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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 現代日本で最大規模を誇る開拓者ギルドといえば、東京都葛飾区にあるのがそれだ。 今時どこを開拓するのだとか、そもそも仕事はアヤカシ退治で開拓したのは一般庶民じゃないかとか、色々ご意見はあるのだが、『開拓者』の呼称は古来から全世界で使用されているので今更変えられない。 世界の開拓者統括機関は国連に属するくらい、由緒正しい呼び名なのである。 とまあ、最近はやりのアニメのおかげで小学生でも知っている事柄はさておき。 ここ数年は大規模なアヤカシの出現もなく、少数のアヤカシなら各都道府県の警察が対処可能になっている昨今、開拓者ギルドに持ち込まれる依頼も様変わりして来ていた。 入居したアパートの天井に人型のしみがあるのはどうしてか確認してくれ。 畑を荒らすサルをなんとかして欲しい。ちなみにそいつらは天然記念物だから。 さかあがりができるようにしてください。 結婚式の日が必ず晴れるように願掛けを! ある意味便利屋さんと化してきた開拓者ギルドだが、志体と呼ばれる能力の持ち主達が集っていることに、はるか昔から変わりはない。 たまには、すごい依頼もやってくる。 極秘来日する海外の要人の護衛を頼みたい。 深海に落っこちた探査艇を引き上げてほしい。 まえまわりができるようになりたい! 結局、古今東西の依頼の数と種類は膨大だという結論に落ち着く四月初旬。 この日の依頼は、近くの雲門幼稚園の園児達からだった。 「あのね、テレビのニュースでね、ペンギンが空をとんでたの」 「あとスパゲティがなる木があるんだってさ」 近所の公園へのお散歩の列から脱走してきた様子の園児が数人、開拓者ギルドのカウンターにしがみ付いて、口々に訴えている。一応、依頼で分類するなら探し物だ。 依頼料に、満開の桜の枝を差し出している。って、どこから持ってきたんだろう? 「早く探してきてー」 園児達は、元気に口を揃えておねだりしていた。 |
■参加者一覧
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟 |
■リプレイ本文 その日、開拓者ギルドにいた開拓者は、三人‥‥だった? 「空を飛ぶペンギン見たいじぇ〜」 「「「「「ねー?」」」」」 「‥‥一緒に来たわけじゃないわよねぇ?」 園児と一緒になって、リエット・ネーヴ(ia8814)がわきゃわきゃと『スパゲティも食べたい』と賑やかに話し出した。その姿に、都内の大学に留学中で、割の良いアルバイト探しにやって来ていたフェンリエッタ(ib0018)は、この子はさっきまで依頼を探してなかったかしらと首を傾げている。 「そんなテレビがやっていたなんて知らなかったなぁ」 「ナァム、ええ、本当に。スバーゲティーがなる木があるとは、知りませんでした」 傍らにランドセルを放り出した琉宇(ib1119)は、中東地域のどこかの国の大使館員だというモハメド・アルハムディ(ib1210)と、どうやってスパゲティが木になっているのかと考え込んでいた。 そもそもあれって、小麦の加工食品ではなかったっけ? なっているのは乾燥パスタ? それとも生パスタ? 悩みが尽きない二人に対して、なんだかものすごく妙な顔をしたギルドの係員がパソコンの動画サイトを見せてくれた。手招きされたフェンリエッタもやってきて、カウンター越しに覗き込む。琉宇は身長が足りないから、椅子を持ってきてよじ登った。 そうして。 「なぁんだ‥‥残念」 「残念って、これがイギリス人のユーモアでしょ。でも当時はこれを信じた視聴者から、どこで手に入るのかって問い合わせの電話がすごかったらしいけど」 火星人が攻めて来るより平和だよと、係員はがっかりして肩を落としたフェンリエッタにやたらとしまりがない顔で囁いた。子供達が真剣に信じている様子に、笑い出しそうで耐えているらしい。あからさまに妙ちきりんな表情だから止めたほうがいいとフェンリエッタは思うのだが、まあ笑い出されるよりはましか。 それに、確かに冗談でも火星人が攻めてくるのは嫌だが、スパゲティが豊作だったり、ペンギンの新種発見には夢がある。この点は、最初は園児達が口にしていたニュースがエイプリルフールの嘘だと知って、いささか不機嫌そうな顔付きを隠さなかったモハメドも、ユーモアだと聞かされて表情を和ませた。 「ラーキン、しかし、フキャーハでしたら歓迎しましょう」 「フキャーハ?」 「アーヒ、ああ、ユーモアの意味です」 自国の慣習や宗教では定着しかねることだが、他国のそれまで否定するほどモハメドも狭量ではない。ましてや子供達の夢を摘むような真似は、どういう方法であれ好まなかったが。 「う♪ あのシーン、かっこよかったじぇ〜!」 「だよなぁっ!」 「明日が楽しみだじぇ〜。ねっ?」 きゃっきゃ、きゃっきゃ。どたばた、どたばた。 肝心の園児達は、さっきの話はどこかに放り投げたかと思わせる勢いで、話題のアニメの春からの新キャラクターを語っている。リエットがなにやらポーズを取っているのは、そのキャラクターの決め技シーンの真似のようだ。 だが、やっぱり忘れてはいなくて。 「空飛ぶペンギンは?」 なんだか、『まだ探しに行ってないの?』的な目で見られてしまった。主にフェンリエッタとモハメドの、園児からしたら大人組。 「外国から連れてくるのは難しいから、写真でもいいと思うじょ。ね?」 「やだ」 リエットがちょっと助け舟を出してくれたが、あっさり却下された。ちょっと、いや、結構衝撃的。 「本物が見たいんだもーん」 胸の前で両手を握り拳にして、ぶんぶん上下に振られながら主張されると駄目とは言い難いが‥‥元がエイプリルフールのジョークなのだ。空飛ぶペンギンなんか、CGフル活用のすごい出来である。 この現物を持って来いと言われたら、さてどうしたらいいものか。モハメドは生真面目に検疫のことを持ち出そうとして、園児にどう説明したらいいか悩んでいる。フェンリエッタは自分で画像を作れないかと考えていたのが、いきなりの却下で困惑しきりだ。 「そうだよねぇ。本物じゃなきゃ、うそか本当か分かんないからね」 「え、嘘ってなんのことじょ〜?」 園児達の騒ぎをよそに、熱心に動画を見ていた琉宇が、相変わらずパソコン画面に視線が釘付けのままで呟いた。一緒に覗こうとしたリエットが問い掛けるも、反応がない。 そうして、園児達は『また明日ねー』と探しに来た先生達に連れられて帰って行った。 って、明日には探してくれると思っているのだろうか? 「じゃ、頑張るんだじぇ〜」 ようやく開拓者だと明らかになったリエットは、自分も帰ろうとしてフェンリエッタに協力していきなさいと引き止められている。 さて、要するに本物ではない映像を信じた子供達に、どういう話をしたら良いものか。 なし崩し的に園児達の依頼を受けた事になっている四人は、ギルドの一角でテーブルと椅子を借り、相談に入った。 彼らが最初に思い付いたのは、それらしい写真か動画を用意して、園児達に見せることだ。それなら動物園や水族館、植物園で映像を撮りに撮って加工すれば、なんとかなりそうな気がする。 だがしかし、園児達の希望は『本物が見たい』である。 「そもそも、動植物はハジュル・ソィッヒ、検疫があるので、短期間では難しいのです」 「けんえきって、なに?」 小学生のリエットや琉宇が首を傾げてしまうのだから、モハメドも説明が難しい。とうとう途中から大使館の誰だかに電話をして、どういう説明が適切かと尋ねて驚かれていたようだ。 これでいい説明が出来るとして、子供達に『いつここまで来るの』と言われると困ってしまう。届かないものを待たせるなんて、そんな真似など絶対に出来ない。 「ヤー、皆さん。アーニー、私がすぐに手に入れられるのは、スバーゲティー、パスタの缶詰だけですね」 「パスタの缶詰って、ミートソースとか?」 「ナァム、ええ、ソースは肉入りのトマト味です。スバーゲティーも入ってますよ」 冷凍食品やインスタントのパスタ、ソースの缶詰は知っているが、一式詰まった缶詰はなかなか見る事がないから、リエットと琉宇が見てみたいと言い出した。イタリア料理が好きだというフェンリエッタは、茹でたパスタ入りの缶詰ってどうなんだろうかと思案顔だ。 珍しいので園児達は面白がりそうだが、それだけで納得するわけもない。根本的な解決方法はどこかにないかと、また悩みだした三人に、琉宇がなんだか半眼になって『あのね』と言い出した。ひどく思い悩んだ顔付きだ。 「うそをうそのままにするのは何か違う気がするんだよね。もうちょっと大きくなってから、うそだって分かった時に、すごくがっかりするだろ」 そもそもの映像が嘘なのだが、イギリスでも子供より大人が見る時間帯の番組で流されるものだ。夢のあるジョークとして許容されているのだろう。そういう下地がない日本で、子供に分かりやすく、かつ夢を壊さずに教えるとなると、簡単にいい知恵は浮かばないが。 「スパゲティの木の本物を見せて、実際になる実はこれだよって見せたらいいかなと思ったんだけど‥‥」 スパゲティの木は、映像がモノクロで種類が良く分からない。分からないのでは探しようもなく、琉宇は難しい顔をしているわけだ。 「その木の下で、パスタパーティーが出来たら素敵だなと思ったんだけど」 「パスタパーティーは、私も考えたの。ソースは作るつもりでね。ショートパスタなら時間も掛からないし。場所はどうするかだけどね」 「それなら手伝うじぇ。でも‥‥いい考えは出ないじょ〜」 リエットはパスタパーティーなら大歓迎だと手を叩いたが、それだけで園児達を誤魔化してはいけないと思い至って、テーブルに突っ伏している。 「ペンギンが泳ぐ姿だって、飛んでるように見えるけどねぇ」 「そうなのか? 前に動物園で見たのは、ずっと日向ぼっこしてたじぇ?」 歩く姿はヨチヨチしていたと、リエットの記憶のペンギンはずんぐりしたのんびり屋さんだが、フェンリエッタが本当は違うと説明し始め、すぐに断念した。こういうのは、言葉だけでは伝わりにくい。 と、モハメドが受付から借りたパソコンでそういう動画を探し出し、リエットは認識を新たにしたのだが、それを見た琉宇が手を打った。 「うそ以上の驚きがあればいいんだよ!」 ペンギンが本当は飛べなくても、魚より素早く泳げる姿とか、スパゲティが木から垂れ下がるよりすごい何かが生っているところとか。 「僕、この間テレビで見たんだけど! 大丈夫、ほんとにあるところだから!」 琉宇が検索してもらったのは、南米ボリビアのウユニ塩湖だ。延々と塩の平原が続く、真っ白な光景である。雨季に条件が揃うと、この平原が鏡のようになるという。 その写真を探し当てたモハメドは、しげしげとそれに見入ってから、自国語で何か呟いた。それを問われて、 「砂漠の雪より珍しい。ヤッラー、なんとも、驚くことです」 「え、砂漠は雨も降らないんじゃないの?」 「ラ、いいえ、冬には時々降るところもありますよ」 「写真ないの、写真。砂漠の時のも一緒に!」 雪が降っても砂漠は砂漠よと、フェンリエッタはちょっと突っ込みたくなったが、リエットと琉宇が砂漠に一月だけ現れる花畑やら、地下に潜る川やら聞いて身を乗り出しているので、止めておいた。こういう話は、やはり実際に経験や目撃した人の話がよい。 何度も相談が脱線して、ようやく方向性がまとまった後。小学生の琉宇とリエットは家路を急ぐ。開拓者でも、夜遅くまで出歩いていいというものではない。モハメドとフェンリエッタが帰るのは、それぞれが明日持ってくるものを確認してからだ。 そして翌日のこと。 「「「「「えー」」」」」 今度は先生と一緒にやってきた園児達は、見付かりませんでしたと琉宇にごめんなさいをされて、それはもう唇をとんがらせた。 「代わりにね、このお姉さんがご馳走してくれるって」 ちゃんと事前に許可を貰ったので、フェンリエッタが『ご馳走』の入ったバスケットを取り出した。でも出てきたのは、パスタではなくて、それになるはずの生地だ。 「このお姉さん、スパゲティが自分で作れちゃうんだじぇ〜」 「一緒に作ってみない? 木がなくても、美味しいパスタが食べられるのよ」 結論から言えば、粘土遊びの成れの果てみたいな塊がごっそり出来ることになるのだが‥‥園児達は『自分で作れる』に興味が移ってきた。木があればたくさん食べられる、と言う気持ちが強かったようだから、実際に食べられれば今すぐ木が出てこなくても良くなってきたのだろうか。 粘土遊びと化している状況にフェンリエッタの頬がひくひくしているが、お疲れ気味なのはそれが原因ではない。一緒に『こういうペンギンさんなら撮れた』と持ってきた映像を撮るのに、午前中いっぱい水族館のペンギン飼育場前で大変だったからだ。素早いペンギンの動きを撮るのは、開拓者でもなかなか難しい。 パスタを茹でる間には、モハメドが持ってきた写真や検索しておいた動画などを大きな画面に写しつつ、空飛ぶペンギンの代わりに見つけた珍しい物として紹介している。 「今のなあに?」 「アーヒ、ああ、あれは私の国で流行っている‥‥」 昨日、園児たちとリエットが一緒にポーズをとっていた人気アニメは彼の国でも放映されていて、ネットには背景を上手に砂漠の光景に切り替えた画像がアップされて大人気なのだ。流石に著作権などの問題があるから、それは園児達に見せるつもりなどなかったのだが‥‥ブックマークが付いていたのが敗因である。 パスタを用意したフェンリエッタが戻ってくると、さっきまでは世界各地の珍しい光景や動植物に見入っていたはずの園児達とリエットに琉宇が、なぜだか人気アニメの主題歌を大合唱していた。 |