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■オープニング本文 アル=カマルの魔の森は、少しずつだがその面積を減らしている。 大アヤカシが滅び、人の手で伐採、焼却されていく森が元に戻る力を持たないからだが、広大な森が消え失せるにはまだまだ時間が掛かるだろう。 それでも、遊牧民の独立派と王宮軍の、政治的立場が対立する二勢力が競って働くので、かえって協力しあうより早く森を滅せるかもと言う者もいる。ただしこれは、大人気なく角付き合わせる双方に呆れての発言であることが常だった。 そして、現在。 魔の森の棘だらけの巨木によじ登っている、独立派の砂迅騎達が三人。 「ほらー、おやぶん、やっぱりアヤカシだよぅ」 「そうだなぁ。しかし、なんだってあんなに固まってやがるんだ?」 「しーらなーい」 「向こう岸まで軽く一キロってところかな。どうする、叔父さん」 「親分か頭領と呼べ」 木の枝に器用に足を掛けて、遠方を眺めやっている三人は、人間の少女とアヌビスの男性と少年だった。 言い方を変えると、独立派頭目のジャウアド・ハッジ、その亡兄の忘れ形見、つまりは甥のナヴィド、ジャウアドが後見人で元定住民のヤース。現在魔の森近辺にいる独立派遊牧民の中で、木登りが飛び抜けて上手い三人である。ついでに水泳も、ジャウアドとヤースは相当、ナヴィドもそこそこに出来る。 彼らがわざわざ木の上から見ているのは、巨木から五百メートルは離れたところから存在し始める、七色にぬめる湖だった。魔の森の中にあるなら、普通の湖でも泳ぐことなど無理な話だが、この湖は更に近付くことも容易ではない理由があった。 「なんで、スライムがいっぱい?」 直径一キロを超えるだろう七色の湖は、実は無数のスライムが集合したものなのだ。 ヤースの疑問に答える者は、ここにもどこにもいないが、偵察に赴いた手下を何人も傷付けられ、おかげで人手不足にも陥った独立派頭目のジャウアドの判断は明朗である。 「よし、手が足りない分は開拓者を呼んでやらせよう」 呼びに行くのは、ナヴィドの仕事となる。 |
■参加者一覧
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
和奏(ia8807)
17歳・男・志
門・銀姫(ib0465)
16歳・女・吟
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
九条・奔(ic0264)
10歳・女・シ
迅脚(ic0399)
14歳・女・泰
金時(ic0461)
20歳・男・泰 |
■リプレイ本文 深さは不明。 しかし、直径一キロの円内に密集していて蠢いている数は、魔の森だからと言っても多すぎる。 「強酸を持つスライムが、そんなにたくさんいて溶かしたり溶かされたりしないのでしょうか?」 もしも溶けて混じり合ったら、どんな色になるのでしょう? と鷲獅鳥・漣李で、上空から七色に滑る群れの光景を確かめてきた和奏(ia8807)は、感じた疑問を口にしながらおっとりと首を傾げている。 「ちょっと、いえ、とても多すぎだと思います」 たまに群れを作るアヤカシなので、お互いの酸には影響を受けにくいのかも知れないと、過去の経験や見聞から導いた知識を披露しつつ、表情を翳らせているのは鈴木 透子(ia5664)だ。 「けっこう綺麗な円形だしな。何か特殊な地形だったとか?」 スライムが集まる条件があるのだろうかと、考えを巡らせているクロウ・カルガギラ(ib6817)もこれといった原因は思い浮かばない。 「そういえば、この辺りは元々何があったんでしょう?」 大アヤカシが滅した跡とはいえ、魔の森を間近に見るのは初めてらしい金時(ic0461)が、そちらから仲間達に視線を戻して尋ねた。 「アル=カマルの人でないと、流石に知らないんじゃないかな」 たまたま目が合った迅脚(ic0399)が、至極もっともな返事をしたのだが、答えは別の者からもたらされた。 「アル=カマルの魔の森は〜♪ 旧ぅい首都を飲み込んで、ずっと存在しているんだね〜♪ その首都から人が消えたのは〜♪ ざっと千年前だそうだよ?」 平家琵琶をべんべんとかき鳴らしつつ、アル=カマルのでの放浪経験も長くなってきた門・銀姫(ib0465)が、こちらの吟遊詩人仲間から仕入れた知識を披露したのだ。 ただし千年も前に放棄された旧首都やその周辺の土地のこと、もはやちゃんとした資料は存在しない。故に、スライム湖周辺が過去にどうなっていたかは分かっていなかった。 「で、これが今の地図なんだ‥‥」 この位なら自分でも描けるなあと、九条・奔(ic0264)がいささか渋い顔付きである。おおまかに描かれた円と、その周辺の植物繁茂を示す記号、そこに至る道だろう二本線だけでは、確かに誰でも描けそうだ。ちょっと違うのは、四方に目盛りが入っていること。 「この目盛りが距離を示すなら、湖の周りには空き地がないわけか。繋がる道も一本で、幅が十メートルくらいか?」 「じゃあ、スライムをおびき出すにも場所を作るところからだね」 退治を始めるには足場作りからだと、地図を覗き込んだからす(ia6525)とモユラ(ib1999)が地図の縮尺は合っているのかと、描いた当人に目をやると‥‥ 「痛かったよォ〜」 「よちよち。かーいそーねー」 スライム湖を見るために登った木から転げ落ち、ぶつけた後頭部が痛いよと嘆いている喪越(ia1670)を子ども扱いで慰めているヤースの姿があった。 なんとなく、信用していいのか不安‥‥ 「地図の腕だけは間違いない」 応援で付いてきたトィミトイ、元はヤースが現在所属するジャウアド・ハッジの部族民だった彼が保障しなければ、次の段階に進むにはもう少し時間が掛かったろう。 とりあえず、まずは喪越をどついて立たせるところから始まる。この役は、なぜか彼の走龍・華取戌が、進んで行っていた。 スライムは日光や乾燥を嫌い、湿ったところに潜むのが一般的な習性だ。ただしアル=カマルにはこの亜種で砂漠の砂に潜むスライムも存在するから、一概に乾燥が苦手とは言えない。 大きさも色々で、巨大なものなら家一軒丸呑みするようなモノも存在する。稀には小型のものが一体化して襲ってくるとも言われるが、攻撃を避けたりする知恵はない。だが刃物で切りつけたり、殴ったりしても効果は薄い。ついでに武器を溶かされる恐れもある。 よって、スライムにはたいそう効果的だと言われる火攻めが主たる攻撃方法と相成った。これには遊牧民側も異論はないが、湖周辺の森への延焼だけは避けるように厳命された。 「どうせ、中から何か出てきたらちょろまかそうと考えているだけだ」 と、遊牧民側の事情に詳しいトィミトイが評し、銀姫も乾いた笑い声を上げるだけで否定はしなかったが、一応ちゃんとした理由がある。 「森が燃え落ちるのは痛くも痒くもないが、王宮軍の活動場所に火が回るのは困る。それに火災が切っ掛けで、中のアヤカシが集団で外に出たら追い掛けきれないからな」 ジャウアドの甥のナヴィドの説明によれば、魔の森の焼き払いは最近では王宮軍と日時を合わせ、外部にアヤカシが逃げてきたら退治出来るように陣も整えてから行っているそうだ。 「へえ、ちょっとは仲良くなった‥‥わけじゃないかな?」 モユラがいい傾向じゃないかと一瞬喜んで、渋い顔になったナヴィドの様子に単純な利害の一致らしいと苦笑に転じた。後で聞いた所では、ジャウアドと王宮軍の指揮官がとにかくうまが合わないとか。 その辺は急に改善のしようもないから、一行は速やかに仕事に取り掛かった。 まずは、遊牧民達と一緒に『戦場』の準備だ。伐採した木々は、そのまま焼いてしまえばいいと考えるものが大半だったが、いかに砂漠の中でも生木は燃やすと煙がひどい。視界が塞がれて危険だから、一旦森の外縁部に運び出す。 「走龍に荷車引きなんて、合わないなぁ」 馬や驢馬の仕事なのにと、魔の森では致し方ないことは理解しつつもぼやく迅脚の相棒も走龍だ。その走龍・健脚は伐採作業に目もくれず、湖からのろのろと這い寄ってきたスライムを踏み潰している。 似たような態度は、金時の駿龍・颯太もだ。金時が働いている周りで、警戒の目を光らせている。こちらも伐採にはまったく興味を示さないが、金時の作業を邪魔するつもりはないのだろう。 対照的なのは、漣李と華取戌の鷲獅鳥達だった。我関せず、我々の興味はこんなところにないとばかりに、ようやく拓けた土地に堂々と居座っている。一度など、銀姫の相棒で迅鷹の銀姫が降りてこようとしたら、威嚇して追い払う我が道っぷりだ。 「また何か勘違いして。これだって、ちゃんとした仕事なんですよ?」 せめて他の相棒を見習って、周りの警戒位しなさいと和奏にたしなめられても、気位が高い漣李はそっぽを向いている。華取戌は喪越を足蹴にするのだから、そもそも声を掛けられても知らん振りだ。 「蝉丸、お願いしますね」 この一言で、細かい指示がなくても警戒すべき方向を察して動く駿龍・蝉丸に喪越が羨望の眼差しを向けたかといえば、そういうこともないのだが。人と相棒の関係は、人の性質にも大きく左右されるものだろう。 なお、活動条件が何かと厳しい奔のアーマー・KV・R−01 SHと、からすの管狐・招雷鈴は、まだ出番ではない。 「そろそろ、あぶり出しに掛かってもいいな。もしもの時は手筈通りに」 伐採がある程度進んで、残りは遊牧民の若手に任せてもいいと、駿龍・カスゥルガで上空から『戦場』の広さを確かめてきたクロウが皆に声を掛ける。 もしもの時とは、スライムが一斉に岸に押し寄せてきた時の避難や迎撃の方策だ。そうならないように地上と空とで攻撃方法も検討してあるが、魔の森の中のこと、緊急事態にはいずれも命を優先して撤退する事になっていた。 そういう取り決めがあっても、ちゃんと覚えているのかと疑われるような勢いで攻撃準備を始めた者は、別に遊牧民に限ったことではない。 一体だと強い脅威を感じないアヤカシだから、うっかりたくさんいても珍しい気持ちが先に立ち、見物料でも取れるのではないか。更にここで錆壊符を使ったら、何か起きないか。そんなことを考えているうちに、木から落下した喪越もスライム退治に精を出していた。 「魔の森とはいえ、植物を燃やすのは抵抗があるんだぜ? うんうん、こんな砂漠の中だと特にねぇ」 周りの遊牧民達からは怪しいものを見る目付きを向けられているが、彼の独り言は大全開状態だ。一応は本当にもったいないなあと考えているのである。だが見るからに毒々しい外見や他所にはない種類など、明らかに瘴気の影響が出ている植物はやっぱり燃やすしかないと思うわけだ。 なにより、お仕事をしないとお金もらえない。すると食いはぐれてしまう。というか‥‥ 「カトリーヌ! セリョリータよ、頼むから俺の脚を齧るのは止めてくれない?」 周りに食べられるものはなし。重いもの、つまりは喪越を載せてスライムの周りを走り回るのにも飽きてきた華取戌が、がじがじと彼の足を齧るのである。ちゃんと稼いで養わないと、食われる、きっと。 遊牧民達が、以前に刈り取った木々を乾かした薪をスライム湖に次々投げ込む。それに対して火炎獣を放ちつつ、喪越は華取戌との生存競争にも忙しそうだ。 同じ鷲獅鳥でも、働く段になったら漣李はもう少し真剣である。スライムを踏んで潰しては、爪が汚れたのが気になるようだし、煙が掛かると羽をばさばささせているが、まあ和奏の指示には従順だ。それでも何故か偉そうに振る舞って見えるのは、そういう性質なのだと皆から理解されている。 「魔の森の木って、どういう種類があるんでしょう? 瘴気の影響で旱魃に強くなった種類なのですかね」 瞬風波で湖から人の気配を感じて向かってくるスライムを切り刻んでいる和奏の方も、瘴気感染の危険がある活動だというのにおっとりしたところは変わらない。背後も漣李に任せて安心と思うのだろう。周囲の危険に目を配って警戒するというより、明らかに植生に興味を持って観察している風情である。 「たまに外の木と同じかなというのもあるけど、大抵はアヤカシ一歩手前の変な姿だぞ」 「でも燃えて煙が出るということは、繊維や水分があるわけですし」 不思議なものですと首を傾げている和奏に、ナヴィドは『あんたの方が不思議』と呟いている。 植物の異常さは、上空から見るとより分かった。色が違い、枝や蔦の伸びる姿がおかしい。 そうした植物が次々薙ぎ倒されていくのを相棒の上から眺めやり、たまに混じる植物型アヤカシに絡め取られないように注意しつつ、金時はそろそろと湖を形成するスライムの近くまで颯太と降りていった。 「膝が立つような深さではなさそうですね。あの下にも、まだいるとしたら」 嫌なことだと口の中で感想を転がして、金時は蠢くスライム達に対して、鞍に括った樽の中身を少しずつ零していった。すぐ近くでは、同じことを透子と蝉丸が行っている。 二組が行っているのは、可燃性が高い油をスライムに掛けることだ。透子は砂漠で時折見付かると噂に聞いた『燃える水』が手に入らないかとジャウアドに持ちかけたが、どうも王宮の支配地域でしか採取されないようで用意してもらえなかった。代わりに、普段から遊牧民達が使っている油を貰い、スライムの分断に使おうとしている。 切り開いた区画の端、魔の森との境になる場所には、ハチベーに跨るモユラが遊牧民の数名と彼らの様子を窺っている。湖全体のスライムが一気に動き出さないように、途中に炎で分断線を作る予定だ。 「煙に注意してくださいねー」 透子が声を張り上げたのは、金時とモユラの両方に注意を促すためである。油だけなら煙は少ないはずだが、スライムが混じるとどうなるか分からない。警戒するに越したことはないだろう。 「足元も注意だよ。ここ、いきなり窪んでるからね」 点火は透子とモユラの火炎獣で行われる手筈だが、その前にモユラは刈り取った枝を使って湖の水深を図ろうと試みていた。スライムに折られてしまうので深さはやはりはっきりしないが、湖の縁がいきなりすとんと落ち込んでいるのは分かった。 スライムが引いたからと、うっかりハチベーで追ったら沈んでしまう。ここで泳ぎたいとは露塵ほども思わないモユラは、遊牧民達と一緒に足場を再確認して、 「よーし、行くよー!」 火炎獣を解き放った。 油が燃える炎の中で悶えるスライムを区切りの線に、開いた区画に近いものはモユラ達地上組が、遠いものは透子と金時が湖面すれすれを飛んで、それぞれ反対方向に引っ張って行く。時折火炎獣はじめとする炎が舞って、スライムの湖面を乱していた。 こうしてスライムの三分の一ほどが、地上班の大半が待ち受ける区画に向かってきた。それを迎え撃ったのは、 『我ノ酒の種ガ来たか』 「あはは〜♪ 頼りがいがある相棒だねぇ〜♪」 ご褒美にジャウアドから酒を貰う約束をした招雷鈴。からすに内心『こんなにちょろい奴だったとは』と思われたことなど露知らず、ご機嫌にスライムを痛めつけている。 びしばし戦う管狐の後ろから、一人と一羽の銀姫も攻撃を繰り出している。数いっぱい、回避行動なしのスライム相手だから、当てるのは容易い。 問題があるとしたら招雷鈴召喚中のからす共々、前線に立つには向かない二人が固まっていることだろうが、周りは反目をスライム退治数で競うことにしたらしいトィミトイと遊牧民達が固めているので心配はない。 「自尊心が高くて、それに見合う働きをするのをよしとするが‥‥ちょっと短気なのが多いか?」 からすは度々罵りあいを展開する男どもを、こんな時だというのに観察していた。 彼らが攻め寄せてくるスライムを退治するのとは別に、湖では時間が経つにつれて火勢が強くなって来ていた。 汚物は炎で消毒。そう宣言して、火竜の名に恥じない火炎放射でスライムに炎の洗礼を与えていた奔は、迅脚からの合図に気が付いた。伐り拓いた区画に上がって来たスライムに乾いた枝葉を投げかけ、端から火をつけていた迅脚だが、彼女の手に余る団体様が来たということだ。 「あっらー‥‥これに抱きつかれたら、恥ずかしい姿になりそう」 どでかい、KV・R−01 SHでも見上げるようなスライムは、一個体か集合体かは一瞥では判断が難しい。取り込まれれば、火竜に限らずアーマーの装甲を溶かしそうな大きさだ。ここに装甲が溶けた、奔いわく『恥ずかしい姿』のKV・R−01 SHが見たい者は一人もいなかろうが‥‥うっかりすると、披露の憂き目に遭いそうだ。 そんなスライムの近くを、迅脚が何か抱えて器用に走り回っている。もちろんあちらこちらの開拓者に遊牧民が加勢に駆けつけようとしていたが、迅脚の身振りは『近付くな』だった。 「さあて、迅脚、健脚の速さを見せてあげますよ!」 奔が退がれと叫ぼうとして、迅脚達が抱えていた油樽の全てを巨大スライムの進路に転がしている事に気付いた。途中からは、遊牧民達が離れた場所から同様にスライムに可燃物を投げ付けている。 これはでかい火柱が立って、下手したら延焼するかも‥‥と奔は心配し、でも迅脚が下がったらすぐさま火炎放射を浴びせてやるつもりで構えた。幸いにして、今は風がない。 こいつを退治したら、スライム湖も少しは底が見えるといいのだが。そう考えたのは奔と迅脚ばかりではないが、しばらくこの二人は火柱になって暴れるスライムを避けて回るのに忙しく、確かめたのは最後になった。 「柱の影にまだいるぞ! 不用意に下がっていくな!」 巨大スライムの体積分より、急激に水位が下がったように見える湖は、相変わらず円形の口を開いていた。ただし、その中には明らかな人工物が見えている。 穴の底から伸びている石の柱を伝って登って来ようとするスライムを、クロウが魔槍砲で次々と消し飛ばしていた。遠距離攻撃が可能な者は次々と倣い、徐々に地下の施設の様子が見えてくる。 「石造りで、円形で、太い柱‥‥地下神殿か?」 まだ幾らかスライムが残っているが、全景が見渡せるようになった施設の天井が落ちた縁から覗いたクロウが、自分が見た中で似たような建物を思い返していた。 「いいねえ、スライムの湖よりもっと壮観じゃない」 「ジャウアド親分の功績譚〜♪ 新たな章が始まるかも〜♪」 「スライムさんが入っていたのに、中は割と綺麗ですね」 モユラ、銀姫、和奏はまだまだ戦う姿勢なのに気楽な感想を述べ、 「うーん、こういう上り下りは得意じゃないなぁ。壁が走れたらいいけど」 「まだ小さいのが残ってたら、火遁で焼いても平気かな?」 迅脚とアーマーを降りた奔は、下への移動や残ったスライムへの攻撃方法を模索している。 「円形の施設にスライムが入り込んでいたのですね。だから綺麗に丸かった‥‥」 「でも、どうしてでしょう?」 上空では、透子と金時が円形で深い地下施設を眺めやり、深さは大体十五メートルと目測していたが、スライムが集まった理由になりそうなものは見付けられないでいる。 「セリョリータヤース、この建物知ってるかい?」 「はじめてみたよ」 「似たようなものを見たことは?」 「‥‥‥‥ちょすいそー?」 喪越の尋ね方はヤースには通じないと、からすが尋ね直して、返事が『貯水槽』だと皆が飲み込むまでに少し時間が必要だった。 「貯水槽ってことは、水源は別だな。昔の首都か、周辺都市の名残って訳か。スライムが集まったなら、今もどこかから水が流れてくるのかもしれない」 あちこち崩れているし、今回は下まで潜るような準備もしていない。またスライムがまだ残っている気配も濃厚で、施設の探索には到らないが‥‥その昔、この辺りにも人が生活していたのは間違いない。もっと注意深く辺りを掘り起こしたら、何か遺跡が出てくるかもしれなかった。 「親分に〜、今度調べてねって言ってみよ〜♪ でも仕事は他にもあるし〜、忙しくって大変だ〜♪」 だから、きっとまた人手がいるよねと続いた銀姫の歌に、和奏と透子が何の含みもない表情で『そうですね』と相槌を打った。呼べってことだろと渋い顔になったナヴィドに対して、もちろん呼ばれてあげるよと語る顔つきの者も、もちろんいる。そうではない者の方が少なかったかもしれない。 |