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■オープニング本文 それは、とある森の中でのことでした。 開拓者の皆さんは、お仕事を終えた帰り道です。今日はここで野宿をします。 行きもここにお泊りしたので、周りのことはよく分かっています。 この辺りには、怖い動物もアヤカシもいません。だから、あんまり心配せずに良く眠れます。 まだちょっと肌寒いこともあるけど、テントも寝袋も毛布もあるから大丈夫! 「ちょうどいい枯れ木がありましたよ」 「野草も採ってきた」 お仕事が終わったので、今日はゆっくりご飯を食べて、のんびり寝ることが出来ます。 焚き火もごうごう燃えているから、風が吹いても寒くなんかありません。 でもでも。 「このスープ、美味しい〜」 「なんだか焚き火からいい匂いがしない?」 「うんうん、そうだね。あははははは」 「うふふふふ」 あれあれ? 「きゃははははー」 「ひゃーはっはっはっはっー」 なんだか、皆さんが笑い出しましたよ? 変なことも言っているみたい? 「虹がいっぱい飛んで回ってる〜」 「わーい、兎がしゃべったーっ」 皆さん、なんだか変なものが見えているようです。 「うおー、たのしー」 「おもしろーい」 だけど幸せそうだから、いいのかな? |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
日和(ib0532)
23歳・女・シ
ノルティア(ib0983)
10歳・女・騎
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
キルクル ジンジャー(ib9044)
10歳・男・騎 |
■リプレイ本文 斑鳩(ia1002)さんは、こう語ります。 「今回の事はおぼろげで、あまり詳しくは覚えてません。かすかに覚えている限りでは‥‥あれは、依頼の帰り道、森で野宿をしていた時の事だったと思います」 あたりは暗くなっていました。ちょっぴり寒かったりするかもしれません。 なのに斑鳩さんの服は、ひらひらのふわふわで、色もとっても可愛いものでした。お手々には、なんとも姿がいい枯れ枝を握っています。 そんな様子で、斑鳩さんはまだまだ語ります。 「あの時、私は鍋に森で取れた茸が沢山とれたので鍋にそれらを入れたんです。茸は見たことがない物でしたけど美味しそうで‥‥実際美味しかったのです」 斑鳩さんの前には、確かに空になったお鍋とお椀が置いてありました。お箸かお匙はどこかに転げていってしまったようです。 「そうそう、あの茸は美味しいんですよ」 「でも、あれがこの原因だと思うんです〜」 「あれ? あぁ、だからあの茸は美味しいけど、食べるとまずいものなんですよ? この場合のまずいは、美味しくないではなくて、食べると幻覚が見えるからまずい、です」 ふふふんと胸を張った風鬼(ia5399)さんが、斑鳩さんに背中を向けて、何かあれこれ呟いています。おや、突然笑い出しましたよ。 「燃やしてまずいものも見れば分かります! だから黙って見守りましたよ。文脈がおかしい? こんなそとはないですよ。わるあけがないのです!」 けーっけっけっけっけっけっ‥‥ 夜空に笑い声が響きますが、誰も振り向きません。というか、皆さん笑っているのでした。 「ヒャッハー! 気分が愉快だ。頭が愉快だ。もはやできないことなど何もない!」 「皇帝陛下ばんざーい、いえーいっ」 けきょけきょ笑っている風鬼さんと、なにやら歌いながら踊り始めた斑鳩さんの間を、ぴょんぴょんしながら羅喉丸(ia0347)さんとキルクル ジンジャー(ib9044)くんが通ろうとしました。 ごっちん。 二人は激突! 「うわぁ〜、世界が回るのです〜」 「ええい生意気なっ、目にもの見せてくれる、人は修練の果てに天すら砕く! ヒッャハーッ」 くるんくるん回りながら、向こうに転がっていくキルクルくんと、なぜだか夜空目掛けて拳を突き出した羅喉丸さんは、まるきり違う方向にさよならしていきます。ぶつかったことも分かっていないでしょう。別に怪我してなきゃいい‥‥それ以前に、誰も気にしてませんね。 だってほら、海月弥生(ia5351)さんは、さっきから切り株に向かっておしゃべりしています。 「簡易整備ですって、グライダーにも効果があるんですって。からくり好きで滑空艇のりのあたしとしては、まさに悔しいんですがー‥‥きゃー、憎いわ、騎士め〜っ! ちょっと、聞いてる?」 切り株に耳はありませんよ、弥生さん。 「それでねー、猟師の家系に生まれて、野山を駆け回ったあたしはもちろん開拓者になる時に慣れた弓術師になるのに不満はなかったのよ〜? ここまで分かった?」 その話は三回目です。切り株には口もないので、なんとも言いませんけれど。 と、今度は切り株に誰かが座り込みましたよ。 「はぅはぅ‥‥ねこちゃんだぁ、ねこちゃんがわたしのまわりをぐるぐるぐるぐる‥‥にゃ〜」 「そこに砂迅騎ですって。あぁもうたまらないわよねっ。分かるでしょう、あたしの気持ちが!」 「ひゃー、ねこちゃーん」 がしっ。 踊り踊るにゃんこちゃんとお話し中のエルレーン(ib7455)さんが振り回した腕が、弥生さんの伸ばした手にばしっ。 あらあら喧嘩になっちゃうかも? いえいえ、そんなことはありませんでした。 「「きゃ〜〜〜〜」」 頭のてっぺんから飛び出したような悲鳴っぽい声と共に、エルレーンさんと弥生さんはがしっと暑苦しく抱き合いました。 がしっ、ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。 きゃっきゃ、うふうふ、きゃっきゃ、うふうふ、ぎゅーっ。 「なんだかノルティアがたくさん‥‥お肉もこんなに!」 「ひよりん‥‥これが、ボクのお父さん、とお母さん」 んきゅーとハグしているのは、日和(ib0532)さんとノルティア(ib0983)ちゃんです。 「おぉ、みんなでもふもふら〜♪」 ハグハグしている皆さんを前に、なぜだか仁王立ちの不破 颯(ib0495)さんが高笑いをしています。いえ、皆さんけたけた大笑い真っ最中なので、不破さんだけが『あーははははは』ではありません。 ありませんけども、ね。 「もふもふだ、もふもふが並んで踊っている!」 両の拳を握って力説している不破さんの前を、確かにハグしたままの日和さんとノルティアちゃんがくーるくる回りながら通り過ぎていきました。きっと不破さんには、二人がまるごともふらを着ているのか、それとももふらさまになっちゃっているように見えるのです。 「あらかさんもふもふ〜、きょうげんどーじさんもふもふ〜、キーターコーレー‥‥やっぱりみんな、まるごとやみめだま」 なんだか、もっと違うものに見えてきたみたいです。あらかさんときょうげんどーじさんがやみめだまでいいのか、いやよくないっ。 でも誰も気にしませんけど。 「よーし、たかいたかいしよう」 「あれがおにーちゃん。それと‥‥おねーちゃん。‥‥おじいちゃんと、おばーちゃん。あと、ふらんつ」 途中から、日和さんがノルティアちゃんを抱えて、高い高いしながら、やっぱりくるくるー。ところでフランツって誰のこと? 「フランツ‥‥誰?」 ノルティアちゃんも知らないのでは、きっと誰も知りません。 普通だったら、そのはずなんだけど‥‥ 「フランツっ、燃えてるなんて生意気なー」 「ぜんぶふらんつのいんぼうでおさる」 「フランツ? なまなりさんにもふもふなら、フランツにはまるごとアーマーしかあるまい!」 「ふふ〜、このにゃんこはふらんつ」 「よーし、フランツも打ち砕いてみせるぞー!」 「悪の魔王フランツは、この魔法少女が退治するのよ〜」 「ちょっとー、フランツも聞いてるの?」 どうやら皆さん、フランツさんをよくご存知のようです。 「さ、ノルティア、私が狩って来た肉だからねぇ」 「フランツ、ひよりんの、隣は‥‥ボク」 哀れフランツは、キルクルくんに焚き火に投げ込まれ、風鬼さんには陰謀の黒幕呼ばわりです。不破さんはまるごとアーマーを着せてくれ、エルレーンさんににゃんこだと言われたのに、なぜか羅喉丸さんに砕く宣言をされ、斑鳩さんには悪の魔王認定をくらいました。弥生さんのお話を聞かないと、お仕置きされそうですよ。 日和さんとノルティアちゃんは、フランツを押し退けて、二人でお肉を食べる事にしたようです。鍋の蓋に余っていた兎のお肉と、斑鳩さんが採って来てくれた茸を載せ、うっかりキルクルくんが拾ってきた生木の煙で燻しちゃってますが‥‥大丈夫? 「口に入れたり、吸ってまずいものは、わればみかります。だから黙って見守りますよ?」 ここは見守っていいところ? そして、二時間がたちました。いやはや、時間が立つのは早いものです。 もはやフランツのことは忘れ去られました。 「もーえろー、もーえろー、たきーびのなーかーでー」 不破さんが歌を歌いながら、キルクルくんの荷物にやまほど詰まっていた宝珠のかけらを掴んでは焚き火に投げ、掴んでは焚き火に放り込んでいます。 ぽいぽいぽぽいぽいっ。 「うにゃあ、綺麗ですよぅ」 焚き火の横では、エルレーンさんが転がっています。そりゃあ、宝珠のかけらですもの、綺麗に決まっています。ぱちぱち景気良く燃えてますが、綺麗きれ〜い。 「ふっ、まるごといもむし」 うっとりお目々で、お子ちゃまみたいに親指をちゅうちゅうし始めたエルレーンさんを、不破さんがびしっと指差して芋虫認定です。見るからにそんな感じですから、エルレーンさんも文句は言いません。 もしかすると、全然聞いていないだけ? 「ふふふふふふ〜」 エルレーンさん、なんだか誰かの名前を呼んでいます。誰だか分かりませんが、楽しそうです。 だがしかし、平和は長く続かない! 「じかびやきやきさきいか!」 そんなエルレーンさんのお膝辺りに頭を乗せて、ぐうすか寝ていたキルクルくんが、突然起き上がって叫びます。叫んだと思ったら、また寝てしまいました。膝枕ですよ、いいですね。 あ、頭が落ちました。でも寝ています。ぐうぐう。 その間に、不破さんが今度は直火焼き裂きイカをこんもり取り出しました。 「じかびやきやきさきいか! 緑色の小さいおじさんの願いにより、この魔法少女、斑鳩が退治しに来ました!」 どこから持ってきたのか、斑鳩さんが可愛い風呂敷を首に結んで、ひらひらさせながらやってきました。相変わらず手にはいい枯れ枝を握って振っています。 ひゅんひゅんっ。当たったら痛いよ。 「「じかびやきやきさきいか!!」」 斑鳩さんと不破さんが、声を揃えて叫びます。 どぼどぼどぼどばーっ。 不破さんが、焚き火に何か注ぎました。あぁ、炎が大きくなっていきます。って、火に油を注ぎましたよ、この人。 「じかびやきやきさきいか? それってどんな技かしら? やだ、なんだかここって暑くない?」 「暑ければ脱げと、おひげの妖精さんが言いました!」 「そーねー。暑い時は脱げばいいのよね」 謎のじかびやきやきさきいかに引き寄せられ、弥生さんも焚き火の近くに。暑いので、靴を脱いでいます。他にもなんだか脱ぎ脱ぎと‥‥ 「本当はとっくに転職しているところをね〜、聞いてる?」 焦げた直火焼き裂きイカに、耳はありませんよ、弥生さん。 「まあいいわ。あたしの華麗なる転職計画を、もう一度最初から聞きなさい!」 じかびやきやきさきいかは静聴中。 不破さんと斑鳩さんは、歌らんらん。エルレーンさんとキルクルくんはすーやすや。 弥生さん、語る語る。 「あーたーしーのゆーめーをきーけー」 焚き火の向こう側、ちょっぴり離れた場所では、ノルティアちゃんと日和さんが、そんな弥生さんに背中を向けて、直火焼き裂きイカを上手にどんどん結んで、冠を作っています。 「ほらほら、ノルティア、可愛く出来たよ」 「出来た‥‥でも、もう冠、あるよ?」 二人の頭の上には、鍋の蓋がちょこん。いえいえ、鍋の蓋ではありません。冠です。冠なのです。 違うって言ったら、ノルティアちゃんが石投げてきちゃうんだから! 「そっか、じゃあ、どうしよう?」 日和さんとノルティアちゃん、二人で首を傾げて困っています。せっかく出来た冠だから、誰かに使ってもらわなきゃ。 いらないなんて、言わせないんだから! 「よし、これでいい!」 日和さん、キルクルくんの荷物に被せて大満足。ノルティアちゃんを抱えて、やっほーいってくるくる踊りだしました。 あっちでもこっちでも、皆さんが楽しく踊っています。一人ずつ歌っているお歌が違って、踊りがばらばらで、ほぼ全員が見えない相手と踊っていますが、寝ている二人ととある二人以外は踊っています。楽しそうです。 それなのに、羅喉丸さんたらなんだか悩んでいるではありませんか。いったいどうしたのでしょう? 「砕けぬか‥‥それでこそ強敵よ」 ここは、強敵と書いて『友』と読むところ。親友とか盟友とか戦友でもいいですよ。 それはさておき。 昔々、泰国伝説の亀の甲羅を背負った仙人が、大猿のアヤカシを退治するのに月を割る修行をしたのだそうです。それを真似してみたけど、羅喉丸さんにはまだ月が割れなくて、悩んでしまっているのでした。 でもでも大丈夫、きっと割れる気がするのです。さあ、気を取り直してもう一回。 そう思ったら。 「とくいわざはマシンガンチョップ〜」 ぽふっ。 風鬼さんが、羅喉丸さんの頭を後ろから叩いていきました。マシンガンチョップってなんでしょう? マシンガンのチョップ? マシンガンって何? 「マシンガンチョップだと! あの伝説の泰拳士マー・シンガンが編み出した、必殺の技! しかし一子相伝ゆえに、もう伝える者はいないはず‥‥」 ふーん、マシンガンチョップって、そういう技なんですか。‥‥ほんとに? 「待て、その技を教えてくれー、ヒャッホー」 「ぶひー。ずんびろぴれー」 風鬼さんが走ります。羅喉丸さんが追いかけます。 踊る人がいます。笑う人がいます。 寝ている人も笑い出しました。 「「「「「「「「「あーっははははははっはっはっーーーー」」」」」」」」」 夜が明けるのは、まだまだ何時間も先。 あぁ、笑いが止まらない。 |