施療院(予定)奪取
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/27 00:46



■オープニング本文

 依頼内容は単純明快。
 ある建物を、ならず者達が占拠してしまった。
 そのならず者を排除して、建物を取り返してほしいというものだ。

 建物はまだ建築途中だが、外装はほぼ完成。後は窓の板戸を付けて、内装を整える段階で、寒さがもう少し和らいだら工事を再開する予定だったのだが、人がいない隙に入り込んで好き勝手をやっているらしい。
 持ち主は近くの街の商人ギルドで、建物は初夏には施療院として活動を開始する予定のものだ。占拠されたままでも困るし、ならず者を捕らえるのに内外で暴れて建物を傷められても大損害。出来るだけ傷めずに取り返してもらうには、街の兵士達より開拓者の方が適しているのではないかと、依頼を寄越したわけだ。

 もちろん、その前に単なる旅人や無宿人が居ついてしまった可能性も考えて、ギルドの者が立ち退きを求めに行った。けれども必要なら仕事も斡旋するとの申し出をした使者に対して、暴力を振るった相手に、商人ギルドも話し合いと慈善行為は引っ込めている。
 よって、排除の際の相手の生死は問わないが、建物を傷められるのは絶対に困るというのである。

 でも、建物が施療院になる予定なので、
「開設前から死人が出た建物になるのは、あんまり嬉しくないけどね」
 そんな希望もあるようではある。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
空(ia1704
33歳・男・砂
リディエール(ib0241
19歳・女・魔
小(ib0897
15歳・男・サ
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
エレナ(ib6205
22歳・女・騎


■リプレイ本文

 予想の範囲内とはいえ、同行しているリディエール(ib0241)とリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)への暴言の数々に、羽喰 琥珀(ib3263)の特徴ある耳がピンと立った。
「なんでぇっ、そんなこと言って、出てこないのは俺達が怖いからだろ! 俺は確かに開拓者だけどな、俺にこの姉さん達との三人だけが怖いなんて、肝っ玉が小せえにも程があらぁっ!」
「そんなこと言って、出ていってもらわないと家が困るでしょう!」
 気風がいいにも程があるといった啖呵を切る琥珀の後ろで、リディエールが悲鳴染みた声を上げている。馬車を引く馬の手綱を握るリーゼロッテはしばし俯いていたが、玄関に立ち塞がる男が動く様子がないのをそっと確かめ、口火を切った。
「この条件で退かないなら、開拓者をもっと増やしてどかしてもらうわ。さ、二人とも早く戻るわよ」
「俺一人でもでーじょうぶだって」
「あなたの仕事は私達の護衛でしょうが」
 建物が取り戻せないと家の立場がと繰り返すリディエールに、どちらも攻撃的だが方向性が違う琥珀とリーゼロッテのやり取りは、相手方の期待していた反応と違ったらしい。一階の窓から散々下卑た野次を飛ばしていた連中も、さっさときびすを返したリーゼロッテに虚を突かれたか、少しの間声も出さなかった。
 更に琥珀がリディエールを引き摺るように来た道を戻り始めて、本気で帰るつもりだと思った輩が何人かいたらしい。人里離れた場所のこととて、琥珀はともかく若い娘二人を黙って返すことはないとでも考えたのだろう。
 どうやら何人かは追いかけてきそうな気配に、三人はいかにも警戒したように慌てて馬車に乗り込み始めた。それでいて、これまで手綱を握っていたリーゼロッテが琥珀に御者をしろと喚いたりする。来る時は、離れた場所から引いてきたから、彼女が馬を操れるかどうかなど、もちろん相手方には知られていないわけで。
「暴力で物事を解決しようとする態度は、この際改めていただきます」
 琥珀が開拓者だと名乗っていたからか、それぞれあまり質は良くなさそうな得物を手にして追いかけてきた七人ほどが追いついて来たところで、リディエールが宣言した。
「さて、そんじゃさっさと叩きだすとするか」
 馬車の中には、なかなかの首尾に予定より早く隠れ場所から這い出た小(ib0897)が、まるでうずくまっていて凝った体をほぐす運動だといわんばかりに、馬車の縁を掴んだならず者の一人の首根っこを押さえていた。

 ならず者に占拠された施療院予定の建物に、表から数名が近付いて何人かでも外に誘き出し、そちらに気を取られている隙に裏口からも侵入、速やかに鎮圧する。
 その作戦で商人ギルドの名前を借りたいと申し出た表側担当の四人に、ギルドの幹部達はしばらく躊躇っていた。名前を使うのは構わないが、実年齢は聞かないとしても見るからに年少の少年少女に若い娘では、明らかに自分達の代理として無理があるとの躊躇いだ。なにしろ幹部の子供や孫ほどの外見である。ならば、施療院開設が遅れることで立場が悪くなる親の代理で飛び出してきた事にしようと相成って、馬車や飲食物、見せ金に使う商人ギルドの印が入った金袋を借り受けた四人は、七人を屋外に誘い出すことに成功していた。
 この頃、裏口まで一直線の林の端まで首尾よく近付いた六人の開拓者が、木立に身を潜めていた。表側で何人おびき出せたかはあいにくと連絡方法がないが、ならず者達の声の響き方で屋内外のどちらにいるかは大体分かる。
 同時に、中から様子がおかしいと叫ぶ声がした。
「ふうん、馬鹿ばっかりじゃァなさそうだねェ」
 くくっと低い忍び笑いを漏らしたのは空(ia1704)だ。足はすでに勝手口の一つ、より人の声が近い方に向かっている。
「おそらく外に七人、中には八人だな」
「よし、半分は任せてもらっていいぞ」
 その背中に、心眼で探った人数を伝えるのは風雅 哲心(ia0135)。白い布で申し訳程度の擬態を施し、威勢のよいことを口にした恵皇(ia0150)と獲物は逃さんとする空が先んじて走り、鎧の立てる音に注意を払うエレナ(ib6205)とフィン・ファルスト(ib0979)、風雅が一度周囲に視線を巡らせ、裏側の窓近くに人影がないのを確かめてから動き出した。
 もう一人、モハメド・アルハムディ(ib1210)はリュートを抱え、夜の子守唄を紡ぎだした。効果範囲は建物がぎりぎり入るくらいだが、外の様子を窺いに寄って来ている者がいれば取り込めるだろう。
 案の定、表の陽動を怪しんで、裏の様子を確かめに来たのだろう一人は、扉の鍵を開けたところでその効力に抗い切れなかったらしい。
「あらやだ、お仕置きのし甲斐がないじゃない」
「不殺の依頼に叶って、望ましいのでは?」
 フィンのいささか不穏当な発言に、エレナが生真面目な口調で返しているが、これは内部に存在が知られてもよくなったから。なにしろ、すでに恵皇と空が走りこんでしまい、中からは怒号と悲鳴が入り乱れて聞こえてくる。当然、二人と風雅も続けて入っていく。
「アーヒ、嗚呼、おとなしく出て行ってもらうという選択肢はないのですね‥‥」
 運悪くモハメドの術で倒れた一人は、実は幸運だった。フィンが思い切り踏みつけていこうが、うっかり風雅が蹴りとばそうが、後はモハメドに縄でぐるぐる巻きにされただけだからだ。
 もちろん二度も踏まれて、うっかりと目を覚ましてしまったならず者は、モハメドに仲間の数や首魁の特徴などを事細かに尋問されることにもなって、しばらくは無言を貫く抵抗を示していたが‥‥
「ルッバマー、ひょっとして、この施療院を最初に利用するのが、ホム、貴方の仲間達かもしれませんね」
 出来れば戦闘は極力避けるべきと考えていたモハメドが嘆息する頃には、大分態度が改まっていたようだ。

 建物内部にただならぬ野太い声が響き渡るようになった頃。
 屋外では、開拓者でもまだ子供の風情の一人さえ叩きのめせば、後はか弱い娘二人とたかを括っていた七人が、これまた耳に心地よくない悲鳴を上げていた。
「お兄さん、世の中はそんなに甘くないわよ?」
 仕事まで世話してくれると言っていた時に素直にしていれば、こんな手間にならなかったのに‥‥と、冷たい言葉を浴びせているのはリーゼロッテ。その側には、呪縛符の鉄鎖でぐるぐる巻きにされたならず者の一人が転がっている。予想だにしなかった攻撃にもがくならず者に、琥珀が殲刀「朱天」の柄を食らわせて気絶させた。
「普通の人ばかりのようですね」
「でも油断しないで、馬車の影にいてくれよ」
 そんな気配はないが、万が一にも飛び道具を出してきたら困ると、ならず者達の手ごたえのなさに呟いたリディエールに、琥珀があまり緊張感のない声を掛ける。
「得物の手入れがなってない!」
 これまた少年である上に、リーゼロッテやリディエールより小柄な小は、最初にならず者の一人を押さえつける開拓者らしい力を見せたものの、どうも琥珀共々侮られていた。志体持ちでもたいしたことはないだろうと叫んで襲い掛かってきた相手の剣を、こともあろうに鉄傘で受け、刃こぼれした剣を見るや怒鳴りつけている。ついで、剣を跳ね上げ、鉄傘で殴って気絶させていた。
 確か当初の予定では、リディエールのアルムリープやリーゼロッテの呪縛符を多用して、依頼人側希望の不殺を徹底するはずだったが、いかに暴力沙汰に慣れていても一般人と開拓者ではもともと勝負にならない。挙げ句に、小と琥珀が言われて楽しくない単語を連発した奴がいて、二人掛かりでポコポコ殴られている。
「なにすんだっ、ち」
「「うるさーい!!」」
 手加減はされているが、ポコポコと。
 いっそ一撃で気絶させたらいいのにとも言いかね、リディエールは困っているのだが、リーゼロッテは平然としたものだ。
「中は大丈夫かしらね」
 あまり大丈夫ではなさそうな悲鳴が響いてくるが、建物が壊れるような音はしない。四人はそれを確かめて、まずは気絶させたり眠らせたりした七人を縛り上げ、馬車の荷台に放り込み始めた。

 そして、屋内では。
 ならず者の中では一際体格が良い男が、更に隆とした筋肉を見せる恵皇に、指先だけで突かれて吹き飛んでいた。
「やれやれ聞き苦しい悲鳴だァね」
 それを空があからさまに嘲弄する。恵皇はそこまでの気持ちになれないが、相手を怖気づかせるには有効だ。また、仲間内でとやかく言っている時間はない。下手に相手に暴れる隙を与えると、建物に損害が出る可能性も高くなる。
 その点は皆徹底していて、ならず者達が戦意を失うような言葉を掛けるのは一人ではなかった。
「これで終わりだ。さぁ、貴様の罪を数えろ!」
 普段なら爽やかさが強調されそうだが、凄みばかりが増す笑顔で、風雅が取り押さえた一人を脅し付けている。彼も首魁を白状させるべく迫ったが、少しばかり迫力が多すぎたらしい。相手は口をパクパクさせるばかりで、何の言葉も出てこない。
「ヤー、風雅さん、黒い髪で左手の甲にトカゲの刺青がある男だそうですよ」
 ようやく外から追いついたモハメドが、あちらこちらにのびている男達を誰から引っ括るか考えつつ、風雅の求めていた答えを寄越した。それによしとばかりに、倒れた男達の左手を蹴り上げているのは空だが、今のところ取り押さえた中にはいない。
 ついでに人数も六人と、先に確認したより二人少なく、だが一階はすでに開拓者以外に立っている者などいなくて、
「しまった、二階か」
 フィンとエレナが先に上っていった二階から、なにやら叫び声が聞こえたのだった。

 結局のところ、ならず者の中には志体持ちはいなかったのだが。
「外に飛び降りても、逃げられると思わないことよ!」
 いっそ突き落として体感させてやろうかと、突撃前には『二階から落とすのはまずい』ときちんと考えていたはずのフィンが、黒髪の男に向かって指を突きつけて叫んでいた。
 その背後では、エレナが別の一人に騎士剣「ウーズィ」を突きつけて、投降を促している。こちらはエレナの毅然とした態度に呑まれたか、素直に持っていた刃物を差し出していた。
 二人は一階を他に任せて、人の足音がした二階に駆け上がったところで、窓からの逃亡を狙っていたならず者二人を発見した。その際、黒髪の男が仲間を二人に向けて突き飛ばし、その隙に飛び降りようとしたのでフィンが烈火のごとく怒鳴っているのだ。
 実際は、陽動の琥珀が窓からの逃亡も警戒していたので逃げるのは叶わず、どこまで抵抗するかしないかというあたり。幾らフィンとエレナも若い女性だとはいえ、開拓者であることはすでに察している相手がどこまで自暴自棄になるかと、二人もその観察は冷静にしていたが‥‥
「あまり力を入れると、骨が折れるかも知れない」
 最終的には、志体持ちでない男が全力を尽くしたところで、今は手元不如意の出稼ぎ生活とはいえ、それなりに名の知れた家系の騎士であるフィンを打ち伏せられるはずもなく。エレナの指摘の仕方が冷静すぎて、先に捕らえた男の腰が更に引けてしまった発言と相成った。
「大丈夫、死なないようにしておくから」
 おそらく男達にとっては、この時のフィンの笑顔ほど怖いものもなかったろう。直後には、もっと恐ろしいものを見せられる羽目になるのだが。

 十五人の男達を取り押さえ、改めて建物の中を見回ると、壊れているのは窓を覆っていた板だけだったが、細かな傷は結構あった。それになにより汚れている。
「この板も張りなおさないと、天気が崩れたら雨が吹き込むな」
「この時期なら、まだ雪かも知れんぞ」
 建材になるはずの木材も薪代わりに大分使い込んでいたようだが、板なら仮の修繕に間に合うくらいは十分残っていた。それを抱えて、外側から張り付けていくと請け負ったのは風雅と恵皇だ。内側からはモハメドが行う事になったが、窓をどんどん塞ぐとリディエールと琥珀が進めている掃除の手元が暗くなってしまう。
「まったくこんな食べ散らかした中で暮らして、病気になります」
「建物が建物だけに、病人が出ても験が悪いよな」
「ナァム、まったくです。向こうの部屋の扉も開けて、風を通しましょう」
 そこまでは求められていないが、室内はまず掃除優先で事を進めている人々がいる一方で、屋外では。
「なあなあ、別にそのままつれて帰って、役人に引き渡せばいいだろ」
「ちっちっ、甘いなァ。こういうのは骨身に染みる痛い思いをしないと、繰り返すんだァよ」
「躾は徹底的に。幸い死んだ奴もいないし、いい仕事にする最後の仕上げよ」
「‥‥素直に立ち退いてれば、こんな事にならなかったのに」
 目の前の乱闘騒ぎのいささか興奮気味の馬を宥めつつ、小が空とリーゼロッテに提案するも、すげなく一蹴されていた。この二人の言い分は過激だが、まあ誰もがちょっとは納得してしまう部分もあって、フィンも小も率先して止めてはいない。
 自分達の所業をどれだけ反省しているかは不明だが、流石に鬼気迫るものを特に空から感じている男達はエレナにも縋る視線を向けていたが、こちらも『やりすぎたら止めよう』といった気持ちなので、
「「よし、お仕置き!」」
 施療院の建物前では、似合わぬ悲鳴がしばし響く事になったのだった。
 おかげで全身に変なあざや擦り傷だらけの男達を引き渡された商人ギルドの幹部達も驚いたが、『躾けた』と言われれば苦笑する程度で。けれども、
「施療院を開設する志に賛同するので、報酬は辞退したい」
 と申し出たエレナには、強い拒否を示した。いわく『正当な報酬を支払わないのでは商人ギルドの信用に関わる』ということだ。
 でも、一度受け取ったものをどう使うかはそちらの自由と、エレナ以外にも寄付の芳名帳を差し出してきた。速やかに逃げ出したのと、素直に財布を出したのと、反応は二つだったようだ。
 迷った者はどちらかに引き摺られて、仲間入りをさせられている。