|
■オープニング本文 日が暮れました。 日が、暮れてしまいました。 ここは真冬のジルベリア帝国。 とある深い、ふかぁい山の中です。 アヤカシが出たから退治してねって依頼があったので、開拓者の皆さんはお出掛けしてきたところです。 もちろんアヤカシはすぱっと退治して、今は帰り道。 帰り道だったはずなのですが‥‥ でも、日が暮れました。 そう、日が暮れてしまったのです。 それはもう、とっぷりと! 辺りは雪山です。 本日は月夜です。 暗くなったって、結構周りが見えるような気がします。 だけど、あれあれ? なんだか暗くなってきたみたい? 日が暮れたら、天気も悪くなってきました。 天気が悪くなって、どうやら雪が降ってきたかも? しかもこれ、どんどん強くなっていませんか? 「ここはどこー?」 「帰り道はどっちーっ!」 そう、開拓者さん達は今まさに迷子なのです。 世の中では、これを雪山遭難と呼んだりします。 「たーすーけーてー!」 |
■参加者一覧
桂 紅鈴(ia9618)
12歳・女・シ
明日香 飛鳥(ia9679)
18歳・男・弓
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
岩宿 太郎(ib0852)
30歳・男・志
ティアラ(ib3826)
22歳・女・砲
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
鏡珠 鈴芭(ib8135)
12歳・女・シ
キャメル(ib9028)
15歳・女・陰
キルクル ジンジャー(ib9044)
10歳・男・騎 |
■リプレイ本文 岩宿 太郎(ib0852)さんは、困っていました。 「遭難、しちゃったんですね‥‥」 「そうなんですねー、いや困りましたねぇ」 雪山で道に迷って、日が暮れて。こんな状態ですから、ティアラ(ib3826)さんがどよーんと暗ぁい顔付きなのは仕方がありません。反対に無駄なほど明るいエルディン・バウアー(ib0066)さんは、きっと皆さんが落ち込まないように、わざと無駄に明るいのです。何にも考えてないからでは‥‥きっとない、はず。 でも、だからってずーっと同じことを言い合っているのを見ていると、ちょっと疲れてしまいます。それに遭難しているのですから、なんとかして助かるようにしなくては! ごくごく当たり前のことを思った太郎さんが、他の人々を見回すと。 「頭の上で、羊が数を数えてるの‥‥体も重いし」 でっかい斧の柄を雪に刺して、寄りかかったフェンリエッタ(ib0018)さんが、ぼやんとした目付きでぶつぶつ言っています。重いのは、なにより斧ではないでしょうか。 「そ、遭難時はまず落ち着おちおちおちおおおちついておつおち」 ガラドルフ大帝のポートレートを抱えて、キルクル ジンジャー(ib9044)君はあわあわおろおろしています。右に行ったり左に行ったり、曲芸団のクマさんのよう。 「愛しのご主人様のもとに絶対に帰ってやるんだから! 寒さなんて、寒さなんて‥‥!!」 鏡珠 鈴芭(ib8135)ちゃんは寒くてぷるぷるしながら、一生懸命決意を固めているようです。でもくしゃみ連発で、鼻から涙が出てきそう。 それでもって。 「は、初仕事はうまく行ったのに、どうしてこうなっちゃうのー!」 キャメル(ib9028)ちゃんがしくしく顔で、たぶん隣の山がある方向に叫びました。暗いし、雪も降ってるから、全然何にも見えないんですけど。 でも中には、ちゃんと落ち着いている人もいました。 「毛布でも被って、冷えないようにしなきゃ駄目にゃ」 「風と雪を避けて、一晩乗り切らないとな」 すでにちゃっかりと毛布や予備の上着を取り出した桂 紅鈴(ia9618)ちゃんと明日香 飛鳥(ia9679)さんが二人でちまちまと動いています。風が当たりにくい場所を探しているみたい。 こんな時にはどうでもいいことですけど、仲良しのこの二人は姉弟のようで、実は兄妹っぽいらしいです。 「そ、そうね。ここに突っ立てたって、こ、こここここ凍えちゃう」 早くも寒さで口の動きがよろしくないエルレーン(ib7455)さんは、背中まで丸めちゃってじたばたしています。でもいい方法が思いつかないみたい。 「うん、寒い。これはうっかりすると雪像‥‥一張羅でもないのに」 太郎さんも、やっとどうしたらいいのか考え始めました。でも一張羅だったら雪像になってもよかったのでしょうか? なにはともあれ、他の人達は一張羅でも雪像になりたい願望はなかったので、全員で雪洞を掘る事になりました。 さあ、雪がぎちぎちに積もってて、崩れさそうで、いい感じに斜面で、風が吹きつけてこなくて、でも掘りやすそうな場所を探しますよー。 一時間が経ちました。 「寒ぅい、夜光虫は一時間くらいしか持たないけど、大丈夫かな?」 ぷるぷるが、がたがたに変わったキャメルちゃんが、エルレーンさんにしがみ付きながら、皆さんに尋ねています。 やっと雪洞を掘るのに良さそうな場所が見付かりましたが、一時間も掛かってしまったので、全員が寒くて大変なのです。もちろん皆さん厚着はしているので、寒くて死んじゃうわけではありませんけど‥‥遭難していると心が寒いのです。 だから、ほら。 「あら‥‥寝袋、落としちゃったかしら?」 フェンリエッタさんが、さっきからぼんやりしっぱなしです。 「なんだか、子供の時分を思い出すのです」 ティアラさんも、ずーっと同じことを繰り返しています。 すると。 「ぼんやりしていると、凍死まっしぐらよ。さ、早く穴を掘るの!」 あまりの寒さにきりきりしているかもしれない鈴芭ちゃんが、二人のお尻をぽこんと叩きました 「これこれ、気が急いても人を叩いたりしてはいけませんよ」 エルディンさんが、遭難しているとは思えない素敵な笑顔を振りまきました。が、残念、半分くらいは風除けのもふら〜のせいで見えません。それにぼんやりしていると、柔らかい雪に埋もれちゃったりしちゃうかも。しっかりしないと、他の人も危なくなっちゃいます。 「とにかく、穴を掘ろう。小さいのが多いし、三つもあればいいな?」 「それなら、紅鈴はその間に枝を取ってくるにゃ」 あんまり少人数に分かれると、うとうとしちゃった時に起こしてもらえないかもしれないから、雪洞は三つと飛鳥さんが提案しています。なるほど納得のご意見に、誰も反対はしません。紅鈴ちゃんが枝を取ってくるというのは、入口の風除けや敷物代わりだそうです。そんなに色々使うなら、いっぱいいるから一人じゃ駄目ですね。 それで仲良しの飛鳥さんと紅鈴ちゃんが枝を集める間に、他の皆さんが穴を掘ることにしました。キャメルちゃんの夜光虫が光っている間なら、ちょっと離れてもなんとか戻ってこれそうです。 「あ、ここを掘るんですね。えとえと、盾がいいかな」 おたおたしっぱなしのキルクル君は、武器と盾を見比べてから、盾で掘る事にしたようです。ところで、ぽいって置いた武器が、つるつる斜面をずんずん滑っていきますが‥‥キルクル君も、皆さんも気付いていません。 「よし、俺はこの槍で掘るぞ! かったいところは任せてくれ」 「じゃあ‥‥私は盾にしようかな」 ずんずん滑る武器はそのまま、太郎さんが槍を雪の斜面にずぶりと刺しました。別の場所では、エルレーンさんが盾を両手で抱えて、がしがし雪を掻き出しています。エルディンさんが風除けにストーンウォールを出したので、ちょっとは寒くなくなりましたが‥‥足首まで雪に埋もれていると、やっぱり体が芯から凍っていきそうです。 ちょっぴり元気を出したティアラさんとフェンリエッタさんに、鈴芭ちゃんやキャメルちゃんも加わって、どんどん雪が掘られていきます。エルディンさんは、その雪をストーンウォールが倒れないように、周りに運んでいるのでした。 皆さんが頑張って働いたら、一時間くらいでなかなかいい雪洞が掘れましたよ。残念なのは、鈴芭ちゃんが地面までの雪を火遁で溶かしたら暖かいと思っていたのに、地面が一メートルも下にあることくらいでしょうか。大変だから、踏んで固めた雪の上に、針葉樹の葉っぱをいっぱい敷いて床にしましょう。 そうしたら、中に入って朝を待つのです。でもその前に、全員で食べられるものを分け合っておきましょう。 「あぁ、楽しいおやつが非常食になるなんて‥‥」 キルクル君がえぐえぐしちゃってますが、思いやりは美しいものです。 一つ目の雪洞です。 ここに入っているのは、太郎さんとエルディンさんとティアラさん。お友達なのと、体が大きい人の頭がつかえないで火が焚けそうな雪洞はここだけなので、三人はここ。 「あれ〜、火はつかないや、残念」 「おや? それなら私がファイヤーボールで一つ」 炎魂縛武を使ってみた太郎さん、実はたいして暖かくないし、火もつかないことを思い出しました。エルディンさんはそれを見て、ファイヤーボールなんて言っていますが、きっと冗談なのです。だって本当に魔法を使ったら、雪洞が埋まっちゃいます。そうしたら、ティアラさんまで一緒に生き埋めです。 それに、魔法を使わなくたって、ちゃんと他の人からもらった火があるから、燃やすものさえあれば困りません。ティアラさんが、またぶつぶつ独り言時間に突入したので、早く火を焚いて、菱餅を炙らなくては! という訳で、太郎さんが荷物からいっぱい出した色々な褌を、七輪に詰めて燃やします。良い子は真似をしてはいけません。そもそも褌を燃やすのも珍しいことですし‥‥ 「さあ、ティアラ〜。菱餅が焼けましたよ」 その火で炙った菱餅って、ねえ? ところがティアラさんは、もぐもぐ食べています。エルディンさんがせっせと食べさせているとも言いますが。食べても暗ぁいお顔なので、今度はエルディンさん、何を考えたのかティアラさんに抱きつきました。 「にゃあああああああああ!!!!!!」 どかっばきっ。 「待てっ、ちょっと待て! って、ぎゃぁ!」 げしっぐしゃっ。 「あれ? 神父様、太郎さん? だ、駄目ですよ、眠っちゃったら!!」 びっくりして、うっかり全力でエルディンさんをぶん殴ったティアラさん。止めに入った太郎さんまで蹴り飛ばしてしまいました。 眠っちゃ駄目って、実力行使で眠らせちゃったのはティアラさんなのでした。ぶんぶん二人を揺さぶっているけれど、まだ目が覚めません。大丈夫でしょうか? 雪洞の二つ目です。 ここには、飛鳥さんと紅鈴ちゃん、キャメルちゃんにキルクル君が入りました。小さい人が多いのは、これ以上穴を掘っていたら違う世界が見えてきそうだったから。でもだけど、小さくたって頼りになるのです。 「茣蓙を敷いたら、もうちょっと暖かいですよ。あ、濡れたところは拭きましょうね」 いそいそと茣蓙を敷いたのは、キルクル君。手拭いでキャメルちゃんや紅鈴ちゃんの上着の水滴を先に拭いてあげています。 「食べ物は元気があるうちに食べるの。ふらふらしてると、喉に詰まって危ないんだから。お酒だって、酔っ払うと眠くなって、しばらくすると体が冷えるのよ」 キャメルちゃんは、甘酒を器に四等分しているところです。食べたり飲んだりすると体がぽかぽかするので、早く暖まれるから大急ぎ。もちろん甘酒は冷え切っているので、飛鳥さんは皆が出した色々なものを積んで、起こしてくれる焚き火で暖めましょう。そうしたら、美味しくいただけるかも。 「よし、次に入れる枝を周りに刺してくれ。乾かさないと煙いばかりだからな」 なんと飛鳥さん、後のことまで考えています。確かに乾かしておけば、ちょっとしけった枝くらいなら燃えることでしょう。 「紅鈴は帰ってから休むにゃ、ひぃ様はゆっくりしてね。二人も寝ないようにするにゃ」 完徹使用中の紅鈴ちゃんは、ついでに超越聴覚で変な音がしないかも確かめているのでした。せっかく雪洞を掘ったのに、雪崩で埋まっちゃったら帰れませんからね。 四人は寝袋や毛布にくるまって、甘酒を飲んでいます。飛鳥さんと紅鈴ちゃん、キャメルちゃんとキルクル君とがくっついているのは、その方が暖かいから。でも二人ずつより四人でみっちりの方が、もっと暖かいので‥‥団子のようになりました。 「おねえちゃん、あったかいねー」 「‥‥両方、壁?」 「胸がないから、固くてごめんにゃ〜」 うっかり飛鳥さんが男の人だと忘れているキャメルちゃんと紅鈴ちゃんに両側から抱きつかれた飛鳥さんは、大人の人だと怒られそうなことを言っています。そうでなくても、女の子に言うのも危ないかも。でも頭がちょっとぼんやりしていたので、三人とも大笑いしています。 ん? 四人目は何しているの? 「‥‥私は死にませーん!」 うつらうつらしていたキルクル君、夢の中で何か言われたみたいで、すごい寝言を叫んで飛び起きました。抱えていた大帝のポートレートが焚き火に突っ込みそうになって、慌てて回収。 びっくりしたけど、いい感じに目が冴えたので、四人でおしゃべりしながら朝まで寝ないように頑張りましょう。 雪洞の三つ目です。 ここにはフェンリエッタさんとエルレーンさん、鈴芭さんが入っていました。三人とも、一生懸命に雪洞を掘ったので、ちょっとお疲れ気味です。 そんなところに火を焚いて、皆さんと分け合った食べ物をうまうまと食べたら‥‥おなかいっぱいにはならなかったけど、美味しくて、ほっとして、 「うーん、このお手紙、誰に出すんだったかしら。いいかぁ、燃やしちゃおう。きっとお父様が読んでくださる‥‥わよね?」 「暖かい、暑いくらいのもの‥‥夏の太陽、焼けた砂浜、ぐつぐつのお鍋にぽかぽかのこたつぅ」 「あぁ、ご主人様はどうしているかしら。まさか浮気なんて‥‥? あ、でもそんな事になってたら、相手の人に消えてもらえばいいのよね」 しばらくしたら、三人は口々になんだかよく分からないことをぶつぶつし始めました。お酒も飲んでいないのに、お目々がとろんとしています。 フェンリエッタさん、お手紙や手帳を燃やしちゃっても大丈夫でしょうか? 本人がうふふって笑いながら燃やしているので、誰も止めません。いっぱいあったのが燃えたら、荷物はすっきりです。 エルレーンさんも、なんだかうふうふ笑っています。周りがお花畑に見えているようです。うーん、手を振っているかも? って、誰に? もしかすると、足元に川があったりするのでしょうか? 鈴芭さんもうきうきしたお声で、ご主人様の浮気相手に消えてもらう計画を、独りでぶいぶい語っています。時々ほくそえんだり、しくしく泣き出したり、おなかの中が真っ黒っぽい笑い方をしたり‥‥百面相です。 なんてことを続けていたら、うっかり凍死するところでしたが。 「あら、嫌だ。完徹を使えばよかったのね」 ふと正気に戻った鈴芭さんが、他の二人を見ると‥‥相変わらず、うふうふと笑っています。寒すぎて、混乱しているようです。段々、うとうとし始めましたよ。 びったーん! ばしーん!! 「寝たら死にますよー!」 苦無を投げたら掌は痛くなかったのでしょうが、苦無がとっても冷たかったので、鈴芭さんは二人をぺちぺちしています。音がなんだか苛烈ですが、気持ちはぺちぺち。 だって、寝たら本当に死んじゃうし! 「あら? ええと、どっちが夢かしら?」 「あー、川の向こうからおいでって言われたよ。寒いから、お酒飲んでもいい?」 目が覚めたエルレーンさんが、怖い話をしながらお酒を出しました。夢と現の区別がまだ怪しいフェンリエッタさんも、やっぱりお酒を持っています。鈴芭ちゃんも持ってました。 あれ? 鈴芭ちゃんはお酒を飲んでもいいのかな? 本人は見た目より落としは上って言ってますよ? じゃあ、いいみたい。 となれば、朝まで酒盛りですよ! 酔いつぶれたら凍死するけど!! やがて、朝が来ました。 風にきらきらと水晶の細かい破片でも舞っているかのような光景に、ようやく朝日を拝めた開拓者の皆さんは、神様や皇帝陛下に感謝の祈りをしてみたり、きらきらの光景に魅入ったり、くしゃみをしたり、うっかり凍死したら素敵な氷像になっちゃったかもなんて考えたり、樹氷を見て感激したり、防寒具がちょっと足りなくてがたがたぶるぶるしていたりしましたが、全員がこう思っていました。 ああ、朝を迎えられて良かった。 でも、帰り道がわからないままなのは、昨日と全然変わっていませんよ? |