101匹もふら
マスター名:龍河流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 13人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/31 22:36



■オープニング本文

 雷が、全ての元凶だった。

「ぎゃー、いない!」
「いやだっ、向こうに逃げてるよっ」

 そう。
 雷が、全て悪い。

『もー、やってられないもふっ』
『むしられるぅ、むしられるよぅ』

 悪いのは雷であって、我々ではないはずだ。
 もふらさまが可愛いから触りまくってたけど‥‥

 雷が、全ての元凶なんだ!!



 それは、秋も深まるある日のこと。
 山間のもふら牧場では、もふらさま達を高山の夏の放牧地から、冬のもふら舎近くまで降ろしてくる作業が行われていた。
 報酬、少なめ。
 一応食料つき、調理は現地で自分達で。
 もふらさま、触り放題、愛で放題。

 いずれの条件が良かったのか悪かったのか人が集まり、もふらさま達は口々にあれこれ言いつつ、順調に山道を下っていた。
 なにしろ百と一匹もいる。しかも、性格も色々だ。それがまとまって山道を下るのは、ある意味大変なことだったけれど、なんとかもう少しでもふら舎が見えるかなという場所で。

 どっかーーーーーーっん!!!!!!

 なんだかいきなり、雷が落ちたのだ。
 そして、流石にびっくりした付き添いの開拓者達が一瞬だけ目を瞑ったり、空を見上げたりしていた間に、もふらさま達ときたら。

「ぎゃー、いない!」

 なんか逃げていく後ろ姿から、『付き合ってらんないもふっ』とか聞こえてきたけど、きっと空耳。
 さあ、もふらさま達を探しに行かなくては!


■参加者一覧
/ 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 皇 りょう(ia1673) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / フェンリエッタ(ib0018) / 不破 颯(ib0495) / 誘霧(ib3311) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / アーディル(ib9697) / 緋乃宮 白月(ib9855


■リプレイ本文

●原因は‥‥
 全ては、雷が悪い!
 いやまあ、連れて行く開拓者達にも様々な人がいたのは確かだ。
「もふらさまがいっぱい‥‥百一匹いるのは、犬だけじゃないのですね」
 なにやら似たような依頼を受けたことがあるのか、和奏(ia8807)は妙な感慨を抱いていた。
「もふもふだらけだなんて、柚乃は幸せですっ」
 うきうきと、手なんか叩きながら口にした柚乃(ia0638)は可愛い反応だ。
「ふあああっ、かわいいっ! かわいいっ!」
 もふらさま達と顔合わせした途端に、こう叫んで頬擦りを止めなかったラグナ・グラウシード(ib8459)や、
「と、桃源郷とは真に存在したか‥‥」
 鼻を押さえて、もごもごと独り言が止まらない皇 りょう(ia1673)は、
「しっかり付いてきてくださいよー。遅れたら、ご飯は少なくなっちゃいますからねっ」
 行列の最後で、もふらさま達がふらふらはぐれないように目を光らせている『もふら免許皆伝』の紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)に、もふらさまと一緒くたで声を掛けられていた。当人達は、そんな扱いでも喜んでいるかもしれない。
 他の者も、手近のもふらさまをぺたぺた触ったりしていたのは、まあ間違いない。ついつい毛並みをかき回していたかもしれない。
 でもやはり、雷が悪いのだ。なにしろ、雷雲らしい雲など見えないのに、やおら突然落ちてきたのだから!
「な、なんなの、もうっ。可愛いもふらさまともふもふで素敵なお仕事だと思ったのにぃ」
 短い悲鳴の後、妙な空を見上げたフェンリエッタ(ib0018)が愚痴を言っている間に、もふらさま達はなんと、口々にあれこれと並べ立てながら走り出してしまった。
 いやもう、その足の速いことといったら! これだけいる開拓者達が、とっさに一匹も捕まえられなかったのだからとてつもない。ちょっと雷に気をとられたくらいの隙に、よくも乗じてくれたものだ。
「あらあら逃げちゃいましたね。けっこうむしられたり、もふられていたりしましたから‥‥」
「雷とはついてないねぇ。ま‥‥ささっと探してもふ‥‥いや、保護するとしますか」
 妙に冷静に、礼野 真夢紀(ia1144)が困ったものですと溜息をついている横では、不破 颯(ib0495)が取るべき手段と本心を混ぜての発言を、速やかになかった事にしようとしていた。
 もしも彼が『見付けてもふる』と発言していたところで、誰かが怒るかといえばそんなことはありえない。大半は、ほぼ同じ事を考えているのだから問題なしだ。
 そう。
「百一匹も探すのか‥‥」
 ことの困難さを思ってか、がっくりと肩を落としているアーディル(ib9697)は少数派。
「頑張って全員を保護しましょう! ‥‥もふもふしたいですし」
「うん、もっふりもふもふ連れて帰る!」
 他の者と声を掛け合って、自分はどちらの方向に向かうからとか色々相談している緋乃宮 白月(ib9855)や誘霧(ib3311)など、おおまかに半数の開拓者はまあ理性的。多少の願望の漏れは、どうということもない。
 残りの半数弱は、
「もふーらさまは、どこだーいっ!!」
「わあーっ、待ってよ、待ってよー!」
 どでかい声で叫んだ挙げ句に、とっくのとうに向こうの方まで走り去っているリエット・ネーヴ(ia8814)やエルレーン(ib7455)のように、もふらさま達同様散ってしまっているのだ。
 もしかすると、探すのは百一頭だけでは済まなくなっているのかもしれない。

●美味しい対策
 今回移動させていたもふらさま達は、性格に特徴のあるものが多かった。開拓者に旅の話をねだりにねだって、いずれ自分も旅に行きたいとうきうきわくわくひゃっほーしていたもふらさまは変り種だが、他の百頭は大雑把に五通りに分けられた。
 ぼんやり。
 ねむねむ。
 冒険。
 食欲。
 ツンツン。
 これらにだいたい二十頭ずつ、誤差一頭の範囲で分布。追加で旅に出たい一頭で百一頭。
 冒険と旅に出たいの差は、その辺でやんちゃしているか、どこまでも突っ走っていきそうかの違い。
 ぼんやりとねむねむは、同じぼーっとして見えてもちゃんと起きているのと、すぐにうつらうつらし始めるのが違い。特に後者は、移動中にもちょっと立ち止まるとすやすや寝息を立てていたりする。
 歩きながらおやつをねだりまくる食欲もふらさまや、ちょっと埃が付いた手で触ったらきぃきぃ怒り出す洒落心満載もふらさまも、ちょっと気を使うが‥‥まあ、こちらは言われた道から外れたりせず、せっせと歩いてくれる分、まだよい。
 そして、そんなもふらさま達が四方八方に散り散りになった現在。
「一人は元の道にいた方がよいでしょうね。そこが集合場所になりますし」
 集めたそばから、またふらふら出歩かれては堪らないと、真夢紀がたいそう冷静な意見を出した。もふらさま同様、後ろも見ずに行ってしまった大人達にこそ聞いて欲しい言葉かもしれないが、そういう人はもちろんこの場にはいない。
「そうですね。まだご飯には早いけど、おやつにはいい時間ですし、匂いに釣られて戻ってくるもふらさまもいるでしょう」
 全部連れ戻すのに一時間は掛かると見込んでも、あまり凝ったものは出来ないから焼き物中心かしらと、荷物を覗いて判断したのは紗耶香だ。ごそっと取り出したのは、秋刀魚と色々な芋。
 他の人々が探しに行くのを見送って、二人はせっせと火を起こし始めたが、
『なんかつくるもふ?』
 まだたいしたこともしていないのに、近くの茂みかひょっこりと顔を出したもふらさまがいたのには、しばし手を止めてしまった。
「いやいや、まあこういう生き物なわけですが」
「ちゃんと待っていたら、お芋と秋刀魚が食べられますよ。途中でどこかに行ったら、駄目ですからね?」
 何を食べさせてくれるのと、目をきらきらさせているもふらさまがさっそく一頭連れ戻された?
 なにはともあれ、真夢紀が我慢を言い聞かせている間に、紗耶香は札を下げている首輪と近くの立ち木を紐で繋いでいる。

●冒険野郎 もふら&人
 雷に驚いたもふらさま達は、道ではないところも使って飛び出して行った。
 そして、
「もーふーらーさーまー」
 彼方から探す声を元気に響かせるのは、リエットである。こんもり茂った木々の向こう、もはや彼女がどこにいるのか、開拓者の誰にもよく分からない。
「あれも、お菓子で釣れるもんかねぇ?」
「とりあえず‥‥返事はしてくれると思います、けど」
 尋ねられたフェンリエッタがちょっと躊躇ったほど、リエッタの声はどんどんと遠くに離れていく。呼びかければ返事はしてくれるだろうが、戻ってこない点ではもふらさまと大差ないなぁと思っている様子の不破が、それでもと荷物を探って幾つかの菓子を取り出した。
 食欲もふらさまでなくても、たいていのもふらさまは食べることが好きだ。だから食べ物で釣るのは確実に効果がある。だが、それも相手を見付けられればのこと。
 同様に荷物を探っていたフェンリエッタも何か取り出して、それから集中し始めた。
「向こう側に五頭いるらしいので、お願い出来ますか?」
「連れ戻すのに手が足りなかったら、空鏑で呼ばせてもらうよぅ。しかし、道もないところによく飛び込んで行ったなぁ」
 道なき道を行くとは、まったく自分達より開拓者魂に溢れていると愚痴を零しあって、二人はあちらとこちらに分かれて腰高の茂みや下に延びた木の枝を掻き分けながら、もふらさまとその中に紛れていそうな仲間達を探しに歩き出した。
「待ってーーーーっ」
 元気なリエットの声はまだ響いているが‥‥たいていの生き物は追いかけたら、逃げるものだろう。

●根っこ、生えました
 いっぱいのもふらさまと一日過ごせるなんて、とっても楽しそう。
 なんて望みがもろくも砕かれた気のする今現在、柚乃と緋乃宮は森の中のあっちとこっちで、もふらさま達の姿を探していた。さっきまで近くに和奏もいたのだが、いつの間にやら姿が見えなくなっている。
 そして柚乃と緋乃宮の二人は、ほぼ同時にもふらさまと遭遇していた。走って追いかけないのが功を奏したか、もふらさま達は逃げる様子もなく、落ち葉の上に座っていた。突発的に走り出したが、すぐに息が切れて一休みしている‥‥といった様子だ。
 お互いの状況は知らず、でもほぼ同じ状態の緋乃宮と柚乃がやったことは、良く似ていた。まずは穏やかに声を掛ける。逃げたら柚乃は夜の子守唄を聞かせちゃおうと思っていたが、幸いに使用の機会はないようだ。寝てしまったもふらさまなんて、彼女一人では運べない。
「こんなところに居たんですね。走り回って、怪我したりしませんでしたか?」
「あぁ、よかった。いきなりいなくなるから心配したんですよ?」
 緋乃宮と柚乃、掛けた言葉も似ているが、もふらさま達の反応も似ていた。首を傾げたので、どちらも言われたことは聞こえているようだが‥‥戻ろうと促しても、立ち上がらない。それ以前に、首を傾げる以外はびくりともしていない。
「「えーっと?」」
 気が抜けて、いつものぼんやりに拍車が掛かり、ぼけーっと座り込んでいるもふらさま達を立ち上がらせることから苦労している二人とは別に。
「お楽しみのところ申し訳ありませんが、おやつの時間が近いので戻っていただけませんか?」
 別の場所では、こちらは地面に臥せってぼんやりぼけぼけしているもふらさまを相手に、和奏が食べ物で釣ったら歩いてくれないかと試行錯誤していた。
「えぇと、人間用のおやつしか持ち合わせが‥‥」
 ここで梅干を出して動いてくれるのは、相当渋い食の趣味をお持ちのもふらさまだけだろう。だが和奏は真剣に、食べませんかと誘っている。

●もう‥‥起きてなんかいられません
 捜索開始から、たっぷり三十分は経った頃。
「ふ、普段はやる気がないくせに、どうしてこんなに元気なの‥‥」
『びっくりしただけもふよ〜、ぐぅ』
 かなり小柄のもふらさまを両手で抱えて、ふうふう言いながらエルレーンが集合場所を目指して歩いていた。
 いかに精霊といわれるもふらさまでも、落雷で驚いたところに奇声を上げて追いかけられれば、迷うことなく逃げる。それはもう必死に、体力の限界まで走り続けた。よって、疲れたのでエルレーンに抱っこされている。
 している側のエルレーンも、普段ならこの大きさのもふらさま一頭なら軽く抱えて歩けるが、森の中で現われるありとあらゆる障害物を乗り越え踏み倒して走り回った後なので、ぜいはあしていた。志体持ちでも疲れないわけではない。
「あら?」
 そんな彼女が眠り込んでしまったもふらさまを抱え直し、もふもふ感を楽しみながら歩いていたら、足元に何かが転がっていた。
「うーん、夢みたいだ」
『もふもふもふもふもふもふぅ』
 妙な寝言を並べているラグナが幸せそうな顔で、数頭のもふらさま達に囲まれてぐうすか寝ているではないか。
 その緩みきった顔にいたずら書きをしたところで、誰に責められる事もないとエルレーンは考えている。

●気安く触らないでくださるかしらっ
 捜索を開始して、そろそろ小一時間。
「うむ、困った‥‥あっ、いや、もふらさま達のせいではないのだ、うん」
『当然もふっ。それより、そのしまりのない顔をなんとかしたらどうもふよ!』
 りょうが、もふらさまを前に弱り果てていた。その数、実に七頭。まとめて連れて戻れば、残りの足りないもふらさまは片手で数えられるくらいの頭数だが‥‥実はりょうともふらさま達はここに三十分以上はいる。
 性格が元からツンツンしたもふらさま達は、落雷に驚いて森の中を走り回り、すっかり疲れてツンツンからツンケンを通り過ぎ、インケン一歩手前の状態だった。対するりょうがこれまた『もふらさまいっぱいで嬉しい』を隠さない表情なので、余計に苛々して当たり散らしているのだ。どれだけ当たられても、りょうは全然堪えていないが。
 ところで、それとはまったく無関係の集合場所にて。
『痛いじゃないのっ。もっとそうっとやってちょうだいもふっ』
 もう疲れちゃってたまらないわと背中でも語っているもふらさまが、アーディルにぶつくさ文句を垂れていた。垂れられるアーディルは堪ったものではなく、心の中では『こんなことをうっかり押し付けられるのではなかった』としみじみ後悔している。彼にこの仕事を押し付けた誘霧は、まだ森の中で楽しくもふらさま達を探し回っていることだろう。
『その耳の飾りを貸すもふよ』
 そして今度は、『私のつやつや毛並みに新しい飾りを』を目をきらきらさせているもふらさまににじり寄られていた。
 そして、まだつんけんしまくりもふらさまの周囲をうろうろしていたりょうだったが、
「やーっと見付けたぁ! もうすぐ美味しいおやつが出来るよ、休憩するのも道の方が楽だし、走るのなら牧場についてからの方が速いし、ゆっくりだって出来るよ?」
 突然背後の茂みを飛び越えてきた誘霧の矢継ぎ早の提案に、もふらさま達の機嫌が急降下しないかとはらはらしている。りょうだって色々説得したのに、もふらさまの機嫌はよくならなかったのだから当然だろう。
 だが、誘霧にはもう一押しがあった。
「戻れば、くしゃくしゃの毛並みもこれですべすべに!」
 堂々と掲げたのは、もふらさま用のブラシだった。この提案のおかげで、アーディルが八十頭を超えるもふらさま達のブラッシング当番の真っ最中で疲労困憊しているのだが、それはそれ。気持ちよく皆と合流させれは、後はもふもふし放題なのだ。
 やっと戻る気になったもふらさま達の横では、りょうがブラシを使いたそうにしている。

●俺様達、旅をしてきた
 そうこうして、ぱらぱらと戻ってきたもふらさま達の数はちょうど百頭。札の数字は一から百まで、綺麗に揃った。
 いまだ行方知れずの百一頭目は、道中旅に出るのだと再三繰り返していた一頭だ。これが一番どこまでも走っていきそうだと、誰もが気にして探していて、時々遠目に姿が確かめられてはいたのだが‥‥未だに見付からない。目撃地点から、もふらさまの作った即席獣道を辿っても、どれだけ呼んでも、行方知れずのまま。
「うーぅむ、どうしてあそこで逃げられてしまったのか」
 途中でぐうすか寝ているところを回収されたラグナが、失態を取り返すではなく、もふらさまを更に愛でたい気分満載で走り回り、一度だけ間近に目撃はしたのだが‥‥
「うーむ、どうして逃げ出してしまったのか、どうしても分からん」
『‥‥わからないもふかぁ』
 出会い頭に大歓声を上げる、顔に妙ないたずら書き満載の修羅に突進して来られたら、開拓者でも逃げるか立ち向かうかするだろう。当人はまだ悪戯に気付いておらず、機を逸した皆もいつ指摘すればいいのか考えていたり、端から気にしていなかったり。
 とりあえず、もふらさまに突進していく者は追いかけっこになるので、今のラグナはもふらさまのブラッシング係だ。別の場所では、りょうがにんまり笑顔でもふらさまの毛に絡んだ枝を取るべく頑張っている。
 周囲には順番待ちと終わったのとがうろうろしているので、
「ここで座ったら駄目ですよ〜。向こう側なら、すぐにおやつがもらえますしね」
「おやつは並ばなくても大丈夫です。でも、またよそに行かないでくださいね?」
 柚乃と緋乃宮が、せっせと通行整理中。難敵は、すぐ座り込んでぼんやりしはじめるのと寝始めるの。やはり森の中などうろうろしたら疲れたようで、もふらさま達も足取りが重い。変なところでへたばられると、動かすのは大人二人掛かりの大仕事になるから、二人とも一生懸命だ。
 それでもへたばって眠り込みそうなもふらさまに、そっと近付いたアーディルが一言。
「向こうにふかふかの草があるぞ。出発まで、俺の荷物を枕に貸してやろうか?」
 季節柄、言うほどふかふかではないのだが、まあ固い地面に転がるよりは格段に寝心地がいいだろう枯れ草に、言葉巧みに寝たがりもふらさま達を誘導している。これのおかげで皆の荷物が枕に化けているが、その程度で怒るような開拓者ならこの依頼を受けていない。おかげでもふらさま達は、機嫌よく休息中だ。
 そうかと思えば、反対にそわそわしているもふらさま達もいる。
「まだですよ。ちゃんとあげますから‥‥そんなによだれは出さないようにしましょうね」
『これはあせもふよ、くちからあせがでたもふっ』
「はいはーい、ぶつからないのよー。あっちっちだからねー」
 焚き火の中から芋がころころ取り出される光景に落ち着かないもふらさま達を相手に、和奏とエルレーンがお座り強制中。うっかり目を離すと、焚き火にまで突っ込む危険があるから油断大敵である。
 止めても聞かないもふらさまに、和奏は素早く足を掛け、エルレーンは胴体にしがみ付いて、大惨事にならないように努力している。数が揃っても、やけどしたもふらさまを連れて行ったら大目玉間違いなしだ。
「もう出来ますからね〜。大丈夫、いっぱい買い足してきたから足りてますよ」
「残念ながら、おなかがすいた人の分はなくなりそうですけれどね」
 うっかり飛び込んできたもふらさまがいても突き飛ばされないように背後も警戒しつつ、真夢紀と紗耶香も忙しかった。焼いた芋に秋刀魚、皆が提供したお菓子などを出来るだけ均等に、百一頭分を用意しなくてはならないのだ。それはもう目が回るほどに忙しい。これだけ忙しいと自分達のおなかもすくが、もふらさま達の様子からして紗耶香の見立て通りに人が食べるおやつ分はないだろう。
 まあ、それは牧場に到着してからゆっくり食べればいいのだから、ここは我慢だ。開拓者たるもの、その程度は苦にならない。なる者も何人か混じっていそうだが。
 でも、今一番の問題は、どうしても見付からない残りの旅に出たがっていたもふらさまの行方で。
「また天気が崩れないうちに、見付けたいわねぇ」
 散々探し回って、でもまだ見付からないもふらさまの行方を気にしつつ、様子を確かめに戻ってきたフェンリエッタは、空を眺めて溜息をついた。またちょっと雲が厚くなってきて、天気が崩れそうなのだ。
 これはもう、百頭を先に牧場に送り届け、そこから全員で再捜索を掛けようかという話まで出たところで。

 ゴロゴロゴロゴロッッッッ!!!!

 また突然に、雷が鳴った。
「木の下に入ると、雷が落ちて真っ黒焦げになるのよ!」
 今度は落ちてないが、突然の大きな音に浮き足立ったもふらさま達も、フェンリエッタの鶴の一声でほとんどがぴたりと止まった。止まらないのは、側に居た者に捕まえられている。
 ところが。
「ぎゃーっ!!!!!」
『ぴぎゃーーっ!!!!!』
 なんだか割と近いところから、別の悲鳴が上がっている。そしてその方向の茂みが慌しく掻き分けられて‥‥
「うっ、もふらさま、探すんだねっ。まかして! えと、押入れの奥にさぁ」
 なにやら良く分からないことを口走りつつ、目まで血走らせたリエットが、フェンリエッタを突き飛ばす勢いで飛び出してきた。そのままの勢いで、またどこかに走り出そうとする後ろから、散々探していたはずのもふらさままでくっついてきた。
『あー、びっくりしたもふよっ』
 こちらの方がまだ正気付くのが早かったが、落ち着いた直後にまたくるりと森の中に戻ろうとしている。
「待って、旅に行くには荷物が色々いるのよ。それに手形が必要なところもあるって、知ってるの?!」
 その背中に、誘霧がちょっと厳しい声を掛けた。立て板に水で、一緒に役所に行ってあげようかと誘いかけ、もふらさまの興味を引いている。
「そうそう、一人旅は大変だからな。どうしてもって言うなら、俺ら開拓者と一緒がいいぜぇ?」
 色んなところに行けるから、きっと楽しいぞと畳み掛けたのは不破だが、彼は語り掛けつつもがっちりともふらさまと、ついでにリエットの首根っこを捕まえている。もう逃がすものかという態度もばっちりで、誘霧も首輪に忙しく紐を掛けていた。
 それなのに、もふらさまと来たら。
『じゃあ、今度は君らと一緒に行ってあげるもふよ』
「「今度は?」」
 堂々と宣言したもふらさまに、問い直す声が低くなったのは‥‥皆の苦労を思えば当然のことだけれども、そんな細かいところに気が付く相手ではない。
『今、そこの子と一緒に旅してきたもふ。もっと遠くに行くつもりだったもふが、なんでかここに戻ってきたもふ』
 自慢げに鼻をぴくぴくさせたもふらさまは、解析すれば『それって方向音痴?』的発言と共に、リエットがずっと一緒だったことを告白した。
「えへっ」
 こちらも正気付いたリエットだが、『これはちょっと叱られる展開か』との予感はあるらしく、視線が泳ぎまくっている。ちょっとで済めばいいよねと、多くの仲間達は思っていたことだろう。
『『『『『おなかへったもふー』』』』』
『食べたら、でかけるもふよ?』
 もふらさま達は、そんな緊張感とは無縁に、わが道を行っていた。