軟弱絵師とお見合い
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 易しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/18 00:48



■オープニング本文

 ジェレゾのある絵画工房に、クラーラという女性絵師がいる。
 本人は看板絵師を名乗るが、最近は肖像画の注文が立て込んでいた。細密画も得意なので、そこを買われてのことらしい。
 絵師で様々な分野の絵画が得意。となれば、当然手先は器用なはずだ。少なくとも絵を描く事に関しては、筆遣いも顔料合わせも同年齢の同業者より良くこなす。
 だがしかし、クラーラは超がつく生活無能力者だった。
 家事が苦手とか、そういう言い方では激しく足りない。掃除も洗濯も料理も片付けも、買い物すら満足に出来ない。一人暮らしでよく生きているものだが、それらは全て工房とご近所の皆さんのご厚意のおかげだ。
 でも時々生活が、主に片付け面で破綻しかけて、とうとう開拓者ギルドとご縁が出来ている。本人には反省も、困った意識も、改善の意向もなく、変わらず生活無能力者のままだった。
 ところが、そんなクラーラに。

「え? 見合い? クラーラに?」
「そりゃ、どこの物好きだい?」

 ある日、お見合い話が来たようだとの噂が、関係者の間を駆け巡った。
 クラーラの関係者とは、同じ絵画工房の親方や絵師達と集合住宅の住人と大家家族、それから集合住宅一階で食堂を営む家族とご近所の面々だ。当人には両親と七人いる兄姉、長兄と長姉の連れ合いなどもいるが、こちらはジルベリア以外の儀に出て商売に勤しんでいて、滅多に帰ってこないから今回は除外。
 家族がいたらいたで、クラーラを猫可愛がりしているから、相手の素行調査を始めてうるさくするだろう。もし本当にお見合い話があって、相手が好人物でクラーラを万が一にも気に入ってくれるなら、いっそまとまってから知らせた方が混乱は少ないかもしれない。
 だかしかし。

「誰が、あのクラーラに見合い話を持ってくる‥‥?」

 そう。生活無能力に時々常識欠落、仕事以外に無気力で、一人で遠くに買い物に出せない方向音痴に、絵師のくせに奇妙な服装感覚、その他諸々の難があって、関係者の誰も彼女にいい人を世話してやろうとは考えなかったのである。下手に誰かに紹介して、その誰かとの仲がこじれたら困る。
 別に仕事に生きろと言いたい訳ではないが、男女比が七:一の絵画工房で十年以上も働いて、一度も誰にも秋波を送られたこともない辺りで、生活無能っぷりが分かるというものだ。
 そこに降って湧いた見合い話。もしかしたら、これは新手の詐欺ではないかとまで言い出すものが出たところで、当のクラーラがよろよろ、とぼとぼと帰ってきた。足取りが重いのは、体力がないだけのことだ。
 体力がないゆえの足取りもなんだが、手から顔から顔料がついたまま、作業着姿で戻ってくるのもご近所としてはやめて欲しい。と、普段なら怒るところながら、今日はもっと重要な用件がある。

「クラーラ、お見合いがあるって聞いたんだが?」
「あー、うん」

 食堂に入るなり、疲れたと床に座り込んだクラーラは、いつもお世話になっているおばさんに尋ねられて頷いた。噂話をしていた人々は、絶句している。

「あぁ、お見合いね。クラーラが肖像画を描いたお人の主催で、商売仲間の息子や娘を集めて、パーティーするんだと。本当はクラーラのすぐ上の兄貴達が帰って来る予定で、会場を異国風に飾り付けっていうのも頼まれてたんだがね」

 翌日。
 絵画工房の親方は、あんまり驚きすぎて睡眠不足のおばさんに詰め寄られて、クラーラとお見合いの関係を話してくれた。
 クラーラは肖像画の縁で、身内と一緒に会場の飾り付けを頼まれただけだと知らされた、やはり寝不足の関係者一同は一様に胸を撫で下ろしている。
 もしも首尾よくクラーラが結婚したとして、いつ離縁されて帰って来るかと心配し続けるのは、皆が嫌だったのである。勘違いを知った親方も『少なくともクラーラに見合いは紹介しない』と、ひどいことを断言している。

 この同日。
 ジェレゾの開拓者ギルドでは、集団お見合い目的のパーティー会場を異国風に飾り付ける依頼を請け負った。
 仕事の条件の中に、絵師のクラーラを同行させることとある。


■参加者一覧
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
ティア・ユスティース(ib0353
18歳・女・吟
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

 何かが違う。
 具体的にどこがというのは難しいが、どうしても違う。
「雰囲気は出ていると思いますけれど」
「悪くないなりよっ、でも‥‥」
「知らない方が見る分には、これもいい出来ではありませんか?」
「そうだね〜、でも、来る人の中には飛空船持ちの商家の人もいるってよ〜」
 お見合いを兼ねた立食パーティー会場の装飾を表向き担当している絵師・クラーラが描いた他の儀の絵画の素描は、ティア・ユスティース(ib0353)が言うように雰囲気は出ていた。緋乃宮 白月(ib9855)の感想通り、その儀の人間でもなければ素敵だと言いそうなものになっている。
 けれども根が正直な平野 譲治(ia5226)が、それでも言葉を濁したように、天儀の絵は天儀を知らない人が描いたものなのだ。妙な違和感が見える。とはいえ、琉宇(ib1119)が招待客に他の儀と行き来している人間が来るかもと聞き及んでいなければ、使っても問題なかったろうが‥‥
 使うにはためらいがある。でも、クラーラが関わっていないと依頼内容に抵触する。さて、時間もないのにどうしたものか。
「天儀と泰国の絵は、おうちにあるよ。アル=カマルは、置物もらった」
 お気に入りだけど、貸してあげてもいい。
 仕事の内容をちゃんと理解しているのか。ちょっとそこが不安になるような口調ながら、クラーラが予想外の事を言い出した。よくよく考えたら、凝り性のクラーラに何枚も絵を描かせるとパーティーに間に合うかも心配だ。ある物は借りて、足りない分だけ描いてもらった方が良い絵画が仕上がるかもしれない。
 なにはともあれ、現物を見せてもらおうと出かけた四人は。
「クラーラさんは絵師さんでしたよね? この倉庫の商品は、どちら様の物でしょう?」
「うわぁ、すごいなりっ。この細工はどこのものなりかね!」
「あはははは〜、すごいや。箱がいっぱいだね」
 クラーラが住む集合住宅の屋根裏部屋と、二階と三階の一部屋ずつを埋め尽くした雑多な品物の山のどこかにしまわれている『クラーラのお気に入り』を探す羽目になった。
「ここのご家族は、何をお考えなのでしょうか‥‥クラーラさん、あちこち触らないで!」
 自分のお気に入りの在り処も忘れているクラーラが、いらぬところを引っ掻き回さないように監視しながら、だ。
 クラーラとは初対面の緋乃宮も平野も、山積み木箱の横を通ってはけつまずき、起き上がるはずが頭をぶつけ、じたばたもがく彼女の姿にその性質をだいたい察したらしい。
 しばらく後、一階にある食堂で一人お茶を啜っているクラーラの姿があった。

 時間を半日あまり巻き戻す。
「クラーラさん、お見合いするんだって〜?」
 お手伝いに来ましたと、元気に声を張り上げた琉宇と一緒に、いささか心配そうな顔付きのティアと、お見合いの手伝いで人様に貢献できるのかと、期待に満ちた顔付きの緋乃宮と平野が訪れた。
 が、しかし。
「あらまあ、クラーラさんのお見合いではありませんのね」
 どうしてティアはほっとしているのかと、緋乃宮と平野は不思議に思うわけだが、どうやらお見合いをするのは別の人々だと判明した。いずれにしても、仕事の内容は聞いていたものと変わりないから、心構えは大丈夫。
 ましてやパーティー会場という華やかな席だから、気合も十分にまずは現地確認と出掛けて行った。広さや壁紙の色、庭の景色を見て、四人が考えたのがクラーラの絵を飾ろうということ。
 これは依頼人の意向もあるから、クラーラが関わったと分かりやすい方法を取るのが目的の一つ。それに絵画は、雰囲気作りに大層役立つものでもある。パーティー参加者の会話の糸口にもなるだろう。
 例えば、まさにお見合いパーティーを思わせる絵を会場と背景にしたものと、他の国の建物に合わせたもの。海岸や花畑などの風景画に、各地の都、花の絵に、異国の料理や衣装など。あれこれと案を出して、まずは異国の風景の素描をクラーラに描いてもらった。
 そうしたら、なんだかちょっと妙な出来で、四人とも悩んでしまったわけだ。まあ、その点はクラーラの家族が各地で買い付けたらしい様々な物品で埋め合わせが出来そうなので、いいとしよう。クラーラも、四人に食堂で待っているよう言われてから、何か猛然と書き始めていたようだし。
 けれども。
「お見合いの風景をお願いしましたよ‥‥ね?」
 言い方を間違えたかなと、緋乃宮が首を捻っているのは、もはや下絵の段階に入っているクラーラの絵が、家族の情景だからだ。数家族がお茶会をしているような、そんな絵である。数家族と分かるのは、描かれている大人と子供の顔立ちが、数人ずつ似通っているから。
「お見合いしたら、結婚して家族が増えるでしょ。だから」
「なるほどっ、将来の予想図なりか!」
 しげしげと絵を覗き込んでいた平野が、ぽんと手を打って頷き、緋乃宮もそういうことかと納得した。しかし、一足飛びの連想だ。琉宇は平野と一緒になって、きゃっきゃと喜んでいるが、ティアはこの調子で大丈夫かと少しばかり心配そう。
 何はともあれ、クラーラにはまずその一枚を大急ぎで仕上げてもらい、他の装飾をどうするのかと、琉宇が絶対大事だと主張する当日の料理についての提案もしていかなくてはならない。ついでに、借り出した中には家具もあるから、これらを運ぶ手筈も整えなくてはだ。
「あ、クラーラさんの絵で他に使えそうなのがあったら、工房から借りてこようよ」
 この琉宇の提案には、工房の親方から『別にクラーラに限定しなくてもいいじゃないか』と強烈な売り込みがあって、これまた何十枚もの工房に眠っている絵を確かめさせられるおまけがついた。
 平野があれこれ絵師達に尋ねるのと、緋乃宮が真面目に選んでいるかと思いきや時々気に入った絵を眺めてじっとしていたのとで、これまた時間が掛かっている。

 そんなこんなしながら、結局クラーラに描かせたのは家族のお茶会光景と各部屋のテーブルクロスやクッションに各国の衣装から取った独特の柄模様を写させたものとなった。後は当人や工房仲間の描いた帝国内の有名な風景や建物と、借り出した掛け軸や置物などを配置する。
 加えて、平野は庭で花と水が短い水路を巡りつつ音を出すからくり仕掛け作りに精を出し、ティアは各国で多用される花を取り寄せての飾り付けに余念がない。琉宇と緋乃宮も、飾り付けを手伝う人達からあれやこれやと質問攻めだ。誰も彼もが忙しい。
 会場の飾りつけが終われば、今度は料理。基本は招待客も食べ慣れた帝国料理でいいが、お菓子は色々取り揃えようと提案したのが受け入れられた。よって。
「きんつば、お饅頭、葛餅〜、どれも美味しいなりよっ」
「パンはいらないねぇ。そうしたら、どこのお菓子がいいかなぁ」
「ええと、この地図のお店に行けば、泰国の職人さんがいらっしゃるのですね」
 平野と琉宇と緋乃宮が、近日発行予定だというジェレゾの案内地図を持って、おつかいに走っていく。ティアは料理人と季節の食材を使った料理やお菓子の相談をしていた。
「ジェレゾで手に入るものだけですから、わざわざ説明しなくてもお分かりになる方がいるかしら」
「多分いますねぇ。お出しする時に、どこのお菓子かはお伝えするようにしますけど」
 初対面でも会話が弾むようにと気を使うから、お菓子の供し方一つとっても大変だ。
 おつかいに出かけた三人の方は、大口発注に気をよくした各店で味見をさせてもらったらしく、楽しそうに帰ってきた。
 クラーラが恨めしそうに指をくわえて睨んでいるが、それはさておいて、パーティー当日への準備は万端整ったのである。

 お見合いパーティーの当日。
 招待客が次々とやってくる間、吟遊詩人の琉宇とティア、音楽の素養がある平野の三人は、本格パーティーらしい盛り上げに音楽を奏でていた。
「あ〜、いいねぇ」
「そうですね。クラーラさんも調子が良さそうで」
 楽器演奏の腕はないが、少しなりとお手伝いをとベルを鳴らしていた緋乃宮は、クラーラが加わりたそうに無闇とうろうろするので、一緒に庭へと出ていた。そちらには、クラーラ用に絵を描く準備がされている。
 ちなみに表に出る必要はない開拓者の四人も、ティア監修で会場に出ても失礼にならないような服装になっていた。ティアだけはベールで顔を隠しているが、他の三人はお見合いとはまだご縁が遠い年代だ。演奏や何かで賑やかしにはなっても、邪魔にはなるまいし、クラーラが招待客の似顔絵を描くと口にしたら、依頼人が悪くないと了解してくれたので、お目付け役をするためでもある。
 当然クラーラも、ティアが必死に清楚で落ち着いた服を着せ、髪も綺麗に結い上げ、きちんと化粧も施した上で、これまた前掛けにするのはもったいないほどの上着を用意して、似顔絵描きの準備万端整えたが‥‥着飾った人々を見て、ちょろちょろし始めたので緊急避難である。流石に招待客の中に混じられては大変だ。
 招待客は四十人くらい。お見合いだと気負ってきた様子はなく、まずは同性の友人達との会話を楽しんでいる風情だった。中に兄弟姉妹や親戚同士で参加している者がいて、あちらとこちらの会話を取り持ったりし始めた。
「司会は要らないわけだよね。これで結婚する人が出たら、そっちにも呼んでくれないかな?」
 結婚式なら、もっとすごいご馳走が食べられそう。裏方の一室で、もぐもぐと普段お目にかからない料理中心に攻略している琉宇が、パーティーの盛り上げ役が不要なわけだと納得していた。さりげなく一部を横に取り分けているのは、持ち帰り希望を出すためかもしれない。
 一緒にうまうまとご馳走を楽しんでいる平野は、将来よりは今のパーティーの様子が気になるようだ。誰かがうまくお付き合いまで繋がるかよりも、クラーラが何を描いているのか覗きに行きたい。いや、行かねばならぬ。
 でも、やっぱり食欲にも勝てないので、美味しいものもいただいておく。とはいえ、自分達だけ休憩していたらいけないよねと、少年二人が考えた時。
「あの、なんだかクラーラさんのお知り合いがいたみたいで」
 緋乃宮が、困惑も露わな顔で二人に知らせに来てくれた。
 この頃、ティアはもっと困惑していた。
 クラーラの似顔絵は、最初はまるきり人が来なかった。それはそれで問題はなく、招待客の会話が弾んでいればいい。それでもティアは、クラーラのような職人肌の女性を認めてくれるような男性がいないものかと、それとなく気にかけていたのだ。
 何をどうしたところで、普通の若奥様をしているクラーラは想像がつかない。けれどもクラーラが生計を立てて、相手が家の中を切り盛りしてくれる形ならありではなかろうかと親方にぽろりと漏らしたら、
『ここの両親は、亭主が生活費を稼いで、クラーラは稼いだ金で家政婦を雇えばいいって楽天的でなぁ』
 とぼやかれてしまった。人を雇うなら、それ相応の能力が必要だと言いたいのだろう。全部を相手におんぶに抱っこは、確かにあんまりだ。
 もういっそ、生活全般を元々世話してくれる人達がいるようなおうちの方に見初めてもらうしか‥‥と、ティアが親に代わって心配していたかどうかはさておき、何か描き散らしているクラーラの横に座っていたら、人の気配に気付いた様子の男性がこう声を掛けてきたのだ。
「あれ、その顔は‥‥セドフ商会の末っ子さん? ええと、ジャンナさんだったかな?」
「ジャンナお姉ちゃんは、一つ上。クラーラ」
「そうだ、クラーラちゃん。よく病気してたけど、元気そうだね」
 あぁ、言葉遣いから直さなければ駄目だったと、心中でだけティアが頭を抱えたのは一瞬のこと。男性はどうやらクラーラの家族を知っているようで、何人かの名前を挙げては近況を尋ねている。
 そのうちに数人が何かと覗きに来て、『セドフ商会』と聞いて二通りの反応を示していた。一つは先の男性と同じく『末っ子は絵師になったんだよね』で、もう一方は『あそこに商人以外の家族がいたんだ』だ。これはティアにも予想外だが、いずれもクラーラ本人に興味があるという風ではない。
 それでも女性達は、飾られている絵の幾つかがクラーラの作だと聞いて、そちらに興味を示した。
「布の絵は描いたの? じゃあ、一点ものね」
「天儀の衣装みたいな柄は描ける?」
 ティアが口を挟む隙もなく、何人かはクラーラに一点物の衣装に柄を描かせるのはどうかと相談を始めた。お見合いなのに、こんなのでいいのかしらとティアが他人事ながら心配していると、片隅で様子を窺っていた少年三人組がやってくる。
「なんだか皆さん、ご商売の話に熱中し始めましたけど‥‥良かったんでしょうか」
 緋乃宮が途惑うのも当然だが、お見合いパーティーのはずの会場は、各部屋に分かれての商談会に様相を変えていた。そしてそのままの勢いで、夕刻になって終幕となったのだ。
 おかげで料理とお菓子が随分余って、クラーラも含めて五人にお土産がいっぱいになったが。
「やれやれ、あの調子で結婚が眼中にない子供達をなんとかしようの会だったんだよ。商売相手として仲良くなるばっかりじゃねぇ‥‥うちの娘も、全然駄目だ」
 引き換えに、依頼人から長々と愚痴めいた親心を聞かされるおまけがついた。
「それなら、もうお見合いとしてみっちり計画を立てるなりよ」
「そうだよ、相手を見付けてくれないと安心しておうちを継がせられないって泣きながらさ」
 またパーティーがあれば美味しいものが食べられる、と思ったかどうかは知らないが、平野と琉宇がそういう時は開拓者だよと明朗に宣言していた。依頼人は本格的なお見合いかと悩んでいたが、もしかしたらもしかするかもしれない。
「また機会があれば、皆さんが幸せな気持ちになれるように頑張ります」
 緋乃宮もにこにことそう口にしたが、ティアは知っていた。彼のやる気は、クラーラが最後に描いていた月夜の猫の絵を貰ったことに拠る部分も大きいことを。
 なお、皆が一生懸命飾りつけた部屋はとても好評で、絵画やテーブルクロスなどは買い付けたいという申し出まであったという。