佐長 火弦(ib9439)。
 先んじて前を行くウルスラが、轍が大きくうねり迂回を始めたことに気づいた。
「道幅があって、ある程度ならされた道を選んでる。ビンゴね。四つもの宝珠砲を乗せた馬車だもの。狭かったら通れないし、悪路なら荷が壊れるしね。徒歩でならショートカットできるはず」
「ひとまず宝珠砲は先に行ってるみたいですし、追いつかないと」
 火弦の隣から手帳の地図をのぞきこんだロックが北を指した。
「轍は迂回している様だが……俺達なら直進できるな、急ぐとしよう。火弦嬢、手を借してくれたまえ」
「ええ、喜んで」
 火弦が太刀で枝葉を切り払い、ロックも槍で藪をこそいで道を作る。生木の香りをまとって進む火弦を手伝いながら、曽我部 路輝(ic0435)が声をかけた。
「ひぃさん、走れるか? ここからは道が悪いきに張り切ったらばててしまうちや。疲れたら言うようにの」
「曽我部さん、そんなに心配なさらずとも私は大丈夫です。それより、急ぎませんと。馬車に自分の足で追いつかなきゃですし、クマユリさん達がアヤカシにまだ遭遇してないといいのですが……」
「心配なのは、よう分かるが……宝珠砲とか信用ならんきに」
「頑張って走らないとですね」
「わしが心配しとるのはひぃさんじゃき」
「ふふ、曽我部さんたら。ご先祖さまが主従関係だからって、私にまで義理立てなさらずとも」
 火弦の微笑みに、路輝は短い茶の尻尾を垂らす。
「じゃけ、わしが心配しとるのはひぃさんじゃき」
「ありがとうございます。……どうかしましたか曽我部さん。私も、あなたのことは頼りにしてますよ?」
 ふしぎそうにこくびをかしげ、時間が惜しいと駆けていく火弦。路輝もぼやきながら後を追う。
「……全速力……はぁ、疲れるもんじゃ……。なんで合戦後の休息に来てこんな事に巻きこまれるんじゃろか……」
 口ではそう言いながらも彼は真剣な瞳で回りこんだ。いつでも火弦の盾になれる位置へ。心の眼が藪に潜んだ不審な影を捉える。影が体をしならせ、藪から牙をむく。その頭を路輝の長巻が後の先をとって叩き斬る。
「ひぃさん、皆の衆、おんでたぜよ!」
 犬に似たアヤカシは無様な悲鳴を上げ、すぐに隠れた。傷痕から立ち昇った瘴気が藪からもれている。瘴気の筋は森の奥へと逃げていった。鍔樹が短く口笛を吹く。
「追っていこうぜ。小物の逃げる先には大物がいると相場が決まってるンだ。馬車の行先もたぶんそこだろ。うっしゃ、早め早めに追いついて、試し撃ちに協力するとしますかね」
 にっと笑みを引く鍔樹の隣、凛々はあごに手を添えた。
「私があいつらの動きを見張っておくわ。護衛が必要な一般人がいるのに、奴らどこから這い出て来るか、わかったものじゃないからね」

●撃て
 がったん、ごっとん。景気よく森の中を進む馬車。
「御津菱さん、アヤカシまだー?」
「弊社の瘴気計測計によればズバリ! 目の鼻の先!」
「それを言うなら、目と鼻の先」
 呆れた声音なのはウルスラだ。
 後ろの藪から、追われて来た犬型が二人の前を横切った。それを追って飛び出した八つの人影が馬車の周りに降り立つ。
「あなたたち、丸腰じゃない。新しい技術に挑むその姿勢は評価できるけど、行動はまるっきり評価できないね」
 馬車から離れ犬型の脇に入り、退路を塞ぐように彼女はフロストマインを置いた。足元から吹雪が吹き上がり、渦巻いて青白い六角形に変わる。
「フリーズ! これ以上寄ると、誰彼かまわずドカンよ。馬車は後退させて。巻き添えを食うのはごめんでしょう?」
 背後にいくつもの殺気を感じ、ウルスラは跳ねる。三匹の犬型が空を噛み、一頭の熊型が棍棒のような腕を振り下ろす。フロストマインが弾け、猛吹雪がアヤカシを襲った。分厚い毛皮に氷をまとい、アヤカシの群れが馬車に向けて突進する。
 フランヴェルが盾をかまえ、クマユリとの間に割りこんだ。熊型の分厚い鍵爪が盾とぶつかり、耳障りな音を立てる。衝撃を逃がしながらフランヴェルは力強く吠えた。
「幼女を傷つけんとする者、万死に値する!」
「おねーさんカッコイイー!」
「まあね。子猫ちゃんの為ならこの程度。でへへ」
 クマユリの声援に鼻の下を伸ばすフランヴェル。その隙に犬型の牙が二の腕を裂いた。傷口が紫に変色し、じわじわとひろがっていく。
「祓いたまえ、清めたまえ。癒し寿ぎ、祝い謳わん」
 両の手を胸にあて、早紀がやわらかな声で歌い出した。周囲に青い鳥のような微粒子が集まり、彼女が掌を返すと同時に周囲へ向けて放たれた。傷の塞がったフランヴェルに笑顔を向ける。
「回復はおまかせください。傷は閃癒で、異常は解術の法で、そして毒には……」
 そこまで言って早紀はトレーニングメニューを思い出し、冷や汗をたらした。
「生死流転の法を使います!」
「えっ、ボク毒で重体になるの!?」
「大丈夫です、そんなことさせません。気合で癒してみせます!」
 馬車の荷台で御津菱から手綱を奪いとった凛々が顔を向ける。
「浜辺に戻れば解毒できる人がいるんじゃないかしら。馬車もあるし、片付けてしまえばすぐよ、すぐ」
 そして戦場を睥睨する。
「最善手で行きましょう。犬型が四、熊型が一ね。これですべてなのかしら?」
 眉間に人差し指を当て心眼に頼っていた鍔樹が首を振る。
「まだまだ隠れてる。追い出さねーとな。……犬らしいのと、熊らしいのと……ちっこくて素早い、なんだこりゃ」
 瘴気を噴出す犬型が大口を開け、御津菱を狙った。
「おい、商人の旦那、クマのお嬢。俺の後ろから離れンじゃねーぞ!」
 横合いから鍔樹の裏拳が飛ぶ。一つ目を模した腕輪が鼻面をへし折る。汚液を吐いて吹き飛ぶ犬型。片鎌槍がきらめき、初手で仕留めそこねた犬型の首をはねる。ずらりと長い刃が流れ、紙をちぎるように狗頭が飛んだ。油断せず心眼を開く。
「森ン中は、獣型のアヤカシにとっちゃ庭みてえなモンだろ。なるべく木や茂みが少ない場所で戦ったり、試し撃ちをしたいトコなんだが」
「そのとおりだわ。木々の間が明るい……森を抜けるまであと少し。馬車をそこまで走らせたいところね」
 戦から身を引き鋭い視線で状況を看破。凛々は手綱を手に眉を寄せた。
「どうにかして、森の外まで道を開けないものかしら」
 からんと乾いた音が耳朶を打った。犬型の名残の中、拳ほどの大きさの黒くきらめく三角錐が落ちている。火弦が目を丸くした。
「宝珠! この島のアヤカシからは宝珠が採れる……噂は本当だったんだわ」
 拾いに行った火弦を狙い、藪から顔を出した新たな熊が両腕を振り下ろす。
「ひぃさん!」
 路輝が一歩踏み出す。長巻が熊の腕を狙った時、下から伸び上がった銀の閃きが逆袈裟に熊を斬りあげる。その勢いで頚動脈を切り裂かれ、大量の汚液が吹き出た。遅れて路輝の刃が熊型の左腕を断つ。
 隙を見てさらに飛び出した犬型。太刀を返す路輝。
「犬さん、こちらへどうぞ!」
 火弦は強く吠え、手を叩き投げキスをした。目を取られた犬型の腹を路輝の長巻が裂く。
「ひぃさん、危ないちや!」
「私だって、曽我部さんを守りたいですよ?」
 熊型の張り手をかわして艶やかに微笑み、火弦は手に取った宝珠を砲へはめた。同時に練力の充填が開始される。火弦はあっけにとられた。
「御津菱さん。これ、制御装置は?」
「パワーとスピード! それが弊社製品最大のコンセプトで御座います!」
「つ、つまりその、皆さん離れてくださいー!」
 どごーん。
 灼熱が放出され、一帯に熱風が吹き荒れる。アヤカシすらたたらを踏んだ。煙の向こうで、森の一角が吹き飛ばされていた。
「……すばらしい」
 ロックがごくりと生唾を飲んだ。
「問題は山積みだが、威力だけは本物だ。犬でこれなら、熊はどうなるのだろうか。……森の外へ出ろ! 陣を組め! 試射だ、試射をするぞ!」
 凛々が馬車を走らせ、一同は森を抜ける。Uターンを決めて陣をかまえる凛々。森へ向けて四台の宝珠砲が口を向けた。クマユリが荷台を降り、宝珠砲へ駆けていく。
「おいらにも撃たせておくれよお兄さん」
「おっとクマユリ嬢」
 どこからともなく薔薇の花をとりだし、ロックは優美な目元をほころばせた。これまたどこからともなくゆるい風が吹き、緋色の長髪が優雅に舞う。
「それを使うのは少しだけ待っては貰えないか? どんな危険があるかも分からぬものを、目の前でレディに使わせたと合ってはこの俺の名折れ……まずはその役目この俺に」
「う、うん」
「ずるい。私ががんばってる隙に幼女とイチャイチャ、その役目よこせ……!」
 頬を染めて薔薇を受け取ったクマユリに、熊型の攻撃を防いでいたフランヴェルが血の涙を流す。気にせずロックは親指を立てウインク。横顔は草原を吹き抜ける一陣の風のように爽やかだ。
「では、危ないからしばしの間、俺から離れて、凛々さん達の所で待っていて貰えるかな」
「わかったよお兄さん!」
 その時、梢がざわめいた。鋭い叫びが上がり、森の中から残った犬型と熊型が突進を始める。凛々が揺れ続ける梢を指差した。
「ボスはあそこよ! ぅあ!」
 荷台の凛々の細身が弾き飛ばされた。続けて鍔樹の胴に不可視の砲丸がめりこむ。
「……ぐお、キくな……」
 歯を食い縛って踏みとどまり、丹田に気合をこめ心を落ち着ける。そして襲い来る犬型をまた一頭切り捨てた。別の犬に脛を裂かれ、じわりと毒の痛みがひろがる。
 乱戦の差中、クマユリを抱きしめ、早紀が閃癒を放った。見る見るうちに皆の傷が塞がっていく。
「傷つけさせはしません。決して!」
 不可視の砲弾を食らったフランヴェルがぞくりと身を震わせ、目を閉じて駆けだした。
「怖いよー! 助けて早紀ちゃーん! アヤカシがみんな70代熟女に見えるよー!」
 ぶつかった先の固い感触に、勢いで思わず抱きつく。
「ああこのまな板、じゃない、ほっそりと無駄のないひきしまった肢体、守備範囲でないのが悔やまれる……!」
「フランヴェルさん、それは木です」
「あ、いろいろごめんね。あとで九十九屋でおごるから」
「言いたいことは山ほどありますが、これだけにしておきます。私は、標準体型!」
 フランヴェルへ解術の法が決まった。ついでに右ストレートも決まった。
 ウルスラが半眼になった。梢の揺れが移動したのだ。
「小賢しい動きね。猿と見たわ」
 ほっそりしたウルスラの影が凍れる蝶の燐光をまとう。
「みんな、敵をまとめて。吹雪で一気に削るから」
 熊型に一太刀浴びせた路輝が振り返る。
「ひぃさん。宝珠砲の具合は?」
「それが、撃ったら壊れてしまったみたいで……」
「なんじゃそりゃ、使い捨てじゃが!」
「それで、私も練力を吸い尽くされてしまって……」
「そぎゃあポンコツ終わったら返品じゃき! 御津菱、わしらがアヤカシを倒したら宝珠拾ってきい」
 私がですかと自分を指差すからくり相手に路輝はずいと顔を寄せた。
「男じゃろ? こんくらい働かんか。それとも、何か? お客様の安全は二の次とか、言う気かの?」
 話を聞いたフランヴェルが右舷に回った。
「宝珠砲とミズ・ウルスラの射線上へ敵を追い込む。狙いは熊型で。ミズ、ご協力願うよ」
「一石二鳥ね、いいわ」
 犬と熊の猛攻が開拓者を襲う。盾をかまえ、ロックが左舷から、フランヴェルが右舷から彼らを誘導し射線に押し込めていく。路輝が火弦をかばい、鍔樹が討って出る。凛々が符を取り出した。
「私まで加勢しないといけないなんてね」
 符が張り裂け、中空から落ちた歪んだ笑みの岩首が落ちてくる。手傷を追っていた熊型が押し潰され、断末魔をあげた。斜めにかしいだ六角柱が落ちる。すかさず回収した宝珠を、ロックが砲にはめこむ。スロットに差し込むと、カシャッと小気味良い音が響いた。
「撃てるのは一発。我が練力すべてを注ごう。ウルスラ嬢、やつらの動きを止めてくれ」
「言われなくても……。定点より能力を解放、ブリザーストーム!」
 地鳴りと共に吹雪が吹き荒れ、アヤカシどもが足を止めた。移動を続けていた梢の揺れも。ロックが笑みを閃かせ、ゴーグルをおろした。
「見せて貰おうか、砲技術振興会の実力とやらを……」
 鍔樹が快哉を叫ぶ。
「応、遠慮は無用だ旦那、景気よくやっちまいなァ!」
「練力充填率120%、宝珠回路オールクリアー……くらえ、この一撃を!」
 視界がまっしろに染まった。

●殴れ
「これ、猿のをはめてたらどうなってたのかしら」
「想像したくもないわね」
 壊れた宝珠砲をながめ、ウルスラと凛々は寒気を覚えた。地はこそげ取れ、森の一角が消滅している。
「改良の余地がありすぎるが……すばらしい」
 ロックをはじめ他の開拓者は、すさまじい威力を目の当たりに興奮を抑えきれないでいる。
 フランヴェルの傷痕をよしよししていたクマユリの頬に、ぺたっと平手が当たった。
「クマユリさん、楽しかったですか? 貴方が楽しい思いをしてる間、お友達がどれほど貴方の事を心配していたか、考えてみましたか? 何か言う事があるんじゃないですか?」
 そう言った早紀が肩を落とす。
「なんてね。早く浜辺に戻って解毒してもらいましょう……」
 ひんやりした感触が頬に触れ、早紀は顔をあげた。
「あら、雪」